今回は前半をリア友が、前半の修正と後半を私、小淵良樹が担当している合作となっています。
ACT1
「これが……最後の戦いだ」
辺りを照らす夕日、それは今この瞬間の最後を彩るためだけに存在していた。
「受けろ……我が究極の一撃を!」
眼前に映る異形へと吐き捨てる。
「……れ」
自身の手に握られた剣から声が聞こえる。
「……き……れ……」
途切れ途切れで内容も分からないのに、何故か既視感がある声だ。
「誰だ!名を名乗れ!」
「ちょっと~!!!時晴!!」
頭に響く鈍い痛み。
「痛っっテェェェェェェェ!!!!何すんだこのクソボケ……あっ」
起き上がり声を荒げる。目の前でこちらに明らかな殺意を向けているのは、
「えっ?化物は?戦いは?」
周りを良く見れば、先程までの荒野ではなく、学校の教室だ。あっ.分かった.
「アレ夢だ!!!!!!!!!」
思わず席から飛び上がり机を叩く。
周りからの視線が冷たい。真夏の暑さを綺麗さっぱり忘れてしまうほどには……。
「……
その中でも一際冷やかな視線と声が響く。
「職員室、来ようか?」
……終わった。
「──と、言うことで真剣に学業に取り組んでくださいね!分かりましたか!」
「はい……」
さっきの授業から実に80分もの間職員室で説教漬け……
空腹と眠気で頭がおかしくなるかと思った。
「は~~……ただ授業中に寝ただけなのに80分はおかしいだろ……」
ため息混じりにボヤく。
他の教師ならまだ適当に相槌を打っとけばいいのだが、
……結果、授業時間どころか昼休みの中盤まで説教を聞き続けることになったわけだが。
まあでも、助かったような気もするか。
正直言ってこの学校、腐ったやつしか居ないからなぁ……それでも将来を考えたら通うしか無いわけなんだが。
「浮かない顔すんなよ~!」
「痛っタァ!」
後ろからの突然の殴りに体制を崩し思い切り廊下に頭を打ち付ける。
「あだだだだだだ……いきなり殴る事は無いだろ!」
今日こんなことばっかりじゃないか?俺。
「あっはは!!まさかあそこまで綺麗に決まるとは……ごめんごめん」
今俺の前でムカつく笑顔を浮かべながら舐めた謝罪をしているコイツは
あまりにも性格が歪みすぎている……当たり前のようにぶん殴ってくるわ美少女と一緒にいれる感謝代とか言って学食奢らせたりしてくるわ……挙げ句の果てには俺のノートにいつの間にか小さな棒人間の落書きをしてたりする。まあ、根っからのクズだ。
「で、なんだよ。学食なら奢らねぇぞ?」
服についた埃を払いながら忠告する。
「お願いだよ~!そこを何とか!」
案の定、学食の無心をしてくる莉奈から早足で逃げながら食堂へ向かう。
「だから奢らねぇって!……あ?なんだあれ」
食堂に着くと何時もの騒がしい空気とは違い、何か冷たい空気が張り詰めていた。
「やけに人が集まってんなぁ……」
昼食時にしてもおかしい、不自然なまでの人混みだ。
「何かあったか?」
やけに俺の目を引いた人混みの中心は、まさに地獄絵図と言うべき物だった。
「もう一発もう一発!」
両腕を縛られた女子生徒を、数十人の男子がリンチにしていたのだ。
「お!今の骨イっただろ!これでお前4本目だな!」
まるでお遊びのように一人を蹴り続ける。
「酷え……おい!何してる!」
さすがに我慢できず、人混みを掻き分けて女子生徒を庇うように立つ。
……この女子生徒、確か同じクラスの……
「はぁ?時晴、なんだよ?」
主犯格に見えた男子生徒が、わざとらしく距離をとる。
「さすがに女子を集団リンチとなれば見過ごせねぇよ!そこまで腐っちゃ無かったろ?」
正直、元々人格に問題のある奴らではあった。でも、いくらなんでもここまで酷いことはしなかったはずだ。
「女子ぃ?あぁそうか!お前は知らなかったかぁ!そいつは醜人だ!俺達の学校に入り込んだドブネズミなんだよ!」
……醜人。今や小学生でも知っている。俺達人間よりも劣っていて、それでいて傲慢で、醜悪な滅ぶべき最低の種であるとかなんとか。
「でも、醜人だって……同じ学校の仲間だろ?傷付ける必要なんかないはずだ!」
啖呵を切ったは良いが、回りの反応は良いとはとても言えない。俺を見て嗤う者、距離をとって私は関係ないと言うばかりにスマホを操作する者。俺の事は好きに嗤えば良い。だが.
「なんで誰も味方しない?俺は良い。だが何で誰もこの子の味方をしない!?」
静寂が食堂を包む。数分の沈黙を破ったのは、その場にいた誰でも無かった。
「動くな!全員伏せて手を上げろ!」
食堂の扉を蹴破り、数十名程の重武装の人間が続々と食堂に入ってくる。「え?なになに?」「映画の撮影?」
周囲が一気に騒がしくなる。
「お……おい皆!アイツら銃持ってるぞ……!?」
そう誰かが呟いた直後、誰もが──ただ1人、リンチを受けていた女子生徒を除いて──パニックに陥り、食堂は叫び声と泣き声に包まれる。しかし、意外にも銃を持った集団は生徒達を殺そうとはせず、寧ろ安心させるかのように呼びかけてさえいる。
「──こちらは治安維持隊、醜人取締部隊です!この学校に醜人がいるとの通報を受けました!」
その声が響いた途端、水を打ったように静かになる生徒達。一拍置き、今度は安心から泣き出す者、溜息を吐く者などが溢れかえる。
治安維持隊。
勿論存在を知らなかったわけではないし、小学校では何度も「防犯教室」とやらで特別教師として招かれてはいたが……ここまで武装した状態で来るなんてことは今まで一回もなかった。
それにさっき、醜人取締部隊って……。
「……まさか」
「それで、件の醜人と……それに協力する少年がいる、との事でしたが」
……どうやら想定し得る最悪の──或いは、想定し得ないほどの──事態になってしまったらしい。口にする質問とは裏腹に、アイツ等は確実に氷室と俺が「醜人と協力者」だと気付いている。
勿論こんな状況で「もう醜人は逃げたんだ」なんて優しい嘘を言ってくれる奴がいるわけもなく、俺達は殆ど全員に指を指される。
ゆっくりと迫ってくる取締部隊とやらの隊長であろう男。あと数センチで男の手が俺の肩に触れそうになった、その時。
「一体何の騒ぎですかっ!?」
食堂の入口から響く、聞き馴染みのある──いや、飽き飽きするほどに聞かされた──声。
「愛美……ねぇ……?」
なんの事前情報もなく現れた武装集団と、その集団に囲まれた傷だらけの少女と男子生徒……。
咄嗟に駆け出す先生。しかし、その行く手は銃器を抱えた大男達に阻まれる。
彼等が小声で先生に何かをを伝えると、先生の顔はみるみる青ざめ、まるで何かに怯えるかのような目でこちらを見やる。
「時晴くん……その子、醜人って……」
なんでもいいから、言い訳を。
そう思った途端、先生はおもむろに護身用として国から配られているスタンガンを取り出す。
「あなた、氷室さん……ですよね。……今すぐこの人達の命令に従って、学校の外に出なさい。これは……あなたの身を守るためでもあります」
救いはないのかなぁ、なんて。
態々カッコつけて庇わなきゃよかった、と我ながら最低なことを考える。
「お願いします……ここで従わなかったら、あなたは殺されてしまいます!私は、あなたのためを思って……」
「──じゃあ、もしここで着いて行ったら……私は生き残れるんですか?」
多分、今の愛美ねぇの言葉に嘘はない。あの男達に何を吹き込まれたのかは知らないが、言う通りに着いて行ったら氷室は生きて帰れると本気で信じている。
……無理もないだろう。この先生は説教は長いが生徒を想う気持ちは人一倍強い。1年間行方不明の子供を探し続ける親に「これをすればあなたのお子さんは帰ってきますよ」などと出鱈目を教え込むのと同じようなものだ。普段ならば間違っても信じないであろう話でも、精神が摩耗した状態ならばそれを心の支えにしてしまう。
そんなこと、先生だってわかってないわけじゃなかったのだろう。「醜人が喚くな」などと騒ぎ始めた取締部隊の連中の中で、1人腕を震わせながら祈るように氷室を見つめる。
「教えてください……私がここで着いて行くだけで生き残れるなら……なんで、お母さんは」
「それ以上の発言は許さない!次無断で何か行動したら、我々は容赦なく貴様を撃つ!!」
その声に何かを決心したのか、俺達と取締部隊の間に割って入る愛美ねぇ。
何をするんだ、と隊員の1人が声を荒げるのにも怖気付かず、先生はゆっくりと話し始める。
「この子達を、殺さないでください……」
周囲に動揺が伝わり、取締部隊全員から睨みつけられても、臆することなく話し続ける。
「別に私が醜人の味方というわけではありません。ありませんが……それでも、醜人である以前に、この子は私の生徒なんです!!!」
「愛美……ねぇ」
確かに、元々愛美ねぇは俺だけでなく、みんなに本当によく世話を焼いてくれていた。
でも、まさか愛美ねぇが、ここまで
こんな状況にも関わらず感動して、ちょっとだけウルッと来てしまった。
……でも、綺麗な話じゃ現実は乗り越えられない。
少し遠くにいる男が電話機を取り、何やら小声で話し始めた。かと思えば、今度は先頭の男の元まで歩き、小声で何かを伝える。
先頭の男が右手を挙げた途端、取締部隊全員が銃身をの先を俺達の方に向けて構える。
「上層部から即刻駆除命令が出ました。そこの御二人は……可能な限り生きた状態で逮捕します」
足が震え、呼吸もままならなくなる。
助けて。
そんな情けない言葉が口を切りそうになった瞬間。
「──あなたは一旦……静かにしていなさい。……舌、切ったら痛いでしょう?」
……え。
声を出す間もなく、俺の体は何かに持ち上げられる。
「醜人態への変化を確認!!
「発砲許可!!接触している人間の生死は問わない!!兎に角撃ちまくれェ──ッッ!!!」
耳の中に鳴り響く怒声。俺はようやく自分が氷室に──蟷螂醜人に抱えられているのだと気付く。
見上げるほどの身長に、灰色に濁った体色。両腕には1mはあるだろう巨大な鎌を携え、もはや「人間」と呼べる見た目ではなくなっている。
「これが……醜じングゥ!?!?」
俺を抱えた腕とは反対の腕で地面を勢いよく殴る氷室。自動的に揺られることになった俺は早速忠告を無視して喋ったことを後悔する。
「今度こそ……黙ってなさいよッ!?」
氷室は切り裂いた床から俺を抱えたまま飛び降りる。下に広がるのは、学校の地下とは思えないほどに複雑に絡み合ったおびただしい数のパイプ。
「──してッ!やめ──ッ」
土煙で穴の外の様子も見れない筈なのに、何故か愛美ねぇの声が聞こえた気がした。
(愛美ねぇ……助け……なきゃ……)
極度の緊張のせいか、急激に意識が遠のく。
力を振り絞って手を伸ばした先に見えるのは、永遠に続く暗黒だけだった。
……この時の俺はまだ、何も知らなかった。
ヒーロー面して、偉そうに「醜人だって仲間だ」なんてほざいて。
その差別に、この「地球」という星に、歯向かうことがどんなに大変なことかもわかっていなかったんだ。
誰も予想できなかった、「自分」を見付けるための物語は──この瞬間から、始まっていた。