時を超えた光学兵器   作:モモンガ隊長

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今回は栗田視点です。


7話 麻黄デビルバッツ(栗田)

 僕の名前は栗田良寛(くりたりょうかん)

 麻黄(まおう)中に通う14歳の中学二年生だよ。僕の夢は高校日本一を決めるクリスマスボールに出ること。

 その為に去年からアメフトを始めたんだ。僕には頼りになる仲間がいる。

 

SET(セット)! HUT(ハット)! HUT(ハット)! HUT(ハット)! HUT(ハット)! HUT(ハット)!」

 

 ヒル魔の声は甲高くてよく響く。

 

 蛭魔妖一(ひるまよういち)、僕と同じ14歳で一番最初の仲間だよ。ヒル魔は悪魔みたいに頭が良くてチームの司令塔なんだ。ビジネスホテルで一人暮らししてて万札の束を沢山持ってるけど……れっきとした中学生なんだよ。

 

 HUTはスタートの合図なんだ。作戦会議(ハドル)の時に何回目でボールをクォーターバックにスナップするか決めておくんだよ。これも駆け引きが大事で、僕はもう三回目の合図でヒル魔にボールを投げている。

 ボールを渡し終えた後に僕達前衛(ライン)の仕事は始まるんだ。ボールを奪おうと突進してくる敵を押しとどめる、まさしく壁としてね。

 

「ふんぬらばーッ!!」

 

 僕は全力で敵チームのラインマンを押し返す。

 巨漢の僕は体重が120kgもあって足は遅い。その分パワーには自信があって、ベンチプレスで120kgを上げるよ。でも……

 

「甘いぞ、栗田!」

「あわわっ」

「……チッ、何やってんだ!? (ファッキン)デブ!」

 

 この日の対戦相手は柱谷中。都内でも指折りの強豪校だよ。

 小学生からライン一筋でアメフトやってる業師・山本鬼兵さんがいて、僕は倒されたりひっくり返されたりばかりしている。

 

『試合終了ー! 80対0で柱谷中の勝利!!』

 

 今もあっさり懐に潜り込まれて、脇の下から腕をかち上げられた。リップっていうテクニックなんだよ。鬼兵さんはリップも他の技術も当たり前のように使ってるんだ。渋いよね、憧れるよねぇ。

 

 あっ、ヒル魔がサックされてボールを落として……あれ? 試合終わってるッッ!?

 

「この糞デブ! 何度も同じ手で抜かれてんじゃねェよ! 学習能力ねェのか!!」

「ひぇぇ、ご、ごごごめん」

 

 試合が終わると毎回ヒル魔がマシンガンで撃ってくる。ゴム弾だから痛くないけどビックリするから止めて欲しい。他にもショットガンとかライフル銃とかバズーカとか、ヒル魔は銃器をいっぱい持ってるんだ。すごいよねぇ。

 プレーでミスすると必ずキックか銃弾が飛んでくる。部員じゃない助っ人でもそれは一緒なんだ。大抵がBB弾かゴム弾だから誰も大怪我はしないよ。今のは自分のミスだって教えてくれてるわけだし、実弾だってたまにしか使わない。なんだかんだ言うけど、優しいよねぇ。

 

「テメェ、また頭沸いた事考えてんじゃねェだろうな!? 少しはプレーを省みやがれッ!!」

「か、考えてるよ…………ちょっとは」

 

 や、やっぱりもっとパワーが必要だよね。

 

「はっはっは、試合直後に反省会たぁ根性あるじゃねぇか」

「お、鬼兵さぁん!」

 

 あの鬼兵さんが僕を励ましに来てくれた。

 笑った顔がとってもいぶし銀だ。

 

「栗田よ。お前さんは確かにパワーがある。俺の対戦したラインマンの中じゃダントツかもしれねぇ」

「ホ、ホホホントですかッ!?」

 

 うわぁ、嬉しいなぁ。あの鬼兵さんに褒められるなんて。

 

「おう。だがな、ラインはパワーだけじゃやってけねぇ。体の入れ方、つっこみ方次第で自分より重い相手やパワーのある相手でもなぎ倒せる。それがアメフトってスポーツだ。お前も実感したろ?」

「……う、うん」

 

 体感する前に転ばされてたから正直あんまり……あっ、でも空が青かったのはよく覚えてるよ。あおてんって言ってね、仰向けにひっくり返されるなんだけど……ラインにとっては最大の屈辱でもあるんだ。

 

「敵チームに塩を送ってくれるのか?」

「あっ、ムサシ」

「チィ、余計な口挿むんじゃねーよ。糞ジジイ! コイツが勝手に喋ってくれてんだから黙って聞いときゃいいんだよ!」

 

 ヒル魔がどうして怒ってるのかは解らないけど、ムサシは三人目のアメフト部員だ。ムサシが入ってくれたから僕らは部として認められたんだ。

 

 本名は武蔵厳(たけくらげん)って言うんだけど、僕らはムサシって呼んでる。ムサシはキッカーですごい飛ばし屋なんだ。45ヤードのフィールドキックを決める中学生なんて聞いた事がないよ。面白がってヒル魔は『60ヤードマグナム』ってコードネームつけちゃったけど、日本人で60ヤードを記録した人は大学生にも社会人にもいない。NFL(プロ)でも63ヤードが最長の記録だけど、ムサシならいつかやってくれそうな気がする。

 

 年下の僕らが失礼な物言いをしたせいか、鬼兵さんは少し苦笑してた。

 鬼兵さん、ごめんなさい。ムサシに悪気はないんだ。ムサシには……。

 

「おう、すまねぇな。そんなつもりじゃねぇが、強いて言や……俺が栗田を気に入ったっつぅとこか。熱いラインマンは嫌いじゃねぇよ」

「あ、ありがとうござ「ただし!」い――え?」

「今のお前には技術うんぬんよりも肝心なモノが足りてねぇ。情熱は買うがな、心がおっついてねぇ」

「心……?」

 

 どういう意味だろう?

 鬼兵さんは僕を褒めてくれてたんじゃないの?

 

「おう。そいつが分からねぇ内は、いくらパワーがあってもラインとしては勝てねぇぞ」

「それって……?」

「はっはっは、俺もそこまでお人好しじゃない。まぁ、ヒル魔の方はよく判ってんじゃねぇか?」

「ケッ」

 

 技術より大事なモノって何だろう?

 ご、ご飯かな? そっかぁ……まだ足りてなかったんだ。

 

「しっかし、つくづく勿体ねぇチームだよな。あと一人、腕のあるランニングバックかワイドレシーバーがいりゃあな」

「んな判り切った事ァ言われるまでもねェ。心配しなくても俺らがクリスマスボール行くっつうのは決定事項なんだよ!」

 

 流石ヒル魔……だけど鬼兵さんにタメ口はダメだよぉ。

 

「おう、その意気がありゃあ都でベスト16くらいには食い込めるかもしれねぇぞ。はっはっは、まぁ頑張れよ!」

 

 鬼兵さんは笑いながら帰って行った。

 笑ってたけど、僕らの夢をバカにしてるんじゃない。きっと期待してくれてるんだ。

 

 その日もヒル魔にこってり叱られた。

 鬼兵さんは僕の心の弱さを指摘してたんだって。ご飯じゃなかったんだ……。

 僕はいつも「勝てたらいいな」「一回でも多くタッチダウン取れたらいいな」って思いながら試合に望んでる。でも、そこが根本的に間違ってるらしい。「勝てたらいいな」とか「勝ちたい」じゃ足りなくて、勝負事は「何が何でも勝つんだ」っていう意志がないと勝てないんだって。

 

 僕はみんなでアメフトが出来ればそれで良かった。

 試合でも練習でも一緒にアメフトやってる時間は楽しい。

 楽しければそれでいいと思ってた。

 だから……勝てなくても仕方ないって思ってた。

 

 でも違った。

 アメフトは勝った方がもっとずっと楽しいんだ。

 

 

・・

・・・

 

 

「だから僕は頑張ってるよ、鬼兵さん!」

「鬼兵さん……じゃねェんだよ! この糞デブ!! 卒業した奴の事なんざ、どうでもいいんだよ! それよりこの連敗をどうするか、ちったァ考えやがれ!」

「騒がずに練習出来ないのか、お前らは」

 

 トレーニングルームでバーベル上げながら僕に怒鳴るヒル魔。

 呆れて笑うムサシ。

 

 そう、僕が心を入れ替えてアメフトをやるようになってもう一年経った。

 鬼兵さんは卒業しちゃって僕らが最上級生なんだけど……未だ練習試合でも勝ち星がない。東東雲や久が原にもボロ負けしちゃって練習相手を探すのも一苦労なんだ。本当に苦労してるのはヒル魔だけなんだけどね。僕なんか練習試合の申し込み電話で学校名言っただけで切られちゃうもん。ヒル魔の脅迫手帳って何人分のネタがあるんだろう?

 

 このトレーニングルームもヒル魔が校長先生にお願いして作って貰ったんだ。運動部兼用って名目だったけど、なぜか僕らが独占してて他の部は使っていない。最初は野球部とかサッカー部も使ってたけど、ヒル魔が何か相談しに行った直後からパッタリ来なくなっちゃった。おかげで集中して鍛えられるよ。ホント、ヒル魔が敵じゃなくて良かった。

 

 あとこの一年で変わったと言えば、ヒル魔愛用のマシンガンの威力が上がった事かな。僕があまり痛がらないからって改造したみたいなんだ。今じゃ木造の壁は貫通するし、鉄板だって凹むくらいの威力があるよ。おかげで当たるとちょっと痛いんだ。銃の改造までしちゃうなんて、ヒル魔は本当にすごい。

 

 すごいと言えばアメフトの雑誌に載ってた彼――

 

「アイシールド21君って凄いね。一個下なのにノートルダム大付属中でエースランナーとして、本場アメリカで大活躍してるんだもん。こんなランナーがうちにもいてくれたらなぁ」

「ほう、それは大したものだな」

「ケケケッ、もし本当にそんなランナーが近くにいりゃあ、首根っこ引っ張って有無を言わせず入部させてやるのにな」

「そ、それは可哀想だよ。でも……鬼兵さんも言ってたよね。いいランナーかレシーバーが一人でもいれば変わるって。今はムサシのキック以外じゃ、ほとんど得点出来てないもんね」

「ないもんね――じゃねェよ! ラインのテメェがもっとしっかりしてれば、キックだけでも勝てた試合はあったんだよ!」

「ご、ごめん」

 

 ゲームプランと作戦はいつもヒル魔が考えてる。

 顧問のどぶろく先生はトレーナーだから練習メニューは考えてくれるけど、試合中はあまり口出ししない。今は酒瓶片手に酔っぱらってるけど、昔はすごいアメフト選手だったんだよ。

 

「でもヒル魔だってランナーはともかく、レシーバーは必要でしょ? せっかくアメリカ帰りの帰国子女がうちの学校にも来たのに……バスケ部志望だもんね」

「奴は元々充てにしてねェ。才能あってもアメフトやる気ねェ奴なんざお断りなんだよ」

「フフッ、お前が散々煽ってダメだったからな」

「バスケットボール一筋って感じだもんね、火神君は」

 

 ヒル魔ならそれでも強引に引っ張って来るかと思ったけど、何事にも一生懸命な人は尊重するんだよね。

 

「……レシーバーっつったら、その雑誌に面白ェ記事が載ってたぞ。135ページ見てみろ、糞デブ」

 

 えっ!?

 もしかして、この雑誌全ページ暗記してるとか……そんなワケないよね。たまたまページ数を覚えただけ……だよね?

 

 僕はヒル魔の言うページをめくって見る。

 

「AMGアカデミーではプロを目指す少年少女の――」

「そこじゃねェよ、左下の隅っこだ」

 

 ヒル魔に言われてムサシと一緒に記事を覗き込む。

 

「えっとマルコメ君奮闘記? 今季トライアウトで1軍昇格を狙う個人的には期待の15歳……へぇ、プロ育成機関かぁ。15歳なら僕と同――えええっ!? 同い年!? そ、それがプロ!?」

「落ち着け、栗田。あくまでもプロ養成機関であって、NFLとは別物だと書いてある。ただコーチとして引退した元プロが指導に来る事もあるらしいがな」

「そ、それでも凄いよ。元プロにコーチして貰えるなんて」

「ケケケケケ! クールな秀才様かと思ってたら野心グツグツだったってわけよ」

 

 笑ってる笑ってる。

 こういう無茶苦茶でも前に進もうする人は嫌いじゃないんだよね、ヒル魔も。

 

「誰だか知ってる口ぶりだな」

「えっ、知ってるの!?」

「泥門三中の生きる伝説だ」

「大仰な話だな」

「泥門三中? それって日本だよね? アメリカじゃないの? 伝説って何?」

 

 ムサシは平静にしてるけど、僕は続きが気になって仕方ない。

 ヒル魔、早く話して!

 

「中一にして全中統一模試で1位とった秀才で、小学生の頃も五年時以外は全国模試で常にトップを独占。ついでに言やぁ満点でな」

「ひやぁぁ、すっごく頭がいいんだね」

 

 僕とは大違いだ。

 勉強はどうも苦手で……あっ、運動もパワー系以外は苦手なんだけどね。

 

「小五からタッチフットを始めているが、試合にはあまり出てねェ」

「運動は得意じゃなかったとか? あっ、まだ始めたばかりの初心者だったからかな?」

「ちなみに40ヤード走は小学生で5秒フラット、都の陸上大会でも入賞してる。んで、試合に出た数少ない実績で地区のパス記録を塗り替えたっつう初心者だぞ」

「えええぇぇっ!? ど、どどどうして試合に出なかったんだろう!? すごい記録だよ!」

 

 そ、そんな子が近くにいたなんて……全然知らなかった。

 自分の事じゃないのに興奮して汗が止まらないよ。

 

「詳しい理由は分からねェ……が、コイツが『最凶のスカウティング』って事が関係してるかもな」

「スカウティングって相手チームを分析して戦略立てる補佐をする人だよね? でも最凶って……?」

「ケケケッ、ソイツはお利口なくせして骨ブチ折る無茶してまで戦力測るっつうイカれたドMヤローだぞ! 去年1軍に上がれなかったのはそのせいだからな」

「な、なんか色んな意味で、す、すごい人だね。て、天才って言うのかな?」

「――じゃねェよ」

 

 ホ、ホントに無茶苦茶な人だったなんて……。

 そんなとんでもエピソードがあるとは思ってもいなかったよ。ビックリし過ぎて汗まで引いちゃった。

 でも、ヒル魔は最後なんて言ったんだろう?

 

 




最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
ご意見ご感想などありましたら、宜しくお願いします。


-雑記-
アイシールド21の登場人物(日本人に限る)の中で一番プロに近いのは誰か?
個人的な見解を言わせて頂くと、私は「ムサシ」だと思っています。
次点は「ガオウ」かな。

ムサシのキック力はすでにプロ級ですし、コントロールも練習次第で良くなると思います。
キッカーはピンポイント起用出来ますし、体格的なハンデも他のポジションよりマシかと。

以上、たわいない呟きでした。

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