引き金を引かないことを。
「ダメよ、そんなのダメ。たとえ誰もいなくても、死ぬなんて……ダメ」
そう言ってアルが銃を離すと、彼女は穏やかに笑った。
「そうよね、私なら、そう言うわよね……分かっていたわ。そしてその言葉も、あくまで自分が引き金を引けなかった言い訳に過ぎない」
彼女は歪へと手を入れ、カヨコの拳銃を取り出した。
「生粋の善人である私は、人殺しなんてできない。やっぱり、私は私。変わらないわね……便利屋の皆のこと、お願いね」
「えっ?」
アルが止めに入る前に、彼女は自身のこめかみに拳銃を当て、躊躇うことなく引き金を引いた。しかし、拳銃の威力では足りないのか、すぐに彼女は倒れない。
「痛いわねぇ」
二発、三発と苦悶の表情を浮かべながら、彼女は自身の頭に銃弾を叩きつけた。
「あ、あぁっ!」
彼女の表情をただ見つめながら、アルは悲鳴を上げる。
五発目でようやく、引き金を引く手が止まり、どさっと彼女の身体は地面へと倒れた。それと同時に体の光は消え、先生を囲っていた膜が消え去った。
「アルッ!」
膜が消えると、先生は勢いよく走りだし、アルを抱きしめる。彼女の身体が目に入らないよう、アルの頭を自身の胸へと埋めさせる。
「せ、せんせい……わ、わたし……彼女を、たすけ、たくて……それで……それで」
「うん、分かってる」
「近くにいたのに、とめ、られたはず……なのに!」
嗚咽と、引きつった悲鳴が、先生の耳へと届く。
「わ、私……人を、人を……!」
「違う、彼女はアルが殺したんじゃない、アルのせいじゃない。大丈夫、大丈夫だから……」
全身から力が抜けたアルを抱きかかえながら、先生はそっと頭を撫で続けた。「大丈夫」「大丈夫」と何度も繰り返しながら。
♦
その後、アル・テラーの遺体はシャーレの土地に埋められた。墓石には、何も書かれてはいないが、真っ赤にさびれたワインレッドアーマーが側に立てかけられている。
今回の事件に関わった生徒には口外禁止を厳命し、秘匿することになった。おかげでキヴォトスは、今日も何の変哲もない一日が過ぎる。そして、これからもきっと。
だが、ただ一つ変わってしまったこともあった。
「アルちゃん、今日も一人で言ってきたの?」
「ええ、ちょっとしたお使い程度の依頼だったから、私一人で十分よ」
「でも、社長ボロボロだよ?」
「そ、そうですよ! 私、アル様の弾避けぐらいにはなりますから……」
「大丈夫、私は社長だから。この程度なんともないわ」
アルはあれ以来、感情の起伏が小さくなった。それこそ、アルが思い描いた冷徹なアウトローの姿へと変わっていった。仕事の達成率も上昇し、売り上げも伸びて行った。
だが、アルはあの時決断できなかったことを悔やみ。こんな自分では、本当に便利屋を失ってしまうかもしれないと恐怖した。だから鍛錬を重ね、勉強を続け、便利屋の皆を守れるようになろうと、狂気とまで言われかねない激務へと身を投じていった。
以前までとは大きく変わってしまったアルのことを不安に思いつつも、便利屋は今日も行く。本物のアウトローを目指して。陸八魔アルは今日も生きる。便利屋の皆を守るために。
【アルEND:アウトローを目指した少女はヴィラネスになるのか?】