pixivのコンテスト参加作品です。
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あらすじ

主婦である久美子は、一ページ日記を書くのが日課である。
ある朝、前日の日記を読み返すと……一行だけ筆跡が少し違う、という事実に気がつく。
悩むのものの答えは出ず、家事を始める久美子。
ところが、奇妙なのは日記だけでなく彼女の言動もであった。
突然今していることを止め、別の事に夢中になる。
口調も幼稚になり、何をしても楽しそうで。
帰宅した夫と食事をしている時、今日はお泊り学級でいない息子の話になる。
夫曰く、息子は時々久美子の口調で喋っていたというのだ。
久美子と息子は……頭をぶつけたせいか、どこか妙なことになっていたのだ。
そうとは知らず、眠い目をこすりながら今日の日記を書く久美子。
彼女は昨日の日記なんて比べ物にならないほど、ヘンテコな日記を書き上げてしまうのであった。

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私の日記の奇妙な一行 ~なんだか変な感じだわ、なんかとってもおもしろーい!~

 見返した日記には、一ページだけ意味のわからない箇所がある。

 至って普通の主婦、襟田 久美子はそう思いながら自分の日記帳と睨めっこをしていた。

 一ページ丸々意味がわからないなら、酔っ払っていた可能性もあるだろう。

 しかし残念ながら、日記の奇妙さも、昨夜の記憶もそれには合致しない。

「ううん、日記書いた記憶は確かにあるんだけど……なんで、この行だけちょっと変なのかしら」

 久美子は高校生の頃から、一ページ日記を日課としてきた。

 彼女はその最新のページ、すなわち昨日の記録に戸惑っていたのである。

 指でなぞっている部分。

 彼女の筆跡ではあるのだが……確かに、その部分だけ文字がウキウキとしているのだ。

 これがもし、まるっきり違う筆跡であれば他人のせいであろう。

 いや、本当にそうだろうか?

 例えば誰かの日記の途中で、消した跡も無いのに他人が一行だけ文章を書いている……

 そんな事になっているなんて全くもって理解できない状態だ。

 しかもこれは、彼女も自分の筆跡だと認識できる崩れ方。

 つまり妙なこの部分は久美子自身が書きつつも、普段通りの彼女の状態では無かった、という事になる。

 その次の行からは落ち着いた筆跡に戻っているため、途中で酒を飲んだという可能性も低いのだ。

「ん、まあ、もしかすると昔の日記とか、こういうのあったのかもしれないわねぇ……そういう事にしておきましょう」

 夫が車で出勤し、家にいるのは一人だけ。

 主婦は主婦で、忙しいもの。

 いつまでもこうやって、日記と向き合っているわけにもいかないのである。

「さてと、今日はあそこの特売日だったわね。まずは食器を洗って……」

 落ち着いた足取りで朝食の後の食器がたまったシンクに向かい、気合を入れて皿洗い開始。

 こうして久美子の、いつも通り変わらない生活が始まる、はずだったのだが。

 

「うん、いい天気ね。これなら夕方までにお洗濯物も乾きそうだわ」

 カゴいっぱいの洗濯物を運びながら、満面の笑み。

 窓を開け、物干し竿に歩み寄り。

 昨日の日記は雨マーク。

 その皺寄せで、今日はより多く干す必要があるわけだ。

 こういう物は手早く干さないと、生乾き臭が生じてしまうもの。

 それを重々承知の久美子はシワを伸ばしつつ、テキパキと干していく。

 日光に晒され、風ではためく衣類たち。

 洗剤の匂いがほのかに香り、洗濯機を回したという充足感が彼女に満ちていった。

「よいしょっと……あ」

 が。

 洗濯物の一つを、手に取った時であった。

「そーだそーだ! 突撃戦隊ガンバンジャーの録画、見なくっちゃー!」

 急に変わる口調。

 急にバタバタと音を立てて走り出し、家の中に戻ってしまう。

 まだ干し終わっていないのに、一体どうしてしまったのだろうか?

「えへへ、ちゃーんととれてるかなー?」

 幼稚な喋り方をしながら、洗濯物で包むように両手でリモコンを握る。

 窓も閉めずに、大きな声で無邪気にはしゃぎだす。

「わーい、あったあった! 今日は見る時間、無かったんだもんねー!」

 録画一覧から番組を選び、再生開始。

 ヒーローたちの名乗りと共にOPが始まり、軽快な音楽が流れ始める。

「音量上げちゃおっと」

 窓が開いたままなので、音漏れをしてしまうのだが……全然気にしていない様子。

 それどころか、

「あっ、そこだ! いけー!」

「よーし、合体だー!」

「わあ、やったー!」

 恥じらう事なく、久美子は大声を上げてヒーローを応援しているのだ。

 CMも飛ばすどころか、食い入るように眺めている。

「あっちもいいけど、こっちもかっこいいなー」

「ガンバンジャーもライダーファイターもどっちも欲しいなぁ!」

 まるで男児のような欲求を丸出しにしている間に、番組が終了する。

「あー、面白かったー! ……あら?」

 テレビを消して満面の笑みを浮かべた次の途端、彼女はキョトンとした顔になる。

「えっ、私、どうしてテレビのリモコン持っているの?」

 時計を見る。

「嘘、三十分も何していたのかしら!?」

 血相を変えて外に飛び出してみると……太陽の位置も高くなり、短くなった物干し竿の影。

「だ、大丈夫よね!?」

 カゴに入りっぱなしの洗い物を嗅ぎ、異臭がしないかを確認する。

「ん、あら、え? 私、ずっとこれ持っていたのかしら?」

 ふと、手にしていた小さな下着に気づく。

 様子が変わってから、テレビを見終わり元に戻るまでずうっと握られていたそれは……

 少しばかり、久美子の汗が染みたような臭いを漂わせていた。

 

「よし、これで全部ね」

 場所は変わり、スーパーマーケット。

 週に一度、日用品なども含めまとめ買いをするのが日課だ。

 忘れ物があった場合は夫に頼む事があるものの、滅多にそれをすることはない。

「うーん、ピーマンが思ったより値上がりしていたけど仕方ないわねぇ」

 理由は簡単。久美子は少しでも安く買う努力をしているのだが、夫はそこまで執着しないのである。

 うっかり買い忘れた鶏肉をお願いしたら、妙に高いブランド物を買ってきてしまったり。

 かと言って、安いのを買ってくれと付け加えたら外国産の冷凍物を買ってくる始末。

 ちょうどいい加減の擦り合わせがなかなか難しく、結局二度手間でも自分で買った方が気が楽なのである。

 今晩のメニューを考えながら、レジで精算をする。

「2,384円です」

「えっと……2,500円でお願いします」

 少し小銭がたまっているが、レジも人が並んでいる。

 待たせても悪いので、キリのいい金額を出して手早く済ませ。

「じゃあ、帰りましょっと」

 買い物袋を自転車の前カゴに乗せ、いざ出発。

 自宅に一直線に戻っていく、のだが……

 背筋を伸ばし、ゆったりと自転車を運転していた久美子。

 ところが、何かを見た途端背中を丸め、左右に揺れるように激しくペダルを漕ぎ始め。

 彼女が飛び込んだのは、帰り道の途中にある別のスーパー。

 行きつけの店より妙に高いため、寄ることはない場所。

「えへへ〜、こっちも探検しちゃおーっと!」

 目をキラキラさせ、手をぶんぶんと大きく振りながら店に入っていく。

「わぁ、全然ちがーう!」

 中に入ると、久美子のテンションは最高潮。

 全く違う配置に心をときめかせ、ガンバンジャーのOPを口ずさみながら店内をうろつく。

「あ、このお菓子、見たことない! おいしそー!」

 買い物かごにポイ。

「これ、いつもの洗剤の匂い違いだ! 使ってみちゃお!」

 一番小さい、割高な洗剤容器をカゴにポイ。

 しかもこれは、先ほど前の店でもう買った品物。

 完全に被ってしまっているのだが、今の久美子はまるで気にも止めていない。

「あ、セルフレジ!」

 ウキウキと飛び込み、楽しそうにバーコードを通していく。

「合計で 1,764円です」

「はーい!」

 律儀に機械に返事をして、財布を開く。

「ええっと、千円札入れて、700円……500円と、100円二枚、60円だから……50円ないから、10円玉が……うん、6枚あったあった!」

 先ほどとは打って変わって、ピッタリ出そうとし始める。

 幸いセルフレジは混んでいないものの、前の支払いの時にしていたら後ろの客もイライラしたであろう。

「4円、4円……あれぇ、一枚ないや」

 こういう時に限って、残り1円が足りないものだ。

「じゃあ、10円……もないかぁ。100円玉……ないなぁ。じゃ、しょうがないか!」

 別に気にする事も無く、千円札をもう一枚追加する。

 余計なことをしたせいで、大量に出てくるお釣りの小銭。

 とても面倒極まりないソレなのだが……

「えへへ、お金持ちになったみたーい!」

 パンパンになった財布の重みにニコニコしながら、久美子は店を後にする。

 大声で歌いながら自転車に乗り帰宅。

「ただーいまー!」

 ドアを閉め、鍵をかけ。

「……あら、私、なんで買い物袋が二つ?」

 現状がまるで飲み込めない顔のまま、久美子が玄関で棒立ちになる。

「え、え、どうして私、あそこで買い物、やだぁ、これ買ったってしょうがないのに!?」

 レシートと袋の中を照らし合わせ、何を買ったか再確認していく。

 一品確認するたびにその顔は混乱したものになっていき、しまいには頭を抱えてしまい。

「う、うーん、でも、万引きとかしたわけじゃないみたいだし、私が買ったのをそのまま私が返品するのも変な話だし……」

 お菓子を手に取り、ぼんやりと眺める。

「た、食べてみたかったのはそうなんだけどなぁ」

 封を開けて、一つ口に放り込み。

「あ、美味しいわねこれ」

 やらかしに対してほんの些細な幸福ではあったが、とりあえずそれで落ち着きを取り戻す久美子なのであった。

 

「いっけない、もう時間があまり無いわね」

 炊飯器をセットしながら、夕食の用意を始める。

 いつもならもっと余裕があるのだが……

「なんで私、洗濯物畳んでいる途中でゲームしていたのかしら」

 いくら首を傾げても、思い出すことは出来ず。

 覚えている事と言えば……三時に作業を始めたのに、気づけばコントローラーを持っていて四時半になっていたという事実だけ。

 忙しくなる夕方の一時間半が吹き飛び、もうてんやわんやである。

「今日は大人だけだし、ピーマンの肉詰めにしましょっと」

 今日買ったピーマンをいくつか取り出し、ヘタの部分を押し込む。

 音を立てて抉れたそれを引き出し、ワタを捨て。

「ええっと、ミンチに塩コショウしなきゃ……あらら、空っぽ。ストック、あったかしら」

 地味な調味料ほど、必須の時に切らしているもの。

 久美子はしゃがみ込み、下の棚を開けて覗き込む。

「あ!」

 見つけたらしく、声を上げて手を伸ばす。

「えへへ、あったあった!」

 またもや様子がおかしくなった久美子が持っていたのは……

「今日はこれにけってーい、ばんざーい!」

 塩コショウではなく、カレールー。

「カレーにピーマンなんて、いらないもんねーだ!」

 ワタを捨ててあった三角コーナーに、ピーマンも放り込んでしまう。

 これではただ、ピーマンを捨てただけである。

「ジャガイモ、ニンジン、あったっけ? うんうん、あるある!」

 楽しそうに野菜室を漁り、カレーの材料を出していく。

 いかにも子供じみた、幼稚な様子なのだが……

 包丁さばきは実に見事で、テンポよく調理は進んでいく。

「あはは、やっぱりお料理、たのしーい!」

 いつも通りの家事をしているだけなのに、心の底からの笑みを浮かべ作業を進めていく。

 フライパンに油を引き、肉や野菜を炒め。

 鍋に移し、水を入れて煮込み。

「わあ、どんどん出てくるぅ」

 アク掬いもなぜだか楽しそう。

 まるでゲームに興じているかのように、オーバーな動きでこなしていく。

「まあ、洗い物は面倒だし後でいいや! お料理の方が楽しいもんねー!」

 煮込み作業に入り、様子を見るだけになった。

 折角なら調理器具を洗えば効率がいいのだが……

 くつくつと煮える鍋を、飽きる事なく久美子は見つめていく。

 ルーが溶け、とろみが付き。

「よーし、かーんせー!」

 楽しそうに蓋を閉め、大声で宣言。

 すると同時に、また表情が大人のそれに戻る。

「ん、え、あら、ちょっと、何これ!?」

 驚くのも無理はない。

 ピーマンの肉詰めを作ろうとしていたのに、気づけば煮物が目一杯入った鍋の蓋を閉めていたのだから。

「わ、私、カレーつくっちゃったの!? こ、こんなに作っても、えぇ……?」

 ゴミ箱を見る。

 一箱丸々使われ、空になったルーの箱が捨ててあり。

「あっ、包丁とか使ったままじゃないの。早く洗っちゃわないと……」

 シンクに近づくなり、目を丸くする。

「ちょ、ちょっと、ピーマンがなんでここに!?」

 自分で捨てたのも覚えておらず、三角コーナーの中を見て大声を出す。

「今からカレーに……無理無理、生のピーマンをこのまま入れたらカレーが苦くなっちゃうわよね、えーっと、えーっと……」

 このまま捨てるのは勿体なさすぎる。

 久美子は念入りにピーマンを洗いつつ、どうしたものかと頭を捻ってアイデアを絞り出し始めた。

 

「おっ、カレーかぁ。うまそうだな!」

「あ、えっ、うん、ありがとう」

 帰宅した夫が、盛り付けをされたカレーに喜ぶ。

 本来出す予定だったピーマンの肉詰めは細切りの炒め物に変更され、中央に小皿で置かれていた。

「大丈夫か? なんだか、疲れているようだけど」

「平気平気。ちょっと今日、なんだかバタバタしちゃっててね」

「お疲れ様。まあ、いただきます」

「いただきます」

 味見をした記憶がないので、どこか恐る恐るな久美子。

「あ、美味しい」

「おいおい、久美子がびっくりするのかよ。俺も美味しいと思っていたけどさ」

 自分がいつも作る物よりもどこか粗があるのだが、それゆえ甘いカレーの風味が引き立っている気がして。

「ごめんって、色々あった物だから」

「まあ、康太が今日お泊まり学級だもんな。いつもと調子が違うのも、無理無いって」

 本当に美味しそうに、夫はカレーを食べ進めていく。

 食事の時、ここまで幸せいっぱいの表情を見たのは初めての気がして……

 どこか久美子は、落ち着きが無くなってしまう。

「そういえば、朝はありがとうね。康太を学校まで車で送ってくれて」

「ああ、そういえば……康太、ちょっと面白い事言ってたぞ」

「面白い事?」

「事って言うと変かな。俺がちょっと車のスピード出しちゃったら、注意してきたんだよ。その言い方が面白くてさ」

「うん」

 カレーを掬ったスプーンを口に運びつつ、久美子が話を促し。

「『あなた、事故したら大変でしょう? 気持ちは分かるけど、もっと落ち着いて運転しないと危ないわよ』って。久美子そっくりだろ? 真似がうまくって、つい笑っちゃったんだ」

「へえ、康太が私の口真似……」

 そう言いながらスプーンを咥えた途端、目つきが変わり。

「しかも、言い方だけじゃなくて座り方とか、目つきとかもなんとなく久美子っぽくなってるんだよな。親子は似るって言うけど、なんか面白いよな」

「うんうん、それ、おもしろーい! ねえねえ、康太さぁ、もっと私みたいな事してたー?」

 まだ口に残っているカレーを散らしつつ、笑いながら久美子が尋ねる。

「ん、え、ええっと」

 急に食いついてきた妻に、夫はみじろいでしまう。

「ねぇねぇ、早く早くぅ」

 体を揺らし、眩しい視線を夫に向ける。

「それで、なんかあったのか? って聞いたら、『昨日、お泊まり学級の事を夜に思い出したでしょう? それでみんなで慌てていたら、ママと頭をぶつけちゃったのよ。とっても痛かったわ』って。久美子、平気だったのか?」

「あー、うんうん、私がね、パンツ落としちゃって、拾おうとしたらゴツーンってぶつけちゃったの! すっごく痛かった!」

「ええっと、康太が久美子の喋り方してる話だからって、久美子が康太の喋り方しなくたっていいんだぞ?」

「え、そーお? 私、いつも通りだよ? ほらほら、早く続き教えてよー!」

 夫が違和感を口にするが、久美子はまるで気にしていない。

 そればかりかガツガツとカレーをかき込みながら、話の催促をしているのだ。

「そうだなぁ、その後久美子みたいな喋り方してたけど、途中で戻ってたな。『ぼく、なんかいま、ママみたいなしゃべりかたしてたー!』って大笑いしていたぞ。それで、喋りながら言い方切り替えたりしていたな」

「あはは、おもしろーい! あ、カレー無くなっちゃったからおかわりしよーっと!」

「お、おう、今日はよく食べるな?」

 夫の呆れ顔も気にせず、大盛りのお代わりをがっつく久美子。

「ふう、お腹いっぱい! ……あ、あら、なんだか、お腹、重いわね……」

 完食して満足げな表情をしたと思ったら、たちまち苦しげな顔に変わる。

「そ、そりゃあ、あんなに食べたらな」

「え、え?」

 妻の反応に、夫も要領を得ない顔で久美子の顔を見てしまい。

 そう、久美子は自分の息子の康太と頭をぶつけたせいか……何かの弾みで、思考ルーチンが康太の物に切り替わってしまうようになっている状態。

 康太も同じ症状なのだが、まだ幼いのもあるのか変化に柔軟に対応できているようだ。

 一方の久美子は、切り替わっている間の事は全く覚えておらず、自分の言動に自分が振り回されている状態。

 おかげで今日一日、幼稚な思考がデタラメに挟まり……このようなトンチンカンな状態で過ごす羽目になったわけで。

 妻の異常に夫も動揺はするのだが、何が起こっているのか把握はできず。

 先ほど指摘を流されたのもあり言い直すこともせず、そのままなぁなぁで終わってしまい。

 

「ふぅ、眠たいわね……早く日記書いて、寝ちゃいましょう」

 あくびをしつつ、自分しか知らない番号式の引き出しを開ける。

「今日は……洗濯物をしていて……」

 うつらうつらしつつ、ペンを走らせる。

「ガンバンジャー見てなかったから、ガンバンジャー見てぇ」

 眠気のせいで本人は自覚がないようだが、切り替わっていた場面を思い出すためか口調が切り替わってしまう。

 当然、動きも幼い息子のようになってしまい。

 ウキウキと手が動き、その記述だけ筆跡が踊り。

「なぜかテレビを見ていたから、洗濯物急いで終わらせて」

 自分の変化に気づく事なく、日記は進む。

 いつもの筆跡、元気な筆跡。

 昨日の妙な一行も、恐らくこのようにして発生したのだろう。

 夜に頭をぶつけ、そのせいで切り替わるようになったので昨日は一行で済んだのだが……

「他のスーパーで、お菓子買っちゃった」

「ゲーム楽しかった」

「ピーマンなんかより、カレーの方がいいもんね」

 時々声色を変え、手の動き方を変え日課が進んでいく。

 昨日より一段とメチャクチャになり、脈絡の無い日記になっていき。

 とうとう書き終えた彼女は読み返しもせず日記をしまい、そのまま眠りにつき。

 こうなると翌朝、ますます久美子が悩んでしまうのはもう目に見えている。

 ただまあ、その状態でも切り替わってしまえば……大人でありつつも無邪気な子供の思考で、なんでもかんでも楽しそうにしてしまうのかもしれない。

 いいんだか、悪いんだか。

 暗い部屋の中、その度にトーンの違う寝言が時々久美子の口から漏れるのであった。

 

 

 おしまい


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