転生した少年バインは何になりたいと臨む。
ーー神になりたかった。
ーーー
ナグモ村の少年バインは途方に暮れていた。古臭い我が家の裏手で地面に転がる小石を蹴飛ばした。
「ーーせっかく転生したのに、魔法が存在しないなんて」
今年で五歳となった彼は意を決して今生の父親に聞いたのだ。"父さん、魔法ってどうやったら使えるようになるの?"と。それに対する父の反応は実に芳しくなかった。曰く、「魔法ってなんだ??」と。マジかよ、とバインは思った。その結果が先の独り言である。
「ふう…落ち着け。魔法がないのはショックだけど、別に魔法だけが手段じゃない」
井戸に汲み上がった水で顔を洗ったバインは冷静に呟いた。手段とは、目的を達成するための方法のことだ。ならばバインが用いる手段の目的とは何なのか。それはーー。
「僕は必ずーー神になるんだ」
ひどく稚拙で、ひどく単純なものだった。
ーーー
前世で二十年という時を過ごして分かったことは、"この世界は地獄である"ということだった。だってそうだろう。殺し合う人々に騙し合う人々、多種多様な悪人が跋扈するこの世界は常に理不尽に犯されている。
真面目に生きれば馬鹿を見る。他人に優しくすればつけ込まれる。理不尽とは、"他人である"と考えた。その考えは間違っていなかったと思う。居眠り運転のトラックが歩道へ突っ込んできた時にそう思った。
理不尽ではないか。僕はただ生きてきただけだと言うのに。二十年の生は不意の事故であっという間に終わってしまった。ならば僕は生まれてきた意味があったのか? 僕は何のために生まれてきたのか。何かを為すために生まれてきたのではないのか。そんな疑念が生死を彷徨う僕の脳内で反芻された。すでに感覚のない腕に失われていく熱。眠りを妨げていた痛みももう感じない。このまま心地よい眠気に身を委ねて眠りに就くのもいいかもしれない。そうすればきっと故郷の母が起こしてくれるだろう。そう思って、少しの間目を瞑り…気づいた。
ーー嗚呼、母さんは三年前に死んだんだった。胸に悲嘆が広がり…されど徐々に引いていく。はっとした。あは体験というやつだろうか。心地よい歓びが脳内に響き渡り、ふと自分が笑っていることに気づく。声はない、ただ口角をあげるだけの笑みだ。ただ嬉しかった。ーーまた母さんに会えるかもしれないという"可能性"が、ただただ嬉しかったのだ。
そのまま僕は亡くなった。結局、母さんに会えることはなかった。あの世も天国もありはせず、気づけば僕は見知らぬ田舎に生まれ直していたーー前世の記憶を持ったまま。それに意味があるのかは分からない。でも、僕はまた生きてみたいと思った。この世界だって地獄だろうに、なぜ生きたいと思ったのか。理由は死の間際に思ったことかもしれないし、そうでないのかもしれない。
ただ一つ言えることは、僕の人生の意味は、僕が決めるということ。理不尽にも地獄にも、誰に左右されることもしない僕だけの自由だ。
ーーさぁやってやろうじゃないか。
魔法の存在しないこの世界でーー、
ーー僕は僕だけの神様になってみせる。