最初に彼女に抱いた感情は嫉妬や不満、そういう酷いものだった。主席入学を取られたから、そんな今では考えられない理由で私はカチューシャをよく思っていなかった。けれど、幼き体に宿る強き心、体格差さえ覆す知恵に私は魅せられ惹かれていったのだ。
故に、付き合えば付き合うほど私の醜い感情は消え失せ、好意や庇護欲にも似た親愛が心を満たし——いつしか彼女を支えるようになった。煌めく才能に対して、精神的に未熟な部分を私は献身的にサポートした。戦車道を学ぶ中で、それが数少ない生きがいだったのだ。
カチューシャは隊長であり、仲間であり、妹や娘のようで、愛しい人。
出会ってから刻々と変化する彼女に向ける感情は、まるで循環するように醜くなって、歪になって白から黒くなる。雪が如く純白なカチューシャに抱いてはならない情愛。黒に犯したくなる偏愛。
理性で自分を殺す日々は、心の中に悶々とした欲望を募らせて、吐き出すのにも苦労する。
「酷い顔ですね、ノンナ」
「……ノックはどうしたんですか、クラーラ?」
「しましたよ、聞き逃していただけでは?」
優雅に微笑むように私を見つめるクラーラ。彼女はちらっと、私が腰掛けるベッドに眠る人物を一瞥すると、ため息を吐いてテーブルに書類を置いた。持ってきたのは、先日行われた聖グロリアーナ女学院とのエキシビションマッチの報告書だろうか。
「ありがとうございます、クラーラ」
「お礼を言うくらいなら、カチューシャ様の寝顔を撮らせてもらっても?」
「構いませんが、起きてしまっても私は庇いませんよ?」
「……本当、ノンナはいじらしいですね。素直に嫌だ、とでも言えばいいのでは?」
「——余計なお世話です」
本当に、余計なお世話だ。
私がどうあろうが、誰かの行動を抑制するなんてできやしない。カチューシャがロシアに留学することを止めることも、私にはできない。彼女に託されたものがある。戦車道は乙女の嗜み、その道は一本ではない。交わることもあれば、別れることもある。
この出会いに意味はあったと、この別れにも意味はあると、誰から、自分から言われても納得できないこともある。少なくとも、私はカチューシャとの別れに納得できる自信はない。
ロシア語の勉強中、どうかこの時間が永遠に続きますようにと何度祈ったことか、何度願ったことか、ここにいる誰も知らない。私ですら、数えるのを止めてしまった。それくらい、大事だった。
いっそ、いっそ時間が終わらせる前に自分の手で、なんて考えては思考を放り捨てた。
「言葉にせずとも伝わる、なんてものは甘えだと思います」
「言わぬが花、という言葉もありますよ。それだけ、言葉は重しになる。カチューシャの重荷にだけは、なりたくない」
「……そうですか、なら少しでも後悔がなくなるよう祈っておきます」
言葉はそれ以上必要ない、そう言わんばかりにクラーラは部屋を去り、また私とカチューシャだけになる。幸せそうに、穏やかに眠る彼女に私は何を思うのか。ただ、いつものように歌を歌い、髪を撫でて心地よい眠りを提供する。まるで、母が我が子にするかのように、親愛以上の感情に蓋をして——蓋をして……私は……
「
そっと、おでこにキスをする。
多分、この感情を彼女が知るのはもっと先か、それともないか。
わからない。わからないから、今はただ、私の心に眠らせて想いを秘める。
愛されたいから愛してるわけじゃないから。
隣に居たいという純粋な想いだけが残るように、いつかまた、彼女が私の手を引いてくれるように。
おやすみなさい、私の