開闢と聞くとカオス・ソルジャーしか思い付かない私は立派なデュエル脳
「かいびゃくこうどうたい?」
「ああ。この小娘が話に聞いた例の……ああ、性別は無性だったか?」
「い、一応自分では女の子のつもりでした。性別の違いとか理解する前までは」
この、なんか顔に縫い目みたいなのがある人は荼毘さんと言うらしいです。
死柄木弔って人に言われて顔合わせに来たんだけど……
思っていたよりも数段怖い雰囲気の人が出てきました。
私は今、研究所を少し離れて別の隠れ家に来ています。
隠れ家と言われても何が何だか分かりませんけど。
この人にすんなり会えたのは良かったですが、会話を上手くする自信がありません!
聞いた話だと火傷の痕だとか。
【個性】も炎系って弔くんが言ってました。
……あの人、さん付けしたら「なんか不快だからさんは付けるな」って言われたんだけど。
だからくん付けで呼んでるんですが、何故かさらに睨まれました。
トガちゃんも同じ呼び方なのに……解せません。
おっと、今はそれよりも目の前の人物に集中しなくちゃ。
「イカれたウイルスのような物質を振り撒ける、か。街中で使えばとんでもない被害を出せそうだな」
「聞くところによると、厳密にはウイルスでは無いらしいですね」
「齎す被害としてはウイルスと差は然程無いだろうがな」
狂犬病ウイルスの広がり方と比べたら鱗粉を吸うだけで感染します。
しかも、潜伏期間もなくすぐに症状が現れます。
下手なウイルスよりも私が出す鱗粉はかなり危険だね。
今の居場所に来る以前からずっと言われてた事だけど。
「それと、あんまり街中で使うのも何だか……」
「おいおいどうした、罪悪感でもあるのか?」
軽蔑するような笑い声で荼毘さんはそう言いました。
心の底から世の中への憎しみが溢れているのが初対面でも分かります。
この人がどんな過去でどんな人なのかはよく分かりませんが……
「そ、そう言うのじゃなくて。鱗粉を気持ち良くばら撒きたい時は高い場所で風に乗せたいんです」
私は一応の弁明をした。
これは本能的にそうしたいなって気持ちを素直に言っただけなんだけど……
あれ、これってまるで弁明になっていないんじゃ?
私が訂正しようとした時には荼毘さんはポカンとしていましたが……
「っ……ははっ! 悪いな、どうやら俺の勘違いだったらしい。あのイカレ女と言い、イカレたメンバーばかりじゃないか」
嬉しそうに荼毘さんは語りました。
……激しく不本意な気分なんですけど!
それと、あのイカレ女ってトガちゃんの事ですか?
確かに言動がおかしい時はあるし倫理観も一般とは違ってると思う。
それでも、割と普通の女の子らしいところもあるんです。
……採寸の時に普通に恥ずかしがってましたし。
「えっと、顔合わせは済ませたので私はこれで……」
「おい馬鹿待て」
「ば、馬鹿?」
そんな……
面と向かって悪口を言われるのはなんか嫌です。
「先に作戦の概要くらいは聞け。当日、勝手な動きをされたら困るからな」
あ、作戦……ちゃんと用意してあるんだ。
弔くんの話だと隊のリーダーはこの人だった気がします。
何となく頭の良さそうな人だとは思っていましたけど。
……あれ?
もしかして私を勝手に頭数に入れられてる!?
ちょっと待ってよ、聞いてないんだけど!?
「ふん、初耳って顔をしてるな」
「弔くんって肝心な事を言いませんね……良く分からない物付けてますし、きっと変人ですよね」
「そうか」
興味無さそうにも程があると思うよ……
「それで、作戦の内容なんだが——」
ふむふむ、なるほど?
コンプレスさんの【個性】で優秀なヒーローの卵が集う雄英高校の生徒の一人を攫う?
雄英高校の生徒が林間合宿中に滞在する場所を特定したから開闢行動隊皆で襲撃する?
森の中で別れて行動して狙うのは爆豪勝己と言う生徒?
「うーん……大体分かりました。それで、私は何をさせられるんですか?」
「別に大した仕事は任せない。具体的に言うと他の奴等を飛行しながら見守っていろ」
「あ、それなら多分できますね。時間帯は夜だそうですけど、私は視覚に頼っていませんから」
思っていたよりは簡単そうで良かったよ。
最近じゃ言われなきゃ今が昼なのか夜なのか分からないレベルです。
大体の時間を地下で過ごしていましたから。
「そう言う事だ。まあ、ガキとは言え侮れない相手もいる。できるだけ自由に動ける奴等がいないように気を払え」
うーん、それって私も戦えって事?
「分かりました、荼毘さん」
「よしよし、お前はまだ素直に言う事を聞いてくれそうで助かるな」
……他のメンバーに物凄く困ってるのかな、もしかして。
「私としては手伝わされる理由がよく分からないのですけど。この作戦が成功したら何がどうなるのかも分かりませんし」
「……それなのに作戦に加わるつもりなのか?」
「まあ、はい。何もせずに過ごすのには慣れっ子ですけど……こうして人員の一人に数えられるたのが、凄く嬉しかったんです」
これは本当にそうです。
今まで頼まれる事なんて【個性】を抑えて過ごせ、とか……そのくらいでした。
でも、この場所では私を頼りにしてくれているみたいで。
私にとっては新鮮で、初めての感覚だったんです。
「……そうかよ」
荼毘さんはそれだけしか言ってくれませんでした。
だけど……何となく悪い反応でもない気がするなぁ。
あ、そうだ。
「ふと、思ったんですけど……もしかして本名しか名乗ってないのって私だけだったり?」
「あの女もほぼ本名みたいなもんだろ」
「そう言えば……」
うっ、ここは私も何か通り名みたいなのを考えておくべきでしょうか。
一人だけ本名なのはちょっと恥ずかしいよ。
しかし、今まで名前を付けると言う経験のない私にはやや荷が重い……
ううん、頭の良い人なら一瞬で名付けくらい終わりそうなものですけど……
あっ。
丁度、すぐ側にいるじゃないですか。
頭の良さそうな人が。
「名前、付けてくれませんか?」
「は?」
「私だけ本名だと恥ずかしいので、何か通り名的なのをお願いします!」
「……知るか。てめぇで勝手に考えろ」
そう言って荼毘さんは踵を返しますが、私は翼脚を広げて行方を遮ります。
簡単には逃しません。
「私じゃ碌な名前が思い付かないんです! どうか、お願いしますよ〜」
「ちっ、勝手にしろ!」
「そ、そんなに怒らなくても……」
一応は味方なんだから、もう少し柔らかく接してくれても……
って、まだ会ったばかりの相手だから仕方ないのかもしれません。
これから段々仲良くなればいいんですよね。
「ううん、仕方ありません。意外とシャイなんですね、荼毘さんは」
「うるせぇ。初めて会った相手にいきなり名前を付けさせようとするお前がおかしいだろ」
「……よく考えたらおかしいですね、それ」
コミュニケーションが得意な人じゃないと出来ませんよね。
私ってもしかして俗に言う『陽キャ』なのかな?
どちらかと言うと暗い性格をしてるって思っていたけど……
「自覚できたか。なら上出来だ」
「じゃあ、この作戦が終わったら付けてくれますか?」
「は?」
「……そ、そんなに駄目ですか? 考えるのは得意そうな人だって思ったんですが……」
荼毘さんは鬱陶しそうに前髪を掻いた後、心底面倒臭そうなため息を吐きました。
「分かった分かった、だからもう他所に行け。他のメンバーとも顔を合わせてこい」
「はい。名付け、約束ですよ!」
私は薬指を差し出します。
荼毘さんはそれを無視して踵を返しました。
なので私は先に回り込みます。
「約束っ!」
「うぜぇ、どけ」
「どれだけ鬱陶しくても約束は大切ですから!」
——あれ?
なんで私、こんなに約束にこだわってるんだろう。
昔、約束を破られた事でもあったかな。
そんな筈ないよね。
私はいつも、約束をさせられる立場だったし。
約束を破る権利も与えられてなかったんだから。
「……はあぁぁぁぁぁ」
さっきよりも更に深いため息の後、荼毘さんは薬指を差し出してくれました。
若干肌が荒れていたし冷たかったけど嬉しいです。
舌打ちもしてたし絶対良い気分ではないでしょうけど……やってくれるだけまだ優しいんじゃないかな。
この後、他のメンバーとも顔を合わせました。
結構な人数が居ましたけど、何人かは既に知ってる人でした。
まず黒霧さん。
正確には会った事はありましたけど、名前を知ったのはこの時でした。
ワープゲートと言う【個性】を持っているそうです。
便利そうですけど、なんか普通の人と違うような……
なんかこう……身体の作りから妙な感じがしました。
次にトガちゃん。
私を見つけた途端に何故か抱き付かれました。
……他の人達も見られていたのでちょっと恥ずかしかったよ。
「今は理性あるの〜?」
「どう言う事ですか?」
「ん、何でもないよ〜」
ニヒヒ、とトガちゃんは笑っていましたけど……
理性って何の話?
あ、コンプレスさんとトゥワイスさんの反応が……
あまり私に近付いて欲しくなさそうにしている気がします。
以前の研究所で働いていた人達の一部もこんな感じです。
……まあ、当たり前だよね。
私の【個性】を知れば大体がそんな感じになるんだ。
今更この程度じゃ凹みません。
そして、残りの人達は初めてです。
トカゲみたいな人と筋骨隆々な人。
それに口以外全身を服で覆っている人……えっ、何この人は。
最後にヒゲのある大柄な人。
「……私は胡天黒味と言います。えっと、これからよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げました。
すると、トガちゃんはパチパチと拍手を送ってくれました。
ありがとう!
で、残りの人達の反応はと言うと……
「あら〜、アナタが話に出てた子なのね。ふんふん、なるほどね」
大柄な人の話し方は女性っぽいもの。
……珍しいけど、こう言う人も居るんだね。
世界は広いんですね。
それと、話って何だろう?
「話ってどんな内容か聞いてもいいですか?」
「大した事じゃねぇよ。前にやった模擬戦闘の映像を見せてやっただけだ」
代わりに弔くんが答えてくれました。
え、撮られてたんですか?
あの場所にカメラなんかあったっけ……
「私はマグネ。よろしくね、おチビちゃん」
「ち、ちび?」
「はっ、こん中じゃ一番チビだろうが」
むぅ……トガちゃんと数cmしか変わらないのに。
「ところで、結局アナタって性別はどっちとして扱われたいかしら?」
私に歩み寄りながらマグネさんはそう疑問を口にしました。
珍しい聞き方だ。
大抵は「君の性別はどちらなの?」なのに。
「一応女の子のつもりだけど、無性らしいです」
「……かなり弱いとは言え、N極になっているわね」
「?」
それはどう言う事か聞いてみると、どうもマグネさんの個性らしいです。
近くに居る人に磁力を付与するんだとか。
男はS極、女はN極になるんだそうです。
「うーん、性別なんて私はあまり気にしていなかったんですが……」
「あら、そうなのね。だったら別に気にしなくてもいいわ。でも、その価値観は大事にするのよ」
「は、はぁ……そうですか」
「それと、マグ姉って呼んでいいわ♡」
……よく分かりませんが、割と好印象を与えられたみたいなので良しとしましょう。
「分かりました、マグ姉」
「やだ、素直……!」
「こいつのノリにここまでついて来られる奴がいるとは思ってなかったな……」
今度はトカゲっぽい人が立ち上がりました。
「俺はスピナー。ステイン様の意思を継ぐ者だ!」
「ステイン……?」
知らない人の名前が出てきました。
いえ、何処かで聞いたような名前ではあるんです。
だけど、全然思い出せない……何処で聞いたんだっけ?
「は? おめぇ、まさか知らないのか……?」
「聞き覚えはあるんです。ごめんなさい……長い間ずっと閉じ籠っていたので、自分で言うのもアレですが世間知らずなんです」
「閉じ籠って……ニュースも見ずにか?」
さっきまで怒って興奮状態だったスピナーさんは一転して悲しげに聞いてきました。
感情の起伏が激しいよ……
「はい。話し相手もいなくて、この【個性】の所為で友達も居ませんでしたから……」
「……なら、いい。許す。でも、今度ステイン様の事はきっちり勉強させてやる。いいな!?」
「わ、分かりました」
急に距離が縮まった気が……なんでだろう?
「……」
全身を服で覆った人は無言のままです。
何なのかな、この人……
周囲が何も言って来ないし、スルーしてもいいかな。
「ふん……」
筋骨隆々な人も同様です。
なんかこう……早く暴れたそうにしていますね。
若い男の人なら、そう言うのもまあ普通なのかも。
この二人はムーンフィッシュさんとマスキュラーさんと言うらしいです。
もっと色々聞くべきかなとも思ったんですが、弔くんは名前だけしか教えてくれませんでした。
ケチ。
……私に言われたくないでしょうけど変わった人達ばかりです。
ヴィランって社会のあぶれ者みたいなものだって聞いていました。
うん、間違っていない気がします。
私だって今は同じ立場だもんね。
昔はもっと低かったと感じるので、対等な場所に立てているのが奇跡かもしれません。
なんてこった、マスタード君が居ません!
彼には非常に悪い事をした(タグ追加)
砂糖不在や口田不在はよく見るけど間違いなくマスタード不在とか言うタグ付けてるのここだけだよ。
だって胡天くんちゃんと若干個性で出来る事被ってるし……