どうも、かつての幼馴染と長年の時を経て、漸く再会することが出来たかと思えば存在を忘れられていた不憫な少女こと、
「"えっと……ハスミ、あの子は? "」
ん? 何やら視線を感じて見てみれば、どうやらシャーレの先生がハスミ先輩に私のことを聞いているみたい。
でも、ごめんね先生。私、こういう時はいつも、真っ先に自己紹介をしに行くところなんだけど……
「えっと……その、なんかごめん」
「いや……いいよ……そうだよね、アズサからしたら私なんてただの知り合い感覚だったよね…………迷惑しかかけてなかったし……」
「え、えっと……」
今はちょっと、そういう気分になれないからさ、私。
アズサに存在を忘れられていた私は、絶賛いじけ中だった。
それにしても、部室の隅っこってこんなに居心地が良かったんだね。新発見だよ。きっと、ここが私の本当の居場所だったんだね。ね、アズサもそう思うでしょ? って、初対面の人にいきなりそんなこと言われても困るか! あはは! …………ぐすん。
体育座りをしながら全体重を壁に預けていた私は、表情と腕だけを動かし、哀れな一人芝居を行っていた。
「"……なんだか、感情の起伏が激しい子だね……"」
「……普段はもう少し、落ち着いているんですけどね」
「ちょっと待って私これでも普段と少ししか変わらないんですか!?」
私はハスミ先輩の自分に対する印象を聞いて、思わず反応してしまった。
え、私そんなに普段はっちゃけてるかな!? 流石の私でも今のは聞き逃せないよ! 正直、今日は一日中隅っこで道化になりきろうと思ってたけど、やめだよやめ! しっかりと自己紹介をさせてもらうよ! それに、シャーレの先生への印象は良くしとかないとだしね!
「シャーレの先生、こんにちは! 普段は冷静沈着で落ち着きに落ち着いている正義実現委員会の二年生、赦宥エルです! 以後お見知りおきを!」
「"う、うん。こちらこそよろしくね"」
よし! これで何とか良い印象を持たせられたかな。全くハスミ先輩たら、後輩の私のことなーんにも分かってないんだから。ほら、私の華麗な自己紹介を聞いていた後輩たちの顔を見てみてよ! 先輩たる私がかっこよすぎて、震えながら蹲ってるじゃん! *1きっと心臓の拍動が300倍くらいになっちゃったんだね!
私が腕を組みながら胸を張っていると、コンコンと部室に扉を叩く音が響いた。
「失礼します、ハスミ先輩。お呼びっすか?」
「あ、イチカ。お待ちしておりました」
そうして姿を見せたのは、私の同期であり、数々の後輩を私から奪い去っていた人でもある、仲正イチカだった。
うちの後輩たち、何故か私とイチカを見る視線が全然違うんだよね。なんというか、イチカには憧れの視線を送ってるんだけど、私には動物園で箱から餌を取り出すチンパンジーを見る時みたいな視線が送られている気がするというか……。
実績とかも大きくは変わらないと思うんだけど……まぁ照れ隠しみたいなものか! 全く、うちの後輩は可愛いなぁ。
「あれ? イチカじゃん。また仕事? 」
「お、エルもここにいたんすね。そうっすよ、ハスミ先輩から連絡が来て。そういうエルはどうしたんすか?」
「私は任務帰りに部室に顔を出しに来ただけだよ。本当、それだけ」
まぁ、そしたらアズサとまさかの再会を果たしたんだけどね…………思い出したら吐きそうになってきた。私の人生辛かったことランキングTOP5入り濃厚だね、これは。
「それで、ハスミ先輩。どんな用件だったんすか? 」
「イチカには、催涙弾の弾薬倉庫に向かってもらって、まだ使える弾があるのか確認してきて欲しいのです」
あぁ…………アズサが占拠してたもんね、あそこ。
それにしてもイチカ一人で大丈夫なのかな? 確かあの弾薬倉庫、中々に広かった気がするんだけど。
「了解っす。ハスミ先輩」
「それと、きっと一人では大変でしょうから、手が空いている部員も連れて行ってください」
さすがハスミ先輩、ちゃんと分かって…………なんで二人ともこっちを見てきてるの? え? 私このあと自室に戻ってこっそり枕を濡らそうと思ってたんだけど……。
「分かったっす。それじゃあ……エル! 早く弾薬倉庫に向かうっすよ〜」
「ああもう! 任務終わったばっかりなのに!」
「それは私も同じっすよ。ほら、早くしないと置いてっちゃうっすよ〜」
「わ、分かった行くから! 置いていくのだけはやめてー!」
◇
「うわぁ……これはだいぶ派手にやられちゃってるっすね〜」
「これ、弾薬全滅してるんじゃないの……?」
私とイチカはアズサが占拠していた弾薬倉庫に入り、そんなことを呟いていた。
それにしても、本当に酷い惨状だなぁ。そこら辺に粉々の金属の破片が落ちているし、床や壁も弾痕だらけだ。
本当、頑張りすぎなんだよ、アズサは。いつもいつもさ。
「とりあえず、辺りを散策しよっか」
「分かったっす!」
ひとまず、私たちは倉庫全体を見て回ることにした。
幸いなことに、全ての催涙弾が爆破されていることは無かった。それでも元の数より半分を下回っているけど……まぁ、あるだけ良しと思った方がいいよね。
そうして、私たちがある程度選別が終わり、少しの休憩を挟んでいた頃だった。
イチカが私に向かって言葉を吐いたんだ。
「それで、今日は何か嫌なことでもあったんすか? 」
「……え? な、なんで? 」
私は思わず声が漏れてしまった。
だって、イチカにはあの時のことは見られていないはずだし、そもそも私は本気で心配されるような立ち振る舞いはしていなかったはずだ。……バレるはずないって、思っていたんだけどな。
「なんでって……いつにもまして、空元気だったっすから。分かりやすいんすよ、エルは」
「……隠すのは上手い方だと自負してたんだけどな」
「実際、上手い方だと思うっすよ。委員会のみんなは気づいていなかったし。ただ、相手が悪かったっすね。部活の同期で友達の子のことなんか、分かるに決まってるっす」
……本当、敵わないなぁ。こんな見透かされてるなんて、思いもしなかったよ。後輩から人気が出る理由も分かるなぁ。…………イチカになら、大丈夫だよね。
「私が昔、友達と生き別れた話はしたことがあったよね? 」
「今日、その子と再会したんだ、私」
「あぁ、あのアズサって子っすか?」
「うん、そう…………なんで知ってるの?」
「私とハスミ先輩が話してる時に、エルが横目でチラチラ顔を確認してるところを見たっすからね」
「そ、そう……」
敵わないとは思ってたけど、そろそろ怖くなってきたかも…………同期で友達だから分かるの範囲を優に超えてない……? 好かれてるって思ってていいのかな? これ。
「えっと……話戻すんだけど、私、アズサに忘れられててさ。その瞬間、なんというか、自分が自分である意味が無くなったような気がしたんだ。アズサと生き別れてから、私は片時もアズサのことを忘れたことはなかったから。常にアズサが何処かにいる人生だったんだ。そんなんだから、どうして自分が今まで生きてたのかが分かんなくなっちゃって…………ごめんね、重い話で」
「いや、大丈夫っすよ。そっか、そうだったんすね……」
話を聞いていたイチカの顔が、一瞬険しいものになっていたのを私は見逃さなかった。
「その話って、確か10年前とかなんすよね? 」
「う、うん。そうだけど……」
私がそう言うと、イチカはいつも通りの笑顔で返事をした。
「だったら、諦めるにはまだ早いんじゃないっすかね。きっと、また関わり続けていたら思い出す可能性もあると思うっすよ」
それは……確かに、そうかも。私にとっては、かけがえのない思い出だったから覚えていただけで、普通十年前のことなんてすぐ思い出せないよね。
あとは、私がそうだったから、アズサもきっと同じなんだなって心の中で思ってたのかもしれない。だから、アズサに誰? って言われた時に、傷を負いすぎたのかも。
「それにもし駄目だったら、私がエルの生きる理由にもなってあげれるっすし……」
「え? なんか言った?」
「……! い、いやぁ……なんでもないっすよ、本当っす!」
「そ、そう?」
何か絶対に聞いておいた方が良かったことを聴き逃した気分だなぁ。正直、気になるけど……きっと、今それについて聞くのは、現実から逃げるのと同じな気がするんだ。
「……私、アズサの所に行ってくるよ。ありがと、イチカ。相談に乗ってくれて」
「もし、イチカも悩みがあるなら、私に話してね。大好きな友達だもん、絶対力になるから! それじゃあね! また明日!」
「……うん、また明日っす」
私はイチカにとびっきりの笑顔を向けてから、アズサの元に全速力で走っていった。
◇
「確かここら辺に…………あった、補習授業部」
イチカと別れたあと、私は早速教室の前に来ていた。
ふぅ……落ち着け、私。大丈夫、きっとアズサも思い出してくれるはずだ。それに、こういうのは緊張しすぎる方が良くない。勢いだ。勢いさえあれば全ての物事はどうとでもなるんだ。私がトリニティ総合学園で学んだことを全て生かすんだ。
「それに、短い付き合いで残念だったけど、あんたたちはそういう感じじゃないみたいだし? あははっ!」
よし……入るぞ。
「じゃあね、精々頑張って!」
………………今!!!
「どうも! 赦宥エぐふぉっ!」
……あれ? 私なんで後ろに倒れ…………て。
「痛っ! ……うぅ、一体何が……って、エル先輩!? ど、どうして先輩がこんなところに…………先輩?」
「あら……これは……」
「ヘイローが消えているな」
「あ、あはは……」
「"き、気絶してるね……"」
こうして、私のアズサに思い出してもらうよう始まった学園生活は、最悪のスタートを切ったのであった。
エルちゃんの性格は元々こんな感じです。
決して拾われた孤児院の裏の顔がトリガーハッピー養成所な訳ではありません。
彼女が元々トリガーハッピーなだけです。
でも、そういう子が不意に見せる闇っていいですよね。