7:00
電話が鳴る。携帯が震え、聞きなれた着信音に目を覚ます。なんだか肩が重い。発信人を確認する必要は無い。山岸由花子からのモーニングコールだ。ほとんど無意識的に携帯を手に取り、電話に出る。
その操作に、寸分の狂いもなかった。何日も何日も続けている動きだ。間違えるはずもない。
着信音は鳴り止む。通話の画面が閉じる。
眠気がさぁーっと覚めていく。
「……え?」
直ぐに、再度の着信。
『ぼくが由花子さんからの着信を切ったっていうのか、このぼくが』なんて言いたげな困惑した表情。その表情は、焦りに変わる。
「かわいそうだけどねぇ、君はもう電話に出られないよ……!」
独り言が漏れる。双眼鏡越しに焦りの表情を眺めながら、オーソンで買ったクッキーアソートを口に運ぶ。コーヒー味だ。
シャンソンの能力、それは「できなくなる」能力。康一は今、電話に出られなくなったのだ。
康一は続いて、スマホを指でせわしく操作しだす。チャットでの連絡に切りかえた。
シャンソンの禁止はまだコントロールできない。そのうち自在に行使できるようになるが、今はこれだけ。
「はっ、見ろよ、すげぇおもしれぇツラしてんぜ」
「……坊や、悪者の私が言うのもなんだが、それでよくSPWに居たね?」
「言ったろ、入りたくて入ったわけじゃあねぇからな」
「そうかい……」
7:30
「誰か訪ねて来たね」
広瀬康一の家に探訪者。女だ。
「あれは確か……山岸由花子とか言ったか」
「ヤマトナデシコって感じの名前だね……」
「カンカンにキレてるみてぇだな」
「ふむ、推察するにチャットでの連絡も見られなくなったのだろう。」
「修羅場だな、こりゃ」
鼻で笑う。軽いとこっから消えていくとかつってたが、とんだヤンデレ女がいるんじゃあ致命的だったようだな。
「康一くんッ!! どういうことよッ!!」
「どういうことって、どうしたんですか、急に来てくれてッ!!」
「どうしてLINEの既読が付かないのよォォッーー!!」
「LINEって──届いてないぞぉっ一通たりともォーー!!?」
双眼鏡。
「必死に弁明してるな。多分、まだ通信障害を疑ってるのだろうけどよ。」
「私のスタンドは田舎の畑の近くを群れて飛ぶあの虫に乗れるくらい小さくなれるからね〜、気が付かないだろうさ。」
「ふーん。クッキー貰い。」
「あっ!」
……美味いけど何味だこれ。
「これ、アソートになってて色んな味が入ってるみたいなんだよね。今の何味だった?」
「わかんねぇ。チョコかコーヒーじゃあねぇか?」
「わかんないなら私の勝手に食べないでよ。」
悪態をつきながらシャンソンがクッキーを1枚。
「……何味だこれ?」
「お前もわかんないじゃあねぇかよ」
「えぁ……」
「…………おい。」
8:00
奴らはしばらく言い合ったあと、今は移動してる。行き先はカフェか。やつら、喧嘩した後でも予定通りモーニングってわけだな。仲のよろしいこと。
「……よし。」
シャンソンが小声で呟く。
「よし?」
「彼にかかっている効果の内容がわかるようになったよ。一晩も経ってるんだし、もう少しでコントロールできるはずけど……今かかってるのは『走れない』だねぇ〜。」
「地味に嫌なやつだな。」
「実際、段々引き離されて行ってるね。」
「一睡もせずに次の日迎えた超過労働の日って具合に……足が重くて走れねぇんだ。さぞサイアクな気分だろうなァー。」
「あら坊や、そんな経験あるの〜?」
「別にねぇよ」
俺は日本人でもないしな。
8:30
シャンソンの能力は張り付いている時間によって強化されていく。つまり、その時々に応じてより効果的な禁止をかけられるというわけだ。
だが解せないのは、一晩もついてたのになんでまだこんなにショボイんだ?
「それは私にも分からない。」
「うわっ は?」
「分からないまま終わることだってあるさ。私が今、坊やの心を読んだことみたいにねぇ?」
なんだコイツ……なんだコイツ!!
「スタンド使い相手だから異常な挙動を取っているのかもしれないね……」
「あ、あぁ、スタンドは常識通じねぇからな。」
「溜めて解放されたのかもしれない……普段はこんなトントン拍子で発展しないからね。」
「……つまりコントロール可能になったのか?」
「ええ。そろそろ仕掛けてもいい頃よ〜」
「っし、やっと俺の出番だな」
意気揚々と踊り出んとしたイオをシャンソンが制止する。
「まぁ、そうは言ったけども。」
「……なんだよ」
「今の状況、2対2に見えるかもしれない。でも私は戦力にならないんだ。数的有利を取られていると不利だよ。彼が1人になるのを待った方がいいだろう?」
「……それもそうだな。」
脱力したイオが、地べたに崩れるように座り込む。ため息をつきながら。そして、時を待ち続けた。
9:00
9:30
10:00
11:00
12:00
13:00
……
そのうち 2人がいつまでたっても離れないため
イオは 一旦月光の拠点に戻った
*
「戻ったぞ。連絡入ってたよな?」
「おかえりなさい。イオ・バーン。」
コラールが真っ先に挨拶をする。相変わらず引き込まれるような声だ。
「それで……メールでは聞きたいことがあるとの事でしたが。なんでしょうか?」
イオの、聞きたいこと。イオとコラールに視線が集まる。
「セミフレッドは……どこに居るんだ?」
セミフレッド・リフ。イオがシャンソンに味方している理由の最も大きなひとつ。
「我が主は──」
その答えを耳にした時、イオはセミフレッドのスタンドの正体を知るに至る。万全なはずのSPWの警戒網を2度もくぐり抜けてテロを行えた理由。その答えを……
To Be Continued