「《アイアン・ロータス》!!」
リン・カーミラのスタンド、アイアン・ロータスが発現する。海、水面が蓮の葉で埋め尽くされる。当然、生物的な意味での蓮の葉では無い。蓮の葉の見た目をした、スタンドだ。
「おい、マズイんじゃないかあいつ!」
イオの予感は当たっている。リンはスタンド発現中、破壊衝動の抑えが効かなくなる未熟性を持つ。
……敵味方の区別など、つきようもない。
「壊れろッ! 壊レロッ!!」
リンの叫びが聞こえる。次には。
ジジジジジジ…………
その音が耳元を通り抜け、不快感を脳裏に植え付けていく。虫の羽音のような、その音。
「リン・カーミラ……スタンド名『
オーグが、手元のタブレットの内容を読み上げる。
水面に浮かぶ蓮の葉。周りを見渡すと、確かに巨大な花が点在している。虫はそこから出たということだ。
「なるほどな、あの子供の落書きみてぇなぐちゃぐちゃは、生み出された怪物っつーわけか……」
直感的に握った色のクレヨンで塗りつぶしたような、ぐちゃぐちゃした黒い線の塊。辛うじて、翼があり、胴体があり、トンボのような、ハエのような。それがアイアン・ロータスの生み出す虫だ。
「財団に連絡した。バックアップ部隊のボートが到着するはず、それまで耐えろ!」
「耐えるって、つまりそれはリンの攻撃から耐えろってことだなァ!」
「私のスタンド──」「俺のスタンド──」
「「防衛向きじゃあない!!」」
「……ミリのスタンドは条件が煩雑……イオは論外……か!」
タブレット端末をスワイプしながら、班員のプロファイルをめくり続ける。
「オーグ、あんたのスタンドは!」
「……命の危機の時は使うさ……俺の命が迫っている時は!」
「てめぇ!」
「仲間割れしてる場合じゃないよ! ああっ、虫が!」
「イァァアア……!!!」
不快な羽音を鳴らしながら、虫が突進してくる。
「グッ……」
怪物の突進を受け、蓮の葉の上を転がる。海水がイオにまとわりつく。口の中に、不快な塩味が広がる。
「敵は……あっちだっつーのによォー! 畜生、畜生、畜生、クソッタレがァッ!《ドリーム・ドライブ》──」
『母さん……? 姉さん……?』
血の薔薇の上で横たわる、母と姉。普段通りに家に帰った、その時に、突然やってきた絶望。その、フラッシュバック。
「──ッハァ、ハァ……クソが!! 使いたくないって言ってんのに!」
「あぁー、ごめん、間に合わなくって!」
「なんでてめぇが謝るんだよ! 悪いのはどう考えても、あのガキだろ!」
「イア、イア……」
「!」
再び、羽音。
「今度は間に合う!《ザ・ラァァァァーッシュ!!》」
「イァァッ」
ザ・ラッシュの拳が叩き込まれ、怪物は蓮の葉の上に落ちる。水面から新しく茎が伸び、怪物は葉に覆い尽くされて行く。
「まさか……」
その葉に覆い被さるように、
「時間経過で復活するタイプみたいだね。」
「クソが!」
「なるべく固まれ! 背水の陣だ!」
「水に囲まれてる状況で背水の陣、洒落てますね。」
走ると、蓮の葉がチャプチャプと音を立てる。
「どうすれば止まる! プロファイルには書いてねぇのか!」
「ない!」
「ボケが!」
「黙れ!」
「イア! イア! イア! ジジジジジジ」
羽音と共に、大量の虫が、シャンソンを襲う。突進しあったり、追いかけあったり。
「ジジジジジジ」
……やがて、歌が聞こえ始める。
「なんだ……なにか……なにか聞こえる!」
「壊……レロ……壊レロ……」
カーラの呪詛が、段々と。歌に変わっていく。
「…………Ring-a Ring-o' Lotus──」
「歌……?」
そのか細い歌声が、響く。
「A pocket full of posies──」
目眩。目の前がぐるぐると回る、波打つ。立っているのか、なんなのか、分からなくなっていく。虫の羽音と、リンの歌声が頭に鮮明に聞こえてくる。
「Atishoo, Atishoo──」
「
*
「──はある、目を覚ますはずだ!」
慌ただしい声が聞こえてくる。視界がボヤけるも、財団のシンボルが辛うじて見える。
肩を叩かれたり、声をかけられたり。
「イオ・バーンさん、聞こえますか!」
聞こえない。何か、朧気でノイズがかかる。聞こえてるぞと返事をすることが出来ない。
死んだわけではない。なぜなら、ドリーム・ドライブが発動していないからだ。なら、今のこのぼんやりも、発動すれば治るか?
(《ドリー……厶……ドライ……ブ……》)
心の中でスタンドを呼び出す。すると保存していた繭が、イオの目の前に現れる。それは裂け、中から緑色の液体が溢れ出す。
「ブク……ブク……」
イオを液体が包む。隊員がなにか気味悪がって、離れていく。直感だろうか?
「……あ、は……話せる。治ったか……。」
「スタンド使い……」
緊急隊員がその言葉を口にする。
「お前この名札が見えねぇのか? 俺はスタンド使いだ。」
「し、失礼しましたッ!」
伸びをする。コキコキと身体が鳴る。
「他の奴らどこいった? 特にあのクソガキは……」
「……みなさん、気を失われております。我々バックアップ部隊の隊員が処置を行っております。……イライジャさんはもう目覚めたようですが。」
襲撃者シャンソンよりも、驚異となったアイアン・ロータス、リン。
しかし、リンをも連れて戦闘班は、杜王町へ向かうのだった。