最近ケイが熱いので息抜き&思いつきで書いたやつです。
「天童アリスは、僕が殺します」
俺は雨の中、何処かへ歩みを進めていた。
「ゲホッ……オエッ!」
何処にかなんて俺にも分からない。でも俺は天童アリスを殺した。ヘイロー破壊爆弾で。俺に居場所なんてもうなくなった。
「はぁ……はぁ……あがっ!」
俺は人殺しだ。いかなる大義があれ、もうあの純粋なチビスケが笑う事はない。
そして俺は転んだまま立ち上がれなくなった。立ち上がる気力なんてなかった。俺は、このまま冷たくなりたかった。俺は仰向けになって空を見上げる。
「アリ……ス……」
空は灰色で、大抵晴れているキヴォトスにしては珍しく昼間から暗かった。キヴォトスにはテクストだのどうのってのがあるから俺のせいで雨が降ってんだろう。
「ごめん……な…………」
俺は朦朧とし始める意識に少しだけ抗い、ポケットからいつもより少し重いタバコの箱を取り出す。最後の一服。死ぬ時位許されていいだろう。俺はタバコを咥えて箱から引き抜き、ライターでタバコの先端を炙る。
「………………」
だが雨と湿気にやられてかタバコに火はつかない。俺はすぐ諦めて咥えたタバコを落とす。
「……契約……守ってくれよ?…………黒服さんよ……」
俺は黒服と交わした契約をきちんと履行される事を願う。そしてすぐに意識も視界も朦朧とし始める。その内昔の事を思い出し始めた。これが走馬灯というやつらしい。
「起きて!」
「何時まで昼寝するつもりなの?……」
「うぅ……」
「ん〜……おは」
「おはじゃないよ!レトロゲームを探す為に古代史研究会を襲撃するんだから準備手伝ってよ!」
「わりぃわりぃw」
そう言って俺は起き上がった。俺はスーツの上を着て玄関へ向かう。
「えっ?ちょっ、何処行くの!?」
「コンビニ。弾買ってくるわ」
そう言って俺は部室を出た。これは真っ赤な嘘。俺は古代史研究会へ向かった。
俺は所謂キヴォトスに転送された男子高校生だ。と言っても、ヘイローも異常な再生能力もないし身体能力も高いわけじゃない。そんな異世界に行ったら特典が貰えるなんて都合の良いことなんて俺には起きなかったようだ。
それで俺はキヴォトスに流れ着いてミレニアムに入学してゲーム開発部に入ったってわけだ。理由は単純明快、ゲームが好きだからだ。
「お、ここか〜」
そうやって昔の事を思い返していたら研究室に着いた。そこでの交渉は何したかもう忘れたが、取り敢えず根回しではあった気がする。
俺に出来る事なんてこんなもんだ。だからセミナーに土下座しに行ったりとか、黒服と交渉したりとかしてたな。
そして俺は帰るたびにコンビニでタバコを買って吸っていた。こうでもしないと虚勢を張り続ける俺の精神はぶっ壊れる。
そして帰りに公衆トイレに寄って、胃に入った物を嫌悪感と共に吐き出す。ゲームを作ることも戦う事もできない俺の役立たずさに嫌気がさして、胃に中身がなくなろうと吐き出そうとしてしまう。
「…………」
体が弱く細いのもそれが原因だろう。そう思いながら俺はその吐瀉物を流して口を濯いでから、何事もなかったかのように部室へ帰る。
「ただいま〜」
「先輩遅いよ!」
「どこほっつき歩いてたの……」
「マジでコンビニだぜ?まあ、その後ちょっと散歩したが」
「銃弾一発で致命傷でしょ!?そんなふらふらして撃たれたら……」
「んなおめぇ、コンビニ如きで銃撃戦なんかに巻き込まれねぇわ。てかヤバそうだと思ったらヅラ刈ってるっつーの」
嘘だ。本当は死ぬのが物凄く怖い。だが俺が外出する度に護衛を頼むのも気が引けるし、俺の交渉の事は知られたくなかった。
「まぁ、無事で帰ってきたからいいよ」
「それより弾は!」
「あいよ。サイズあってるよな?」
「えーっと……あってる!」
「それじゃあ行こう」
そして2人は部室を出た。
「ユズさーん?」
俺がそう言うと部室のロッカーが開く。中にはユズがいた。俺とユズは同じ3年で、ゲーム開発部では先輩と言うわけだ。とは言え俺はミレニアムに途中から入学したからゲーム開発部に入ったのは今いるメンバーの中では一番最後だ。
「ユズさん、行かなくてよかったのか?」
「その……私はそう言うのは…………」
「そうか。ま、人付き合いが苦手なのはしゃあない」
仕方がない。だがかく言う俺も苦手だ。それでも様々な場所で交渉や口裏合わせに赴くのは俺に出来る事がこれぐらいしかないからだ。
それすらやらなくなれば、俺はゲーム開発部から切り捨てられそうな気がして、怖かった。そう言う事をする人達ではない事はよく分かってたとしても…………
そんな日々が続く中、うちのモモイが先生を呼んだのか先生が来たんだった。
「ゲーム開発部へようこそ!先生!」
「ま、一先ずゆっくりして行ってくれや。先生」
「先生、ゲーム開発部に来てくれてありがとうございます」
「私はシナリオライターのモモイ!」
「私はミドリ、イラストレーターで、ゲームのビジュアル全般を担当しています」
「企画と居候を担当してる風呂ムツアキで〜す」
「あと今はここにいないけど、企画周りを担当している私達の部長、ユズを含めて……」
「「私たちが、ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部だよ!」」
そうやって自己紹介したんだった。
そこからすぐに廃墟に向かった筈だ。そこでオートマタ達を抜けて工場かなんかに入った。そこで色々あってそこにいたアリスを連れて帰った。
「……モグモグ」
「ああ!私のWeeリモコンを口に入れないで!ぺってして!ペッて!」
アリスは生まれたばかりの赤子のようで、可愛かった。
「……やっぱり、放っておけないよ」
「それはそうだけど……」
「モモイ、こいつどうする気だ?」
「ふっふっふっ……それは決まっているじゃないか!」
「?」
「アリスには仲間になって貰うよ!」
アリスが仲間になる必要性はその時は理解出来なかったが、このキヴォトスでは1年生が部活に1人必要だった事を思い出した。
「はっ!こんなちびっ子を?赤子の世話なんて俺はごめんだね!」
「いつもなんもしてないんだしそれぐらいやってよ!」
「おいおい、俺が育てたら禄な人間に育たねぇぜ?」
俺には教育の才能はない。俺がアホみたいにやってめちゃくちゃ上手くなった死にゲーも、やり方を教えても皆キョトンとしてしまう。
それに、彼女にはゲームと言うものを好きでいて欲しい。それは他ならないゲーム好きの俺の願いだった。
それで結局テイルズサガクロニクルをアリスにプレイしてもらうとか言う、教育の才能がない俺でも驚愕の方法でアリスを教育した。まあ、ゲームのブルアカでもそうだったから本気で止めはしなかった。
それでアリスが仲間になって、G.Bibleを手に入れに廃墟へ行った時だったか。
「危ねえ!」
タン!
俺は先生を庇って俺は銃弾に当たった。死ぬのは怖かったが、俺が生きるより先生が生きたほうがいいと思って咄嗟に庇ったのだ。その時はアロナバリアの事がすっかり抜け落ちていた。
それで俺はすぐに病院に送られた。衰弱状態がバレる所だったが、医者にたのんでその事は内密にして欲しいと言う話を聞き入れてくれたのかゲーム開発部と先生は知らないままで済んだ。俺は幸いすぐに病院から出られた。
「大丈夫!?」
「大丈夫だ、問題ない!」
「それ問題あるやつじゃ?……」
「問題ねぇったらねぇの。少なくともサボり魔の俺は休む事に於いて素晴らしい男だ。この程度の怪我、速攻治してやんよぉ!」
俺は虚勢を張って誤魔化すが、弾痕なんて治るもんじゃない。
そもそも俺がアロナバリアの事を忘れていなければ治療費が発生する事も、怪我人と言う荷物が増える事もなかっただろう。それでまた自己嫌悪に陥って、吐き気が込み上げてくる。だがそれを抑え込んで、受け答えし続けた。
廃墟に無断で立ち入った件は俺の得意技『土下座』により不問となった。+αでセミナーから仕事を渡されたが、そうでもない物だった。
「よぉーし!完全復活!パーフェクトムツアキよぉ!」
「先輩って実は頑丈?」
「いいえ。ムツアキ先輩は身体能力が最低クラスな代わりに生存に関する運がカンストしているのです!」
「おうおう、俺はまさかのラック極振り?」
「はい!」
それからG.Bible解読の為、セミナーに襲撃を仕掛ける事になる。
俺は戦闘に参加出来ず、取り敢えずモモイ達の後ろをついて行ってたか。それで差押物品保管庫にたどり着くんだが、そこでネルが入って来たんだよな。
「ふーん、めちゃくちゃだなぁ…………妙な気配が……机の下か?」」
その時はバレる事を皆で怯えながら覚悟してた気がする。
「ね、ネル先輩!大変です!」
「……あんたは?」
「せ、生徒会セミナー所属、ユズキです」
でもユズさんが騙そうとしてくれた。それは相手にはバレバレで結局隠れたままの俺達に銃口を向けようとしていた。
臆病な筈のユズさんは勇気を出してネルの前に立った。それなのに、俺は何もしないまま?……そう思えた頃には俺は飛び出していた。
「っ!」
俺はネルにしがみついた。俺は差押物品保管庫の中にいる皆を逃がすために、全力で足止めに徹する。顎を守る為頭突きした状態でタックルした為に容赦なく膝蹴りが何発も顔に飛んでたっけな。
それでも俺は微弱な握力を振り絞ってしがみつき続けた。俺は役立たずだ。それでも何か出来る事をしたい。力も、技術も、知識も人望も、何もかもない俺が役に立つ方法なんて、執念位しかないのだろう。
「離せっ!」
ゴスッ!ゴスッ!
「嫌……だね!…………」
それでも俺の体はすぐに限界を迎え、片手を手放してしまう。それを見逃さないネルは俺の顔面を蹴って吹っ飛ばす。それから目が覚めたらまた病院。顔面は見るも無残にボッコボコにされ、暫く入院となった。
そこから俺はミレニアムプライスでありとあらゆる手段を尽くした。賄賂だろうがなんだろうが、やれる事はやった。
だからだろうか、ミレニアムプライスでは特別賞を取れた。そして廃部も免れ、暫く楽しい日々を送ることが出来た
>オォォォォ!!キィエェェ!!
「ムツアキ先輩はどうしてそう言う暗いゲームばかりやっているのですか?」
「これか?……まあそうだな…………難易度がこう言うゲームの方が丁度いいってのと、変な奴だったりクズが出たりする中でも全身全霊で目標に向かわなきゃいけないとこと、泥臭え殴り合いが好きなんだろうな」
「ほんと、先輩は死にゲー好きだよね」
「アリスもやってみたいです!」
「駄目だぜ。アリスにはまだ早いわ」
「酷いです!」
アリスに死にゲーと言う、ドス黒くて残酷な世界を知って欲しくなかった。俺が頑なにゲーム開発部の皆に根回しの件をバラしたくないのも、それが理由だった。
そんな中、1回先生にバレかけたっけ。
「オエッ……ゴホッゴホッ…………」
また俺はいつものように公衆トイレで吐き出していた。この時は確か交渉に向かった先でうちの部活の事ボロクソに言われて、レスバに発展した所ボロ負けしたとかだった気がする。
「はぁ……最悪…………」
口を濯いだ後にそう言って俺は公衆トイレの扉を開いた。
「あ…………」
出ると目の前に先生がいた。吐く音も多分聞かれていただろう。驚きながらも無理矢理いつもの調子に戻して先生に話す。
「大丈夫……?」
「あぁ……ちと胃がやられたらしい。やっぱ年だから脂っこいもんは食えねぇな」
「……本当に?…………」
「本当だぜ?」
「……ならいいんだけど…………」
その時は何とか誤魔化せたっけ。因みに本当に胃腸が弱いので、二郎系を食うとめちゃくちゃ胃が痛くなる。
まあ、色々ありつつ下らなくも尊い日々が続く中、アリスがエンジニア部で暴走してモモイが気絶した状態でアリスはリオについて行ってしまった。俺はまた何も出来ないままだった。
ゲーム開発部はアリスを取り戻したいと言っていた。だが俺は世界を滅ぼしかねないアリスを連れ戻すのが果たして良いことなのか俺には分からなかった。
だが俺は全てを丸く収める方法をその足りない頭で考えて、思い付いた。
アトラハーシスの権限はアリスの人格以外使えなくなれば良いのではないか。
俺はそれを実行に移すために色々やったな。
「ヘイロー破壊爆弾が欲しい、ですか……」
「あぁ」
「どういった理由で?」
「…………仲間を殺さなくちゃいけないかもしれない」
「……そうですか。であれば……」
それで黒服にヘイロー破壊爆弾を貰ったり、G.Bibleのバックアップを取ったり…………俺なりに準備を進めた。これはあくまで出来うる可能性にかける事と、万が一名もなき神々の女王としてアリスが止まらなくなった時に備えての策だ。
それからリオにも連絡して色々調整して、最終手段として俺が殺す事になった。
そして来たる日、アリスの救出作戦は俺の知っているストーリー通りに進んだ。
「どういう事!?エリドゥの主導権が……」
「リオ、どうしたの!?」
「プロトコル『ATRAHASIS』の実行を…………」
ケイはアリスを乗っ取り、目の前の画面のゲージはみるみる満たされていく。まるでロードが終わるまでの時間を示しているかのように。
俺の記憶が正しければセミナーが電源を落としてくれる筈だ。最悪の可能性を考慮してさらっとケイの近くに立ち、セミナーが電源を落としてくれる事を願った。
「……ロード完了」
だがそれは間に合わなかった。俺は直ぐ様ヘイロー破壊爆弾の安全装置を外して起動する。
「…………」
俺は無言のままヘイロー破壊爆弾を持ったまま乗っ取られたアリスに抱き着く。爆破まで、ほんの僅かに時間があった。だから俺はこう呟いた。
「アリス、すまねぇ」
「……大丈夫です」
その声は確かにアリスのものであり、ちらりと見えたヘイローは青色だった。ハッとした頃には爆破されており、俺はアリスを離して降ろす。ヘイローは既になく、アリスだったものは力なく倒れた。
俺は誤魔化す為にタバコを取り出して、火をつける。手は震えてたし、頭がグラグラしているような感じがしていた。
「なんで……どうしてこんな事を……!」
「アリスは暴走しかけた。ならそれを止めてやるのはアリスの為だろう。俺は少なくともそう思う」
「でも……!」
「アリスが人殺しにならなかった。それだけでも良かったと思うべきだろう」
そう思うべきだ。そうでなければ俺は耐えられないだろう。
「そうだとしたってこれは酷いよ!私達が一生懸命頑張ったのに!」
「……」
「それを『アリスが人殺しにならなくて良かった』で片付けられるわけ……!」
「…………俺が……」
「俺がやりたくてこんな事をしたと思っているのか!?」
「っ……それは……」
「やりたくなかったさ!アリスはまたゲーム開発部に帰って来てほしかったさ!」
俺は怒りを爆発させようとそう叫ぶが、心の中にあるのは悲しみだけだった。そのせいか涙は頬を伝い続ける。
「それでも……俺は殺した…………」
アリスが死んだ時点で俺の計画は破綻する。俺の計画はケイがアリスを庇う事が前提だったから、俺はその場の空気に耐えられなかった事もあって逃げ出した。俺は数日間何も飲み込む気にならないまま歩き続けた。
そして今、俺は路地裏でお迎えを待っている。
これで終わりなんだ。
アリスにはどう顔向けすればいいか分からなかったが会えたときは謝ろうかと考えつつ、俺はそのまま意識を手放した。
…………………………………………………………
「!……目が覚めました!」
次に目が覚めると病院にいた。俺はどうやら見つかってしまったらしい。俺はどうやって言い訳すればいいか分からなかった。そもそも俺にみんながどう言う反応をするかも分からなかった。
ガラガラガラ…………
看護師らしき動物が出ていくとすぐにアリスを除くゲーム開発部と先生が扉を開いて入って来た。
「よう、おめぇら。俺にトドメ刺しに来たか?」
「そんな事しないよ」
「…………じゃ、何の用だ?」
「それは勿論お見舞いに決まってるじゃん!」
「お見舞い?人殺しに対して?…………ショックで頭イカれたか?」
「そんな訳ないでしょ!?」
「……あ、あの…………」
「……なんだ?ユズさんよ」
「本当は……私達、謝りたくて…………」
「謝るぅ?何言ってんのぅ?」
「ずっと…………セミナーへの謝罪とか……任せっきりにして……」
「は?」
俺はどう言う事か分からなかったが、その答えはすぐに帰ってきた。
「実は先輩のパソコンの遺言みたいなのと一緒にあったファイルを読んじゃって…………」
「あの日記……を?…………」
俺がパソコンに書き残していた日記。それを見られていたようだった。俺の心の内面、弱さが刻まれたもので、見られたくない物だった。
「……………」
俺はもう何を話せばいいか分からなかった。虚勢も嘘もバレてしまった。俺は黙り込むことしか出来ない。
「その……いつもぐうたらしててやる気ないの強く言ってごめんなさい」
「そんな事あったか?……」
「えっ?……」
それ以上に交渉しにいった先でボロクソ言われる事が多すぎて覚えていない。俺にとってゲーム開発部に強く言われてもそれは『やれ!』と言われているような感覚だったから別に気にしていなかった。
「別に……俺はそう言うのは気にしない。出来ない俺が悪い。それだけだ」
「でも…………」
「そもそも俺には根回し以外に何も出来なかった。使い捨てにされないのが奇跡ってレベルでな」
俺は自分でも分かるほど冷たい声で話す。自分の価値そのものは俯瞰しているような、そんな気分だった。アリスを殺した罪の重さに押し潰されそうな俺だが評価そのものは対等に判断出来なければいけないだろう。
「俺は身体能力に優れる訳でも、知識に優れる訳でもない。コーディングやデザイン、シナリオの執筆、企画、どれをとっても良いものを作るには至らない物だった。それは否定しようがない事実だろう」
「それは……そうかもしれないけど…………」
「だから俺にこの部活に貢献出来ることは何か考えた。まず一番に思い付いたのは家事だが、部室には料理も洗濯も不要だ。その次に思い付いたのはあの手この手で根回しするって事だ」
「…………」
「だから俺はそれを実行に移した。それがどれだけボロクソに言われ、誰からも肯定されなかろうと俺はやった。後輩の楽しそうな姿を守れるならそれで良かったんだ」
俺の犠牲でそれが叶うのなら、それは安いコストと言えるだろう。
「アリスを殺したは、全てが丸く収まる可能性に賭けた。世界を滅ぼさずしてアリスをゲーム開発部に連れ戻す作戦。結局、アリスを殺して前提から全てが破綻したが」
俺は自らを嘲笑するようにそう言う。だが誰も笑う素振りは見せなかった。
「やっぱ自虐はウケないね。俺は何処まで行ってもゲーム開発部の足手まといだった。それ以上でもそれ以下でもない。だから早く切り捨てるなら切り捨てるべきだ。やる気のある無能な味方程危険な物はないと、あのナポレオンが言っていたぞ?」
俺はそう忠告がましく言う。
「そんな事…………そんな事出来るわけないじゃん!」
だがモモイは相変わらず忠告も聞き入れずそう叫ぶ。
「先輩は確かにポンコツなのかもしれないけど……それでも私達の為を思って一生懸命やってくれたんでしょ!」
「うん。なんだかんだ先輩が言っていた事は結構的を得てる事が多かったし、先輩の忠告に助けられた事もあったし……」
「…………その……人付き合いの苦手な私の…………代わりに……後輩の面倒見てくれたり…………」
「私達も先輩の事なんも知ろうと知らなかったから……その…………ごめんなさい」
俺はその言葉が欲しくて、こんな事をしたんじゃない。何故責めないのか理解出来なかった。
「アリスを殺したのだって、どうにかしようとしてやった事だから…………」
先生はどうしてそう言うのだ。罪は罪だ。裁かれるべきなのだ。何故糾弾しない。
「…………だから、一人で抱え込まないで」
そうか……俺はゲーム開発部を信じ切れなかったんだ。俺はずっと切り捨てられる事に怯えていた。それは、心の奥底で『こいつなんていなければ良かったのに』と思われる事を恐れていたんだ。
そしてそれを言わず、表面上だけ優しくされているような気がしていたんだ。だから非道い言葉が飛んでこない限り信用出来ない。こいつのドス黒い一面は何処なのか、どうしても腹を探り続けてしまうのだ。
「……すまねぇ、それは多分…………」
そう言おうとした時に、誰かがまた扉を開いた。そこには契約には忠実な男と、小さな少女が後ろに隠れていた。それに他の人は角度のせいか気付いていないようだった。
「黒服!……」
「おや?先生がどうしてここに?……」
「それはこっちのセリフだ」
先生は黒服に敵意を持ったような声で言う。だが俺にとってはどうでも良かった。
「私はムツアキさんに用があって参りました」
「黒服、契約はどうなった」
「えぇ、その事ですが…………」
黒服がそう言うと後ろにいた少女が姿を現した。
「完全復活!パーフェクトアリスです!」
「アリ……ス…………?」
「アリス!」
俺はどう言う訳か分からなかった。
「まさかアリスとケイがどちらも喰らってしまうのは想定外ですが、どうにか復活させられましたよ」
「…………そうか……」
そして黒服が来てしまった事の意味を、俺はよく理解していた。
「それでは約束通り聞かせて貰いましょう。貴方の観測した未来と言うものを」
「「「「「!」」」」」
皆驚いた様子だったが、それを気にする余裕は今の俺にはなかった。
「今ここで?…………」
「勿論です。貴方はその情報を私に伝える場所を指定していなかった。なので今ここでお願いします」
「それは……どう言う事なの?…………」
ミドリがまず訊いてきた。多分なんで俺が未来の事を知ってるのか聞きたいんだろう。
「分かった分かった。観念して教えるわ」
そして俺は洗いざらい話した。俺はこの世界がブルーアーカイブと言うソシャゲの世界まんまの事。俺は日本と言う場所から来た事、銃なんて持たなくて良いほど平和な場所で暮らしていた事…………昔の事を全て話した。
それでも、どう言う訳か結構記憶は欠けていたから本当に全て話せたわけではない。人の名前も本当に大切だった家族と友人以外、誰一人として思い出せなかった。
「…………これで満足か?」
「えぇ。では目的を達成したので私は帰ります」
「待て」
先生は相変わらずの態度で黒服と接する。
「ムツアキに何をした?」
「何もしていませんよ。ただ私は彼の観測した未来を聞く代わりに、アリスの人格データの復活とヘイロー破壊爆弾を渡しただけです」
「それでも、人を殺させた君を許すことは出来ない」
「いえ、私が仕向けたのではなく彼が殺そうとしたのです。私がヘイロー破壊爆弾を渡さずとも彼はアリスを何かしらの手段で一度殺していたことでしょう」
「ムツアキさんは面白い人です。大人であったなら是非とも私達の仲間になって欲しい程です」
「まあ、検討に検討を重ねておくよ」
「左様ですか…………それではお時間が迫っているので、失礼します」
そして黒服は去ってしまった。
「ムツアキ先輩」
「なんだ?」
「どうしてムツアキ先輩は、そんなに頑張るのですか?」
「…………俺はさ」
俺は重かった口を開く。
「人の醜い本性が嫌いなんだよ。騙そう、利用しよう、そう言うのが嫌いだった」
俺は使えない分、人の醜さをよく見てきた。俺はそれが嫌いだった。
「何度裏切られて、何度無能だと門前払いされた事か。だから受け入れてくれたゲーム開発部は何より大切だったでも次第に俺が何も出来なさすぎてさ、本当は俺は要らないんじゃないかってずっと怖かった」
俺はその醜さが、ゲーム開発部の皆も持っているように思えてしまった。
「出来る事をしようって頑張って……でも俺は信じ切れなかった…………そのくせ最後にゲーム開発部を裏切ってさ…………結局、俺も汚い人間なんだよ…………だからさ……」
俺は人のドス黒い本性が許せないように、何より自分のドス黒い本性が許せなかった。心の何処かに住んでいる悪魔。サボりたい、奪いたい、利用してやりたい。それが大嫌いだった。
「いらないって言ってくれよ…………そして……放っておいてくれよ……」
だから、俺自身の事が嫌いだったんだ。
「ムツアキ先輩」
それでも、アリスは純粋な目で俺を見る。
「ムツアキ先輩は確かに酷い人です。いつもやる気がなくて、ポンコツです。けれどとても仲間思いで……誰よりも一生懸命な人です」
やめてくれ……やめてくれよ。
「アリスの事も、魔王にならない様にしてくれました」
俺は…………殺したんだ。
「だからアリスはムツアキ先輩の事を恨んでません」
世界を救うと言う大義名分のせいにして、殺したんだ。
「ムツアキ先輩は弱いです。弱くて良いんです」
「……」
「ムツアキ先輩はアリスの仲間でいて欲しいです」
「何で…………どうして……」
どうしてそこまで俺の事を好きなのか、分からなかった。
「ムツアキ先輩は大切な仲間だからです!」
「…………」
やっぱり俺はまだ自分の事が嫌いだ。けれど大切だと言ってくれる人がいるのなら…………
「…………ハッ……」
俺は俺の事を認めて良いのかもしれない。
「アリス、あんま理由になってねぇよ」
「!?」
なんだか気分が楽になった気がする。
「……でもそう言ってくれて嬉しいぜ」
俺はいつものおちゃらけた態度をとる。けれど今は虚勢なんかじゃない、純粋なおふざけとしてそう言う態度をとる。
「モモイもミドリもユズも、俺がウジウジしてて迷惑かけたな」
「本当、大変だったんだよ!」
「でも見つけたの、私達じゃないでしょ?」
「……見つけたのは黒服か?」
「いや、違うよ。君に以前助けてもらったって人の目撃情報があって、それで向かったらいたんだ」
前助けた……そんな奴いたか?…………まあ別に思い出したらでいいだろう。今はただ、ゲーム開発部のかけがえのない時間を楽しむべきだろう。
まあ、結局退院までは衰弱していたこともあってリハビリが長引いて、結構時間がかかってしまった。
「帰って来ました!」
「ただいまー」
「おかえり〜!」
「菓子買ってきたぞー」
「お、ナイスゥ」
そして俺は無事にまた、日常へ戻った。いや、前の日常よりも幾分かは気が楽な、楽しい日常になった。
「ユズさんも食う?」
「じゃ、じゃあ一つ…………」
「じゃアリス!死にゲー遊ぶぞ!」
「はい!」
俺は弱い。無能だ。それでもいいのだ。皆がいて欲しいと願うなら、その願いに殉ずるべきだろう。
俺はそう思いながら、外が晴れてるにも関わらずゲームを皆と遊び始めた。
主人公の名前の由来はは某大手死にゲー企業です。
日記の内容とか、先生視点はいつか書きます。いつか。