ーーロバート・オッペンハイマー
「やったぞ!ゴジラを倒した!!」
護衛艦の上に立つ人々は歓喜した。相模湾沖の決戦にて、ついにあのゴジラを屠ることに成功したのだ。
冬の到来を告げる木枯らしが吹いた11月3日、突如として東京湾沖に現れたゴジラは、品川駅に上陸後、銀座、霞ヶ関、永田町、浅草、上野といった都内を蹂躙した。駆けつけた自衛隊や、日米安保を口実に参戦した米軍を寄せ付けなかったゴジラによって10万人あまりの死傷者を出す大惨事となった。
都内は避難した人々で混沌を極め、政府はその対応に追われた。一方、米中露を中心とした国連は日本国内での核使用も考慮した駆除作戦を立案する。
だが、絶望的な状況にあっても日本人は、祖国を、そして愛する家族を守るため諦めなかった。あらゆる技術と人員を動員し、更に各国の有志連合の助力も得た日本は、原子力事故をヒントにした冷却作戦をもって、ゴジラに挑んだ。
あらゆる犠牲を出してでも、必ずゴジラを仕留める。皆が一致団結し、同じ方向を向いた日本は、遂にゴジラを倒したのだ。
皆は喜びの声をあげ、抱擁し、犠牲になった人々への哀悼の意を評した。
そんな中、ゴジラ討伐作戦を立案した生物学者と兵器を開発した技術者は、ゴジラが沈んだ水面を見つめていた。
「博士、やりました。我々の、人類の勝利です」
「……私はこの作戦の成功を素直に喜べん」
何故だと疑問の表情を浮かべた技術者に向き合った博士は続けた。
「君は、あのゴジラが最後の一匹だと思うかね?」
「それはどういう……」
「私は、あのゴジラが最後の一匹だとは思えない。我々が、兵器を開発し続け、戦争を続ける限り、あのゴジラの同類が姿を表すやもしれん」
博士はゴジラの沈んだ水面をしゃがんだ姿勢で見続けている。彼の目には、ゴジラの同類が世界各地を蹂躙する光景が浮かんでいた。今後、ゴジラの脅威に慄く大国を中心に、打倒ゴジラの為の兵器開発が進んでいくだろう。
ーーゴジラを生み出した核兵器開発もより加速するかもしれない。
広島出身の彼は、ゴジラを抹殺する名目で世界各地で核兵器に対するハードルが下がることを何よりも警戒した。その懸念が当たらないことを、彼は祈るしかなかった。
太平洋沖に沈むゴジラ。人類に手痛い敗北を味合わされた怪獣王は、再生しながら彼らに対する一種の興味を持ち始めていた。
究極の完全生命を目指して一体での進化を選んだゴジラと、群体として群れ、知恵を使って進化する道を選んだ人類。
その違いに、その進化に、ゴジラは初めて興味を持った。そして、人類が何を知り、何を考えているかを理解することは自身の生存に繋がるのではないか、と考えたゴジラは急速な進化を開始する。
不滅の肉体に本来は無い痛覚。より高精度な触覚。それを応用した聴覚。そして、それらの感覚器官から得た情報を精査する神経節の構成。
それ即ち、ゴジラに『思考』という機能が備わった瞬間と言っても過言ではない。
知恵と強靭な肉体という、エヴァンゲリオンの使徒も真っ青な『
新たな進化と思考の産声として、水面に浮かび上がったゴジラは天に向かって咆哮する。
大気と水面を揺らすゴジラの咆哮には、赤黒い稲妻が走り、周辺を泳いでいた魚たちを気絶させていく。
咆哮が終わり、辺りを見回したゴジラは違和感を抱く。先程まで自身の体の周囲を囲んでいた船が無かった。それに、天高く聳える建造物も、鬱陶しい飛行物体も、そして何より陸が無かった。
ーーどこか別の場所に浮かび上がってしまったのか。生まれたてのゴジラの思考はそう考える。だが、それはすぐに消えた。邪魔な存在がいないのならば、自由にするまで。
ーー敵のいない広大な大海原は、今日からゴジラによって支配される。ようやく、人類との戦いから解放され、望んだ静かな生活を送ることができるのだ。表情には出ないが、どこか緊張を解いたゴジラは水中深くに消えていった。
所変わって新世界上、偉大なる航路。魚人島を出発したとある海賊団御一行は、最終目的地であるラフテルを目指し、後悔を続けていた。海の奥深く、深海と呼ばれる領域にいた船長は、遥か遠くから放たれた微弱な覇王色の覇気を感じ取った。
「ん?おいレイリー、感じるか?この感覚」
「どうしたロジャー、藪から棒に。別に何も感じないが」
「こりやァ、とんでもねェ化け物が現れたぞ。遠くからだが、覇王色の覇気を感じ取れた」
「気のせいじゃないのか?」
「いや、間違いない。とんでもねェ覇気だった」
「そこに行くのか?船長」
「あったりまえよ!気になるだろ!?あんな強い覇気を放つ相手を前にして、ハイソウデスカと引き下がれるかってんだよ!」
厄介なことにならなければいい、とふく