仮面ライダーモース   作:小淵良樹

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執筆:居振りい人


ACT3

「あの!!!例の子が意識を取り戻しました!!!」

 

 人気の少ない寂れたカフェの、一際目立たないテーブル席にて。電話越しから届く爆音の報告に胸を撫で下ろす。

 

「……分かったわ。取り敢えず今からそっちに向かうから、D棟の……5号寮に行って貰って。」

 

「はい!!!……それにしても、酷いケガでしたが、何か悪い事でも」

「黙って。仕事中でしょう?」

 

 通話越しの仲間に向ける語気が強くなる。どうしてここまで的確に地雷を踏み抜けるのだろう。

 

「はい!!!失礼しました!!!」

 

 ブチッと切れる通話。と同時に席を離れた。机の上に代金を置き、出口へと歩を進める。

 

「ごちそうさま。また来るわ。」

 

 向かう先は一つ。私は人混みを掻き分け進んだ。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「もしモォ~し?聞こえてるカァ~い?」

 

 眼前で電話線の切れた受話器を持ち無駄に声を張る狂人。

 その視線はすばらしく完璧にこちらをイライラさせてくれる。

 

「……電話線。」

 

 と一言。正直言ってコイツとはあまり関わりたく無いが、『話しかけろヨォ……殺すゾォ……』……なぁんてオーラを酷く感じてしまったもんで。

 

「ンー?心配してくれたのカァ~い?優しいナァ~トップは!」

 

 案の定のダル絡み。正直想定内だったはずなんだが、なんで俺は話し掛けた?過去の自分を殴り殺してやりたい。

 

「心配って何の心配だよ。」

 

 こうなったら付き合う他ない。何かの間違いで頭でも爆発して死んでくれないだろうか。

 

「ンー……頭ジャ無いかナァ?……あ!そうダ!」

 

 面倒な話が始まりそうだと覚悟した直後、俺の電話が鳴る。

 狂人が頬を膨らませてるのが見えたが、気には止めず電話に出る。

 

「もしもし、トップ?例のデバイスですが、もうじき届く筈です。」

 

 ……デバイス?あぁ、ワームナックルか。ここ最近の記憶力の悪さと言ったら……ストレスか?

 

「わかった。こちらである程度試したらすぐに結果を報告する。直ぐにでも量産体制に移れるように資材の準備を頼む。」

 

「了解しまし」

 

 通話が切れる。……いや、正確には携帯電話が潰された。

 コンマ数秒前、俺の耳元を風が切った。

 真横には件のワームナックル。そしてそのグリップを握っているのは勿論狂人。

 

「うーン……威力はまあまアかナァ?」

 

 腕を振り回し、執務室の物を破壊し回る狂人の姿に、思わず溜め息を付いた。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「この部屋です。それで、例の子なんですが……」

 

 時刻は午前1:00。山奥での戦いから既に数時間が経過していた。ここはカフェから約数分。文字通り人里離れた醜人の集落だ。

 

「時晴?入るわよ……?」

 

 返答は無い。

 

「ちょっと、返事くらい……」

 

 部屋に入るなり視界に飛び込んで来たのは、部屋の隅で脱力し、ゼンマイの抜かれた傀儡のように動かない時晴の姿。

 

「……時晴」

 

 何も言葉が浮かばない。こうなるのも当然だ。変わり果てた恩人を自らの手で殺したんだ。でもあれは時晴のせいじゃない。私が……戦わなかったから。

 

「……ごめんなさい。私があのドライバーを渡さなければ……」

 

 返答はない。俯いたまま、虚空を見つめている。

 部屋は沈黙で満たされたまま数分、数十分、あるいは数時間が過ぎた。

 

「……何か食べる?」

 

 苦し紛れの質問だった。でも、この静寂をそのまま過ごすのには耐えられない。

 

「…………」

 

 変わらず返答無し。私のせいだ。どう責任を取れば良いだろう?私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。だから私が、私が時晴を守らなくちゃ……

 

「光咲……」

 

 ようやく聞こえた返答。でもそれは、泥沼のそこから這い出たような、絶望の底から聞こえた声だった。

 

「……どうしたの?」

 

「あのドライバー……返すよ。勝手に使って……悪かった。」

 

「……ッ!」

 

 そんな顔をしないでよ。貴方のせいじゃない。貴方が悪い訳じゃない。全部全部、私の……

 

「……ええ。分かったわ。」

 

 床に乱雑に捨てられたドライバーを拾い、扉へ向かう。

 

「……本当にごめんなさい……」

 

 聞こえたかも分からないくらいか細く小さい声だったと思う。でも、そんな事で私が罪悪感なんて感じて良い筋合いはない。一番辛いのは……苦しいのは時晴なんだから。

 

「……私……どうすれば良いの?」

 

 身体から力が抜ける。どうすれば良かったの……?

 分からない。何も……分からないよ……

 

「EMERGENCY!EMERGENCY!侵入者確認!至急避難してください!!!」

 

 甲高い警告音と避難要請に思考が切り裂かれる。

 

「侵入者……?サーモグラフィには反応は無い筈なのに……」

 

 ポケットに押し込んでいたスマホが震える。

 

「光咲さんッ!すぐに逃げてくださ」

 

「……え?」

 

 何かが潰れる音と同時に、通話は途切れた。疑問が浮かんでからコンマ数秒、すぐに答えは明かされた。

 大きな爆発音。周囲に巻かれる砂煙。そして何かを噛み砕く音……

 

「……誰!」

 

 影も見えない砂煙の中へ問いかける。

 

「ンー?その声……聞いたことガあるようナ気がするナァ?」

 

 ゾッとした。声だけしか分からないのに。それが何か正確に理解した訳じゃないのに。ただひたすらに……怖い。

 煙の壁越しから聞こえる足音が、金属音が、警戒より先に本能的な恐怖を刺激した。

 

「……だ……だから誰ッ!答えなさいッ!」

 

 恐怖から目を剃らし、必要なことを。震える足を止め、逃げる構えを。

 

「ハァ~?つまらないネェ!もっと面白イ事を聞こうヨ!例えば……」

 

 嫌な予感は収まることはない。

 

「醜人と人間ノ味の違いだとかサァ!!」

 

 怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 冷や汗が止まらない。冗談?そんな声色じゃない。

 噛み砕く音……砂煙が晴れればその先には……

 

「ヤァ!顔を合わせるのは初めてだよネェ!」

 

 女がいた。スーツを着て、胸元には見たことのない紋章がある名札をつけている。それによると、名前は暗間楓夕(くらま ふゆ)。細身で身長も高い。だがそんな事より、彼女が右手に握った"ソレ"が何より目を引いた。

 

 頭だ。さっきまで通話越しに会話をした相手の頭が……確かにそこにはあった。右頭部には齧られた跡、そこから僅かに飛び出した脳と目玉が何より確信させてくれた。

 彼は……喰われている。

 

「……何カ返してくれないかナァ?退屈だヨォ!」

 

「……あ……うぅ……」

 

 彼の目が動いた。……生き……てるの?

 

「あれマァ!そういや人間とは違ってバラバラでもメモリがあレば死なナいんダッけ?」

 

「ご……ろじ……で……ぐれぇ……」

 

「メモリ壊セッて?やだヨ死んジャうジャん!死んだラ味落ちるだロ?」

 

 彼の断末魔を気にも止めず齧り続ける。

 

「うーン……飽きたヨォ!そもそモただの殲滅とカつまんないんだよネェ!!」

 

 彼の頭を適当に投げ捨て、左手に握った何かをこちらに向ける。

 

「メインディッシュはこれだヨ!いよいよ使える……ようやくだヨォ!!」

 

 投げ捨てた彼の頭を"何か"で殴り付ける。するとどうだろう。彼の頭は不思議なくらいあっさりと砕けた。周囲に赤い花火を散らして。

 

「これこレ……」

 

 残骸に手を伸ばし、真っ赤に染まった彼のメモリを何かに装填する。

 

『インプット……』

 

 無機質な音声の後、"何か"から音が響いた。誰かがぐちゃぐちゃに潰される音?誰かが何かを喰らう音?それとも誰かが笑う声?何も分からなかった。だけど、これだけは言えた。

 

「……狂ってる……」

 

「そうそウ狂ってんノ!!!世界も!!オレも!!!何もかモ!!!でもサァ!!!」

 

 冷静に、確実にあの何かを……ナックルを振りかぶって言った。

 

「楽しいなラ良いだロ?」

 

 彼女はそう呟くや否や拳を振り下ろして言った。

 

「サァ……開演ダァッ!!!!」

 

 世界に、空間にヒビが入る。このまま何もかも剥がれて、裏側が捲れて、何もかも覆ってしまいそうな位に、広がり、とうとう彼女が完全に空間から消え失せた。

 これで終わってくれ、なんて甘い願望を胸に抱いてすぐの事。

 

『クラッシュ』

 

「いひひひヒャはははハはははハはははははははハははははハははハァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 どこからか響く笑い声と共に、周囲は暗転した。

 

「なッ……!何よこれ!!」

 

『ブリングオーダースルーディストラクションアンドスローター!』

 

 さっきまでとは違う。システム音声にも狂気が伝播したように音が壊れる。

 

 暗転から世界が復帰する。

 

 彼女の姿は見当たらない。

 世界のヒビにでも囚われていてくれなんてあり得ない願望を砕くようにそこに居たのは。

 数時間前彼女を救ったのと同じように、全身を鎧に包んだ戦士。

 

「まさか……貴女も……?」

 

「そう……オレこそガ……仮面ライダー!」

 

『ワームウッド!』

 

 彼女が?仮面ライダー?そんなのあり得ない。だってライダーシステムは私達醜人が……

 

「ゴチャゴチャ考えてないでサァ!早くアレ呼んでこいヨォ!あノエェッと……そうだ!ロース!」

 

 彼女の目的は?何故モースを呼ぶことを望むの?モースを潰すのが目的?

 

「かっ……彼ならもう変身しないわ!!貴女の相手は……私よ!」

 

 怖いよ。死にたくないよ。でも、彼をこれ以上苦しめるのは許せない……無謀だろうけど……殺されるかもしれないけど……戦わなきゃ……!

 

「君が?ムりむリ!!君じゃオレには勝てないシ!!そもそモ君に興味ないシ!」

 

 ベルトを装着し、リモコンを取り外す。

 彼の分も……私が!

 

Confirmation(確認)……』

 

 待機音が流れる。急げ。あの女にこれ以上仲間を傷付けさせる訳には……

 

「ウォォォォオオォォォ!!」

 

 リモコンスティックを装填す『ERROR』る。

 

「……え?……なん……で?」

 

 体が吹き飛ばされる。1メートル、5メートル、あるいはそれ以上。対角の壁に体が打ち付けられる。

 

「……嘘……でしょ?」

 

 眩む視界、消える感覚。最後に聞こえたのは、狂った音色だけだった。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「あリャリャ……だから言ったのにナァ……」

 

『過干渉はよせと言ったろ?あくまで殲滅とシステムの検査だけにしておけとあれほど……』

 

「アァはいはイ悪かったヨォ!取り敢えず、適当に醜人に試せば良いんだロ?」

 

『はぁ……まあそう言う事だ。そっちに行く前も言った通り、派手にやり過』

 

 通信機の電源が落とされる。面倒だったのか、あるいは間違えただけなのか?そもそもオレは何なのか!まあいずれにしましても、もうじき漸く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ACT3「ユメの狂演ッテ訳サァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえば前回、次回予告でサブタイの一部伏せ字にするの忘れてましたね……
次から気をつけます。

因みに1時間後の20:00にACT3番外も投稿しますので、そちらもよろしくお願いします。
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