仮面ライダーモース   作:小淵良樹

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Day-3

「誕生日おめでとう、時晴」

「お前ももう、6歳かぁ!時が経つのは早いなぁ……」

 目の前に並んでいるのは、パスタ、唐揚げ、ハンバーグ……俺が()()()()()食べ物。そして、その中でまるで自分達が主役なのではないかと言うほどに幸せに笑う男性と女性。

「……父さんと、母さん?」

 

 目の前の景色の異常さに、すぐに気付いてしまった。

 これは、夢だ。

「……どうしたの?時晴」

「お前、いつもと呼び方が……?」

「……ううん!だいじょうぶ!」

 ……例え、これが夢でも。

「いつもありがとう!!……だいすきだよ、おとうさん、おかあさん!!」

 この幸せな景色が、懐かしくて。

「もう、相変わらず甘えん坊なんだから……」

「ほら、今日は時晴が主役なんだから。いっぱい食べて、おぉ〜きくなるんだぞ?」

 そう言いながら色んな食べ物を盛ってくれる父さんと、頭を撫でてくれる母さん。

 ……本当に楽しくて、本当に幸せで。

 だからこそ、辛い。

「あぁ、そうだ!お前にプレゼントがあった。ちょっと待ってろよ……」

「あっ……!」

 つい声を出してしまう。怪訝そうに俺を見る父さんだが、すぐに奥の部屋へと「プレゼント」を取りに行ってしまう。

 ……いくらここで俺が()()()と違う行動を取ろうと、これはただの夢。過去が変わるわけでも、普段の俺の生活が変わるわけでもない。

「ほら、開けてみろ」

 いつの間にか戻ってきていたのか、紙に包まれた箱を俺の目の前に置く父さん。

 ……わかってるよ、箱の中身も、これからの運命も。

「『かめんライダー』のへんしんベルト!!」

 予想通り、中に入っていたのは変身ベルト。

 あの時は気付かなかったが、今ならわかる。

 父さんと母さんの、何かを期待するような目。あの時はできなかったけど、せめて、夢の中だけでも。

「ねぇ……へんしん、してみていい?」

「……あぁ!!いいぞ!!見せてくれ!!」

「そうね!あぁでも、カメラどこにしまったかしら……?」

 俺が箱から変身ベルトを取り出す間にどこからかカメラを持ってくる母さん。

 スイッチを入れ、ベルト帯から取り出したメモリをバックルに装着する。

 その瞬間、歪み始める父さんと母さんの姿。

 ……何時ぶりだろうか、こんな風に泣くのは。

 俺が知っていた「仮面ライダー」は、どうしていただろうか?

 確か彼は、変身ポーズを取って、最後にこう、絞り出すかのように言っていた。

 

 

 

 

「──変身」

 

 

 

 

 窓ガラスが突き破られ、1つの巨大な異形が家に入り込む。

 その異形──醜人は、異様に肥大化した腕で最初に父さんを叩き斬った。

「あなたッ!?時晴、逃げ──」

 逃げて。そう言おうとした母さんの言葉が紡がれることは2度となく、彼女も父さん共々醜人に叩き切られる。

 そんな中、俺は一人、変身ベルトを抱えて震えることしかできなかった……のは、あの時だけだ。

 例え、これが夢でも。

 この瞬間だけは、存分に奴に借りを返せる。

 ……筈なのに。

「なんで、殺したくねぇんだよ……ッ!?」

 殺したくないのだ。目の前にいる、醜人を。

 コイツは俺の目の前で、父さんと母さんを殺した屑なのに。

「──母さんはね」

「……はっ?」

 いつの間にか目の前にいたのは、ついさっき叩き切られて死んだはずの父さんと母さん。

「母さんは……時晴に、新しい景色を見てほしい、って思うの」

「残念ながら、()()()には伝わらなかったらしいが……」

 ……何を、言ってるんだ?

 そう聞きたいが、何故か口は動かずにただ2人の話を黙って聞くことしかできない。

「それでも、父さんも同じ意見だ。時晴には、醜人といがみ合うだけじゃない、新しい生き方を見つけてほしい」

「もうなくなったものじゃなくて、今自分の目の前にある幸せをとことんまで追い求めなさい。……その為の、『変身』でしょ?」

 母さんがそう言った途端、壊れ始める世界。

「嫌だ……頼む、もう少しだけ、一緒に……!!」

 あと1分、いや、1秒だけでも。

 俺の願いは届かず、やがて2人の姿は闇に包まれ、目の前から消えていく。

 

 ──時晴

 

 世界に響く、父さんのでも、母さんのでも、莉奈のでもない声。この声は、多分。

「……光咲?」

 なんで、光咲の声が聞こえる?

 その答えは、考える間もなく頭の中に現れた。

 突然、まるで映画のワンシーンかのように頭の中に流れ込んでくる記憶。

「……いや、違う」

 こんな記憶、俺は知らない。ならばこれは俺のものではない「誰か」の記憶か?いや、それも違う。

「違う世界……?」

 その世界の俺は、光咲を守るために戦っていた。……いや、それはどうでもよくて。問題は、俺が、街で殺されかけてた醜人を助けていることだろう。

 

 ……いがみ合うだけじゃない、新しい生き方。

 

 父さんと母さんの言葉が頭の中で響くのと同時に、壊れかけの世界が完全に砕け散り、俺は真っ白な空間へと投げ出される。

 

 ──時晴のこと、英雄(ヒーロー)だって……仮面ライダーだって、思ってる

 ──俺はここにいていいんだって、わかったんだ

 

 これが、違う世界の俺。

 この世界の俺は、幸せを掴めていたのだろうか──

 その先の記憶を見ることは叶わず、俺の意識は現実世界へと引き戻されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あら、時晴?やっと起きたの?」

 ゆっくりと目を開けると、見えるのは夕焼けに照らされた天井と、直ぐ側でパイプ椅子に座りながら本を捲っていた光咲。

「ここ……どこだ……?」

「どこって……保健室よ」

 なんで、そんな所に。質問しようとする俺を光咲は呆然と見つめる。

「……なんだよ」

「あなた……部活中に倒れたのよ?覚えてないほど重症なの……?」

「……あぁ、そっか。そうだったな」

 夢の中での記憶が鮮烈過ぎて忘れていた。確か俺は昨日醜人と戦って帰った後、一睡もできてなかったんだ。そのまま学校に来て、無理して部活まで出てたら、その途中で……。

「……待て。莉奈はどこにいる?」

「まあそう焦りなさんな。りーちゃんはちょっと心配で狂いかけてたから先に帰らせたわよ」

「なんで……そんな風になってたなら1人でいさせたら……!」

「時晴」

 光咲は焦る俺を窘める。

「多分だけど……時晴が思うほどりーちゃんは弱くないわ。だから心配しなくても大丈夫」

「お……おう」

 どこか怒ったように言う光咲に若干の恐怖を感じながらも取り敢えずは頷いておく。満足したのか「そう言えば……」と急に話を変える光咲。

「さっき、秋山先生が起きたら生徒指導室まで来いって言ってたわよ」

 ……俺、なんかやらかしたっけ。

 あの秋山に呼ばれるなんて、余っ程のことをしない限りないはずだが……。

「……もしもし、りーちゃん?」

 光咲が莉奈に電話し始めるのが聞こえ、急いで保健室から出てドアを閉める。

「光咲、電話聞かれるのだけはマジで嫌がるからな……」

 ならもうちょっとタイミング見計らえよ、とも思わなくもないが。

「お、ようやく起きたか」

「んえ?」

 声を書けてきた誰かの方を振り向くと、そこに立っていたのは秋山。

「水上、時晴だな?」

「……ごめんなさいでしたァ!!!」

 取り敢えず、全力で頭は下げておいた。

 滅茶苦茶ドン引きされた。泣きたい。

 

 

 

 

「昨日は君達の休日を滅茶苦茶にしてしまい本当にすまなかった。……で、だ。水上、率直に聞くが……『仮面ライダーブラーズ』って言うのは、水上の事で間違いないんだな?」

 あまりに予想外で、それでいていつか聞かれることを覚悟していた問い。

「……はい。そうです」

 別に隠さなきゃいけないような話でもない。嘘をつかず正直に答える。

 ……尤も、これを莉奈達にバラすとなったら、また話は別だが。

「あぁいや、別に今すぐやめろとか、誰かにバラしてやるとか、そう言うことが言いたいんじゃないから、そこは安心してくれ」

「……そうですか。1つ、聞かせてください。いつから気付いていたんですか?」

 まるで俺の不安を見透かしているかのように言う秋山。この洞察力の高さにはもはや気持ち悪ささえ感じてしまうが、誰にも言われないのであれば好都合。無駄に話をややこしくするつもりはないので、これ以上文句は言わず単に気になったことを聞いてみる。

「君なら気付いていると思うが……昨日、あそこで醜人と戦っていたところを隠れて見ていた。気分を害したならすまない」

「やっぱり、そうでしたか」

 予想通り。数カ月ぶりに変身したことも相まって、どうやら周りの人払いを適当にしすぎたらしい。

「それで、だ。本題なのだが」

「醜人を殺さないでほしい、ですか?」

「……全て、お見通しか」

 お見通し……というか。

 秋山と暗間が醜人擁護派なのは、2人が付き合ってないこと以上に学校中で有名だ。それでも教師をやめさせられない理由は、ひとえに秋山と暗間の人望のおかげだろう。

 秋山はいいとして……暗間の、人望?

 突然悪寒を感じて振り返る。そこには指導室の扉。外には誰もいないのだろう、影1つとして見えない。

 きっと……この先には、触れてはいけない人間の闇がある。怪訝そうにする秋山に「いや、なんでもありません」と言いながら姿勢を正す。

 もしかして……時々教師が減っている原因って……?

「いや、違う違う違う違う……きっとただの退職と転勤だ。うんきっとそうに違いない」

「え、えーっと……大丈夫、か……?」

「大丈夫でつッ!!」

 ……さっきまでしていたのは、一体何の話だったか。

 そうだ、醜人を殺さないでほしいという話だ。

「しかし、あの時はあちら側から攻撃してきたので……法にも違反していないかと」

「それはあくまであの時だけの話だ。……水上、君はただ隠れて生活しているだけの醜人の家に忍び込み、一家全員を殺したことが何度もあるだろう」

「それは……」

「いくら黙認されているとは言え……法律では確かに、『醜人から人類への侵略行為がされていない場合においては、人類の醜人に対するいかなる攻撃をも禁止する』……と示されている。君が何を言おうと、それはただの通り魔の言い訳にしかなり得ないんだ」

 ……わかってる。そんなこと、わかってないわけがない。

「まあ、別にそれを咎めたいわけじゃない。少し、君の過去についても調べてもらったからね」

「調べて貰ったって……誰にです?」

 机の上においてあった鞄からクリアファイルに入っていた書類を取り出す秋山。

「俺の優秀な仲間達に……だ」

 そう言いながら俺に書類を渡そうとする秋山だったが、俺が手を伸ばそうとした瞬間に「あぁ、勿論辛いから見たくないと言うなら無理に読まなくてもいい」と言いながら書類を仕舞おうとする。

 ……本当に、調子が狂うと言うか、何と言うか。

「大丈夫です。読ませてください」

 半ばひったくるようにして資料を受け取ると、そこに書かれていたのは俺が生まれてからの経歴、今まで殺してきた醜人の数……他にも、普通の人間じゃ知りようのない情報。

 

 2008年7月21日に生まれる。

 ︙

 2014年7月21日に自宅を醜人(種族は不明)に襲撃され、両親を失う。

 ︙

 2020年5月15日にブラーズへと変身、自身を「仮面ライダーブラーズ」と名乗る。

 ︙

 2024年7月21日現在、殺害した醜人は推定870体──。

 

「……よくこんなに調べましたね」

「ああ、頼んだ俺としても驚かずにはいられなかった」

 ……それで、と。話を続ける秋山。

「君が何故全ての醜人を殺そうとしているのか……それはわかった。俺としてはその意思を否定しようとも思いたいし、できる限り尊重しようとも思う。しかし……」

 恐らく秋山の仲間は俺を殺すことなんて簡単にできるんだろう。それでも、俺をここまで説得しようとするのは秋山の優しさか。

 ……しかし。

「……申し訳ありません。それは俺には……できないかもしれません」

 改めて考えると、俺が、醜人を殺すのは。

 憎いから、だけじゃないんだろう。

「俺は……醜人を殺すことにしか自分を見出せなかった。こんなことをしたって、意味がないのなんてわかっているんです。でも、俺には醜人を殺し続ける以外の生き方がわからない」

「……そうか。1つだけ、覚えていてほしい。水上自身を言い方で申し訳ないが……それは、ただ悲しみだけを繰り返し、憎しみしか生まない悲しい生き方だ」

「……もう、戻っていいですか」

 どれだけ俺の人生が哀しかろうと、それを否定される筋合いはない。

 でも、こんな殺人鬼みたいな人生。

 俺の父さんと母さんを殺した醜人と、何が変わらないんだ?

「俺は……取り返しのつかないことになる前に君が、本当に大切なものに気付けることを祈ってるよ」

 ……本当に、大切なもの。

「……先生にとって大切なものって、なんですか?」

 秋山に背を向けたまま質問する。秋山は数拍置いてから、柔和な声で答えた。

「君達、生徒と……楓夕達と。色んな人と関わって、苦労して、喜んで。そんな日常が、俺の大切なものだ」

 その答えを聞いた瞬間頭の中で浮かび上がったのは、莉奈と休み時間に話したり、名ばかりの同好会で遊んだり……そんな何気ない日常の景色。

「……ありがとうございました」

 今度は秋山の顔を見ながら、扉を静かに閉める。

 こんなこと言ったら、バチが当たるかもしれないけど。

 父さんと母さんが死ななかったら、絶対に愛美ねぇとも、莉奈とも出会わなかった。それに、きっと光咲とも知り合わなかっただろう。

 それは確かに、2人が殺されたおかげで。

「……今自分の目の前にある幸せ、か」

 確かに、光咲と知り合って、莉奈と付き合って、この数ヶ月間、俺は幸せだった。

 ……それでも。

「怖いんだな、俺は」

 この日常が壊れるのが。

 もしかしたら……怖いから、ずっと過去の出来事に縋って、今俺の目の前にある「幸せ」に気付こうとしなかったのかもしれない。その「幸せ」が壊れるくらいなら、ずっと気付かないでいようと。

 ……いや、どちらかと言うなら。

「俺は、きっと──」

 壊れるくらいなら、壊してやる。

 そう思っている自分が、怖かったのかもしれない。

 

 

 

 

「──遅かったわね、時晴」

「……光咲、待ってたのか?」

 だいぶ長い時間待たせてしまったらしい。昇降口の段差に腰掛け本を読んでいた光咲はこちらを見るなり深い溜息を吐く。

「別に待ってなくても良かったんだが……」

「私も帰ろうとしてたけど……りーちゃんが一緒に帰ってやれってうるさいから仕方なく、ね」

「そりゃ……莉奈がすまん」

「別に、気にしなくていいわよ」

 ほら。行くわよ……そう言いながら俺の方へと手を伸ばす光咲。夕日に照らされた長い髪が、風でたなびき……じゃなくて。

「……お前、手でも繋ぐつもりか?」

「あっ、間違えたわ」

 間違えたってなんだ間違えたって。そうツッコみたくなる気持ちをグッと抑え俺も光咲と並んで歩く。

「ごめんなさい、ついさっき読んだ本に影響されてしまって……」

「……今度はどんな本を読んだんだ」

「『僕のカノジョが知らないところで運動部の先輩に寝取「馬鹿野郎それ以上喋んな」理不尽じゃない……?」

 光咲は少し、というかだいぶズレている。今の会話でもわかるが、教室の中でこっそりそう言う本を読む程度にはおかしい。因みに光咲曰く「何がおかしいのかわからない」だそうだ。

 狂ってやがるぜ。

 

 ……まあそんな事はどうでもよくて、だ。

「……あのさ、光咲。聞きたいことがあるんだけど」

「何よ、そんなに改まって。どうかしたの?」

 こんな事を聞くのは、巻き込んでしまうようで申し訳ないけど。

「今、目の前にある幸せと……過去にあった、どうしても許せないこと。……光咲だったら、どっちを優先する?」

「随分難しいことを聞くわね……」そう言いながら、深く考え込む光咲。

 それから2分は経っただろうか……なんとなく気まずいような、どことなく居づらいような気分を感じ、もう一度話しかけようとしたところで漸く光咲は顔を上げる。

「私は……多分だけど、簡単に過去の事なんて捨てられないと思う。ずっと思い悩んで、そのまま最後まで解決しなくて……結局()()()()()()()()()()()()、私は何時までも目の前の幸せになんて気付けないんだって……!!」

「……光咲?」

 光咲の様子が、おかしい。

 いつもは大声なんて出さない光咲が、溢れ出す感情を抑えきれていないかのように声を荒げている。

 ……それに。

「相手って……なんでいきなりそんな話になってるんだよ……?」

「……ごめんなさい。ちょっと本に影響され過ぎたわ」

 本に影響されたなんて、見え見えな嘘を吐きながら逃げ出そうとする光咲。

「おい……ちょっと待──ッ」

 ……また、このタイミングで。

「醜人……!!」

「……嘘、でしょ?」

 遠くの高台から偉そうに俺を見ているのは15体の醜人。恐らく、「仲間を殺された復讐」という大義名分を手に入れて漸く俺を殺すことができると喜び勇んでやってきたのだろう。

「クソ……こうなったら……」

 

 ──今自分の目の前にある幸せをとことんまで追い求めなさい

 

「……ッ」

 地面に置いたバッグの中のコネクトドライバーへと伸ばした手が止まる。

 ……いがみ合うだけじゃない、新しい生き方。

「どうしちゃったんだよ……俺は……!」

「時晴ッ!!危ない!!」

 突如世界がひっくり返る。

 いや、俺がひっくり返ったのか?

 でも、体はそれほど痛くなくて、それどころか何処か慣れ親しんだような、安心感さえあって……。

 いや、そもそも俺は今、何処にいる?

 さっきまで私を殺そうとしてたあの醜人どもは何処に行った?

 その疑問は、一瞬の内に解消された。

 逆さまの世界で醜人どもは地に伏し、こっちを憎々しげに──いや、表情はわからないが──睨んでいる。そして、俺は何かに抱えられていて。

「──ごめんなさい、時晴。私ずっと、貴方に隠し事してた」

「──は?」

 声がした。

 いつも聞いていた、友人の声が。

 見上げると、そこにいたのは──確かに、光咲だった筈の存在。

「光咲が……醜人?」

 俺を抱えたその手は異様な程に肥大化して、まるで鎌のようになっていた。

 ……まさか、そんな事。

「ごめんなさい……気持ち悪いわよね……」

「気持ち悪いとかじゃなくて……光咲、お前……」

 その腕は、確かに()()()2人を殺した腕で。

「仕方ないから……ここは一旦逃げ」

「──もういい」

 今はただ、生き残ることだけを考えよう。

 気持ちの整理だとか、復讐だとかは……きっとその後でも、できる筈だから。

「ちょっ、時晴!?何処行くの!?」

 身をよじって光咲の腕の中から抜け出し、バッグへと走る。

 取り出すのは、バッグの中で確かに異様な存在感を放つコネクトドライバー。いつから準備されていたのか、既にメモリがセットされているリモコンをドライバーに装着してから取り出す。

「俺はお前達とは違う……仲間の仇だとか、そんな大層な理由があるわけでもねぇ……ただ、俺がやりたいことをやる為だけに戦う……!!」

 何故か明らかに動揺している光咲……を睨みつける醜人どもに目を向ける。

「お前等がその邪魔をするなら、俺はッ!」

 腰にドライバーが触れると同時に、ベルト帯が生成され、俺の全身は光に包まれる。

Connect in "BLURS" Crow Petal

 ドライバーから響く電子音。それと共に、光は去り、俺は変身する。

 新たな姿──仮面ライダーブラーズ クローペタルに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の光景が信じられない。

 仮面ライダーブラーズ。

 私達醜人の中ではその存在を知らない人なんて誰もいないほどに有名な存在だった。

 ……勿論、悪い意味で。

 ブラーズは見かけ次第──いや、寧ろ自分から態々出向いて──は醜人を狩り、今まで私達を幾度となく恐怖のどん底へと貶めてきた存在。まさか、よりにもよって時晴がブラーズだったなんて。

「……なんだこれ、殆ど変わってなくないか?でもなんか手首に付いてるし……」

 そんな事、絶対に信じたくない。でも、目の前の景色はまるでそんな私を嘲笑うかのように、黒い鎧に身を包んだ時晴を映し出す。

 確かに、噂通りの見た目。

 

 ──仮面ライダーブラーズ、及び自身をブラーズと名乗る人間を発見したら速やかに……

 

 じゃあ、私は。

 

 ──殺害すること

 

 彼を……時晴を、殺さなきゃいけないの?

「コイツ等、全員鼠醜人(ネズミシュウジン)かよ……しゃらくせぇ!!」

 そんな私の葛藤を知ってか知らずか、何度か私の鎌が届く距離まで入ってくる時晴。彼が両腕に力を入れた瞬間、両手首に付いていた何かの装置から、彼の前腕より少し長い程度だろうか、光の刃が生まれる。

「うおっ、成る程ねぇ。クローとCrow(カラス)を掛けてるってわけか。……綴り違くない?」

 そんな事を言いながら、迫りくる一匹の鼠醜人をいとも容易く切り裂く時晴。

 ……いくら彼等から仕掛けてきたとは言えど、同族が殺されてる様を何もせずに見るのは、やっぱり辛い。

 でも。

 時晴は、私の大切な友人(大好きな人)で。

「そこの蟷螂醜人(カマキリシュウジン)!!お前も手伝え!!俺達が死んでもいいのかァーッ!!」

 下品な声で騒ぎ立てる鼠醜人。いくら命令だとは言え、こんなに偉そうな、話したこともないような人を守るために私は時晴を殺さなきゃいけないなんて。

 そんなの、嫌だ。

「うるっせぇな……セイヤァァァッッ!!!」

 雄叫びを上げながら次々と鼠を殺していく時晴。鼠醜人が6人にまで減ったその時、彼はリモコンに手をかけ、リモコンスロットをゆっくりと倒す。

「オイ蟷螂ィ!!テメェも手伝えよォ!!醜人()()だろォ!?」

 ……仲間?

「違う……私は……!」

 私が叫ぼうとした瞬間、突然鼠醜人達の頭上に紫色の輝きが現れる。

「……何、アレ?」

 時晴がリモコンを押し込み、『BLURS,Final Attack……Crow!!!』と言う音が鳴り響いたと共に、醜人と醜人の間、そして、時晴と醜人の間に薄い光の線が生まれる。

 ……これは、まずいかもしれない。

 直感でそう思った。

 元々醜人の姿でいたのが功を奏したのか、さっきまで鼠醜人がいた高台くらいの高さまでなら跳ぶことができる。時晴が動き出すのに合わせて全力で跳ぶと、彼は紫色の光を纏って目にも止まらぬ速さで鼠醜人達の間を駆け抜ける。

 ……いや、違う。

 駆け抜けるだけじゃない。彼は醜人を引き裂くと同時にバックステップし、そして次の醜人へと向かっている。そして、再び切り裂いたかと思うと次の醜人へ……。そうして、一瞬で6人全員を殺したのだ。

 崩れ落ちる鼠醜人達との間に七芒星の光を残しながら、元々いた位置で気怠そうに立つ時晴。私が地面に着地し、人間の体に戻るのと同時に、死体は大爆発を起こしてその原型を失った。

「──で、」

「……ッ!」

 ゆっくりと私に向かって歩いてくる時晴。そのままクローを私の肩に充てがったと思うと、何も言わずに変身を解除する。

「ごめんなさい……私、ずっと隠し事してた……でも、時晴が仮面ライダーだったなんて、その……」

「灯台下暗しってのは──こういう事なのかもな」

「……え?」

 焦って早口になる私とは対照的に、時晴は静かに呟く。

 そのまま時晴は何もせず帰ろうとする。

「えっ……ちょっと、待──」

 私の声にも答えず、彼は鞄を持って、家へと歩いていってしまった。

 

 私は今までずっと醜人だってことを隠してて、人間のふりをしていたというのに。時晴は私を殺すことをせず、それどころか軽蔑の目を向けることさえしなかった。

 寧ろ、私を見つめる目の中に見えたのは。

 どうしようもない程の、悲しみ。

 私なんて、りーちゃんの付属品程度にしか見られてないと思ってたのに。

 私が思ってたより時晴はずっと、私のことを「友達」だと思ってくれていた。

「……行かなきゃ」

 追いかけなきゃいけない。そんな事、わかってる。

 でも、私の足は動いてはくれなかった。

 

 ……もう、時晴と今まで通りに仲良くするのは、無理かもしれない。

 そう考えたら、どうしても涙が止まらなくて。

「せっかく……“好き”になれたのに……ッ!」

 まるで私の心の中を読んだかのように振り始めた雨は地面を打ち、私の涙さえもをかき消していく。

 

 これが夢であってくれたら、どんなのよかったか。

 そんな、正に夢のようなことを想像しながら、私はただ、泣き続けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Day-3「Radiance」

 

 

 

 

 

 

 

 




【特別編】仮面ライダーモース コネクテッド・スパイラル
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