仮面ライダーモース   作:小淵良樹

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執筆:小淵良樹
今回から書き方が井上敏樹スタイルになります。後クッソ久々に書いたのでかなりグチャグチャです。許して


鳴り響く希望の唄
ACT5-前編


「──おい、起きろ」

 耳に入る聞き慣れた声に、楓夕は目を覚ます。彼女の目に入ってきたのは、ガレージを背景に、気だるさを隠そうともしない男の顔。

俊也(しゅんや)……?」

「……いつまで寝ぼけてるつもりだ、お前は」

 

 あぁ、そうか

 楓夕は一人納得する。

 ()がこの男の名前を呼んだのは、一体いつぶりだったか

 彼がこの組織(ターマイト)を立ち上げて、次第に仲間が増えていって。

 そうして、いつしか彼女も彼のことをトップと呼ぶようになって。

 

「おい、どうした? どこか悪いのか」

「──アァ、なンでもないゾ。ちょット黄昏レてタだけダ」

「黄昏れてた……?」

 本当に意味がわからん、とため息を吐く俊也。バイクから離れガレージの扉を開けるその背中と、仮面の下から自らを射抜いた()()()()()が、楓夕の瞳の中で重なる。

 ただ眼の前のもの全てを殺し尽くさんとする、光のない目。

 あの仮面ライダー……モースは、確かに、俊也に似ている。

「……ハァ」

 憂いか、それとも、何かしらへの喜びか。楓夕は自分でも理解しきれない感情が籠もったため息を吐いた。

 それがモースに向けられたものか、それとも、別の誰かに向けられたものなのか。楓夕が零した呟きは、彼女を呼ぶ俊也の声に、静かにかき消されていく。

 

 

「……なンて退屈ナ道化師だコと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ここは」

 瞼を刺激する優しい光で、時晴は目を覚ます。

 また俺は、ここに来たのか

 彼は一度、同じ空間を訪れたことがあった。とは言っても、彼自身が望んで足を踏み入れた訳ではないが。

(貴方と顔を合わせるのはこれで二度目ですが……随分と、顔つきが変わりましたね)

 頭の中で直接響く声に、時晴は顔をしかめる。やはり、この感覚は嫌いだ

「それで……今回は、何のために呼んだんですか」

(すいません、何度も無理をさせてしまって……ですが、もう少し我慢してくださいね)

 自らの不満を態度に出さないようにする時晴だったが、()()はまるで彼の心の中を見透かしたように苦笑し──尤も、表情は見て取れないわけだが──謝罪する。

 今度は一体、何を言われるんだ

(あの子の事……ありがとうございました)

「……んぇ?」

 思いがけず丁寧な感謝の言葉をかけられたことに、素っ頓狂な声をあげる時晴。前回は、もっと厳しかったような。彼の頭の中を疑問が埋め尽くす前に、再び()()の声は響く。

(無事、とは言えないかもしれませんが……それでも、あの子が生きているのは、貴方が助けてくれたお陰ですから)

 あまり下手なことは言わないほうがいいと判断したのか、そんな事、と出かけた言葉を時晴は飲み込む。

 それに、あまり長引かせたくもないしな

 それが見知らぬ他人か、気の知れた友人であるならあまり問題はないのかもしれない。しかし、相手は共に暮らしている──よりにもよって異性の──相手の母親。

 つまるところ、彼は今、人生で最も気まずい時間を過ごしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時晴とその同棲相手──つまり光咲の母が初めて会ったのは、モースが楓夕と戦う少し前、時晴が最初にこの空間に入ったときのこと。

 目を開けた時晴が最初に認識したのは、どこまでも続いていく、美しい純白に染まった世界。

 俺は……死んだのか

 時晴は驚いていた。自分が見知らぬ空間にいるからではない。寧ろこれが死後の世界とするのであれば、何らおかしいことはないだろう、とさえ思った。ただ、その事実を冷静に受け止めてしまった自分自身が信じられなかった。

 嘗ての時晴ならば取り乱し、見知らぬ世界のことも、自身がどのような状況かも、簡単には受け入れられていなかっただろう。それどころか、恐怖で動くことすらできなくなっていたかもしれない。

 しかし、その時彼が恐怖する対象は、他でもない自分自身だった。

 まるで、俺が俺じゃないみたいだ

()()姿()になるときに感じた、身体が作り変えられていく感覚。或いは、心がなくなっていくような、もっと内面的なものを書き換えていくような感覚。並の人間ならば到底耐えられないそれを前にしても、時晴はうめき声1つあげることができなかった。

(貴方、名前は?)

「……は」

 どこかから響く声に、時晴は思わず周りを見回す。

(名前は、と聞いているのです)

 いつまでも質問に答えない時晴に、苛立ちを隠そうともしない声の主。

 いや、姿も見えないやつに、名前なんて言えるわけないんだが

 小学生に声をかける不審者か己は、と言おうとして時晴は思いとどまる。

「水上……時晴です」

(時晴さん……ですね。私は氷室華蓮(ヒムロカレン)。不審者ではない、とだけ言っておきましょうか)

「ごめんなさいでした」

 何故心が読まれたのかはわからないが、取り敢えず全力で謝罪しておく時晴。絶対に逆らってはいけないと、彼の直感が告げたのだろう。

(別に謝らなくていいです。姿も見せない相手を信じろと言う方が難しい話ですから)

 ……それで、と華蓮は続ける。

(端的に言いますが……モースの力を、手放してもらいます)

「──は?」

 一方的に告げられた宣言に、時晴はただ困惑する。そもそも、モースってなんだよ

(冷静に考えるような余裕はなかったでしょうから、覚えていなくても仕方がありません。貴方が“変身”したあの姿、それがモース……仮面ライダーモースです)

 仮面ライダー。

 時晴が子供の頃に放送されていた、特撮番組。

「仮面ライダー、って……」

(生憎ながら、あまり長話をする余裕もありませんので。貴方はただ、その力を手放せばいい)

 お前の意見は聞いていない。言外にそう言われ、時晴の中に段々と苛立ちが募っていく。

 なんだよ、じゃあお前が全部なんとかしてくれるのかよ

 まるで自分が被害者であるような考え。自ら首を突っ込んでいった挙げ句そのようなことを考えてしまう自分に、時晴は嫌悪さえ覚えた。

(このままモースの力を使い続ければ、貴方はもう元のように戻れなくなるでしょう。きっとそれは、()()()も望まない)

 あの子……光咲のことだろう

 お前に光咲の何がわかるんだ。そう言おうとするも、時晴は思いとどまる。彼も彼女の全てを知っているというわけではない。

「なんだよ……戻れなくなるって」

 代わりに出たのは、ただの疑問。

(……貴方なら、わかるでしょう?)

 その言葉と共に、時晴の視界は暗転する。次いで目に入ってきたのは、地面に広がるおびただしい量の血液と、所々に見える肉の塊。

「これって……」

(貴方は、この人々を無意識に殺した……モースの力で)

 時晴は自分の両手を見つめる。彼の腕は既に人間の物でなく、時晴が殺した者達の血で真っ赤に染まっていた。

(私は……貴方が本当に正義の心を持っていると、信じています。だからこそ、だからこそもうこの力は手放してほしい。貴方の心がどこかに消えてしまう前に)

 ふと、時晴の身体が宙に浮く。

(もう時間がありません。ですから、お願いです。早く、こちらにモースを……)

 再び時晴を包む純白の世界。その中から、闇を纏った手が時晴に伸びていく。

 本当に俺の心がおかしくなるって言うなら、もうこの人に任せたほうがいいんじゃないのか

 まるで心の中を書き換えられたかのように時晴の考えが変わっていく。

 ……でも

「それは……できない」

(何故? 貴方だって、心を失いたくはないでしょう?)

 ……そんなの、当たり前だ

(それにさっきも言いましたが、貴方がモースを手放すことがあの子のためにもなるんですよ。お互いに悪いことはない筈です)

 ……確かに、そうかもしれない

「……でも」

 それでも。

「一度乗り込んだ船だ……こんなところで投げ出せるわけ、ねぇだろ……!!」

(この先にあるのは血塗られた道……そんな理由で、貴方は自ら進んでいこうというのですか……!?)

 その声に、僅かに驚愕が乗る。

「それに……あんな理由で首突っ込んで、俺だけ逃げるなんて……」

 罪悪感を滲ませる時晴。しかし、その言葉とは裏腹に、彼の瞳には強い意思が宿っていた。

 下らないヒーローごっこに巻き込んで、失望させて、迷惑をかけて。

「そんな事、できねぇよ……いや、やりたくねぇ……!!」

 どれだけ嫌われようと、どれだけ憎まれようと。

(貴方は、一体……)

 ここで、逃げ出すくらいなら。

「死ぬまで、俺が守ってやる……!!」

 純白の世界に罅が入り、時晴の視界をノイズが覆い尽くす。

(……こうなるとは予想外ですが……仕方がありません。ですが、最後に一つ)

 

 

 

 

(──私、あの子の母親ですからね?)

 

 

 

 

 ──私は()()華蓮……

 

 ──お前に光咲の何がわかるんだ。そう言おうとするも……

 

 

 

 

「oh……」

 

 時晴は青ざめる。彼が偉そうに啖呵を切った相手は、彼が巻き込んだその人の、母親──。

 (あたし)って、ホント馬鹿……

 最後まで締まらない時晴の身体を、眩い光が包み込む。

 

『Connect in "MORCE"』

 

 彼が最後に耳にしたのは、ただ只管に無機質な機械音声だった。

 

 

 

 

 

 

 

「その説は本当に申し訳ございませんでした」

(えぇ……)

 床も地面もなにもない空間で美しい土下座を決める時晴に、思わずそれ──もとい華蓮は困惑の声を漏らす。第一、私は感謝をしていたはずなのですが

「娘さんに多大な迷惑をおかけした挙げ句とってもてもても偉そうなことを言いやがってしまいました私を罰しまくってください」

(えぇぇぇぇ…………………………)

 わけがわからないよ。

 何故か無駄に語感のいい謝罪に困惑し続ける華蓮の姿はさながら宇宙猫……否、宇宙キュ◯べえ。

(ま、まあ兎も角。色々と教えなければならないこともありますし。こんな空間で長話をするのも難ですから……)

 鈍い音とともに、時晴の視界から色が消え失せ、世界が作り変えられていく。

 ……尤も、当の本人はいつまでも頭を下げ続けているため気付いていないのだが。

 これは……多少乱暴になっても許してくれるでしょう

 いつまで待っても、時晴は顔を上げない。そう判断した華蓮はパン、と掌を鳴らす。

「もう本当に謝罪のしようもございま──背中痛ァ!?」

 その瞬間、時晴は背中から地面に打ち付けられた。

 さっきまで床なんてなかったのに、そう思いながら時晴が周りを見渡すと、そこに広がっていたのは小洒落たカフェ。

「これなら、少しは話しやすいでしょう?」

 いつの間にか一番奥の座席に腰掛けていた美女は、時晴に微笑みかける。

「あぁ、そう言えば、姿を見せるのは初めてでしたね」

「華蓮……殿

「殿て」

 華蓮の微笑みが崩れた。

「いや、あの……無難に、さん付けとかでもいいですよ……?」

「イエッsir↑」

「んぐぅ」

 それでも余裕あり気に振る舞おうとした華蓮だったが、時晴の美しい発音によって遂に彼女の腹筋は限界を迎えた。

「……っ」

「ヴェッ!? 華蓮さん、どうかしました!?」

「誰の……せいだと、思って……ッ!」

 華蓮のすぐ後ろをあたふたしながら走り回る時晴にハムスターの幻影を見た華蓮は再び吹き出しそうになるが、今度こそはとなんとか耐え抜く。

「……もう大丈夫です」

「大丈夫ならいいですけど……」

 いや、これだけで済まされるのもそれはそれで腹立つ。そんな自分の我儘──いや、全くもって正常な感情である気もするが──を押し殺し、華蓮は再び口を開いた。

「それで……何故貴方はそこまで私に謝罪しようとするのですか? 寧ろ、私の方が謝罪するべき立場だと思いますが」

 座ってください、と引き出された椅子に時晴は腰掛ける。

「普通に、生意気な口利き過ぎたってのもありますけど……それ以上に俺は、本当に軽はずみに、この件に関わってしまいました」

「それは、聞かずともわかっていました。外のこともある程度は把握していましたしね」

 先程までとっとこ走っていたとは思えないほどに静かな声色で、時晴はポツリポツリと言葉を零していく。

「だからこそ、どれだけ憎まれようと仕方ないと思ってて。例え俺の居場所がなくても、後は光咲を守ろうとだけ思っていました」

「……」

 華蓮は何も言わない。ただ、時晴が話し終わるのを待つ。

「そう、覚悟した筈なのに……結局、光咲の優しさに甘えてるんじゃないか、って」

「あの子は貴方が思うほど、強くない」

 時晴は目を見開いて華蓮を見やる。華蓮はああ、別に怒ってるとかじゃなくてですね、と苦笑しながらも、しかしその目を時晴から逸らすことはない。

「ですから……いえ、これは貴方自身が気付くべきことですね」

 はい、この話はここでおしまい

 そう言わんばかりに、華蓮は無理矢理話を切り上げた。呆気にとられる時晴の頭に、華蓮の手が伸びる。

「えっ……ちょっ、あの」

「まだ考えなくてもいいことですよ。だから、今は」

 

 

 

 

 ──よく頑張ったね、時晴。

 

 

 

 

「──ぁ」

 

 時晴の頬を、一筋の雫が伝う。

 英雄である以前に、仮面ライダーである以前に。

 水上時晴という、一人の少年が無意識に求めていたこと。

 

 頑張りを認められる、たったそれだけ。

 

 

 どこか満たされた気持ちで、時晴は涙を流し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ACT5-前編「なンて退屈ナ道化師だコと」

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘を終えて家路へ向かうターマイト団員達。

疲れからか、不幸にも黒塗りのモースバイラーに追突してしまう。

後輩をかばいすべての責任を負った俊也に対し、

バイラーの主はこの男!

嘆きのニューライダー
      水 上 時 晴



次回、仮面ライダーモース
ACT5-後編「■■た■か■、守■■だ」
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