ただそれだけです。
──セイウンスカイの場合──
「トレーナーさん、トレーナーさん」
スカイがニヤニヤしながら俺に近寄ってくる。こういう時、彼女はろくなことを考えない。
「どうした?」
「実はクラスで流行っているゲームがありましてー」
ゲームか……どうせまたポッキーゲームとかそういう感じなんだろうな……
「『愛してるゲーム』って言うんですけど……」
「……やっぱりか、言っておくが俺はそういうゲームはしないぞ」
というか、そんなものがクラスで流行ってたまるか。
「お、トレーナーさんビビっているんですか?」
安定の煽りをかましてくるスカイ。俺は「大人」として毅然と対応する。
「いや、そういうわけじゃなくて」
「そっかー……トレーナーさんは『ただのゲームにビビる』人なのかぁ〜」
食い気味に言うスカイ。相変わらず人をおちょくる能力は高いようだ。
その後も「残念だな〜」とわざと俺に聞こえるように言ってくる。
我慢だ……我慢だ俺……!と自分に暗示をかけようとする。
「じゃスペちゃんのトレーナーさんとやって来ようかな〜」
「やります。いや、やらせてください」
それは許されない、そう思った。
──
愛してるゲームとは!!!
ルールは簡単。交互に「愛してる」と言い、照れたほうが負け。
以上!!!
それではレディ……ファイッ!
「先攻はトレーナーさんで良いですよ〜」
「じゃあいかせてもらう……スカイ、愛してるぞ」
「私もです」
「……君の番だ」
「愛してますよ、トレーナーさん」
ここはお互い耐える。まあ長い付き合いだからこれくらいのことで動じない。
「……スカイ、愛してるぜ☆」
声を低くして言ってみる。参考にしたのは俺が高校生の時に見たドラマの主人公だ。
「私もトレーナーさんのこと愛してますよ〜」
どうやら効果がない。
「……スカイ、コレは本当の気持ちなのだが……俺はお前を愛している」
真剣な表情をして言ってみる。コレにより本気で言っているのかと錯覚させることができる。
「そ、そううなんですね〜……私もトレーナーさんを愛していますよ」
これもほとんど効果がないようだ。
ならば、と少しだけ彼女に近寄る。
「……?と、トレーナーさん?」
想定外の事態で少したじろぐスカイ。それでも俺はやめない。
俺が一歩、二歩、と近づくごとに、スカイは一歩、二歩と下がっていく。しかし下がっている途中でスカイは壁に背中がつく。部屋の端っこまで来てしまったようだ。俺はそれを見逃さず、少し大きめのステップを踏んで、
彼女の耳元まで接近し、囁くように言う。
「……スカイ、愛してるよ」
「ーーーーーーーー!」
声にならない声がスカイから発せられる。
「きょ、今日はこの辺にして、セイちゃんは用事を思い出したので帰りますね〜」
早口にそう言い、そそくさと逃げるように帰っていくセイウンスカイ。
良かった、俺の心音が速まっていたことはさとられていないようだ。
──グラスワンダーの場合──
「トレーナーさん」
少しだけ浮かない表情をしたグラスがトレーナー室に入ってくる。
「どうした、グラス?」
「実は教えてほしいことがありまして……」
「俺で良ければ答えるけど」
勉強とかの質問に答えられる自信はそこまでないが、
「その、エルから教えてもらった『愛してるゲーム』というのが何なのか教えてほしいです」
「……なんだって?」
耳を疑う。
「『愛してるゲーム』?というものがどういうものなのか教えてほしいです」
「……取り敢えずどういう経緯でその言葉を知ったのか教えてもらえる?」
「はい、……えっと、まずエルが最近『面白いゲームを見つけましたデース!』とスペちゃんやセイちゃん達といっしょにいる時に言われて……」
「それでその意味が分からなかった、と」
頷くグラス。
さて、どうしたものか。ここで正直に教えてあげたほうがいいのか?それともやめといたほうがいいのか?
いや、別にやましいものでも無いし教えるか……
─説明中─
「……そういう、意味だったんですね」
「……」
「すいません。私としたことが、変な質問をしてしまって」
「大丈夫だよ。誰でも知らないことはあるわけだし」
「……ところで、その……」
「?」
「実は私も一回くらい『愛してるゲーム』をしてみたかったりするのですが……」
チラッと、上目遣いでこちらを見てくるグラス。
──
「……」
どうしてこうなった……
「じゃあ先攻はわたしから行かせてもらいます」
「トレーナーさん。ずっと貴方のことをお慕い申し上げておりました」
ここでまさかのストレートに「愛してる」と言わない変化球技を出してくる。
「お……俺も愛しているぞ」
だめだ、トレーナーと担当という関係上、どうしても「愛している」と言う事に抵抗を覚える。
「フフッ、トレーナーさん愛していますよ」
先ほどと同じ文言でくると思っていたため、普通に言われることを想定していなかった俺にクリーンヒットする。
思わず顔を背ける。顔がきっと赤くなっているだろうから見せないように後ろに振り向く。
すると背を向けていた俺の方にグラス右手が乗る。そして彼女が俺の耳元まで顔を近づけてこう囁く。
「私の勝ち、ですね」