アリウスの生徒は誕生日を大事な日だと認識してるんですって
更新遅れまして本当に申し訳ありません、次回からエデン四章に該当するお話になります
逃げるスバルさんを追いかけている内にかなりの時間が経過してもう夜更けだ、彼女はトリニティの離れにある一件の建物に入っていった、誰かの家だろうか。
「ふう……ここまで離れたら大丈夫ですかね、それにしてもよく追いかけて来れましたね」
──貴女から感じた他の生徒とは異なる違和感、私はそれを無視できなかっただけです、それに貴女が先ほど挙げた名前……その件についても話してもらわなくてはなりません。
「……この家、いい構造と立地ですよね、退路の確保がしやすく、各三大自治区にも程良く近い……よくこんな好物件取れたなと感心してますよ、私」
──……
「貴女の思っている通り、私が独自に入手した訳じゃありません、そんな資金も時間もありませんでしたから。
あ、そうだ、『持ち主』から中の物は好きに使って良いと言われてたんでした、何か飲みます?見てくださいよこれ……よく分からない名前が書いた品物ばかり、ブランド品ですかね?お水にも書いてますよ」
──……
「いつまでダンマリ決め込んでるんですか?あ、もしかして私ってそんなに信用ないですかね?
うーん……どうすれば貴女から信頼を勝ち取れますかね……そうだ、互いに腹の内を明かし合うなんてどうでしょうか、丁度対面で座れる様に椅子もありますし、フカフカですよこの椅子」
──……はぁ、初めて遊園地に来た子供ですか貴女、警戒してる私が馬鹿みたいじゃないですか。
「ゆうえんち?あぁ、『あの人』から聞きました、なんでも大きな遊具施設らしいですね、いつか皆で行けたら良いんですけど……で、何処から話します?」
──最初からに決まってるでしょう、貴女が今やっている行動はアリウスへの裏切り他ならない筈、いや、私が言えた事じゃないんですけど。
とにかく、何故貴女は現場から離れるだけ離れて、その上私に計画の内容まで話したのか、それから──
「質問は一つずつにしてくださいよ、まずは最初の質問の……『あの人』についてからですね。
エーデルワイズさん……もとい白百合ランカさんは今現在アリウスにその身を置いています、尤も人質だとかではなく『天国へ到達する』為の協力者としてです、これは私達の意思ではなくマダムの意思です」
マダム──アリウスを統一しその実権を握っている者、姿を見た事は無いがスバルさんが言う計画の立案者だとするならば碌な存在じゃないだろう。
「そしてその天国への到達する手段ですが──」
スバルさんがその内容を告げようとしたまさにその時だった、この家に備え付けられてあるドアのチャイムが緊迫した空気を払拭するかのように気が抜ける様な音を奏でた、その意味する所は誰かの来訪である。
──……他にも誰か呼んだんですか?
当然真っ先にスバルさんを疑う、しかし当の本人もこのチャイム音に面食らったのか肯定の言葉が返ってくる事はなく代わりに別の言葉が返ってくる。
「まさかでしょう、貴女が付けられた……訳でも無さそうですね、つまり双方にとって予想外の来訪者という訳ですが」
その間にもチャイムは鳴り続ける、心なしか間隔が短くなって来ている、間違いない、鳴らしている人物はこの建物に私達がいる事を確信しているのだ、でなければ執拗にチャイムを鳴らしたりしないだろう。
インターホンのカメラから尋ね主を確認するとそこには今現在ここにいるはずのない人が居た。
『ねぇ、いるんでしょ?早く出ておいでよ、無駄に物壊したくないんだよね』
──聖園、ミカさん?どうして今ここに……?
「聖園ミカ?ティーパーティーの、あの?今ここに来てるんですか?」
──此処というか……玄関前に居ます、チャイムを鳴らしてるの彼女ですよ。
「まさか出向く訳じゃないですよね、それに聖園ミカ一人なら制圧する位──」
──不可能です、彼女個人の戦闘力は剣先ツルギにも匹敵します、従うしかないでしょう、それに用があるのは私の方みたいですし。
そう言って私はインターホンを繋ぎ向こう側に声を掛ける。
──聖園ミカさん……ですね?今から応対しますので少しだけお待ちください。
◆
中に入ってきたミカさんは此方の予想と反して物凄く大人しかった、何というか凄く自然体で、仮にも敵である私達を前にしてここまでのリラックス、それは言い換えればここで私達が襲い掛かっても返り討ちに出来るという自負が彼女にはあるという事に他ならない。
「んもー、二人とも警戒しすぎだってば、見ての通り銃もそこに置いてるんだし、私に戦闘の意思はないって、お茶でも飲んでお話ししよ?」
「……成程、もう逃げる事は出来ないって事ですか」
「え?」
「自分の視界内に収めていれば、いやこの密室の中で不意に動かいても対応出来るし制圧出来る、そう確信しているからこその余裕という訳ですね」
「え?え?いや、そのね?本当にお茶飲んでお話ししたいだけなんだよ?私も喉乾いてるし」
まさか本当にただお茶が飲みたいだけなのかこの人、ティーセットの準備までし始めたぞ。
──ミカさん、今の発言はどう捉えても逃げ場は無い旨にしか聞こえませんよ。
「えぇ〜⁉︎」
その後ミカさんの綺麗な手際によって整えられたお茶会は互いの誤解を解く事から始まった。
突如始まったお茶会はそれはとても静かなもので、互いにカップを動かす音が静かな部屋によく鳴り響くだけで誰も一言も声を発しないのでそれが逆にとても気まずい。
私は何度かワイズさんに誘われて最低限の作法を身につけてはいるがスバルさんはそもアリウスの環境下でお茶会は愚か紅茶すら飲む機会がなかったので作法もなにもあったものじゃない、最初は毒や自白剤の類を疑っていたようだがミカさんや私が飲んでいるのを見て彼女もおずおずと紅茶に手を付け、在るがまま口にした。
「いい飲みっぷりだねぇ、入れた甲斐もあるよ」
「あ、すみません……作法なんて分からないもので……」
「いやいや美味しく飲むのが一番の作法っていうじゃない?ナギちゃんならその辺お堅いんだけど」
──……それで、一体何故此処に?
「んー、まぁ察してると思うけどやっぱり怒ってる部分はあるよ、ただ……今は怒りより疑問の方が大きいかな、『なんでこんな事を?』より『なにがしたいんだろう?』って感じ?」
──何がしたいか……ですか?
「うん、正直言ってサオリ達アリウスがトリニティに対して憎悪を抱いてるのは分かるんだよ、これまでの事を考えたらあそこまで苛烈な手段に出るのも理解できるんだ、納得は別だけどね。
でもスズミちゃんは本当に分からない、アリウスからの潜入員──なのは分かった、でもそれにしてはトリニティに利がある行為がちょっと多いし……ほら、正義実現委員会の皆に格闘術──CQC、だっけ?それを教えたりしてるよね、距離が近いなら銃で撃つよりも確実に速いから、凄い技術だよねあれ。
でもさ、アリウスの勢力として見るなら此処までトリニティの戦力を強化する必要も無いよね、だってそれ立派な利敵行為じゃん?
自警団組織の設立もまぁ、トリニティの地形を把握するにしてもそれにしたって正義実現委員会に余裕が出来たし救護騎士団が到着するまでの応急処置を普及させたりさ、その癖にちゃんとサオリには定期的に報告はしてたらしいし……なんていうかさ、凄く支離滅裂なんだよね、スズミちゃんの行動って。
だから私はこの子は『なにがしたいんだろう?』ってずっと考えてたんだよ、
アリウスの味方か、トリニティの味方か、今の私にそれを決める資格があるのだろうか、既にどちらにも居れる存在ではないというのに。
──今の私にそんな物を決めれる資格なんて無いですよ、何方の味方にもなれません、双方に危害を加えましたから。
「うーん……そっか、まあそういう事もあるよね、アリウスに所属してたからトリニティの味方じゃいれなくて、でもそのアリウスにも不都合を起こしたから其方の味方にもなれない、だからどっちの味方でも無い、それが今のスズミちゃんの立場なわけだ」
「聖園ミカさん、貴女結局何を──」
「でも先生の味方ではあるんじゃない?」
──は……?何、言ってるんですか。
「だってそうじゃん?後から聞いたんだけど先生が撃たれたあの時さ、先生はまだほんのちょっぴりだけ生きてた、近くにゲヘナの風紀委員長だっけ?その子も居たにせよそれを掻い潜ってトドメを刺す事も出来たはず、でも貴女はそれをせずに先生を逃した、それだけでも先生の味方っていう確証は十分じゃない?」
──それだけで決めるのは早計じゃ……いやそれよりもですね……
「それよりもなにもないでしょ、貴女はあの時確かに『先生を守った』……それだけは変わらない事実だし覆す事も出来ない、そうでしょ?
それに先生の敵じゃないってのは貴女自身が言ってた事みたいじゃん」
うぐ、そこを突かれるとは、あの時はヒナさんをあの場から動かす為に咄嗟に口走った事なのだがまさかこんな形になって帰ってくるなんて。
──……分かりました、私が先生の味方であるという事、それは理解しました、ですがミカさん、結局貴女は何がしたいのですか、貴女は私に何の用でここまできたのですか?
「うーん……最初からずっと言ってるんだけどね、私は本当にスズミちゃんは何がしたいのか気になってるだけなんだけど、私が言えば話してくれるのかな?」
「私ってゲヘナの事が嫌いなんだよね」
──それは知ってます、トリニティに在校する生徒の中でも特にパテル派の皆さんはその傾向があるとか。
「うん、パテル派がそうというよりはトリニティの生徒全体がゲヘナを毛嫌いしてる感じかな。
でもアリウスの事まで嫌いな訳じゃないし私としては時間はかかるにしても手を取り合えるんじゃないかとは思ってる、それを何回かナギちゃんとセイアちゃんに言ったんだけどね、そりゃ未来に目を向けるのは大事な事だと思うけれど過去を蔑ろにして良いわけじゃない、寧ろ過去の清算を終えてから未来に取り組む事こそ大事なんじゃないかなと私は思うんだ」
「結果、歩み寄った貴女は私達に良い様に利用されただけ……違いますか?」
「そうだね、それも否定しないよ、でもそれは諦める理由にはならないでしょ?
確かに私は良い様に利用された、でもそれは受けるべき報いでもあったんじゃないかとも思ってる、今回の調印式の襲撃もね。
報道だとアリウスの突然の襲撃みたいな感じで報道されてるけど実際は溜まりに積もった恨みが今回爆発しただけで、今回じゃなくても近い将来に今回と同じ様な事……ううん、その分の積み重ねられた恨みの分もっと酷い事態になってたかもしれない」
「だから止めなきゃダメなんだよ、『今の私達の為』じゃない、『次を生きる未来の子達の為』に今の私たちが」
──その為に……アリウスを倒すのですか?
「それも一つの手段かな、というよりそれが一番手っ取り早いんだけどね、私としては大反対。
でも必要となったならそれはやらなきゃいけない、残酷な事なんだけど先に手を出してきてるのはアリウス側だからね。
だけどそれじゃあ何も変わらない、私たちは対立しあうんじゃなくて一旦でも良いから歩み寄るべきなんだ、そうしなきゃ私達の溝は埋まる事はないよ」
「つまり私がやりたい事は取り敢えずの形でも良いからトリニティとアリウスの仲を取り持ちたい、以前までの様に仲良くなんて出来なくても良い、トリニティの一部になって欲しいだなんて思わない。
でも──それでも、アリウスの皆にも、ちゃんと学生として生きて欲しいんだ、使い潰されるだけの兵士としての人生じゃなくてね」
次を生きる、未来の子達……私達アリウスには、随分と縁が無い生き方だ、なにせあの環境下では未来より今、今日その時を生きて凌ぐのに精一杯だった、弱ければ全てを奪われる、物資も、人格も、命も、尊厳でさえ何もかも奪われてしまう、そんな場所だった。
だからこそ自然と相手に奪われる前に自分から奪う、そんな生き方が身に付いてしまった、他人を優先するなんて出来なかったし、気を許す事も出来ない。
でも──。
『あの‼︎貴女大きな怪我してるじゃないですか‼︎こんなに血も流して……‼︎』
『貴女は……?いえ、それよりも、私の事でしたらご心配なく、何も問題はありませんので』
『そんな怪我をして何が問題ないんですか‼︎良いから私に着いてきてください、すぐに手当しますから』
思い出すのはあの日の出来事、『彼女』は何処までも優しく接してくれた。
『怪我の手当が終わったから帰る?何を言ってるんですか、まだ手当は終わってませんよ、まだ若輩の身ではありますがそれでも分かります、貴女は栄養失調です、治療行為はその後のリハビリの経過観察まで含まれるので、まだ帰れるとは思わない事です』
そう言われて、それなりにまぁ長い事あの場所に拘束されたもので、結果あの人から私は色々な事を学んだ。
何処までも、誰にでも、いつだって優しく接するあの人に、つい口が開いてしまった。
『何故、貴女はそうまで人に優しく出来るのですか?貴方の事を都合良く利用してるだけかもしれない、終わった後に用済みとして切り捨てられるかもしれないのに、貴女のその奉仕精神は確かに美徳に映るでしょうが……結局貴女とは他人でしょうに』
『……?人を助けるのに、何か特別な理由がいるんですか?』
『……は?』
『助けたいから助ける、それじゃいけませんか?確かに貴女の言う通り私の事を都合良く利用してる人も居ます、ですがそれは私が救護活動を辞める理由にはなりません。
そうですね……単純に言い換えましょうか、私がやりたいからこの行いをやっているんです、その結果切り捨てられようとも構いません。
怪我や病気を治療し、
私はあの時、間違いなく『星』を見た、どんな暗闇でも照らして、暖かい癒しをくれる星を。
いつからだっただろうか、私の様な人間でも、彼女の様に人を助ける事が出来たなら……そう思う様になったのは。
『私にも……出来るでしょうか、その、貴女みたいに、人を助ける事が』
『勿論です‼︎どんな些細な事でも人助けは可能ですから‼︎』
そうだ、私は──。
『なんで自警団組織を?治安維持組織なら既に正義実現委員会があるのに』
自警団活動を始めて、あの時の答えでは納得しなかったイチカからそう聞かれた事がある。
『単純に効率の話ですよ、正義実現委員会の組織力は知っています、ですがそれでも目が届かない場所や人員の問題で解決に時間が掛かる時もあるでしょう。
それに大きな組織故に動き難い時もある、ですが自警団活動はあくまでボランティア、個人意思に左右されますから政治絡みの面倒事に振り回されなくて済みます、反面責任等は個人の問題になりますが』
『……それって貧乏くじを引いてるだけじゃ?』
『そうかもしれませんね、でも私にはこの活動が身の丈に合っていますので』
『うーん……スズミさ、嘘ついてる?』
『嘘なんかついてませんよ』
『じゃあ何か隠してるでしょ、意図的に本音を伏せてる』
『それはお互い様でしょうに、それに本当の理由を隠してたとしても貴女にだけは絶対に言いませんよ』
『……なんで⁉︎』
『絶対揶揄うから』
あの時はそう、たしかそうやって煙に巻いてそれ以上の追及を避けたんだった、けれど──。
『いつまで隠しているつもりなの?』
『……彼女達が知る事ではありませんから』
必死に隠していてもワイズさんには全てお見通しで、私の心境を見透かした様な事ばかり話してくる。
『遅かれ早かれあの子達は気付くわよ、貴女の実情も、その時に……貴女は耐えられるの?』
『私は──』
『貴女は耐えれてもあの子達はきっと潰れてしまうわよ』
『それ、は……』
『良い?貴女があの二人の事をどう思っていようとあなたの勝手だけれどね、それでも二人は貴女のことを心底大事に思ってる、それこそ貴女の為に危険を顧みないで行動だってするでしょうね、そんな時でも貴女は二人が伸ばした手を振り払うの?
いつまでも一人で抱え込むのは辞めなさい、一人で全部背負い込むなんて出来ない、大概何処かで潰れてしまう、そりゃあ貴女は並大抵の訓練で耐える事は出来るでしょう、でも貴女の心の方はどうなの?』
『苦難に耐え忍ぶのは確かに美徳に映るでしょう、難題に対して自力で解答を出せたならそれは大きな力と自信を齎すでしょう。
だけどそれは、あくまで解決出来る事が大前提、何もかも一人の力で解決しようとしても必ず何処かで行き詰まってしまう』
『なら……だったら‼︎どうしたら良いんですか⁉︎こんな、こんな事を打ち明けて一体何になるって言うんですか⁉︎そんな事、とっくに分かってるんですよ……‼︎一人の力じゃ限界なんてすぐに来るなんて、あの場所で‼︎地獄みたいなあの環境で‼︎散々思い知らされてるんです‼︎それでも一人の力でどうにかして生きていくしか無かったんです‼︎そうしないと全て奪われて何も残らない‼︎そんな環境下で育った私に、どうやって人を頼れって言うんですか……‼︎』
思えばあの時が初めて感情らしい物を発露した時だと思う、あの時あの場所には私とワイズさん以外には誰もいなかったし、防音が効いた密室だったから、本当に何も隠す必要がなかった、なかったからこそ漏れ出してしまったのだろう。
『だったら尚の事あの二人を頼りなさい、あの二人は貴女の実情を知っても決して貴女のことを裏切ったりしないし迷惑だなんて絶対に思わない、寧ろ貴女の悩みを解決する為に全力を尽くすでしょう。
スズミ、これだけは覚えておきなさい、心を許しても良いと思える人間を見つけたなら絶対に離さない事、特に向こうも自分の事を大事に思ってる様な人は尚更、貴女……此処であの二人の手を握り返さないと一生後悔するわよ、あんな良い人達なんて滅多に会える物じゃないんだからね?』
きっとそれは、彼女の経験談だったのだろうか、その真意について知る方法は、もうないのだけど。
『それで?結局貴女は何がしたいの?大丈夫、此処には私達しか居ない、二人には言えなくても私には言えるでしょう?』
『私は──』
でも、そうだ──私は、もう知ってしまった、人が他人の為に助けれる事、互いに心を許し合える程の友好関係を築き上げれる事を、知識を蓄える楽しみやそれを他者に還元する事の充実感を、其れ等の善意によって助けられた側の気持ちを、そしてその精神は何物にも変えられぬ程尊い物であると、私は彼女達に全て教えてもらった。
「ねえ、スズミちゃん、君は何がやりたいの?」
──
「……そっか、それで、今は?」
──……物凄く、これは自分でも我儘な考えだと自覚してるんですけど。
「大丈夫だよスズミちゃん、包み隠さず話してごらん?」
──私は……『トリニティ』も『アリウス』も両方助けたいです……‼︎
「……一応聞くけど、どうして?」
──私は、アリウスの在り方が嫌いでした、力が無くては生きていけない、人から奪わなければ逆に全てを奪われる、だけど私は人に暴力を振るうのが嫌いなんです、それでも……アリウスに存在する物や人間全てが嫌いな訳ではないんです、トリニティの人達も大事な存在です、それでも……アリウスは私の故郷ですから、どうしても見捨てる事が出来ないんです。
「……なんでそう思ったの?」
──私はトリニティに来て色々な事を教わりました、様々な面で救われました、此方に来て見た初めての朝焼けはとても綺麗でした、外の世界は私の知らない事ばかりで何もかもが新鮮に見えました。
私は、私がそうしてもらった様にアリウスの皆にも知って欲しいんです、この世は虚しい事や暗い未来ばかりではないと、希望や楽しい事に満ち溢れているんだと知って欲しい、これが私の嘘偽りのない本音です。
「……うん、そっか、それが貴女の本音だね、良いんじゃない?少なくともさっきまでいろんな事に囚われてた時の貴女よりずっと良い表情してるよ」
そうだ、結局のところ私はあの人達の様に人を助けたかったんだ、自分がそうしてもらった様に自分も誰かを助ける事ができるならと、そう思って私はあの星々に手を伸ばしたのだ。
「……話は纏まりましたか?スズミさんはアリウスとトリニティを助ける、それでいいですね?」
──はい、その認識で相違ありません。
「ごめんね長く話しちゃって、これだけは聞いておきたかったからさ」
「大丈夫ですよ、本題に戻りましょうか、先程は居なかった聖園ミカさんの為にもう一度話しますね」
そしてスバルさんは今のアリウスの状況とその目的、そしてそれらの情報を教えてくれたワイズさんの事まで、恐らくスバルさん自身が持ち得る情報を全て教えてくれた。
「我々がマダム……ベアトリーチェから教えられた天国へ到達する方法は
「なるほどね、通りでゲヘナの方にはあまり目もくれず私達の方ばかりが襲われた訳だ、憎悪を後押しする側面もあるんだろうけど」
──それが誤った情報、では……真実とは?
「彼女が突き止めた本来の方法もベアトリーチェが提唱した物と然程変わりません、極罪を犯した罪人の魂、その数36を集めるという手段に変わりはないのです、問題はその対象……」
──ッ‼︎まさか⁉︎
「いやいやいや……趣味が悪すぎでしょ、
対象がトリニティの生徒ではない、しかし手段に変わりはない、ならばそこから導き出される答えは最早一つだ。
「今このキヴォトスに於いて最も重大な罪を犯した罪人とは即ちアリウスの生徒そのもの、ましてやトリニティとゲヘナの歴史的和睦の調印式を襲撃したとあっては極罪でしょう、キヴォトス全体に中継されていたのもありそういう認識として民意は動くでしょうね」
──そんな、マダムは、アリウスの生徒の事を何とも思わないのですか⁉︎そんな、使い捨ての駒の様に……それに他の皆はこの事を……
「はい、当然知りません、私も彼女から教えられるまで知りませんでした、そしてベアトリーチェは私達の事等心底どうでもいいと思っています、重宝されているのはスクワッドのメンバー位で、他の者の扱いは極めて粗雑な物です」
──つまり、生徒が何人死のうと計画に変わりはないと?
「そうでしょうね、そもそも最終的に生贄として死ぬ事を前提に組み込まれていますから」
「スバルちゃんもトリニティの事を恨んでるんじゃないの?そこまで知ってるなら形だけでもマダムって人?に協力すればよかったのに」
「嫌いですし恨んでますよ、ですがそれとコレは話が別です、
──それを、そんな方法をワイズさん……白百合ランカがベアトリーチェに教えたと?
「そうなりますね、尤も私も彼女から教えてもらった側ですし、ベアトリーチェと彼女の間にどの様な取引があったかまではわかりません。
ですがこれだけは言えます、アリウスには天国へ到達する方法が記された書物があるのですが、それを解読出来るのは彼女だけだという事です」
……一体何がしたいんだあの人は、彼方に情報を流しているかと思えば此方にも情報を流している、混乱させるのが目的なのだろうか、それとも別の理由が?
「じゃあやる事を纏めよっか、まずその天国に行く計画を止めるのは大前提として、他にやる事を定めないとね、計画の要は何か分かる?」
「まず確実なのが秤アツコの存在、ベアトリーチェはロイヤルブラッドに異様な程固執していましたから必要最低限の材料なのでしょう」
──次は先程聞いた36の魂でしょうか、どう使うにせよ大量殺人は阻止せねばなりません。
それから……白百合ランカの身柄も抑えておきたい、私が言えた事ではありませんが、一度捕まえて事の真相を聞かなくては。
「決まりだね、とは言え向こうの戦力は決して少なくない、何かしらの策を立てていてもおかしくはない、その上で二人に残酷な事を言わなきゃならない」
「……この一件でトリニティという組織は動けない、でしょう?」
「……その通り、今回の一件はトリニティにも完全に非がないというわけじゃない、だけど民意はそうじゃないでしょ?」
──確かに、両者間の関係はどうあれアリウスは今回突発的に襲撃してきた様に見える、それに対してトリニティが組織で動いて仕舞えば報復行為と捉えられてもおかしくはないでしょう。
「確かにトリニティの人力を使えばなんとでも解決出来る、でもそれで納得しないのはアリウスの君達だと思う、形はどうあれ救った救われたという恩は望んでない側からしたら大きな迷惑でしかない、結局の所『人が助けれる人間』ってのは
──つまり最低限の説得は此方でやらねばならないという事ですね、承りました。
「さらにもう一つ、ここまでしといてアレだけど私も動けない、理由は単純に三大校の生徒会の一人が動くってのは想像以上に目立つ、今回のこれもどさくさに紛れて潜んでこれただけだし、それに一回学校に戻らないと流石にまずいかもしれない」
「まずい、とは?」
──パテル派の皆さんを宥めなきゃいけない……ですよね?
「正解、私ってこんなのでもパテル派の代表だからさ、一応みんなを取り纏めなきゃいけない義務があるの、今回の騒動でゲヘナに本格的に宣戦布告する様な過激思想な子も多いしね。
まぁそういう子に限って私を神輿にして責任問題全部を押し付けようって魂胆なんだけど、まぁそんな理由で私は動けないんだ、ごめんね?」
「まぁ……そういう事でしたら問題はないです、元々二人でもやるつもりでしたから」
「その代わり……出来る限りの援助は出すよ、とびっきりの助っ人を知ってるんだ、今回の一件なら
──あの人……?誰です?
「んー、その時までのお楽しみって事で‼︎」
◆
結局夜明け間際まで話し込んでしまった、しかしやる事は決まった、今度こそ本当に迷いも憂いもない。
「うん、確かに
──あの、ミカさん……ありがとうございました、本当に……何から何まで。
「いいのいいの、先輩として当然の事をやったまでだしね、その代わり背中を押してあげたんだから最後まできっちりやり切る事‼︎そしてちゃんと帰ってくるんだよ、その後どうするかは皆で考えて決めてね」
夜が明けた、雲一つない晴空だ、事を成すには絶好の日和と言える、今日明日は人生で最も忙しくなる。
暗い底の中でも一筋の光を見た、紛い物だろうと打算的だろうと、その光に希望を見出した。
唯一懸念と違ったのは、その光はどこまでも優しく暖かった、もしその光があの灰色に包まれたあの場所に、降り注ぐ事があったなら──私は、そう思わずにはいられなかった。