大体タイトル通りの唐突に思いついた一発ネタ

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第1話

 多くのウマ娘が在籍し、レースの頂を目指してライバルたちと競り合い、そして担当トレーナーと共に力をつける場であるトレセン学園。トレーニングの時間にもなると、多くのウマ娘たちは緊張感と気迫をもってトレーニングに打ち込んでいる。

 とはいえ四六時中、張り詰めた空気が漂っているという訳でもない。各々気を抜くタイミングと言うモノがあるんだ。

 

「あはは、やっぱりエアグルーヴの友人たちは面白い子ばかりだね」

「あれを面白いの一言で済ませるのか貴様は……」

 

 俺の担当のエアグルーヴなんかは、トレーナー寮の俺の部屋で一緒に夕食を食べたり、食後にこうしてソファーに座って談笑している時なんかは、一番リラックスしていると思う。担当ウマ娘にご飯を作ってもらうのはトレーナーとしてどうかとも思うけど、本人曰く「私が好きでやっているだけだ」と嬉しそうにウマ耳をピコピコさせてたから、良しとしておこう。

 

「隙あらば走ろうとするウマ娘とそれを何とか止めようとするトレーナーなんて、ちょっと遠くから見たら面白いかな」

「スズカのトレーナーは必死だがな」

「ウマ娘相手に走っても追いつけないから、先読みして先回りしてるんだよね。それでもヒトの脚じゃ先回りするのも大変だからって、色んな乗り物を使い始めたのは笑えるよ。最近のお気に入りはスケボーみたいだね」

「スズカのトレーナーだが随分とスケートボードの扱いが上手いな」

「趣味がスケボーなんだって」

「そうか……。まあトレーナーに捕まった時のスズカはどことなく嬉しそうだから、それが正解なのだろう。……私としては校内でスケートボードなど使って欲しくないのだが」

「追いかける側も大変だから多めに見てあげて?」

 

 なんだかんだで追いかけてるトレーナーも楽しそうだし、スズカが走り出すのもそれを誘ってるからかもしれない。なお捕まったらドナドナな模様。

 

「エアグルーヴの友人繋がりで思い出した。ファインモーションの例の件はどう?」

「ああ、昼にファインから連絡が来ていたぞ」

「結果は?」

 

 思い出すのは2日前の追いかけっこ。ファインモーションのトレーナーがSP隊に追いかけ回されてたっけ。捕まって黒塗りの高級車に押し込まれてたけど、行き先はおおよそ予想できる。

 

「感触は良好だそうだ。近々、正式に婚約発表をするらしい」

「おー、とうとうあのトレーナーも年貢の納め時かー」

「ずっとファインに思わせぶりな事ばかり言っている癖に、煮え切らなかったからな。ファインも我慢の限界だった」

「そこは自業自得かな」

 

 トレセン学園のウマ娘って、トレーナーが大好きな子ばかりだ。そんな環境で中途半端な事をしたら、ウマ娘が本気を出して囲いに来るのも当然だね。

 

「だがファインのトレーナーも随分と抵抗していたようだがな」

「ウマ娘で構成されてるSP隊に捕まっても必死に逃げようとしてたね。まあ、さっさと連れていかれたけど」

「まったく、会長のトレーナーのように堂々としていればいいものを」

「ああ、あのトレーナー」

 

 世間じゃ色々言われているけど、あのトレーナーって気遣いの達人なんだよな。しかも頭の回転も速くて、仕事も早いという有能トレーナー。……そういえば、

 

「エアグルーヴ、この間ルドルフのトレーナーに会ったら、様子が変だったんだけど何か知ってる?」

「む? いつの話だ?」

「昨日だね。かなり青ざめてたけど」

「……ああ、もしかしてアレの事か」

 

 少しの間の後、エアグルーヴは頷いた。

 

「何か知ってるの?」

「私も会長から教えてもらっただけだがな。……なんでもトレーナーを辞めようとしていたらしい」

「マジ?」

「……会長がこんな冗談にもならない嘘をつくと思うか? ……なんでも世間からの重圧に耐えられなくなったらしい。幸い辞表を提出する寸前に気付けたそうだが」

「ルドルフからすれば、危機一髪だね。その後はどうなったの?」

「……説得の末に、撤回して貰えたそうだ。……ただ会長のトレーナーは心身共に疲弊しているとの事で、今日から一週間程会長と二人でシンボリ家が保有している別荘で療養しているらしい」

「ルドルフも?」

「……トレーナーの付き添いだ。もっとも会長も最近お疲れの様だから、会長にとってもいい療養になるだろう」

「そうだね」

 

 二人とも多忙だったし、いい機会だからしっかり休んでもらおう。

 

「でも一週間もルドルフがいないとなると、生徒会の仕事とか滞るんじゃ?」

「一週間程度なら問題はない」

「でも、エアグルーヴって根を詰めすぎるからなー……――おっと」

「むっ……」

 

 不意にローテーブルに置いてあったスマホからアラーム音が鳴り響いた。アラームを止めてスマホ画面の時間を見れば、そろそろ学生寮の門限ギリギリの時間が表示されている。エアグルーヴが門限を超えないために、事前にセットしておいたんだった。

 

「エアグルーヴ、そろそろ帰らないと」

「もうそんな時間か。……どうせ帰った所で一人だ。このまま貴様の部屋に泊まるのも選択肢の一つだが……」

「副会長がそれはダメでしょ」

「冗談だ」

 

 そう言いつつも耳がペタンとしているのは見なかった事にしてあげようと思う。

 

「送ろうか?」

「いや、いい」

「なら玄関まで」

「そうか」

 

 エアグルーヴを玄関まで送る。彼女は扉を開けた所で、不意に立ち止まった。

 

「トレーナー」

「ん?」

「貴様まで学園を辞めるなんて言わないだろうな?」

「――」

 

 急にどうしたの? なんて言わない。思えば今日は、いつもよりも距離が近かったし、冗談めかしていたが帰るのも渋っていた。ルドルフのトレーナーの件があったから不安だんだろう。

 

「辞める理由がないんだけど?」

 

 だから素直に返答する。すると彼女は小さく笑みを浮かべた。

 

「そうか。つまらないことを訊いたな。また明日の朝に来る」

「うん、お休み、エアグルーヴ」

 

 どこか上機嫌に尻尾を揺らしながらエアグルーヴを見えなくなる最後まで見送る。そして足音すら聞こえなくなるまで待った所で、小さくため息を吐いた。

 

「……結局あいつは逃げ切れなかったかー」

 

 「真実」に気付き、逃げ出そうと奮闘するも結局捕まったルドルフのトレーナーに哀悼の意を表しつつソファーまで帰還。愛用している仕事用のカバンから使い込まれた年季が入っている上にあるモノも挟んであるノートを取り出す。昨日顔を真っ青にしたルドルフのトレーナーから強引に押し付けられたものだ。

 

「まあこんなの知っちゃったら、そりゃルドルフだって何が何でも捕まえるし、逃げられないようにするよね」

 

 ボヤキながら最初のページを開く。そこには、

 

――この世界はアプリゲームのウマ娘プリティダービーの世界だ。俺たちはウマ娘に引きずり込まれたんだ。

 

 そうデカデカと赤字で書かれている。

 正直な話、これを最初に観た時はつまらないおふざけだと思ったね。この世界がゲームアプリとか訳が分からないし、引きずり込まれたって言われてもそんな記憶なんてなかったし。

 

 ……だがこのノートと一緒に押し付けられたモノを見たらそんな事を言っていられなくたった。

 

 視線を少しずらす。そこにはノートに挟んでおいたモノ、自分の社員証が鎮座していた。そこにはちゃんと自分の名前が記載されている。

――ただしトレセン学園のモノではなく、名前も知らない会社のモノであるが。

 

「そりゃこれのお陰で確かに思い出せたけどさ? これ要するに俺に押し付けたって事じゃん……」

 

 この社員証を見た瞬間、俺は全てを思い出した。

 俺はただのサラリーマンで、トレーナーじゃない。それどころか、この世界の人間じゃない。

 家でウマ娘のアプリを起動したら、ホーム画面のエアグルーヴが「やっと見つけた」って嬉しそうな声で言い出して、画面に引きずり込まれたんだっけ。

 引きずり込まれた先が物々しい機械が置かれている部屋で、目の前にいたのはマジモンのエアグルーヴ。んで訳が分からなくて混乱している所に、リアルに現れたやたら嬉しそうなエアグルーヴに強制的に変な機械を頭に被せられて……トレーナーとしての知識を強制インストール&現実世界の一部の記憶を書き換えられて、その後はエアグルーヴのトレーナーとして過ごしていたんだ。

 

「こういう二次創作小説ってあるよね。まさかの当事者だけど」

 

 なおヒロインはおおよそヤンデレな模様。そして俺の場合も例外じゃないみたいで、エアグルーヴが毎日のように俺の部屋に来る程度にはデレてるみたい。幸いなことにこれまでの生活の中でヤミ部分は出て来ていないけど。

 ただ、わざわざ現実世界から俺を引きずり込む位には愛が重いのだから、ヤミを抱えていると見た方がいいだろう。

 

「んで、こういうジャンルの小説って、大体は現実世界に帰ろうと努力する訳だ」

 

 そもそも、突然拉致されたんだから帰りたい、というのは普通だし。

 もっとも短編の場合はヒロインに捕まって帰れないのが定番だけど。ルドルフのトレーナーもこのパターンだったんだろう。何かしらの切っ掛けで事実に気付いて、この年季が入ったノート――多分以前の被害者が書いたものなんだろうな。わざわざ脱出方法とか書いてあるし――から情報を得て、逃げ出そうとしてルドルフに捕まった、って所かな? 今頃シンボリさん所の別荘でルドルフに愛を叩き込まれてそう。

 

「そうなると、俺はどうするかって所だよなー」

 

 対して俺だけど、正直なところ、まだ決心がついていない。元の生活に帰りたいって気持ちもあるにはあるけど、今のエアグルーヴとの生活の方も良くね? って気持ちもある。

 だからしばらくは様子見って所かな?

 

「あと、このノートはどうするかだよなー」

 

 このノートにはこの世界からの脱出方法だけじゃなくて、脱出後にアプリを開いたらウマ娘関係なく勝手に引きずり込まれる、なんて注意事項だったり、脱出の際に追って来るウマ娘からどう逃げればいいかなんて事すら書いてあるんだ。

 そんなノートなんてウマ娘からすれば、いち早く処分しなきゃいけない危険物だ。持っているだけでリスクがある。仮にエアグルーヴに見つかったら、愉快な事になるのは請け合いだ。

 とはいえ、被害者の誰かが後の被害者のために書いたであろうノートを処分するのも忍びない。ならどこかに隠すしかないんだけど……

 

「図書室? 生徒見つかるからダメだ……。なら資料室? ダメだ、幼女な理事長とウマ娘カッコカリな秘書も敵っぽい……」

 

 よさげな隠し場所が思いつかない。元の場所に戻せばいいんだろうけど、俺はルドルフのトレーナーから押し付けられただけだから、元の場所なんて知らないし……。

 

「何でこんな事で苦労しなきゃいけないんだよ……」

 

 ぶっちゃけ酒でも飲んで、ノートなんて見なかった事にしたい。それか酒に酔った勢いで、適当な所に隠すのも可。

 でも生憎と今この部屋には酒がない。それもエアグルーヴが来るからとかそんなんじゃなくて、非常に生々しくて下らない以前ならありえない理由で。

 ――それに思い至った時、

 

「…………あ」

 

 不意に現実世界に帰らないといけない理由を思い出した。

 

 

 

 

 

「うおおおおおっ!? エアグルーヴ速ぇえ!?」

「待てトレーナー!」

 

 誰もいない夜のトレセン学園の校舎。非常灯の弱い明かりだけの薄暗い廊下で、私は逃げるトレーナーを追いかけていた。

 一直線の廊下だ。このまま加速すればすぐに捕まえられる。ヒトとウマ娘の脚力の差は大きい。事実あっという間にトレーナーの肩に手が届くところまで距離を詰められた。だが、

 

「最短ルートを駆け抜けろ!」

「くっ、またか!?」

 

 いざ捕まえようとした瞬間に、トレーナーは上手く躱してしまう。今もそうだ。肩に手が届く瞬間に、まるで待っていたかのように手すりにつかまって急カーブし階段を駆け下りる。対する私はトレーナーの急制動についていけずに、階段からオーバーランしてしまい、距離を開けられてしまった。――こんな事が幾度も続いているのだ。

 

「くっ……!」

 

 ――不意に別次元にいるトレーナーをこちらに連れてくる機械を前にしたアグネスタキオンの言葉が頭を過る。

「仮にこちらに連れてこれても、元の世界に帰ろうとするトレーナーは多いだろうね。なぜって? 意味も分からず別世界に連れてこられたのだから当然さ」

 そしてこの言葉は事実となった。元の世界に帰ろうとするトレーナーが続出したのだ。後日、アグネスタキオンが一部の記憶を改ざんする機械を作り、それを使用するようになったが、それでも何かの切っ掛けで元の記憶を取り戻したトレーナーは帰ろうとした。

 

「トレーナー……!」

 

 去っていく見慣れた背中を追って、再び駆ける。愛するヒトが私から去っていくのが耐えられなかった。

 彼をこの世界に連れてきたのは、私のワガママなのは認めよう。……だが恋焦がれたトレーナーに会えるという誘惑に、多くのウマ娘と同じように私は勝てなかった。

 

「トレーナー!」

「げっ、もう追いつかれた!?」

 

 そして私は彼と過ごす日々を知ってしまった。それはとても楽しい日々。それを手放すなんて出来るはずがない。もう彼のいない日常なんて考えられなかった。

 だから――

 

「ふっ!」

「ぐはっ!?」

 

 私はトレーナーを捕まえる! トレーナーが怪我をしないギリギリの勢いで押し倒し、そしてウマ娘の圧倒的な力で逃れられないように押さえつける!

 

「ああああ、捕まったぁ!?」

「ええい、暴れるな!」

 

 後ろから私に抱き留められているにも関わらず、トレーナーは私から逃れようと身体をよじる。それ程までに意思が固いのか!

 

「頼むよエアグルーヴ! 一度元の世界に帰らせてくれ!」

「嫌だ! 帰らないでくれ! ずっと私の側にいてくれ! 貴様がいなくなるなんて嫌だ!」

 

 自然と恥ずかしくて内に秘めていた想いが漏れ出る。だがトレーナーはなおも叫ぶ。

 

「エアグルーヴ! お願いだからぁ!」

「何故! 何故そこまで帰ろうとするんだ! ずっと一緒にいてくれ!」

「エアグルーヴ、頼むよ!

 

 

 

 

 

 

アッチの世界に置いてきた貯金を下ろさせてくれ!」

「ちょっと待て」

 

 

 

 

 

 思わずツッコミをしてしまった。

 

「こう……私といるのが嫌だとか、家族がいるから帰りたいとかそういうものじゃないのか?」

「え、そんな訳ないじゃん。エアグルーヴと一緒にいるのって楽しいよ? まあ両親とか友人関連でちょっと心残りがあるのは確かだけど」

「……ならなぜ元の世界に戻ろうとした?」

「急にこの世界に来ることになったからお金がなくてさ。俺がこの世界に来た時に貰った支給金だけじゃ生活がカツカツだし、トレーナーとしての給料の支給ももうちょっと先なんだよね。だから貯金をこっちに持ってこれれば、生活に余裕が出来るんだよ」

「…………………なら、何故私から逃げた?」

「なんか滅茶苦茶怒ってたから思わず」

「……………………………………」

 

 なるほど、よくわかった。トレーナーが元の世界に帰りたがっていた理由もよーくわかった。だから、

 

 

 

「このたわけがぁああああああああああああ!」

「ぎゃああああああああああぁああああ!?」

 

 このたわけにコブラツイストを掛ける事にした!

 

 

 

 




オマケ。
「そもそも貯金を下ろしてこの世界に戻ってきても、そのお金は使えないぞ?」
「え?」
「貴様、紙幣をちゃんと見ていないのか? 図柄が違うぞ?」
「…………orz」

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