エックスが去った後のキヴォトスと、エックスが帰還した元の世界。
変わらぬ毎日と、新たな出会い。
ディープログにて。
ヴィアとリコは、始末書の山を前にしてゲッソリしていた。
「………………減りませんね。山」
「いやー……なんでこんな増えたんだろうな」
「ヴィアさんが横紙破りに破壊神モードまで出すからですぅ!!」
「仕方ねぇだろ!そうしないと終わりだったんだぞ!?」
「ですけどぉ……!!」
二人してギャーギャーと騒ぐが、それで仕事が減る訳でもなく二人とも黙ってしまった。
「……何してるの、貴方達」
そこへ現れたのは……リコによく似た姿をしたレプリロイド型の管理人だった。
「アイコ!戻って来たんですね!」
「ええ、今しがた。それで、これは……」
「……今回のブルアカ事件の始末書だ」
「ああ……あの」
ブルアカ事件……ブルーアーカイブの部門で起こってしまったデータ融合事件として処理されている。
Dr.バイルのデータがブルーアーカイブに侵入してしまった事で大事件に発展してしまった。
解決の為にロックマンXをオーバーライドするわヴィアが破壊神モードになるわで上層部から大目玉を食らう羽目になったのだ。
「アイコぉ……」
「全く……少しこっちに渡しなさい」
「うぇぇん……ありがとうございますぅ……」
基本的にヴィアに当たりは強い彼女だが、リコには甘かった。
「失礼します。差し入れですよ」
「アロナか」
そんな場所へ、アロナが紙袋を携えて入って来た。
「差し入れ?なんでまた」
ヴィアがアロナから紙袋を受け取る。
中身は結構お高めの菓子折りが入っていた。
「あら、良いお茶請けね……待ってて。今淹れてくるわ」
「ありがとうございます、アイコ。それで、アロナさんは今日はどういったご用件で?」
「お詫び……でしょうか」
「ほーん、殊勝なこって……」
「……Dr.バイルのデータは、今どこへ?」
「ああ……アレは今隔離封印中だ」
ライブラリの禁書庫へ放り込まれ、もう取り出されることは無いだろう。
「そうですか」
「こっちの管理不手際だった訳だしな……」
「こちらも中途半端な処置をしたと反省しているところです」
「そうか……で?他になんか用があるんだろ?」
「はい。データを一つ拝借しました」
「へーへ。拝借ね……拝借!?」
ヴィアの出から書類の束が落ちる。
「はい。先生としてそちらのデータを借りました」
「お、ま、え、なぁ〜〜〜!!!んなことしたらこの前の二の舞だろうが!!」
「他のゲームのデータを取り入れたほうが変数が大きいので」
「おいおい……どうなっても知らねぇぞ……?」
「大丈夫ですよ。だって……彼女は、すべてを守るロックマンですから」
――――――――――
キヴォトス。
少女は、ずっと……心に穴が空いたような、喪失感を抱えて過ごしていた。
(大切なことを、忘れている気がする)
いつからだろうか。
気が付いたら、心の中に居る……顔の分からない誰かを追っている。
でも、
(見つかりません)
少女……十六夜ノノミは、今日も宛もなくキヴォトスを歩いている。
対策委員会の活動はずっと大変だけど、なんとか回っている。
ノノミは、余暇をずっと散策に充てていた。
(……皆に迷惑かけているのも自覚していますし……やっぱり、諦めるべきなんでしょうか)
ずっと心の中に空いた穴。
これを、忘れて、蓋をする。
でも……。
(大事なひとだった気がする)
家族ではなく。
対策委員会のみんなではなく。
もっと、一緒に居たかったひと。
「……あれ、ここは……ミレニアム?」
考え事をするうちに乗る電車を間違えてミレニアムサイエンススクールまで来てしまったようだ。
何やら人が多く賑わっているエリアがあるので何となく覗いてみる。
どうやら、ゲーム製作の発表会だったらしい。
出店のように各々の制作したゲームをプレゼンしている生徒がいる。
(ゲーム、か……いつからやらなくなったんでしたっけ)
ぼーっと眺めていると……ふと、目に止まった作品があった。
「……タイトル未定」
青いスーツの主人公が腕からエネルギー弾を撃ちながら進んでいくゲーム。
それ以外にコンセプトは決まっていないらしい。
「これ、懐かしいなぁ」
声がするので、顔を上げた。
「えっと……?」
スーツ姿の、茶髪の女性だった。
長い髪を一房にまとめて垂らしている……スーツなど似合わない、活発な印象を与えた。
「これね……私の故郷で昔戦ってた伝説のレプリロイドに似てるんだ」
「伝説……?」
「そう。伝説。長い長い戦争を終わらせた英雄なんだって」
「そう、なんてすか……」
「タイトル未定、かぁ……ねぇ、考えてみない?」
「え?」
「私は……そうだなぁ。ロックマン、とか?」
「ロックマン……」
胸に引っかかるフレーズ。
ロックマン。
ノノミは、自然と口から心の内を吐露した。
「イレギュラーハンター、X」
「………………へぇ?」
スーツ姿の女性が、ニヤニヤしていた。
「何か、思い入れがあるみたいね」
「えっ……?いえ、そんな……ええと……」
無意識に呟いたフレーズに、ノノミ自身も戸惑う。
女性は良いじゃん良いじゃんと言ってノノミの肩を叩いた。
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。私は……連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの担当顧問……エールっていうの。よろしくね」
エールと名乗った女性は、白手袋を外し……指の先までラバーに包まれた手を差し出した。。
――――――――――
「うっ……ここは……」
意識が戻る。
冷静に自己分析をして……自身の状態に驚愕する。
「なんだ……この怪我……」
右腕は無くなり、左顔面はカメラも潰れる大怪我。
その状態の彼に、座っていた友人が声をかける。
「起きたか、エックス」
「ゼロ……」
「災難だったな。転送装置の故障でサイバースペースへ飛ばされるなんて」
「転送事故……そうか。そうだったな」
エックスは、メンテナンスベッドから身を起こす。
「しかしひどい怪我じゃないか。どこに飛ばされたらこうなるんだよ」
「あ!エックスさん!意識が戻ったんですね!」
眼鏡のようなユニットをかけた、金髪のツインテールの少女がパタパタと歩いてきた。
「パレット……迷惑をかけたね」
「いえ、無事で何よりです」
イレギュラーハンターのオペレーターとして活躍する彼女は、レプリロイドを強化するチップ技術の技師でもある。
「けど、妙ですね……エックスさんが発見されるまでの1週間……エックスさんの記憶領域に何も残って無いんです」
「……何も?」
エックスは、少し引っかかった。
何かが、あったような気がする。
「大方転送のショックでシャットダウンしていたんだろうさ」
「エックスさんはゼロさんみたいに単純ではないので」
「何だと!」
「はははは……」
思わず、笑みが溢れる。
……そして、ふと。
自分の腰に何かが巻き付いているのに気づいた。
「あれ、これは……?」
「ん?エックス、ポーチなんてつけてたのか?」
少しボロボロになったウェストポーチ。
中に何か入っている。
「何が……」
「これは……?なんだ?板?」
エックスは片腕しか無いので、ゼロが代わりに取り出す。
中から出て来たのは……ひびだらけのガラスのついた板。
「何かの情報端末か……?」
「あーっ!!!!」
パレットがそれを見て大きな声をあげる。
「ど、どうした……?」
「これ、『スマートフォン』って奴ですよ!数百年前に人間の間で使われてた通信機です!凄いですよ、これ!博物館に寄贈するレベルの遺産です!」
「そう……なのか……?」
エックスは、ゼロに手渡されたスマートフォンを手にする。
「俺たちはそもそも通信機能は体の中だからな」
「そうだな……ん?」
エックスの指が、スマートフォンの電源に当たったのか……画面に光が灯る。
「わ、わぁ……!まだ動くんですね!?中には何が……アプリが、ひとつだけ……?他にデータは……」
パレットがテンションをぶち上げてエックスの手の上のスマホを操作する。
「えっと……なんだこのファイル。『ブルーアーカイブ』?」
「何のアプリケーションですかね……あ、テキストファイルですね。文章が出てきましたよ」
「何々……」
ブルーアーカイブが開き、短い一文が表示された。
『依頼完了、感謝する。イレギュラーハンター』
「……なんだこれ」
「変ですね……なんて書いてあるんでしょうか」
「え?」
ゼロとパレットが首をひねっている。
エックスは、書いてある文字が読めていた。
(なんで……俺に読めたんだ……?)
「エックスさん、それ……博物館に寄贈したりとか……します?」
気が付けば、パレットが物欲しそうにエックスのスマホを見ていた。
「……いいよ。パレットに任せるよ」
「ありがとうございます!!」
わーい、とパレットがスマホを手にして喜んでいる。
そんな様子を眺めながら、ゼロが思い出したように口を開く。
「ああ、そうだエックス。起きて早々悪いんだがシグナスが呼んでる」
「分かった」
立ち上がる。
身体は痛むが特に行動に支障はない。
「や、エックス。ずいぶんと寝てたね」
……となりのベッドから聞き覚えのある声が聞こえて、思わず振り向いた。
「アクセル……!!」
「へへ、驚いた?エックスが寝てる間に目が覚めたんだ」
「良かった……」
「まぁそこにいるパレットも五月蠅かったんだけどね」
「えっ!何よアクセル!」
アクセルとパレットは年齢設定が近いのもあってよく言い合いをしている。
……軌道エレベーターの事件から、ずっと意識不明だったアクセル。
いつの間にか快復していたらしい。
「感動の再会……と行きたいけど、呼ばれてるんでしょ?」
「そうだった……!アクセル、また後で!」
エックスが、慌てて医務室から出ていく。
残されたゼロ、アクセル、パレットが顔を見合わせる。
「……エックス、なんか変じゃなかった?」
「そうですか……?」
「………………まぁ、悪い変化じゃ無さそうだ」
ゼロは苦笑する。
アクセルとパレットも釣られて笑った。
――――――――――
ハンターベース、司令室。
なんだか久しぶりに入る気がして居たが……習慣とは恐ろしいもので特に支障なく入ることが出来た。
「戻ったな、エックス」
「すまない、シグナス。迷惑をかけた」
「いや、アクセルも復帰しお前も帰ってきてんだ。これ以上の朗報は無い」
「それで……話と言うのは?」
「ああ……レプリフォース大戦勃発の発端となった事件を覚えているか?」
「スカイラグーンの件か」
「墜落跡地の復興の目途が立った」
「本当か……!」
未曽有の仕組まれたテロによって引き起ってしまった惨劇の跡地。
そこが復興する……これ以上ない朗報だった。
「世界中から研究機関をと教育機関を集める……謂わば学園都市を建造する」
「学園都市……」
「その都市の名前をお前に付けてもらいたいそうだ」
「お、俺に……!?」
「ああ。何か案は無いか?」
「急に言われてもな……」
命名する、という経験が薄いエックスは頭を抱えたかった。
「……あ」
ふと、エックスは……とあるキーワードが脳裏を過った。
「……キヴォトス」
「ほう?古い言葉で箱舟、だったか。世界を再生させるための箱舟……と言ったところか」
「そ、そうなのか?」
「良い名前じゃないかエックス。先方も喜ぶぞ」
「失礼します……あら、エックス。おかえりなさい」
指令室に、新しい人物が二人入ってくる。
片方は、ピンクのアーマーに金の髪をしたオペレーター……エイリア。
もう片方も女性レプリロイドだった。
「そちらは?」
「彼女は新人のオペレーターなの。挨拶して」
「は、はい……!お初にお目にかかります!No.No.3と言います!」
「……この子、ロットがエラー起こしちゃって名前がこうなっちゃったのよ」
「………………」
エックスは、No.NO.3をじっと見つめていた。
ブロンドの長い髪に、エメラルドの瞳。
何となく、覚えがあった。
「え、えっと……どうされましたか……?」
「あ、いや……すまない。俺達、どこかで会わなかったか?」
エックスは、気が付けばそう口走っていた。
「エックス……」
「新人を口説くの?」
「え?いや!?そんなつもりは……!」
何故だろう。
彼女に、どこか懐かしさを感じる。
「しかし、少し呼び辛いな」
「ちょっとシグナス」
「え、えと……好きなように、お呼びくださると」
「……ノノミ、とか?」
エックスが、ぼそりと呟くと……3人が一斉にエックスを見た。
No.No.3は……そう聞くとパッと笑顔になった。
「良いですね、それ。私は、ノノミです!よろしくお願いしますね?エックスさん☆」
「……ああ、よろしく。ノノミ」
エックスとNo.No.3……ノノミは、握手を交わした。
――――――――――デカグラマトンハンターX、完
以上で、デカグラマトンハンターXは完結となります。
これからも、エックスの物語は続きますがここでエンドマークを付けたいと思います。
短い話にしたいとは言ったものの完結に2年掛かってしまいました……。
ブルアカを題材にしたロックマンXのような作品となりましたが、いかがだったでしょうか。
作者としても、やりたい事は全部詰め込めたと思います。
ブルアカへのモチベーションも減って書くのが苦しくなった時もありましたが、感想や評価をくださった皆様のおかげでなんとか走りきれたと思います。
ここまでお付き合いありがとうございました。
また、どこかで。