杜王町騒然
車は、岬から潮風、トンネル抜け鉄塔へ。鉄塔を超えるとラジオが入るようになる仕様は据え置きのようだ。杜王町Radioが意気揚々と喋っている。
「……」
気まずい沈黙に、杜王町Radio。その沈黙を生み出した当の本人、リン・カーミラは、知らぬ顔でスマホをいじっている。誰も、何か言い出すことが出来ずに。6人乗りのセダンは、オーグが運転し、助手席にイライジャ。ミリとイオ。荷室の席に、リンが座る。
ブロロロロロロ……
*
車内の空気のギスギスとは対照的に、一体感のある空気だった。双眼鏡、通信機、
「No.8より各員『キャロル』設置完了した。作戦開始準備完了。持ち場で待機せよ。オーバー」
「キャロルゥ~そんな堅苦しくしなくったっていいのよ?」
「ンン……」
その指摘に、思わずノイズを漏らすNo.8。スタンド名《キャロル》。
「
No.3、スタンド名《シャンソン》。飛行機を襲撃した犯人でもある。
「そうだなァ、そのせいで仕留め損なったわけだしなァ」
「もう、うるさいなぁロンド。」
No.6、スタンド名《ロンド》。
「確認する。手筈通り、わたしは起爆後No.6のロンドで離脱する。」
「で、交換でイレブンが来るんだよね〜?」
SPW財団、仮設杜王町支部。邪悪が台頭した時に、それを感知し、財団のサポートを開始するための斥候所。そこに、シャンソンの爆弾がすでに仕掛けられているというのだ。
「……そろそろ時間だ。」
No.8は懐中時計をたたむ。カチッと金属が噛み合う音が鳴り、蓋が閉まったそれを懐にしまう。
「No.8より各員。これより3カウントの後に、作戦を開始する。繰り返す。3カウントの後に、作戦を開始する!」
No.8の手に、スタンドの起爆ボタンが握られる。
「3……2……1……」
ピーッ
「作戦開始。」
*
つい先程まで粛然としていた杜王町が、一斉に騒ぎ立つ。その爆発音を皮切りとして、野次馬の声や、パトカー、救急車のサイレン。駐留していた財団職員を運んでいく。
「これって……まさかッ!」
その人混みの中に、広瀬康一。
せわしなく鳴り響くサイレン。その中に、何か目を引くパトカーが一台。扉が勢いよく開き、出てきたその警官は、その現場を見渡す。崩れ、炎上した財団斥候所を見渡す、その警官。
「グレート、爆発してやがる……」
東方仗助。
「聞いてないぞ、オーグ」
「言えるはずもないだろ……これは……スタンド使いの襲撃だ」
オーグは、ゆっくりと広瀬康一に近づいていく。
「見ての通り……邪悪が台頭しています。協力していただけますね、広瀬康一。」
康一は無言で頷いた。
*
「……ちょっと、止まって。」
リンを連れたイライジャ。現場へ向かおうとする道中、立ち止まる。
眼前に、人。目が合っている。互いに睨み合う。そして直感的に、リンもイライジャも、理解する。こいつ、スタンド使いだ!
「何者?」
「フゥム、流石、気づいているなァ、兄弟!」
「……初対面のはずなんだけどなぁ。なんですか、お茶でもします?」
そいつが承諾するはずもないことはわかっていたが。
「スピードワゴン財団……忌々しい組織だなァ〜、全く!」
「……何がいいたい! 名前を名乗れ。」
敵対と判断。語気が荒くなっていく。
「我が名はセミフレッド・リフ。聞いたことはあろう。」
「セミフレッド……お前が被験者を誘拐した犯人か。」
なるべくの威圧。効かないこともまたわかっていたが。それは、イライジャ自身が雰囲気を作り、スタンドパワーを引き出す自己催眠的な効果もある。
「私は勧誘に来たのだ……兄弟! 財団とはスタンド使いを縛りつける鎖に過ぎん……私と共に来い……私はスタンド使いを導くものにあろうぞ!」
「リン、ロータスは使わなくて良いよ。下がってて。」
リンは、警戒するような視線をセミフレッドに送りながら、下がる。無言のままで。
「兄弟兄弟とうるさいな、それに財団が鎖だなんて! それは傲慢なお前の、勝手な考えにすぎない! 一面的な考えで物を見て!」
「それはァ、お前にも言えることだ!」
「《ザ・ラァァァッシュ!!!》」
拳が、一瞬の閃光を掴む拳が放たれる。その拳が……空振る。
「なっ……」
「よかろう! 戦いによって善悪を決めることこそォ、力勝負で上下を決める者こそォ! 本来あるべき人間の姿という訳だなァ、兄弟よォッ!!」
「後ろに!?」
「《ターン
その拳が、イライジャを吹き飛ばす。
「うわぁッッ!! 」
情けない声を上げ、イライジャは地面に転がる。リンが心配そうな目。
「なんだ、このパワーは!」
「一撃でェ! そんなものかァ、兄弟よォォォ!!」
セミフレッドが走りかかってくる。追撃だ。
「《ザ・ラッシュ!!!》」
「ハァァァァッ!」
拳と拳、今度はぶつかり合い。近距離パワー型スタンド二つの、ぶつかり合い。衝撃波が飛び、風が吹き荒れる。
──ガオンッ
その状況を撃ち破る、重苦しい音。
「そのくれぇに、しておかねぇとよォ……」
現れたその、顔に傷のある男は。セミフレッドをいつのまにか射程範囲内に納め、スタンドで頭を掴んでいた。
「な、なにィ……?」
「おれのザ・ハンドが削り取ったモンは……おれにもどこにいっちまったのかわからねぇ……どこかも知れねぇ暗黒空間の中に消えたくなければよォ〜〜…………」
「虹村、億泰……」
リンの呟きの通りに。それは、虹村億泰。深くガラガラと
「わ、わかった……このくらいにしておくとしよう……」
セミフレッドはスタンドを引っ込め、億泰の言う通り攻撃体勢を取りやめる。
そして、セミフレッドは、黒い霧のようになって消える。偽物だったということだろうか? それとも、ザ・ラッシュの攻撃を避けたカラクリだろうか。
「おれはバカだからわからねぇことは多いけどよォ……『善』と『悪』の区別ってんなら……けっこー自信あんだぜ…………そうだな、怪我ァ、してねぇか」
「……えぇ、このくらいかすり傷です」
「そうかァ──なら良かった……で合ってんのか?」
「僕に訊かれましても……?」
その虹村億泰は頭をポリポリと掻く。慣れないことをしたのだろう。その、少し緩んだような空気。虹村億泰は、佇んでいた。
「フム、虹村億泰……バカと聞いていたが、侮れん奴だ……早いうちに、仲間に迎え入れんとなァ……」
どこか。仄暗いその部屋で、セミフレッドは、さらに強くならんとしていた。スタンド使いとの戦いは殆ど初めて。彼もまた、慣れないことをしていたのだ。
セミフレッドを中心とする組織『月光』と、スピードワゴン財団をめぐる戦い。閑静な杜王町を巻き込んで。
スデに、始まっている。