黒蝕は天を廻る夢を見る   作:紙吹雪

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やっとオリ主(無性)ちゃんが雄英高校と邂逅します。
遅い(遅い)




変わりたい?

 

 

 とうとう作戦決行の日が来ました。

 

 私としては取り敢えず自分の役目だけでも果たそうと少しだけ張り切っています。

 と言うよりは……子供みたいにはしゃいでるのかも。

 何かを任されるのが初めてだからかな?

 

 ちょっぴり緊張するけど……きっと何とかなるよね。

 

「おい、盲(めくら)女」

「……呼び方酷くないですか?」

「そんな事より、てめぇの役目は覚えてるだろうな?」

 

 弔くん、いくら言っても呼び名を変えてくれません。

 お返しに私もくん付けで呼んでも不満そうに鼻を鳴らしてくるだけです。

 そんなに私と年齢差があるんけでもない癖に……

 ……もういいや、好きに呼んでくれて。

 

「覚えてますよ。鱗粉をばら撒いて相手を牽制すれば良いんですよね?」

 

 これは今の私が出来る事を提案して荼毘さんが決定した行動です。

 動物は勿論、人間が私の鱗粉を吸い込むと致死率はかなり高い……のだけれど。

 今回は誘拐が主目的なのでばら撒き過ぎるなと注意されました。

 

 空間を把握する為に軽くばら撒く程度なら命に別条はないらしいですけどね。

 これはつい最近知りました。

 凶暴性が増すとか、症状については以前から聞かされていましたけど……

 思えば、自分の個性について私はよく知らないのかも。

 

「それでいい、余計な事はするなよ」

 

 それだけ言って弔くんは行ってしまいました。

 私もそろそろ行かなくちゃ。

 他の人達はもう配置についてるみたいだしね。

 

 

 

 翼を思い切り広げて、飛翔する。

 

 

 

 時間帯は既に夜。

 他の人にとっては視界が狭くて困るかもしれませんけど、私には何の問題もありません。

 寧ろ夜の方が都合が良いんだと思います。

 それにしては私の生活リズムは普通に朝起きて夜寝る一般的な感じですけど。

 なので実はさっきまでは仮眠を取っていました。

 

「……んん」

 

 作戦では多分この辺り。

 軽く感知してみると確かに私達以外の人が居ます。

 うーん……多分ですけど標的の生徒は居ないかな。

 一応特徴は教えられていましたけど、見た目ばかりだったので自信はあんまりないです。

 

 でも、性格がとても目立ちやすいらしいので……もし見つけたら他のメンバーに報告しましょう。

 

 っとと、そろそろやりましょうか。

 任された役目を果たそう。

 これで何かが変わるかもしれない……ですからね。

 

 適当な木の上に降り立ち、翼を左右に広げて、鱗粉を思う存分撒き散らす。

 夜風は私の鱗粉を遠方まで運んで行く。

 その範囲はかなり広くて……多分、最低でも200mくらいじゃないかな?

 こうしていると、まるで野生動物が縄張りを主張しているのと同じ事をしている気がします。

 

 あ、早速誰かが範囲内に入ったみたい。

 だけど急いで離れて行っちゃった。

 そのまま警戒して近付こうとしないや。

 

 ……ま、いっか。

 もう少し範囲を広げようかな。

 私は翼をさらにたなびかせた。

 

 ああ、夜風が涼しい。

 昼間の暑さが嘘みたいです。

 こんな夜を「良い夜」と呼ぶのかな。

 

 月が綺麗ですね、って有名な一文があります。

 私にはそれは分かりません。

 何故なら月を見た事がないから……と言うのは少し違うかな。

 より正確には、綺麗な物を見た事がないからだと思います。

 

 誰かがお花を可愛いと口にしても、私には共感する事ができません。

 青色、赤色、黄色……他人にとっては当たり前かもしれません。

 ただ、私には馴染みが一切ないってだけで。

 色彩が豊かだとか、まるで想像が付きません。

 

 そもそもの話……仮に私に視力があったとして。

 本当に美しい世界を目に映せたとは思えません。

 私が感じているのはきっと、暗くて陰鬱な世界なのでしょう。

 

 それは世界が悪いのではなく……強いて言うならこの世界に生まれて来た私が悪いのでしょう。

 

 今、私がやっているのは私がやっている行動は紛れもなく悪。

 俗に言うヴィランと呼ばれる人のそれです。

 でも、私にとってはこれは何て事のない……例えるなら、朝起きた時に伸びをするようなものでしかありません。

 

 私に悪意はありません。

 周りに悪意があって、それに逆らう権利があったとしても。

 私は結局何とも思えないんです。

 ただ、漠然とした悪い事は駄目だって知識だけはあって。

 

 私に悪意がないから許されるだろうか、とか。

 そんな事を考えるわけではありません。

 それを言い出すなら私自体が人類にとっての絶対的な悪なのでしょうし。

 

 ただ。

 

「意思を用いず悪成さば……私は悪意が無いのではなく、悪の認識が不明瞭なんですね」

 

 言葉の意味は分かっているのに。

 それが頭の中では曖昧で、いざ人に説明しろと言われると言葉に詰まってしまいます。

 

 今もこうして、森に住む生き物達の生態系は既に滅茶苦茶にしているのに。

 罪悪感は一切私を苦しめようともしない。

 そもそも本当に罪悪がこの世に存在するのかも……私は知りません。

 

 苦痛もなく、私は既に飛ぼうと思えば何処までだって飛んで行ける。

 それなのに……どうして今も私はこんなにも地を這っているような沈んだ気分なんでしょうか?

 答えはトガヒミコちゃんが教えてくれました。

 

 私の生き方、私のやりたい事。

 まだ定まっていなき目標、或いは夢がないから。

 諦める事を強制されていた環境から抜け出せても……私には諦観するしか出来ないつもりだったんです。

 籠を閉める鍵が壊されても私は飛べない鳥で、それは今も変わりません。

 

 何処に向かうかを知らない翼は、きっと何の役にも立たないんだ。

 私はそれを知ってる。

 自由だと突き放されても進む道は何処にも見えなくて。

 そして、どうしたらそこから変化が訪れるのかも分かりません。

 

「変われるのかな、私は……えっ?」

 

 思わず独り言を呟いて、自分でも驚いてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 私は、変わりたかったの?

 

 

 

 

 

 

 そう、なのかな……?

 

 今まで私は何かを望んだ事なんて一度もありませんでした。

 ただ、生きているだけでそれ以上を望むのは過ぎた欲望だったんです。

 作られた箱庭の中を壊さない程度に遊んで過ごすのが、きっと大勢が私に望んだ生き方でしょう。

 

 でも……今は違う。

 

 私だけの生き方をする権利を得て、その道を突き進む。

 その過程に周囲の犠牲があるのは……悲しい事でしょう。

 それでも、それがようやく見つけた私の望みだとしたら……?

 

 

 

「……まだ、よく分かんないや」

 

 取り敢えず、心のメモ帳に「変わりたい?」と書き込んでおきました。

 まだまだ分からない事ばかりで私の世界は酷く狭くて矮小なんです。

 誰かに色々と聞いてみたり、経験を積んだら広がるかな?

 

 私は思い付いた考えが消える前に再び空へと飛び立った。

 色んな人に話を聞いたりしたい。

 私の翼は、まだまだ不完全なんだ。

 パズルのピースを嵌めるように、いつか完全になってみたい。

 

 遠く、遠くへと飛んで行けるように。

 

 

 

 ——それは、私が初めて表に出せた素直な欲求だったのかもしれません。

 

 

 

⬛︎ ⬛︎ ⬛︎

 

 

 

「おい、何だよこりゃあ……!?」

 

 目の前に広がる惨状。

 黒いナニカが木々の間に漂っている。

 それも、視界に収まらない程の広範囲に。

 

 その黒いナニカを哀れにも吸ってしまった野生のリスがいた。

 可哀想なリスはまるで狂ったように動き回りながら苦痛から逃れようともがく。

 だが、それも少しの間だけ。

 

 やがて、糸が切れたかのように倒れ伏し……リスは動かなくなった。

 死体は一部分が黒く変色し、明らかに普通の死に方ではないのが分かる。

 

 見ているだけでも生存本能へとヒシヒシと訴えてくる。

 どんなに馬鹿だろうと理解してしまう。

 それは決して吸ってはならない、触れてはならない。

 

 

 

 自分達が知る何よりも、計り知れない危険度を秘めた代物だった。

 

 

 

「ど、どうすんだこれは!?」

「……とにかく、近付かないで! 風向きとかから推理すれば、個性の主は分かるだろうけど……下手なガスなんかよりも絶対に危険だから」

 

 二人の生徒の片割れ……拳藤一佳は震えが止まらなかった。

 それはもう一人の生徒である鉄哲徹鐵も同様だ。

 彼女はそれなりに頭を回せるからこそ、この黒いナニカの危険性をより強く感じ取っていた。

 

「……やっぱり、危険だわ。触れるだけでもヤバいかもしれない」

「じゃあどうするんだよ?」

「ここは他のクラスメイトと合流して……っ!?」

 

 明らかにおかしい音が二人の耳に届いた。

 

 それは巨大な羽根をはばたかせているような空気の音だ。

 確実に猛禽類よりも大きなそれは静かな夜には不自然でしかなかった。

 咄嗟の判断で茂みに身を隠し、音がした方向を慎重に伺う。

 

 そこに居たのは……悪魔のような存在だった。

 

 大きな黒い翼とその先に付いている発達した爪。

 地面を引き摺る黒い尻尾。

 身体の一部分を覆う黒く滑らかな鱗。

 眼を開かずに薄く微笑みを浮かべながら立っているその姿は……いっそ神秘的にも思えた。

 

 黒い物を撒き散らし、圧倒的な存在感を放ちながらこの森を闊歩している。

 まるで自らを脅かす外敵はこの場所には存在しないと……そう確信しているかの如く自然体な姿で。

 自分の縄張りを悠々と見て回る獣と、少しだけ似ていたかもしれない。

 

「(間違いない、こいつがこの黒いのを出している本人だ!)」

 

 そう確信した拳藤一佳だったが、すぐには飛び出さなかった。

 明らかに異形型の個性持ちである上に、危険な物質をばら撒いている張本人である。

 身振りだけで相方を抑え、そのまま様子を見守るが……

 

「……分かります、そこに居ますね?」

「(っ、バレてる!?)」

 

 この異形型の個性らしき者は、明らかに自分達の隠れている方へ顔を向けていた。

 

「ちっ、バレてるならこっちから!」

「ちょ、待ちなさい!」

 

 勇敢にも立ち向かう鉄哲。

 個性により身体を硬化させ、何の小細工のないシンプルな突進を繰り出した。

 それに対して、相手が取った行動は——

 

 

 

「わわっ……とと!」

 

 ——翼脚を使って、いとも簡単に受け止めてみせた。

 

 

 

「な、何ィ!?」

「もう、ビックリしたじゃないですか」

 

 全身の力を使って突っ込んだ鉄哲の身体を、翼の先にある爪でむんずと掴む。

 掴んでいる本人は対して力を込めているようには見えないのに……

 掴まれた鉄哲はそのまま持ち上げられてしまった。

 抵抗はしているのにびくともしていない。

 

「えいっ!」

「の、のわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 彼はそのまま放り投げられて綺麗な放物線を描いて行く。

 

 およそ普通の人間には決して及ばない膂力を持っていた。

 この黒い物だけでも厄介なのに、本人の身体能力も凄まじい。

 拳藤一佳は目の前の存在が持つ危険度を上方修正する。

 

「(あの馬鹿……! でも、あの程度の飛距離なら怪我もしていない筈。それよりも、今はこの化け物みたいな奴をどうにかしないと……!)」

 

 鉄哲とフィジカルにおいて真っ向勝負で打ち勝てるような相手だ。

 優れた身体能力と恐ろしく得体の知れない物質をばら撒く……とても、彼女だけの手に負える相手ではなかった。

 

「ううん、怖がられちゃったかな。まあ、普通はそうなるよね」

 

 こうして相対していると。

 明らかに危険過ぎる存在なのは分かる。

 分かるんだけど……

 

 不思議な事に、まるで敵意がない。

 殺気がないとも言い換えられる。

 勿論、全く安心できる訳はない。

 

「私、実はヴィランに成り立てで……しかも、ちょっと前までずっと閉じ籠るのを強要されていました。なので、今の私は世間知らずの子供なんです」

「……?」

「なので、こうして空いた時間を使って見聞を広めたいなぁって。さっき思い付いたんですよ」

 

 えへへ、と。

 無邪気に笑う姿は本当にヴィランなのか分からなくなってしまいそうだった。

 既に敵対するかのようにあの黒い物質を撒き散らしている故に、ヴィランである事には違いない。

 でも、もしそうでなければ……と、そこまで考えて頭を張った。

 

「(例え、相手が騙されているとか、特殊な事情があったとしても……これ以上、こんな危険な物を振り撒かせる訳にはいかない!)」

 

 臨戦態勢は既に取っていた。

 覚悟が足りていなかっただけで……及び腰になっていたのかもしれない。

 相手がどんなヴィランだろうと怯んではいけない。

 

 彼女の固い意志を感じ取ったのか、そのヴィランは困ったように首を傾げた。

 

「ううん、これがきっと当たり前の反応だよね。それだけの事をもうしちゃってるんだし、許して欲しいと懇願してはいないんだけど……だからって何してもいい訳じゃないもんね。立場には責任が生じるって昔聞いたけど、本当だね」

 

 何かしら満足したのか、相手はその場で翼を広げで飛び立とうとした。

 それだけで黒い物質は視界を覆い尽くす程に舞い立った。

 

「うぅ……待てっ!」

 

 彼女は怯みつつも決しては眼は背けなかったし逸らさなかった。

 だから、咄嗟に攻撃する事ができた。

 地面の砂粒や石を個性で大きくした右手で掴み、全力で投げ付けたのだ。

 

 しかし、追っていた相手はそれにも対応してみせた。

 空中にも関わらず身体を傾けて思い切り横に回避行動を取る。

 気付けば相手は既に手の届かない空中に至っていた。

 どうやら……飛翔能力も非凡であるらしい。

 

「ぺっぺっ! ……ヒーローの人って、意外と泥臭い手段を使うんですね。ほんと、私ったら知らない事ばかりです」

 

 一番大きな翼には当たらなかったけど、小さな砂粒は顔に当たっていたらしい。

 だが、大したダメージを負っているようには見えなかった。

 目潰しも兼ねていたのだが……まるで効果が無い様子に困惑した。

 

「(まさか、盲目? 確かに一度も目を開けてないし、さっきもあっさり隠れていた私達を発見した。夜目が効くんじゃなくて、他の感覚機関が優れている……?)」

「じゃあね、ヒーローの卵さん。今度会った時は……もう少し落ち着いて会話が出来るといいな」

 

 それだけ言うと、翼をはためかせた悪魔にも見紛うその者は飛び去って行った。

 

 






ここから黒味ちゃんが少しずつ自我を出して行きます。
(なお、作者は頭の中ではオリ主の事をクロちゃん呼びしています)

次回は、他の人達にも会いに行きます。
これはネタバレですが当然後で怒られます。
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