11月16日(枢軸軍基準)。
朝、現地時間8:13。
「くそっ! なんて数だ!」
米陸軍機、P-39のパイロットが毒つく。
ニューカレドニア島上空に、416機のチハーキュ海軍艦載機が侵入してきていた。
連合軍側はレーダーによる早期検知に成功していたが、数の差が圧倒的すぎた。
チハーキュ側は制空戦闘機だけで132機。
それに対し、連合軍の戦闘機は36機でしかなく、しかもその大半はP-39だった。
ニューカレドニア島のトントゥータ
先日、ミルン湾の連合軍基地が空母艦載機と艦砲射撃で攻撃されたことで、ヌーメアが攻撃対象になる可能性は認識されていたが、時間がなさすぎた。すでにP-38の1個飛行中隊の増派が決定されていたが、自力飛行できる距離ではなく、まだ洋上の輸送船の上だ。
『ネッタ! そっちに1機行った!』
無線で飛び込んでくる声とともに、片側にそのレシーバーが差し込まれた犬耳が一瞬後ろを向くかのように跳ねる。
「フロリー!」
警告を受けたリネッタは、無線でウィングマンの名前を呼んだ。
『そのままそこにいて!』
リネッタがパワーダイブの動作に入りかけたところで、フローリアの声が返ってくる。
フローリア機の光像照準器の
一瞬、犬耳がピコピコと動いてから、次の瞬間に操縦桿の機銃発射釦を押し込む。
ダダダッ、ダダダッ……
機首に集中している3丁の機銃から火線が迸り、それがP-39に吸い込まれていったかと思うと、P-39は急速に機位を失して落ちていく。
「落ちた!」
『次!』
リネッタのIe9が翼を傾かせながらその場を離れる。フローリア機がそれを追いかけていった。
「だめだ! 数が違いすぎる! このままでは全滅してしまう! 我々は離脱する!!」
P-39はIe9の大群が舞う上空から、離脱を試みはじめた。
一方 ────
「チッ」
Se12のコクピットで、ハンセリアは舌打ちする。
「B-17の姿がない。空中退避させられたか」
忌々しそうな顔で、機首とエンジンカウルの間から、地上の目標を見る。
ガダルカナル島の陸上戦闘、及びその周辺の洋上戦闘の記録からの推測と、日本軍の情報収集から、ヌーメアがB-17の出撃と整備の拠点になっている事は掴んでいた。その規模までは完全に把握していなかったが、12機以下の小規模でないことは確かだった。
だが、トントゥータの滑走路やその駐機場には、大型で隠しようがないはずのB-17の姿が、1、2機しか見当たらない。残されているのは、おそらくは機体の不調で離陸できなかった機体だろう。
「滑走路を破壊して、戻ってこられないようにしたいが……」
ハンセリアが、自分に言い聞かせるかのようにそう呟いた時、駐機場と滑走路をつなぐ誘導路上に
「しめた、あれだ!」
「え?」
「1群、小隊毎の判断で突入せよ」
後部座席のイングリッドが反応するより先に、ハンセリアは、無線で自身の指揮下にある部隊に指示を出してから、操縦桿を傾けて、自身の見つけた目標に機首を向ける。内翼下の落下タンクを投棄する。
誘導路と滑走路の付け根辺りに向かって、急降下を開始した。
光像照準器の中心に、それを捉え続ける。
「行けっ!」
スロットルレバーのアイドル位置の下にある、投弾レバーを引く。
500kg航空榴弾2発が胴体下から離れ、目標に向かって行く。
ドッガッ、ドッグゥワァァッン!!
ハンセリア機の投下した爆弾のうち1発は、750ガロン積みの給油車に命中した。
ハンセリア機の意図に気づいていた連合軍兵が、給油車を退避させようと取り付きかけていたが、もう1発の爆弾からの破片と爆風を浴び、血飛沫を撒き散らしながら千切れて転がり、それを、爆散した給油車から、燃えながら飛び散るガソリンの炎が飲み込んでいった。
攻撃隊はニューカレドニア上空進入後に二手に分かれていた。
第1群はトヨカムネアとイステラントの降爆隊と、レムリアス、フィルメリア、ティルアモール、オルグレナスの雷撃隊。
第2群はレムリアスの雷撃隊と、イステラント、フィルメリア、ティルアモール、オレグナスの降爆隊。
トヨカムネアの雷撃機12機は、第2群に同行しつつ、別の任務を負っていた。
その
第1群同様、降爆隊は小隊ごとの判断でヌーメア都心部周辺の目標を攻撃している。
「投下!」
指揮官のフジタ機から、250kg爆弾2発、60kg爆弾6発が投下される。続く配下の機体からも、1機あたり同じ数の爆弾が投下され、マジェンタ飛行場の施設に着弾した。
離脱のために大きく南へ向けて旋回する編隊から、第2群全体を指揮するフジタ機だけが逆に旋回して外れ、戦況を確認する。
対空砲陣地、飛行場の整備庫、航空燃料タンク、そこかしこから火の手が上がり、煙が立ち上っている。
「…………気に入らんな」
「えっ?」
自身の操縦手兼機長が、普段のような軽口ではなく、重い口調で呟くように言った言葉に、Ie7の後部銃手を務めるルカ・アシュリー・ヴィンセント二等飛行曹長が、軽く驚いたように聞き返す。
体格の良いヴォルクスの中にあって、アイリともども “ちんちくりん” と言われる後部銃手が聞き返す声を聞いて、フジタは、
「艦隊はどこへ行きやがった?」
と、険しい口調で言った。
軍港設備のあるモーゼル湾の上空をフライパスする。その湾内には何隻もの船舶が停泊し、そのうちの少なくない数がSe12の爆弾を受けて大破炎上していたが、大型の軍艦の姿がなかった。軍艦は駆逐艦しか確認できない。後は補助船舶、あるいは民間船構造のものばかりだ。
「あらかじめ湾外へ出しておいた……」
ルカは、そこまで呟くように言って、ハッとしたようにフジタに視線を向ける。
「まさか! すでに味方の艦隊に向かって…………!!」
「いやぁ……」
慌てたように声を出すルカに対し、フジタは、重いながらも落ち着いた口調で言う。
「それだったら俺達とどっかですれ違っているはずだ」
フジタは、そう言ってルカを納得させてから、
「司令部に一報入れとけ。ヌーメアの軍港に敵主力の姿なし、だ」
と、指示する。
「りょ、了解」
ルカは無線のマイクに手を伸ばす。
「…………ただ逃げたか……それならそれで別に、構わねぇが……」
フジタが思考を巡らせていると、彼の機はヌーメア都心部へ侵入する
「ねぇこのビラ、本当に通じるんだろうねぇ?」
CT2隊長機の後部銃手を務めるヴェラ・オーブリー・スターリング二等飛行兵曹長が、怪訝そうな表情でそう言う。
「さぁ……日本人を信じるしかないでしょ……」
レナータ・ノエル・ハーランド上級中尉が、自身もどこか胡散臭そうな表情をしつつも、そう返した。
告
我々はこれより、ヌーメアの軍事的価値を粉砕する攻撃を実施する。
最初に行われた航空機の攻撃よりも激しい攻撃になる。
攻撃が大規模となることと、点在する軍事拠点すべてを攻撃することとから、不本意ながら、ヌーメアの民間施設にも被害が発生することを避け得ない。
よって、我々はヌーメアの民間人に対し、都心部より避難することを勧告する。また、連合軍将兵にあっては、その良心に従い、非戦闘員の避難を実施することを強く勧告する。
攻撃は本日夕刻より実施される。
チハーキュ帝国海軍地球派遣艦隊南太平洋支隊司令長官 カティナ・チアカ・フロメラス中将
大日本帝国海軍第八艦隊司令長官 三川軍一中将
ビラには、この内容が、日本語、英語、フランス語で書かれていた。
「投下!」
レナータが投下レバーを引く。ビラ投下筒が切り離される。
減速用シュートが開いて落下速度が制限されると、ほぼ同時に筒を構成している外板が外れ、無数の紙片がバラまかれる。
「これで逃げてくれればいいんだけど……」
「もう派手に燃えてるからね……」
キャノピーの側面から下を見下ろすヴェラに、レナータがそう言う。
まだ機首がそちらを向いているマジェンタ飛行場の方で、盛大な黒煙が吹き上がっていた。時折煙の中にオレンジ色の炎が見える。航空燃料タンクが火災を起こしているのだ。
ヌーメア都心部より北へ少し外れたところに、1機のIe7が
「大丈夫ですか?」
日本語で、褐色肌の……痩せてはいるが筋肉質な男性がそう言いながら、操縦席から這い上がり、機体の下へ飛び降り、軽やかに着地した。
「ああ……丁寧なもんだったよ」
すでに地面に降りていた、肌を褐色に染めているが、明らかな日本人が、手を
「ああ、なんとか使えそうだ」
チハーキュ帝国陸軍・国防参謀本部情報局のシオン・リュミエル・ノヴァーリス中尉は、胴体の側面にくくりつけてきた自転車を、そのワイヤーを切断して下ろしながら、そう言った。
日除け帽を深く被り、男性にしてはやや長い髪で耳元を隠しているが、彼はダークエルフだった。
「市街地まで歩かんで済めばだいぶ楽になる……と」
大日本帝国海軍の波多野修司大尉が、シオンと反対側にくくりつけられている自転車を、同様に下ろしながら、どこか緊張感に欠けた様子で呟くように言う。
波多野は一応、海軍特別警察隊の肩書を持っている。組織としては、陸軍の憲兵に当たる軍内部警察組織だが、波多野の実態は軍事警察とはかけ離れたものだった。
「機体を処分します」
「ああ」
シオンが言い、胴体後部の燃料タンクに2発のTZB-1手榴弾がくくりつけられているのを確認すると、そのピンに結ばれている紐を機体の外まで引っ張ってきて、充分離れたところで、ぐいっと紐を引いた。
「4、3、2、1……」
ドゴォンッ!
手榴弾自体の炸裂で、胴体後部を中心に操縦席にかけて損傷した後、燃料タンク内のガソリンに引火して、機体は激しく燃え上がった。
「さて、向かいますか」
波多野が言い、2人は自転車に跨ったが、
「! 待ってください、大尉」
シオンが、はっと視線を上げた。
「!」
シオンが解るように反応を返しつつも、声を抑える。
車両が接近してきている気配があった。シオンはそれを感じ取っていた。2人は森に隠れようとする。
グォオォォォンッ
ダダダダダダ…………ッ
ドガァンッ!!
LV12双発の爆音とともに、射撃音が響いたかと思うと、爆発とともにトラックと思しき車体が分解しながら舞い上がり、その真上を、機体のディテールまではっきりと見える高度でSe12が通過していった。
「ハンセリア少佐だな……相変わらず無茶をする」
シオンが苦笑しながらそう言った。
「あれが女だってのか……女の見方がわからなくなってくるな……」
波多野は、呆然としたように、通過していったSe12を眺める。ハンセリア機は、一度海上に出ると、周囲を警戒するように旋回しつつ高度を上げ直して、シオンと波多野の上空へと戻ってくる。
「人間族と、チハーキュの4種族とは違いますし……────」
シオンは、苦笑しながら言う。
改めて説明すると、ヴォルクスとフィリシスは「戦闘(狩猟)は女の役割」、デミ・ドワーフとダークエルフは「女も戦える」、という価値観と実態であり、
とは言うものの……
「──── ただ、まぁ、あの人はその中でも特別ですけど……」
と、シオンは気まずそうに苦笑を引きつらせた。
「と、こんなところで油を売っている場合じゃない」
波多野が我に返る。
「ただでさえ仕込みの時間はないんだ。夕方までに準備できるだけ準備しておかなければ」
「そうですね、急ぎましょう」
そう言って、2人は自転車を漕ぎ、ヌーメアの都心部へと向かった。
第71-3任務部隊、旗艦『古鷹』。
「司令!」
第六戦隊長、そのまま第71-3任務部隊指揮を委任されている早川幹夫少将のもとに、自軍の者と、チハーキュ軍人、2人の通信士がやってきて、報告する。
「攻撃隊からの報告と思われる通話を受信しました」
第六戦隊の4隻をはじめとして、日本軍の軍艦の一部には、まだ簡易的なものだが、チハーキュのHHB(FM)超短波通信の送受信機が設置されていた。
「内容は?」
「『ヌーメアの軍港に敵主力の姿なし』以上です!」
「諒解、下がってよし」
「ハッ」
通信士にそう告げてから、早川は艦橋のガラス越しに前方を見た。
「闘将ハルゼーが夜戦も挑まずに逃げた……か?」
「彼我の戦力差を考えれば、それでも無理からぬところかと思いますが」
早川の、呟くようにしつつもどこか答えを求めているような言葉に、古鷹艦長、荒木伝大佐が
「艦長が米巡洋艦長なら、承服するかね?」
早川は海兵43期、荒木は44期。1期しか離れていない気楽さで、早川は問いかける。
「状況によりますな」
「ふむ?」
「まず、我々の意図がガダルカナルにあるとまだ理解していない場合。それなら、圧倒的戦力に無謀な戦闘は避けるでしょう」
「なるほど。理解している場合はそうではないと」
「正確には、 “ガダルカナルで攻勢に出る” と誤解している場合、ですが」
「味方を見捨てて逃げはしないと」
「水上艦だけで言えば、こちらに比べて寡兵とは言え、まだ戦艦も巡洋艦も充分にあります」
「夜戦をせずに逃げる理由がないな!」
早川はそう言って、膝をピシャリと叩いた。
「どうやら決戦はあるようだ! 総員、周囲警戒を怠らず、戦闘に備えよ!」
そこまでは、威勢よく言った早川だったが……
「しかし……」
と、そこで苦い顔をした。
「あいつら、本当にはぐれたんだろうな……」
早川はそう言って、艦橋から左後方を覗き込むようにした。
第71-3任務部隊を構成している、嚮導艦をカスティラナとするチハーキュ水雷戦隊は、ソロモン沖海戦以来の部隊であり、なおかつ、艦としても旧式なグループで占められていた。
「より新しい艦の部隊をおつけしますか?」
カティナはそう言う配慮もしていたのだが、
「なんの! 行動をもっとも長く見ている部隊のほうがいいでしょう」
と、早川は強がりでもなくそう答えた。
ただでさえ別の国の部隊同士が一緒に行動すると齟齬が発生する。数ヶ月も地球にいたカスティラナとその麾下の駆逐艦なら、お互い多少以上はやり方が解っている。
ただ、1隊4隻が定数の駆逐隊は、ガダルカナルを巡る戦いの中で、1隻が失われていた。
よって、この場にいるチハーキュ駆逐艦は11隻。
ただ……────
チハーキュ艦隊の動きに合わせて、日本艦隊も行動していた。ミルン湾への攻撃が実施された時、本撤退に先んじて、撤収準備部隊が傷病兵や移送するべき捕虜などを収容するために、第八艦隊司令部の指揮下、巡洋艦と水雷戦隊が輸送船とともにガダルカナル島に向かった。
ところが、そのうちの1隻のはずの、駆逐艦『夕立』(白露型)が、空母機動部隊の第72任務部隊の前に姿を現した。
夕立の乗組員曰く、「僚艦とはぐれて迷走していた」そうだが、本来の予定進路から大きく南に外れた場所に出るものなのか、と、誰もが頭を捻ることになった。
結局、チハーキュ空母の戦闘機のカバー範囲から追い出して単艦帰投させるのは自殺行為だとして、早川が預かることになった。
「吉川のやつ……他の艦に迷惑をかけなければいいが」
早川は、らしくなく重い溜息を
夕立艦長、吉川潔中佐は部下に慕われる人格者だったが、同時に「量も大切だが最後を決するのは質と精神だ」が口癖の人間でもあった。早川も少し前までは人の事を言えた義理ではなかったが、電波兵器に支えられたチハーキュ海軍の戦術を間近で見てきて、「兵器の質と量があって精神も満ちる」と考えるようになっていた為、吉川の指揮する艦が同道してどうなるか、若干だが気がかりだった。
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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チハーキュ帝国海軍軍装、どちらがいい?(絵のリンクは Chapter-12 あとがき)
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