この町 杜王町は──
スタンド使いがいながら普遍的な町を装っている。だがその実、極めて脆弱なものである。
SPWの窓口となる広瀬康一さえ落としてしまえば、SPWの介入なく残りを1人ずつ落とせる。
そのはずだった。
オーグチームが杜王町を訪れたタイミングと爆破作戦のタイミングが被り、情報の交錯が起こり後手に回ってしまった。そのせいで、広瀬康一を倒すために……オーグチームの注意を引かなければならない。
最悪の場合、空条承太郎さえも……
「情報戦。我々12人のスタンドの詳細はSPWに知られていません。そのため、見られていないスタンドはできる限り温存するべきと、主は仰られました。」
「わたしの出番という訳だな。了解した。」
「赤色が杜王町に仕掛けてあります。
スタンドから、赤色の輪っかが取り出され、地面に置かれる。
「行ってらっしゃいませ、キャロル様。」
*
吉良吉影の実家。
今はSPWの重要施設として隠蔽されつつ占拠されている。
「……《キャロル》」
それが……爆破される。
そして瞬時に人混みが生まれ、東方仗助を乗せたパトカーも到着し、内部にいたSPW職員の救助が始まる。
「何? すぐに向かう。」
連絡を受けたオーグも、そちらへ向かおうとする。
ホテルを出たオーグら3人の前に、分厚いプロテクタースーツを纏った男──キャロルが立ち塞がった。
「犯人が必ずしも現場の近くにいるとは限らない。私の仕事は完全だ。現場に戻る必要も無い。」
「だから、わざわざ出てきてくれたってことぉ?」
「任務確認。オーグチーム戦闘員3名の足止め……1・2・3。人数確認。」
「何か企んでるらしいな。リン・カーミラ。下がれ。イライジャ・ワッケロー、準備しろ。」
リンはホテルの中へ。イライジャは、手の骨を鳴らしながら1歩前に出る。
「連戦、そのうえ今度は1vs1……ハードな任務だね、全く!」
「いや……ここは私も出よう。」
「え、オーグさんがぁ? 良いんですか!」
「負けては元も子もない。」
オーグは深く息を吸い……フッと息を吐いて、臨戦態勢。
「《オーグメント/ディミニッシュ》」
「スタンドが……2人?」
イライジャが驚きを隠せないのも無理はない。ふつう、スタンドは1人につき1体。(群体型でない限り)対して目の前には人型スタンドが2体。オーグ1人から。……考えてもしょうがない。スタンドはまだ未解明。そういうものと割り切ろう。
「私のスタンドは『増幅』と『減衰』……まぁ、言っても分からんだろう。さっと始めるとする。」
「こちらNo.8キャロル。作戦開始。」
「《ザ──速っ!」
キャロルは瞬時にオーグに肉薄する。爆発を利用したのか、瞬間移動だ。
「ム……」
振り上げられた拳はオーグに下ろされるが……ゆっくりと減速していく。口角を上げたオーグの手のひらはキャロルの腹にかざされる。スタンドが重なる。スタンドから奇妙な音が発せられ、その能力は発動する。
キュウオオォォン……
「《オーグメント》」
「しまっ──」
ドッ!
掌から発せられた『波動』はキャロルを吹き飛ばし、転がす。
「わぁ、これじゃあ僕いらないんじゃあ?!」
「挟撃だ。行け。」
「……はいはい、見せ場ね!」
ザ・ラッシュの足が地面を蹴り、イライジャを押し上げる。起き上がったばかりのNo.8に
「《ザ──」
「キャロル!」
「自爆ゥ?!」
カチッ
瞬時に殴るのを地面に変え、距離をとる!
しかし……爆発は起こらない!
「ブラフって! 若い発想だね!」
踏み締めた地面が、少し沈んだ気がした。そして、ピープ音が鳴り響く。
ピィーッ……!
「……地雷!? ぐわぁっっっっ──」
罠。計算高いキャロルの罠に、イライジャは危機に陥る。
その時だった。
──「《ディミニッシュ・ザ・ワールド》!!」
ギュオオオォッッッ…………
握りつぶすような詰まる音。詰められていくのは時間そのもの。
時は──止まったかのよう。
周囲の速度を極限まで“減衰”させる。半径20m圏内の全てが停止したかのように遅くなる。それがディミニッシュの活用。
「必要なかったのかもしれんな、イライジャ・ワッケロー、お前に見せ場など……」
一歩一歩。踏み締める。イライジャを『オーグメント』で吹き飛ばす。ゆっくり力が加わっていく。さらに、『ディミニッシュ』で地雷の爆発を減衰させる。
「時は動き出す」
どこか聞き覚えのあるようなフレーズと共に、時は元の速さで動き出す。
「《ディミニッシュ》」
すかさず、吹き飛ぶイライジャの勢いを減衰させる。爆発を回避させて、同時に着地も成功させた。
「ハァ……ハァ……疲れた、二度とやるか!」
「目にも止まらない動き……これがオーグさん……若いなぁ〜……」
「無駄口を叩くな、さっさと逆転しろ。」
地面から立ち上がると同時に、土煙を上げて走り出す。
「失敗してもフォローしてもらえると分かったらぁ、気も楽になるよね!」
──不味い。ここまでだ。死んでは元も子もないが……今のこいつには、私がスイッチを押したとしても爆発する前に私を仕留めきってしまえそうなだけの……
──『スゴ味』があるッ……!!
「《キャロル》ッ!」
カチッ
(この距離じゃ当たらないでしょ……?!)
ボフッ
意外ッ! それは煙幕!!
「ゴホッ……なんだと!」
「追わなくっちゃあ……!!!」
成分の分からない煙を吸うのはもちろん、目に入るのもなるべく避けなければならない。
抜け出そうにも抜け出せないまま、煙が晴れる頃には……No.8は、居なかった。
「クソっ! みすみす逃がしてしまうとは……」
「……こっちに被害はなかったんだ、この復讐はいずれたっぷりさせてもらいましょう。」
*
「ターゲット確認……あとは、坊やが帰ってきたら仕掛けるだけ。なんだ、街一つ落とすなんて案外簡単な話じゃない。」
油断。慢心。退屈。それが大きなミスを呼ぶ。
──「温室育ちはそれを知らないらしい。」
「……? なぁに、これ。」
「あぁ、すみません。そこに落ちてる私の手袋なんですが、拾っていただけませんか。探していたんです。」
スタンドバトルは常に情報がものを言う。
No.3は……ミリの顔を知らない。
「お兄さんのなんですね〜、見つかってよかった。」
そして、スタンドの発動条件も知らない。
故に……その手袋を迷わず拾ってしまう。夏に厚手の手袋という違和感すら抱かずに、拾ってしまう。
「……嘘、スタンド攻撃ッ!?」
「ひとつ……かまさせて頂きました。《
「なになになに、なんなのよォォォーッ!!!!!」
「《
カァーーン……
「バレストラ、トゥシュ。Que son ame se repose en paix.(安らかに眠れ。)」
甲高い音が響き、即死の一撃が叩き込まれる。
「……てめぇ。」
「誰かと思えば、遅かったですね。もう終わりましたよ。」
イオが遅れてやってくる。
「私のスタンドがトラップに使われるとは考えなかったんですか? 我々のスタンドの情報を知っていながら仲間に伝えていなかった?」
イオはただ、拳を握り込むことだけで答えた。
「へぇ……中途半端な。やはり私は、あなたのことが嫌いです。ですがお互い攻撃手段はないんだ、ここは見なかったことにしてあげましょう。」
「んだと……?!」
スタンドは解除され、ミリの手袋も消える。そのまま背を向け、ミリはその場を去っていく。
「待ちやが──」
追いかけようとしてやめてしまったのは、オーグたちを目撃したから。とっさに身を隠してしまった自分に驚く。
(俺は……どうするのが正解なんだ……?)
オーグたちの気配も消えたころ。イオの目の前には、一人の男が現れた。手に本を持った男。……ヘルマン・ヘッセの『デミアン』。
「アルビン……グリッターッ……」
「名前を覚えてもらえてうれしいね。」
「何しに来やがった……財団に戻れとでも言いに来たんじゃあねぇだろうな?」
アルビンは、喫煙所で初めて会った時と同じように、本をたたんで懐にしまう。
「もう一本分話そうと誘われていたのを思い出してね。」
「は……?」
「君の周りには二つの世界がある。ディム君の下で働けば、君にとっては物足りないかもしれないが、何より善行であるし、タバコも供給される。セミフレッド・リフの下につくのなら、刺激的だし、仲間には存在を承認され、全能感に浸れるだろう。だがタバコはしばらく吸えない。テロリストにコンビニは使えないからね。」
しゃがみこんで、イオの顔を覗き込む。
「そろそろ決めたまえ。ライターの火はそう長くはもってくれない。君は、どちらに火をつけるのかな?」
アルビンの手から、ライターとパーラメントが落とされる。そして、手を後ろで組んだアルビンはその場を立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれ」
予想外の引き留め。
「あんたは、何に火をつけたんだ」
素っ頓狂な顔で質問するイオを見てアルビンは思わず笑い声をあげる。何がおかしいのかと、イオはキョトンとした顔。
「いや、失礼……そう来るかと思ってね。やはり君は、期待を裏切りはしなさそうだ。そうだね、私は……私の思うままに生きているんだ。君をここで始末しなかったのも、私の判断さ。財団にバレれば怒られてしまうだろうね。」
「……そうか。」
「あぁ、それじゃあ私はもう行くよ。マネージャーを困らせているのでね。イオ君、また会おうじゃないか。」
カバンからデジタルカメラを取り出したアルビンが、何食わぬ顔でマネージャーの元に戻る。イオはどこか肩の荷がおりた様な気分で、そこに座っていた。
To be continued
「グリッター様ッ!? 今の一瞬で、一体どこへ!」
「いや失敬。この街をどうしてもファインダーに収めたくてね。君たちに断りを入れようにも、きっと『そんな時間などない』と言っただろう?」