ようこそイタリアへ!
イタリア行きの飛行機の中。ミリが観光マップを見て情報収集をしている他方、リンがイライジャに話しかけていた。
「ねぇ、ねぇ」
服を引っ張ってイライジャを呼ぶ。イライジャは見ていた映画を止めてリンの方を向く。
「どった?」
「……ねぇ、『おにぃ』って、呼んでもいい?」
「おにぃ……お兄ちゃんってこと? ……僕が?!」
「……」
どことなくムスッとした顔。聞き返したからだろう。
「いいよ……?」
リンの顔はパッと明るくなる。
兄と慕われるようなことをした覚えは無いんだけどな……なんてイライジャは思ったが。
スタンド使い、それも暴走するスタンド。守られるのは初めて。さらには暴走して迷惑をかけた直後なのに庇ってくれたイライジャの優しさ、そこに甘んずるのも不思議なことでは無い。リンは幼いのだ。
*
「あぁ〜着いた着いた!」
「今回は墜落しませんでしたね。ジョセフ・ジョースターの伝記がどうとか言ってませんでしたか?」
「……。」
ムスッとした顔のリン。
「やめなよ、ミリ。確実なんてものないでしょ〜、研究員なら分かるはずだよ。」
「はぁ、はい。すみませんね。」
ミリの脳内に、なんとなく仲間外れ気分が湧いてくる。だが、まずは落ち着いて到着した報告をすることにした。
「オーグさん、聞こえますか。ミリ・ネイトです。」
名札に向けて話しかけるミリ。すると、名札……というよりは、名札に無線接続された骨伝導イヤホンから、オーグの声がした。
「時間通りだな。」
「次の指示を待ちます。」
「あぁ。三人にはそれぞれ、今から指示する場所に行ってもらう。よく聞いておくように。」
*
──ミリとリン──
指定された場所は、とある一軒家だった。
「なんておにぃじゃないの。」
「指令は指令です。そんなことよりも、任務中に日傘とはどういう度胸ですか?」
「あの人がくれた。」
「オーグさんが? ……何か意図があるのかもしれませんね。」
首をかしげつつ、ドアベルに手を添える。すこし緊張して息を吸い込む。
ピーンポーン
「合言葉は?」
ドアの向こうからは、その言葉が聞こえてきた。オーグの指示によれば……
「……何してるの。」
「そういう指令なんです。」
鍵穴を覗けばわかると。
「……タ コ ス?」
「中へ……お入りください……っ」
「あの。笑ってますよね?」
係員さんに突っかかりつつも、ドアが開かれたので2人は中へ入ったのだった。
「ご足労いただき大変申し訳ないのですが……ここにジョセフ・ジョースターは居ないのです。」
そこで待っていたのは、高身長の、黒人の男。会ったことがないはずだが、どこか見覚えがある。
「あれ……歴史の教科書で見たような……」
「……いきなりで申し訳ないのですが、お名前は?」
「えぇ。私は──」
振り返った男。その既視感が、回収される。
「──スモーキー・ブラウンです。」
*
──イライジャ──
「指定の場所は……ここのボートかな。それで島に行けって書いてある……渡守さんも居るんだ?」
イライジャの視線を感じてか、その渡守はゆっくりと立ち上がり、イライジャの方にその仮面に覆われた顔を向ける。
「げっ」
特徴的な仮面に、イライジャは驚愕の声を上げてしまう。
「……こちらへ。イライジャ・ワッケロー。」
(名前を知ってる……財団の人ってことね)
ならばその奇妙な仮面も説明がつく。少し口角を上げたイライジャに、仮面越しの視線は鋭くなる。
よく見れば船は岸から少し離れている。不思議に思いながら、安心しきったイライジャは歩み寄る。
「船が遠いようですが?」
「こちらへ、いらっしゃい。」
──何を言ってるんだぁ……? この人は……船をこんなに離しておいて……船に乗れなんて言うのかぁ……?
その瞬間、イライジャに電流の如きひらめき……いや、気づきが走る。
試練がもうすでに、始まっているのだと。
「だったら……《ザ・ラッシュ》!!」
「馬鹿者ッ!」
バッシャァッッ
水飛沫を大きく立てて、船のオールが打ち上げられる。ザ・ラッシュで空に跳び上がったイライジャ目掛けて。
「ぐえぇっ!!」
空の軌道を外れて、地面に叩きつけられる。
「敵が
「新しい力……?」
そして新しい力というものを、渡守はその場で見せた。さも、出来て当然かのように、毅然とした態度のままで、水面に足を踏み出す。
「な、なにッ!? 僕の見間違いじゃあないなら、水面にッ! 水面に立っているのかァーッ!?」
ゴゴゴゴゴ……
「これが貴方の知る波紋の新しい形ッ! 貴方が若作りの中年でなく、波紋戦士になるために必要な物ッ!!」
「こ、このぉ……! 若作りだなんて、僕が最も言われたくない言葉をぉぉ……!!!」
渡守の言葉は、イライジャの逆鱗に触れたッ!
「ゆるさないぞ! 《ザ・ラッシュ》!!」
再び地面を蹴り跳び上がったイライジャ。瞬間に目にしたものは、水の流れのようなそのマフラーが宙を舞う姿だった。そして……
「《
波紋が流される。
「──かっ……」
驚くことに……イライジャは、気を失った。