仮面ライダーモース   作:小淵良樹

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執筆:小淵良樹

初めて9000字超えの小説を書きました。
最後の方とかだいぶ雑になってるけどユルシテ……


ACT2

「──どこに連れて行くんですか!?離してくださいッ!!」

 県内でも常に学力ランキングトップ10には入っている、義務教育学校の正面入口。いつも多かれ少なかれ生徒が食事をしている筈のその場所には、今日この時だけは誰一人として近寄ろうとせず、銃器を抱えた男達とそれに囲まれる教師だけがいた。

「ですから、あなたも醜人を擁護したとして罪に問われているんです!まずは署に来ていただかないと……!」

「署ってなんですか!?今はもう警察は機能していない筈ですよね!?私に……あの子達に、何をするつもりなんですか!?」

 教師の名は、花守愛美。今正に、治安維持隊・醜人取締部隊に敵対した容疑で逮捕される所であった。

 醜人──それは、突如現れた人型未確認生命体。

 性質は残虐にして傲慢。今まで数々の暴力・殺人事件を引き起こしてきた……と言われている。

 勿論学校など入れるわけもなく、そこは上位存在である人間だけを受け入れる、言わばセーフティーゾーンのような物だった。

 にも関わらず、学校の中にも醜人は入り込んでいた。

 氷室光咲。彼女こそが周りを嘯き、学校に入り込んだ醜人の正体であり、ただの生徒思いの教師であった筈の花守が逮捕されることになってしまった原因でもある。

 ……いや、或いは。

 彼女を突き動かしたのは、醜人に味方していた少年、水上時晴の方かもしれない。

 何人もの男に囲まれ、虐め……と言うにはあまりにも惨すぎるものを受けていた少女を助けた少年。

 ──僕は絶対、ヒーローになる!

 そう語った()()()と全く同じ目をして、少年は確かに言った。

 醜人だって、同じ学校の仲間だ……と。

「──ッア゛!?」

 首筋に電流を流され、膝から崩れ落ちる花守。

 考え込みすぎていたのか、後ろからスタンガンを持ったメンバーが迫っているのに気付けなかったようだ。

 後悔するも、彼女の意識は既に暗闇に沈み、まともに物事を考えられるような状況でもない。

 彼女の瞼に浮かんだのは、何だったのだろうか。

 苦しむようで、それでいてどこか安らかな顔で彼女は眠りにつく。

「これが……醜人用スタンガンの威力ですか……」

 一方で、彼女にスタンガンを当てた男はまるでその力に怯えるかのように顔を引き攣らせている。

「あぁ……そうだな。まあ安心しろ。別に死んでも構わねぇしな」

 怪訝そうにする男に、その上司らしき男はニヤリと笑って持っていたトランクから何かを取り出す。

「そういえば……お前は今回が初めてだったな。よぉ〜く見とけよぉ……?」

 そして、闇が溢れる。

 闇が晴れた後には一切の物がなくなり、普段と変わらぬ景色が広がっていた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「──なさい。早く起きなさい」

 

 ゆっくりと意識が覚醒していく。

 ……確か、俺は。

 虐められてる醜人の女子を助けようとして、そしたら、よくわかんない男達が来て、そこから……。

 

 ……愛美ねぇ。

 

「──愛美ねぇッ!?」

 

 愛美ねぇを助けなきゃ。そう思って勢いよく飛び起きた……途端に何かが額に勢いよく当たり、再び仰向けに倒れることになる。

「いってぇぇぇぇ!!!!!!」

「──っつぅぅぅぅ!?周り見てから動いてくれないかしらぁ!?」

 痛みに悶える俺の前にかけられるのは、心配なんかではなく腹立たしそうに呻く声。何事かと声が聞こえる方に目を見やれば、そこでは氷室が俺と同じように額を抑えプルプルと震えていた。どうやら、俺が勢いよく起き上がりすぎたせいで氷室の額と俺の額がそれはもう物凄い勢いで正面衝突したらしい。

「……なんでそんな近くで呼びかける必要があったよ」

 そもそも普通に起こすだけだったら、よっぽど変な起き方じゃない限り顔同士がぶつかることなんてあり得ないと思うんだが。

「あら……馬乗りになって起こせば人間はすぐ起きるって聞いたのだけど」

「やめようか」

 こいつ、こんなキャラだったっけ?

 元々は教室の隅っこで誰とも話さず静かに本を読んでいるような……。

 ……いや、まさか。読んでたのって、もしかして──

「──そんなことより愛美ねぇだ!!愛美ねぇは連れてきてないのか!?」

 そういえば、愛美ねぇの姿が見えない。あの時食堂にいて、狙われていたのは3人の筈なのに、この場には俺と氷室しかいない。

 焦る俺に「落ち着け」とハンドサインを送りながら、氷室は落ち着いた声で話し始める。

「先生はきっと大丈夫。ただでさえ減ってる教師を態々自分達から減らすとは思えないもの」

 まあ、一部の記憶くらいは消されるかもしれないけど……と付け足しながら、いつの間に入れていたのか、ブラックコーヒーを手渡してくる氷室。

「……そう言うなら、大丈夫なんだろうけど」

 ……苦い。

 どうやら俺にブラックは合わないようだ。しかし飲まないとなんか負けた気がするので一気に残りを飲み干す。

 ……熱い。

「それ、で……氷室、本当にお前、醜人……なんだよな?」

「別に、光咲でいいわよ。私も時晴って呼ぶから。……さっきも見たでしょうけど、そうね……私は醜人だけど。何か気になることでもあるかしら?」

「いや、気になることと言うか……」

 正直、現実感がない。

 何しろ本物の醜人と話すなんてこれが初めてなのだ。それに、まさか学校の中に醜人がいたなんて……。

「……いいわ。それじゃ、行きましょう」

 いつまでも黙っている俺に見かねたのか、また別の話題を話し始めるひ……光咲。

「行くって……何処にだよ?」

 第一、ここが──周りを見渡す限り小さい小屋のようだが──何処なのかもわかっていないのに次に行く場所なんて言われても。

 そんな俺を光咲は目を見開いて見つめる。

「何処って……私達の隠れ家以外ないでしょう?ここはあくまで緊急避難用よ」

「……はっ?」

 私達の、隠れ家?

 つまり、俺と、光咲の?

 光咲は……俺と光咲が一緒に暮らす……って言おうとしてるのか?

「いや、いやいやいやいや……それは駄目だろ、流石に」

「それは駄目だろって……あなた、このまま自分の家に帰れるとでも思ってたの?」

 真っ直ぐに俺を見据える光咲。声は段々と怒気を帯びていき、先程まであった筈の落ち着きは消え去っていた。

「あなたまさか、自分が何をやってるのかもわかってないくせに正義感で助けたとか言う訳じゃないわよね!?私が殴られてたからって正義のヒーローのつもりで出てきただけだなんて、そんな訳ないわよね!?ねぇ、黙ってないでなんとか言いなさいよ!!時晴ぇ!!!」

 物凄い剣幕に押され、何も喋れなくなる。

 ……いや、違う。

 何も間違ってないんだ。俺は何もわからず、ただ下らない正義感で助けただけだった。……いや、結局、()()()()()()()()だけだった。俺はただ理想論を叫んだだけで、結局あそこを切り抜けられたのは愛美ねぇのお陰であり、光咲のおかげだった。

 言葉に詰まる俺を見る目が、段々と冷たくなっていく。怒りすらも通り越した、失望の目。

「……もういいわ。私は行くから、あなたは勝手にしなさい」

 そう言い残し、光咲は扉に手をかける。

「みさ……」

「来ないでッ!!!」

 追いかけようとするも、拒否してくる光咲。なんとか言い訳をしようとするも、聞く耳も持たずに歩き出してしまう。

……やっと、信じられると思ったのに

 ほんの一瞬だった。

 ほんの一瞬だけ、俯いたその横顔に、光咲の本当の気持ちを見た気がした。

 扉を開けてそのまま闇が広がる外へ歩き去る光咲。

「おい……待てよ!待ってくれ!」

 置いて行かれないように急ぎ足で光咲を追いかける。

 見た所、ここは何処かの山奥。少なくとも俺達が暮らしている都市部ではないようだ。こんなところで1人になったら帰れる気がしない。

 ……それに。

 多分、光咲を1人にしてちゃいけない。

 どれだけ拒否されてようと、ここで着いて行かなきゃ一生後悔する。そんな気がした。

「ちょっ……早い!!早いって!!」

 流石は醜人といった所か、俺じゃ這うように進むので精一杯な道もひょいひょいと飛び越えていく。

「着いてこないでってば!!……お願いだから、もうやめ──」

「あれェ……?氷室サんと時はレくんじャないでスカぁ……」

「──ッ!?」

 光咲が再び俺に怒鳴った瞬間。

 後ろから、聞き馴染みのある声が聞こえた。

 それでも、いつも聞いていたはずの温かさはなく、まるで、機械人形のような……兎に角冷たい、無機質な声。

「愛美……ねぇ……?」

 確かに、何処からともなく現れたのは愛美ねぇだ。その筈なのに、()()はまるでもっと恐ろしい怪物のような雰囲気を発しながらゆっくりと歩み寄ってくる。

「駄目デすよォ……コんなニ暗イじかンに外ヲ出あルいちャァ……」

「愛美ねぇ……どうしたんだよ?いつもとなんか雰囲気違うし……それになんでこんな所に」

「下がって!!時晴!!」

 愛美ねぇの側に寄ろうとするとする俺を大声で制止する光咲。光咲はそのまま俺に近付いてきたかと思うと、俺と愛美ねぇの間に立つ。

「気付かないの!?私にもよくわからないけれど……今の先生は危険よ!!」

「そんなこと言ったって……こんな所に放置しとくわけにはいかないだろ!!」

 絶対に、偽物なんかじゃない。なのに、愛美ねぇでもない。

 ……俺にも上手く説明できないけど、だとして放置しといたらもっと大変なことになるってことくらいわかる。

 それでも、光咲は俺の話なんてはなから聞くつもりがないのか長方形の塊を取り出し、それを腰に装着しようとする。

 何をする気だ──叫ぼうとしたその時、異変は起こった。

「うア、わたシ、ヤ……あアアああアアアァアアアアアアア!?!?」

 愛美ねぇが突然絶叫し始めたかと思うと、その背中からナニカ──まるで触手のような、それでいて闇を帯びている、言葉では形容できない何か──が体を突き破って出てくる。そのナニカは一瞬の内に愛美ねぇの全身を包み込み、やがて巨大な1つの影になる。

「何よ……これ……?」

 目に見える一切の景色を理解できない。

 驚愕と畏れで固まる俺達の前で、その影は遂にその姿を顕した。

 10m程の大きさの、巨大な一本角を構えた四足歩行の怪物。

 なんだよ……これ。

 これじゃ、まるで……

「成る程……まさか醜人共の方が適正が高いとは」

 俺達の後ろ──つまり、俺達が向かっていた方向──から取締部隊の連中が現れ、興味深そうに怪物を眺める。

「あんた達、まさか……!!」

「どの道お前等に生き残る術はないから教えてやろう。これは醜傀獣(シュウカイジュウ)。このメモリを醜人か人間かに接種させることで作り出せる、最強の生命体だ」

 そう言いながら、先頭の男は懐から薄い金属製の板のような物を取り出す。

「なんであんた達がそれを……!?」

「おぉ……お前の母親が開発した……コネクトドライバーとやらの技術を拝借させてもらった。醜人にも関わらず()()()の未来に貢献できて幸せだろ?」

 冷静さを失い今にも飛びかからんとする光咲も、下品な笑いを浮かべながら得意げに話す奴等も……何もかもがゆっくりと動いて見える。

 ……人間にメモリを接種させることでできるのがこの怪物で。

 この怪物が愛美ねぇなのだとしたら。

「おい……お前等……」

「あぁ?さっきのクソガキ……お前も残念だがここでさっさと死んでもら」

「まさか……愛美ねぇに……」

 ──は?と、気の抜けた声を出す男。しかしすぐにその顔はニヤケ面に変わり、俺を笑い始める。

「どうやらお前はこの醜人と違って理解力がねぇようだなぁ?仕方ねぇからもう一度言ってやる……。お前の教師は、バケモンになって死」

 

 その瞬間。自分の中で、何かが音を立てて崩れ去った。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「これが……最後の戦いだ」

 辺りを照らす夕日、それは今この瞬間の最後を彩るためだけに存在していた

「受けろ……我が究極の一撃を!」

 眼前に映る異形へと吐き捨てるは、光り輝く鎧を纏いし戦士

 戦士の手に握られた剣によって、異形は切り刻まれていく

 ただ、眩しく

 ただ、美しく

 異形と戦うその背中には、哀しみだけを背負う

「とどめだ……ハァァァァァァァ……!!」

 人々は、その戦士を──

 

 

 

 

 ──「仮面ライダー」と呼んだ

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「タアァァァァァァァァッ!!!」

 暗い森にまだ10代であろう男の絶叫が響く。

 熊か暴漢にでも襲われたのか……現場で起こる惨状を知らない者ならば、真っ先にそれを疑うだろう。しかし、状況は真逆。今丁度、絶叫を発した少年が銃器を持った集団の先頭にいる男に飛び蹴りを放ったところであった。

「──ッグゥ!?このガキが……ッ!!」

 実際には怪我1つしていないのだろう。しかし、絶対に抵抗しない筈の()()が自分達に歯向かってきたことに、男は酷く憤慨していた。

「クソが!!ブチ殺してやるッ!!」

 食堂で見せていた丁寧な態度は何だったのか、完全に冷静さを失い持っていた巨大な銃器──恐らく、アサルトライフルと言われる物だろう──で辺りに銃弾をバラ撒く男。

 少年の体にも風穴が開く……かに思われた瞬間、男と少年の間に人型の怪物──醜人が入り、銃身を殴って男の体諸共10m程先まで投げ飛ばす。

「時晴……!あんたこんなことして、ちょっとはこっちのことも考えッ……!?」

 醜人が少年を怒鳴ろうとし、息を呑む。

 少年の顔は、これ以上無い程の闇──憎しみに、染まっていた。

「おっ……おい!醜人!!これがベルトなんだろ……?……へへっ、これがありゃ、俺だって……!」

 他のメンバーが醜人と少年に向かって発砲しようとした瞬間、先程まで少女の姿だった醜人がいた場所から卑俗な笑みを浮かべた男の声が響く。

 彼は少女が醜人に変身する際に落とした長方形の塊を持っており、それを腰に近付ける。

「──え?」

 男は長方形の塊を──正確に言うならば、塊を持っていた腕を見る。

 ……ない。

 つい5秒前まではあった筈の、自分の腕がない。

「──ぁ……あぎゃあああああああああああああ!!!!ぼぐのうでええええええええええええええええええ!!!!!」

 勢いよく倒れて地面をのたうち回る男を前にして、右腕の鎌から血を滴らせながら立つ醜人。周りに立つ男達は数拍置いて状況を理解し、醜人へ怒りのままに銃を連射する。

「化け物がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ……だからこそ、気付けなかった。

 少年が、長方形の塊を拾っているのを。

 ただ1人、それに気付いた少女は彼の腕を先程のように切り裂こうとする。

 

 ──醜人だって……同じ学校の仲間だろ

 

 ……あんなの本心じゃない。ただ、正義のヒーローの真似事をしているだけ。

 そんなの、わかっている。それでも、彼女は少年を攻撃できなかった。

 やがて塊は少年の腰に触れると共に光を発したと思うと、遂に本当の姿を顕した。

 

 銀と黒が入り交じる、逆台形のシルエット。左側には何かを嵌める為の穴のような物──リモコンスロットがついており、そして、中央には太い、くすんだ黄緑色の「∧」の形が見える。

 コネクトドライバー。

 醜人の少女が付けるはずだった、戦闘の為だけに作られた最終兵器。

 少年はベルト帯に装着されていたリモコンとメモリーを取り出し、リモコンにメモリーを装着する。

Confirmation(確認)……』

 リモコンから流れる機械的な音声。そして、リズムに乗った音楽のような音──所謂、待機音と呼ばれるものだろうか──が流れ始める。

 そのままリモコンをリモコンスロットに差し込むと、再び機械音声が今度はドライバー全体から流れ始め、中心の「∧」の形は「∨」へと変化する。

『Connect in "MORCE"』

「アァァァァァァァァッ!!!」

 少年の絶叫と共に、彼の体は眩い光に包まれた。

 光が収まった先には、先程の少年はもういなく。

 代わりにいたのは、全身が鎧に包まれた、1人の戦士。

「──お前等だけは、許さない」

 ゆっくりと落ち着き払った声。しかしその奥に隠れる激情が溢れ出ており、例え彼から敵意を向けられていなかったとしても、近くにいた者は1人残らず失神してしまうだろう。

 ……いや、この場合。

 彼が取締部隊に向けるものは、決して敵意なんて生温い物ではなく。

 それを一言で表すならば、殺意。

 これから始まるのは戦いなんかではなく、ただの殺戮だと、きっとこの場にいた誰もが察していただろう。

 男達が武器を構える間もなく、その戦士は、戦場──否、獲物共の群がりへと駆け出した。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「ねぇ……どうしちゃったのよ……」

 どこかから、か弱い声が聞こえる。

 声の方向へと振り向けば、そこにいるのはいつの間にか人の姿へと戻った氷室。

 なんで、そんな目で見るんだよ。

 そう言おうとして、自らの右腕に掴まれた物体に目を見やる。

 ……は?

 形の変わった腕に握られていたのは、男の生首。

 慌てて後ろを見れば、そこに広がっていたのはおびただしい量の血液と、所々に見える肉の塊。

「……光咲」

 光咲に近寄ると、不安そうな表情を隠さずに俺の方に寄ってくる。

「教えてくれ、光咲……俺、何やってたんだ?まさか、これ全部俺が……なんて、そんなことないよな?それに、愛美ねぇはどうなったんだ?まさかあのまま戻ってないなんてことないだろうし、それにこんなことした奴がいるんだから今すぐここから逃げないと──」

「……時晴!!……仕方なかった。あなたは、罪悪感なんて感じなくていいから……」

 ……俺が、やった。

 どれだけ否定しようと、俺は、ここにいた数十人を殺した。

 なのに。

 どこかに、それをなんとも思ってない自分がいる。

「……先生は、怪物──醜傀獣、とか言ったかしら……になってから、全く動いてないわ」

 血溜まりとは反対側を見る。そこにいるのはかつて愛美ねぇ”だったもの”。それでも、攻撃を仕掛けてこないなら、まだ助ける手はあるかもしれない。

 そんな考えを捨てきれない俺に気付いたのか、光咲は「……でも、」と話を進める。

「多分だけど、この感じは……誰かに制御装置をつけられているのだと思う。もし制御装置が壊れたら、今度は暴走し始めるだろうから……今はここを離れましょう」

 まだ助けたい。

 少し前の俺なら、そう反論していただろう。でも、今はそんな余裕なんてなかった。

 1秒でも早く、ここから離れたい。

 再び歩き始める光咲に着いて行こうとした、その瞬間。

 轟音が轟いた。

 驚いて後ろを振り向くと、そこでは頭が半分潰れ、横に倒れ込む、元々は愛美ねぇだった醜傀獣。

「愛美ねぇッ!!」

 思わず駆け寄るが、醜傀獣は一切動こうともしない。

「おい、待てよ……頼むから、死なないでくれよ……もしかしたらいつか、まだ助ける方法が……ッ!」

「時晴!!避けてッ!!」

 ──え。

 声を出す間もなく、俺は空中へ放り出される。下を見ると、動かなかったはずの醜傀獣が俺の方にボロボロになった角を向け、雄叫びを上げていた。

 ……まさか、今のは。

 迫る角を間一髪で交わし、醜傀獣の背後に着地する。

「愛美ねぇ!!気付いてくれ!!俺は時晴だ!!別に愛美ねぇと戦いたいわけじゃない!!」

 何度も呼びかけるが反応はなく、寧ろ時間が経つに連れて攻撃の頻度が高くなっていく。

 心はそんな筈がないと叫んでいても、それでも、もう認めるしかなかった。

 ……愛美ねぇは、もう。

「危ないッ!!」

 光咲が叫び、目の前には巨大な角が迫る。

「──そこだ」

 狙うのは目。全力で殴ると、醜傀獣は甲高い悲鳴をあげ、後ろへと下がろうとする。しかし、そこで攻撃の手は止めない。今度は反対の目を殴り、醜傀獣が完全に視界を失った所で顎を蹴り上げる。

「ごめん……愛美ねぇ」

 これで、トドメだ。

 どこか心が欠けてしまったような感覚を感じながらも、あくまで冷静に対処する。

 リモコンスロットを倒すと反発して元の位置まで戻り、再び中心パーツが「∧」の形へと変化する。それと合わせて、高く跳ぶ。この姿になった影響か、視力もだいぶ良くなったようだ。この高さからでも光咲が何かに縋るように俺のことを見ているのすらもわかってしまう。

「絶対に、一撃で仕留める……ッ」

 きっと、それが愛美ねぇの為にもなる。そう信じて、リモコンを再び押し込んだ。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 リモコンが押し込まれると共に、中心パーツは「∨」の形に輝き、『MORCE,Final Attack!!!』と機械音声が鳴り響く。

「タァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」

 上空150mからの、光を纏った飛び蹴り。一瞬で醜傀獣へと到達し、反撃する隙も与えずにその体を焼き尽くす。

 モース・キックと名付けられたその攻撃が醜傀獣に当たる寸前、聞き馴染みのある声が時晴の耳に入った。

「──助けて」

「──ッ!?」

 どれだけ急いで進路を変えようとしても、既に彼の爪先は醜傀獣にのめり込み、内部からその体を破壊し始めていた。

 そのまま止まることはなく、容赦なくモース・キックは炸裂する。

 断末魔を上げ、爆散する醜傀獣。

 弾け飛ぶ肉片の中で、その死体を生み出した張本人である時晴は、ただ絶望したように立ちすくむ。

「時……晴……?」

 近くにいる少女もまた、立ちすくむだけ。彼に駆け寄ることも、慰めることもできずにいる。

「──なさい」

「……え」

 必死に声を絞り出す、元の姿に戻った時晴。

「ごめん、なさい……っ」

 どれだけ強い力を手に入れようと、どれだけ自分の敵を倒せようと、彼の中身はどうしようもなく人間であり、子供だった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

「時晴……」

 何をすればいいのかわからず、ただひたすら時晴に寄り添う光咲。

「──ごめんなさい、色々と……あなたに押し付けすぎたわ」

 勝手に抱いた期待も、その()も、何もかも。

 もしあそこで必死に声をかけていれば、あるいは彼がドライバーを使わずに済んだかもしれない……そんな自責の念が、少女の中に湧き上がる。

 

 

 

 

「フゥン……?なんだ、期待外れだナ」

 ……そんな2人の様子を、山の頂上から見ている女がいた。

 その女は華奢な体系には似つかない巨大なライフルを抱え、残念そうに帰っていく。

『……おい、手は出すなと言った筈だが』

 耳についている通信機から聞こえる男の声に、全く反省を感じさせない声で返答する女。

「ゴメンゴメン、それでもあの……何だったカナ?しゅ……集会……所?だっけカ?の情報は美味かったダロ?」

『醜傀獣だ……。……確かにあれをコントロールできて、尚且つコントロール装置を壊せば暴走もさせることができるというのは便利だが……だとしてあのタイミングで撃って、万が一バレたらどうするつもりだったんだ?』

「……制御装置じゃなかったカ?」

『うるさい!早く帰ってこい!!』

 ガチャン、と荒々しく受話器が置かれる音を聞き、どこか穏やかな顔で微笑む女だったが、その顔は一瞬の内に邪悪な笑みへと変貌する。

「あの力……」

 そして女は実に楽しそうに、暗い森に狂ったオルゴールの音のような笑い声を響かせた。

 

「──オレも早く、使ってみたいナァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ACT2「お前等だけは、許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の番外編から遂に居振りい人(リア友)が本格的に執筆し始めます。
お楽しみに。
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