「会いたかったよちーちゃん!さあ!ハグして愛を確かめ―――」
ガシッ!
「グエッ!?」
「やかましいぞ束」
「ちーちゃんのアイアンクローは相変わらず容赦がないね・・・」
織斑先生が勢いよく飛び込んで来た篠ノ之博士の顔を素手で掴んだ。何かが軋む音がするが気のせいだろう。織斑先生から解放されたらその場に倒れたが直ぐに立ち上がり篠ノ之の方に行った。何なんだこの人は?
「やあ!箒ちゃん!久しぶり!」
「どうも・・・」
「ちょっと見ない間に大きくなったし美人さんになったねぇ!」
「はぁ・・・」
何だか温度差を感じるな。姉妹の会話とはこんなものなのだろうか?俺には居ないから分からないが何だか寂しい感じがするな。まぁ兄弟姉妹が全員仲良しな訳ないか。篠ノ之の次は織斑に絡み始めた。
「やあ!いっくん!」
「こんにちは束さん」
「いっくんも見ない間にカッコ良くなってるね!」
「そ、そうですか?」
「これなら箒ちゃんを任せられるよ!」
「え?箒を任せる?何をですか?」
「何をって箒ちゃんはいっくんと―――」
「姉さん!!」
「アレ?箒ちゃん"まだ"なの?もー束さんうっかりミスでネタバレするとこだったよー」
「えっ?・・・ネタバレ?」
テンションがおかしい篠ノ之博士、激怒する篠ノ之、困惑する織斑・・・なんだこの状況は・・・てか学園に関係のない奴が居るがいいのか?
「あ、あの・・・関係者以外の方は・・・」
「んー?何かな?」
「お引き取りを・・・」
「おかしなことを言うねぇ?ISの関係者なら私が一番じゃないかな?」
「そうですけど・・・」
確かにISの開発者ならそうだが今は学園の授業でやっているんだから"学園の関係者"じゃなければあんたは部外者だろう。山田先生の注意を聞くどころか論点を変え屁理屈でごねるとか子供かよ・・・
「山田先生。こいつは何を言っても無駄だからほっといて構わない」
「え・・・」
「それより各班のサポートをお願いします」
「はぁ・・・」
おいおい・・・それでいいのか。いくら知り合いでも真面目に対応するもんじゃないのか。たしか昨日"私はあくまでも教員だ"とか言ってなかったか・・・これが教員の対応か。
「それより束、用があって来たんだろ?」
「あーそうだったね!忘れるところだった!」
「まったく・・・」
「それでは・・・大空をご照覧あれ!」
そう言って篠ノ之博士は空に手を振り上を向いた。すると八面体の物体が彼女の目の前に落ちて来て中から展開状態の真赤で派手なISが出て来た。
「じゃじゃーんこれが箒ちゃんの専用機"赤椿"だよ!」
「赤椿・・・」
「全スペックが現行ISを上回る束さんのお手製ISだよ!」
「これが・・・私のIS・・・」
成る程・・・詳しくは知らないが篠ノ之にコイツを渡す為に来たのか・・・てか"現行ISを上回るスペック"だと!?さらっととんでもない事を言ってないか?篠ノ之は喜んでいるが俺を含めた他の専用機持ちは唖然としていた。
「さぁ箒ちゃん!今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!」
「・・・よろしくお願いします」
「事前に箒ちゃんのデータは入れてあるから後は最新の物に更新するだけだからね」
「それはどうも」
・・・もうどこから何を言えばいいのか分からん。向こうは勝手にやっているからほっとこう。少し離れ端末で機体のチェックを行う。篠ノ之の方が終わるまでは待つことになるだろう。
「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの?」
「身内ってだけで?」
「なんかずるいよねぇ・・・」
専用機持ち以外の女子生徒達の方から不満の声が聞こえる。まぁ確かに傍から見れば棚から牡丹餅で専用機をもらっている様に見えるよな・・・篠ノ之博士が声のした方を向いた。
「おやおや?最近の子は歴史を勉強しないのかな?人類が平等だった事なんて一度もないよ?」
結構離れているのによく聞き取れるな。正論だがわざわざ言う事か?
「え・・・あ、えっと・・・」
「もう行こう・・・」
「うん・・・」
篠ノ之の事を"ズルい"と言っていた女子生徒たちはそそくさと離れていった。彼女達を擁護する事はない。寧ろ胸がスーッとする。専用機があってもいい事だけではない。一度専用機があるからって自分の意志に関係なくハンデ無しで代表候補生と戦って勝ったのに後から"卑怯者"と言われてみればいい。そうすれば少しは見方が変わると思うよ・・・荒んだなぁ俺も・・・
調整が終わった赤椿の動作テストを見たがなんて動きをしているんだ・・・機動力がバスターとは桁違いだ。篠ノ之博士が何処から用意したミサイルを難無く回避し叩き落している。篠ノ之の実力がどれ程か分からんがアレに接近されるのは厄介だな・・・前からバスターに接近戦用の武装を追加して欲しいとエリカさんに要望を出しているが主張を強めなければならないな。取り回しを考えると"銃剣"が良いかもしれない。端末のメモに今の考えを記載しておく。臨海学校から帰ったら話しておこう。
動作テストが終わった後篠ノ之博士は織斑の白式を見ていた。いろいろ調べていたようだが何故ISが男でも動かせるのかは彼女でも分からないらしい。その後自分の機体を見て欲しいと言って来たオルコットに冷めた態度で接していた。成る程・・・見た目は大人の様だが中身は好き嫌いの激しい子供だな。関わらない事が一番だね。メモを取っている時ふと前を見ると篠ノ之博士が目の前に居て俺の顔をまじまじと見ていた。
「ふーん・・・似てないね」
「ん?」
似ていない?何がだ?
「血が繋がっているはずなのに・・・」
「あの・・・なんですか?」
「うーん・・・」
俺の問も聞かず怪訝な顔をして首を傾げている。何なんだ一体?
「ねぇ、少年」
「はい?」
「お父さん、元気?」
え・・・父さん?俺の?・・・篠ノ之博士が何故父さんの事を聞いてくるんだ?あまりの事に理解が追い付かない。
「アレ?聞こえないのかな?舌だけじゃなくて耳も悪いのかな?」
「!?」
何故それを・・・いや、今はどうでもいい。
「失礼しました・・・父の事は分かりません。行方不明なので」
「・・・ちぇっ」
篠ノ之博士は不機嫌な顔で舌打ちをした。そこへ織斑先生が来た。
「束、秋月の父親と知り合いなのか?」
「ん?・・・まぁね。嫌な奴だけど」
「嫌な奴?」
「うん。天才である束さんでも知らない事を知っていてさそれを独り占めするからムカつく奴なんだ」
「束でも知らない事?」
「そう。でもアイツはダメなおっさんだよ」
「・・・何故そんなことを言う。家族の前だぞ」
「その"家族"を置いてどっかに消えたんだよ?きっとどうでもいいと思って―――」
「束!!」
「ひっ!?」
怒号で怯んだ篠ノ之博士の胸倉を織斑先生が掴んだ。物凄い剣幕にこっちまで恐怖を感じる。
「人の家族の事をとやかく言うな!!」
「ちーちゃん・・・苦しい・・・」
「分かったか!!」
「・・・うん」
「フンッ!」
織斑先生は掴んだ胸倉を離した。篠ノ之博士素早く離れ篠ノ之の方へ向かう。
「うぇーん!箒ちゃん!ちーちゃんがいじめる!!」
「知りません」
「ヒドイ!?」
・・・本当に何なんだアイツは?
「秋月」
「はい?」
織斑先生が声を掛けて来た。申し訳なさそうな表情をしている。
「すまないな。束は昔からあんな感じでな・・・お前の家族の事を・・・・」
「いえ、別に気にしていませんよ」
「・・・そうか」
父さんの事は俺もよく知らない。もう何年も会っていないしそもそもどんな顔をしていたかも覚えていない。エリカさんからモルゲンレーテ社の設立時の写真で見たくらいだ。写真とかまったく残さない人らしい。バスターに注ぎ込まれた技術の基礎を築いた人らしいがどんな人だったのだろうかは分からない・・・篠ノ之博士とはどんな関係だったのだろうか?"嫌な奴"と言っていたが何があったのだろうか?
「織斑先生!!大変です!!」
いろんな疑問が浮かんで来た時に山田先生が慌てた様子で走って来た。
「どうした?」
「これをっ!」
織斑先生に何かメモを渡した。何が書いているかは分からないが絶対にロクなものじゃないな。
「全員注目!!今日のテストは中止だ。各班はISを片付け旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内に待機だ。」
「「「はい!!」」」
織斑先生からの命令で慌ただしくなった。テストは中止か・・・
「アッキー何が起きてるの?」
「分からないが嫌な予感がするよ」
「それって―――」
「そこっ!無駄話してないでさっさと戻れ!」
「は・・・はい」
「それから専用機持ちは全員集合しろ!」
「布仏さん、また後で」
「うん、気を付けてね・・・」
布仏さんと別れ他の専用機持ち達と一緒に織斑先生について行く。これは余程の事が起きたな。