居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
I・アイランドの事件が終息し、数日。
情報を整理するためにフラクシナスに集まった面々が、机上に広がった資料を前に辟易のため息を漏らす。
あの神無月ですら顔を顰める程の事実が記されたソレを前に、集められた1人…オールマイトが声を漏らした。
「……これは、真実なのですか?」
「ミオさんの〈
「…信じ難い話です。アイザック・ウェストコットが生きていた…などと…」
アイザック・ウェストコット。
その異常性癖を満たすためだけにその人生を捧げた巨悪の名を噛み締めるよう、オールマイトが強く拳を握る。
ただでさえ宿敵たるオール・フォー・ワンの影が見えているというのに、さらなる重荷を彼に背負わせるのか。
今頃は海岸でミオと遊んでいるであろう後継者の顔を思い浮かべ、渋面を作る。
と。座っていたナガンが軽く手を上げた。
「血の繋がった息子にデータ化した記憶をインストールさせた…って書いてるけど、そんなことが個性抜きで可能なのかい?
ウェストコットは無個性なんだろ?」
「顕現装置…いえ、魔術の中にそういう類のものがあるのも事実です。
なのですが…、ウェストコットが子を成していたなどという情報は、或守 鞠奈が有していたデータにもなかったそうです」
「隠し子なんですかね?」
「まさか。お前じゃないんだから」
「うごぉっ!?」
離婚半年後に相手の妊娠が発覚して大いに揉めた経験のある川越の意見をナガンが一蹴する。
クルーの扱い方がわかってきたらしい。
落ち込む川越をよそに、ナガンは淡々と続ける。
「母親すらわかんないのか?」
「えぇっと…、その、言葉にするとかなり悍ましい故にここに書かなかったのですが、言ってもよろしいんですか?」
「お前がそういうって余程のことだぞ神無月」
「余程のことなんですよ」
いつもの戯けた態度を出さず、本気で引いている神無月を前に好奇心が顔を見せる。
その好奇心を見透かしたのだろう。
神無月はため息を吐き、告げた。
「自分の遺伝子から作った卵子に自分の遺伝子を結合させて試験管ベビーを作ったそうです」
「……………ちょっとよくわかんなかったって体で話進めていい?」
「ダメなので噛み砕いて説明しますね。
父親アイザック・ウェストコット、母親アイザック・ウェストコットという純度200%の濃縮アイザック・ウェストコットが今のヤツなんです」
「自分の読解力が恨めしいと思ったの人生初だわ」
邪悪と邪悪が合わさった邪悪のサラブレッドに邪悪がインストールされたせいで、事の厄介さが数倍増しになっている気がする。
ナガンはため息混じりに神無月に問いかけた。
「つまり何か?ウェストコットには殺しても次があるってのか?」
「そうなりますね」
「その相手を、緑谷にさせると」
「我々も最大限戦いますが、最前線に立つのは確実に彼でしょうね。
なにせ、向こうには彼を狙う理由が腐るほどありますから」
逆に言えば、狙いがある程度わかっているということか。
オールマイトがそんなことを思っていると、次々と恋のライバルに不幸が訪れるという逸話を誇る女性…『
「一度放逐したのに、なんで今になって本格的にちょっかいかけてきたんですかね?」
「単に、復活に時間がかかっただけじゃないですか?
今のウェストコットは低く見積もっても3歳程度のはずですし」
「いや、肉体年齢はあまり関係ありません。
なにせ、向こうは
その気になれば、元の年齢まで体を成長させることも可能ですし…」
流石に2歳程度になるまでは動かなかったと考えたいが、相手は個性を持たずして世界を震撼させた大悪党。
ソレより前から動いていた可能性すらある。
ここ近年で出土し、確認された遺産の数を考えると、尚更そうとしか思えない。
皆がそんな納得を浮かべる中、オールマイトがふと、隣に座る箕輪に問いかけた。
「…鞠奈少女の開発期間は?」
「え?本人によると、一年くらいだと…」
「…………皆。推論になるが、いいかい?」
「どうぞ」
推論といえど、数々の困難を瞬く間に捌いてきたトップヒーローの言葉だ。
聞かない理由はない。
神無月が促すと、オールマイトは軽く頷いた。
「ヤツが動き出したのはおそらく、一年前。
ちょうど、緑谷少年がシステムケルブを発動させた時期だ。
あれで始原の精霊に隙ができたと判断したのではなかろうか」
「失礼。隙ができた…とは?」
発言の意図がわからず、幹本が問う。
オールマイトは「皆も理解している話にはなると思うが」と付け足し、補足に入った。
「時崎少女が語るには、彼女の世界で現れた始原の精霊…『崇宮 澪』は、恋人…『崇宮 真士』の蘇生という目的のために分裂した。
そして、1人は生まれ変わった崇宮 真士こと五河 士道の側に。
もう1人は彼が力を得るための駒として、少女たちに力を配り歩き、雲隠れしていたと。
だからこそ、ウェストコットはその目的に便乗する形で暗躍してきた…。
時崎少女、この情報に間違いはないかな?」
「ええ。合っていますわ」
「ありがとう。これで確信が持てた」
佇む狂三に礼を言うと、オールマイトはその口元を組んだ手で隠した。
「……彼は待っていたのだろう。始原の精霊が人を愛することを。
その愛を利用し、再び悲劇を起こすために」
「ま、まさか、そんな…。わざわざ同じことを繰り返すなんて…、ねぇ…?」
「あり得ることだと思いますがね。
ウッドマン卿曰く、性癖に対して妥協しない上に諦めが悪いらしいので」
おそらく、ウェストコットにとっては一度失敗したチャートを組み直し、コンティニューした程度の気持ちなのだろう。
主人公のようなメンタルが極端に悪い方向に向いている。
ウェストコットの薄ら笑いが皆の脳裏に過ぎり、揃って辟易のため息を吐いた。
「つまるところ、先の事件は…」
「小手調べ。試金石代わりに、鞠奈少女が派遣されたと考えていいかと」
「……これからが本番…ってわけですか」
「こう言ってはなんですが、向こう側に精霊が居なくてよかったですね…」
「だと、よかったんですけどね」
椎崎が安堵の息を吐くや否や、狂三が声を被せる。
皆が疑問を浮かべる中、狂三は忌々しげに吐き捨てた。
「不完全ではありますが、今のアイザック・ウェストコットは『第二の始原の精霊』ですわよ」
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その頃、DEMインダストリー本社にて。
絢爛な部屋の中、グラスに注いだジュースを揺らし、幼い子供が笑みを浮かべる。
その視線の先に映るは、先の事件で鞠奈を救い出した緑谷 出久の映像。
何度も見返したソレを前に、子供は思わず笑い声を漏らした。
「ふふふっ…。なかなかに面白いじゃないか、ミドリヤ イズク。
一言一句、一挙手一投足に至るまで、タカミヤ…いや、イツカ シドーに通ずるものを感じる。これは骨が折れそうだ」
生まれ変わってまで自身の野望を阻んだ男を想起し、重ね合わせる。
その手の上には、闇色の結晶が煌めいていた。
アイザック・ウェストコット…このままではまた顔面金玉に殺されると判断し、中途半端に精霊術式を使ったところ、一部の力のみを取り戻した。