トリニティの12使徒の作中にて度々言及されつつも、詳細が明かされていなかった「聖夜事変」を描写した三次創作を頂きました。
トリニティの12使徒・三次創作『聖夜事変』 作者 パイマンさん
https://syosetu.org/novel/349382/
最高でした、もうこれ正史ってことで良いんじゃない???
ヒナちゃんとダチョウがガチりすぎてキヴォトスが爆発した「聖夜事変」は読者の皆様の想像に任せるために、本編ではあえて詳細な描写をせずにおりました、まさに望む形で出力されたのかなと思います、あらためまして感謝を。
パイマンさんからは「トリニティの12使徒」の推薦文も頂いています。
https://syosetu.org/?mode=recommended_list&nid=344081
「……ティーパーティーの襲撃は朝8時、朝の鐘と同時に実行される」
白洲アズサの告白。それは補習授業部の面々にとって衝撃、だった。
語られるアズサの過去、どうしてトリニティへとやってきたのか……その目的。明かされるアリウスという勢力、その歴史と真相。トリニティを破壊しようとする古き憎悪が今、迫っている。
目標はトリニティの中枢、ティーパーティー・テラス。
8時の鐘と共に爆破され、桐藤ナギサ以下……全てのティーパーティー幹部を一網打尽にしようという、アリウスの恐るべき計画。
爆破後、打ち漏らしを掃討。攻撃可能であれば、同時に爆破したトリニティの主要施設も襲撃し主だった学閥の主要メンバーを殺傷。火を放ち、焼け落ちゆくトリニティを尻目にアリウス本拠に向けて撤収する……これがアリウスによるトリニティ襲撃計画の全容。
「「「………」」」 ゛………。゛
絶句であった。アズサの背景の一部を知っていたハナコ、そしてより多くを聞いていた先生でさえ言葉も出ない暴虐、そして苛烈な攻撃が迫っている。どれほどの憎悪があれば、これほどの残虐な行為を許容できるというのか、示されるアリウスの意思に……底しれない寒さを感じてしまう。
「……すまない、巻き込んでしまって」
「アズサ、ちゃん……」「……ぁ、ぇ、なんで……ぇ?」
ハナコとコハルは狼狽えた、無理もなかった。
「………せ、先生」 ゛どうして、そこまで……。゛
本質的に荒事に慣れているヒフミでさえ、そして先生は……悲しんだ。
「本当は、全部黙っているつもりだった。けれど……ここまでの事を計画しているとは、思わなかった。もう隠してはおけない……すまない、皆」
当初の予定はティーパーティーのホスト、桐藤ナギサの殺害が目的だった。
前段階として「未来予知」をもつ百合園セイアをヘイロー破壊爆弾をもって爆殺……殺害。予知の有効な期間を超えたと思われるタイミングで再度破壊工作を実行、その後の混乱を突いて襲撃部隊が彼女を襲い、目的を完遂する予定だった。
アズサはそれを止めるためにトリニティへと投降した。だが、計画はより苛烈なものへと変更されていく。襲撃計画の修正は、2度もあった。アリウス・スクワッドリーダー、錠前サオリは言う。連邦生徒会に対するスパイ活動が露呈し、時間的猶予が無くなったと。
一度で最大の効果を狙うため、精鋭戦力を投入しての全力攻撃へと命令が変わる。最早、それは暗殺ではない。
サオリもこれには難色を示したという。いくら警戒の穴を突くためとはいえ、強襲するにも作戦は殆ど検証されていない。攻撃手順、部隊移動の調整、何より爆破後の戦闘予定があまりに投機的だ。
未知の、それも敵地でそんなことをすれば退路を絶たれる恐れがあった、帰ってこれない生徒が何人もでるだろう……成算がないとは言わないが、混乱にどこまで乗じれるかも未知数で、危険が過ぎた。
それでも、マダムの命令はアリウスの生徒にとって絶対。
危険だからと、アズサへ攻撃前にスクワッドへ戻るように言うサオリに対し、せめて部隊の誘導や陽動をこちらで行わなければ成算がないと彼女は言い、サオリもそれにやむなく同意した。それだけリスクの高い、そして場当たり的な攻撃と言える。
だが……誘導も、陽動も、実施されることはない。
それは白洲アズサの、反逆の決意。
汚名を覚悟の決断、家族同然の仲間すら欺き、この行為を止めようとしているアズサ。そんな彼女は、裏切り者として必ず、追手が差し向けられる……。
それを防ぐための補習部への隔離、護衛としての12使徒の配置……城島ツバメが補習授業部という避難場所の城壁だったのだと。今、全員が理解した。
「………ツバメ、ちゃん」
ハナコが背後に居るツバメに向かって振り向く。事情は知っているつもりだった、しかしこれは……それを遥かに超えた事態、事情。こんな秘密があるとは想像もしていなかったのだ。
ハナコの優秀な頭脳は、その衝撃で動きを止めてしまった。もしこの場に頼れる者が誰もおらず、1年以上学内政争を潜り抜け、擦れきっていたかもしれない、ありえた世界線の彼女であったなら……すぐさま冷静となり、対応策を考えただろう。だが幸か不幸か、この場にいる浦和ハナコは、そうではなかった。
しかも時間はない。決行は今夜……翌朝。
ティーパーティー襲撃まで残り、10時間。
ずっと続いて欲しいとさえ思った、そんな日常が壊れるまで、たったそれだけの猶予しかなかった。敵対学閥やテロリストの襲撃程度の想定を、大きく超えた事態。なまじ部分的に知っていただけに、彼女が受けた衝撃は大きかった。
「ここもどうなるか、わからない」
この作戦にはアリウス学閥のうち、アズサの所属するスクワッドチームを「除く」過半数以上の兵力が投入される、練度の高い精鋭も殆どが参加するのだ……アリウスの持てる総力を上げた攻撃と言えるだろう。
爆薬の設置は今夜実行される……アリウスの学兵がトリニティへ浸透を開始するのは午前3時……最後の夜、日常が終わるまで、あと……5時間。
「アズサ、スクワッドは攻撃に参加しないのか?」
残された時の短さに、言葉が上手く出てこない面々の後ろから……低く、そしてよく通る声音がアズサへとかけられる。それは事態に対して何故と問うものでもなければ、これからどうするのかと、危機に喘ぐ声でもない。強い意思を感じさせる、16歳の少女の声。
声音の主、それは……完全武装の12使徒。右手にM14「ストームバード」、左手にGEM-12「アメミット」を緩く握り、それを交差させ、椅子に力を抜いた姿勢で座っていた……手練れの戦士の姿。
城島ツバメは既に、戦装束を纏い、白洲アズサを迎えていた。
戦うための、姿で。
「ああ、後方で待機の命令が出た……攻撃成否に関係なく最初に撤収するようにと。理由はわからない、ただ……アツコのためかもしれない」
「惜しいことをした」
「ツバメ……」
「今夜、アズサのためにもケリをつけてやりたかったが」
そこにいたのは、補習部全員の気の良い友人ではなく……暴力が人の形をしているとまで謳われた、闇の生徒達の頂点、恐鳥の一、その長。
音もなく椅子から立ち上がる、戦闘部隊指揮官の雰囲気に全員飲まれてしまっていた。
ツバメの身長はそう高くない、ヒフミと殆ど変わらない背丈で、ハナコからは僅かに見下ろす姿勢になる。それでも、まるで見上げねばならないかのような存在感。
「心配いらない、皆は私が守る」
「ツバメ、私も戦う」
「だめだ」
それは有無を言わせない、指揮官としての姿を見せる城島ツバメの鋭く簡素な、ただ一言の拒絶。
「ツバメ、私は!!」
「わかっている……だが、いいんだ。アズサ」
それがツバメの優しさなのだと、アズサにも判っていた。二週間近く、共に過ごした……もう仲間だ、信用や信頼の問題などではない。彼女はアズサに、共に生きてきたアリウスの生徒達へ、裏切り者として銃を向けるという……辛く惨めな思いをさせる気はないのだと言っている。
ハナコもヒフミも、そしてコハルも。その言葉少ななやりとりでツバメの言いたいことを理解した。時に厳しく、時に抜けていて……優しい。このキヴォトスで最も恐れられる凶鳥達の長が見せる、慈しみに溢れた「もう戦わなくていいんだ」という、圧縮された言葉を。
「そのためにいるんだ、任せろよ」
頼もしい、ただ安堵を感じさせる力だけがその声にあった。
この場に居る誰もが……その声の魔力に従い、全てを彼女に委ね、始まる苛烈な戦いを、この場に隠れて見守ることに「納得」してしまいそうな、その時。
声を上げる若鳥が居た。
「そんなのだめ!! 私も戦う!!」
下江コハルは、吠える。
「ただ守ってもらうなんてだめ!!」
それは実力足らずな一年生の、強がりにも見えた。
「私だって正実! そのために黒制服着てるの!! 宣誓したの!! 皆は、私が!! 戦って!!」
守るのだ。
その叫びには恐怖が滲んでいる。無理もなかった、相手は「殺しに」来る。不良相手でもなければ、他学との小競り合いでもない。命の……やり取りをしなければいけない。
それでも下江コハルは己の心に従い、銃を取る。
深く理解はしていない、話はあまり頭に入ってきていない。それでも、アズサを苦しめる、誰かが絵図を描いた捻れた仕組みを、多くを巻き込む、この不幸の連鎖の始発点を、静観などできない。
黙って先輩に守ってもらい、震えて明日を迎える自分を、許せるはずがない。
許せるはずがないのだ、黄金の魂を持った少女、下江コハルは。
「コハルちゃん」
平穏を知り、弱さを得た。心地よい揺り籠の中にあって止まっていた、浦和ハナコの頭脳が……澄み切った抵抗の意思、その心のままの宣言に叩かれて動き出す。
「コハル」
厳しさの果てに得た楽園で、心地いい「もう戦わなくていい」という、優しい羽毛のような甘い声に身を委ねそうになっていた白洲アズサの魂に、鋼の心に、火が灯る。
「ツバメ!! 私は戦うから!!」
「コハル……」
12使徒の長は、感嘆した。それ以外なかった。
この場で実力は下から数えたほうが早く、身体も出来上がっておらず、戦えば先ず負ける。それが死に繋がるような戦いだろうとも……臆さず、正しく、心に従い、友のために戦うと……圧倒的強者である己に向かって否と吠えた。
実力不足は承知、それでも、銃を取ると。
それは昔の話、かつて記憶の混濁した「前」と「今」が見せる、前であたりまえであった穏やかな世と、今あってはならない暴力が支配する世の現実の差、それを見せつけられた幼き時、そして力を持って始めた抵抗の日。魂の姉妹と集まり、闘争を始めた……闇夜の誓いを思い出す。
正しきを、我らが意思で、力で。
守るべきだった少女の魂の輝きに、城島ツバメは下江コハルという若鳥の正義を認めた。
「負ければ死ぬぞ、コハル」
「関係ない!! 訓練してくれたじゃない!! このためだったんでしょ!!」
「ああ」
「勝つんだから……!! 絶対、皆を……私が!!」
「……よう吠えた」
「な、何よ!! 撤回なんてしないんだから!!」
「いんや、誇らしいよ」
本心から、その言葉は出た。
この子の気高き魂を、世に誇らずにはいられない……それはツバメの魂の姉妹達も同様だった。12の姉妹はそれを噛み締め、胸にしまう。
それは圧倒的強者である先輩に己を認めさせた、若鳥の美しい青春の瞬間だった。
感動した、皆の心に、確かに震えるものがあった。感動的な光景だ。
そして補習授業部最後の一人にも確かに、心に震えるものがあった。
「……あはは……えっと、そうですね」
怒りだ。
「お勉強そっちのけだったのには、そういう理由があったんですねー……」
あ、やべーな。城島ツバメはクラスメイトとして1年以上共にいたので、阿慈谷ヒフミがわりとキレていることに気づいた。
何も知らされず、全てから守られたまま明日を迎える筈だった阿慈谷ヒフミは、普通に怒った。怒るだろこれは、なんたって本当に誰からも何も教えられてない。死ぬほど苦労してお勉強資料集めて色々頑張って全員合格目指してたところに「実は補習はついでなんで、戦闘訓練重点でした」とか暗に言われたらキレる。
真相はわかった、それで? お前ら試験合格する気はあるんか?
アリウス? そんなもん、全員でボコせば良いだろ。
わりとガチで苦労していたので、ヒフミのアウトローゲージが閾値を瞬間で超えた。部長だぞ私は、この「補習授業部」の長だ。何勝手に決めてやがる、仲間外れも大概にしとけよ、ボスは私だ。ボコすぞ。そういう荒くれの気質が今、凶鳥を圧する。
「あはは、まあいいんですよ……大事件ですし? 事情はわかりますから。何にも知らされなかったのも、まあ若干? えっと……仕方ないかなって思いますし」
キレてんじゃん、あははの声が低すぎる。
「ヒフミ、けして、その」
「ダメなのはですね、誰も彼も私達に全部秘密にしたまま、自分達だけで戦って終わりにしようとしてたことなんですね。これ、どう思います? ハナコちゃん」
「ないですねー」
ハナコは自分がある程度事情を知っていたことを隠して即全面同意した、危機管理もそうだが、本心でもあった。優れた頭脳で即座に場を誘導するため思考の回転を早めていく。
「コハルちゃんが戦うなら私達も戦います、トリニティが攻められるなんて黙ってみてられるわけないじゃないですか。強い弱いとかじゃないんです、私達の青春をこんなことで邪魔されてたまるもんですか!!」
やられっぱなしで終わらせるつもりなど毛頭ない、舐められたら黙ってはいないのが阿慈谷ヒフミという、生粋のアウトローの生き方であった。
「……先生」
困ったツバメは先生に助けを求めたが、学生達の青春の雄叫びに後方先生面している成人女性は両手の親指を突き出していい笑顔である。完全に4人の味方であった。それに保護監督者として、いくら12使徒が強烈に強くてもたった一人で軍隊相手に戦わせるのはナシである。
生徒に戦ってもらうことしか出来ず、指揮でしか役に立たない身であるが……いざとなれば「カード」を切ることも辞さないのが先生だ。皆が納得のいく答えを出すことを願って、先生はツバメの懇願を退ける。
「ツバメちゃん、教えて下さい……他の12使徒の皆さんはどこに?」
「? 護衛と索敵だ、Aチームはナギサ様に、Bチームはミカ様についてる。Cは全員埋伏して、アリウスが来るのを待つ」
配置を明かすあたり、ヒフミに詰められてツバメは知らずのうちに動揺していたと言える。冷静だったならば沈黙を返した筈、ハナコの狙いはまさにそこにあった。
「埋伏」と聞いたハナコはそれで、大体全ての計画に当たりがついた。トリニティは最初から、アリウスを待ち受けているのだ。やってくる兵力規模が予想より多かっただけで、迎撃する計画に変更はないのだと。
ツバメは補習授業部が囮かと言うハナコの問いに、否と答えた。城島ツバメは浦和ハナコに嘘はつかない。ならば……アリウスという勢力の目的からして、本当に囮だったのは……。
「ツバメちゃん……ナギサ様は、自分を囮にしてるんですね?」
「……ああ」
「そんなのだめじゃない!!」「ええ!? ナギサ様が!?」
まさかトリニティの総領主が自分自身を囮にしているとは想像もしていなかった二人であった。当然だ、そんなことをして良い立場の人間ではないし、戦える人でもないことは周知だった。
「なら、私達全員でこれから、ナギサ様の所に向かいましょう」
「あ、そっか。それならAチームが全員揃って戦えるんですね!」
「私達もまとまっていれば、たとえ前線を抜けられても対抗できる」
「ナギサ様を私達で守ろ!!」
「……」
攻撃が最も苛烈になるだろうナギサの元に向かおうというその提案に、ツバメは頷くことは出来ない。負ける気は皆無だが、何のために隔離保護したのか、意味がなくなるからだ。
「私達は何時も、あの方の翼の下で守られてきたんだと思います。今回もそう、だからこそ……知ることができたからには、戦いましょう。トリニティの、生徒として……抵抗するんです」
「ハナコ」
「一緒に、戦わせてくれませんか? ツバメちゃん」
「ツバメちゃん」
ハナコが、ヒフミが、ツバメの袖を引く。コハルが銃を両手で抱え、視線を逸らすこと無く、前髪に隠れたツバメの目を見つめてくる。
自らの意思によって銃を取る者を、弱者とは呼べない。それが12使徒の信念だ。
「……相手は精鋭だぞ」
「私が苦戦していたら、助けてくださいね?」
「ハナコ……」
乾いた音、アズサが愛銃「Et Omnia Vanitas」の安全装置を解除する。
「ツバメ……共に行こう」
今ここに。4人は強き者となった。
「……先生、指揮をお願いします」
゛まかせて。゛
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「ナギサ様」
「……ツバメさん、どうしました?」
桐藤ナギサはそうとは見せず、驚いていた。
日を跨いだ深夜、薄暗いトリニティ総領主館の一室にノックの後入ってきた姿。それはこの室内に居る一人、外にいる二人と全く同じ姿をした白制服の生徒。しかしナギサには12人の見分けがつく、この場には来ないはずの彼女。
不測の事態発生を予感させる、12使徒の長の来訪。補習校舎で問題が起きたとしか思えないが。音もなく、そして他の12使徒が何ら動くこともなく、己らの長をここに通している。
白洲アズサが接触に動いたことは聞いていた、だからこそ就寝せず、制服を着込んだまま、この場に残っていたのだ。ならばやはり、今夜……。
「敵アリウス学兵の来襲が迫っております、直ちに退避をお願いしたく」
「……来ましたか」
その時が来たのだ。命までも狙われるのは初めての経験だが、ナギサに不安は無かった。最強の護衛を侍らせた今、恐れるものなど何も無い。
「既に、各位へと伝達しております、総員配置につきました」
「……我が12の翼、時が来ました。今よりこの身を預けます、迫る全てを退け、トリニティを守りなさい。改めて、よしなに」
12使徒の長、城島ツバメが。そして影から無音で並び立った3人のチームメイトが、完全な一体感でもってカーテシーをナギサに向ける。
12使徒が4人、これで何が来ようと問題はない。
しかし1つ気になることがある。
「ツバメさん、先生と補習授業部は?」
そう、城島ツバメの配置は補習校舎で先生と白洲アズサ達補習部の護衛の筈、計画通りならば、ここに現れる筈はないのだ。
「ナギサ様をお迎えに上がっております」
「……困りました、計画が全てあらわに?」
「残念ながら、お叱りは平に」
「かまいません、護衛対象をまとめたと思いましょう」
「補習授業部は皆、ナギサ様の護衛として戦うと申しております」
「そう、ですか……」
出来ることならば、ヒフミさんには全て秘しておきたかったのですが。それは言葉には出さなかった、補習授業部に入れた時点で可能性としてはあったことなのだ。ただ、気に入っている無辜の一般生徒をこんな戦いに巻き込みたくない思いは確かである。
だから、命令する。
このキヴォトスで、桐藤ナギサだけが……彼女達に「命令」をすることができた。12使徒の主は他の誰でもない、トリニティの総領主、桐藤ナギサ……只一人。
「怪我をさせたくはありません、万難を排しなさい」
「イエス・ユア・マジェスティ」
城島ツバメはその命令に、静かに声を出して服した。
゛ナギサ。゛
ドアの開く音と共に現れた先生が、両手を開いてナギサを迎える。
゛自分を囮になんてしたらだめだよ。゛
「先生、このような形になってしまい……」
゛いいからいいから、さあ、行こうか……皆待ってる。゛
・
・
・
「ナギサ様!!」「ナギサ様だ!!」
総領主館のセーフルームで一同を迎えたのは補習授業部の面々、そして……。
「ナギちゃんさっきぶり」
「ミカさん、どうしてここに」
護衛の12使徒Bチームを引き連れた、聖園ミカが居た。
「計画変更ってことで、どうせなら集まろうかなって、ね?」
「う、うえ!?」
コハルを後ろから抱くようにしてミカが笑う、護衛対象を纏めるなら、いっそ全部ひとまとめにして12使徒を動かそうということだ。下江コハルという小さな勇気、黄金の覚悟を……Bチームリーダーの炭沢リク経由で聞いたミカは、ひとつの覚悟を固めつつあった。
聖園ミカには、やりたいことがひとつある……問わねばならないのだ。
「ヒフミさん、すみません。このような事に巻き込んで……皆さんも、補習部の事では不快な思いをさせたと思います、今もこうして……」
「いーえ!! 皆気持ちは同じですから、ね?」
「ああ、私は貴女に守られてきた……その恩を、返させてくれ」
「ナギサ様をお守りします!! 絶対!!」
「私達もトリニティの生徒、この「楽園」を守りたい……そう、思いますから」
浦和ハナコの事はツバメを通して聞いていた、あえて落第点を取り、中央から離れようとしていた理由も……そんなハナコをして、このトリニティの生徒であると、楽園という言葉が出たことに、深い思いが巡る。
そして純粋に、助けになろうと来てくれたのだ、この4人は。
気づかず強張っていた身体から力が抜け、愛用の椅子に身体を預けた。
始めは、自分達の派閥の栄達を狙って始めたことだった、そうして引き入れた12使徒……結果想像の斜め上に至って、あまりに激しすぎる1年以上……とてつもない苦労を只管背負い込むはめにもなった、けれど。
次第に良くなっていくトリニティに、キヴォトスに、思う所は確かにあった。受け入れた責任、義務、君主としての責務を背負いし今、多くの人々の明日を願い、思うナギサは。
「……楽園……そう言ってもらえるなら、苦心の甲斐も、ありましたね…………」
少し、報われた気持ちだった。
「よかったね、ナギちゃん」
「……ええ」
深い、深い息が……溢れた。
「じゃ、ナギちゃんはここで守られててね」
「え? ミカさん?」
「それじゃいくよー、皆っナギちゃんをお願いねー☆」
「ええー!? ミカさん!?」
Bチームを引き連れてミカが出ていく、向かう先は決まっていた。
「ツバメさん、ミカさんは何処へ、護衛付きとはいえ今から出歩くのは」
「最後の場にて、アリウスをお待ちになると」
「……そうですか」
見届けるつもりなのだろう、そしておそらくは……。
「アリウスはトリニティの地理に明るくありません、予定は早まると思われます。こちらも行動を開始すべきかと」
まだアリウスの作戦開始時刻には早い、しかしツバメは前倒しされると見た。
゛うん、皆……配置につこうか。゛
「「「「はい!!」」」」
゛今日は、先生も本気出しちゃうからね。゛
「先生……」
「ナギサ様、これよりAチームは屋敷を固めます。この部屋の警備は補習授業部と先生にお任せすることになりますが、ご信頼ください」
「ええ……良きに計らってください」
カーテシーで答えたツバメが、補習授業部の面々と目だけを合わせ、そして言葉を交わすこと無く部屋を出ていく。それは、強い繋がりを感じさせるやりとりだった。
「皆、装備点検です」
補習授業部小隊を預かるのは阿慈谷ヒフミ、指揮は先生が行う。
「異常なし」「異常なし!!」「異常なしですね」「えっと……異常なし、です」
そしてナギサも、自分の銃「ロイヤルブレンド」をホルスターから抜いた。これを撃たなくなってどのぐらい経つだろう……そう思いながら。
最近は弾さえ込めていなかった、昨日……マガジンに一発一発詰めていく所作のそれにさえ、懐かしさを感じていたのだ。
マガジンリリース……異常なし、マガジン装填、ロック。弾丸装填、スライド、薬室異常なし、ファイアピン……よし、安全装置……解除。久方ぶりに弾丸を薬室に咥えこんだロイヤルブレンドが、飾り以外の役目を思い出す。
「異常なし、ですね」
部屋中央で椅子に座るナギサの前で、アズサとコハルが膝立ちの姿勢で射撃姿勢を取る。入口は1つ、窓はない。学兵チームが正面を受け持つ。
ヒフミとハナコがナギサの両翼後方に立ち、背面と左右をカバー。秘密の通路は背後にある本棚に埋められた隠し扉。突入された場合、学兵チームが防御してる間にここから脱出する。
先生はタブレットを持ってナギサの正面に立ち、初撃を自身の身体で防ぐと決めた。
長い夜が、始まろうとしていた……ただ、静かに。
ちなみに、ダチョウCチームはもう真っ黒になってて闇に消えてます。
AとBはちゃんと偉い人の前に出るときは白くなる、弁えたダチョウ達でした。
ナギサ様も超茶会服着てます……が、これには色変え機能、ないんですよね。
次回更新は掲示板回ではなく、本編が続きます。上下編。
現在公開されているエピソードはここまでということです。(条約違反)
たぶん二・三日ぐらいしたらお出し出来るかと思いますね。
次回、恐怖!! 真夜中のダチョウ!! お楽しみに。