アホリズム-孤独な箱-   作:悠士

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入学篇
1話 始(はじまり)


 

 

ー君はあの島が見えるか!?ー

 

 そんなバカバカしいキャッチフレーズが書かれたチラシを町のあちこちで見かける、それは人が行きしている場所なら村だろうが離島の島だろうが1枚は存在している

 

「なぁ、お前空の島なんて見えるのか?」

 

「見えねーよ!」

 

「だな!蒼也(そうや)もだろ?」

 

「そうッスね、一度くらい見てみたいッス」

 

 クラスの奴らに合わせて見えないと嘘を吐く、だけど黒峰蒼也(くろみね そうや)の目にははっきりと空の浮かぶ不思議な島が見えていた

 島と呼んでいいのか形は渦巻きの模様は無いがアンモナイトの殻みたいな、全体的に丸い感じだ、島と言うよりは何かの浮き船の様に見える

 

(見えてても信じないだろうからな、なら″見えない″ふりしてるほうが安全だ)

 

 蒼也は友達と買い食いしながら家に向かい途中で別れた

 

「ただいま・・・」

 

 どこの家庭でも帰ってきた時の挨拶をすれば「ただいま」と帰ってくるだろうが、生憎″誰も″居ない部屋には蒼也の声が寂しく消えていく

 両親は貿易会社で勤めていて家には殆ど帰ってこない。祖父母は別の場所に住んでいて中学生の蒼也にはとても行ける距離ではなかった

 だからこの家には蒼也しか居らず家のことも全てこなしている

 

 今日は中学校生活最後の行事、卒業式で早くに帰り、時間があったのでいつもよりちょっと豪勢な料理を作った、豪勢と言ってもいつもより凝った物を作っただけだが、蒼也にとっては数少ない楽しみの一つだ

 

「ふぅ・・・楢鹿(ならか)・・か」

 

 食器を片付けて風呂に入り自室に戻ると一息ついて春休み明けから通うことになる楢鹿高校の制服を見た

 一般の学生服と違い模様とかあったりして不思議な感じがした

 

(まるで漫画やアニメみたいだな・・さて、調べてみるかな、楢鹿ってあんまり良い噂聞かないし)

 

 政府が完全援助の学校でしかも入学条件が「空の島が見える」たったそれだけ。成績も生活態度も関係ないのだ、しかも卒業後は偉い人になれる、と、もうデタラメとしか言いようのない事ばかりで信じる人は居ないに等しい

 パソコンで情報を調べていた蒼也は目新しい情報はなく、前に知った情報や噂と同じだった、その情報と言うのが

 ・自分の子と誰かが成り代わっている 

 ・政府が何か実験をしている 

 ・接待、臓器売買い・・・etc

 

「ふぁ~・・ねむ・・・」

 

 いつの間にか23時を過ぎていて眠気もあることだしベッドに入って寝ることにした、楢鹿で待ち受けている『日常』がなんなのか深く考えずにそのまま意識を深い闇の中に身を任せて眠りについた

 

 

 

 数週間が過ぎて今日が入学式の朝、蒼也はもそもそと派手に寝癖を付けながら起き上がった、カーテンから漏れる朝日が眩しかったが部屋の換気も含めて窓を開けると新たな門出を祝うかのような晴れた空と春の寒さを感じた

 

『ーーー今日も関東地方では一日中晴れることでしょう。続いて明日の天気ーーーー』

 

 朝のニュースは見ながらご飯と鮭の塩焼き、ハムエッグ、味噌汁と一般家庭に見られる朝食を用意して食べていると天気コーナーに変わった

 

「まっ・・折角の入学式に雨は嫌だもんな」

 

 その後ニュースへと戻り朝ご飯を食べ終えると食器を片付けて学校に向かうために制服に着替えて家を出た

 蒼也が住んでいるのは高層マンションの5階だ、1階に降りてエントランスホールを抜けると大きな鞄に黒髪の少年が紙を手にしてキョロキョロと辺りを確認するように見回していた

 

(あの制服は俺と同じ楢鹿のだな・・じゃ)

 

「なぁ、もしかして迷子ッスか?」

 

 いきなり声を掛けられたせいか少年は大げさに驚いて蒼也を見た

 

「あ!・うん、この辺りは来たことなくて道が分からなくて・・お前も・・・楢鹿なんだよな?」

 

「そうッスよ・・それと学校は駅の反対ッス、出る場所間違えたッスね」

 

 楢鹿高校は最玉県にあり駅を降りてバスで少し乗ればたどり着けるが、どうやら目の前の少年は出る場所を間違えて蒼也の住んでるマンション近くまで来てしまったんだろ

 

「あっ、そうだまだ名前言ってなかったな、俺は辰巳大助(たつみ だいすけ)。東京からなんだ」

 

「へー東京からッスか。俺は黒峰蒼也ッス、よろしくッス」

 

 蒼也の案内で付いて行くことになり道中いろんな話をした、中学の頃の話だと辰巳は剣道に入っていて大会にも何度か出たとか

 蒼也の方は悪友がいたり、運動神経が良かったせいか色々助っ人として入ったりとかした、剣道もしたことがあったから話は弾んだ

 もちろん話の中には楢鹿の事も話した。辰巳は噂を「知っている」方だから不安があるとか「戦う」為にはどうしたらいいのか、とか

 相談もしていて蒼也は前を見ると目的地の楢鹿高校が見えてきた

 

「・・・なんて言うか・・・壁だけでも個性的な感じッスね」

 

「・・・あぁ・・そうだな・・」

 

 建物を囲っている塀は至ってシンプルだが校門と思われる入り口が神社の鳥居みたいなデザインで二人は驚いた

 恐る恐る中を覗くと当たってほしくなかったと蒼也は思ったが現実は甘くなかった、校舎と思われる建物は漫画やアニメなんかで出てくる中国の建物のような形をしていた

 取りあえず中に入ろうと係員に証明書を見せて許可を得ると中に入る、入学式が行われる体育館を目指すと席は適当なのか辰巳の隣座って始まるのを待った

 数十分して席が埋まり開始時間になり入学式が始まった

 

 入学式は至って普通だった、だが終始半分の生徒の顔は暗かったから辰巳や蒼也と同じ「知っている」方のようだ

 残りは「知らない」方だろう。蒼也は心の中で静かに無事で卒業出来るように願った

 

 長かった入学式も終わりみんな割り振られたクラスへ各々向かった

 蒼也は1組、辰巳は4組で別れた

 

「蒼也とクラスが違うのが残念だよ」

 

「まぁしょうがないッスよ、俺達が決めれるわけでもないッスから」

 

 二人はそれぞれのクラスへ向かうため別れた

 蒼也のクラスは殆どが席に着いていて座席表を見ると窓際の一番後ろだった

 

(ラッキ~、俺後ろッス!)

 

 これから「非日常」の蓋が開かれるのに席が後ろなだけで蒼也は気分が良かった、恐らくこれから「非日常」になることを露ほども知らず席に座った

 ぼんやりと理解しているからこそ小さな事でも喜ばないとやっていけないだろうと直感したからだろう

 席が全て埋まるとドアからショートヘアーの女教師の御堂(みどう)がやってきた

 

「全員揃っているな、私はこのクラス(1年1組)を受け持つ御堂だ。入学式が終わって早々だがこれから諸君にはやってもらうことがある・・・よし・・・では筆記用具を出しておけ今からこの用紙を配る」

 

 御堂が教卓から出したのは一辺が7㎝位の黒い紙で中央には白い丸があった、その紙を受け取ると御堂が説明を始めた

 

「全員渡ったか?それは命の次に大切な紙だ、これからそこに(円の中)一文字漢字を書け

 各々がこれから始まる戦いに最も相応しく必要だと思う漢字を一つ・・・な」

 

 説明が終わると直ぐに書き始める者、悩む者と別れた

 蒼也も戦うための文字を何にしようか悩んでいた

 

(炎とかありきたりだよな・・使えなさそうな文字もダメだよな、やっぱ汎用性があるのがいいよな・・・・う~ん)

 

 蒼也は知っている限りの漢字やアニメや漫画等から使えそうな文字を思い返しながら探すと御堂が早く決めるようにと急かしてきた

 時間がないと慌てた蒼也は最近見たアニメの主人公たちが使っていた能力を思い浮けべて、それを漢字1文字にするとこれかなと思って考え直す事も無く書いてしまった

 

「・・・できたようだな、ではその言葉を口頭せよ」

 

「・・『(はこ)』」

 

 御堂の指示通り漢字を言うとバチッっと音を立てて粉々になった、その直後に額に痛みを感じた

 

「ふむ・・・なんとか・・・無事『儀式』は完了したな・・これから諸君には命を賭して戦ってもらう、『空の島』を見、その『文字を宿すものすなわち『戦士』の証なり、この地は不浄の地、神が『蝕』を起こす場所」

 

(『蝕』なんだそれ?)

 

 聞き慣れない言葉に聞き返そうなったが御堂は気にせず続けて言った

 

「望み尽きぬ限りここから出る事はまかりならん太陽と空の島が重なる刻!!!(これ) すなわち神蝕なり!!!」

 

 窓際に居た蒼也は恐ろしいモノをみた、それは地面から異形のモノが現れたのだ、それは多くて増え続けている

 

「全員起立っ!!!さぁ諸君戦うのだ!!!死に物狂いでな!さぁ行け!!!諸君の強さを存分に示せっ!!!」

 

 異形の化け物が現れるや否や教室を出て行く者、状況が掴めず立ち尽くす者と別れた、蒼也もまさか「こんな所」だと思わず立ち尽くしてしまった

 周りを見れば女子と御堂が話しているがまるでこれが当たり前かのように言うだけで手を貸そうともしなかった、あくまで生徒だけで終わらすしかないようだ

 

 

 そうこうしている内に教室にまで化け物が入り込んできた

 

(えーと強さを示せって言ってたッスけど・・・もしかしてこの文字が関係するのか?文字は『箱』だから・・)

 

 自分を食べようと襲いかかってきた化け物から身を守るため、「箱」を結界の様な長方形の形をイメージしたら薄い青色の立方体が出来た

 化け物は蒼也を食べようと襲うが結界で守られているため襲えずにいる、このままでは身動きが取れないから、この結界が防御なら攻撃用の「箱」を作るしかないと、蒼也は知っている限りのアニメや漫画等から使えそうなイメージを探して見つけた

 

 右手を化け物の向けて丁度結界の前方辺りを囲うようにイメージをする、防御用と区別するため色は赤色にして開いてた手を握り潰すように閉じると、赤色の「箱」にいた化け物ははみ出た部分を除いて「消滅」した

 蒼也は囲った空間を「消す」イメージをしたのだ、それは上手くいって教室に湧いた化け物を次々と「消して」いった

 何もなくなった教室を見渡すと生徒と思われる腕や頭など体の一部が落ちていた

 

(助けてやれなくてごめんッス)

 

 静かに手を合わせると教室を出て開けたグラウンド行こうと向かっていると途中で襲われている生徒を助けるために攻撃用の結界で倒したりした

 それから数十分、化け物を倒し続けていると急に歪みだした

 周り見渡すと同じように化け物は歪んでいきそのまま消えていった、誰が言ったのか分からないがこれで終わりなのだと理解した

 化け物が消えたのと同時に壊れた建物は自然の直っていて後には生徒の死体というよりは食い散らかしたり肉塊としか言えないようなモノと傷一つ無い校舎と生き残った生徒だった

 

(一体なんなんだよこの学校は!?異常だ!)

 

 

 

 

(はー・・こんな事が卒業まで続くのかよ)

 

 御堂が言うにはあれは「(はじまり)」という蝕で、これからは何が来るかは分からずその試練に生徒だけで行うこと

 蝕は空の島と太陽が重なることで決まった時間に起こる事

 

 やっとゆっくり出来るようになり寮の部屋に着いてノックしたが物音一つもせず仕方なく開けると相部屋となった生徒はまだ来ていなかった

 寮は相部屋で蒼也の相手は5組の神崎 旭(かんざき あきら)だ、どんな奴なのか待っていたが夕食が過ぎても来なくてもしかしたら死んだのでは?と、そんな不安ばかりが募りその日は寝た。保健室のベットに居るのだろうと無理やり納得して

 

 翌朝、閉めたカーテンから漏れる朝日で目を覚ました蒼也は今日も「蝕」があるのだろうと思うと途端に憂鬱になった

 蒼也は1組に入ると武器系の「文字」の奴は出していたり不安で叫ぶものもいる、中にはシャーペンの芯を出したり入れたりしている退屈そうな奴がいた

 昨日は「非日常」を見せられたのに、今日もそれが続くのに何故かそいつはつまらなそうに頬杖をついていた

 蒼也はそいつが気になり近寄った

 

「・・・何かようか?」

 

「・・いや、お前だけ落ち着いているスから何でかな?と思って。俺は黒峰蒼也ッス」

 

日向 三十郎(ひなた さんじゅうろう)だ、まあここがこんな所だって事は知っていたからな」

 

「知っていた?俺もここは良くない噂位しか知らないッスけど・・ここまでとは知らなかったッスよ」

 

 蒼也は言い終えるとクラスを見渡した、昨日あんなに生徒が死んだのに今日教室に来たときにはアレが夢だったと言うかのように綺麗になっていた

 

「ふーんじゃあお前は『知らず』に来たのか、なぁ参考までにお前の文字教えてくんないか?」

 

「参考までにって日向が知ってどうするんスか?」

 

「蝕は段々と強くなるんだ、ある程度知っているとお互い助け合いとか出来るだろ?」

 

 人が良さそうな笑顔をしながら話す日向はどこか信用しきれないと、蒼也は心のなかで思った、だけど話が本当なら助け合いが必要なのも事実で蒼也は渋々と文字を教えた、怪我はしていないが額に文字が出たことで恥ずかしくなり朝に保健室で包帯を借りた、理由を知らない人が見ればけが人に見えるだろう

 

「へー『箱』か、・・・・こりゃいい奴を見つけたな」

 

「なんスか?よく聞こえないッスよ」

 

 同室の奴も汎用性が高い文字を持っていたから、蒼也の「箱」も汎用性が高く連続で利用できそうな奴を見つけた日向は小さく呟いた、蒼也はなんて言ったのか聞こえなかったがこれは良くない奴に声を掛けてしまったと少し後悔した

 

「なんでもない、これからよろしくな、何か分からないことがあれば教えてやるよ」

 

「助かるッスよ、じゃあさっそく放課後に部屋に行ってもいいッスか?」

 

「おう、いいぜ」

 

 日向とそこまで話していると1組の担任の御堂がやってきて黒板に″曇りのため蝕は来ないからいつも通り授業を行う″ことを書くと教室を出て行った

 安心と落胆、その両方が蒼也だけでなくこの学校の生徒全員が同じことを思った

 蝕が来ないから命懸けの戦いをしなくて済むという安心、蝕が来ても言いように何時でも文字を使えるように心構えしてたのに杞憂で終わった事に対しての落胆が蒼也のなかを支配していた

 

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