はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
ちょっと短いです。
何を言われようとも、結論はさして変わらねえよ。
人身御供で助かろうなんて思う程、俺は性根がひん曲がっちゃいないのさ。他の人なら良いって訳でもないけど、特に親友とレイリーじゃあな。比較にすらなんねえよ。
「断固拒否だぜ、天狗のジジイ」
「私はいいけど」
「オレも構わないが」
「呵呵っ、素直でええ喃」
「あれェ!?」
二人はアレかい? 人がキメ顔するのは我慢ならないってタイプだったりするのか。
俺がいい感じのセリフと共に披露した渾身の表情が台無しじゃんね。むしろ恥ずかしいまである。
自分のことなんざさておいて。弟子入りなんてダメに決まってんだろ、相手は訳のわかんねえ自称天狗だぞ。何されんのかわからないじゃん、だって天狗だぞ天狗、何考えてるのか皆目検討つかないタイプの妖怪じゃん。
「ただし。太陽くんが望めばの話ですけど」
「當真が望まないようですから、残念ながら今回のこの話は無しということで」
「……呵呵っ」
毅然とした態度、返答は渇いた笑い声。
都心にあってもだだっ広いショッピングモールの、これまたやけに広いフードコート。我関せずを貫く喫食中の方々を、更に気にするでもないように二人が言い切った。俺の意思を尊重する、ただそれだけのことだっていうのに。
……なんだよ、カッコイイじゃんね。
「やはり勧誘は時間を掛けるか、はたまた弱味を握るしかない喃。いや天晴、その話は引き下がろう」
役小角を名乗る天狗が纏う空気が変容する。正しく雰囲気が和らいだと言うべきだろう、さっきまで軽々と刃物をチラつかせているような、危なっかしい気配が変質していった。
人の瞬きよりも速く殴られようとも回避出来て、尚且つ頭に声を伝達出来る。この二つの事実だけで、天狗を騙る変質者という疑いは消えた。よしんば天狗じゃあなくとも、どうやら隣で仲良く正座させられているのは実力は本物の、名前まで著名でいらっしゃる妖怪らしい。威厳も何もありゃしないけどな。
「しかし、ふむ……」
「まだ何かあんのか、天狗さんよ」
「この場で童の躰に起きた異常を解決出来ぬとなると、お主らにとって厄介な事になる。というあどばいす……助言をしてやろう」
「はァ?」
「ほら、儂天狗じゃもん。そういうのわかっちゃうんで喃、まっそれもまた善しか! 呵呵っ!」
「先に言えよ、そういうの……」
「では撤回するか?」
「しねえよッ!」
昔の武将は、艱難辛苦を我に与えたまえ、なんて言っていたらしいけど別にいらねえよ。だって平穏無事が一番じゃんね。
だとしても、その対価が他人だっていうならまったく興味も湧かねえけどな。絶対に後悔するし、何より後味が悪い。一度でも他人に責を渡したら何回でも繰り返しそうじゃん、常習犯になりたく無いんだよ。普通に生きていきたいんだっての、こっちは。
「ま、ま、まぁー……それじゃあこの話は終わりだ喃。見えた通りというのも、かえって面映い。
よォし! ここで一杯茶が怖い! 淋代の坊主、熱い銑鉄はどこで呑めるか喃!」
「昨今の多様性から鑑みても融けた鉄は流石に売ってませんね。溶鉱炉にでも案内しましょうか?」
「呵ァー! 使えねー! 多様性使えねー!」
「この天狗黙らせた方がよくねえか」
「睨まれるかも知れないな、何かに」
「こらっ」
「ぐえー!」
「いででで! ちょ、俺まで縛ってるんだって!」
どこからともなく音も無く取り出した、テグスらしき透明な糸で妙ちきりん天狗をぐるりと縛って。それをちょいと引き絞る女子高校生、いやぁレイリーは頼りになるなァ。変な事をするのに手慣れ過ぎだろ、俺にまで絡んでる糸が食い込んで普通に痛いんだっての。
「絶景……!」
「レイリーは何に感動してんだよ」
「白い娘っ子もいい趣味しとる喃」
「人前では控えた方がいいと思いますがね」
「何の話してんだ……?」
「そのちょっと助平な現状を見てみるが良い、儂としても中々アリ。だって天狗じゃもん!」
「はぁ……はァ?」
助平?
何が?
普通に身体が糸でグルグル巻きにされてるだけじゃんね、何だよこの天狗。もしかしてそういう趣味か、男相手でも取り敢えず縛られてれば興奮するタイプか。
「イィヨーォ! 無自覚ってのもたまらぬ喃!」
「歌舞伎かよオメー……」
「……説明する?」
「やめておこう。大変なことになるのが目に見えてる」
「そうだね」
「ところで……その、さっきまで嫉妬したりとかはしてなかったかい。オレはてっきり、うらやんでいるように見えていたんだけどね」
「女子も大きいのが好きだよ」
「……そうか」
二人はコソコソと何の話してんだよ。
身長の話だったりする?
結構聞くよな、女子は女子で身長高いとモデルみたいだから憧れるって。こんなナリになっても身長が大して変わらなかったのは幸か不幸か。手足とか歩幅の感覚が狂わなかっただけ幸運かね、またリハビリをする羽目になったら大変だからさ。
それにしても天狗野郎がじっと見てくるな。仮面で視線まではわからねえけど、面が俺の方にずっと向いてるんだよ。その無駄に長い鼻がぶつかったらどうしてくれんだ、本気でへし折るぞこの野郎。
「やはりな。遠見で助平を見るのと、間近で見やるのは違うんじゃよ。臨場感が違う、やはり時代はぶいあーる……そうは思いつつも感触や匂いはまだ遠い。何より儂はまだぶいあーるを楽しめておらぬで喃」
「何かコイツ気持ち悪い事言ってねえか?」
「しかしねぇ……儂の家には未だ電気が通っていないのだから……」
「お前何しに来たんだよマジで」
何なんだろうね、天狗ってひょっとしてキモい何かだったりするのか?
さっきナントカ通って説明してたけど、そのうちの一つに解脱って言ってたよな。どこが解脱だよ、煩悩まみれじゃねえか、現実の坊さんと変わんねえじゃん。これ言ったら怒られるな。
あと、今さっき思ったんだけどさ。この……役小角? 何か言葉の端々が風間とかナイトウに似てないか。絶妙にちょっと触れない方がいいオーラが滲んでるっていうか、揮発してるオタク濃度が高いっていうか。
「応、月見里の小童は儂の遠縁で喃。近々電気が通るのでな、小遣いでもやる序でに儂の家でぶいあーる機器の接続を頼もうかと思っておったのよ」
「俗物ゥ〜……」
「年寄りには優しくせぬか!」
「そういうのは自分から言うもんじゃねえよ!」
図々しい、ひたすらに図々しいぜ。
やっぱり人間、幾つになっても謙虚さが必要だろ。卑怯な忍者より謙虚なナイト、ナイトウもそう言ってた、ややこしいな。
ところで相手は天狗なんだけど、この理屈は適用される? されない?
「…ま、よいか。
幾つか用事があったのは真、あくまでお主らとは序でよ。だが……そうさな、連中も最近は目に余るか。
よし、ここは一つ。この親切な天狗様こと吾、役小角が二つ知識を授けようぞ」
「いやいらねえって。対価を要求されるのは嫌だし、タダだとしても不気味ったらないじゃんね」
「ではまず、ひとォつ!」
「お前も人の話聞かない族かよォ!」
他にはフォンセルランドさん、レイリー、安房さんが人の話聞かない族に分類不能される。
すげえ、全員女子じゃん。占いとか信じないけど、俺って女難の相があったりするんじゃなかろうか。
「まず小僧。お主はわからぬようだが。
そのままだと取り返しがつかなくなるぞ」
「……どういう意味で言ってんだ?」
「やはり知らぬか……仕方なし、説明してやろう」
室内だっていうのに、強い風が吹いた瞬間。隣で俺と同じく正座させられていた天狗が、拘束を抜け出して透明な飲み物用のカップを片手に椅子に座っていた。
「人間をこの杯だとして。最初から容量は満ち満ちておる、そやつの心情や内面という名の温度・色・内容物は出会いや別れ、出来事如何によって時折に千変万化。それが人生なるものよ」
「…………」
隣で起きた摩訶不思議は一先ず棚に上げておこう。
ふざけて緩んだ空気から、さっきよりは棘はなくとも真面目な雰囲気を漂わせて天狗が続けた。
「しかしな、その『噂』なるものは勝手が違う。
誰かに罵詈雑言や呪詛でも吐かれて、いずれ弱り逝くのとはまったく理由が違う。
器そのものが変質する。あるいは、満量入った杯に氷でも入れるが如しよ。元の何かは薄まり、溢るるば消える、以前の形と変わってしまわば、そっくりそのまま全て手遅れよ」
「それが手後れになる前が『混じり』ってコトかよ?」
「如何にも。太陽の、お主はそうなっておる。
これを放置すれば、後はわかろう?」
最悪の事態。いくつも見てきた結末。
それが自分の身に起ころうとしている。
「俺は最初から女だった、って事になるのか」
「然様」
「サヨウじゃねえんだよ、左様じゃ……」
そうは言っても、だ。
俺は特段気にしていない、元の体も含めてどうなろうが実の所どうでもいい。結局体は改造されたままであることに変わりが無いなら、大した違いは無いだろ。
「いいや変わる。それも大いに」
「んな訳ねえだろ、っていうか頭を覗くんじゃねえよ」
「まずその体であったとするなら『邪視』にやられる。次に新参の……ああ『八尺様』だったか、あの顛末も更に悲惨な事になろうて。
そして、そこな白い娘も、賢い坊主も。孤独なまま息絶えるか、化生となるかだ。因果が捻れる、ということだ喃」
「それもお得意の天狗の力か? 好き勝手言いやがって」
「されど、そうなる。ゆく川の流れは絶えずして、と言うが時の河の一滴も見落とさぬは吾ぞ?
儂ってば天狗に於いて最高だから喃」
有無を言わさぬ視線が、天狗面の奥から射貫いてくる。どう見えているのかは知らないが、他人の運命が見えるというのはハッタリじゃないらしい。それが確信出来る程度には本気の圧力がある。
「これが一つめ。手掛かりとして言っておこう、そこな坊主が解決の鍵じゃ。思い当たる節もあろう?」
「……ええ、まあ」
「聡い喃、淋代。やはりお主が天狗にならぬのは惜しい」
いつの間にか、天狗が手にしていた透明なカップが銀色の水に満たされていた。
それを一息啜ってから、また話を続ける。
絶対マトモな飲み物じゃねえな。
「白い娘……れいりいと言ったか」
「……はい」
「魔の娘でありながら、良い眼を持っておる喃。お主にも助言をやろう、だが大したものではないぞ?
過去を思い出せ、お主が独りになった由縁を。
それだけじゃよー、呵呵っ」
「……それは、どういう」
「望めば与えられる物ばかりでもあるまい。なぁに、わからねば悲惨が待つのみよ。正直、お主が一番天狗の才覚があるので喃。思い出せずとも良いぞ! 天狗としてすかうとしよう!」
レイリーに脅しと勧誘をしてんじゃねえよ。
本気で殴るぞ、このクソ天狗。
「呵呵っ、怖や怖や。最後に一つ」
「話が長えよ……俺は足が痺れてきてんだぜ」
「頑張って」
「レイリーがこの糸を解いてくれればいいんだけど!?」
「太陽の、お主の敵を見せてやる」
「……あ?」
「ほれ。よっと」
「あっ……!」
天狗の軽い掛け声と共に、真っ直ぐ立てた人差し指が宙を縦一文字に撫でたと思えば。
ぷつり。
なんて緊張感の無い音と同時に、俺を縛っていた糸がバラバラに両断されていた。なるほどね、さっき俺に殴られそうになってたのも、実は本気じゃなかったって事か。ちょっとムカつくな、余裕ぶりやがって。
ちなみに、あ、って言ったのはレイリーだ。糸って丈夫な物ほど高いらしいぜ、後で天狗に弁償してもらえよ! 俺は払えないかもしれないからダメだぞ!
「丁度時間だ喃。どうれ二人とも、ちとこやつを借りて行くぞ。なに一刻も要らぬ、そう睨むでないわ」
「今日はこんなんばっかだけどさァ、俺に拒否権があるんじゃねえの普通。少なくとも俺の所有権は俺にあるじゃん、何か哲学的だなオイ」
「往くぞー」
「あ、無視? 昔から老いては子に従えって言うじゃん、ちょっとは若者の声に耳を傾けるべきだって思ォ!?」
考えないでは無いんだけどさ。結構皆、俺の扱いが雑じゃない? そろそろキレ散らかしても罪に問われないと思うんだよね。
改造人間にも人権はあるんだぞ!!
ここまで御読了有難う存じます。
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