クワット絶対防衛線   作:Eitoku Inobe

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「共和国にとってクワットの防衛は明日の命を繋ぐ生命線である。各員、持てる全力を持って分離主義勢力の艦隊を破砕せよ。我々の祖国が再び1,000年先も平和であり続けられるように」
-クワット方面軍司令官 ウィルハフ・ターキン共和国宇宙軍提督-


クワットの戦い 上

-共和国領 クワット宙域 惑星クワット クワット宙域軍司令部-

クローン戦争が始まってから既に1、2年が過ぎていた。

 

共和国軍は初戦のジオノーシスの戦いで勝利したがそれが戦争全体の勝利に繋がる訳ではなかった。

 

連合軍のバトル・ドロイドによる物量に圧倒され一進一退の攻防が続いていた。

 

そんな中、共和国情報部は連合軍の兵力移動とある作戦計画の噂を傍受した。

 

「それで、連合軍はこのクワットに総攻撃を仕掛けてくる…と。その規模は」

 

『はい、敵艦隊の規模は総数960隻、これまでに類を見ない大規模な艦隊です』

 

第4宙域軍担当国防次官のプラージの問いに共和国情報部第4局長、ドット・ランシット少将は現在知り得る情報を報告した。

 

通常連合宇宙軍の1個艦隊は200隻から400隻程度の鑑定によって構成されている。

 

尤も400隻のフルスペックの艦隊は首都圏の防衛艦隊や主力の一部に限られており、殆どが200隻ないし200隻を下回ることもある。

 

今回の敵艦隊の規模はフルスペックの艦隊戦力以上のものということだ。

 

情報部が傍受した情報が正しければ連合は本気でクワットを堕としに来たということになる。

 

「局長、敵の艦隊司令官の詳細は分かるか」

 

共和国宇宙軍のジャージャロッド提督はランシット少将に尋ねた。

 

ジャージャロッド提督は惑星ティネルⅣ出身の上級将校で後に彼の孫が帝国のモフとして第二デス・スターの建造を主導することになるのだがそれはまた別の話。

 

『敵の総大将と思わしき人物はべフェロ・パーロ提督、通商連合出身の艦隊司令官で現在勾留中のマー・トゥーク司令官とは同期だそうです』

 

「モン・ガザの戦いで指揮官を務めていた人物だな。奴は手強いぞ」

 

マー・トゥークも優秀な艦隊司令官でありライロスの戦いでは共和国宇宙軍を苦戦させた。

 

当然パーロ提督も優秀な指揮官であり連合の本気具合が伺える。

 

会議に参加する諸将達の中に恐らくこの情報は本当なのだろうという確信が強まっていた。

 

「クワットは我々の故郷でもあり、現在の戦線を維持する上ではクワットの生産力を失うわけにはいかない」

 

クワット宙域軍参謀総長、マハル・ボーディン提督はそう危機感を露わにした。

 

各惑星に保有が認められた惑星防衛軍は現在でも存在しており、軍の何割かは共和国軍に引き抜かれたがそうでない者達は共和国軍と肩を並べて故郷の防衛に努めていた。

 

この会議にはクワット宙域軍側の代表として参謀総長、地上軍司令官、宇宙軍司令官、航空軍司令官の4名が参加している。

 

「それは我々も分かっている。我が第4宙域軍はクワットに展開する戦力を増強する。ランパート准将、増援の件はどうなっている」

 

『はい、現在共和国第1、第2、第3、第5、第6宙域軍の予備艦隊を動員しクワットの防衛に充てる予定です。既に幾つかの艦隊はクワットに到着しているかと』

 

共和国軍統合本部所属のエドモン・ランパート准将は自身あり気に答えた。

 

共和国軍は広大な戦線をコントロールする為に20個の方面軍として宙域軍を編成した。

 

クワットはその中でも第4宙域軍に属しており、またクワット宙域軍の保有する艦隊戦力は他の惑星防衛軍と比べても潤沢である。

 

プロキュレーター級スター・バトルクルーザーを始めマンデイター級ドレッドノートといた8キロを超える大型主力艦を保有している。

 

クローン戦争開戦と共にマンデイター級などの艦艇はグレードアップされ、マンデイターⅡ級へと進化した。

 

他にも共和国宇宙軍の駐留艦隊などが存在しクワットの守りは以前から頑強であった。

 

しかし相手は900隻以上の大艦隊である。

 

現在の戦力ではやはり貧弱であり他の地域から戦力を引き抜く必要があった。

 

クワットが失陥すれば共和国軍全体の兵器供給に多大なる支障が出る。

 

会議に参加している各諸将に戦力状況を伝えるホログラムのデータが出た。

 

『これは私の個人的な考えだが、敵戦力を鑑みればこれでも戦力不足に感じる。もう少し戦力を増強出来ないのか?』

 

共和国宇宙軍、バートン・コバーン提督は戦力図を眺めながら不安要素を呟いた。

 

彼は最前線で戦う指揮官の1人であり隣で同じく前線で戦うウルフ・ユラーレン提督も同様の危機感を抱いていた。

 

『第7軍から恐らく引き抜けるでしょうが……ですが北部方面で連合軍の攻勢を受けている為そちらの対処で増援はかなり限定的になるかと』

 

『それは恐らく他の宙域軍でも同様でしょう。各戦線で連合軍による散発的な浸透攻撃が確認されている』

 

共和国情報部としてはこの一連の攻勢は陽動であると分析している。

 

恐らくクワットに増援を送ることを阻止する為であろう。

 

その結果第7宙域軍から増援を抽出出来ない可能性を鑑みると連合の目論は成功したとも言える。

 

「そのことについて心配は無用だ。既に第18軍から一部の艦隊をクワットの防衛に配置した。少しは防衛線の足しになるはずだ」

 

その男は自身の座席に座った後に「すまない、トゴリアの掃討戦で遅れた」と付け加えた。

 

「丁度いいタイミングで来てくれた。我々は現在クワットにある戦力をクワット方面軍として指揮系統を編成する。そして最高議長は方面軍司令官にターキン提督を任命された」

 

プラージ国防次官の隣に座るウィルハフ・ターキン提督は諸将を見渡して口を開いた。

 

「クワットは共和国軍の生命線、我々の命に変えても守り抜く必要がある」

 

ターキン提督の瞳はいつにも増して冷徹そのものであった。

 

そしてその冷徹さは間違いなく敵に向けられている。

 

「分離主義者に思い知らせてやる必要がある。思い上がった者達がどのような末路を、辿るのかをな」

 

数ヶ月前にローラ・サユーから救出されたターキン提督は鬼神の如き働きぶりで連合軍に打撃を与えた。

 

一連の戦いの功績により彼は一気に提督へと昇進し軍部の期待の星となった。

 

「しかしターキン提督、第18軍からも戦力を引き抜いて良かったのか?」

 

ジャージャロッド提督は不安げに彼に尋ねた。

 

第18宙域軍は彼の故郷、惑星エリアドゥを含めた南アウター・リムの一角を担当領域としている。

 

近隣には連合の勢力も存在しており開戦直後は即座に戦闘が勃発していた。

 

「既にあの地域の連合軍は攻勢に用いる戦力を喪失している。領域の防衛は現状の戦力と辺境域保安軍で十分だ」

 

「そうか……」

 

「作戦計画の一案をロモディ中将や他の参謀達と練ってきた」

 

データチップをテーブルの挿入口にセットし、ホログラムを浮き上がらせる。

 

ホロテーブルには大まかな部隊配置図と作戦計画が記載されていた。

 

「連合軍の主攻勢方面はニモーディア側からだろう。まずここに主力の第一線、第二線を展開する。第三線を最終防衛ラインとし、反対側に第四線と予備兵力を配置する」

 

『連合軍が包囲戦や浸透攻撃に移行した場合はどうされる?現状では対処が難しいように思えるが』

 

コバーン提督も疑問点を挙げた。

 

今の案では連合軍の正面攻勢を阻止することは出来るが全戦力を持って包囲戦や機動戦による浸透戦術に移行した場合対処のためには時間と労力を必要になる。

 

「そのことについては心配無用だ。ステーションを基幹とした防衛艦隊を配置し、敵の浸透と包囲殲滅を阻止する」

 

ホログラムに宇宙ステーションと簡略化された艦隊が浮き上がり敵の浸透を阻止しているアニメーションが流れた。

 

「しかし今の戦力で足りるでしょうか」

 

「問題ない参謀総長、コルサントとイクストラーの本国防衛艦隊から増派が決定された。既に元老院と委員会の承認も通った」

 

「それは本当ですか…?」

 

「私はこの場で嘘を言うほど状況が逼迫していると思うかね?」

 

ユラーレン提督やコバーン提督も驚き顔を見合わせていた。

 

コルサント本国防衛艦隊、クローン戦争前から存在するコルサントの守備艦隊でありクローン戦争中は首都防衛の為と一隻たりとも艦隊を動かすことはなかった。

 

その為リム域で戦う将兵達にはコルサント引きこもり艦隊(Coruscant Homebody Fleet)と揶揄されていた。

 

そんなコルサント本国防衛艦隊がクワット防衛の為に戦力を引き抜くというのだ。

 

「艦隊司令部はともかく、元老院を説き伏せるのはかなり苦労したらしい。最高議長に感謝だな」

 

「ともかく、必要な戦力は揃った。後は調整だけだ」

 

『情報部と統合本部の連絡将校として私とランパートもそちらに向かいます』

 

ランシット少将はそう報告しターキン提督は「戦地で待っているぞ」と彼らに伝えた。

 

「最高議長は我々に期待しておられる。我々“()()()()”の戦果にな」

 

ターキン提督は二重の意味で諸将に念を込めて言葉を贈った。

 

最高議長らが求めているのはジェダイでもクローンでもない“()()()()”の戦果、その意図を認識し期待に添える者が新時代の秩序を作っていくのだ。

 

 

 

 

 

-共和国領 クワット宙域 クワット星系 ステーション・フォックストロット-

幾つかの宇宙ステーションは他の軌道上から別の地点への移動が可能であり、このステーション・フォックストロットもティネルⅣのステーション群から引き抜いてきたものだった。

 

このタイプの宇宙ステーションには大型艦船でも停泊可能なドッキング・ベイが備わっており、現在ヴェネター級スター・デストロイヤーが2隻停泊している。

 

周囲にはヴェネター級だけでなく、アークワイテンズ級軽クルーザーやヴィクトリー級スター・デストロイヤー、アクラメイター級アサルト・シップが駐留していた。

 

その中でも特に目を引くのが艦隊の中央に位置するマンデイターⅡ級ドレッドノートであろう。

 

クローン戦争より20年近く前に誕生したマンデイター・ラインの最新鋭モデルであり、戦前に各惑星防衛軍が保有していたⅠ級はクワットでⅡ級へのアップグレードが進められている。

 

また何隻かは新しく建造され共和国宇宙軍の旗艦として活動していた。

 

「ハイマン・デンフォルド中佐、入ります」

 

ステーション内の執務室に1人の宇宙軍将校が入室した。

 

彼は自身の階級である中佐にしては随分若く見える。

 

それもそのはず、彼は戦争が始まるまではまだ大尉でしかなかった。

 

ハイマン・デンフォルド、共和国宇宙軍中佐でヴェネター級スター・デストロイヤー“デタミネーション”の艦長を務めている。

 

元は惑星防衛軍の宇宙軍大尉でクローン戦争開戦と同時に共和国防衛連合条約が発動し選抜志願という形で共和国軍の将校となった。

 

彼は惑星ドリーリア出身で父親もドリーリア惑星防衛軍の大佐であった。

 

ドリーリア宇宙軍兵学校を卒業後にドリーリア防衛宇宙軍に入隊。

 

大尉まで昇進しアナクセス軍事大学校に留学中にクローン戦争が始まった。

 

ハイマンはその場で特別措置として認定を貰い、そのまま共和国軍に送られた。

 

そのまま暫く前線で戦い、戦争が2年目に入る頃にはもうヴェネター級の艦長になっていた。

 

「デンフォルド艦長、よく来てくれた。どうだね、“デタミネーション”は」

 

中佐の敬礼を返すと執務室に座っているテリナルド・スクリード中将は彼に新しい乗艦の話を尋ねた。

 

「どうもこうも大して変わりませんよ。戦時下においても品質を落とさないのは流石クワットといったところです」

 

「だがその様子だと思うところがあるようだな艦長」

 

ハイマンは顔を背けつつ「ええ」と小さく同調した。

 

スクリード中将も彼が抱えている不安要素は大凡見当がついている。

 

「デノン防衛戦で私の艦は戦争初期からいる熟練の部下の半数を失いましたから」

 

ハイマンは苦々しい表情でそう語った。

 

スクリード中将は「仕方ない、相手があのトレンチ提督だった」とフォローを入れたがハイマンとしては納得出来ない面持ちだった。

 

連合軍は惑星デノンをを攻略する為にサイボーグ技術で復活したトレンチ提督を指揮官に攻撃艦隊を展開した。

 

トレンチ艦隊の猛攻にデノンの守備隊は打撃を受けたが辛うじて撃退に成功した。

 

デノンの守備隊にいたハイマンのヴェネター級も敵艦の集中砲火を受けて乗組員の半数が死傷し艦は修復不可能として放棄された。

 

「むしろ君達の奮戦がなければ今頃デノンは失陥していた。あの犠牲は共和国の生命線を守ったとも言える」

 

「中将閣下も私と全く同じことを仰るのですね。私もそう部下達には伝えました」

 

「それが指揮官というものだ。さて、いつまでも無駄話をしている訳にはいかない」

 

中将は話を切り替えある一つの作戦計画が入ったホログラムを展開した。

 

ハイマンは目で作戦計画を追った。

 

「近々連合軍がクワットに対して大規模な攻撃を仕掛けてくることが確認された」

 

「噂通り……ですか」

 

スクリード中将は小さく頷いた。

 

既にここに来るまでに多くの将校達がクワットに連合軍の大部隊が向かってきていることを噂していた。

 

ハイマンも既にクワットに来る途中で半ば察していた。

 

後方のステーションに駐留していたドックの艦艇が全てクワットに派遣されるなんて通常はあり得ないことだ。

 

「君も身をもって知っているとは思うがクワットが失陥すれば共和国軍の兵器供給に多大な影響を齎す。我々は意地でもクワットを守り抜かねばならん」

 

ハイマンのヴェネター級“デタミネーション”はつい1ヶ月前に建造された新鋭艦である。

 

聞いた話によればデノンの守備隊も即座に補充の艦隊が到着し既に防衛戦以前と同等の戦力にまで回復したそうだ。

 

全てがクワット本星の工場から建造されているわけではないにしろその大多数はクワットから来ているものだった。

 

「君を含めクワットに集められた戦力はクワット方面軍として再編成され総力を持ってクワットの防衛を行う。司令官にはターキン提督が任命された」

 

「ターキン?あのウィルハフ・ターキン提督ですか?提督と麾下艦隊はトゴリアにいるはずでは」

 

「トゴリアでの連合軍掃討を終えてクワットにいる。あり得ないスピードだがおかげで最も必要な人物が揃った」

 

ハイマンは若干の衝撃を覚えつつも「それで、我が艦の配置はどこですか?」と尋ねた。

 

このクワット防衛戦は確実に類を見ない大激戦になる。

 

恐らく前線に配置されれば無傷で戦闘を終えることは難しくなるだろう。

 

ハイマンも含めた乗組員全員が覚悟を決めなければならない。

 

補充として入ってきたまだ若い新兵達も。

 

「第一防衛線の独立機動群に君と君の艦が配属される、前線司令部直轄の部隊だ。そして指揮官は私が務める」

 

そう言ってスクリード中将は現段階で決まっている部隊編成表を手渡した。

 

ハイマンは表を受け取りポケットにしまうと軍帽を深く被り直した。

 

目元を隠しなるべく自分でも本心を出さないように努力する。

 

「敵の主力はニモーディア方面から来ることが予測される。つまり我々は敵の主力と真っ先にぶつかるということだ」

 

クワットの隣宙域にはニモーディアンの母星である惑星ニモーディアが存在する。

 

ニモーディアンは分離主義の中枢ともいうべき通商連合の指導部などを務めており、敵将のパーロ提督もニモーディア出身のニモーディアンである。

 

その為ニモーディアは連合の拠点であり以前から度々嫌がらせ程度に連合軍部隊の攻撃はあった。

 

しかし今回はその比ではない本格的な大攻勢が実施されるだろう。

 

第一防衛線の将兵達はその攻勢の波を一番最初に受け、なんとしても波がクワットへ到達することを防ぐ必要があった。

 

「独立機動群の各艦には必要に応じて他の部隊の救援に向かってもらうこともある。素早い艦の機動運用が重要になってくる」

 

「“デタミネーション”にはそれが出来ると?」

 

スクリード中将はその通りだと言わんばかりに頷いた。

 

その期待がハイマンの口を強張らせる。

 

「サルヴァラやガロスの戦いで君は見事な機動運用をやって見せた。君と古参の乗組員ならば今回もやってくれるだろう」

 

「古参の乗組員なら確かにそうでしょうが…我が艦の乗組員の半数はもう古参ではありません。新兵ばかりです」

 

ハイマンはスクリード中将の期待に対し思いの丈をぶつけた。

 

スクリード中将も分かっているようでハイマンを宥めるように理由を付け加えた。

 

「君の艦の訓練記録を幾つか見たがそれでも十分な能力だと私は踏んだ」

 

「かなり無茶をして経験を積ませましたからね。ああでもしないと戦場で悪戯に若い命を散らすだけです」

 

「であれば君が積ませた訓練の成果を信じろ」

 

ハイマンは噛み締めていた口を開き思っていたことを吐き出し始めた。

 

「中将、この際なので包み隠さず言わせていただきますが、現状の我が艦には重責過ぎる役割と存じます。ご存知の様に我が艦は先のデノン戦の影響で乗組員の半数は新しい補充兵です。しかも数年前まで軍にいた者はむしろ珍しいとすら言える、全員が経験の浅い者ばかりです」

 

新たな艦と補充兵を与えられた時ハイマンは酷く驚いたものだ。

 

明らかに今まで見てきた乗組員達とは違う、本当に若年の兵達がいた。

 

「それに未だに我が艦のスターファイター充足率は半分にも達しません。あれではせっかく200機以上積めるのに宝の持ち腐れだ」

 

ヴェネター級スター・デストロイヤーには本来通常のスターファイター192機、攻撃型偵察機や爆撃機が36機艦載出来るはずだった。

 

しかし共和国軍のパイロット不足によりヴェネター級一隻に機体が充足率100%に艦載されているケースは極めて稀である。

 

大抵の場合2/3もいればいい方で充足率が半分でもまだマシな方であった。

 

この時点で“デタミネーション”が艦のフルスペックを活かし切れているかと言えればそうとは言えない。

 

「中佐、そうは言っても贅沢は言ってられんのだ。共和国軍は新規生産のクローンと惑星防衛軍の徴収兵で辛うじて兵員を保っている。特に地上軍(グランド・アーミー)だって全員がジェダイのようにクローン兵を与えられる訳ではない。中には比喩抜きの新兵だっている」

 

「…共和国軍は徴兵を実施していないのが公式回答だったと記憶していますが」

 

ハイマンは少しぶっきらぼうに答えた。

 

相手が例えばターキン提督や古参のキリアン提督だったらこうはならなかっただろう。

 

スクリード中将はハイマンがアナクセス軍事大学に留学中に世話になった旧知の間柄だ。

 

多少本音を吐露する事が出来た。

 

「表向き、というよりそれは言い換えだな。厳密に言えば確かに共和国は徴兵制を実施していない。しかし、惑星防衛軍を保有する各惑星政府はそうではない。カリダやデノンのように以前から徴兵をしていた惑星は大規模動員をかけている」

 

クローン戦争より700年近く前に行われた惑星防衛軍再編会議の結果、惑星防衛軍や惑星保安軍の権限や規模は強化され今日に至る。

 

惑星防衛軍は各惑星政府の国軍たる存在で徴兵制の実施や志願兵制への移行、定員などは全て各惑星政府に委ねられた。

 

その為一部の惑星政府は防衛軍の徴兵制度を長く堅持し続けており、その結果即座に大量の人員を軍に動員することが出来た。

 

またある惑星政府は開戦後に国家総動員令を出し急ピッチで動員体制を整備し始めた。

 

それは共和国も同じであり、今共和国では復活した国防省が急いで軍政の整備を進めている。

 

「本来は徴兵も動員も惑星政府へ委ねるのではなく共和国が行うべき代物だ。COMPNORや一部の官僚は『我々は戦時においても徴兵制を取らない、自由と人道に配慮している』と言っていたが実際は違う。共和国は自由や人道で徴兵制を実施しないでいる訳ではない、ただ単純に出来ないからやっていないだけのことだ。物は言いようだろう?」

 

「…相変わらず、共和国への不満は多いようですね」

 

スクリード中将は以前からこの様な人であった。

 

クローン戦争以前からスクリード中将は統一された国軍の重要性と危機に対する武力行使を訴えていた。

 

その為彼はよくジュディシアル・フォースイチのタカ派と言われ、一部からは疎まれていた。

 

しかし戦争が始まると彼は名声を浴び、非難の声は少なくなった。

 

それは片目を失いサイボーグ化した機械の片目でなおも戦場に立つ勇姿による影響も少なくはなかった。

 

「しかしパルパティーン最高議長のおかげで状況は改善されつつある。やはりあの方は共和国を変えて下さる人だった」

 

スクリード中将は単なるタカ派というだけでなく現在の最高議長であるシーヴ・パルパティーンとも盟友であった。

 

中将には世話になったが彼の政治思想にまで賛同するほどではないというのがアナクセス時代のハイマンの感想だった。

 

「……話がズレたな。ともかく、この編成は既に決定されたものだ。君がどれほど不安要素を上げようとこの役目は君と君の鑑にしか出来ない」

 

「戦場でまた、半数の乗組員を失う結果になってもですか」

 

「戦場にいれば遅かれ早かれ誰かが必ず死ぬ。割り切るしかない」

 

ハイマンは再び軍帽を深く被り直し「そうですね…」と小声で呟いた。

 

彼も頭では仕方のないことだとは理解していた。

 

死なない為の努力は積み重ねてきたつもりだ、それでダメならば割り切るしかない。

 

指揮官として必要な冷徹さを理解はしている、しかしどこかで拒む気持ちがあった。

 

やはりまだ自分の年齢と階級の重みが釣り合っていないということなのだろうか。

 

「“デタミネーション”には新たに1個爆撃中隊と2個スターファイター中隊を増強する。少しは足しになるはずだ」

 

「お気遣いに感謝します中将」

 

「敵の侵攻まで暫く時間がある。訓練や休息は君の裁量に任せる」

 

ハイマンはスクリード中将に敬礼し執務室を後にした。

 

休息もそうだが開戦までやるべきことが多くある。

 

 

 

 

-共和国領 クワット星系内 ヴェネター級スター・デストロイヤー“デタミネーション”-

クワット方面軍は連合軍にクワット星系に防御線が構築されつつある状況を察知されない為様々な偽装工作を行なっていた。

 

共和国情報部は工作の一環として現在各宙域軍で動いている艦隊は全て北西部攻勢の前段階であるという偽情報を連合側に流した。

 

またクワットの各部隊も航行可能な航路を制限しなるべく敵に艦隊の移動や規模を図られないよう努力した。

 

偽装工作が成功すれば連合軍は防衛線の存在を知らぬままクワットへと攻め込むことになる。

 

「艦長、戻られましたか」

 

自身が指揮するヴェネター級“デタミネーション”に戻ったハイマンは早速乗組員の1人に声をかけられた。

 

自分より10歳は確実に年上の男の声で振り返ると彼はきっちりとした敬礼をハイマンに送っていた。

 

「ジョルダーノ上等兵曹」

 

ハイマンもラッセル・ジョルダーノ上等兵曹に敬礼を返した。

 

ジョルダーノ上等兵曹はハイマンの隣を歩きながら雑談を交わした。

 

「第一線の遊撃部隊に配属されることになった。これから忙しくなる」

 

「なるほど、だから顔が強張っていたんですね」

 

「そう見えたか……だが実際大変な任務だ。みんなには……また覚悟を決めて頑張ってもらわねば」

 

「艦長はドンとしていてください、若い兵の面倒を見るのは私らの仕事でもあります」

 

「本当に助かる」

 

ハイマンはジョルダーノ上等兵曹が今まで乗ってきた軍艦にいた下士官の中で一番頼りになる存在だと感じていた。

 

デノン防衛戦以降もなんとか乗組員の士気を維持してきたのはジョルダーノ上等兵曹ら下士官の力が大きい。

 

2人の雑談はエレベーターに乗り込んだ後も続いた。

 

「ブリッジに行ったら早速訓練の調整だ。新しくスターファイターが3個中隊増強される、部隊の受け取りもせねば」

 

「本当に一気に忙しくなりますね、“ミスフォーチューン”に初めて乗った頃を思い出します」

 

「戦争が始まってから本当の休みなんて一気になくなってしまった」

 

「ええ、我々が心から休めるのは戦争が終わってもう10年経った辺りからでしょう」

 

エレベーターのドアが開きブリッジに到着した。

 

ヴェネター級のブリッジは戦闘艦としての指揮能力を集積したブリッジと航空運用の指揮能力を集積したブリッジの2つに分かれている。

 

現在戦闘指揮ブリッジに“デタミネーション”の下士官将校達が集まっていた。

 

「艦長!」

 

ハイマンの到着に気づいたブリッジの乗組員達がハイマンに敬礼した。

 

ハイマンはざっと乗組員達の顔を見渡した。

 

ベテランの下士官、同年代の将校、若手の士官、幾人もの新兵達。

 

そしてブリッジにはいない7,400名の乗組員達がやがてくる戦いで再び死戦を共にすることになる。

 

「副長、こちらにいたか。てっきりもう片っぽにいるかと」

 

デタミネーション”副長、コリー・ラスボーン少佐は元スターファイター隊出身の将校だ。

 

ヴェネター級の空母運用を活かす為副長がスターファイター隊出身者になるということはよくある話だった。

 

「艦長の留守を守るのは副長の務めですよ」

 

「分かった、そして各長は全員いるな。みんな来てくれ」

 

ハイマンに連れられブリッジのホロテーブルに移動した。

 

ホロテーブルに編成表のホロカードを挿入しホログラムを展開した。

 

「本艦は近々侵攻してくる連合軍を迎え撃つ。我々の配置は最前線の第一防衛線独立機動群、要は前線の穴埋め部隊だ」

 

「最前線……ですか、敵の戦力は?」

 

グラウ・へメッツ大尉は“デタミネーション”の戦術長を務めている。

 

彼は惑星アブレガド=レイ出身で戦争が始まるまではアブレガド星系防衛軍の若い士官だった。

 

へメッツ大尉とハイマンは戦争開始時点でどことなく似たような境遇であった。

 

へメッツ大尉はクローン戦争が始まった頃、コルサントのジュディシアル・フォース指揮幕僚大学に留学していた。

 

現地で開戦を聞いた大尉はすぐにアブレガド星系軍からの命令で共和国軍の軍人となった。

 

アナクセス軍事大学に留学していたタイミングで開戦を聞いたハイマンとよく似ている。

 

「敵の数は総数960隻、4個艦隊ほどの戦力だ」

 

敵戦力を聞いた途端各長達は顔を見合わせ、険しい顔を浮かべた。

 

ここにいる戦術長や砲術長、機関長、航行士官は皆デノンでの悲惨な防衛戦を生き延びた者達だ。

 

デノンの戦い、連合軍は惑星デノンを制圧する為に1個艦隊を展開、現地のデノン守備隊と交戦状態に陥った。

 

当時デノン守備隊に配備されていた彼らは艦が大破し乗組員の半数が死傷しながらも戦闘を続け、連合軍を追い払った。

 

その時の記憶がまだ鮮明に残っている。

 

「当然、敵艦隊が全戦力でいきなり来る訳ではない。だが長期化するにしろ短期決戦にしろ厳しい戦いになる」

 

「であれば艦隊戦に向けて砲撃訓練を強化せねばなりませんね」

 

グモル・バクラン大尉は生粋の大砲屋である。

 

彼はヴェネター級の火力ではまだ敵を打ち破るには足りないと考えていた。

 

「それもあるが本艦に爆撃機1個中隊、スターファイター2個中隊が増派される。そしてアークワイテンズ級が2隻護衛に付く」

 

アークワイテンズ級軽クルーザーは優れた防空能力を持つ共和国宇宙軍の戦闘艦でありヴェネター級のような主力艦に2隻張り付いているのが常だった。

 

ヴェネター級を敵のスターファイターや実弾攻撃から守る為にアークワイテンズ級は優れた対空能力を発揮する。

 

「新たな部隊との極力はこの戦いを生き残る為に必要不可欠だ。だからスターファイター隊や僚艦との共同訓練を増やしたい」

 

「であれば対艦戦闘とスターファイター隊発艦作同時訓練を入れましょう。艦の機動運用となるとそちらの方が良いと考えます」

 

「激戦となればまず間違いなく必要になる能力です」

 

へメッツ大尉にラスボーン少佐も賛同した。

 

連合宇宙軍は所詮分離主義者の寄せ集めの艦隊だと侮る事は出来ない。

 

連合軍はルクハルク級のバトルシップモデルやプロヴィデンス級キャリアー/デストロイヤーといった強力な主力艦を保有している。

 

特にプロヴィデンス級は真っ向から撃ち合った場合ヴェネター級の方がやや不利だとも言われている。

 

既に数え切れない程のヴェネター級が連合宇宙軍によって葬られてきた。

 

恐らく今回のような大艦隊同士による戦闘となると後方に下がってスターファイターを出し、再び砲撃戦に戻るというマニュアル通りの戦闘は不可能になるだろう。

 

「では一部訓練内容を変更する、異論はないな?」

 

士官達は頷き決定に入った。

 

そんな中1人の航行士官が「一つよろしいですか」とハイマンに尋ねた。

 

「どうしたボークス大尉」

 

「司令部から演習領域の指定が届いています。具体的にはこちらに」

 

データチップをホロテーブルに入れ、指定範囲を表示した。

 

「ステーションからこの周辺までを演習可能領域とするそうです」

 

「かなり細かく指定されているな」

 

今口を開いた憲兵将校のラット・エルケン少佐とオルド・ボークス大尉はジュディシアル・フォース出身の共和国軍将校である。

 

ジュディシアル・フォースと言っても2人の出身はかなり違う。

 

ボークス大尉は航行士官として外交官隊のカンセラー級やCR90コルベットの操舵手を務めていた。

 

一方でエルケン少佐はどちらかといえばジュディシアル部門の出身で犯罪捜査や規律の取り締まりなどを専門としている。

 

しかし2人とも開戦と同時に共和国軍に転属となった。

 

「防衛線の構築を連中に悟られないことが的に打撃を与える一番の鍵だ。航行に不自由をかけると思うがよろしく頼む」

 

「はい」

 

ハイマンはデータカードを取り出し再び自身のポケットにしまった。

 

再びその場にいる全員の顔を見渡しながら彼らの不安を和らげようと言葉を投げかけた。

 

「ここにいる全員はあのデノン防衛戦を生き延びた戦友達だ。それは階級も年も関係ない、全員が戦友だ」

 

運が良かったから辛うじて生き残れただけ、ハイマンを含めた何人かは心の中でそう思っていた。

 

敵艦のターボレーザー砲がブリッジに二、三発直撃したこともあった。

 

その時は辛うじて偏向シールドが全て防いだが後数発食らっていたら全員が死んでいた。

 

実際偏向シールドと艦の装甲が耐え切れず被弾し、その過程で戦死した乗組員も大勢いる。

 

あの戦いにいた者達が戦死した者達の顔を忘れる事はないだろう。

 

「そして我々は再び死地に赴く。当然あの新しく入ってきた若者達も連れてだ。皆心苦しいとは思う、いきなり彼ら彼女らを激戦に連れて行かなければならない」

 

全員が暗い面持ちで考えを巡らせていた。

 

デタミネーション”の補充兵達は殆どが18、19歳の若者達だった。

 

彼らの話を聞いてみれば皆故郷の惑星で総動員が実施されてとか軍に憧れて志願したとかそういうのばかりだった。

 

実際の戦場を知っているとあの若者達の眩しい視線が痛みすら感じる。

 

そしてそんな若者達をいきなりこのような大激戦へと連れていくのは形容出来ない後ろめたさを感じさせた。

 

「だがだからこそ考えて欲しい、我々の後ろに控えている子ども達を、故郷の未来を」

 

軍帽を脱いだ素顔のハイマンは真剣で鋭い視線を彼らに向けた。

 

そこには冷静な情熱と1人の指揮官としての想いがあった。

 

「ここでクワットが失陥すれば共和国の、延いてはそれぞれの故郷の未来が危うくなる。まだ子の世代は暗黒の時代を生き、憎しみだけを覚えて生涯を終えるかもしれない。そうなればこれまで失われた戦友達の思いも消えてしまう」

 

乗組員の中には当然妻子を持つ者もいる。

 

親兄弟が帰りを待っている。

 

だからこそここで踏ん張って戦わなければ、帰る場所も帰りを待つ家族も、明日すらも消えてなくなってしまう。

 

クワットの一戦には彼らの故郷の未来が掛かっていた。

 

「故郷の為、家族の為、そしてそれぞれの想いの為に皆覚悟を決めてくれ。そして再び私と共に沈む最期の時まで戦ってくれ。我々の故郷が、我々の明日が明るい未来である為に、私についてきてくれ」

 

共和国のためにと言って奮闘出来る者は対して共和国を知らないクローンぐらいだ。

 

生まれ故郷の惑星の為、その惑星に住む人々の為、家族の為、惑星防衛軍出身者が多いからこそ響く言葉だろう。

 

その場にいた下士官将校達は全員敬礼し自身の覚悟を態度で示した。

 

ハイマンは内心で「ありがとう」と呟き敬礼を返した。

 

後は戦場で彼らに報いるのが艦長としての職務だ。

 

 

 

 

-共和国領 クワット星系 惑星クワット 軌道上外周リング・ステーション-

クワット防衛の為に結集した戦力はコルサント派遣艦隊が最後となった。

 

派遣艦隊司令官はオナー・サリマ司令官が担当しコルサントで戦力の調整を行っていたランパート准将と情報部のランシット少将もクワットに到着した。

 

防衛体制の構築は着々と進み、後は連合軍の侵攻が始まるのを待つのみとなった。

 

クワットの軌道上リング・ステーションには平時よりも軍人が占める割合が高くいよいよ戦火の手がここまでというピリついた雰囲気に包まれている。

 

「旗艦は“フォートレス・オブ・クワット”に設置する、だが”ソヴリン“も常に僚艦として待機させる」

 

「了解、参謀総長からは司令部の機能を”フォートレス・オブ・クワット“に移してはどうかときていますが」

 

ランパート准将はコルサントの統合本部との連絡将校兼ターキン提督の補佐官の任についていた。

 

「マンデイターⅡ級の指揮能力なら問題ないな。戦闘開始と共に司令部の機能は”フォートレス・オブ・クワット“に移す」

 

「各隊に通達します」

 

ランパート准将は敬礼し司令室の方向へと戻った。

 

このような面では彼は仕事が出来る男だ。

 

方面軍の臨時報道官も彼に任せて見るか、ターキン提督は内心でそう考えていた。

 

すると遠くから「やあウィルハフ」と提督のファーストネームを呼ぶ声が聞こえた。

 

彼をファーストネームで呼ぶ人物は限られている。

 

親族かあるいは友人か、答えは後者であった。

 

「ニルスか、もう来ていたのだな」

 

ニルス・テナント中将、共和国宇宙軍の司令官の1人でありターキン提督の古い友人であった。

 

彼もクワット防衛の為に艦隊を率いてクワットにやってきたのだ。

 

「来て早々第四防衛線の司令官に任命された。せっかくなら第一線でも良かったのに」

 

今回の方面軍最高司令官はターキン提督だ、だから当て擦るようにテナント中将は不満を口にした。

 

ターキン提督は苦笑を浮かべながらも「背中は一番の戦友に預けるものだ」と彼を宥めた。

 

実際第四防衛線は連合軍が迂回戦術を取った場合に最初の守りとして役に立つ。

 

それにクワットで生産された艦船兵器を各地で奮戦する共和国軍に送り届ける為には第四防衛線が戦線を維持しハイパースペース・レーンを確保していることが重要であった。

 

「少し話そうか」

 

ターキン提督はテナント中将を連れてビューポートの近くにもたれかかった。

 

ビューポートからは宇宙空間に何十隻もの軍艦が航行している姿が見える。

 

クワットやコレリアくらいであろう、このような景色が何百年も変わらないものであるというのは。

 

「アウター・リムの守護者でも今回の作戦は荷が重いか」

 

テナント中将は冗談混じりにそう投げかけた。

 

ターキン提督は「そんなことはない」と言いつつも言葉を濁らせた。

 

「では態々何故私と話をしようなんて言い出したんだ?昔話をする機会など戦争に勝てばいくらでもあるだろう」

 

「私が君と話したいのは昔話ではなく未来の話だ。今回の司令官達の人選、君も思うところはあるだろう」

 

テナント中将は少し考えた末に口を開いた。

 

「確かにこれ程の大規模戦でジェダイの指揮官が1人もいないとは珍しいが」

 

彼の指摘した通りクワット方面軍には地上部隊も含めてジェダイの指揮官が1人もいなかった。

 

当然銀河は広く連合軍と共和国軍の戦線も広い為全ての戦闘にジェダイの指揮官がいるわけではない。

 

しかしクワットは共和国の中でも特に重要な惑星である。

 

そんな惑星の防衛であればジェダイの1人や2人が参戦してもおかしくはないはずだ。

 

「最高議長はあえて、我々のような純粋な“()”をクワットの防衛に任命した。最高議長は我々を試しているのだ。そして次第によっては我々を更に国民へ売り込むつもりだろう」

 

「我々のような生身の軍人達がどれ程の能力と忠誠があるのかを調べるということか?」

 

ターキン提督は「そうとも言える」と付け加えた。

 

だが恐らく最高議長シーヴ・パルパティーンの試そうとしているところはもう一つある。

 

軍人がどれだけやれるかではなく“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”を試そうとしているのではないか。

 

つまりパルパティーン最高議長は近い将来に“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

ターキン提督にはそのような思惑が見えているような気がしてならかなった。

 

「ニルス、銀河系は再び変わる。戦争の始まりでこの国が大きく変化したよりも更に大きな変化が訪れるぞ」

 

ターキン提督はビューポートから宇宙空間を眺めながらそう呟いた。

 

宇宙や銀河の変化自体はとても緩やかなものだ。

 

しかしそこに住まう生命の変化はそうではない。

 

新しい生命が生まれては頂点の地位を取って代わられ、文明や社会というものは絶え間ない変化の過程にあり続ける。

 

新シス戦争から1,000年平和が続いた共和国とてその定めをくつ返すことは出来なかった。

 

であれば変化に順応し、生きる糸口を見つけなければならない。

 

故郷エリアドゥと自らの一族の為にも。

 

「変化しても私が軍人である以上やることは変わらない。国家の為に戦い、忠義を尽くす」

 

友人の言葉を聞いてターキン提督は比較的穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ニルス、君のような忠臣がいれば変革後の銀河も安泰だな」

 

後は自分がどう動くか、まずはこの戦いをどう切り抜けるかである。

 

ウィルハフ・ターキンにとってまた一つの山場が迫っていた。

 

 

 

 

-共和国領 クワット星系 演習可能領域-

方面軍が各ステーションごとに設定した演習可能領域には多くの艦船が来るべき決戦に向けて訓練を積み重ねていた。

 

その中には“デタミネーション”の姿もあった。

 

“デタミネーション”には僚艦として二隻のアークワイテンズ級軽クルーザーが付けられた。

 

二隻の艦名は“オークランド”と“フリント”、主力艦の護衛として特に防空能力が高められていた。

 

「前方2万メートル付近に敵機動部隊発見、プロヴィデンス1、レキューザント2」

 

通信士官のフレナ・マーファント大尉がブリッジのハイマン達に報告した。

 

彼女はハイマンと同じドリーリア出身で惑星防衛軍の後輩である。

 

「敵機動部隊は友軍のVSD“アラクリティ”の機動部隊と交戦中とのことです」

 

「ならば側面から回り込んで敵艦隊を殲滅する。レキューザント級の無力化と同時に爆撃機中隊も発艦させろ、最大火力を持って敵の注意を散漫にさせる」

 

「了解、ブリッジよりハンガーベイへ、爆撃部隊及び護衛中隊の発艦準備を開始せよ。繰り返す…」

 

ブリッジには今回の標的であるプロヴィデンス級とレキューザント級軽デストロイヤーが映し出されていた。

 

それは各砲塔の照準器も同様であった。

 

訓練モードでは各砲塔やモニターに標的が擬似的に撃ちし出される。

 

より実戦に近い形での訓練を再現するためだ。

 

デタミネーション”の右舷三列目のDBY-827重ターボレーザー砲の砲手達は狙いを定め、砲撃戦の準備を整えた。

 

「主砲火力を対艦戦闘モードに切り替えろ」

 

「主砲、対艦戦闘モードへ切り替えよし」

 

上官であるハモック三等兵曹の命令を聞き、ジェラン一等海士はシステムを調整した。

 

『主砲一番、二番はプロヴィデンス級に集中砲火。三番、四番はレキューザント級に集中砲火。全員、友軍には当てるなよ』

 

バクラン大尉から各砲塔に指示が届く。

 

ハモック三等兵曹は「砲術長殿の命令は聞いたな?落ち着いてしっかり狙えよ」と念押しした。

 

ジェラン一等海士を始めこの三番砲塔の兵は皆若い補充兵で構成されている。

 

以前は経験を積んだ砲手達がいたのだがハモック三等兵曹を除く全員が戦死するか負傷して軍の医療ステーション送りにされてしまった。

 

「照準よし!」

 

「冷却システムとの連結確認よし、正常に稼働中」

 

「全システム問題なく稼働中」

 

デタミネーション”の重ターボレーザー砲は砲手、冷却管理、システム調整、班長の3人で構成されている。

 

3人の連携を班長が上手くコントロールし攻撃を繰り出すことで最も効果のある攻撃が行える。

 

『主砲、撃ち方始め』

 

「撃ち方始め!」

 

ブリッジから伝達された指示と共に“デタミネーション”の重ターボレーザー砲が訓練のデータ上放たれた。

 

実際に砲塔から砲弾が出ている訳ではない。

 

しかし砲手達には実際に自身の砲塔から青いターボレーザー弾が放たれる瞬間が見えた。

 

「目標命中!」

 

「目標の命中を確認、続けて撃て」

 

間髪入れずに重ターボレーザー砲がレキューザント級に撃ち込まれる。

 

正面では友軍のヴェネター級が砲撃を繰り出している為既に偏向シールドが弱まっていた。

 

「敵艦への被弾を確認!爆発を視認しました!」

 

「被弾箇所に火力を集中、畳みかけろ」

 

レキューザント級への命中被弾はブリッジでも確認していた。

 

艦の各所から送られてくる情報を処理し的確に艦長らへと伝達する。

 

そして得た情報を艦長らが判断し指令を出す。

 

「レキューザント級被害甚大、戦線を離脱しつつあり」

 

「頃合いだ、スターファイター隊を発艦させろ。目標はプロヴィデンス級、発艦フォーメーションエスクだ」

 

デタミネーション”の船体中央が開き、艦載されたZ-95ヘッドハンターが発艦する。

 

まず先行して護衛中隊が発艦しその次に爆撃機中隊が発艦する。

 

共和国宇宙軍のセオリー通りの発艦手順だ。

 

スターファイター隊の発艦を管理するのはもう片方のブリッジが担当である。

 

ラスボーン少佐と航空士官達がスターファイター隊を管理し発艦のサポートを行う。

 

「エスコート中隊、全機発艦しました」

 

「続けて爆撃機中隊も発艦させろ」

 

ヘッドハンターの後に控えていたYウィング・ボマーの中隊が甲板にいる兵に導かれハンガーベイを離れる。

 

「レイヴンリーダーよりコントロール・ブリッジへ。レイヴン中隊全機発艦する」

 

レイヴンリーダー、フォール・オーレフ大尉を先頭に12機のYウィングが宇宙へと飛び立った。

 

ヴェネター級の主要ハンガーベイは艦の中央である。

 

通常の場合、艦載機を発艦させる際は一旦後方に下がって発艦させるものだ。

 

しかし連合軍の執拗な攻撃により後方に下がれないケースが多々確認された。

 

当然発艦作業中は安全の為に船体中央の火力は大きく減少する。

 

隙を突かれて甚大な被害を被ったヴェネター級は少なくはない。

 

その為発艦作業と中央の火力投射を同時に行うように考案されたのが今のような発艦フォーメーションである。

 

ある程度艦砲射撃の位置を決定しその合間をスターファイター隊が飛んでいく。

 

非常に高度な技術を有す戦術だがハイマンはこれが出来なければこの戦いで必ず沈むとして発艦フォーメーションを繰り返し訓練させた。

 

「今ので喰われた機体はいないな」

 

「はい、エスコート及びレイヴン中隊、全機発艦完了しました」

 

度重なる訓練の結果、友軍機を1機も誤射することなく艦載機を飛ばすまでに兵達は成長した。

 

ハイマンは新兵達の心配はしていても“デタミネーション”の練度はそこらの新兵よりも遥かに高かった。

 

「プロヴィデンス級、中破を確認。レキューザント級一隻撃沈」

 

「爆撃機中隊、後30秒で目標に到達」

 

通信士の報告からピッタリ30秒後にYウィングの爆撃がプロヴィデンス級を仕留める映像がモニターに流れた。

 

敵部隊の殲滅を確認しモニターやビューポートには訓練終了の表示が出た。

 

「敵機動部隊の殲滅を確認、訓練終了」

 

「エスコート中隊とレイヴン中隊を収容後、クワット本星に戻る。2日は休息を取らせる」

 

「了解」

 

ヘッドハンターとYウィングは回頭し母艦への帰還を開始した。

 

ブリッジの乗組員達も一息つき、張り詰めた空気感から解放された。

 

一方ハイマンは訓練を共にしたヴェネター級“アラクリティ”の艦長と連絡を取っていた。

 

『デンフォルド艦長、見事だったぞ。君の側面攻撃で本艦は想定よりも30%被害を抑えられた』

 

「いえ、イェーペンカール艦長、少しでも助力が出来たなら光栄です」

 

“アラクリティ”のアムエル・イェーペンカール艦長はハイマンと同じ中佐である。

 

しかしイェーペンカール艦長の方がハイマンより先輩であり彼は敬語を使っていた。

 

独立機動群に配備された“デタミネーション”とは違い、イェーペンカール艦長の“アラクリティ”は正面の第一防衛線所属だった。

 

『本艦は艦隊正面演習に参加するが君はどうする?』

 

「私の艦はクワットに帰投し休息を取らせます。ですのでここでお別れです」

 

『そうか、君もしっかり休めよ』

 

お互いに敬礼しイェーペンカール艦長のホログラムが消えた。

 

今度はラスボーン少佐のホログラムが浮き上がった。

 

『艦長、発艦した全機の帰投を確認しました』

 

ブリッジから見下ろすと船体中央の隔壁が閉じ始めていた。

 

「ではクワットに戻るとしよう。“オークランド”と“フリント”にも伝達、しばしの休みだ」

 

デタミネーション”は僚艦のアークワイテンズ級と共に旋回しクワットへ向けて進み始めた。

 

航行中、“デタミネーション”は度々同じように演習に向かう友軍艦隊と接触した。

 

艦隊の規模は様々でありアークワイテンズ級やヴィクトリー級スター・デストロイヤーのみの小部隊もあれば、プロキュレーター級を旗艦とした小艦隊、艦隊規模のものもあった。

 

中でも一際目立ったのがある主力艦隊である。

 

「班長……あの艦は一体……」

 

砲塔のビューポートからそれを見たヴェックス一等海士は驚愕に近い表情を浮かべていた。

 

ジェラン一等海士も冷却管理を務めるストーク一等海士もヴェックス一等海士と同じ表情だった。

 

ハモック三等兵曹はビューポートからその様子を眺めると納得した表情で3人に説明した。

 

「あれはマンデイター級ドレッドノートだな、あの形状だと改良モデルのⅡ級だろう。うちの軍の中で一番デカい艦だと俺は思うな」

 

まだ経験の浅い新兵の3人はドレッドノートクラスの軍艦は見たことがなかった。

 

ヴェネター級ですら1キロを超える艦船であるのにそれの目の前で8キロ越えの軍艦を目にしたら衝撃どころの話ではないだろう。

 

正にマンデイター級はクワットにとって最初の力の象徴である。

 

「まだ戦争が始まる前にハンバリンで1回だけ見たことがある。懐かしいなあの頃は……アスタもラストもいたな」

 

ハモック三等兵曹はマンデイターⅡ級を眺めながら今は亡き友人達を思い起こした。

 

一方で入ったばかりの新兵の3人は目を輝かせてマンデイターⅡ級を眺めていた。

 

ハモック三等兵曹はふとブリッジにいる艦長達はどんな感情であの艦を見ているだろうかと考えた。

 

三等兵曹にとってもこの3人にとっても艦長とは孤高で絶対的な存在だ。

 

そうであるからこそ艦を引っ張っていける。

 

艦長の気持ちは自身が艦長の立場にならないと分からない。

 

孤高で絶対的であるからこそ全員が命を預けられる。

 

ハモック三等兵曹もハイマンに同じ思いを抱いていた。

 

だから命を預けられる。

 

ハイマン本人は不安がっているだろうが“デタミネーション”は単艦であろうと、仮に艦が大破しようと最期まで戦うだろう。

 

その結果はすぐに現れる。

 

今より3日後、連合軍のクワット攻略戦が始まった。

 

 

つづく

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