はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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今回はいわゆるショート・ショートです。
本編とはさほど関わりません。箸休めにどうぞ。


小品で小粒な話

 

 

 

 

 座面に広がる人の群れ、以前は黒髪ばかりで黒い海のよう…だった、らしい。私は目にした事が無いけれど、そういうものだったそうだ。

 日本といえば今やカラフル頭髪のお祭り騒ぎ。かくいう私も真っ白な髪なのでとやかく言うべき文句も無い、だってお母さん譲りですから。

 

 からからとゼンマイの切れたブリキのおもちゃ並みに力無く開かれる引き戸、ぬるりと入ってくるゾンビみたいな顔色のピンク髪をした美少女。私達のクラスの担任、真中先生だ。

 朝に似合わない、絶望そのものを味わったような足取り。またぞろ二日酔いに悩まされているんじゃないかと不安を覚えたけれど。

 

「あー…静かにしろお前ら…早く切り上げんぞ…」

 

 声が枯れていない。お酒のニオイも少ない。はて、では何故先生は異様なローテンションなのか。

 

「レイリーちゃん…目を合わせない方がいいのん…!」

「?」

「野上ぃ…静かにしろ…!」

「えぇ…?」

「アイちゃん先生の、好きな球団の自力優勝の可能性が滅茶苦茶低くなったの…」

「そのくらいで…?」

「そのくらいだとぉ!?」

 

 すごく…しょうもない…! 

 

「絶望に次ぐ絶望なんだよ! 夏時点で一位とは10ゲーム差以上、しかも何だぁ!? 先発のエースが故障ってありえないだろ!」

「大変そうですね」

「大変どころじゃないんだよ!!」

 

 あっはい。しかしそう言われましても、何分野球はわからないもので。

 

「まさかレイリー…野球を知らないのか!?」

「名前は知ってますけどそれ以外は…」

「い、一からか? 一から説明しないとダメか…っ!?」

 

 何がわからないというと、そもそものルールさえいまいち知らない。もっと遠慮の無い意見としては、何が楽しいのかわからない。見た事は…たしかあるんだけれど、余り面白いものとして映らなかった。

 いざ投げるまで間延びするし、交代の時も時間がかかるし。ファウル? で、何回も同じ人がバッターとして粘れば退屈そのもの。

 流石にこれを言うと先生のような熱心な野球ファンはブチギレるのはわかる。ので、言いません。

 熱中そのものに理解を示さないのではなく、よくわからないというのが本音。

 

「先生ぇ〜、いいから朝礼し」

「鳥羽ぁ! 何でそんな冷たい事を言うんだっ、おれは生徒の一人一人に夢中になることの素晴らしさを説きたいんだよっ! わかるか!?」

「いやあたしもわからんし…」

「わからず屋がもう一人ぃー!!」

 

 おお…話したことの無いクラスメイトの鳥羽さんに矛先が向けられてしまいました。

 …はい、話した事が無いんですよ。

 だって鳥羽さん、珍しいピンクの髪なのは置いといても。メイクはバッチリ、服装は着崩して爪はギラギラ。そうです、ギャルギャルしいんです。おそらく私とは違う世界の住人だったりするんでしょう。

 たまーに太陽くんがパシりに使われてるのを見るくらいかな、何か弱味でも握られてる? 

 

「まぁまぁアイちゃん先生、野球の話はマズいって。

 っていうかスポーツの話題ってあんまりしない方がいいよな、好きなチームの違う過激なファンが二人居たら戦争じゃん?」

「當真っ! お前の好きな球団は!」

「えっ、あー…えっとぉ……別にこだわりとか無えですけど、強いていうなら地元だしカクヨミウリ巨神…」

「停学にしてやる…っ!」

「なんの罪で!?」

「金満球団に魂を奪われた罪だよ!!」

「しょうがないじゃんッ! 有名選手多いんだからッ」

 

 被害担当者(太陽くん)…!

 

 野球チームの巨神といえば、流石の私でも名前は聞いたことがある。特徴としては有名選手が多いのと……なんかこう、結構強い…みたいな? 

 

「馬鹿は相手にしてられん! 日直っ! 号令!!」

「は、はいぃ!」

「さらっと馬鹿扱いされたんだけど?」

「どう考えてもバカモノにござる」

「見えてる地雷に突っ込むのは馬鹿だろうさ」

「えっ…!?」

 

 野球かぁ…。

 

 私の個人的な話として、スポーツの類は特別に好む事が無い。興味関心が薄いのである。更に格別に団体競技は自分がやるのも苦手だ。自分がミスをした時に注がれる視線の寒々しさといったらない。おまけに、もしもチームメイトがミスをした時、誰かの失敗を責めようかと一瞬でも考えてしまうのだから、とても好きになれない。

 でも、個人競技であればまだ熱中するのもわかる気がする。記録に挑み続けたり、その為に研鑽を繰り返すのに他者の目が無いから。

 そうは言いつつ私は私で、家でお母さんやお父さんが課したトレーニングをこなしている訳だから。ひょっとすると元から個人競技向きなのかもしれない。

 

 

 

 しかし、新たな知見を増やさないのは怠慢だと思う。両親、特にお母さんは色んなものに出会いなさいって言ってくる。ならば一念発起、さぁ聞いてみよう。

 

 

 

 ここは学食、今ではすっかり馴染んだ、のんちゃんと朝倉さんの両名と一緒にお昼ご飯を食べ終えた後。

 この学校の学食はとても賑やかで、そして物騒だ。それと変な人が多い。

 

「おじさん! カレーひとつね!」

「福神漬をよそうか! 七福神のォー!!」

「そんな事を言って! 赤い福神漬を盛るの、本当はご自分がやりたいんでしょう!?」

「そうでもあるがァァァー!!」

 

 …こんな感じで。

 どうにも学食で提供される食事の中でも、野菜類はオーガニック的な物にこだわっているのが売りなんだとか。オーガニック的な物ってなんでしょうね。美味しいからいいんだけれど。

 

「昨日さ、新しく出そうとしてる麻婆豆腐を食べたんだ」

「料理人のすること! 珍しくもない!」

「仕込み終わったカレー…寝かせたのを合掛けにもしてみたんだ」

「何を…言っている…!?」

「一晩寝かせたカレーなんて馬鹿にしてたさ。がねぇ? これが味わい深くて感動した…スパイスを秘めた具材」

 

 カレー麻婆? 

 それとも麻婆カレー的な? 

 

「貴様ァァァ!」

「おっと、すまない。だが定食を頼んだ奴が、そんなに怒ることじゃない。こういうのは明日頼もうと思って笑って聞くもんだ」

「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 …見なかったことにしよう。巻き込まれたら私まで変人扱いされるかもしれない。

 

 さて。他にも椅子とかが物理的に乱れ飛んだり、非科学的な氷や炎に雷が宙を舞う学食と購買スペース。これは慣れない方がいいんじゃないだろうかと思いつつ、背丈が私より頭一つ分小さな同級生の近くへ。

 購買と学食は併設なので、ちょっと大きめの机がある。そこに向かい合わせるようにして、同じく銀髪の同級生と戦果にパクついている彼だ。珍しいことに、銀髪の彼は今日は怪我をしてないのだろうか。

 

「土屋くん、森山くん」

「フォっ!? な、なんだいレイリーさぁん!」

「珍しいね。レイリーさんはもう食べ終わったの?」

「……」

「えっ何々!? 何でオレを見つめるんだ…!?」

「挙動不審だからじゃないかな?」

 

 えー…今私は緊張しております。やっぱりのんちゃんに付いてきてもらうべきだったのかもしれません。朝倉さんは余計に緊張しそうだからダメです。

 臆するな私、大丈夫。

 

「その、野球って楽しいの?」

「ん…?」

「…ああ。なるほど、今朝のあれじゃないか?」

「今朝ぁ? …あっ、先生のアレか…」

「そう。野球部だよね」

「まーね! 何せ大エースだぜオレは! 気になるんなら、次の休日に練習試合があるから」

「そういうのいいから」

「なんとぉ…!」

「普通に説明すればいいと思うよ」

「実際に見たほうが早いって!」

「………」

「凄く興味なさそうだ」

「ウワー!?」

 

 いやまぁ…ね。野球やサッカーの難点といえば、見るだけでも時間が掛かる所にあると思うんです。しかも集中して観ようとしても、観客席から打つ人に投げる人までが遠いじゃないですか。双眼鏡でも持参しない限りなにをしてるかもわからないんじゃあ、そこまで魅力が伝わらないんじゃないでしょうか。

 

「せっかくアルファポリズを布教しようと思ってたのに…!」

「真中先生の前で、その名前出しちゃ駄目だぞ」

「わかってらぁ…いやでもさぁ、何で先生はよりによってハーメルーズなんて応援してんだ? 言っちゃ何だが他と比べるとさあ、でっかいスポンサーとかついて無いし。正直言ってよわ…」

「あっ、土屋くん」

「え? 何々、やっぱり試合観に来るぅ!?」

「真中先生が凄い顔してるよ」

「なん…だと…?」

「ほんとだ。あっ、こっちに来るみたいだ」

「ボッとしてんじゃあねーぞ森山ぁ! 逃げるぞ! マッハで!! 捕まったら死ぬぅ!」

「ボクは逃げなくても平気じゃないか?」

 

 うーん脱兎の如し。野球部といえば脚力も鍛えるんでしょう、森山くんを連れて勢いよく逃げて行きましたとさ。

 

「と、いう訳でね」

「どういうワケェ?」

 

 全力逃走する土屋くんと、巻き添えで走って転んだ森山くんが保健室に運ばれた後。野球の楽しさとは何たるかをご教授されたく思っています。

 次の被害……次は太陽くんです。

 

「野球って楽しいのかな」

「んー…やる分には楽しいんじゃねえかな、何だかんだ理屈を捏ねるより身体を動かしてる時の方が楽しいだろ? 

 まっ、昔はテレビ中継で選手の活躍ってのも見れたらしいけどさ、今じゃ無理だ。スポーツ新聞で事細かに結果を知っても、臨場感とかは無いしな」

 

 おっと意外にも冷静な返答。

 

「それでも好きな選手とか球団があれば話は別だろうけど、中々知る機会も無えってコトだ。アイちゃん先生は昔から馴染みがあるけど、俺達にはまぁ遠い話じゃん。

 しかもさぁ、中継があった時の話するとフォンセルランドさんがキレるんだよ。あとゴルフとかも」

「? なんで…?」

「深夜の、その…ちょっとお色気要素のある番組とか、朝方の特撮だとかが潰れたりするから大ッ嫌いなんだと。現地で誰かと見る以外はな」

「そうなんだ…」

 

 皆に受ける競技は無い。そういうことなんでしょう。

 

「あ痛ででで!?」

「えっ、何。大丈夫?」

「あっ、あの呪殺人形ッどこで聞いてるのか知らねえけど呪ってきやがった! ぁだだだ!?」

 

 えぇー…? 

 

「わ、わっ悪いレイリー! 俺はちょっと保健室かトイレに行ってくるから、次の先生に伝えといてくれッ!」

「うん」

「じゃあなッ!!」

 

 こういうの、なんて言うんだっけ。

 あっ。

 

「壁に耳あり、障子に目あり…?」

 

 うちの探偵事務所の事務員さんはメリーさんです。

 メアリーさんじゃないよ。

 

 

 

 

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