夢路に続く   作:亜楽


原作:仁王2
タグ:仁王2 一話完結
ゲーム「仁王2」の二次創作小説です。
短編1話完結。

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太初の侍秘史「見果てぬ夢」に秀が存在しない展開です。
坂上田村麻呂を独自解釈でキャラ設定しています。


夢路に続く

 坂上田村麻呂。

 征夷大将軍が単騎で鬼牙城を征く。官軍は妖怪と戦いを続けている。田村麻呂が狙うは大嶽丸。居城に乗り込み敵将を討つ。黒漆大刀を収め、背負い、光り輝く剣を握る。

 大嶽丸の妹、鈴鹿にソハヤマルを託された。鈴鹿の守護霊であるソハヤを宿した九十九武器。ソハヤの光があれば、不死の鬼である大嶽丸を倒せる。

「鈴鹿……ありがとう」

 剣につぶやいた。

 守護霊は自身の半身とも言える存在。鈴鹿の覚悟を渡された。人の世を守るため兄を殺す。応じねばならない。人間と妖怪は和せるのか。鈴鹿の夢も、今は雑念だった。

 大嶽丸を斬る。覚悟は決意で受け入れた。禍々しい島を進む。

 

 金鬼。

 岩石よりもはるかに硬い。鍛え上げた鉱石の巨岩。全身が金属のような重い光を放ち、見上げるほどの体格で田村麻呂に影を落とす。

「ぶっ飛バす」

 たどたどしい言葉。

「邪魔スル奴。みんナ、ぶっ飛ばす。ぶン殴る。約束、シタ」

 金鬼が足を踏み出す。地鳴りを感じる足取り。

 ソハヤマルを構えていた田村麻呂は、金鬼を見ると、剣を地に刺し手放した。

「腕っぷしに自信があるのか」

「ぶっ飛バス!」

 剛腕がうなる。田村麻呂は正面から迎え撃ち、拳を拳で殴り返した。

 打ち鳴らす。吹き飛ばされる。

 田村麻呂の鎧は、征夷大将軍の地位に相応して、優雅でありながら強固に作られていた。神仏の加護も重なる。拳を握り込んだ籠手が、金鬼と激突する。

 人間を超えた将軍の力だが、金鬼はそれを上回る。打ち負け、弾かれた。全身に走る痛みを感じ取る。岩石を叩きつけられたかのような衝撃。

「これ……なら、いけるぜ!」

 地を踏み、姿勢を立て直す。

 力試しだった。大嶽丸と戦えるか、己を知る。鬼牙城の妖怪でも、ひときわ力自慢であろう鬼と、腕力を比べた。押し返すことはできなくとも、耐えられた。

「次は、切れ味だ」

 ソハヤマルを手に取る。

 

 風鬼。

 砲撃が止まらない。階段に続く広間。轟音の中で、田村麻呂は物陰から飛び出すと、隣の柱に隠れた。風鬼が笑う。

「おいおいおい、逃げてんじゃねえよ!」

 風迅砲を撃つ。人間なら両腕で抱え、座して扱う大筒。片手で軽々と使う。放たれる砲弾も、妖力を帯びた突風だった。間断なく連射される。

 広間を風鬼が跳び回る。並の妖鬼とかけ離れた身軽さは、立ち止まっていては的になる。田村麻呂は砲弾を避けて身を隠す。距離を取り、様子をうかがう。

「つまんねえ奴だな」

 迂闊には近付けない。風鬼は逆の手に刀を持っていた。砲撃をかいくぐれば、風の速さで刃が吹き荒れる。

 砲撃が続く。

 瓦礫が飛び散る。煙が巻き上がる。

「ああん?」

 いぶかしむ風鬼。田村麻呂は広間の中央に姿を見せた。

「ふんぞり返る奴を斬り刻むのが楽しいんだがな。もう終わりか」

 風迅砲を向ける。剣が届かない間合い。ソハヤマルを構えもせず、無造作に立つ。

「官軍なんてそんなもんかよォ!」

 あざけり笑い、引き金を引いた。

 禍々しい突風が吹く。田村麻呂は動かない。風鬼も風迅砲も見えていないかのようだった。

 砲弾が届く直前。

 田村麻呂に戦意が戻る。ソハヤマルを縦に構えた。刹那の受け。

 避けながら風迅砲を見てきた。距離。速度。軌道。威力。すでに見切った。

 防ぐのではなく弾き返す。

 突風が逆風になる。風鬼を貫き通して、爆風と爆音が響いた。

「官軍は斬り刻ませない。お前なんか斬り刻みもするか」

 広間から階段に進む。

 

 水鬼。

 水と氷を自在に呼び出す。長柄の両端を凍らせた。双刃の鎌が水流のような軌跡を描く。

 鎌だけではない。水鬼の妖術により、洪水が生まれては消える。水に押し流され、思うように身動きが取れない。

 田村麻呂は甲冑を身に着けている。水に耐え、立っているだけで、体力を奪われた。時間はかけられない。

 間合いを詰めようにも波に押し戻される。長い鎌も、ソハヤマルを寄せつけず、水鬼が優位にいた。

「大嶽丸様……」

 天井を見上げ、細い声を伸ばす。

「かような小虫、すぐ洗い流して差し上げます」

「虫かよ俺は」

 陶酔する水鬼に、田村麻呂が悪態をつく。

 人里を襲う妖怪。そして鬼牙城の鬼を見ればあきらだった。大嶽丸は大半の妖怪を、力で押さえつけてはいない。妖怪達が惹きつけられた。いるべくして集められた。

 坂上田村麻呂は征夷大将軍の位を授かり、数々の武功を上げた。民の人望も厚く、英雄と名高い。同じ希望を妖怪は大嶽丸に見出している。

「お前達からすれば、しょせんは敵兵か」

 戦争の本質。敵とはなんであるのか。なぜ戦うのか。敵から見た己は。

 将として考えざるをえない。しかし、迷ってはならない。敵と戦い、討つ、兵士のありよう。人間でも妖怪でも変わらない。

「兵だなんて、思い上がり」

 妖気が走る。洪水が生まれる前兆。

「戦いもせずに溺れなさい」

 水流が渦となる。耐えられる勢いではない。田村麻呂は黒漆大刀を抜いた。征夷大将軍の証。ソハヤマルを上方に投げ、大太刀を床に突き刺す。両腕でつかまり踏みとどまった

 やがて水が消えた。ソハヤマルが落ちてくる。

「俺もあやかしを兵とは思わないな」

 黒漆大刀を持ち直す。宙のソハヤマルを狙い、縦に振るう。二刀の刃を水鬼の頭上に叩き落とした。

 

 隠形鬼。

 影だけが現れては消えた。鬼牙城の奥に続く、薄暗い洞窟。亡霊のような姿が浮かび上がる。

 ソハヤマルを構える。隠形鬼は影に消えた。背後から影が立つ。田村麻呂は振り返り、下がる。前方と、さらには左右に、隠形鬼が浮遊していた。

「人の目に影は見えぬ」

 どの分身から出た言葉か。

 隠形鬼は輪になり回りながら田村麻呂を囲む。次第に分身が増えていく。円の中心で、田村麻呂は周囲を見回してから、弓を取り出した。

 神通力を込めた独自の弓術を修めている。弓を引き絞り、上向きに放った。

 打ち上げられながら。矢が増えていく。残像のように分裂する。天井に当たると、それぞれの矢がさらに分裂して、跳ね返る。

 無数の矢が洞窟を乱反射する。風切り音が鳴り響いた。矢から弓に手応えを感じる。

「そこだッ!」

 ソハヤマルを投げた。

 隠形鬼に突き刺さり壁まで貫き通す。動きが止まる。分身が消えた。

「どうだよ。見えたぜ?」

「影は、見えるか」

 近付いてくる田村麻呂。

「されど、真は、見えま、い」

 隠形鬼の姿と影が失われていく。影が崩れ霧散した。

「見えるかはともかく、見に行くさ」

 壁からソハヤマルを抜いた。古びた布だけが残る。力なく落ちていき、地につく前に消えた。

 

 大嶽丸。

「決着だ!」

 斬りつけながら跳び上がる。空中でさらに斬り、頭上を取る。

 鬼牙城最深部。

 坂上田村麻呂と大嶽丸の戦い。始まりを忘れるほど、長く続いた激突は、ついに終わりが見えてきた。

 鬼神、大嶽丸は、官軍がどれほどの数を差し向けようとも、討つことはかなわなかった。

 三明の剣が不死を与える。自在に動く三振りは、地から空から、周囲から、田村麻呂を斬る。次で倒せなければ、もはや立つ力はない。

 ソハヤマルなら大嶽丸を斬れる。

 倒れた兵士達。妖怪に追われる民。鈴鹿に託された覚悟。田村麻呂は最後の歩を踏み出す。斬られながら進む。三明を越えるソハヤの輝き。

 無限に湧き上がる妖力の源。狙いを定め、角に刃を落とした。

 火花が散る。容易には切り落とせない。大嶽丸も歯を食いしばり、角でソハヤマルを受け止めた。押し込み押し返される。

 思いが重なる。決着は近い。

 角に亀裂が浮かぶ。苦しむ大嶽丸を見て、田村麻呂が叫んだ。

「こんなものが……あるから!」

 大嶽丸は目を見開く。

「あるから、なんだというのだ!」

 夢を見た。夢はいつしか悪夢になった。悪夢が終わる前に、またわずかに夢が見えた。

「角があるから、汝は余を斬るのか!」

「ぐッ、うお、おおお!」

「汝は……真実を見てきたのか?」

 大嶽丸と鈴鹿は、兄妹で異なる夢を選んだ。鈴鹿の夢は覚悟となり、大嶽丸の夢を斬ろうとしている。

「ならば、人と……あやかし、は……」

 最後は乾いた音がした。

 角が折れた。

 終わりのない荒魂と、意思。そして夢を宿した結晶。空を舞う。

 大嶽丸が倒れる。

 

 鈴鹿。

 大嶽丸を斬るために、守護霊と力の大半を失い、ソハヤマルを生み出した。

 ソハヤマルを田村麻呂に渡す。兄である大嶽丸を見届けに来た。

「兄を……討ったのですね」

 二人は顔を見合わせ、そして地に落ちている角を見た。

「これで最後だ」

 田村麻呂はソハヤマルを振り上げ、大嶽丸の角に突き立てた。

 力の源を砕く。大嶽丸は完全に失われる。

 不意に角から現れる黒衣。人の姿になり、空中に消えた。荒魂の化身、果心居士の始まり。

「こ、これは?」

 鈴鹿があとずさる。周囲を見渡した。すでに果心居士の姿はない。

「駄目だ」

 田村麻呂の表情がこわばる。

「大嶽丸は封じたが、荒魂を逃がした。またいつか、どこかで、力を取り戻される」

「手立てはないのでしょうか」

 うつむきながら、答える。

「俺には、無理だ」

 少しの沈黙。大嶽丸を思い出す。刃に乗せて意思を交わした。

「できるとしたら。真実……を知る者だろう」

「真実、とは?」

「わからない。俺には、わからない。だから俺はできなかった」

 田村麻呂は鈴鹿にソハヤマルを差し出す。

「ありがとう、鈴鹿」

「将軍様……?」

 人の世を守る戦い。一時は決着した。

「おかげで大嶽丸を封じられた。そしてすまない。この刀と、戦いの続きを、預かってほしい」

 鈴鹿はソハヤマルを受け取る。

「世が乱れれば、大嶽丸の封印は弱まり、破られる。その時は……」

 受け取った覚悟を、半ばにして返す。無念に言葉が詰まる。

「ありがとうございます。しかと承りました」

「ありがとう。頼む」

 かくして歴史が始まる。夢は未来に受け継がれる。歴史の果てから果ての先で、太初に戻る者まで、届けられる。




情報wikiを個人的に編集しています。
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