Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX-   作:LN58

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EP17 虚構と現実に揺れるココロ -Ⅰ.招かれざる客-

 

 

学園都市:キヴォトスのハザードマップを完成するために史上最大の軍事力【キヴォトス防衛軍】が総力を上げて遂行しているアビドス遠征も未調査領域が半分を切ったことで終わりが見えてきた。

 

そのため、怪獣無法地帯となった不毛の大地:アビドス砂漠にも新しいものが生まれていく希望が芽生えたことにより投資が盛んとなり、同時にかつては【カイザーコーポレーション】が借金漬けにしたことで【アビドス生徒会】から買い叩いた土地の利用に関する取引が盛んになっていた。

 

そして、怪獣無法地帯となってしまったアビドス砂漠の非常事態宣言の全面解除と同時に人類が苦難を乗り越えた勝利宣言を近い将来に“アビドス砂祭り”として復活させる段取りが組まれることになり、“大オアシス”跡地での3回目の移動遊園地(funfair):リトルプラネットの開園を目指して各勢力が今後を見据えて活発に動き始めることとなったのである。

 

学園都市:キヴォトスに住む誰もが北条先生が率いる【キヴォトス防衛軍】の勝利を確信しており、もう間もなく怪獣無法地帯の征服事業の完遂という偉業が達成される瞬間を心待ちにしていたのである。

 

それに備えて各方面での利害関係の調整が行われる中、アビドス砂漠に隣接する【アビドス高等学校】との交渉は避けては通れないものとなっていた。

 

そんな中、2年間の記憶を失ってしまった【アビドス生徒会】副会長:小鳥遊 ホシノは 2年間 共に歩んでくれた【アビドス廃校対策委員会】の可愛い後輩たちの距離感に悩まされながらも、2年前からの知り合いである戦場カメラマン:姫矢 ジュンに支えられながら最初の会議に臨むのであった――――――。

 

 

 

橘 ノゾミ「入場、からの勝利のポーズ!」

 

橘 ヒカリ「ここ、狭くない? どこに座れば良いのさ?」

 

朝霧 スオウ「勝手に動き回るな。まずは挨拶ということで、会議場は別の部屋だぞ」

 

朝霧 スオウ「というわけだ。今日のところは砂漠横断鉄道を含めた権利関係の整理を行う。会議場に案内してくれ」

 

奥空 アヤネ「はい、アビドス遠征が完遂された後のより良い未来のために建設的な会議にしましょう」

 

十六夜 ノノミ「………………」

 

ネフティス幹部「…………お嬢様」

 

十六夜 ノノミ「みなさん、こちらです」

 

小鳥遊 ホシノ「………………」

 

戦場カメラマン「…………ホシノ」

 

小鳥遊 ホシノ「あ、大丈夫ですよ、姫矢さん。これからのことは私の自慢の後輩たちが良い方向に持っていきますから」

 

小鳥遊 ホシノ「私はそれが実現されるのを手伝うだけだから」

 

戦場カメラマン「そうか」

 

小鳥遊 ホシノ「そうですよ。今まで見向きもされてこなかった見捨てられた土地に来客が増えることは歓迎スべきことなんですから」

 

 

ロボット職員「それでは みなさん 席に着きましたね。この会議は【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】の立会の下に行われます」

 

 

ロボット職員「こちら側が【アビドス高等学校】の生徒たち;【アビドス生徒会】の実質的な後継組織として公認生徒会活動への昇格を目指している公認部活動【アビドス高等学校廃校対策委員会】のみなさんであり、【アビドス生徒会】副会長:小鳥遊 ホシノさんが代表です」

 

小鳥遊 ホシノ「よろしくお願いします。小鳥遊 ホシノです」

 

ロボット職員「対しまして、【ハイランダー鉄道学園】並びに【セイント・ネフティス】の方々となります。【カイザーコーポレーション】の債権を買収するために募った【プライベートファンド】の方々も参加となります」

 

質屋連合長「……はあ、随分と待たせてくれましたね」

 

私債労働組合長「なるほど、これが“シャーレの先生”の手によって新生した【アビドス】というわけですか。砂一つない砂漠の街に本当に生まれ変わったというのは実に素晴らしい」

 

債権者団体の代表「はじめまして。私たちは今回の事業に投資した集団の責任者です。その中でも私が債権者団体の代表を務めております。どうぞ、以後お見知りおきを」

 

奥空 アヤネ「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

黒見 セリカ「確認するけど、あなたたちは【ネフティス】の人間じゃないのよね?」

 

債権者団体の代表「ええ、【ネフティス】が債権を買収したという認識については仰る通り。その結果として、砂漠横断鉄道の権利を確保したわけですから」

 

質屋連合長「ただ、買収資金の全てを【ネフティス】が出したわけではありません」

 

十六夜 ノノミ「そこで足りない分の資金を調達するために【プライベートファンド】を募ったわけですね」

 

戦場カメラマン「いったいどれだけの額を【カイザーコーポレーション】に吹っ掛けられたのだろうな?」

 

ネフティス幹部「………………」

 

戦場カメラマン「提出された【プライベートファンド】の参加名簿を見ると、押収品競売組合に、ゼラチングミ商事、タヌキダイスキ工業などなど……」

 

黒見 セリカ「名前からして怪しいやつらばっかじゃない……」

 

質屋連合長「………………!」コホン!

 

債権者団体の代表「否定はしませんよ。元々は私もブラックマーケットで盗品を扱っていましたし」

 

債権者団体の代表「だからこそ、【ネフティス】の名で債権を購入したのです。あまり表に顔を晒すわけにはいきませんから」

 

小鳥遊 ホシノ「へえ、そうなんですか」ジロッ ――――――ネフティス幹部の方に視線を向ける。

 

砂狼 シロコ「……【アビドス】を捨てた【ネフティス】って経営は安泰だって思っていたんだけど、別にそうでもない感じなんだ」ジロッ ――――――ネフティス幹部の方に視線を向ける。

 

ネフティス幹部「………………うぅ」

 

 

ロボット職員「では、【アビドス】側は生徒会活動を代行する公認部活動であることの証書を、【ネフティス】側は債権者であることを証明できるものを提示してください」

 

 

私債労働組合長「高い金を払っているというのに疑われるというのはあまり気分が良いものではないが……」

 

質屋連合長「不愉快極まりない話だが、得られるものの大きさを考えれば、これぐらいのことはな……」

 

債権者団体の代表「では、こちらが【カイザーコーポレーション】から【セイント・ネフティス】へと移された債権証書となります」

 

小鳥遊 ホシノ「どうぞ、ガリバーさん。こちらが【アビドス対策委員会】が【アビドス生徒会】の業務代行をすることを記した公正証書です」

 

ロボット職員「ありがとうございます。では、両者から渡された証明書はスキャンして不審な点がないかを精査すると同時に、会議中はスクリーンに拡大表示しておきますので、手元の端末でいつでも確認してください」

 

橘 ヒカリ「へえ、あっちで大きい画面に移しながら、この端末で資料をいつでも確認できるようにできているんだ」

 

橘 ノゾミ「すごい便利かも。用意されたお菓子も美味しいし」

 

朝霧 スオウ「そうだな。触ってみた感じ、直感的な操作で非常にわかりやすいインターフェイスで、このまま持ち帰りたいぐらいだ」

 

ロボット職員「そうなんですよ。これも北条先生が監修した専用の会議アプリを入れて最適化した会議用モバイルモニターでして、会議を有意義に進めるためのノウハウをキヴォトス中に広めるために安価で使いやすいモデルをみなさんに触ってもらっています」

 

債権者団体の代表「なかなか良いものですね。さすがは“シャーレの先生”と言ったところですね」

 

質屋連合長「まさに“シャーレの先生”は振れば大判小判が現れる打ち出の小槌ですな」

 

私債労働組合長「その一端に触れることができただけでも来た価値はあったというもの」

 

 

ロボット職員「では、互いに提示した証書が本物であることの合意が取れたので、まずは会議の開催を依頼した【ネフティス】側から話を進めてください」

 

 

債権者団体の代表「私たちが 今回 会議を開催した理由は、とあるご相談のためです」

 

十六夜 ノノミ「――――――砂漠横断鉄道について、ですね」

 

ネフティス幹部「………………」

 

債権者団体の代表「……なるほど、ある程度はこちらの事情を把握しているのですね?」

 

債権者団体の代表「この際、はっきり申し上げましょう。私たちの目的は砂漠横断鉄道の全権利を手に入れることです」

 

私債労働組合長「ええ、そのために【プライベートファンド】が生まれました」

 

債権者団体の代表「だからこそ、あれだけのお金を出して【カイザーコーポレーション】から債権を買ったのです」

 

戦場カメラマン「だが、経営破綻したからこそ【アビドス】を捨てることになったのが【セイント・ネフティス】なんだぞ? 成功していたら【プライベートファンド】に利益を分け与えるような真似なんてするはずがないとは思わないか?」

 

戦場カメラマン「上手い話には必ず裏があるわけだが、お前たち【プライベートファンド】はいったい【セイント・ネフティス】に何を吹き込まれた?」

 

質屋連合長「むむむ!」

 

十六夜 ノノミ「その辺りはいったいどういうことになっているのでしょうか、執事さん?」ニッコリ

 

ネフティス幹部「……お嬢様」

 

小鳥遊 ホシノ「ノノミさん、本題から話が逸れているから、そこまでにしておいてください」

 

十六夜 ノノミ「わかりました、ホシノ先輩」

 

小鳥遊 ホシノ「さあ、続けてください。私たちに『ご相談』って何ですか?」

 

債権者団体の代表「では、私たちは砂漠横断鉄道の全権利を手に入れるために債権を買ったわけでして、鉄道の開発権利はすでにこちらのものになっていることはお認めになってください」

 

債権者団体の代表「ですので、アビドス自治区での砂漠横断鉄道の再開発を行う権利が我々にはあるのです」

 

十六夜 ノノミ「本当にどういうつもりで砂漠横断鉄道なんてものを掘り起こす気になったんですか、執事さん?」

 

ネフティス幹部「それは、なんと申し上げたら良いものか……」

 

債権者団体の代表「お気持ちはわかりますよ、ネフティスのご令嬢」

 

債権者団体の代表「砂漠横断鉄道の名を聞いて あまり良い気持ちではないでしょう。あれのせいで【アビドス】の衰退は加速したのですから」

 

十六夜 ノノミ「そうです。あれは最初から間違っていたんです。砂漠化が進み続ける自治区で巨大な交通インフラを建設するなんて」

 

戦場カメラマン「現在の【アビドス】は交通の要所でもなければ、売り物になる地下資源や特産品だって存在しない。そんな場所に交通網を広げることの無意味さを地域経済を牛耳っていた地元の大企業が理解していないはずがない」

 

ロボット職員「静粛に。静粛に」

 

戦場カメラマン「む」

 

 

ロボット職員「議事進行係として みなさんが認識を共有したと見做し――――――、【ネフティス】側、砂漠横断鉄道の全権利を手に入れるために何を【アビドス対策委員会】に要求するのかを発言してください」

 

 

戦場カメラマン「……なかなか良い仕事をする」

 

債権者団体の代表「そうですね。こちらとしてもやりやすくて助かります」

 

債権者団体の代表「では、こちらをご覧ください」

 

小鳥遊 ホシノ「これは……」

 

債権者団体の代表「先日、【ハイランダー鉄道学園】の倉庫から発見された書類です」

 

 

――――――【アビドス生徒会】の前生徒会長:梔子 ユメの名でここにサインがあるでしょう?

 

 

ロボット職員「え」

 

戦場カメラマン「……ユメの?」

 

小鳥遊 ホシノ「……ユメ先輩がサインした契約書ですって?」

 

ロボット職員「では、スキャンして共有しますので、提出をお願いします」

 

債権者団体の代表「どうぞ」

 

ロボット職員「ありがとうございます」

 

ロボット職員「では、スキャンして共有しました。みなさん、お手元の端末でご覧ください」

 

小鳥遊 ホシノ「………………!」ジー

 

債権者団体の代表「ご覧の通り、【アビドス生徒会】が砂漠横断鉄道における関連施設の使用権を【ネフティス】から買い入れるという契約です」

 

十六夜 ノノミ「そうですか、【ネフティス】から……」

 

奥空 アヤネ「これはどういうことでしょうか? この『【アビドス生徒会】が【ネフティス】から買う』と言うのは?」

 

砂狼 シロコ「やっぱり、【ネフティス】は砂漠横断鉄道を切り売りするぐらいには思い入れがなかった……」

 

黒見 セリカ「だとしても、これが今更どういう意味になるわけ? 当時の状況って、たしか、そのユメ先輩とホシノ先輩だけしかいなかったわけだから、借金返済に追われて それどころじゃなかったはずよね?」

 

質屋連合長「自治区の力が弱まれば、当然ながら権利を売るしかなくなりますよね?」

 

債権者団体の代表「この鉄道は元より【アビドス生徒会】と【ネフティス】の共同プロジェクト;本来の受注者である前者(アビドス)がその権利を有していましたが、資金難により【ネフティス】へと売却したのです」

 

債権者団体の代表「前生徒会長としては、それを買い戻す算段だったのでしょう」

 

私債労働組合長「そう、これはその契約書です」

 

砂狼 シロコ「姫矢さん、生徒会長だったユメ先輩が買い戻そうと動いたのは本当だと思う?」

 

戦場カメラマン「……『砂漠横断鉄道の施設使用権を100万円で売り渡し、契約金の一部として1万円を即時に支払うことを約束する。本契約の締結後、2年以内に残金を全て支払い、支払いが遅延した場合は遅延損害金を支払う』という契約か」ジー

 

戦場カメラマン「ホシノ、筆跡はユメのものか。悪いが、俺は自信がない」

 

小鳥遊 ホシノ「――――――姫矢さん。間違いないです。これはユメ先輩の字です」

 

ロボット職員「そうですか。では、この契約書が偽造されたものではないのは間違いないようですね。紙の劣化具合も表面の酸性度から妥当と判定できました」*1

 

ロボット職員「正直に言うと、当時としては起死回生を画策した超大型プロジェクトだった砂漠横断鉄道の権利を【ネフティス】がたった2人しか生徒がいない【アビドス高等学校】にわずか100万円ぽっちで投げ売りしたと言うだけじゃなく、2年以内に残金を全て支払う当てがあったのか、双方の立場での疑問点が尽きないわけなのですが……」

 

小鳥遊 ホシノ「忘れるわけない。これは先輩の――――――」

 

債権者団体の代表「仰った通り、【アビドス生徒会】が砂漠横断鉄道の施設使用権を【ネフティス】から100万円で買収すると書かれています」

 

小鳥遊 ホシノ「お、おかしいです! い、いつの間にこんなものを……? 私が知らない間に……?」

 

戦場カメラマン「ああ。支払ったところで【カイザーコーポレーション】に借金のカタとして差し押さえられるだけだ」

 

小鳥遊 ホシノ「ユメ先輩が残したものは全部集めたはずなのに……、メモの一枚、小さなゴミまで……」ブツブツ・・・

 

小鳥遊 ホシノ「あ」ズキーン!

 

 

――――――その瞬間、決して忘れてはならない傷の痛みが走る!

 

 

小鳥遊 ホシノ「あ、頭が痛い……」ズキズキ・・・

 

戦場カメラマン「ホシノ!」

 

十六夜 ノノミ「ホシノ先輩!?」

 

小鳥遊 ホシノ「な、何か、大切なことを忘れているような……」ズキズキ・・・

 

小鳥遊 ホシノ「でも、こんな契約書の話、まったく聞いた覚えがない……」ズキズキ・・・

 

ロボット職員「ホシノさん……」

 

ロボット職員「そうですよね」

 

ロボット職員「どうなんですか? 何か当時の状況について知っていることはないですか?」

 

債権者団体の代表「おそらく、契約が完了していないので伝えてなかったのではないでしょうか?」

 

小鳥遊 ホシノ「え」

 

戦場カメラマン「つまり、『残り99万円を支払っていないから』、卒業した後に残り2年以内に支払う義務を引き継ぐことになるホシノにユメが何も教えていなかったと言いたいのか?」

 

債権者団体の代表「私共にそう言われても……」

 

奥空 アヤネ「すると、『まだ契約は有効』ということですか?」

 

債権者団体の代表「ええ。契約金の支払いまでは確認できましたが、まだ残金が納められておりません」

 

債権者団体の代表「その後、契約の存在自体が忘れ去られて今に至ります。担当者が退社した際に引き継ぎが行われなかったのかと」

 

債権者団体の代表「そして、この度【ハイランダー鉄道学園】で倉庫の整理をしていたところで“偶然”発見された次第です」

 

ロボット職員「はあ?」ジロッ ――――――ネフティス幹部の方に視線を向ける。

 

戦場カメラマン「待て、それはいったいどういうことだ?」ジロッ ――――――ネフティス幹部の方に視線を向ける。

 

ネフティス幹部「………………」

 

ロボット職員「あの、【ネフティス】さん? これはいったいどういうことなんですかね?」

 

ロボット職員「なんで【ネフティス】と【アビドス】との間の契約なのに、【ハイランダー鉄道学園】の倉庫から契約書が発見されることになったんですか?」ジロッ

 

ネフティス幹部「………………」

 

黒見 セリカ「杜撰な管理体制が透けて見えるわね。これがノノミ先輩が誇りにしていた大企業の姿なの?」

 

砂狼 シロコ「うん。当事者の手から離れて契約書が横流しされている辺り、【ネフティス】内部でも何か深刻な問題があったみたいだね」

 

戦場カメラマン「これは俺の勝手な推測だが、【セイント・ネフティス】側としてはもう何年も前に完全放棄していたつもりの砂漠横断鉄道の権利を見つけて無断で売りつけることで小遣い稼ぎをしようとしていた末端の人間が居たんじゃないのか?」

 

戦場カメラマン「だから、明らかに規模不相応の端金の契約を取り付けて現金を得たら、証拠隠滅のために契約書を紛れ込ませて横流ししたようにしか思えない」

 

戦場カメラマン「正直に言って、ユメならそういった誘いに乗ってもおかしくないからな。だが、たった100万円で鉄道の権利をとんでもなく安く取り戻せるのなら、買いと言えば買いではある」

 

小鳥遊 ホシノ「うへ~、ユメ先輩なら本当にありそうな話で困ります……」

 

私債労働組合長「私共としても悩ましい状況なのですよ」

 

債権者団体の代表「この契約の影響で、我々は砂漠横断鉄道の権利を得たと思いきや、関連施設の使用権は売買中のために手がつけられません」

 

私債労働組合長「これさえ見つからなければ……」

 

戦場カメラマン「だろうな。これを読む限り、砂漠横断鉄道のために整備されていた駅舎なんかも対象だから、何かの奇跡が起こって砂漠横断鉄道が無事に開通したとしても、客が乗り降りするための施設が使えなければ鉄道業は成り立たない」

 

ロボット職員「すると、【ネフティス】側としては『この契約を保持する意志があるのか』を確かめたいわけですね」

 

十六夜 ノノミ「そのためにわざわざ誰からも見捨てられた砂漠の街にお越しになったわけですか」

 

質屋連合長「私共にとっては それだけ重要な問題なのです」

 

私債労働組合長「この件さえ解決できれば、我々は後日に開かれる債権者団体の総会で、砂漠横断鉄道の持ち分を主張できます」

 

奥空 アヤネ「……『債権者団体の総会』ですか?」

 

黒見 セリカ「どうせ、借金取りの集会のことでしょう?」

 

債権者団体の代表「物は言いようですね。これは【プライベートファンド】に出資した投資家が集まる場のことですよ」

 

債権者団体の代表「あらためてお聞きします、小鳥遊 ホシノさん」

 

債権者団体の代表「残金を支払い、この権利を購入する意志はありますか?」

 

小鳥遊 ホシノ「………………」

 

戦場カメラマン「ホシノ」

 

黒見 セリカ「いや、急にそんなことを言われても……」

 

奥空 アヤネ「今更、この権利を買ったところで……」

 

砂狼 シロコ「うん。残りが99万円で、私たちの稼ぎだけで何とかなるにしても、繁盛する見込みのない砂漠横断鉄道の権利を持っていたところで使い道なんてないから無駄」

 

債権者団体の代表「ええ、ええ。こんな権利に100万円も払う価値ありませんよね?」

 

債権者団体の代表「それに、【キヴォトス三大学園(BIG3)】と【キヴォトス防衛軍】の手厚い支援のおかげで ようやく借金地獄から解放されようとしているのに、前生徒会長の置き土産で借金が増やされるのは気分がよろしくないでしょうから」

 

債権者団体の代表「では、『この契約は破棄する』ということでよろしいですね?」

 

債権者団体の代表「ホシノさん、ここにサインを」

 

小鳥遊 ホシノ「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりのことでどうしたらいいのか――――――」

 

 

ロボット職員「静粛に!」バァアアン! ――――――爆鳴気*2を立てて視線を集める!

 

 

債権者団体の代表「うおっ!?」ビクッ

 

小鳥遊 ホシノ「ガリバーさん」ホッ

 

ロボット職員「【ネフティス】側、議題の説明は以上でしょうか? 以上でしたら、一旦 着席してください」バチバチ・・・ ――――――電磁装甲から発する静電気がバチバチ弾ける。

 

ロボット職員「それとも、何かこの場でサインさせたい理由があるのでしたら、その理由をお聞かせ願えますか?」

 

私債労働組合長「ふむ」

 

債権者団体の代表「そう来ましたか……」

 

質屋連合長「やはり、焦り過ぎたのでは……?」

 

債権者団体の代表「落ち着きましょう。どうせ、購入する意味もないというわけで無効になる契約です」

 

債権者団体の代表「契約書の有効期限まで待つ必要もありませんし、これ以上 この案件に悩まされるのは互いに時間の無駄ですので、我々がこうして足を運んだことは何も間違っていません」

 

債権者団体の代表「ですが、こうなってはしかたがありません」

 

 

ロボット職員「では、【ネフティス】側からはこれ以上の内容はないようですので、【アビドス】側は審議を開始してください」

 

 

債権者団体の代表「議長。では、こうしましょうか」

 

ロボット職員「何でしょうか?」

 

債権者団体の代表「我々も暇じゃないということで時間が惜しいので、今回はここまでとさせていただきましょう」

 

債権者団体の代表「後日、アビドス中央駅旧庁舎で総会が開かれる予定です」

 

債権者団体の代表「もし、この契約を維持したいとお考えであれば、会場までお越しください」

 

債権者団体の代表「その上で、契約書にある砂漠横断鉄道の施設使用権の交渉をさせてください」

 

債権者団体の代表「私共からお伝えする内容は以上となります」

 

戦場カメラマン「と言うことだが、どうする、みんな?」

 

小鳥遊 ホシノ「それでお願いします! ユメ先輩のことで調べる必要があります!」

 

砂狼 シロコ「うん。有効期限の日付までまだまだあるし、残金の99万円を用意することになるかもしれないし、焦る必要はないと思う」

 

十六夜 ノノミ「はい。それで問題ないと思います」

 

黒見 セリカ「私も!」

 

奥空 アヤネ「はい、私も同意見です」

 

ロボット職員「どうやら、【アビドス】側としても異論はないようですね」

 

ロボット職員「それでは、今回の会議は以上となります。おつかれさまでした、みなさん。提出した文書はお返しします」

 

ロボット職員「また、議事録を送付いたしますので、最後にメールアドレスの確認だけお願いします。お手元の端末に入力すると後は自動で処理してくれます」

 

債権者団体の代表「おお、きっちりとしていますね。さすがは“シャーレの職員”ですね」

 

債権者団体の代表「どうですか? 私の秘書になりませんか? 高待遇をお約束しますよ?」

 

ロボット職員「ありがたいお話ですが、“シャーレの先生”の下でキヴォトスの平和を守ることにやり甲斐を感じていますので、【キヴォトス防衛軍】の怪獣退治に理解とご協力をしてくださると幸いです」

 

債権者団体の代表「それもそうですね。まさに北条先生のお力あっての現在のキヴォトスの平和ですからね」

 

債権者団体の代表「実は我々が総会を開くことになったのも、その北条先生が“アビドス砂祭り”の復活を宣言して、次回の移動遊園地(funfair):リトルプラネットの開園を“大オアシス”で行うと決めたからなんですよ」

 

ロボット職員「……そうだったんですか」チラッ

 

戦場カメラマン「………………」コクリ

 

ロボット職員「つまり、アビドス遠征中に砂漠横断鉄道を完成させないと完全に商機を失ってしまうわけですね」

 

債権者団体の代表「その通りです。北条先生が音頭を取って“アビドス砂祭り”を復興させることを宣言したのですから、この絶好の好機を除いて砂漠横断鉄道の成功はありえないわけです」

 

債権者団体の代表「ですので、地域復興のためにも今回の契約の破棄を逸早く決断してくれることを切に願っております」

 

債権者団体の代表「もちろん、その前提条件としてアビドス遠征の成功が必要不可欠ですので、北条先生の勝利を心から願っていますよ」

 

ロボット職員「はい、応援をよろしくお願いします」

 

債権者団体の代表「ええ。それでは、失礼します」

 

ネフティス幹部「では、我々も行くとしましょうか」

 

朝霧 スオウ「ほら、行くぞ」

 

橘 ノゾミ「押すなってば! 『押すな』って言っているだろう!?」

 

橘 ヒカリ「帰りたくなーい。もっとお菓子を食べていたーい」

 

ロボット職員「そうですか、ヒカリさん。でしたら、余ったお菓子も持っていって食べちゃってください」

 

橘 ヒカリ「わーい!」

 

橘 ノゾミ「ありがとね、ガリバーさん!」

 

朝霧 スオウ「おい、こいつらを甘やかさないでくれないか。本業を放り出して遊びに行こうとして大変なんだ」

 

ロボット職員「そうでしたか。いつでも大歓迎ですから、食べに来てくださいね。もしかしたら、先生が作った絶品のお菓子があるかもしれませんからね」

 

朝霧 スオウ「こら、またそうやって――――――」

 

朝霧 スオウ「まったく、ここはいつも賑やかだな」フフッ

 

朝霧 スオウ「ではな、小鳥遊 ホシノ」

 

小鳥遊 ホシノ「うん。スオウさんもお元気で」

 

 

スタスタスタ・・・

 

 

小鳥遊 ホシノ「………………」

 

黒見 セリカ「……終わったわね」フゥ・・・

 

奥空 アヤネ「はい。先生が指示した通りに会議を進めることができましたね」

 

ロボット職員「そうですね。会議の最高権威と言えば裁判所ということで、裁判所を模したセットにすることで最初に心理的圧力を掛けることに成功しましたし、」

 

ロボット職員「やはり、名実共にキヴォトスの頂点に立つ存在となった“シャーレの先生”の勘気を蒙りたくないという、目上の人間に媚びて目下の人間に威張り散らす人間の性が顕になりましたね」

 

十六夜 ノノミ「それだけじゃなく、さり気なく用意したお菓子やカップとソーサーも先生が監修した良いものですからね。大好評の会議用端末の宣伝も合わせて迂闊なことが言えないようにすることができました」

 

小鳥遊 ホシノ「――――――来客を饗す度量;こういうものにもしっかり気を遣えることが上位者の余裕というわけで、とても勉強になりました」

 

戦場カメラマン「大丈夫か、ホシノ」

 

戦場カメラマン「しかし、やはりと言うべきか、【プライベートファンド】は【セイント・ネフティス】の思惑には気づいていないようだな」

 

十六夜 ノノミ「そうですね。裏で執事さんが先生に縋り付いていたことは悟られていないようです」

 

黒見 セリカ「けど、今回の会議の成功は私たちの側に姫矢さんが居てくれたことが一番大きいと思うわ」

 

砂狼 シロコ「うん。大人の姫矢さんがしっかり睨みを利かせてくれたことで相手は私たちのことを甘く見た態度を取れなくなっていたし、立会人のガリバーさんが中立の立場を取って議事進行を握ることができていた」

 

戦場カメラマン「そうだな。これが本当のポジショントークというやつだな」

 

戦場カメラマン「立会人として中立の立場を装っているロボット職員:マウンテンガリバーも、実際には【ネフティス】側の阿漕な商売をやっている連中に迂闊なことを言わせないにさせて必要最低限の内容しか言えないように議事進行していたわけだから、【アビドス】側にとってはどこまでも都合が良い味方だったわけだ」

 

ロボット職員「ちがいますよ。私は公正中立に議事進行係の役割を全うしていただけですので、互いにとってマイナスとなる要素を会議から公平に排除したに過ぎません」

 

黒見 セリカ「そうよ。急に借金取りが現れたと思ったら、昔の契約をどうするか決めて欲しいだなんて、どこからどう見ても怪しいわよ。私たちを騙そうと思ってやってきたわけなんだから、堂々と人前で言い出せないようなことを企んでいた時点で自業自得よ」

 

奥空 アヤネ「ですが、砂漠横断鉄道を本気で復活させたいと思っているのなら、たしかに第3回の移動遊園地(funfair):リトルプラネットの開園までに間に合わせないと、完全に商機を失うのも事実です」

 

戦場カメラマン「そうだな。やつらはそれを大義名分にして契約の破棄をこちらに迫ってくるだろうな」

 

奥空 アヤネ「どうやら、砂漠横断鉄道の再開発の準備が進められているみたいですね。すでに【ハイランダー鉄道学園】の工事業者が旧アビドス自治区に進出しているみたいです」

 

戦場カメラマン「なるほどな。既成事実化することで良心に訴える算段のつもりか」

 

小鳥遊 ホシノ「はあ!? ちょっと待ってください! 何ですか、それは!?」

 

小鳥遊 ホシノ「こうして債権が売りに出されたわけですが、それまで【カイザーコーポレーション】が土地の権利を買い占めていた旧アビドス自治区が売りに出された最大の原因は怪獣無法地帯になったからですよ!?」

 

小鳥遊 ホシノ「アビドス遠征によってハザードマップの完成が近づく毎に安全圏が更新されてはいますが、調査した場所に監視所が設置されただけで防衛設備があるわけではないので、もしも怪獣が現れた時の身の安全は保障されないんですよ!?」

 

戦場カメラマン「いや、バム星人の四次元移動列車を有している【ハイランダー鉄道学園】なら、四次元都市:フォーサイト経由で物資の輸送や緊急避難ができるわけだから、その辺りの安全確保は問題ないと説明している可能性が高い」

 

小鳥遊 ホシノ「それはそうですけど、非常事態宣言が解除されたわけじゃないのに、怪獣無法地帯に送り込まれる人たちが――――――!」

 

砂狼 シロコ「つまり、アビドス遠征によって安全が 一旦 確保されたことで開始されることになった砂漠横断鉄道の再開発だけど、有事が発生した際に巡り巡ってアビドス遠征の進行を一気に妨げるものになるわけだね」

 

奥空 アヤネ「はい。怪獣退治の鉄則である民間人の安全のことを常に考えなくてはならなくなるわけですからね」

 

ロボット職員「それだけじゃなく、防衛の面から言えば、砂漠横断鉄道は重要な交通インフラということで退避させることができない上に広大なアビドス砂漠を文字通り横断する超巨大な建造物になるわけですから、砂漠横断鉄道が完成に近づけば近づくほどデカい的になって怪獣の被害を受けやすくなるわけですよ。防衛戦力の展開が間に合わないです」

 

十六夜 ノノミ「なるほど、完璧な計画ですね。不可能だという点に目を瞑ればの話ですが」

 

戦場カメラマン「そして、今回【セイント・ネフティス】と事業提携することになった【ハイランダー鉄道学園】にとっても、砂漠横断鉄道の再開発は自分たちの首を絞める結果にしかならない」

 

戦場カメラマン「なぜなら、砂漠横断鉄道の再開発に四次元移動列車を使っている時点で、最初から距離の概念を無視する四次元移動列車こそを砂漠横断鉄道に使うのが合理的だということに嫌でも気付かされることになる」

 

戦場カメラマン「しかし、【ハイランダー鉄道学園】の自治区は自分たちが敷設した鉄道とその沿線というわけだから、自分たちの存在意義のために四次元移動列車を砂漠横断鉄道に使うことは認められないわけだな。旧世代の烙印を押されることになる」

 

戦場カメラマン「つまり、【セイント・ネフティス】にしても、【ハイランダー鉄道学園】にしても、この砂漠横断鉄道は泥舟というわけだ。そんなのは砂漠化が始まる前から事業化していなかった時点で、最初からわかりきっていたことなのにな」

 

十六夜 ノノミ「やはり、【“雷帝”の遺産】を――――――?」

 

戦場カメラマン「十中八九 そうだと思うが、キヴォトス史上最大の軍事力【キヴォトス防衛軍】がすでに存在しているというのに【“雷帝”の遺産】を求める正確な理由がまだわからないな」

 

奥空 アヤネ「はい。私たちにとっては先生が必要な分だけ土地を買い戻してくれたおかげで不要なものでしかないですが、【セイント・ネフティス】が【プライベートファンド】を募るほどの大金を支払ってまで【カイザーコーポレーション】から債権を買い取った動機が不明なままです」

 

黒見 セリカ「もしかしたら、今回の対応を見る限り、【セイント・ネフティス】がまた経営不振に陥っているんじゃない?」

 

砂狼 シロコ「うん。それで また 一発逆転を狙って、最初から破綻しているのがわかりきっている砂漠横断鉄道を立ち上げた時と同じような心理状態に陥っているのかも」

 

戦場カメラマン「ああ。【“雷帝”の遺産】の話にしても たった2年前の話なんだ。まともな経営判断ができているのならば、厄ネタだらけの【アビドス】に二度と近づこうだなんて思わないはずだからな。【プライベートファンド】の連中も浮かれているな」

 

ロボット職員「はあ? それじゃあ、何のために【アビドス】を切り捨ててまで延命を図ったと言うのですか、【セイント・ネフティス】は!?」

 

ロボット職員「もしや、生まれ故郷である【アビドス】と心中するつもりで砂漠横断鉄道の再開発に乗り出して、【ハイランダー鉄道学園】や【プライベートファンド】のみなさんも盛大に巻き込んで道連れにしようとしていたんですか!?」

 

黒見 セリカ「そうだとしたら、もう最悪よね」

 

十六夜 ノノミ「そうですね……」

 

戦場カメラマン「ともかく、そのことについては一旦は置いておこう」

 

奥空 アヤネ「はい。総会までに私たちで結論を出さなくちゃいけないことがあります」

 

奥空 アヤネ「ホシノ先輩」

 

小鳥遊 ホシノ「はい。ユメ先輩のことですよね。私もこの契約がどういった経緯で結ばれることになったのかを調べなくちゃいけないと思っていますので、みなさんにこれから話そうと思います」

 

小鳥遊 ホシノ「姫矢さんも一緒に話してくれますよね?」

 

戦場カメラマン「ああ。可能な限りのことは話そうと思う」

 

ロボット職員「じゃあ、話が長くなりそうですので、続きは1時間後にして休憩の時間にしましょうか。それまでに何を話すのか段取りを決めておいてください」

 

小鳥遊 ホシノ「わかりました」

 

戦場カメラマン「ああ」

 

ロボット職員「では、解散です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――攻略法その1:既に起きた出来事は変えられない。

 

 

先生が未来を尽く変えてしまうというのなら、過去を利用すれば良いだけのこと。

 

たとえ先生であっても、過去を変えることは不可能でしょう。

 

つまり、攻略の鍵は“過去”にあるのです。

 

 

さあ、先生よ。ヒヒ、ヒヒヒッ……。

 

 

攻略法は、全部で4つ。

 

1つ目は既に進行中……。

 

そして、2つ目もまた直に……。ヒヒッ。

 

いやはや、4つ目の攻略法は出る幕も無いかもしれませんね。

 

その選択、楽しませてもらうとしましょう。ヒヒッ、ヒヒヒヒッ……。

 

 

そう、小生を追放した貴様らごときが【ゲマトリア】という崇高なる求道を名乗る資格はないのです。

 

本当の【ゲマトリア】はこの小生。小生が【ゲマトリア】の真の姿を見せてやらねば……。

 

さあ、新しいコデックスと新しいキャンペーンを始めるとしましょう。チュートリアルは終わりです。

 

――――――【アビドス】。太古の神秘らが誕生したあの帝国。

 

今回のコデックスではどんな形になっているのかはすでに知り尽くした。

 

どうか、小生を愉しませてくださいね。

 

 

――――――“黒服”よ、代わりに小生が叶えてやるぞ、世界の滅亡を!

 

 

 

 

 

 

 

ロボット職員「それでは、砂漠横断鉄道の再開発ならびに波動鉄道(vibrail)の使用権に関する協議を始めます。【アビドス】側から発言をお願います」

 

北条先生「まず、怪獣退治の専門家として、砂漠横断鉄道の再開発を即刻中止することを要請します」

 

ネフティス幹部「そこは何とかなりませんか、先生?」

 

橘 ノゾミ「今から工事を始めないと“アビドス砂祭り”に絶対に間に合わないじゃん!」

 

橘 ヒカリ「ブッブー! 先生が作ってくれたお菓子は美味しいけど、こればかりは先生でもダメー!」

 

北条先生「まず、【キヴォトス防衛軍】の作戦行動の基本方針は人命第一となります。これは怪獣退治に巻き込まれて死傷者が出た場合の責任の範囲を明確にする意味があり、基本的に避難命令に従わなかった場合の生命の保障はできかねないという立場を明文化していることをお忘れなく」

 

北条先生「ましてや、非常事態宣言が解除されたわけでもないのに、こちらに何の通告なしに怪獣無法地帯に乗り込んできて勝手に鉄道工事を始めていることに呆れています」

 

北条先生「一応、【カイザーコーポレーション】から債権が渡ったことでアビドス砂漠一帯が一部を除いて【セイント・ネフティス】の私有地になっていますから、いくらでも工事してもいいんですよ、本当は」

 

北条先生「でも、いいんですか? 事業提携先の【ハイランダー鉄道学園】の現場監督を怠ると言うのなら、【セイント・ネフティス】のコンプライアンスに対して不信感を抱いていることを公表してもいいんですよ?」

 

北条先生「はっきり言って、安全が確保されるまで作戦行動の邪魔でしかないので、砂漠横断鉄道の再開発は今すぐに中止してください。このことを議事録と心に留めておいてください」

 

ネフティス幹部「もちろん、安全面に関しては細心の注意を払っていますとも」

 

ネフティス幹部「四次元移動列車を利用しての迅速な物資の輸送や緊急避難の用意もちゃんとできています」

 

北条先生「じゃあ、最初から四次元移動列車でいいじゃないですか、砂漠横断鉄道。その方が安全だし、コストも安上がりで、良いこと尽くめじゃないですか。電鉄に拘る必要なんてないじゃないですか」

 

ネフティス幹部「そ、それは……」

 

朝霧 スオウ「ああ、そうだな。こんなのは最初からわかりきっていた話だ」

 

朝霧 スオウ「バム星人から回収した四次元移動技術によって点と点を結ぶ線を必要としない究極の交通革命がもたらされた以上、その点と点を結ぶ線にしか存在することができない【ハイランダー鉄道学園】としてはまさに死活問題だ」

 

朝霧 スオウ「そして、無謀に思えた砂漠横断鉄道の工事の大幅な工期短縮とコストカットを実現に導いたものも自分たちの首を絞めるものとなった四次元移動技術というのだから、最初から何もかもが破綻していて矛盾している」

 

朝霧 スオウ「だが、だからと言って、素直に終わりを受け入れられるほど聞き分けがいい者はキヴォトスには存在しない」

 

朝霧 スオウ「先生、人というのは誰もが先生のように危急存亡の秋に形振り構わずに変わろうとはしないものだ。先生が人々の変わらぬ日常を守ろうとしているように、凡人たちもまた昨日と変わらない日々を続けるための労を惜しまないものだぞ」

 

北条先生「そうですか」

 

朝霧 スオウ「それはともかく、【キヴォトス防衛軍】が防衛上の観点から“枯れた森”ー“怪獣釣り堀”ー“クジラの谷”を実効支配して動線を引いたことが我々の砂漠横断鉄道に障害となっていることから、我々としては譲歩を引き出す必要がある」

 

北条先生「なら、非常事態宣言が解除された後に工事を再開すればいいだけじゃないですか。その頃には【キヴォトス防衛軍】は監視所を残して撤退していることでしょうし」

 

北条先生「僕はね、納期優先で命を粗末にする人間が大嫌いなんだ。損得勘定がちゃんとできるのなら、命に値段をつけてみれば正しい経営判断ができると思いますよ」

 

ネフティス幹部「なら、“アビドス砂祭り”の開催時期をこちらの都合に合わせてもらえないでしょうか?」

 

北条先生「まあ、ハザードマップが完成したとしても安全確保のために多少の日程調整は出来ますから、それには ある程度 応じることはできますが、【アビドス】以外にまだまだたくさんある未調査領域に向かう必要があるので そこまでは待てないですよ」

 

 

キヴォトス防衛軍:アビドス遠征 VS.セイント・ネフティス:砂漠横断鉄道

項目
アビドス遠征
砂漠横断鉄道

安全性

納期

予算

営利性

 

 

錠前 サオリ「つまり、両者の言い分からすると、こういった課題があるわけだな」

 

秤 アツコ「安全性を求めるなら納期が犠牲になって、アビドス遠征が終わるまでが期日だとしても会社には決算や業績予想が存在しているわけだから、のんびりしていられないんだよね」

 

ロボット職員「とは言え、抜き差しならない理由で両者の意見が対立しているわけですが、どっちがおかしな要求をしているのかは明らかですけどね」

 

秤 アツコ「うん。アビドス遠征の成功ありきの砂漠横断鉄道だなんて、完全におんぶに抱っこの状態で図々しい話だよね」

 

錠前 サオリ「ああ、主導権はこちらが常に握っているわけで、非常事態宣言の解除も先生の匙加減次第だと言うのにな」

 

北条先生「まあ、僕としては今更になって砂漠横断鉄道という大博打に再び縋らなくちゃならない程に追い込まれた【セイント・ネフティス】の経営状態にメスを入れたい気分なんだけどね」

 

北条先生「というわけで、厄介な輩に絡まれてしまいました。愛郷心を振りかざしながら 故郷を裏切っておいて 別天地で大して成功しているわけでもないという……」

 

北条先生「僕の本音としては知ったことじゃないです。僕は“連邦生徒会長”に雇われた怪獣退治の専門家でしかないので、内政干渉するつもりは毛頭ないわけです。全ては【連邦生徒会】の承認を得てやっていることですからね」

 

北条先生「そう、全ては()()退()()()()()()()()なのであって、 移動遊園地(funfair):リトルプラネットの開園にしてもそう。僕のやっていることは全て非営利活動です。営利目的の砂漠横断鉄道に迎合しなくてはならない道理はありません」

 

北条先生「そもそも、【セイント・ネフティス】は自分たちの生まれ故郷である【アビドス高等学校】にすら工事の挨拶と過去の仕打ちに対する謝罪に行かなかったのですから、彼らが掲げる【アビドス】復興とはいったい誰のための政策なのか、最初から最後まで筋なんて通ってませんよ。なんで許されていると思っているのでしょうかね」

 

ロボット職員「となると、先生に要求を呑ませるために力による現状変更;テロ行為も辞さなくなるわけですか。本当に嘆かわしい限りです」

 

北条先生「その時は完全に一線を越えたということで、不毛の大地:アビドス砂漠への死出の旅路を提供する砂漠横断鉄道の完全なる終焉ですよ」

 

北条先生「総会での決定がどうなろうと、そもそもが怪獣災害に対して超法規的措置で活動することが認められている【キヴォトス防衛軍】ですから。そこが企業の私有地であろうとも【キヴォトス連邦】の領土である限り、僕のやることに変わりはないです」

 

北条先生「だと言うのに、僕ね、これでも扱いは【連邦生徒会】の下部組織に所属する公務員のはずなんですけどね?」

 

ロボット職員「そうです。だからこそ、怪獣退治に必要なことだと【連邦生徒会】で承認が得られた交際以外は全て贈収賄の疑いがあるとして【SRT】の監視リストに次々と入れているわけです」

 

北条先生「おそらく、これだけじゃないはずなんです」

 

 

――――――アビドス砂漠の正体である忘却の砂漠は秘密を探る者を拒み、秘密を隠そうとする者に力を貸す性質を持つ以上、予想もつかないところからアビドス遠征の完遂を妨害する勢力が現れるはずなんだ。

 

 

北条先生「その試練を乗り越えてこそ、アビドス遠征の征服事業は完全なものとなる」

 

北条先生「怪獣とは法では裁けない存在であるこそ災害と定義されるものである一方、人類の歴史から決してなくなることのない悪を内包している存在が人間(ヒト)でもあるんだ」

 

北条先生「僕としては人間(ヒト)に銃を向けることにならないことを祈るばかりだよ」

 

錠前 サオリ「先生……」

 

ロボット職員「これもイーリス様がこれまで忘却の砂漠の機能で封じていた魔物たちが世に解き放たれた影響なのでしょうね……」

 

秤 アツコ「大丈夫だよ、きっと。イーリス様から()()()()()()()()()()()を教わっているから」

 

 

 

 

 

 

 

――――――攻略法その2:奇跡の担い手とは言え、肉体には物理的な限界がある。

 

 

それが、先生、あなたの弱点でしょう?

 

たとえ先生であっても、あなた以外の周りにいる人間はあなたではない。

 

故に、攻略の鍵は“周り”にあり、人間同士のしがらみからは誰であったとしても逃げることができず、必ず限界を迎えることになるのです。

 

 

ヒヒヒッ、ヒヒヒヒヒヒッ! イヒヒヒヒヒヒッ!

 

 

コデックス(RULE BOOK)が更新され、新しい世界に満ちる異物感――――――。

 

コデックス(RULE BOOK)が変更され、ルールが変わったのなら、それは新しいキャンペーンが始まったということで、今度のコデックス(RULE BOOK)は小生にどんな気づきを与えてくれるのでしょう。

 

このキャンペーンのボス:北条先生を攻略するためには――――――。

 

 

――――――まずはチュートリアルで小生を初心者狩りした者たちにたっぷりとお礼をしてやるぅ!

 

 

 

 

 

 

 

ロボット職員「先生! アビドス砂漠で怪獣が出現しました!」

 

秤 アツコ「この感じ! 闇怪獣だよ、先生!」

 

北条先生「なんだと!? しばらく闇怪獣の出現はなかったが、また出てきたか!? この時点で対処法が限定された!」

 

錠前 サオリ「だが、おかしいぞ! 出現地点一帯の監視所からの中継映像が切れているぞ!?」

 

北条先生「…………何が起きている?」

 

錠前 サオリ「いや、待て! 今、監視所から発進させたドローンからの映像解析の結果が出た!」

 

ロボット職員「こいつは――――――」

 

秤 アツコ「頭に立派な角が生えているね、サッちゃん」

 

錠前 サオリ「ああ、宇宙怪獣:ギマイラとは角の形状はまったく異なるが、地底怪獣らしい厚い装甲をしているのがわかるな」

 

ロボット職員「先生、こいつはいったい――――――?」

 

北条先生「出現地点周辺の監視所のカメラが一斉に使えなくなっただけじゃなく、異様な熱反応も示している? この温度なら自然発火してもおかしくないが、熱線や火炎放射によるものじゃなく、周囲の監視所を完全に同時に――――――?」ブツブツ・・・

 

北条先生「まるでカメラのセンサー焼けを引き起こすほどの強烈な光が放たれたかのような――――――」

 

ロボット職員「先生! 怪獣が砂漠横断鉄道の工事現場に向かっているようです!」

 

北条先生「言わんこっちゃない!」

 

北条先生「現場に避難命令を出せ! 避難訓練の成果を見せてみろ!」

 

北条先生「GUTSガルーダは出撃して迎撃を! 僕は現場の指揮と救助に向かいます! 幸い、怪獣が向かっている場所は次の工程の仮設工事の場所みたいだから、避難対象はまだ少ないはず!」

 

ロボット職員「わかりました!」

 

 

ブブゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

 

 

錠前 サオリ「先生、出すぞ!」

 

北条先生「ああ! 急げよ!」

 

北条先生「まったく。砂漠横断鉄道の工事現場から人を追い出せるのは好都合ではあるが、犠牲者が出ることを容認しているわけではないんだぞ。後味が悪い」

 

戦場カメラマン「先生、闇怪獣が相手なら俺が行こう。先生は現場の指揮を頼む」

 

北条先生「ちょっと待ってください、姫矢さん。何か見覚えがあるような気がするんだよな、この怪獣……」

 

北条先生「ともかく、作戦司令部は現場との連絡を急いで。避難状況によって取れる作戦が変わってくる」

 

――――――

奥空 アヤネ「先生!」

――――――

 

北条先生「どうですか、奥空さん? 現場の避難状況は?」

 

――――――

奥空 アヤネ「それが……、怪獣を追跡していたドローンのカメラが一斉に使用不能になってしまいました……」

――――――

 

北条先生「またか。まさか、強力な妨害電波を発しているのか――――――」

 

戦場カメラマン「いや、先生、もしかしたら閃光手榴弾のような強烈な光を放って眩惑する怪獣かもしれないな……」

 

北条先生「え」

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「大変です! 地上から6千万cd(カンデラ)という信じられないような光度の強烈な光が放たれてGUTSガルーダのイメージセンサーがやられました! 何も視えないです!」*3

――――――

 

北条先生「まさか、本当に――――――?」

 

北条先生「待ってくれ! それじゃあ、工事現場にいる人たちはどうなった!?」

 

戦場カメラマン「ヘッドライトは6400cd*4が日本の保安基準だったはずだから、文字通り万倍の光度というわけか」

 

戦場カメラマン「そして、太陽の輝度(見かけ上の)は約1.6×10⁹cdで、16億cdになるわけだから、それと比較すると6千万cdはそこまで高いように思えないが、」

 

戦場カメラマン「テレビやモニターが100~500cdでそれで目が悪くなるものだと考えれば、実際にここまで凄まじい光度にもなれば目が悪くなるどころか失明するし、そのエネルギー量が膨大な熱量となって対象が発火する恐れもあるな。文字通りに目が灼けることになる」

 

 

北条先生「あ、そうか! くそっ! まさか、あれは変身怪獣:ザラガスなのか!?」

 

 

戦場カメラマン「――――――『ザラガス』?」

 

北条先生「そう、【ドキュメントSSSP(科特隊)】に収録されていた初代ウルトラマンが戦った強豪怪獣の1体だ」

 

北条先生「あの甲殻の下には自然界ではありえないような強烈な光を放つ発光器官がびっしり詰まっていて、さっきの6千万cdの閃光:ザラガスフラッシュで1万8千人もの市民や防衛チームの隊員の角膜を損傷させて失明させるという甚大な被害を地球で出した凶悪怪獣だ」

 

戦場カメラマン「!」

 

――――――

奥空 アヤネ「そ、そんなッ!? すると、戦っている最中にまともに怪獣の方を見てしまったら、常に失明の危険性があるんですか!? それじゃあ、どうやって対処すればいいんですか!?」

――――――

――――――

ロボット職員(インナースペース)「先生、イメージセンサーに頼らない方法で怪獣を捕捉することができました。攻撃を開始して怪獣の注意を引き付けます」

――――――

 

北条先生「ダメだ! 攻撃中止だ! 絶対に手を出してはならない! 攻撃は待ってくれ!」

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「な、なんでなんですか!?」

――――――

 

北条先生「おそらく、どこかの星で改造されたサイボーグ怪獣の一種と思われるザラガスは攻撃を受けると その攻撃に対して耐性を持つように 自身の体質を変化させてパワーアップする能力を持っているからなんだ。だから、『1発で倒せる方法がない限り攻撃中止』と命令を下されたぐらいの難敵だ」

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「なんですって!?」

――――――

 

錠前 サオリ「先生、工事現場が見えてきたが、同時に怪獣の姿もはっきり見えるところまで来たぞ。それと、何人もの人間が目を押さえて転げ回っているのが見える…………」

 

錠前 サオリ「ここからはどうすればいい、先生? 対閃光防御は備わっているが、兵員輸送車に攻撃能力はないぞ? 目的は現場指揮と救助だったからな。攻撃はGUTSガルーダで事足りていた」

 

北条先生「それは……」

 

 

――――――どうする? どうしたらいい? もしかしたらクレッセントに匹敵する“災害の化身”かもしれない怪獣だぞ?

 

 

北条先生「目を瞑ったところで強烈な光は瞼を貫通するから対策なしに突っ込んだところで目を灼かれることになる……」

 

北条先生「となると、戦闘員には対閃光防御のバイザーが必要不可欠だけど、そんなものは用意していない。精々が砂漠の日射しを弱めるために配布されたサンバイザーやサングラスしかないぞ……」

 

北条先生「じゃあ、僕は失明を覚悟して挑むように命令を下さなければならないのか?」

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「く、くそっ! 視界が奪われるだけだったら他のセンサーやレーダーに切り替えて戦えると言うのに、攻撃したら強力な耐性まで付くとなると何もできないじゃないか!?」

――――――

 

北条先生「そうだ! それどころか、初代ウルトラマンが相手にした地球怪獣のはずなのに、こいつに至っては超獣や大怪獣に匹敵する能力だぞ!?」

 

戦場カメラマン「――――――まるでスペースビーストだな」

 

戦場カメラマン「なら、ますます俺が倒すべき敵だな」

 

北条先生「姫矢さん……」

 

戦場カメラマン「ここは俺に任せてくれ」

 

北条先生「何か失明しないで戦える策や能力があるんですか? メタフィールドは使わないでくださいよ?」

 

戦場カメラマン「ああ、わかっている。俺を信じてくれ」

 

北条先生「なら、ザラガスの体質変化能力は脳までは鍛えることはできないらしい;強力な一撃で脳震盪を起こした隙に初代ウルトラマンはスペシウム光線で倒すことができたから、それを狙うんだ!」

 

戦場カメラマン「わかった」ガチャ ――――――兵員輸送車の屋根に上がる。

 

 

鞘を左手で持って左腰に構え!

 

右腕で鞘から短剣を前方に引き抜き!

 

短剣を左肩に当て、右腕を伸ばして空に掲げた!

 

 

そして、宇宙の神秘である銀色の巨人が再びアビドス砂漠に姿を現した。

 

即座に銀色の巨人は赤と銀の巨人:ウルトラマンネクサス ジュネッスとなって巨大な竜巻状のエネルギー波(ネクサスハリケーン)を作り出し、竜巻に絡め取ってザラガスの身動きを封じた隙に腕から伸ばす光の帯(セービングビュート)で次々と工事現場で身動きが取れない人たちを素早く回収して兵員輸送車の側まで送り届けたのである。やはり、仮設工事のための人員なのでそこまで多くない。

 

こうして腕から伸ばす光の帯(セービングビュート)によって回収された人たちを急いで兵員輸送車に収容するのを見届けた赤と銀の巨人は初代ウルトラマンが相手にした地球怪獣なのに超獣や大怪獣に匹敵する驚異の変身怪獣:ザラガスと向き合う。やはり、本当は古代に送り込まれた改造怪獣の類なのではないのか――――――。

 

そう、あらゆる攻撃に耐性を持つようになるザラガスの体質変化能力はウルトラマンネクサスの宿敵:スペースビーストの驚異の再生能力を思わせるものがあり、そのザラガスが闇怪獣となって現れた以上、闇怪獣に効果があるオーバーレイ・シュトロームで勝負を決める以外に勝ち筋はない。

 

この時、何らかの予感が働き、赤と銀の巨人が牽制となる光弾(パーティクルフェザー)を放つと、数々のスペースビーストの細胞を引き裂いてきた光粒子エネルギーのカッター光線が完全に弾かれてしまうのであった。

 

予感は的中し、闇怪獣となったザラガスにはすでに光線に対する耐性が備わっていた事実を受け止めると、当初の作戦を変更して怪獣を工事現場から遠ざけるために渾身の蹴り(ジュネッスキック)を浴びせるのであった。

 

実は、厚い装甲に覆われている地底怪獣の一種である変身怪獣:ザラガスではあったが、見た目に反して体重がなんと2tしかなく、ウルトラマンネクサスの体重:4万4千tの半分もないため、その重量差のために大きく吹き飛ばされるのであった。

 

そこに勝機を見出した赤と銀の巨人の猛攻は続き、怪獣の武器の定番である角を怪力で圧し折り、戦いは有利に運べていた。どれだけ体質変化能力によって強力な耐性を得て その度に究極生物へと近づこうとも、耐性を得るまでの明確な隙があること、強力な甲殻に守られていようとも脳細胞まで変わることができないことが知られていたため、宇宙大怪獣:アストロモンスの時と同じく、やることはわかりやすくシンプルな暴力あるのみである。

 

ところが、ザラガスの最大の武器として警戒しなければならないザラガスフラッシュの発生器官がびっしり詰まっている背中が顕になる第2形態に移行して凶暴化したことにより、いよいよ6千万cdによる失明の脅威が刻一刻と迫る――――――。

 

 

工事作業員「うぅ……」

 

工事作業員「ひ、光がぁ……」

 

工事作業員「た、助けてくれぇ……」

 

錠前 サオリ「大丈夫だ! ここは兵員輸送車の中だぞ! お前たちは助かったんだぞ!」

 

北条先生「工事現場に居たのはこれで全員ですか?」

 

現場監督「わ、わからない。私はたまたま現場監督だとわかりやすいようにサンバイザーをしていたから、強烈な光に目が眩む程度で済んだけど……」

 

北条先生「では、現場監督であるあなたが点呼をとって全員を収容できたかを確認してください。大事な人手を見捨てた責任を問われたくはないでしょう。一刻もここを離れたくて嘘を吐いたと後で言われたくないでしょう」

 

現場監督「わ、わかりました、先生……」

 

北条先生「とは言え、ウルトラマンの戦いはどれだけ見積もっても3分程度;それで全てが決まる……」

 

北条先生「気をつけてください、姫矢さん……」

 

 

――――――怪獣の姿をした閃光手榴弾:ザラガスフラッシュが炸裂するッ!

 

 

戦場カメラマンとしてフラッシュを焚いているのが生業だからなのか、あるいは戦場で培った閃光への警戒心からなのか、間一髪で至近距離の強烈な閃光:ザラガスフラッシュをまともに見ずに済んだものの、瞼を閉じていても光を感じることができる以上、瞼を貫通して角膜に届けられる灼くような光に目が眩んでしまう。

 

装甲を外して大量のフラッシュ発射口が敷き詰められた異形の姿:第2形態となって凶暴性が増し、自身の強みとわかっているザラガスフラッシュを連続させられながらも、牽制となる光弾(パーティクルフェザー)を強烈な光を感じた方向にいるザラガスに次々と浴びせるものの、完全な耐性によってビクともしないため、失明攻撃を止めることができない。アビドス砂漠全体がストロボ発光に晒されているかのようにチカチカしているため、対閃光防御をしていない者たちにはまったく踏み込めない状況になっていた。

 

そのため、広大なアビドス砂漠のド真ん中で変わり映えのしない景色が容赦ないストロボ発光で激しく点滅する中、至近距離で何度もザラガスフラッシュを浴びせられて相手が完全に視界がボヤケていることを悟ったザラガスは悪知恵を働かせて、音も立てずに赤と銀の巨人の裏に回り込んで何度も突き飛ばすのであった。

 

それでも、戦場カメラマンとしての歴戦の経験から微かな音や空気の流れを掴み、自分の命を奪おうと静寂の中で息を潜めている敵の気配を感じ取って繰り出した回し蹴り(ジュネッスキック)が見事にザラガスを捉えたのである。予想もしていなかった反撃の一撃には真向勝負では2倍以上の重量差で敵わないことをわからされているザラガスの闘争心を圧し折るには余りあるものがあった。

 

しかし、ここでまさかの事態が発生したのである――――――。

 

 

 

グサッ!

 

 

 

グアアアッ!

 

 

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「――――――ッ!?」

 

ロボット職員(インナースペース)「何だ!? ザラガスの超音波画像に無数の突起が――――――!?」

 

ロボット職員(インナースペース)「しかも、高エネルギー反応――――――!?」

 

ロボット職員(インナースペース)「姫矢さん!? 姫矢さん、何が起こっているんだ!?」

 

ロボット職員(インナースペース)「くそっ! モニターが死んでいるから何が起きているのかを直視できない!」

――――――

 

北条先生「――――――姫矢さん?」ドクン!

 

現場監督「せ、先生! これで全員です! 間違いありません!」

 

北条先生「わかりました。出してください」

 

錠前 サオリ「わかった! しっかりと掴まっていろよ!」

 

 

北条先生「あ! いや、待ってくれ!」

 

 

錠前 サオリ「先生?」

 

北条先生「僕はここに残る」ヒソヒソ

 

錠前 サオリ「え」

 

北条先生「さあ、行って!」バン! 

 

錠前 サオリ「あ、先生――――――」

 

錠前 サオリ「わかった。先生を信じて、今は負傷者を搬送しよう」

 

錠前 サオリ「だが、なんだ、この胸騒ぎは――――――?」

 

 

 

ザッザッザッ・・・

 

 

 

北条先生「そんな、馬鹿な……」

 

北条先生「姫矢さん! 姫矢さん!」

 

戦場カメラマン「……先生か」ゼエゼエ

 

戦場カメラマン「……ザラガスはどうなった?」ゼエゼエ

 

北条先生「やはり、目を……」

 

北条先生「――――――ザラガスはオーバーレイ・シュトロームの直撃で跡形もなく消え去りました」

 

戦場カメラマン「……そうか。やれたか」ゼエゼエ

 

北条先生「僕のせいです、姫矢さん。ザラガスに隠された能力があっただなんて……」

 

戦場カメラマン「……いいんだ。最初に光線技に対する耐性がついた闇怪獣という時点で何かあると身構えていてこれだ」ゼエゼエ

 

北条先生「早く治療を! 待っててください、今、メディカルパワーを――――――!」スッ ――――――ブライトスティックを取り出す!

 

戦場カメラマン「――――――」グッ ――――――ブライトスティックを力強く押さえつける!

 

北条先生「え」

 

戦場カメラマン「……大丈夫だ」ゼエゼエ

 

戦場カメラマン「……先生、ブラストショットを取り出してくれないか?」ゼエゼエ

 

北条先生「まさか、姫矢さん。目だけじゃなく――――――」

 

北条先生「これです」スッ

 

戦場カメラマン「……ありがとう、先生」ジャキ!

 

 

――――――ブラストショットから放たれた光弾が天へと昇っていく。

 

 

北条先生「今のは?」

 

戦場カメラマン「ストーンフリューゲルを召喚した」ゼエゼエ

 

北条先生「――――――『ストーンフリューゲル』?」

 

戦場カメラマン「……見ればわかる」ゼエゼエ

 

北条先生「ん、あれは……」

 

戦場カメラマン「……来たか」ゼエゼエ

 

 

――――――天より石碑が舞い降りたかと思うと、それが横向きに浮き上がり、適能者(デュナミスト)を“光”にして収容する石棺となったのである。

 

 

北条先生「あ、姫矢さん!」

 

北条先生「――――――え、『しばらく治療に専念する』って?」

 

北条先生「……ああ、飛んでいっちゃった」

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「先生、状況は!? 姫矢さんは!?」

――――――

 

北条先生「姫矢さんは、ザラガスを撃破後にストーンフリューゲルと喚ばれる石棺のような飛行物体に収容されて飛んでいった……」

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「――――――『ストーンフリューゲル』?」

 

ロボット職員(インナースペース)「もしかして、さっき通過していった小型の未確認飛行物体のことですか?」

 

ロボット職員(インナースペース)「電気系統に異常が発生して危うく失速するところでした」

――――――

 

北条先生「おそらく、それです」

 

北条先生「あれは適能者(デュナミスト)専用のメディカルマシーンを兼ねたビークルなのかもしれませんね」

 

北条先生「あれに乗って姫矢さんは学園都市:キヴォトスにやってきたのかもしれない……」

 

北条先生「しかし、ザラガスが目潰し攻撃とは正反対の直接的な攻撃力を得た第3形態になるだなんて……」

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「そうですね。怪獣もまた進化しているのでしょう」

――――――

 

北条先生「決して笑い事ではないんだ、これは……」

 

北条先生「忠告をしていたとは言え――――――、私有地で工事をしていたとは言え――――――、尊い命が失われたわけではないとは言え――――――、」

 

北条先生「いったいどうしてこんな結果になってしまったのだ……」

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「……先生」

――――――

 

北条先生「僕はこのままここに居ますので、現場検証は対閃光防御を完璧した上でお願いします」

 

――――――

ロボット職員(インナースペース)「……わかりました。GUTSガルーダは帰投して修理に出しますので、先生も迎えが来るまで気をつけてください」

――――――

 

北条先生「はい。迎えは早めにお願いしますよ」

 

北条先生「変身怪獣:ザラガス――――――、とんでもなく恐ろしい怪獣であった」

 

北条先生「だが、真に恐ろしい敵とは――――――」

 

 

――――――結果として、ウルトラマンは怪獣を倒すことができた。しかし、その結果は鋭い痛みが伴うものであった。

 

 

情報源である【アーカイブドキュメント】に存在しなかった変身怪獣:ザラガスの第3形態は背中にびっしりとある他に正面にも存在するフラッシュ発射口が無数の長い棘に変貌し、さながらハリネズミやヤマアラシのような外見になり、ウルトラマンネクサス ジュネッスの胴体に鋭く突き刺さったのである。

 

これこそが変身怪獣:ザラガスの怖さであり、体質変化能力によって突如として性能が様変わりすることで戦っている相手に少なからぬ動揺を与え、その対処のために更なる負担を強いられることになるのだ。

 

しかし、直前に失明攻撃:ザラガスフラッシュによって視力を奪われていた相手に対してフラッシュ発射口が変化した棘で突き刺してしまったことで逆に互いに身動きが取れない状況に陥り、敵の居場所を掴むことができたウルトラマンネクサス ジュネッス捨て身のオーバーレイ・シュトロームを喰らう羽目になったのである。

 

良くも悪くも、自身の体質変化能力によって、ウルトラマンを倒すどころか、逆にウルトラマンの必殺技を直撃を受けて消滅させられる結果になったというわけであった。

 

だが、終わってみれば、変身怪獣:ザラガスによる死傷者は出なかったものの、ストーンフリューゲルによる治療に専念することになった戦場カメラマン:姫矢 ジュンは戦線離脱となり、アビドス遠征を支えた対怪獣兵器:GUTSガルーダもザラガスフラッシュの強烈な閃光でイメージセンサーが破壊されたために修理に出さざるを得ず、

 

他にも、ザラガスフラッシュによって出現地点の監視所のカメラが次々と使用不能になり、無謀にも怪獣無法地帯に送り込まれて不幸にもザラガスに接近された工事作業員たちが失明するという被害にも目を向けざるを得なかったのだ――――――。

 

これにより、北条先生の忠告を無視して怪獣無法地帯で鉄道工事を強行させた【セイント・ネフティス】【ハイランダー鉄道学園】に対する世間の評判が悪化したのは言うまでもないことだろう。

 

 

神代キヴォトス人「そうか。我らが離れている隙にそんなことが起きていたか」

 

宇宙格闘士の帝王「それで姫矢 ジュンが治療に専念するために戦線離脱とはな。変身怪獣:ザラガス、かなりの強豪怪獣だったということか……」

 

神代キヴォトス人「我は定期的に【アビス】に帰らなければならなかったわけだが……」

 

宇宙格闘士の帝王「オレは未調査領域の調査に護衛として同行していたから、すぐには駆けつけることができなかった……」

 

ロボット職員「わかっています。だからこそ、安全圏と思われていた場所から鉄道工事が始まったわけでして……」

 

ロボット職員「そんなこんなで、現在【セイント・ネフティス】と【ハイランダー鉄道学園】は大荒れでして……」

 

宇宙格闘士の帝王「当然の話だな。誰よりも人命第一主義を貫いている北条先生の忠告を無視して怪獣無法地帯で鉄道工事を強行させた報いだ。はっきり言って愚かだな」

 

ロボット職員「一応、犠牲者は出なかったわけですし、これでアビドス遠征の足を引っ張る輩が出てこなくなるのなら、最小限の被害ということで納得はできますが……」

 

神代キヴォトス人「やはりな」

 

ロボット職員「何がです?」

 

 

神代キヴォトス人「――――――この砂漠に渦巻く悪意、何かを隠そうとしているな?」

 

 

神代キヴォトス人「と言うより、以前にスペースビーストを使役していた闇の巨人と遭遇したことがあるだろう」

 

ロボット職員「まさか、ザラガスが闇怪獣として現れたのも闇の巨人が――――――?」

 

神代キヴォトス人「そうかもしれんな」

 

宇宙格闘士の帝王「オレたちの行動が何者かに操られているとでも言うのか!」

 

神代キヴォトス人「因果律の操作とは得てしてそういうものだ。人間がそう行動するような自然な流れを生み出すのだ。きっかけは本当に些細なものに思えるものでな」

 

神代キヴォトス人「いわゆる呪術の類だな。あれらの本質は因果律を歪めて己が望む事象を手繰り寄せるものだ」

 

神代キヴォトス人「だが、青二才め、我を誰と心得ている? 3000万年以上にこの地上に栄えた超古代文明へと続く神代からゲヘナの豊饒の大地を造成を司ってきた“地獄の釜の門番”であるぞ?」

 

神代キヴォトス人「呪術の扱いぐらい我は心得ているぞ」

 

ロボット職員「はあ、そうなんですか?」

 

神代キヴォトス人「まあ、エネルギー効率が悪すぎるからこそ、肉体を持って身体を直接動かした方がいいのだがな。こんな効率が悪いものだけで結果を得ようとしている輩というのは頭が悪いを通り越して哀れですらある」

 

神代キヴォトス人「実際、先生を見てみろ。先生は呪術の類に頼らずともキヴォトスをここまで善き方向へと導いてきたであろう。呪術などなくとも、透徹した意志が望む未来を手繰り寄せているのだ」

 

ロボット職員「そうですね。先生の側にいると今まで不可能だとか無理だとか思えていたことが何でもないものに思えてきます。パワーをもらえます」

 

ロボット職員「でも、知らない間に何者かに意のままに操られていると聞かされたら、どうしようもない気が……」

 

神代キヴォトス人「心配するな。どれだけ高みから人の営みに干渉しようと、現実世界を形作っているのはどこまでいっても末端の人間である民草が居てこそよ。どんな大業もそれを手足のように扱って事を成し遂げられるわけなのだから、末端の人間を平気で使い捨てる愚か者はそれこそ末端壊死を迎えて四肢をもがれるだけよ」

 

宇宙格闘士の帝王「答えになっていないぞ、サーベラス」

 

神代キヴォトス人「不安か?」

 

宇宙格闘士の帝王「まさか。姿を見せる度胸のない臆病者ごときに、この“宇宙の帝王”が恐れをなすとでも思ったか。ただ、不快に思っただけだ」

 

神代キヴォトス人「なら、なんてことはない」

 

神代キヴォトス人「何一つ心配することはない。宗教ではそれを神の試練と称して人生には苦難がつきものであることを説いているのだから、お前たちも喜び勇んで苦楽を共にするがよい。それが人生の醍醐味であるからな」

 

ロボット職員「何か妙に声が上ずっていませんか、サーベラス様?」

 

神代キヴォトス人「そうかな?」

 

宇宙格闘士の帝王「ああ。浮かれ気分になっているのが丸わかりの声音で気色が悪い」

 

神代キヴォトス人「しかたがないであろう? 闇の巨人を狩ることが光の眷属としての栄誉であるからには、久々の獲物だ、獲物の方から存在を匂わしてくれたのだから」

 

 

――――――それに言うではないか。人を呪わば穴二つ;人を不幸に陥れようとすることは自分もまた不幸になるということを人生を舐め腐った青二才に教えてやろう。

 

 

ロボット職員「……あれからずっと目をつけているわけですか」

 

神代キヴォトス人「ああ。だから、心配することなどない。どうして現代に呪術が途絶えてしまったのかと言えば、使いこなせるだけの器量を持った人間が生まれてこなくなったという大自然の摂理によるものだ」

 

ロボット職員「どういうことですか?」

 

神代キヴォトス人「呪術の本質は想いの力であり、元々は百獣に対してすこぶる能力が劣る人間(ヒト)が大自然の中で繰り広げられる生存競争で生き延びるために祈りを捧げたのが起源なのだ」

 

神代キヴォトス人「つまり、今日一日を生き延びられたことへの感謝、明日も生き抜くために必要なものを勝ち取るための祈願が呪術の源流なのだ」

 

神代キヴォトス人「現代社会に比べて非常に暴力的(プリミティブ)な危険に満ちた原始時代の人間(ヒト)が今日まで命を繋いで地上の支配者になれたのは人間(ヒト)が祈りを捧げることができていたからに他ならない」

 

神代キヴォトス人「たとえば、『たくさん獲物が採れますように』『今日もまた怪我をしないように』『凶悪な人喰い動物に遭遇しないように』――――――」

 

神代キヴォトス人「そうした祈りを積み重ねていったことによって得られた運に助けられて弱肉強食の世界においては弱小に思えた人間(ヒト)はわずかな可能性を次々と掴み取っていったのだ」

 

ロボット職員「へえ。たしかに、僕としても祈らずにはいられないですよ、何もかもが不確かで こうも不安に満ちた世界で生きるなら」

 

神代キヴォトス人「そうして原始時代から人間(ヒト)は弱肉強食の世界で祈ることによって 現実の事象を塗り替える運を掴んで生き永らえることで 度重なる閃きと積み重ねてきた生活の知恵を応用して、蓄積して、伝播させていくことで、こうして地上に高度な文明を築くに至ったのだ」

 

宇宙格闘士の帝王「北条先生なら感心する講釈だが、それがこの辺境の惑星で廃れた呪術とどう関係してくるというのだ?」

 

神代キヴォトス人「わからんか? 力こそが全ての弱肉強食の世界だからこそ、生まれ持った肉体に支配された世界;その対立命題(アンチテーゼ)として意識の世界が発達したのだ」

 

ロボット職員「つまり、力を持たない者の武器として想いの力が発達し、文明が栄えることによって力を持って驕り高ぶった人間(ヒト)は自分たちが培ってきた想いの力を使いこなすだけの精神的素養が退化していると?」

 

神代キヴォトス人「その通りである。意思の力を物質世界を制する力に変えて文明を築き上げた後、人間(ヒト)はまったく祈らなくなったと言ってもいい。それだけ死を恐れる必要がない安穏とした暮らしを手にしたからだと言えば、それまでだが」

 

神代キヴォトス人「実際、我は超古代文明で活用されていた光ネットワークに出入りして、この地に秘め置かれた叡智を閲覧してくることができるが、これもまた一種の呪術――――――」

 

神代キヴォトス人「そして、呪術の根源にあるのは 幾星霜 何世代にも積み重ねてきた人々の想いであるぞ」

 

神代キヴォトス人「そこから現実世界の事象を干渉する力に変換するのが俗に呪術と呼ばれているものなのだから、未来永劫に続くかと思われる時の中で命のバトンを繋ぐ度に積もり積もってきた人類に共通した真摯な想いに対して、くだらぬ目的のために他人の犠牲を厭わぬ者に無限に等しい想いの力が引き出せると思うか?」

 

宇宙格闘士の帝王「なるほどな、言わんとしたいことはわかったぞ」

 

宇宙格闘士の帝王「たしかに、呪術なんぞに頼らなくても強くなれる環境や遺伝子を持っているのなら、誰も生きるのに苦労はしないわけだが、それでは何の創意工夫も生まれてはこない。必要がないからだ。不便を感じないからだ。生きる辛さがないからだ」

 

宇宙格闘士の帝王「しかし、弱肉強食が宇宙の真理である以上、時代の流れによって次々と這い上がっては台頭してくるまだ見ぬ強者たちによって支配者の地位を押し退けられて淘汰されたくなければ、安息は程々にして怠らずに強さを磨き上げていく他、この宇宙で繁栄し続ける方法はない――――――」

 

宇宙格闘士の帝王「力だけではない搦め手も含めた戦術や兵法も発達している事実を踏まえれば、それらもまた力だけでは足りないものを補うための切実な祈りによって形になったものなのだな?」

 

神代キヴォトス人「さすがは、宇宙格闘士を生業にしている戦闘民族だな。通じるものがあったか」

 

神代キヴォトス人「つまりはそういうことだぞ、コーイチよ」

 

ロボット職員「へ、何がです?」

 

神代キヴォトス人「術者が何を考えているのかは今の段階では何もわからぬが、我らは生命の誕生の瞬間から脈々と受け継いで今もなお進化し続けている“大いなる意思”に導かれているのだから、何者かの意思に導かれて今日を生きていることなんて今更な話なのだから、気にするな」

 

ロボット職員「ええええ? この話、サーベラス様から振ったんですよ? それなら、不安を煽るようなことを言わないでくださいよ!?」

 

神代キヴォトス人「だが、コーイチよ、お主はイーリスによって“光を継ぐ者”という御魂が欲する(役者が演じる)ところに導かれて地球で“光”を追い求める人生(役割)を歩まされてきたことが明かされたわけだが、そのことに後悔などないであろう」

 

ロボット職員「それは……」

 

宇宙格闘士の帝王「くだらんな。結局は『何者かの思惑があろうと、自分の力で未来を切り拓けばいい』という当たり前の結論に帰結しただけだ」

 

神代キヴォトス人「たしかにそうだが、そうではないぞ、グレゴール星人よ」

 

宇宙格闘士の帝王「なに?」

 

 

神代キヴォトス人「今まで認識していなかった 目に見えない次元で我らを守り導く“大いなる意思”の存在と、我らの進むべき道を惑わす“見えざる脅威”の存在を認識したことで、自分たちを取り巻く世界への理解に深みが増したであろう」

 

 

ロボット職員「それは、たしかに、そうかもしれませんね……」

 

ロボット職員「まるで狙ったかのようにサーベラス様とグレゴリオ様が離れた隙に強行された鉄道工事をちょうどよく凶悪怪獣が襲撃して姫矢さんが戦線離脱させられた状況に僕は恐れ慄いていましたが……」

 

宇宙格闘士の帝王「そうだな。オレも何か不吉なものを感じてはいた。これが敵の策略によるものだと疑い始めた時に自分の中の芯がわずかばかり揺らぐところだったが――――――、拳一つで暗黒宇宙を渡り歩いて猛者たちとの戦いに遮二無二になっていた時、オレは何も考えずに猛者たちを打倒してきたのだ」

 

宇宙格闘士の帝王「言いたいことはわかった。オレたちの隙を狙っている敵の存在が確かになったわけだが、その程度でオレたちの進軍を止められはしない」

 

ロボット職員「わかりました。そのことを心に留めて、アビドス遠征を終わりへと持っていきましょう」

 

神代キヴォトス人「そう、それでいいのだ、コーイチよ」

 

 

神代キヴォトス人「――――――存分に役目(想い)を果たされよ、コーイチ。“光を継ぐ者”よ」

 

 

ロボット職員「はい。サーベラス様」

 

ロボット職員「でも、僕はいいとして、先生は今回の怪獣災害の被害をかなり気にしていて――――――」

 

宇宙格闘士の帝王「そこまで心配する必要はないはずだぞ、コーイチ」

 

宇宙格闘士の帝王「忘れたのか。このオレに対して あそこまで容赦(遠慮)なく思いついたアイデアを試すような胆力の持ち主だぞ。あそこまでの思い切りの良さにはさすがのオレでもたじろぐほどだったのだ」

 

宇宙格闘士の帝王「そして、半世紀に渡って怪獣と戦い続けてきたという地球の歴史を背負っていることに嘘偽りなどないのだから、北条先生は必ずや立ち直るはずだ」

 

神代キヴォトス人「ああ。おそらくは我々があっと驚くような跳躍ぶりを見せつけることだろう。スポンジのような吸収力にバネのような瞬発力が北条先生の行動力の源なのでな」

 

神代キヴォトス人「おそらく、先生は怪獣退治の専門家として『怪獣にやられたら怪獣に倍返しする』精神で完膚なきまで怪獣災害を叩きのめすようなものを世に提示してくることであろう」

 

ロボット職員「そうだと良いのですが……」ピピッ

 

ロボット職員「あ、先生からだ」

 

 

ロボット職員「――――――あ、先生ですか?」

 

ロボット職員「――――――大丈夫なんですね」

 

ロボット職員「――――――わかりました。すぐに向かいます」

 

 

神代キヴォトス人「どうだった、コーイチ? 先生の様子は?」

 

ロボット職員「はい。悩んでいる暇があったら、目の前の今なすべきことに注力するだけだと……」

 

宇宙格闘士の帝王「やはりな。先生は強い。いったいどれだけの今なすべきことだと動き出せるアイデアが頭の中に詰まっているのだろうな」

 

ロボット職員「先生から『救急病院で荷物を運び入れるのを手伝って欲しい』と言われましたので、行きましょう」

 

宇宙格闘士の帝王「よし、救急病院だな」

 

神代キヴォトス人「ほう、入院患者のためになるものをすぐに手配していたというわけか。さすがに動きが早いな」

 

ロボット職員「ええ。僕としても北条先生が何をしようとしているのか、それを見るのが楽しみです」

 

 

不毛の大地:アビドス砂漠にて、砂漠横断鉄道の鉄道工事を襲撃した闇怪獣:ザラガスがもたらした人的被害に少なからぬ動揺が内外で走っていた。

 

変身怪獣:ザラガスはこれまでアビドス砂漠に登場した人喰い怪獣や凶悪怪獣とちがって非殺傷攻撃が主だったため、死傷者が出ることはなかったのは不幸中の幸いではあったものの、悪鬼のごとき失明攻撃:ザラガスフラッシュによって怪獣の方を見ていただけで突如として視力を失ってしまう容赦のなさを前にしたら、搬送先の救急病院で目が見えなくなったことで呻く被害者たちに対してそんなことを言うわけにもいかなかった。

 

死んでしまっては元も子もないわけで 生きているだけでも儲けものではあるが、人間は日常生活で得る情報を8割以上を視覚に頼っているため、文字通りに光を失ってしまった人たちの苦しみは想像を絶するものがあった。人間らしい生活を送れなくなった者は ()()()()()()()()()()()()()だけで ()()()()()()()()()()とも言い難い状況に追い込まれていた。

 

だからこそ、怪獣退治の専門家:北条 アキラは搬送先の病院で目に包帯(眼帯)を巻かれた工事作業員たちの許を訪れ、ひとりひとりの手を握って温かい声を掛けて安心させることに努めたのだった。

 

キヴォトス史上最大の軍事力【キヴォトス防衛軍】の軍事顧問が直々に看病するという緊急事態により、アビドス砂漠で予定されていた“悪魔の穴”や“幻のオアシス”といった怪獣が正体と思われる怪奇現象の解明と怪獣討伐の実施がまたしても後回しになってしまうわけなのだが、

 

怪獣退治の専門家の中でもマイナスエネルギー対策の第一人者であった“GUYSの先生”北条 アキラとしては今回の鉄道工事に駆り出された工事作業員たちの恨み辛みがマイナスエネルギーを生み出す可能性が大きいため、本来ならば工事責任者である【ハイランダー鉄道学園】がすべきことだったが、それに成り代わってマイナスエネルギーによる怪獣出現を抑止するために寄り添わねばならない実情があったのだ。

 

とにかく、2,3日はつきっきりとなって目が見えなくなった生活に慣れさせて落ち着かせる必要があり、アビドス砂漠が怪獣無法地帯であることが判明してから建設が急がれていた新アビドス自治区の救急病院の記念すべき初の入院患者たちを御自ら手厚く看病することになったのである。

 

小学校の先生が本職である地球人:北条 アキラには盲学校のカリキュラムの心得はなかったものの、地球が宇宙に誇るべき福祉制度として障害者スポーツ(Para-sports)についての学びはあったため、音楽の授業と並行して視覚障害者のスポーツ(Blind Sports)の数々を紹介することになったのである。

 

そのため、簡単に演奏できる初心者向けの楽器が集められ、視覚障害者のスポーツ(Blind Sports)用のオセロやチェスが用意され、エアホッケーの台も運び込まれたのだが、その他にもキヴォトス人が初めて目にすることになったのが反射する壁のないエアホッケーのようなサウンドテーブルテニスであったのだ――――――。

 

 

サウンドテーブルテニスは普通のテーブルテニスとはルールが異なり、視覚障害者用に様々な工夫が凝らされたテーブルで 転がるときに音が出るようになっているボールをネットの下を通過させて ラケットを垂直に立てて打ち合う独自のものであり、日本発祥の盲人ピンポンであった。

 

エアホッケーは基本的に視覚障害者のプレイを支える介護者が必要ない完全自動化したモデルを持ち込んでいたのだが、サウンドテーブルテニスは介護者必須のためにプレイするにはテーブルから落ちたボールを拾って渡したり 審判員を務めたりと、完全自動化されたエアホッケーと比べて一手間二手間かかる競技となっていたが、

 

地球人:北条 アキラがわざわざエアホッケーと一緒にサウンドテーブルテニスの台を持ち込んで本格的な障害者スポーツ(Para-sports)の第一号として学園都市:キヴォトスに紹介したのにはいくつもの利点となる理由があったからなのだ。

 

第一は、基本がテーブルテニスなのでルールがわかりやすく機械判定が容易であり、同じく初めてサウンドテーブルテニスに触れる審判員を務める介護者にも細かいルールや反則を覚えさせる必要がなく、直感的なプレイと進行ができる点にあった。

 

第二は、障害者スポーツ(Para-sports)として競技者と介護者の連携を自然と促せる競技内容であり、落ちたボールを介護者が拾って競技者に渡したり 審判員として得点を数えたりで 介護者側も意外と暇にならないことが障害者との連帯感と理解をもたらすのだ。

 

第三は、サウンドテーブルテニスは視覚障害者のスポーツ(Blind Sports)として掛け声が大事となっており、サーブ側は必ず『いきます』の宣言をしてレシーブ側が『はい』と宣言しないとプレイが成立しないため、これが『礼に始まり、礼に終わる』日本が世界に誇る武道の精神を養うものとして地球人:北条 アキラが注目していたのだ。

 

そして、いざ介護者をつけてサウンドテーブルテニスをやらせてみると、圧倒的銃社会で育った勝ち気な性格のキヴォトス人には完全自動化されたエアホッケーよりもサウンドテーブルテニスの方が性に合っているらしく、晴眼者(健常者)も目隠しをすれば視覚障害者と対等の条件でプレイできるため、見舞客も一緒になって入院患者たちと白熱したゲームをプレイする光景が広がったのである。

 

予想以上にサウンドテーブルテニスが好評だった理由としては、圧倒的銃社会であるキヴォトスでは日常的に銃声や爆発音に対する警戒心が育つため、視覚を封じて音を頼りにする傾向の視覚障害者のスポーツ(Blind Sports)がそうしたことに対する良い訓練となっており、勝ち気な性格のために完全自動化されたエアホッケーよりも難易度が高いこともキヴォトス人の闘争心を掻き立てるものとなったのだ。

 

また、細かいルールや反則の判定も キヴォトスでは誰も知らない未体験のスポーツが受け入れられるように 丹精込めて作ったラケットやボールの動きに連動して ロボット審判が自動で判定してゲームの進行を円滑なものに仕上げているため、誰も正確なルールを知らなくても普通のテーブルテニスと同じような感覚でやりながら視覚障害者のスポーツ(Blind Sports)用に調整された細かなちがいへの気づき(awareness)を得ることができるのだ。

 

そして、競技者と介護者が一体感を持った障害者スポーツ(Para-sports)に多感な年頃の学生時代に触れることで他者を思いやる必要性や経験が培われることになり、これがサウンドテーブルテニスのゲームに参加した者同士で通じ合う結束を生み出すことになったのだ。

 

そのため、ここまですんなりと受け入れられたのには紹介者である北条先生への絶大な信頼と誰も知らない競技を円滑に進行してくれるロボット審判の存在が必要不可欠であったものの、競技内容自体は視覚障害者のスポーツ(Blind Sports)用に調整されたテーブルテニスとして理解しやすいものであったため、通常のテーブルテニスのマイナーチェンジ版として正確なルールの把握は無理でも世間一般に広く認知されていくことになったのだ。

 

そもそもが、サウンドテーブルテニスは通常のテーブルテニスとは正反対にネットの下にボールを通す平面的な競技であるために三次元の軌道を捉えてレシーブする必要がなく、紹介の際に比較されたエアホッケーを理解できていれば、実態がテーブルテニスを利用したエアホッケーということで理解が得やすいのも大きかった。

 

なので、テーブルテニスをしている最中に悪ふざけやじゃれ合いでサウンドテーブルテニスごっこに切り替えられる点も、学園都市:キヴォトスで急速に視覚障害者のスポーツ(Blind Sports):サウンドテーブルテニスの認知の向上や普及に貢献することになることになったのだ。

 

だが、忘れてはいけないのはこうした事態をあらかじめ見越して用意していた地球人:北条 アキラの準備の良さであり、【キヴォトス防衛学園】に再編された【SRT特殊学園】の生徒たちにチームワークを養わせる目的で開発をさせていたという恐るべき着眼点と卓越した先見性によるものであった。

 

後日、実際に開発に携わっていたSRT生を呼び寄せてプレイさせると、一日の長を見せつけるかのように他を圧倒する競技者のラケット使いと、すぐにボールを拾って競技者に渡してプレイを再開させる審判員である介護者の身のこなしが話題となり、サウンドテーブルテニスがキヴォトス中で流行する大きなきっかけにすらなったのである。

 

結果、新アビドス自治区の救急病院で本邦初公開となるサウンドテーブルテニスの紹介と同時にサウンドテーブルテニスのルールブックが公開され、公式ルールに則ったテーブルやラケット、ボール、審判ロボットといったサウンドテーブルテニスの道具一式の販売も行われていたため、その販売台数が急上昇したことは言うまでもないことだろう――――――。

 

 

こういった心遣いが怪獣の失明攻撃を受けてしまった仲間を心配した見舞客を通じて評判となり、すでに入院患者たちと打ち解けていた北条先生を中心とした輪の中に見舞客たちも組み込んで、目が見えなくなって真っ暗闇になった人生ドン底の入院生活に明るい光を灯すこととなったのだ。

 

そう、あくまでも“シャーレの先生”であり“GUYSの先生”である地球人:北条 アキラが完治までの面倒を見てくれるわけではなかったものの、ここは新アビドス自治区の救急病院ということでアビドス遠征中ならば通いやすい場所であるため、何度も見舞いに来ることを約束してくれたわけなのだから、それがどれだけ心細い入院生活の中で心強いものだったかは言うまでもないことである。

 

それと同時に、マイナスエネルギーの温床となる怪獣無法地帯での鉄道工事への恨み言や不平不満を現場の声として存分に吐き出させて記録することになり、人命よりも鉄道工事を優先させた悪徳企業【セイント・ネフティス】に対する行政処分を急がせることとなった。

 

当然、【キヴォトス防衛軍】の定例会見や怪獣速報で怪獣無法地帯での鉄道工事が包み隠さず世間に公表されていたことだし、怪獣退治の専門家:北条 アキラのこれまでの忠告を尽く無視して惨事を引き起こしてしまった悪徳企業【セイント・ネフティス】に対する同情の余地など一切ない。

 

実際、こればかりはさすがに“GUYSの先生”も庇う気がまったくなく、救急病院に不躾に押し掛けてきたマスコミのインタビューで忌憚のない意見を被害者たちが言うのを黙認しており、悪徳企業に対する社会的制裁を求める声が燃え広がることになったのである。

 

しかし、失踪した“連邦生徒会長”の実質的な後継者としてキヴォトスの頂点に立つ存在:北条 アキラの絶望的な状況をひっくり返す鬼才ぶりが真に発揮されるのはここからであった。すでに事態を逆手に取って視覚障害者のスポーツ(Blind Sports):サウンドテーブルテニスを普及させるという離れ業を見せただけでは留まらない――――――。

 

 

――――――デジタルミュージアムの究極形であるバリアフリー機構:ARバリアフリーマシンの更なる社会進出;障害福祉サービスへの利用拡大である!

 

 

変身怪獣:ザラガスの失明攻撃の被害者たちに優先して第一世代型ARバリアフリーマシン:シンクロボットを利用させたことにより、介護者要らずの自立した生活の第一歩を実現したのである。

 

それだけではない。ARバリアフリーマシンの技術とノウハウを応用することができれば、様々な形状のものとシンクロできるシンクロボットの開発に繋がり、現場での作業ができないドローンに代わって危険地帯の調査にも使えて人命保護に繋がるため、バリアフリー機構:シンクロボットの開発に“GUYSの先生”北条 アキラはかなりの情熱を注いでいたわけなのだが、

 

【セミナー】直属の特務組織【特異現象捜査部】の部長である明星 ヒマリが使用しているハイテク車椅子を参考にした障害福祉サービス用の車椅子モデルの第二世代方ARバリアフリーマシン:シンクロードスター*5がついに投入されることになり、ヘッドマウントディスプレイのヘルメットで電脳接続(リンクアップ)することで、視覚障害者にヘルメットのイメージセンサーから得た画像を投影させることが可能となったのである。

 

つまり、バリアフリーの本懐を遂げた偉大な発明ということになり、サウンドテーブルテニスの普及だけでも視覚障害者たちに生きる希望を与えたと言うのに、失われたはずの色とりどりの世界を取り戻せた感動はもはや言葉には言い表せないほどであり、感極まってむせび泣く者が続出したのである。

 

もちろん、それだけの高性能機器やバッテリーの搭載によって車椅子らしからぬ重量や稼働時間に難点を抱えているものの、あくまでも障害福祉サービス用としてのお出かけ用と割り切ることで、第一世代型ARバリアフリーマシン:シンクロボットとの両立が図られていた。

 

そのため、失明を完治させたわけではないが、変身怪獣:ザラガスによってもたらされた深刻な健康被害に対する明確な解答を出したことになり、これがアビドス遠征における“GUYSの先生”北条 アキラの名声を更に高めることとなったのである――――――。

 

 

カーン! カーン! カーン!

 

 

朝霧 スオウ「……先生としては満足な結果だろうな」

 

北条先生「別に。僕としては被害が出ないことに越したことはないので、怪獣災害によって5の悲しみがもたらされたのなら、10の喜びでもって倍返しにするのが せめてもの慰め(腹癒せ)ですよ」

 

朝霧 スオウ「だが、先生の望み通り、最小の犠牲で砂漠横断鉄道の鉄道工事は頓挫した。みんな 工事現場から逃げ出してしまった……」

 

北条先生「そんなのは当然でしょう。誰だって自分の命が惜しいのですから、怪獣無法地帯での鉄道工事の安全性が保証されないとわかれば、我先にと逃げ出すことぐらい当たり前の現象(こと)です」

 

北条先生「それに、砂漠横断鉄道の実現そのものはやりたければ勝手にどうぞ。アビドス遠征が終わった後の安全が確認された 作戦行動の邪魔にならない時期を選べば 何の問題もなかった話ですから」

 

朝霧 スオウ「そうだな。先生の言う通りだったよ」

 

朝霧 スオウ「わかっていながら、人は過ちを繰り返す」

 

朝霧 スオウ「だが、末恐ろしいのは、こうした事態を見越して何もかを先生が準備していたことに他ならない」

 

朝霧 スオウ「一部ではその準備の良さをマッチポンプだと声高に叫ぶ陰謀論者がいるぐらいだ。他人の不幸を踏み台扱いにして先生はキヴォトスの頂点に立っているのだと」

 

北条先生「あのですね、僕は怪獣退治の専門家として“連邦生徒会長”に召喚されて現地調査をした結果、最初の怪獣:クレッセントの存在を確信して対怪獣兵器の開発を【連邦生徒会】に要請して却下されていた事実をみんな忘れていませんか?」

 

北条先生「最初から僕の要請が承認されて対怪獣兵器の開発が少しでも早く進められていれば、Xデーはもう少しマシな結果になっていたでしょうに」

 

北条先生「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ;鉄血宰相:オットー・フォン・ビスマルクの言葉だ」

 

朝霧 スオウ「――――――『鉄血宰相』?」

 

北条先生「ただ単に自分が痛い目に遭ったからこそ、僕が用意した処方薬の必要性を痛感して、付き従うようになっただけじゃないですか。自分事じゃないから聞く耳を持たなかっただけでしょう」

 

北条先生「今でこそ、これまでのキヴォトスには存在しなかった概念に対する抵抗感は薄れてはいるけど、そうなったのはひとえに発信者である僕自身が信用と実績を積み重ねてきたからであって、それまでにどれだけの準備と苦労があったのかを知ろうともしない」

 

北条先生「サウンドテーブルテニスだって、このエアホッケーを参考に記憶を頼りにテーブルやラケットを設計したのを何度も試遊してもらっては調整を加えていったわけであって……」

 

北条先生「僕自身が批判されることは別にいいんだよ。イエスマンしか周りにいない人生は不健全だし、どんなに間違った主義主張をしているように思えても、それを頭ごなしに否定しないことが民主共和制の理念である基本的人権の尊重なのだから」

 

北条先生「けど、同じように相手の事情を汲み取れない自分本位な狭量な価値観で生きていることも不健全極まりない。多様性の否定は社会の閉塞感を生み出し、進化の袋小路に追い込まれることになる」

 

朝霧 スオウ「ああ、そうだな、先生」

 

 

――――――エアホッケーのゲームは互いに無失点でひたすらラリーが続き、そのまま試合終了のブザーが鳴った。

 

 

朝霧 スオウ「なあ、先生」

 

朝霧 スオウ「最近、気づいたんだが、先生のやろうとしていることは常に誰かの尻拭いをすることが前提にあるように思うのだが」

 

北条先生「そういうものですよ、人助けなんて。教育なんて。防衛なんて」

 

北条先生「一人で自立できないから みんな人生で困っているわけで、その不完全さを他人の手を借りて補って人生を豊かにしているくせに、僕が他人の不幸を踏み台にしているとか言われてもねぇ?」

 

北条先生「むしろ、僕の苦労を知らないで昨日までと同じ毎日を送れると信じているのだとすれば、僕の方が何もしていないみなさんの平和のための踏み台にされている側だと思いませんか?」

 

朝霧 スオウ「それがわかっていて、なんで先生は踏み台にされているのですか?」

 

 

北条先生「子曰わく、古の学者は己の為にし、今の学者は人の為にす」

 

 

朝霧 スオウ「え」

 

北条先生「かつて学問とは自己修養のために学ぶものだったが、現代は他人に認められたいという自己顕示欲から箔付けで学問に取り組む傾向にある」

 

北条先生「もちろん、自己修養とは他人からの評価に繋がるものだから、多少なりとも自己顕示欲がそこに絡んでいるところはあるし、それが学問を志すきっかけになることもある」

 

北条先生「けど、これで間違えてはいけないのは、相対的に どちらが主で どちらが従であるかの見極めだ」

 

北条先生「他人にどうこう言われてやるのではなく、自分でこれが良いと信じたことを貫く精神が重要なのだ」

 

北条先生「他人に良く思われたいから人助けをするのではない。それが良いことだと教わったことを自分から実践するのだ。揺るがぬ信念とはそういうものでしょう」

 

朝霧 スオウ「…………『良いこと』ですか」

 

北条先生「そうです。僕は地球人として“いつの日か宇宙に誇る地球にするために”良いことをし続けているのです」

 

北条先生「だからこそ、言葉の意味を間違えないで欲しいのです」

 

 

――――――情けは人の為ならず。なぜなら、Today you, tomorrow me(今日のあなたは明日の私);明日は我が身なのだから。自分も相手も世間様も同じであることを理解すること;それが限りない愛の力(相互理解)の第一歩と言えるでしょう。

 

 

*1
紙の経年劣化によって紙を構成するセルロース分子鎖が分断されて徐々に短くなると同時に生成される有機酸の量を測定している。

*2
水素と酸素の混合気体:水素爆鳴気。点火すると爆発して大きな音を発生させ、理科の実験レベルなら安全に行えるが、水素爆発の一種なので大規模になると大変危険。

*3
光度の単位:cd(カンデラ)とは“ろうそく”を意味するラテン語であり、それに因んで1cdは一般的なろうそく1本の明るさとほぼ同じと定義され、光度[cd(カンデラ)]=照度[lx(ルクス)]×距離の2乗[m2] で求めることが出来る。

*4
6400cdは、ロービームのヘッドライトの光量として車検の基準に定められており、15m先にある障害物を確認できる程度の明るさ。

*5
Roadster:乗馬競技用のスピード重視の軽装馬車




-Document GUYS feat.LXXX No.17-

変身怪獣:ザラガス 登場作品『ウルトラマン』第36話『射つな! アラシ』登場
突如 空から降り注いだ6千万カンデラの閃光と共に東京の児童会館の地下から現れた凶暴な怪獣。各所に黒い甲殻を纏った体と前へせり出した頭、額の辺りから前に伸びている角が特徴の地底怪獣である。
額からの閃光で東京の市街地で多発していた「謎の閃光で失明する事件」を引き起こしており、最終的に1万8千人もの市民や科学特捜隊隊員の角膜を損傷させて失明させるという甚大な被害を出したため、総合防衛委員会は科特隊に「1発で倒せる方法がない限り攻撃中止」と命令を下すほどの難敵であった。
そして、変身怪獣の名の通りに攻撃を受けると その攻撃に対して耐性を持つように自身の体質を変化させる能力を持っており、さらに強いダメージを受けると自身の外見をも変化させる。
そのため、第1形態は頭部・腹部・背中が殻で覆われている状態で頭部の角から閃光を放つのに対し、第2形態は全身から真っ赤な煙を放ちながら甲殻を脱ぎ捨て 頭部と背中の突起物型のフラッシュ発射口を展開して そこからも閃光を放てるようになるなど、体質変化の際には容姿も変化すると同時に凶暴化する。

変身怪獣:ザラガスの特徴は大きく分けて2つとなる。
1つは、前述の攻撃を受けると その攻撃に対して耐性を持つように 自身の体質を変化させる能力であり、これによって攻撃を加えていくことに完全な耐性を持った究極生物が誕生してしまう危険性から科特隊に攻撃中止が下された程であった。
ただし、この体質変化能力にも弱点はあり、攻撃を受けてから体質を変化させて耐性を付けるまでに一瞬だけ 攻撃が通用するスキが生まれるため、そこを突ければ攻略自体は可能。
また、頑丈な頭蓋骨で守られた脳への直接ダメージには弱く、体質変化能力の効果範囲外だと思われる。
もう1つは、第1形態の甲殻のあった場所に頭部や腹部、背中等に無数にある筒状の器官:フラッシュ発射口が並び、身体のあちこちにあるフラッシュ発射口から放つのが強烈な閃光:ザラガスフラッシュであり、実際には頭部と甲殻の隙間から第1形態からでも放つことが可能。
その光度は6千万カンデラであり、ウルトラマンすら一時的に失明させるものを人間相手に使ったことで1万人を超える市民を失明させるという空前絶後の被害をもたらしている。
他にも、目はX線を放ち、爪は岩石も砕いてしまうほど頑丈で、鋼鉄の5千倍の強度の頭蓋骨を持つという典型的な地底怪獣としての基本的な能力を有し、
角からの電撃光線や口からの炎など飛び道具も豊富で、展望台や電波塔を引っこ抜いて武器に使い、失明したウルトラマン相手に音を立てずに襲いかかろうとするなど狡猾な知性も有する。
そのため、その異様な発光器官の配置や驚異的な体質変化能力、全身凶器とも言える攻撃能力の高さは超獣に匹敵しており、どう考えても自然発生した地球怪獣には思えないことから改造怪獣ではないかと疑われているが、詳しいことは判明していない。


最初は姿を見せないまま人々を失明に追いやって恐るべき被害を出していたが、その際に児童会館の天井に描かれた空を割って閃光を放つ場面が印象的。
その後、地下から出現し、科特隊と交戦となり、科学特捜隊のジェットビートル2機による連携攻撃:ウルトラ十文字作戦で一度は倒されたかに見えたが、
体質変化能力で甲殻が外されて凶暴化した第2形態となって再び立ち上がった後には閃光で1万8千人もの市民の角膜を損傷させて失明させるという甚大な被害を出したため、総合防衛委員会は科特隊に「1発で倒せる方法がない限り攻撃中止」と命令を下すことに繋がるのであった。
しかし、ザラガスの襲撃によって児童会館から逃げ遅れた子供たちを発見したハヤタ隊員が救出に向かうも失明攻撃で大ピンチになり、彼らを助けようとしたアラシ隊員はイデ隊員が開発した 相手の脳細胞を破壊する 新兵器:QXガンを使用して頭部に命中させたものの、攻撃は脳には到達せず、ザラガスはQXガンへの耐性も獲得し、そのまま逃げられてしまう。
状況故にやむを得ない面が強かったが、攻撃中止の命令違反を犯したためにアラシ隊員は謹慎処分となり、科特隊バッジを取り上げられてしまう。

その後、責任を感じたアラシ隊員はザラガス再出現の一報を聞くや、ビートルに乗って無断で出撃するものの、ザラガスフラッシュにやられて撃墜されかけてしまうが、そこに失明から回復したハヤタ隊員が駆けつけ、ウルトラマンに変身してザラガスを迎え撃つ。
始めは五分の戦いでウルトラマンがザラガスの角を叩き折って優勢だったものの、背中にのしかかって攻撃している際にザラガスフラッシュを至近距離で浴びてしまい、一時的に視力を奪われて苦戦。
ザラガスが引っこ抜いた鉄塔で音もなくウルトラマンに殴りかかろうとした瞬間、アラシ隊員の乗るビートルがザラガスに急接近し、口の中にQXガンを撃ちこみ、今度は脳へのダメージを与える事に成功。
ザラガスが怯むと同時にウルトラマンの視力も回復し、体質変化が間に合わない内にすかさずスペシウム光線を発射し、ついにザラガスは倒されることとなった。
この功績を認められてアラシ隊員は謹慎処分を解かれ、無事に現場復帰したのであった。

なお、本話は脚本段階ではウルトラマンとの戦闘時に全身から棘を生やした第三形態が登場する予定だった。
当時は映像の尺や技術的問題から実現しなかったが、全身から棘を生やした第三形態というアイデアはおよそ46年後に『ウルトラマンギンガ』にて実現する事となる――――――。






本作では無謀にも怪獣無法地帯で鉄道工事をしている現場を襲撃し、闇怪獣化していたために闇怪獣特効を持つ攻撃でしか倒せないことから、今回はウルトラマンネクサスが迎撃に向かうことになり、
ウルトラマンネクサスに対して【アーカイブドキュメント】に存在しなかった第三形態となってフラッシュ発射管が変貌した鋭く伸びた棘で深手を負わせたものの、逆に互いに身動きがとれなくなったためにオーバーレイ・シュトロームの直撃を受けて消滅することとなった。
明らかに自然発生したとは思えない夥しい数のフラッシュ射出口から改造怪獣疑惑があるものの、直接的な殺傷能力に乏しいザラガスフラッシュを主力とし、攻略する上での関門である体質変化能力もオーバーレイ・シュトロームで無力化できることから、根本的にウルトラマンネクサスとの相性が悪かったとしか言いようがない。

しかし、対策さえできていれば特殊能力特化の地底怪獣でしかなかったものの、失明攻撃:ザラガスフラッシュによる健康被害は洒落にならないものがあり、キヴォトス最初の怪獣:クレッセントに匹敵する“災害の化身”として恐れられることとなる。
実際、ザラガスフラッシュによる被害は甚大で、ウルトラマンネクサスの変身者:姫矢 ジュンは治療に専念するために戦線離脱することになり、アビドス遠征で活躍していた対怪獣兵器:GUTSガルーダはイメージセンサーの損傷で修理に出さざるを得なくなった。
また、不幸にもザラガスの襲撃に遭った工事作業員への対応を疎かにすると、その恨み辛みからマイナスエネルギー怪獣を生み出す危険性もあって、
北条先生の責任ではないものの、自ら率先して入院患者の看病をすることによって被害者を落ち着かせる必要性から、指揮を執る予定だった怪獣退治の日程を遅らせる事態にまで発展している。
当然ながら、鉄道工事を強行させた悪徳企業【セイント・ネフティス】と、工事責任者である【ハイランダー鉄道学園】への世間の評判は最悪なものとなり、肝腎の工事も現場から作業員が次々と逃げ出したことで砂漠横断鉄道の復活はまさに画餅に帰すのだった。
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