フェイト・テスタロッサは壊れている   作:ごまさん

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やっぱりフェイトは壊れているに違いない

 習慣というのは恐ろしいもので、どんなに寝るのが遅くとも、疲れていても、同じ時間に起き出してしまう。本当ならもっと眠っていたいところだが、この時間になると途端に目が冴えて、眠れなくなる。でも眠い。

 職業病とでもいうべきか。むしろ呪いか何かに思えてくる。生憎と呪いをかけて来そうな相手の心当たりなどごまんとあるので、誰かは知らないが。

 いや特にあの女なんかは怪しいか。自分に対してあいつにバレない程度のみみっちい嫌がらせをする事が生き甲斐みたいな奴だからな。効果があると知ったら本気で仕掛けて来そうだ。

 だからと言ってどうという訳ではないし、何をするつもりもない。それはそれで面白い。

 

「あーあ、今日も仕事だよかったりー」

 

 今さら毒にも薬にもならない思考は中断して、モゾモゾとダブルのベッドから這い出す。新素材を用いて、程よくスプリングの効いた最高級品だ。

 寝室の扉を抜け、廊下を辿って行けば洗面所に出る。適当に顔を洗って洗面所の隣にある便所で用を足したら、また逆側に廊下を辿った先にある扉を潜ればリビングダイニングに出る。

 魔導師の砲撃を受けても壊れない、が売りだった、魔導技術をふんだんに用いた合成ガラス製の大き目な二人がけダイニングテーブルには当然の如く並べられている料理の数々。今日も朝からヤケに手の込んだ料理だ。胃に重たい事この上ないが、管理局の執務官なんて腐った仕事をしていると、これ位は食べてないとやって居られない。魔法はバカみたいにカロリーを消費する。

 

「あ、おはよう、シン」

「おはよう、フェイト」

 

 キッチンの奥からひょっこりと顔を覗かせた、やたらと綺麗な金色。フェイト・テスタロッサ。

 下着の上に大き目の白いワイシャツとエプロンという扇情的な格好だ。朝から誘ってんのかと思いかねないが、これがこいつのデフォである。

 今日も自分の起床に合わせた完璧なタイミングで料理が完成するように調節したらしい。毎日同じ時間に起きてくれるから、とフェイトは言うが、とてもではないが自分には真似出来そうにもない。

 それ以前に彼女が自分よりもずっと早くに起きている事になるわけだ。早起きとかその時点で無理。まぁ睡眠時間は計算して、必要分は取らせているのでこいつの体調面では問題無いだろう。

 さてそんな朝食は、中々に美味い。不味かったら自分が食わないのだから彼女が必死に料理の腕を上達させるのも当然だ。

 

「ふむ、今日もまぁまぁだな。明日も頼んだ」

 

 思わずこんな言葉が出ていたが、良しとする。これでもかなり上達したのだ。ならば飼い主としてキチンと餌をくれてやらなければいけない。

 

「あ……うん! ……コーヒー淹れたからここに置いておくね。私は準備とかしてくるから、ゆっくりしてて」

「ああ」

 

 嬉しそうにはにかんだ彼女に短く返事を返して見送ると、デバイスに命令して幾つかのニュースサイトに繋げ、ホロウィンドウに同時に表情させる。

 ミッドの新聞はどこも彼処も昨日自分達がひっ捕まえた魔導犯罪者についてだ。確かにあいつの魔力量は多かったからな。まともに戦闘訓練も受けていない雑魚だったけど。

 それでも住民からしてみれば魔導師の犯罪者とか悪夢でしかないだろう。それが大魔力量ならなおさら。どうでもいいことだが。

 暫くすると支度を終えたらしいフェイトが出てきた。既に黒い執務官の制服に着替えている。デカイ胸は服の上からでも主張し、ウエストの部分をベルトで締めているために身体のラインがクッキリ出る。短めなタイトなスカートは腰のくびれと肉付きのいい尻を浮き立たせている。万人の女が羨み、そして欲するだろう見事なプロポーションだ。

 管理局の制服をこうもエロく着こなす女など、こいつぐらいな物だろう。

 だが自分は今さらそれに動揺したりもしない。十分見慣れている。無視してニュースを読み進める。

 

「ちょっと寝癖ついてる。今から整えるからね」

「ああ、頼んだ」

「うん、任せて」

 

 そう言って嬉しそうに甲斐甲斐しく世話を焼く。そんなフェイトを特に気にもせず読み進め、丁度ピックアップしているニュースサイトを全て読み終えたあたりでいい時間になった。

 

「そろそろ時間だよ。用意しないと」

「ああ、分かってる」

「そっか、ごめんね」

「いや、いい」

 

 そう言って一度洗面所に向かい歯を磨いて戻ればフェイトが自分の制服を用意している。

 服の着替えまで手伝われていると、今もどこぞの世界にいる旧態依然とした封建貴族にでもなった気分だが、慣れると楽で案外悪くない。

 

「終わったよ」

「ああ、じゃあ行くか」

「うん」

 

 さて、今日もふざけた一日の始まりだ。

 

 執務官というのはある程度独自の裁量を持って動いている。とは言うが有り体に言えば個人によってまちまちと言うわけだ。

 部隊に所属する内勤の連中は部隊の法務統括とか言って日がな一日書類と格闘してるし、子飼いの捜査官やらを囲い込んである程度の人数で動き回る奴らも居る。

 これらは空戦魔導師に出てこられたら手に負えなくなる陸戦魔導師の執務官に多い。戦いを避けて完全に頭脳労働に走るか、空の戦闘屋を囲い込むかというわけだ。武装隊が出張る迄もない任務と思いきや、空戦魔導師が出てくるなんて例は偶にあるのだ。

 勿論例外はあって、空戦だが内勤の奴もいるし、所属部隊でドンパチやっているのもいる。

 そもそも狭き門の執務官試験は陸戦魔導師の方が空戦魔導師よりも難易度は跳ね上がるのだが、それでも突破する奴らが居ない訳では無い。

 自分たちの場合は部隊には所属せずに好き勝手に動き回って節操無く捜査し、犯罪者をとっ捕まえて回るタイプだ。

 このパターンだと自分達みたいにペアで組んで動き回るという例も無い事はない。執務官同士が連むという事自体が極めて稀な例ではあるが。執務官同士は基本的に出世競争相手、他を出し抜いて我先にと事件を解決したがる奴は多いのだから。

 自分達みたいな少人数活動派は、ミットチルダ地上なら現地担当の捜査官をひっ捕まえて捜査本部を形成し、捜査させる。ミットチルダの警察組織は管理局だけなので上意下達がしっかりしており、これは割りとすんなり行く。楽な仕事だ。

 戦艦の乗組員からの依頼を受ける、若しくは追いかけていた犯罪者の追跡の為に海の連中の戦艦に乗り込む事もあるが、これはA級以上の犯罪者や犯罪組織、もしくは広域犯罪者、組織を捜査し、捕縛するために船に同乗するという場合が多い。

 現地の警察組織や各次元世界に配置している地上本部の人員では対処が難しい広域犯罪や危険度の高い犯罪者の対処をするのがお仕事だ。

 そもそもわざわざ戦艦が出動するのは紛争や戦争の調停か、危険度の高いロストロギアの確保、若しくは極めて危険度の高い犯罪者の逮捕に乗り出す場合が殆どだ。となると紛争や戦争の調停以外は執務官の領分とカチ合う事が多い為、戦艦の乗組員と協力する事も殆どだ。この場合は該当事件の捜査責任者という形になる。

 執務官を囲い込み、戦艦所属になる事もある。部隊所属の内勤の連中と同様に、居てくれると法務面で楽だし、他の執務官に捜査協力の依頼を出さずに済むので、戦艦の艦長は子飼いの執務官を確保したがる事が多い。

 かく言う自分たちにも戦艦や部隊への所属の打診が幾つも来ているが、全て突っぱねている。折角気ままにやってるのに、自分からしがらみを増やしてどうする。

 因みに執務官ともなると少なくとも尉官待遇以上になり、士官とは別ルートの出世コース乗れる。執務官の方が人数が少ない分に出世も早い。よって士官学校出で出世思考の強い奴には執務官試験を受けている連中も多い。そもそも執務官は士官学校出の奴か、捜査官から成り上がった奴が殆どだ。

 要するに執務官資格というのは、持っていると実務的にも出世を考えるにしても非常に便利な資格という訳だ。フェイトにも便利だからわざわざ取らせたんだし。

 

 さて、こんな今更過ぎるつまらん思考をしている間にもフェイトが運転する車で最寄りの転送ポートに到着した。

 今日は昨日とっ捕まえた犯罪者に関する後処理と、いくらか溜まった事務書類を片付けなくてはならない。面倒だがとっとと終わらせるためにはフェイトや奴隷に全部押し付ける訳にもいかない。今は他に特にやる事も無いし。つまらん一日になりそうだ。

 

 本局にある自分の執務室に着いた。これから事務仕事かと思うと憂鬱だ。

 執務官ともなると、個別の執務室が貰える。当然自分とフェイトにもそれぞれ用意されているが、自分達はペアで仕事をしている関係から同室の方が楽だ。よって隣合った部屋を用意させ、直通の扉を繋がせた。基本的にフェイトはこちらの部屋で実務をこなし、彼女の執務室は半ば物置と化している。奴隷にやらせる資料とかの整理にもそちらの方が便利なのだ。

 さて、そんな執務室に入れば既に一人の女がいた。

 

「おはようございます、シンさん、フェイトさん」

「ああ、おはよう、シャーリー」

「おはよう、シャーリー。調子はどう?」

「あはは、昨日一日休暇を頂けたのでバッチリですよ」

「そうか、なら今日のお前に回す分の仕事を増やしておくか。ほら……こいつな」

「なぁっ……!?」

 

 デバイスから端末に送りつけた内容を見て愕然としている眼鏡の女はシャリオ・フェニーノ。自分で愛称のシャーリーと呼んで欲しいとヤケに主張してきた。この女が執務官補佐という名の奴隷だ。いつかは忘れたがフェイトがどこぞから拾って来た。事務処理に渉外にデバイスを始めとした電子機器の調整・整備となかなかに便利な女である。

 フェイトも良い拾い物をして来た。

 

「やれるよな?」

「え、でも、これは……」

「やれるな?」

「は、はい……」

 

 そんなやり取りをしていると、隣でフェイトが剥れていた。

 

「お仕事ならわたしに回してくれればやるのに……」

「当然だ。お前にも仕事は何時もの通りにたっぷりある。だが事務仕事をこなさない補佐なんて存在価値が無いだろう。だからシャーリーにはアイデンティティの保持の為にも仕事を沢山回してやる必要がある。分かるよな?」

「そっか。うん、確かにそうだね。シンの言う通りだ。じゃあシャーリー、私からももう少し回しておくから頑張って。あとバルディッシュのメンテも頼みたいな」

「フェ、フェイトさぁん……」

 

 情けない声をあげている奴は無視して、仕事である。シャーリーの心配は要らない。これが自分達のデフォルトだ。

 

 さて、仕事が一段落して昼休憩。奴隷に回す分を多くした為、思ったよりも時間を取れそうだ。フェイトも仕事を回した分、いつもより時間が取れたらしい。今日は結構ノンビリできそうだ。

 よって今日も早い安いがモットーの食堂ではなく、レストラン街の方に足を向ける事にした。

 自分は食堂の不味い飯なんて食いたくないので、いつもこちらに来ているのだが、フェイトは執務室で摘める物で済ませる事もままある。弁当を作らせると朝食と同じメニューになるのでNGだ。違うものを作れと言えば喜んで作るが、そうするとフェイトの睡眠時間が足りなくなる。それで倒れられても困るし、弁当だと出先で食いにくい。よって昼は基本外食だ。その分朝食を豪華にしているらしい。

 仕事は殆ど等分しているが、フェイトの方が仕事が遅いのだ。それでも凡骨の執務官よりはずっと優秀だが。

 バカみたいに広い管理局本局内にはこういったレストラン街をはじめ、総菜屋やパン屋、雑貨屋や本屋、託児所、服屋などを組み込んだショッピングモールもどきが所々にいくつか入っている。流石にそこ迄の大きさではないし、種類も限られているが、それでも結構なものだ。

 特にレストラン街には其れなりの種類の世界の料理が揃っていて、見事なものである。それに食堂と比べたらずっと美味い。その分に少し値は張るが、自分もフェイトも結構な高級取りなので何の問題も無い。

 さて、そんな風にレストラン街に向かっていると、道端に見知った顔があった。濃いピンクの長髪を後頭部で一つに纏め、凛とした顔立ちに高い身長、地上部隊の茶色い制服を身にまとったおっぱいさん、シグナム・ヤガミ三等空尉だ。

 

「あれ、シグナムだ」

「む、テスタロッサ……とスクイートか」

「久しぶり、シグナム」

「おや、シグナム・ヤガミ三等空尉か。お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」

 

 自分の方を見て何とも言えない表情になるシグナムに自分はにっこり笑って話しかける。自分の笑みは他人から見ると、人を食ったような笑みだとか、小馬鹿にしたような笑みに見えるらしい。そんな事は無いと思うのだがな。

 それにしても警戒してるなーシグナム。警戒した所で意味無いんだけど。

 なんかちょっと憂鬱そうにしていたな。

 これは何かあったか? 面白い。ちょっとおちょくってみよう。

フェイトは自分が興に乗った事を理解してか、側で静かに微笑んで佇んでいる。

 

「ああ、久しぶりだな。お前達も変わりなさそうだ。因みに今は二等空尉だ」

「昇進ですか。それはそれは、おめでたい事で。それにしても随分とお早い昇進ですねぇ」

「そうかもしれんな」

「そのままぜひ心を入れ替えて管理局の狗になれば、どんな経歴であれ戦いが上手ならば優遇されるということを『世間にいるお仲間達』に示してあげて下さいね」

「ッ……! ……そうだな、私たちと同様に『望まずに』犯罪者になってしまった諸君の道標になれればと思う」

「そうですね、戦闘能力があれば尉官には成れますからね。悲しい事に生来の素質が恵まれず、貴女より長い年数務めている『綺麗な身の』下士官の方々もいますけれど、彼らの献身っぷりにはいつも感嘆させられますよね」

「……そうだな、私も長き年月を生きたとはいえ、この組織では若輩の身。いつも隊の者には助けられているよ」

「それはそれは、隊の皆さんもさぞや安心でしょう。なにせ数多の『血と命を吸ってきた剣』が上司に立つのですから。こんなに心強いことは無い」

「ッッ……ふぅ……そうだな、私もかつての罪を償う為、隊の皆を守り、市井の人々を助け、『かつての私たちの様に』追い込まれた末に剣を振わざるを得ない者を救えたらと思う」

「……そうですか。そうですか。貴女が剣を振るって来たのは貴女の意思ではないと……くふふっ……」

「貴様……何がおかしい」

「……いえいえ、貴女は命令さえあれば、自分の意思とは関係無しに剣を振るえるのだなぁ、と。そんな貴女の背を見る隊の若者達もそれはそれは立派な軍人になることでしょうね」

「ッッ! ……きっ、貴様ぁぁ! ……言わせておけばっ!!」

 

 そう言って自分の胸倉に掴みかかろうとするシグナム。

 最近はこいつにも犬の様に煽り耐性が付いてきて詰まらんと思っていたが、こうも乗ってくれるとは。チビと金髪はもっと面白い反応をしてくれるのだがな。

 もしかすると何処かでこの女の昇進を僻む声を聞いたのかも知れないな。憂鬱そうにしていたのはソレか。

 これは面白い。

 そんなシグナムの腕が自分に触れる前に、横合いから素早く伸びてきた白くて美しい手がそれを止めた。

 

「ねぇ、シグナム。何をしようとしているのかな?」

「テ、テスタロッサ……だがっ!」

「だがも何もないよね? ……シンを傷つけようとするなら、例えシグナムでも……許さないよ?」

「ッ……! ……くそっ……貴様っ」

 

 感情が一切抜け落ちたような表情になったフェイトを見て、自分を睨みつけてくるシグナム。

 

「おー怖い怖い。そんなに睨むなって。恥ずかしいだろ。それに自分は何か間違った事を言ったか?」

「……ッ」

「なぁ、フェイト。何か言ってやってくれよ」

「シンの言う通りだよ、シグナム。シンは何も間違えた事を言ってないよね。これはいきなり掴みかかったシグナムが悪い」

「テスタロッサ……」

 

 先程の無表情が消え、綺麗な彼女本来の微笑みでのフェイトの言葉。それを聞いたシグナムは一言フェイトの名を呟いて絶望したような表情になる。

 だが気を持ち直す様に自分を一度睨みつけてから、フェイトの方に向き直り、そして意を決したように。

 

「…………なぁ、テスタロッサ。私の隊にいた執務官が移動になって、今はその席が空いているんだ……ぜひ来てくれる気は無いか?」

「へぇ、それってわたしとシンの二人でって事?」

「い、いや……保有戦力の問題でお前達二人ともと言うのは無理だ。だか、テスタロッサだけでも……」

 

 それを聞いたフェイトは極上の微笑みで。

 

「それはダメだよシグナム。シンは私が居ないとダメなんだから。私がシンと離れる訳にはいかない」

「ッ……テスタロッサ……」

「話は終わりかな。それじゃあ自分達はそろそろ。行くぞ、フェイト。ではまた、シグナム・ヤガミ二等空尉」

「うん。じゃあね、シグナム」

 

 再び絶望したようなシグナムに挨拶し、彼女の横を通って立ち去ろうとすると、またもやシグナムが気を取り直した様に声をかけて来た。

 

「まてっ、スクイートッ!」

「……まだ、なにか?」

「私は、諦めないからな」

「そうかい、どうぞご勝手に。無駄だと思いますけどね」

 

 そう言って今度こそ自分とフェイトは立ち去った。

 

 暫くレストラン街を見て回った自分とフェイトは、第3管理世界のとある地方が発祥の料理を出す店に決めた。これは管理世界では広く食べられる、割りとポピュラーな料理で、フェイトが嘗て住んでいた第97管理外世界では地中海料理と呼ばれる物に近いのだとか。

 そんな店で注文を頼み料理が届く。フェイトは甲斐甲斐しく自分の分を取り分けている。

 それからフェイトと仕事の話をしながら食事を終えた。

 あらかじめフェイトが頼んでいたシャーリー分の包みを彼女が受け取ると、彼女が会計済ませる。

 

「ごめんね、ちょっと待たせちゃったかな」

「いや、別にいい」

「そっか、じゃあ行こうか」

「ああ、そうだな」

 

 フェイトと二人でまた来た道を戻る。

 フェイトのリクエストで途中で生菓子屋に寄っていく。ラッキーハッピーとかいう極めて頭の悪そうな店だ。おやつに食べよう、との事。

 流石に局内で腕を組む程に自分もフェイトも馬鹿じゃないが、距離はかなり近い。

 これは自分に何かあった時に一瞬でも早く身を呈して守るため、なのだとか。自分はフェイトに守られる程に弱くはないのだが、それで気が済むのならばと好きにさせている。

 フェイトと歩くといつも感じる妬む様な視線などは完全にスルーして、悪意や害意ある視線以外にはフィルターを掛ける。

 フェイトは自分への視線や悪意に誰よりも敏感だし、自分はフェイトへの視線や悪意に誰よりも敏感だ。

 あちこちでカメラが回っている局内で何が起きるとも思わないが、これは最早クセみたいな物だ。

 自分への悪意ある視線に気がついてだろう、フェイトの眉がピクピク動いているが、大半が実行するだけの意思はないだろう。顔だけ覚えてスルーしている。自分もまた然り。

 そんなこんなで自分の執務官室に着く。

 室内に入れば、奴隷が死んでいた。

 

「おい、何やってんだよ」

「ううぅぅぅ……お腹空きましたぁ」

「そうか、それで午前の分は終わってるのか?」

「は、はいぃ、一応は……」

「一応じゃダメだろうが。まぁいい、フェイト、くれてやれ。エサの時間だ」

「うん。はい、シャーリー」

 

 それを聞いてシャーリーはバッと起き上がる。

 

「買ってきてくれたんですね! ……ありがとうございます! ……ありがとうございます!」

 

 現金な奴め。

 

 それからはお茶やら何やらとしたが特に大した事も無く、本日の業務は早めに終えて、帰宅の時間。

 

「帰るぞ、フェイト、シャーリー」

「お疲れ、シャーリー」

 

 シャーリーは本局内の女子寮に住んでいる。途中転送ポートまでは一緒だ。

 

「はい。お疲れ様でした。……はぁ、お二人は良いですよね。クラナガンの高級マンションに二人で暮らしてるんでしたっけ? ……羨ましいなぁ。私はこれから寂しく管理局の女子寮に帰りますよ……はぁ。私も彼氏欲しいなぁ……出会い無いかなぁ……」

「お前にもいただろ、何て言ったか……そうだ、グリフォン君」

「グリフィスです! ……彼はそんなんじゃないですよぉ……幼馴染ってやつです。彼との関係には無粋な惚れた腫れたを持ち込みたく無いんです」

「なるほど、こういう女が売れ残る訳だ」

「シンさん!?」

「だめだよ、シン。思っても言って良い事と悪い事がある」

「フェイトさぁん……それ肯定してますよぉ……」

「おっと、ここまでか。またな、シャーリー。精々賞味期限が切れないよう女を磨けよ。まずはそのダサい眼鏡をどうにかしたらどうだ」

「そうだね。その眼鏡はちょっと色気が無いかな。それじゃあまた明日、シャーリー」

「え? ……これダメですか!? ……結構気に入ってたんですけど…….はぁ。……それではお疲れ様です、お二人とも……」

 

 その声を後に自分とフェイトは転送ポートに乗った。

 自分とフェイトが暮らすのはクラナガンにあるとある高層マンションの上階角部屋だ。

 駅近、転送ポートにも近く、少し出歩けば大抵の物が揃っている、最高の立地条件である。

 3LDKで一部屋を寝室、その他に一部屋ずつを私室として当てがっている。

 周りで夕飯の買い物を適当に済ませると帰宅。

 フェイトが手早く作った夕飯を食べてからは、フェイトが家事をこなすのを横目に適当にバルコニーでのんびりする。

 今日は二つの月が満月だ。アレを見ているとなにやら柄にも無くシンミリしてくる。

 今夜は二人で晩酌でもしようか。

 何だかそんな気分だった。

 

「おい、フェイト」

 

 呼びかけると恐らく魔法も併用しているのだろう、凄まじいスピードで側に来たフェイトが返事をする。

 

「どうしたの、シン?」

「酒呑むぞ、酒。適当に見繕ってきてくれ。ツマミはいらん。後お前の分もな」

「私も? ……うん、わかった。ちょっと待ってて」

 

 そう言うと再び凄まじいスピードで去っていく。

 一分もしない内に徳利と二つのお猪口を持ってきた。

 これは、フェイトが以前住んでいたという第97管理外世界の国の酒を送って貰っていたやつか。日本酒と言うらしいが、中々に美味い。

 

「今日は少し暑いし冷でいいかな。シンは辛めのが好きだったよね」

「ああ、それで良い。気が利くな。褒めてやろう」

「やったっ。嬉しいなぁ」

 

 そう言って本気で嬉しそうにはにかむフェイト。可愛いが、偶に見るのが良い訳で、無闇矢鱈に褒めない様にしている。

 

「それじゃあ、乾杯」

「乾杯」

 

 お猪口の中身を一気にあおる。

 やはりこの酒は中々に美味い。

 フェイトが酌をする。

 丸い双月を見ながら酒を呑んでいたら、ふと思った事がある。

 

「なぁ、フェイト。良かったのか?」

「ん? ……何が?」

「昼間のシグナムの話だ。俺から離れる良い機会だったんじゃないか?」

「え? ……どういうこと?」

「いや、たまには自分から離れて連中の方に行ってみたくはならないのかってこと」

「別に会ってないわけじゃないよ」

「そう言う意味じゃ無くて、もっと完全にだ。要するに今ここで自分とお前とはお別れ、ハイさよーならーって事だ」

 

 それを聞いた途端にフェイトは真っ青な顔になって、手に持っていたお猪口を取り落とした。手が震えている。それを中身が零れないよう浮遊魔法でテーブルの上に乗せる。

 

「え? ……え……? ……わ、私、もしかして迷惑だった? ……もしかしてシンはわたしと離れたいの? ……わたし、なにか嫌なことしちゃったかな? ……わたし、何か悪いことしちゃったかな? ……ねぇ、もし何かあるなら治すから……いってくれれば何でもするからぁ……ねぇ、だから、言ってよ、お願い、だから……ねぇ、お願い、だからぁ、わたしを、捨てないでぇ……」

 

 あら、何か妙なスイッチを入れちまったようだ。ワザとだけど。

 真っ青な顔で縋り付くように涙目涙声で訴えかけてくる。

 こんな所が可愛いよなぁ、とか思いつつ、そんなフェイトをじっくりと眺めて楽しみつつ、手酌で注いだ酒を呑む。暫く堪能してから、返事をしてやる。

 

「……じょーだんだよ。冗談。自分がフェイトを放してやるわけ無いだろーが。そう言う所が可愛いよなぁ、フェイトは。ただお前は昔馴染みの戦友より、自分を取ったんだぞ。フェイト・テスタロッサとしてそれでいいのかよ」

 

 それを聞いたフェイトはホッと安堵したような表情になる。

 

「かわいい……ありがと。シンを選ぶのは当たり前だよ。わたしはシンだけに尽くして、シンだけを愛して、シンに愛される。わたしはシンが笑ってくれればそれで良い。それで満足。それがわたしの幸せなんだ。それが本当のわたしの思いなんだ。本当のわたしの意思なんだ。シグナム達も好きだけど、それは全然別だよ。だからそこに他人は関係ない」

「……そうかい、あのやたらキラキラした連中よりも自分を取るとか、お前も大概馬鹿だよなぁ」

「知ってる。でもシグナム達じゃシンとは全然釣り合わない」

「あいつらの近くにいれば、きっと素敵な幸せが待っているかもしれないのにな」

「そうかもしれない。でもわたしの幸せはわたしが決める」

「あのナニカに愛されているとしか思えない奴らの側にいれば、よく分からないご都合主義が働いて、結局は万事が少しの悲しみと大きなハッピーエンドとかいう物語みたいな終わり方でもしそうなものだがな」

「わたしもそう思う。でもシンがいてくれるならハッピーエンドじゃなくてもいい。シンが居ないならソレは全部わたしにとってのバッドエンドだ」

「お前もあんなキラキラした連中の一人だった筈なのに、自分の所がいいなんて、愚かだよなぁ」

「そうなのかもね。でも愚かでいいよ。愚かなわたしがいいよ。シンが居てくれるなら」

 

 お前は本当に愚かだよ、フェイト。

 だが自分はそれで良いと思っている。

 フェイトが愚かである事を望んで、壊れている俺の近くにいることを望んだのだから、それでいいのだ。

 フェイトが言っていた通り、それがフェイトの意思であり、幸せならばそれでいい。

 フェイトの人生はフェイトの責任であり権利なのだから。

 フェイトは自分の所有物である事を望んでいて、自分はそれを叶えてやる。なんと素敵な支え合いか。win-winの関係というやつだ。

 多分お互いに完全に依存し切ってていて、自分にはもうフェイトの無い生活は考えられないし、フェイトもまた然りだろう。

 自分が死んだら恐らくフェイトも後を追うし、逆もまた然り。

 フェイトは自分に尽くす事で彼女の存在価値を見出すし、自分はフェイトに尽くされる事で自己を肯定する。

 完全な形の共依存。

 それを互いに理解していて、それで良いと思っている。それが良いと考える。

 ならばそれが自分とフェイトにとっての正解なのだ。

 自分とフェイトの選んだ生き方なのだ。

 だからシグナムがどんなに諦めなくても、無駄でしかない。例え記憶を完全に消去しても、自分とフェイトの縁は切れないだろうから。

 それは比翼の鳥のように、連理の枝のように。

 それは天に輝く二つの丸い月のように。

 自分とフェイトはもう切れない。

 切るには遅すぎた。それだけ。

 

「フェイトのそんな愚かな所が愛おしいよ」

「そっか……嬉しいなぁ。わたしもシンの全てを愛してるよ」

 

 そう言って笑ったフェイトは、二つの月も妬む程に美しく見えた。

 こんなに美しい笑みを自分なんかに向けられるフェイトは、やっぱり壊れているに違いない。




MOVIE1stを見ていたらふと閃きました。
これが天啓か……! と思いました。
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