だけど……まだ後始末が残っていて?
※楽曲『HomeSweetHome』の話が元になっています。
呪われた館からの脱出に成功したカリン。
空は晴れ上がり、振り返っても既に例の館は姿形がなくなっていた。
「……きっと、みんな帰れたよね」
少し複雑そうな表情で、一人呟くカリン。
帰る者の中には、館で出会った少女アカリも含まれていた。
最初は気づかなかったが……巫女の直感とでも言うべきか。
カリンは館の幽霊を祓っていく内に、徐々にアカリにも違和感を抱いていた。
どうにも不思議だったのだ。
彼女は両親に連れられて、この森にリンゴをとりに来たと言っていた。
だがカリンは改めて周辺の木々を確認する。
(やっぱり……リンゴの木なんて無い)
そもそも食用の果実が生るような木は、道中にも無かった。
ではアカリはどうしてこの森に来たのか。
いくつかの可能性がカリンの中で浮かび上がる。
一つは「かつてはリンゴの木があった可能性」だ。
(アカリちゃんは多分……死んでから長い時間が経っている)
であれば、存命時にあったリンゴを目当てに来たという可能性は考えられる。
もう一つの可能性……それは、カリン自身あまり考えたくないものであった。
(呪いの館の存在……それを理解した上での……)
人の世に悪意はつきもの。
欲、利己、憤怒、怨嗟……数えればキリがない。
我が子を害する親なんて、昔から珍しくもないものだ。
ただ今は……あの館で出会った友人が安心して召された事を祈ろう。
カリンは自身の胸に手を当てて、そう考えるのだった。
だがふと、一つだけ引っかかる事がある。
(そういえば……ミホさんって結局……)
何者だったのだろうか。
現世に囚われた魂が
彼女は館の管理人を名乗ると同時に、館そのものと名乗った。
言動や服装を思い返せば、コウメの従者とも考えられる。
だけど彼女は一度も従者とは名乗らなかった。
そして呪いによって暴走したコウメやマユと違って、ミホだけは終始冷静であった。
彼女は結局何者だったのか……もしかすると、自分は何かとてつもない見落としをしているのではないか。
カリンはその場に立って必死に思考を巡らせる……すると。
「おやおやー、ようやく見つけたのでしてー」
森の中から現れたのは、長い髪と低い背が特徴的な少女。
いや、少女と呼ぶのは烏滸がましい。
カリンは彼女を見た瞬間、その場で飛び跳ねて驚いた。
「よ、ヨシノさん!?」
「まったくー、突然いなくなったので探しに来てみれば……半端な仕事をしたようでー……メッ、でしてー」
「ふぇ!?」
「これは帰ってから、また修行のやりなおしが必要でしょー」
「そんな〜」
ヨシノに叱られて、少々涙目になってしまう
彼女、ヨシノはカリンにとって上司のような存在。
一緒にこの森へと足を踏み入れたベテランの巫女だ。
「それで? 結局なにがあったのでして?」
「は、はいぃ!」
カリンは呪いの館に迷いこんでからの出来事を全て話した。
コウメやマユといった呪われてしまった魂のこと。
ミホという管理人のこと。
そして、アカリのことも。
全ての話を聞き終えたヨシノは「ふむふむー」と言いながら、何度も頷くのだった。
「……やはり、下調べはとても大事でしょー……こっそり森の外に出た甲斐がありましたー」
「えっ!? 途中からいなくなったのって」
「はいー、勝手にお任せしましたー」
「ヨーシーノーさーん! 私本当に危なかったんですからねー!」
「部下の修行もお仕事でしてー」
頬を膨らませて、プンスカと怒るカリン。
ヨシノはそれを飄々とかわしていた。
それはそうとして……ヨシノはカリンの後方へと歩みを進める。
「…………」
「ヨシノさん?」
「こちらが館のあった場所で間違いないでしょうか?」
「はい、もう消えちゃいましたけど……」
「なるほどー……消えてしまったのですねー」
何やら厳しい目つきで、その場所を見つめるヨシノ。
小さな声で
何故ここで祝詞を唱えるのか、カリンが疑問に思っていると……ソレは姿を現した。
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
そこには先程確かに消えたはずの、呪われた館の姿があった。
カリンは慌ててヨシノの縋り付く。
「ヨシノさーん! ふっか、ふっかちゅしちゃってますよー!」
噛みながら抗議するカリン。
だがヨシノは至って冷静であった。
「やはり……完全に消える事はないのでしてー」
「えっ、それってどういう」
カリンが聞こうとすると、館の扉が開き、一人の従者らしい人物が現れた。
見間違えるはずもない。カリンは無意識に「ミホさん……」と呟いた。
「先程ぶりですね、カリンさん」
「……残ってたん、ですね」
「流石にカリンでも、この者の異質さには気づいていましたかー……ですが、本質にまでは到底できていませぬ」
そう言うとヨシノはミホに近づき、深々と一礼をした。
「初めまして、巫女のヨシノともうしますー」
「初めまして、私はこの館の――」
「館そのもの、でして?」
「……はい」
何かを察したように、頷くミホ。
一方カリンは何がなんだか理解できていなかった。
「カリンから館での出来事はお聞きしましたー」
「そうですか……では、ヨシノさんのご用件は? コウメお嬢様はすでに空へと還りました」
「はいー……呪われた魂は空へと還り……残すは最後の一人、アカリだけとなりましたー」
「えっ……」
アカリはまだ現世に縛られている。
その事実を突きつけられたカリンは、酷いショックを受けた。
「ミ、ミホさん!」
「はい……コウメお嬢様の呪いは解かれましたが、アカリさんの呪いは解かれていません」
「なん、で……」
「カリン、慌ててはなりませぬー」
「でもヨシノさん!」
「なりませぬ……ここはわたくしにお任せをー」
優しい表情でそう言われてしまい、カリンは渋々後ろに下がる。
そしてヨシノは再びミホと対峙した。
「カリンから話を聞いた時も感じたのですが……なんとも不思議な話なのでしてー」
「不思議とは、何がでしょうか?」
「館に住む令嬢、コウメが死んで
「何を仰いたいのですか?」
「不思議に思いませぬかー? 何故地縛霊と化したコウメは館を呪ってしまったのか」
「コウメお嬢様は呪ってなどいませんよ」
「その通りでしてー……コウメは何もしておりませぬー」
では……とヨシノは続ける。
「何故この館は呪われてしまったのでしょー?」
「…………」
「最初に死んだのはコウメ……次はマユ……その次はアカリ……おやおや? 奇妙だとは思いませぬかー?」
「私の、ことですね」
「その通りでしてー、ミホ殿はいったい
ミホは無言を貫く。
まるでヨシノが正解に辿り着くのを待つように。
「順を追って答え合わせをしましょー。まずはコウメの行動から」
「お嬢様の行動ですか?」
「はいー。聞くところによるとコウメは『家族』とくに『両親』を強く求めていましたー」
「はい。ですから私はコウメお嬢様に家族を用意しようと――」
「そこなのでしてー。何故ミホ殿はコウメの実の両親を連れて来なかったのか」
「…………」
「そもそも何故、コウメはミホ殿の行動を拒否しなかったのか」
ヨシノの言葉を聞き、後ろに控えていたカリンも首を傾げる。
確かにコウメは両親を求めていた。
しかし今思い返すと、まるで両親という概念は知っていても、両親の顔を知っているようには到底思えなかった。
「恐らくコウメは、両親の顔すら知らずに……この館に隔離された病人だった……」
「えっ、どういう事ですか!?」
カリンは驚いてヨシノに聞く。
「今となっては古い時代の予防法でしてー……止まらない咳に熱、そして人気のない森の館に隔離……この場所に館が残っていた時代を考えますにー、コウメは
「はい……その通りです」
「しかしそうなると、更なる不思議が芽生えるのでしてー」
まだまだヨシノは続けるが、カリンは既に頭上が疑問符で溢れていた。
「コウメの死と、館の呪い……そこに因果関係が見えませぬー」
無言を貫くミホに、ヨシノは指をさす。
「そこで気になるのが、ミホ殿でしてー」
「ヨシノさん、ミホさんはいったい……」
「カリンも気になってはきませぬかー? ミホ殿はずっとコウメのために動いていましたー……では何故、コウメが空に還った今、ミホ殿はここに留まっているのでしょー?」
「それは、呪いがあるからで……アカリちゃんもそれで」
「ふぅ、やっぱりカリンはまだまだでしてー……そもそも呪いの正体は何か、それを考えるべきでしょー」
カリンは必死に考える。
ミホはコウメのために動き続けていた。
そしてコウメやマユの成仏を願っていた。
だが今は呪いの館と共に現世に留まっている。
アカリまで巻き込まれてしまっている。
では……ミホの正体はなんなのか?
「………………うぅ、全然わかりませーん!」
「やはりカリンはもっと修行が必要でしてー」
ヨシノは大きなため息をついた。
そしてヨシノはミホをしっかりと見据える。
「……答え合わせを、しますか?」
「はいー。そのための状況確認でしてー」
ミホはどこか、観念したような様子でヨシノの言葉を待った。
「館の管理人であって、館そのものでもある……これがヒントでしたー……古来より建物や土地には
ここまで聞いて、カリンも一つの可能性に辿り着いた。
確かにそれなら、今呪われた館が蘇った事にも説明がつく。
「ミホ殿……いいえ、古来よりこの地を守護していた、名もなき鎮守神よ」
「……正解です、ヨシノさん」
どこか困ったような微笑みを浮かべて、ミホはヨシノの言葉を肯定した。
「恐らく元々あった館はミホ殿を祀る
「はい」
「そしてコウメは神への供物……という名目で館に捨てられた伝染病の患者……それがミホ殿とコウメの間にできた強い縁と信仰。どんなモノであっても、供物を得た神は存在を維持できてしまうのでしてー」
「そうですね……年に一度の供物。それが人間との約束であり、私がこの地を守護する理由でした」
「この館は別荘……普段は周辺の住民がミホ殿に供物を捧げ、祭をしていたのでしょー」
「はい。ですがそれも過去の話です」
「人が消え、信仰は減り、最後の信仰者であったコウメも死んだことで、神との約束は破られてしまったのでしてー」
カリンにも色々な事情が見えてきた。
コウメの両親は当時の医学では治療できないコウメを、神に任せようと考えて館に隔離したのだろう。
しかし人間の噂なんて容易に広がる。ましてやそれが権力者の事であれば尚更だ。
結核という病を恐れた住民は、我先にとこの地を逃げたのだろう。
権力者に逆らう事なく我が身を守るには、それが最適だ。
そうなれば信仰は減り、神と人間の約束は破られてしまう。
神との盟約は、破るべからず。
鎮守神の御利益は反転して、禍いとなり、やがて土地を蝕む呪いへと変化した。
それが館の呪いの正体。
そして、最後の信仰者であったコウメの願いに、今も囚われている哀れな邪神……それがミホ。
恐らくアカリを縛ってしまったのも、ほとんど無意識的な神の本能によるものだろう。
ヨシノもカリンとほぼ同様の内容を、ミホに話した。
「全てその通りです、人の子よ」
「我々巫女は神を信仰する者。お困りの神がおられるのでしたらー、その力になりー、邪を祓ってみせましょー」
「どうするのですか?」
「この地に新たな社を建てましてー、今度こそ正しくミホ殿を祀りましょー……さすればやがて、邪は消えるかとー」
ミホは目を閉じて……じっくりと思考する。
それは神の判断であり、カリンは固唾を飲んで見届けようとした。
そして数分の時が経ち、ミホは目を開けた。
「今度は、約束を守ってくださいね」
「はいー。神との約束を守るのは、巫女の使命でしてー」
「……なら、その言葉を信じましょう」
その言葉を残すと、森に一陣の風が吹く。
ミホの姿は館と共に、跡形もなく消え去ってしまった。
今度こそ、正しく別れなのだろう。
カリンはそう信じて、空を見上げていた。
「さぁカリンー、これから大変でしてー」
「あぁ〜、やっぱり?」
「はいー。上の者を説得して、ここに立派な社を建てなくてはー。さすれば、あのアカリという少女もやがて空に還れるでしょー」
アカリも空に還れる。
共に館を冒険した思い出もあり、カリンはどこか寂しさを覚える。
だがそれ以上に、アカリが輪廻の輪に還れるという事実を喜んだ。
(それに……もしも私のお手伝いが必要だったら)
どれだけの時がかかろうとも、カリンはアカリの成仏に手を貸そう。
大切な友達が、今度こそ安心して空に還るために。
「さぁーカリンー。戻ったらすぐに修行ですよー」
「えぇー!? ちょっとだけでも休ませてー!」
「なりませぬー」
「そんなー!」
ヨシノの後を追うように、カリンは森を後にする。
残る呪いが全て消え去る、いつかの日を思い浮かべながら。
【おしまい】
久しぶりの二次創作です!
……お願いします、怒らないでください!!!(偉い人へ)
それはさておき、ハッピーエンド(?)になっちゃいました。
ホラーはどこへいったん?