「クックック...私が主人公の小説など、需要あるんですか?」
黒服が昔先生していたらなんかいいなぁって思って書いた小説です。

※独自設定モリモリです。
※一部ネタバレ要素を含みます、予めゲーム本編ストーリーを完読していただけるとより楽しめると思います。

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黒服先生概念

 

 

 

 

――――その昔、私は先生だった。

 

 

当時の私は実に未熟であった。

小さな片田舎の学校に赴任したばかりの新人教師。

やる事なす事全てがぎこちなくて不完全、つまり中途半端な人間だった。

あの頃の私といえば、先生という立場でありながら、よく生徒には怒られたものだ。

 

「ここはしっかりこう書いて下さい!」

「先生...こんな事も出来ないなんて、どうやって教員試験合格したんですか!?」

 

今でも思い出せる生徒からの説教。

本来私が彼女達にする立場であったのだが...全く、大人として恥ずべきことだ。

 

こう思い出すと、私は本当にどうしようもない大人だったのだ。

 

だが、生徒たちはそんな私を慕ってくれた。

恐らく私に頼まない方がスムーズに動くであろう仕事を、わざわざ私に任せてくれた。

雑務が溜まった時には、放課後という青春の1ページを犠牲にしてでも手伝ってくれた。

 

 

そして、私を必要としてくれた。

 

 

これが何よりも嬉しくて、何よりも幸福な事だった。

生徒が私を必要としてくれるという感覚、それだけで毎日がとても充実し、温かかった。

 

だが世界というのは人間に甘さを与えると、直に苦みを与えるのだ。

 

ある日、快晴の青空が不吉に赤く染まった。

その異様な景色に私含め生徒たちは、校庭へ出る。

 

不愉快な不協和音が、耳を犯していく。

まるで世界そのものが悲鳴を上げているかのような不吉な音。

 

その音と景色から何処か嫌な予感を感じた私は、念の為生徒達を1つの場所に集めて安全を確保する。

生徒達の顔からは不安と恐怖がひしひしと感じられ、かなりの混乱状態であると容易に予想できた。

ここで先生である私が、生徒を守らねばどうする。

そう思ったものの、心の中の恐怖を抑えられず足が震えていたのを、今でもよく覚えている。

 

 

そして時は満ち、空は眩く光った。

 

 

その時に放たれた色を、何と表現すればいいのだろうか。

この世の色を全て混ぜたような、黒のようで白のような認識できない色。

 

そんな気味の悪く、そして神秘的な色が私と生徒達を包みこむ。

 

そしてその光から、まるで魂そのものを焦がすような感覚が全身に走った。

 

 

駄目だ。

これは駄目な光だ。

 

 

直感的に私の脳はそう判断した。

そして私は奥の手として用意していた”大人のカード”をポケットから取り出す。

取り出すと同時に光り輝くそのカードに向かい、私は強く叫ぶ。

 

 

「あの光を消し飛ばせッ!!!」

 

 

瞬間。カードから放たれる水色の光が、より大きく輝き始めた。

その輝きと同時に不吉な光による魂を焦がす感覚とは別として、自分の魂が削られていくような感覚が身を襲い始めた。

 

だがこれはあの光とは違い、既知の感覚。

これは大人のカードを使うことによって起こる代償なのだ。

 

これは、自ら魂を対価とする行為なのである。

 

私はその代償への恐怖を無視し、カードを上へ掲げる。

もう一度、もう一度衝撃を与えれば光を相殺できるだろう。

 

...どうせ中途半端な私だ。私の"これから"なんていくらでもくれてやる。

 

生徒の"これから"の為なら、私は何だって...。

 

だがその時、自分の意思とは反対に手と足が震えていることに気が付いた。

 

 

何故だ?

怖いからか?

死ぬのが嫌だからか?

 

 

私は自分の震えに激しく困惑する。

どこかで魂の終焉による恐怖を無視できず怯えているのか、私は大人のカードをもう一度使う事を躊躇ったのだろう。

こんなところでも中途半端で終わらせる気なのか、私という人間は。

 

先生である、大人である私が、生徒を守らずに誰が生徒を守るというのだ?

 

 

 

 

 

――――お前は、先生なのだろう?

 

 

 

 

 

 

「先生。」

「ッ!?」

 

後ろから聞こえる、生徒の声。

いつも私を頼りにしてくれた声であり、先生である私を叱ってくれた声。

 

そして、私を必要としてくれた声。

 

その声に私は、心臓を酷く冷たい刃物で抉られたかのような感覚に陥った。

私は彼女達の頼りを、期待を、裏切っているのだ。

 

 

私は、声の主の方向を見ることが出来なくなっていた。

 

 

合わせる顔が無かった。

 

いや違う、ただただ恐ろしいのだ。

 

私に対する失望の目線が、私に対する呆れの顔が。

私の行動を見た彼女達の顔を見るのが私にとってこれ以上にない程、恐ろしくて仕方がなかったのだ。

 

 

「――大丈夫です、先生。」

 

 

だが聞こえた声は私の予想とは反対に、優しい、柔らかな生徒の声だった。

 

「これが運命というのなら、私達はそれに従います。」

 

「駄目だ、私は...私は君たちを絶対に、絶対に守るから...」

「だから...だからどうか...。

 

私の口から出たその声は、笑える程情けなくて、頼りない掠れた声。

だが、彼女達からはその言葉への呆れの声や、嘲笑は聞こえなかった。

 

 

「...先生は、そのカードで自分を守ってください。」

「!?」

 

 

その言葉に思わず私は振り返ってしまう。

そして振り向いた目線の先には、どこか決意したような、そしてどこまでも優しい顔をした生徒が私の前に立っていた。

 

「きっと、今耐えているのが精一杯だと思うんです。」

「いや、あともう一度押し返せばッ!!」

「最初の出力を考えると、恐らく無理でしょうね。...先生、自分が計算苦手なのをお忘れで?」

 

「...」

 

情けない。私は心底そう思って、苦い表情を浮かべながら俯いた。

当時、教師として致命的だが計算が大の苦手だった。初歩的な計算でさえ間違えることもあったりと、色々と悲惨であった事を覚えている。

そして私が計算で手間取っている時にサポートしてくれたのが、紛れもない。

 

今目の前にいる彼女だった。

 

「全員を守ることは、はっきり言って不可能です。...ですから、ご自分を守ってください。」

 

「...いやそれだけはッ...それだけはできないッ!!」

 

生徒の言葉に私は強く否定をする。

駄目だ。生徒を残して私だけが生き残る等、もはやそれはただの...

 

 

 

 

――――ろくでなしじゃないか。

 

 

 

 

私の声に数十秒の沈黙が場を支配する。

だが私にとってこの数十秒という時間は人生で最も長く、そして重く感じた。

 

 

 

「いやさー、先生、こんな時だけカッコつけんなよ~」

「そうそう、こういう時だけ“先生”するんだからw」

 

 

 

その声に私は顔を上げる。

私の目に映る生徒たちの顔に、先程あった恐怖は見えなかった。

 

 

 

「...わ、私なら、大丈夫...だから先生...ね?」

「うじうじしてんじゃないわよ先生!私たちはもう決めたからね!」

 

 

 

生徒全員が、自分を犠牲にするのを決意していた。

 

「...だから、先生?」

 

その言葉に合わせ、目の前の彼女も決意の目線を私に再度向ける。

 

「...みんな...どうして?」

 

私の心は数多の感情が交わり、混沌に満ちていた。

 

怖くないのか?

 

大人である私がこんなにも恐怖で支配されそうになっているのに。

何故まだ子供である君たちが、どうしてこの恐怖に耐えられるのだ?

私の思考は、疑問に染まる。

 

「どうしてって...そんなの決まってるじゃないですか。」

 

 

 

「――先生に、生きてもらいたいんですよ。」

 

 

 

 

笑顔でそう告げる彼女に、後ろで頷く他生徒達。

私はその生徒の言葉を前に、脳の処理が追いつかずただただ呆然としてしまった。

 

その様子に少し苦笑いを浮かべた目の前の生徒は、私の傍まで静かに歩み寄る。

そして彼女はカードを握っている私の右手を優しく掴んだ。

 

「ほら、いつものように私の言う通りにして下さい!...みんな、もう準備できてますから。」

「...っ」

 

彼女の手は温かった。

私はその温度を噛み締めながら、他生徒の方向を見る。

どの生徒の顔も、笑顔で決意に満ち溢れた表情をしていた。

 

駄目だ、私は...私はッ!!!

 

私は心の中で叫ぶ。

 

 

 

 

 

「先生?――――短い間だったけど...」

 

 

 

 

 

――――ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば、空の色は戻りあの光も元から存在していなかったかのように消え去っていた。

静寂に包まれた小さな校庭で、私は一人蹲る。

 

そこに居たはずの生徒の姿はただの一人も見えなかった。

 

 

「私は...私はなんてことを......」

 

 

頭を抱え、自分を呪う。

私は生徒を残して、一人生き残ってしまったのだ。

未来ある子供(生徒)を犠牲にし、未来を捨て中途半端に生きている愚図(大人)が生き残っている現状に、私は耐えられなかった。

 

そしてこの状況に微かだが"良かった"と思えている自分が憎らしくて堪らなかったのだ。

 

 

「あの光...あの光さえなければッ...!!!」

 

 

そうだ。

全てはあの光が元凶だ。

あの光が無ければ、今も何気ない日常を過ごせていた。

 

私は呪いの矛先を、あの光に向ける。

 

 

「...私の生徒を殺した罪は...償ってもらおう。」

 

 

責任転嫁と言われようが、もう私には関係なかった。

私は気が付いたらあの光について狂ったように調べ始めていた。

 

ただ、あの光に一矢報いる為。

 

その為なら私は何を犠牲にしようと、例え私が人間でなくなろうとも、何でも良かった。

いや、もう犠牲にするものなど私にはない。

彼女達の仇を討てるのなら、私は何だってする。

 

 

 

 

――――今度は、中途半端では終わらせない。

 

 

 

 

 

 

「おい。」

 

 

 

「...遂に息絶えたか?」

 

 

 

ぼんやりと浮かぶ見慣れた景色。

そして目の前には同志の探究者。

 

「...そう簡単に息絶えませんよ。」

「お前が眠りにつくのは珍しい...息絶えたと思うのは当然だろう。」

 

少しずつぼかしが晴れていくように鮮明になっていく視界。

連日の騒動による疲れが原因か、どうやら深く眠っていたようだ。

 

「クックック...物騒な発言は控えて下さいマエストロ。」

「...それで、これからどうするつもりだ。」

 

「これから...ですか。」

 

あの騒動以降、ゲマトリアは解散状態にあった。

これからの計画を立てていない事も無いが、まだその計画には現実性と正確性が取れていない。

 

...ならば、答えは1つ。

 

「...私は様子見と致しましょうかね。」

「ほう。」

「ええ、勿論貴方は自分のやりたいことをして頂いても構いませんよ。」

「端からそのつもりだ。」

 

表情の見えない彼は、抑揚のない声でそう告げる。

 

「...色彩については、もういいのか?」

「何を言い出すのですかマエストロ。私が言ったのはあくまで一時的な様子見の事ですよ。」

 

例えゲマトリアが解散となろうがどうなろうが、私の意思は変わらない。

あくまで、これは私にとって休暇のような物なのだ。

 

「まあいいだろう。...それでは私は失礼させてもらう。」

 

そう静かに告げ、マエストロは何処かへと消えていく。

そうして一人になった広い無機質な会議室にて、私は傍にあったコーヒーを啜る。

 

 

「先生。...どうか、期待を裏切らないでくださいね。」

 

 

ここにはいない、この世界の先生(シャーレの先生)に向け私は告げる。

 

 

「...私と同じ未来を辿らない事を、心から願います。」

 

 

あの生徒を何よりも一番に考える姿。

そして、自らを犠牲にしてでも生徒を守ろうとする雄姿。

 

 

中途半端な教師であった私とは違う。

 

 

 

 

 

 

 

かつて抱いていた私の理想の教師像は、彼のような人間であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくれましたこと、本当に感謝します!!

黒服が先生だったら、こんな感じだろう...っと勝手に思ってます。
今作品の黒服の設定は復讐心と未熟をテーマに考えてみました。
今の黒服とは離れた設定かもしれませんが、過去はこんな感じだったらギャップ萌え(?)を感じるのでこうであってほしいです。

というか黒服先生説割と濃厚だと思うんですよね。
なんか本編でもそれ紛いの事言ってましたし...どうなんでしょう?

まあ、本編ストーリーが楽しみで仕方ありません。

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