なによりも、しあわせな夢を。
あの子と久々に話せたのかもしれない。
そんな気がする。
…あの日は、本当にいつも通りの一日だったはずです。
いつものようにシャーレの業務をこなして、
キヴォトスの様々な学校で”先生”として、「仕事」をしていましたよ。
たしかあれは、トリニティでの出来事だったはずです。
…もう、思い出したくもないですけどね。
まあ、うん。いくらあそこがお嬢様学校と声高に叫んでも、
ここは学園都市キヴォトスの一部だ。
遙か太古の神秘が衰えることなく顕現している箱庭であり、楽園だ。
そして、『先生』としてこの箱庭に来て
しまった以上は『先生』としての責任と義務を果たさねばならない。
そういう『約束」だ。
今はたしか、正義実現委員会とシャーレの
合同パトロールの規模を決めるために、
トリニティの正義実現委員会の本部へと向かっている最中だ。
トリニティの自治区に入ると、程なくして
案内役であろう人物が来た。
正実の黒い制服を着こなしている、
青と赤の髪色のロングヘアーが、とても素敵な
女の子だ。
「お待ちしてました!先生!」
”?…私と君、初対面だよね?”
「…はい!初めまして、ですね…。」
…初対面ではないのか?一応これでも
先生として、シャーレと関わりの
ある子の名前は、全て覚えているはずなのだが…?
”まあ、いいか。それじゃ、案内よろしくね。”
「はい!このスーp…、いえ!私におまかせください!」
”?…うん。よろしくね”
”ねえ、一ついいかな?”
「はい!なんですか?先生!私が何でも答えてあげますよ!」
”君と私、何処かで会ったこと、ない?”
「…いえ、ありませんよ。今日が、初対面…です。」
”そっかあ…何処かで会った事があると思ったんだけどなぁ…”
「(私のせい。私のせいだ。私のせいであの人が
”ああなって”しまった。 自業自得なのはわかってる。
あの人に押し付けてしまったのは私だ。
分かってるから……わかってるから…もう一度だけ。
あと一回だけでいいから…恥知らずと言われても仕方ないけれど…
私のこと、名前で呼んでほしいな…。あの時みたいに、頭、なでなでしてほしいなぁ…)」
”ねえ、大丈夫?”
「(そうだよね。私の事、覚えてるはずないよね…だって私が…)」
”大丈夫? アr…じゃなかった。「 」?”
「…ッ!は、い。大丈夫…ですよ。大丈夫…です。」
”もし具合が悪いようなら近くの病院に…”
「いえいえ!大丈夫です。ほんとに大丈夫ですから!
さあ、あと少しで正義実現委員会の本部ですよ!」
”(本当に大丈夫かな…?)”
”…うん。ここまで案内してくれてありがとう。”
「いえいえ!これくらい、お易い御用ですよ!
また何かあったら、いつでも呼んでくださいね!」
”うん。何かあったら呼ばせてもらうよ。”
「…はい。ずっとお待ちしてますね!先生!」
少し、いや、なぜか興奮してたみたいだけど、
優しい子だったな。それに、何処か懐かしい感じがした。
すごくあたたかくて、それでいて安心するような…。
それでいて、心が踊り出しそうになるくらい楽しかった。
また、会えるといいな。
そう思いながら正義実現委員会の本部に歩みを進めた瞬間、
凄まじい爆発と同時に、私の視界が真っ赤になった。
ああ、また襲われたのか。近頃はあまりこういった事は
なかったのだけれど。
まぁ、A.R.O.N.Aがバリアを張ってくれたから効かないが。
ホント、A.R.O.N.Aちゃん様々である。
下手人は誰だろう?心当たりはいくつかある。
あの現実とTRPG の区別もつけられない爆撃厨の仕業か、
忌々しいカイザーの関係者か。
いや違う!今はそんな事はどうでもいい!
あの子はどうなった!無事なのか!?
「_____え?」
爆発!?何で…!今の時期なら、何処の
勢力にも先生は狙われてないはず!
何で!?どうして!?
いや違う!そんなことは今どうでもいい!
「せん、せい!…先生!!先生!!!」
”私なら無事だよ。大丈夫!”
”君は大丈夫!? 今のに巻き込まれなかったよね!?”
そうだ。あの人には私が託した「箱」があった。
あれなら…!
「無事何ですね!?先生!
今助けに_」
あの子がそう言った瞬間、
二回目の爆発が起きた。
たぶん、予め設置されていた
地雷か何かを踏んでしまったのだろう。
「…っ!」
また爆発だ…!どうして正実の本部前に、対戦車用の地雷が!?
何で!?どうして!!
まずい!あの規模の爆発が連続で来るとなると、
今の”A.R.O.N.A”の性能だと……!
何度も見た終着点の記憶が走馬灯のように蘇る。
ああ、嫌だ。あんな光景はもう、絶対に見たくない。
まずいまずいまずい!このままだと先生が…!
…流石に、今のはA.R.O.N.Aでも
完全には防ぎきれなかったみたいだ。
まだ体の感覚はあるが、右腕と左足の感覚がない。
焼けるような感覚はあるのになぜか
痛みだけはなかった。
あの子の無事を確認する為に、声が聞こえた方角を確認すると、
私が着ていたスーツの破片と一緒に、
私の
ヒトの手と足だったナニカが、
転がっていた。
ソレを認識した瞬間、
頭が、めのまえがあかくなった。
地面をのたうち回りたくなるような
痛みが全身を駆けずりまわっている。
「グ、ア…!」
痛
痛
痛
痛
痛
痛iア
痛ィ
痛ァイ
痛アi
痛痛
痛いィ痛イ
痛痛痛いい痛痛痛痛い痛い痛い痛い!
痛覚一色になった神経を無理やり
押さえつけて、カラダを前に進める。
進めなければならない。まだあの子がいる。
あの子もこの爆発に巻き込まれてるはずだ。
無事ではあったみたいだけど
いくらヘイローがあったとしてもあの規模の爆発だと…!
動け!あの子の場所へ、この肉体が使い物にならなくなっても、
死んでもあの子は助けろ!
「先生!!!!!!」
ああ、まただ。もう嫌だ。
今回も護ってあげられなかった。
あの人が私の方にボロボロになりながら、
私の方に向かってきている。あの人の右腕から先が、
無くなっている。
左足もだ。根元から吹き飛んでしまったのか、赤黒い血が、勢いよく
飛び出し続けている。
それに加え、左目のあたりは、痛々しい程の火傷を負っている。
…正直今にでも発狂してしまいそうだ。
本来あるべきものが、
なくてはならないあの人の命が、今も流れ続けている。
私の大好きで、愛おしくてたまらない、あの人の体が欠けてしまった。
…嫌だ。もう、本当にあんな光景は嫌だ。見たくない。
どうして、なんで、私はあの人を、
護ってあげられないんだろう。
守りきれないんだろう。
幸せに、してあげられないんだろう。
前回の時は、もう私一人じゃどうしようもなかった。
私一人だと何をどうしても、あの条約近くで
歪みが生まれてしまう。
未来がねじれてしまう。
あの人が、わたしの目の前からいなくなってしまう。
だから、先生を守り切れるようにと、
あの箱を作った。
私という存在を半分、文字通り「削って」作った。
あれなら私の目が届かないような
事態になっても、護りきって、支え切れるようにと、
私が本気で作ったものだ。
これなら、私が眼を離そうと
キヴォトスの治安でも、1日くらいなら大丈夫という自信作だった。
ただ、箱を作った代償として私は
「連邦生徒会長」として認識されなく
なってしまった。
別にそれ自体はどうでもよかった。
「超人」やらなんやら知らないけど、
こんな小娘には重すぎる期待だから。
本当に辛かったのは、”先生”やリンちゃんに
わたしとして、認識されなくなる事だった。
いや、認識はされるのだけれど、
あくまでただの、どこにでもいるただの一生徒としての扱いにしか、
なりえなかった。
もう、リンちゃんとキヴォトスの激務を
捌きながらくだらない話をすることも、
先生と一緒に色々な学校の問題を解決する事も、
あの人のあたたかさを感じることも。
もう、できなくなってしまった。
そこまでしたのに、がんばったのに、
リンちゃんとも話せなくなったのに、
先生にほめてもらうことも出来なくなったのに、
今回もダメだった。あの人に、また
取り返しのつかない事をしてしまった。
あの時、先生が
”私も「 」に、ついていくよ。”って、
そう言ってくれたの、
とってもうれしかったんですよ?
どうしようもないくらい心があたたかくなって、
このまま死んでもいいと思えた位に、うれしかったんです。
だから、おねがいですから、おねがいだから。
「もう死なないでよぉ…!お願いだから、何でもするから…!
ひとりにしないでよ…!…せんせぇ…!!!」
あの人の、せんせいの瞳から明かりが
薄れてく、消えていく。
せんせいの、体から、熱が、あたたかさが、
なくなっていく。
先生が持ってきてくれた『奇跡』の
権能は、先生自身には使えない。あの人が生徒と認識する人物にしか
干渉できない。そういうルールが、いつの間にか作られていたようだった。
そういった「契約」を結んで、裏技じみた方法をたくさん使って、
ありったけの『奇跡』を持ち込んだと。
先生は、キヴォトスに帰る旅の途中に、
そう自慢げに教えてくれた。
何が『奇跡』だ。何が「契約」だ。
あの人が死にかけてる時に何の役にもたたない
モノになんの価値もない。
そしてあの人を、護れなかった私はソレ以下だ。
ああ、なんで私はあの人に助けを
求めてしまったんだろう。あの人には
あの人なりの幸せがあって、その幸せを捨ててまで、
こんな救いのない世界に来てくれたのに。
本当に、どうして…
わたしは…なんのために…
先生をこんな目に合わせたのは、
わたしだ。
わたしなんていなければよかった。
少しでもいいからと、先生のあたたかさにふれていたかったからって、
半分なんで言わずに、私の全てをあの箱に放り込めば良かった。
そうしたら先生を護れたはずだ。
あの人にあんな傷を負わせることもなかった筈だ。
私が関わったせいでこうなった。
私はもう、この箱庭には必要ない。
あの庭は、私が居なくとも機能する。私を「削る」前に、
そういう形になるように調整したから。
必要なのは、あの人だけだったんだ。
もう、今の先生はたすけられない。
「次」には行ける。でも、仮に行ったとしても、
意味が無い。私がいくらがんばっても、この世界の終着点は
変わらなかったし、それにもう、疲れてしまった。
何より、もう、
せんせいのあんなすがたはみたくない。
あのひとが幸せになれるはずだった時間を、もう奪いたくない。
最期に先生の体を抱きしめる。
あの人は、最期まで私の方に向かって来ていたらしい。
こんな私にはもったいないほど素敵な人を、
もう数え切れないほど殺してしまった私には、
価値なんてない。あってはならない。
せんせいが、軽くなっていく。からだも、
まっかな血も、『奇跡』も、わたしが大好きなあのあたたかさも、
その全てが解けて、軽くなっていく。
「先生、ごめんなさい。本当に、本当にごめんなさい…。
私がいたから、私が生まれてしまったから、こんなことになったんです。」
「全部、なかったことにします。私と先生が会ったことも、
このキヴォトスにあなたを呼んでしまったことも、
せんせいが幸せになれるはずだった時間を奪ってしまったことも…!
あなたに苦しい想いをさせて、
幸せにしてあげられなくて、本当に、本当にごめんなさい…!」
「そして、どうかこんな碌でもない女の子のことは忘れてください。」
ああでも、最期に、おこがましいと思われるかもしれませんが、
どうか、一つだけ祈らせてください。
どうか、どうかお願いですから。
あなたが、いつまでもしあわせに、笑っていられますように。
「おやすみなさい…。
おやすみなさい、せんせい。
ずっと、ずっと、大好きです。愛してます。」
ねえ、アロナ?連邦生徒会長は何処に失踪したと思う?
ねぇねぇアロナ?一体あの子はどこに行ったんだろうねアロナ?
アロナも気になるよね、アロナ?
あの子に会って是非とも話をしてみたいよねアロナ?
アロナもそう思うよねアロナ?
どうして、私から目を逸らしているのかなアロナ?
どうしたの、アロナ?そんな気まずそうな表情をして?
どうしたんだい、アロナ?
私はただ、あの子と話がしたいだけだよアロナ?
でもまぁ、ちゃんと待つよ。ちゃんと待つからさ。
いつか、あの子には、私の隣に帰ってきてほしいよねアロナ。
アロナもそう思うよね?アロナ?
そう思ってくれてたら、いいなあ。
いつまでも、また会えるのを心待ちにしてるから。
だからさ、早く帰ってきてね。「 」。