はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
ちょっと気になる颯の考え事はともかく、着いたぜフードコート。
人がひっきりなしに往来しては雑多な食べ物匂いに雑然とした老若男女色々の年齢層、場を埋め尽くすのは多種多様なよくわかんねえ人達の群れと言っても過言じゃない。
今の日本は大概混沌としているんだが、食事風景なんて輪を掛けてカオスが極まっておいでだぜ。
ウチの学校にも居るだろ、昆虫食大好きなレプティリアンの歴史教師が。そういう人に向けた料理が並ぶんだから、そりゃあもうテナントのメニューも増えるってもんだ。
「んー……」
「どうかしたか?」
「どうもしてねえよ。ただマックはいつ食べてもマック味だなァって思ってただけだぜ」
「普通でしょ」
「まあな」
しかしどうだい、現実は三人揃ってマックのバーガーを頬張ってるんだから。
「アレを頼まなくて良かったのか?」
「あの期間限定メニューを!?」
「レイフマン先生なら食べてたかも」
「あの人も虫なら何でもいいって訳じゃ……無いだろ、たぶん。普通に肉とか食ってるし」
今のマックで販売している期間限定新メニューは、何と恐ろしい事にミミズバーガーだとさ。実はパティがミミズ肉っていう馬鹿げた噂を逆手に取った狂気的な商品。あまりにも狂気的過ぎるな。チャレンジ精神に火をつけるのか売上はそこそこ良いんだろう、他の店舗では売り切れが多いらしいぜ。普通に食べる方々も居るしな。
まあ、俺らみたいな一般人からしたら下手な冒険はしない方がいい時もあるって話だ。ミミズは無理だって、ミミズは。
「で。何でマックを?」
「私はお昼はパンか麺だから、それと」
「安いしちょうどいいじゃん?」
「ほらね」
「……聞くまでもなかったかな」
何だよ、言いたいことがあるなら言えよ。ただでさえクソ高い外食を、質素倹約に努めている俺が嬉々としてステーキランチ的なの頼む訳が無いじゃんね。
こちとら大学の資金だって貯めてるんだぜ、高い目標は日々の努力から。俺はいつだって庶民派だよ。
「んー……」
ハンバーガーを齧って、その暴力的なまでの塩気と油におもわず唸る。むしろこれこそマックのハンバーガーとわかっちゃいるが、本当に塩っぱいぜ。ついでのポテトも塩、芋と塩だよ芋と塩。いいから炭水化物食っておけと言わんばかりの感じの味わい。
まあな、人間塩と油と糖分イコール美味いって思う生き物だからさ。舌と脳を直接殴るような味に否定的になる事もないか。健康的にはよろしくないだろうけど、たまにならいいだろ。
下手に小洒落て高級な物を食べるより、確実に自宅で再現不可能なチェーン店の味をいただくってのも乙なもんだろう。家でハンバーガーとか作らないよな、だって面倒じゃん。
「──んむ……んむ……」
静かに食べるじゃねえかレイリー。でも口そのものが小さいから、リスみたいな頬の膨らみ方をしてるぞ。これがあざといってヤツか? 意識的にやってはいないだろうからいいんじゃないか。
「あーあーケチャップ付いてんじゃん、ほれ」
「……!?」
「當真……」
「あん?」
えっ、何かやらかした? レイリーの口の端に付いたケチャップを拭っただけじゃんね。
実年齢は俺と同級生ってのはともかくレイリーってさ、結構小さいんだよ。確か自称身長150cmって言ってるけど絶対それより小さい。だから何ていうかね、孤児院に居た頃にさ、自分より小さな保育園の年長とか小学校入りたての子供が居たのを思い出すんだ。
こんな風に飯を頬張っては口とか手を汚してさ。俺も含めた年上の連中が拭いてやるの、懐かしいよ。
「ノスタルジーに浸ってるな」
「……っ!!」
「いててて、いやなんでだよ。痛えって。何で手ぇ抓られてんだよ」
何だコイツら、人が過去に思いを馳せるのもダメなのかよ。そういえばあいつらもガキ扱いし過ぎると怒ってたっけな、所変わっても人ってのは変わらないな。
「レイリーさんが抓っているのは、恐らく當真が考えている理由とは似て非なるものだと思うが……」
「え、マジ?」
そうなのォ? 難しいな、人の心。千差万別ってのはこの事か、どちらかというと人の心じゃなくて乙女心ってヤツはすこぶる難解だぜ。
「呵ァー!!」
今日は朝からカラスがうるせえなあ!!
……いや待てよ。
何でカラスの鳴き声が屋内なのに聞こえるんだ?
誰かカラスを飼っている訳でもあるまいし。というかカラスは普通飼育出来ない、鳥獣保護法で野生の鳥は捕獲してペットにする事はたしか出来ないからだ。
例外としては弱ったカラスを保護した場合、これはすぐに役所に届け出をしなくちゃならない。
あと、とんでもなく珍しいがペットショップで売られている個体。それと狩猟期間に捕獲・保護したヤツ。この三つ以外は原則禁止だ。
かくいう俺も孤児院に居た時、庭で倒れていたカラスを介抱した事があるぜ。数日で体調が治ったらどっか飛んで行ったけどな。ちなみに仮名はカー坊。炭素みたいな名前だな!
「呵呵っ、気付くのが遅い喃」
「……」
「お前はッ……」
「知り合いか?」
明らかにこの世界から浮いている。飄々とした佇まいに高い一本下駄、小さい帽子的な頭襟、括袴と……あの白い綿毛みたいなのをくっつけた篠懸。
修験道といえばコレ! そんなコーディネートを身にまとう、ツラには天狗の赤い面を貼っ付けた何か。最新のファッショントレンドは山伏ルックだったりするのか、いや見た覚えがねえな。
ご丁寧に背中に羽を生やしつつ、だというのに空気の揺らぎも感じさせない身のこなし、これは……たぶんそうだ。いや間違いない。
「……昔助けてやったカラスのカー坊……!?」
「違うわッ!!」
「知り合いじゃないのか」
「誰……?」
あれ、間違ったか。てっきり鶴の恩返しならぬカラスの恩返しが、万に一つくらい可能性があるんじゃないかと思ったんだけど。
しかも何だよ、颯たちの反応を見るに誰の知り合いでも無いんじゃん。服装も含めてアレかな、夏の陽射しに頭をやられてテンション振り切っちゃった人だったりするのか。救急車を呼べ、黄色いのだぞ。
この世にも不思議がそこらからポンポン生えてくる日本で、目の前に居る天狗面を装着してやがる変態は何なんだよ。カラテか? ひょっとして敬称プラスカラテの師匠ポジションなのか?
だとしたら傾いてるねぇ、超カッコイイじゃん。お願いだから近くに引っ越してこないでくれよな。あと誰だか知らねえんだから話しかけんな。師匠ポジどころか俺達は知り合いじゃねえんだから、それがマナーだろ。なんらかの。
「この風貌で気付かぬとは……何たる無学、何たる蒙昧。小僧らよ、吾は悲しい…!」
「でさァ、やっぱりこのシェイクって最初から飲めないと思うんだよ。あのアイスのクーリッツ? もそうだけど、どう考えても吸い込めないじゃん」
「手で溶かせば?」
「手ぇ冷たくなっちゃうじゃんね」
「ポテトを入れる……アイスをディップするという人もいるぞ。甘じょっぱくてちょうどいいそうだ、オレも試した事はない、やってみようか」
「えぇーゲテモノじゃね?」
「ミミズよりはノーマルだろうさ」
「…………うぬら」
「そこの人は普通に食べてるよ」
「いいかレイリー。他の人が何してるかは普通の基準にならねえんだ、特に人種が違うなら文化的にノーマルかどうかは別だぜ」
「喝ッッ!!」
え、なになに。天狗面の何かが急に叫び始めたんだけど。喉に何かが詰まったのか? そういうものをグッと飲み込んでこそ社会性とか大人とかじゃねえの。
面も手伝って大人かどうかわかんないけどさ。でも声は大人っぽいというか年食った人のしゃがれ声だ。ハッキリ喋れよ、何言ってるかわかり難いじゃんね。
「吾を誰と心得る呵あっ」
「不審者」
「変態」
「コスプレイヤー」
「違うッッ!!」
えっ違うのォ?
「吾こそは天下に轟く役優婆塞!」
「役小角か」
「何それ…知らん…怖…」
「誰?」
「修験道の開祖とされてる方だよ、高名な仏僧でありながら大天狗ともされるからこういった服装なんだろう」
「最近の童どもって皆こんな感じなのか? 吾、そろそろブチ切れそうなんだが喃」
「沸点低くね?」
そんなに詳しくないけどさぁ、修験道の開祖っていうならかなり長生きしてるんだろ?
それがこんな子供相手にムキになってちゃダメじゃんね。年の功ってものはどうした。
「そうっ!
遠からんものは音に聴けっ!
近くあらば目にも見よっ!
吾こそは役優婆塞小角、諡号は神変大菩薩。つまり吾メッチャ偉い。ほぼ神仏。わかるか?」
「へー……」
「知ってはいるが、本物とは限らないでしょうに」
「神ならネットに転がってるらしいぜ」
「うぬらマジで? 仏罰でもくだしてやろうか喃」
いや知らんし、悪いが俺は神も仏も否定派だよ。だって民衆を救うんだか何だか知らねえけど、俺のこのザマを見ろよ。人間としてもアレで男としてもアレじゃん、ホースが無くなってんだよホースがよ。
っていうか妙にフランクだなコイツ。変な宗教には関わんなって知り合いの神父も言ってたぞ。
「……で? アンタは何で話しかけてるワケ?」
「うむうむ。素直で良い、そういうのでいいのだそういうので。まったく最近の童ときたら天狗の一つでは驚きもせん、まったく可愛げがない喃」
「いいから本題は何だよ。昼飯食ってる時に知らねえオッサンの与太話なんざ聞きたくねえんだ、こちとら面倒事が立て込んでるってのに」
「か……可愛くないっ、まっっったく可愛くない喃!」
「男だからな。カワイイって言われても嬉しくねえよ」
からかい全部で言ってるんだろうけどさ、女の人が俺みたいなのに向かってカワイイって言ってくる事はあるよ。あるけど、これっぽっちも嬉しくねえよ。
カッコつけ多いですね結構、せめてカッコよくいたいんだよ俺は。
「はぁー……これだから魑魅魍魎が混ざった奴はいかん。まつろう些事が如しよ喃、もっと観客を愉しませねばつまらぬ事この上なしぞ」
「……あん?」
大袈裟に天狗面を横に揺らして首を振る変な奴。やれやれって言いたいのか?
それにしても聞き捨てならないセリフを吐きやがったな。それは俺の身体の事を言ってるのか、それとも…。
「無論どちらも。ああ、後者は隠しておるのだったか。失言、だったか喃? 呵呵呵……」
「その思考の盗聴みてえな薄気味悪い真似は止めとけよ、ダチならまだしも変質者に覗かれる謂れは無え」
「弱い犬程ようく吠る。あいや失敬、犬は童の飼い主か」
「ちょうどいいから一発殴るぜ?」
「呵呵っ」
フードコートを壊す訳にもいかない。でもウチのおやっさんを馬鹿にされてヘラヘラ笑える程大人でもない。
たったの一発、その伸び切った鼻を圧し折ってやる。
───カチッ。
瞬間的な加速。
人成ら不る速度。
助走を捨てた最高速の手前。
即座に立ち上がり、振り抜いた拳が揚々とぶら下がる天狗面に触れる。
ハズ、だった。
「見ゆる見ゆる。所詮は児戯よ喃」
まだ加速は解いていない。音が耳に届く筈がない。それでも確かに、不愉快な声が頭に放り込まれている。
周囲を見ても、だれもが瞬きをしている。
だのに天狗面の何かは飄々とした様子を崩さず、俺の攻撃を緩やかな動きで避けた。
「テメェ…ッ!?」
───カチッ。
遅れていた音が大挙して押し寄せた。
これ以上は拙い、大枚叩いて買った服がダメになる。流石に公衆の面前でストリップショーをする度胸は無いんでね、保護者に連絡が行ったら大変だ。
「くはっ、呵呵呵呵……日の童はまったく素養が無い」
「喧嘩売りに来たのかァ? 今なら食後のデザートで買ってやってもいいぜ、その立派な鼻っ柱を確実に叩き折りたい気分だからよ」
「今の……」
「二人とも、目立つ事はしないでほしいんだが……」
「悪いな。見なかったことにしてくれ、この余裕綽々って感じを凹ましたくなってきたんでさ。もう一発当てればこの態度も消えるか?」
「外しただろう?」
「いいや、当たってるぜ」
「ほおう? 速くも出来ず、当てるも出来ず。何も出来ぬの世迷い言ではあるまいか喃」
「普通に殴ってやるよッ!」
「呵呵……っぬ!?」
天狗と言っても大したことねえな。
さっきの鼻を狙ったのは目眩ましだぜ、本命は他人を見下す馬鹿げた高下駄。ガキはガキでも、こちとら悪童だ。口も悪けりゃ足癖だって悪いのさ。
「歯が折れっ、糞餓鬼っ……」
「鼻を折ってやるよッ!」
一本歯下駄なんて履くべきじゃねえよな。
「そこまで」
「二人とも静かに」
「ぐへぇ!?」
「ぬぐわ!?」
俺の首元にはいつの間にやら細いベルトがかけられていた。レイリーが身に着けていた物なんだが、それをグイッと引っ張られた格好。
オイオイこれじゃあパンクファッションじゃねえの、そんな趣味は無いって。レイリーも大概手癖悪いよな。将来はマジシャンとかどうだ?
天狗面の方は颯にひっくり返されてる。信じられない速さで気配も無くぬるっと近寄って、えー…なんだ。古武術とか合気道的な動きで、天狗面が一回転して地面に叩きつけられた感じだ。
空手の教室にでも通ってんのかな?
「正座」
「ッス……」
「……」
「普通に話をしようか」
「ッス……」
「ぐぬー……」
ヤダァ……!
床に正座させられてるんだけど、俺と天狗野郎が。ストリップショーにはならなかったが、羞恥プレイにはなってるな。どうしてくれんだよ馬鹿天狗。
「あれって……特殊なプレイ?」
「奇特な趣味ねえ」
「ちょっ!」
昼間っから暇を持て余した有閑マダムにある事ない事言われてるんですけど!
俺の品位に関わる問題が正に今、フードコートで起きちまってるんですけど!
「正座」
「ッス……」
レイリー。お前たぶん、旦那を尻に敷くタイプのいい奥さんになれるぜ。
「それで。役小角さんといえば高名な方ですが、オレたちに何かご用ですか?」
「むっ、童なれど礼儀が成っとる喃。儂偉いんじゃよ、颯の坊主に天狗ポイント30!」
絶対そのポイントいらねえだろ。
貯まったらどうなるんだよ、皿でもくれんの?
「生意気な事を考えた小僧はマイナス5!」
「いらねえよ」
どこぞの魔法学校か何か?
最後に年間で優勝したりする?
「ポイントはさておき、役小角さんは何をしに?」
「ううっ…白の童も優しい……!」
「そういうのいいですから」
「ぐぬー……」
レイリー鬼強え!
「お主ら、天狗の神通力って知っとる?」
「神足通・天耳通・他心通・宿命通・天眼通。これで五通、最後に涅槃に至る漏尽通。で合ってますよね」
「颯の坊主は賢い喃! 如何にもその通り。
神足通はこの世の全てを自在に変化し、己の場所すら自由自在。天耳通は全ての音を聞いては聴き分け、他心通は人の心の全てを見通す。天眼通では輪廻転生から近くの行く末を識り。漏尽通は輪廻の輪から外れる解脱そのもの。
故にお主らの全てを知っておるし、その全てを変えるも儂には容易い。朝飯前に拵えた味噌汁で顔を洗うよりも楽なことよ」
「へー…天狗って何かすげえな」
「そうであろうそうであろう。日の童も儂を敬えー?」
無理じゃん?
「聞こえとるからな!?」
「んだよ面倒くせえな……」
アレか。見た事は無いけど妖怪にサトリってのが居るっていうよな、心の声が聞こえるってヤツ。それと同じ感じ? 煩くて大変そうじゃんね。
「まあそんな訳でな、お主らの手助けをしようと思ったのよ。小僧がそんな身体では不便であろう?」
「親切しにきたのかよ!?」
「気紛れじゃ気紛れ。そもそも遠い子孫の知己じゃもん、いつも愉しませて貰っとるし喃。行き掛けの駄賃代わりに助けてやるのも吝かでないと思うておった」
「親切……!」
俺もレイリーもこれにはビックリ。人を揶揄うだけの迷惑天狗かと思いきや、実は優しい天狗だと思わねえじゃん。
いやーすごいなー、あこがれちゃうなー。
「最近は河童のあ奴も楽隠居を決め込みよって。たまには羽を伸ばさぬと退屈で仕方がないので喃」
「喜八のおっちゃんのことか?」
「うむ。妖怪連中も人間も、異種族までも大人し過ぎて儂は暇で暇でどうしたものかと思っておったのよ。
それでこうして足を運んだ訳じゃ喃、ああどっこいしょ……」
「正座」
「ぬう……!」
レイリーさんマジパネえっス。恐らくめっちゃ偉いであろう天狗に正座を強要させてるよ、ウチの探偵事務所の同僚兼クラスメイトは凄いぜ。
「……かといって、タダでその身体を治すのもつまらん」
「あん?」
おっと。雲行きが怪しくなってきたな?
「小僧がどうしてもと言うなら治してやる。が!」
「が?」
「先に言っておくが、小僧には素養が無いので無理じゃよ。颯の坊主か白の童、どちらかでも構わんが儂の弟子にならんか? それが条件じゃよー!」
……それって実質人身売買っていうか、人質じゃん?
ここまで御読了有難う存じます。
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