フェイト・テスタロッサは壊れている   作:ごまさん

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ほのぼの日常回です。


はやては大嘘付き

 朝起きて、何時もよりはダラダラとした時間を過ごす休日。

 ソファにて自分の頭に膝を貸して頭を撫でて遊んでいるフェイトに何ともなしに声を掛ける。

 

「なぁ、フェイト。何処かに行こうか」

「んー? ……私はシンと居られるなら何処でも良いけど」

「いや、それだと仕事の時と変わらないじゃん。また前回の休日みたく怠惰で情欲に塗れた腐った一日を送ってみるってのもそれはそれでアリだが、何か勿体ない気がするだろ」

「うーん、それならそれで魅力的ではあるんだけど、それもそうかも」

 

 じゃあどうするよ、という話である。

 自分達の年齢というのはどうにも微妙なのだ。遊びに行くとは言ってもじゃあ何をするのかとなるし、かと言って昼間から呑みにいくのもなぁ。フェイトも自分も遊び慣れていないというか。

 割りと普段から人生を楽しんでいるからか、こういう普通の遊びがよく分からない。

 趣味でも作れば良いのだろうが、今日はそこまでアクティブになりたい気分でもない。

 

「あっ、じゃあデートに行ってみたいかも」

 

 フェイトは自分が何も言わなければ殆ど自己主張しないで静かにしているが、少し要求してみればこうやって提案してくる。

 つまりは自分がフェイトの考えを求めていると知ればそれに最大限に応えようとする。

 馬鹿みたいに健気な女だ。

 そんな所が可愛いのだが。

 

「デートぉ? ……いいけど、何でいきなりデートになったんだ?」

「えっと……管理外世界の学校に通っている時にクラスの子がデートしたって聞いたのを思い出して。お嬢様学校だったから、デート一つでも珍しくてね、凄く嬉しそうに自慢して回っていたから印象に残ってるんだ」

「へー」

 

 想像するだけでもなんて哀れで、なんて惨めで、なんていじらしい。

 結局そういう女は男をアクセサリーかなにかと思ってる事が殆どだし、逆もまた然り。

 だがアクセサリーならアクセサリーでいいじゃないか。

 しかし男を取っ替え引っ換えしている事を自慢する女が偶にいるが、アレはなんなのか。己がビッチであるアピールをして何が満足されるのだろう。自分には分からない世界だ。しかしそれならそれで良い。

 それが本人の幸せなのだからそれでいいのだ。

 

「うん、なんか馬鹿らしいなーとは思ってたんだけどね。でも周りがわーきゃー言ってたからそんなもんなのかなって」

「それ位の年齢ならそんなもんなんだろう。それで、デートだっけ。いいよ、どうせやる事無いし」

「そっか、ありがとう。じゃあ何処に行こっか」

 

……。

 

「なぁ、デートって抽象的過ぎないか? ……結局話は元に戻ってるし」

「あれ? ……ほんとだね。どうしてだろ」

「アホか。まぁ、アレだ。男と女がデートだと認識して二人で出かければ、それはデートなんだろ。だから何の解決にもなってない」

「そっか、そうかも。じゃあ……デートらしい事をやってみたい」

「らしい、ねぇ。デートごっこってか。じゃあ取り敢えず、買い物とか行ってみるか? ……確かこの前オープンした所あったろ」

「うん、そうだね。それで何か美味しいご飯でも食べて、そこでまた考えればいいよね」

 

 要するに行き当たりばったりで何か楽しい事を探しましょう、という事だ。

 慣れた連れ合いとのデートなどこんなモノだろう。

 そもそもフェイトは行為に価値を見出す程に正常な感性をしていない。

 最初に言っていた通り、自分が居て、世話を焼ければ、本局の執務室でも犯罪組織のアジトでもどこでも幸せなのだ。

 だからデートというのも本当に思いつきでしか無く、本気でどうでも良かったと思われる。

 パタパタと出掛ける準備をするフェイトを横目に自分はソファに寝っ転がって目を瞑る。

 暫くすると、自分の服を抱えたフェイトがとことこやってきた。

 

「あれ、自分そんな服持ってたっけ」

「あー、この間見かけて買っておいたんだ。シンに似合いそうだから」

「へー。結構良いヤツみたいだな」

「そうだね、其れなりの値はしたかな」

「何か黒いな」

「シンは黒が似合うから。……嫌だった?」

「いや、別に。何でもいい」

 

 フェイトが選んだという事に意味が有り、その他の要素はどうでも良い。

 かなりの上物だが、問題ない。

 執務官なんてやっていると、金は溜まる。

 執務官一人でも大家族を余裕で養って行けるだけの給料が出るのだ。

 だから使わないと余って仕方が無い。何か買う時にはなるべく良い物を買う事にしている。

 フェイトが自分のサイズをズボンの丈の寸法まで熟知している事は何の疑問も無い。普通だろう。

 フェイトに着替えを手伝って貰い、自分は手ぶらで家を出る。

 実際持っていく物って無いんだよな。取り敢えずデバイスさえ腕に巻いておけばどうにでもなる。

 支払いは基本電子マネーだから財布も要らないし。

 フェイトは何やらちょこんと引っ掛けているが、これはファッションの一部であると同時に自分のお世話をするのに必要なグッズらしい。

 さて、そういう訳で繰り出した街中。フェイトの運転する車の助手席でボケっとしていれば直に目的地のクラナガン郊外にある複合大型ショッピングモールに着いた。

 

「なんだここ……ヤケにデカいな……」

「そうだね。案内によるとミッドチルダでは最大みたいだ」

「それは……他の次元世界にはこれより大きい所があるって事か」

「そうかもね。それなら次元世界最大ってキャッチコピーにするだろうし」

 

 それもそうだ。しかしここまで来ると一つの街だ。

 これを作った奴らは何を考えたのか。いっそ頭が悪いのではないか。

 

「それじゃあ行こうか」

「うん」

 

 そう言って車を降りるなり腕を組んでくるフェイト。

 何時もの事なので無視して歩く。

 周りは家族連れかアベックばかりなので、いつもよりは鬱陶しい視線も少ない。無いことはないけど。

 艶やかさと言えば聞こえは良いが、フェイトほどエロく見える女もそうは居ないからな。

 男の本能。仕方なし。仕方なし。

 とりあえず適当によさげな店に入ってみる。

 

「じゃあフェイト、適当に頼んだ」

「うん、何時もの通りだね」

 

 そう言ってスタコラと見て回るフェイト。自分はのんびりと店内を練り歩く。

 暫くするとフェイトが幾つか服を抱えてとてとて戻って来た。

 何か黒い。

 

「これとかがいいかな」

「じゃあそれで」

「うん」

 

 即決。自分の着る服はフェイトが見繕った方がセンスが良いし、そもそも彼女に見せられれば十分なので、全て任せっきりだ。

 必然的に黒が多くなるが。

 フェイトが会計を終えるのを待って店を出る。

 荷物など無い。ミッドチルダは超高速交通網が張り巡らされているので、買い物なんて全て郵送だ。

 そもそもこうやって出て来なくとも、家でパンフレット発注すれば一時間もしない内に大抵の物は届く。それでも買い物という行為自体を娯楽として楽しむためにこういった施設は根強い人気がある。

 その後も幾つか男物の店を見て回り、フェイトのお眼鏡にかなった物をポイポイ購入していく。

 

「なぁ、今日はお前の分も買ったらどうだ」

「え?    でも、シンの服を見てる方が楽しいし、私のためにシンの時間を取らせるのは……」

「別にいい。今日はデートだからな。それにフェイトの私服は黒ばっかりだろ。偶には違うのを着たらどうだ」

「うん、シンがそう言うならそうする」

 

 こんどは女物の店を回ってフェイトの私服をポイポイ購入する。

 白、赤、茶、など見事に黒以外だ。

 似合うかな、などとは聞いて来ない。こいつに似合わない服を探す方が難しい。それをお互い理解している。

 暫く色々な店を回っていると、なんか喉が乾いてきた。

 

「シン、そこの喫茶店に入ろうか」

「ああ」

 

 相変わらず目敏い。

 自分の観察にかけて、こいつの右に出る者は無い。プロフェッショナルだ。自分のプロ。なんかエロい。

 

「はい、コーヒー。ホットでいいよね」

「ああ」

 

 一口。んー微妙。

 とある事情から味覚が敏感な自分は味には煩い。

 薄いし豆も微妙。

 すると表情の変化を見て取ってか。

 

「はい、お水」

「ありがと」

「えへへ。どういたしまして。このコーヒーはわたしが飲むね」

「すまんな」

「ううん、うれしい」

「そうか。お前は馬鹿だなぁ」

「うん、馬鹿でいいよ。シンに尽くせるから」

 

 本当に馬鹿だ。

 稼ぎは良くて、尽くしたがりで、要求は最大限に応え、命令は絶対遵守、その上やたらと気が回る。

 そこいらの男がこいつと付き合ったら、絶対にダメになる。

 フェイトは幼少期の体験からか、滅私で人に尽くす事が当然になっている。管理局に入局したのも元々はその為だ。今はその対象が自分一人に向いているだけ。

 始めは母親に笑って欲しい、だかの目的があったらしいが、自分といる内に手段が先に出て、尽くす事に喜びを見出すようになった。

 その上で母親に捨てられた経験や特殊な出自、その他諸々の要因から、自己を肯定できなくなった、哀れな女。

 自分に必要とされる事で始めて己の価値を認識し、自分の命令に応える事で幸福や快感を感じる究極のマゾヒスト。

 自分が喜ぶならば、求めるならば、笑うならば、何をしても良いし何をされても構わない。本気でそう思っている。例えば自分が不良の溜まり場に裸で寝ていろと言えば喜んでそうするし、本局でテロ起こせと言ったら楽しんでやるし、死ねと言われれば微笑んで死ぬだろう。

 完全に壊れている。

 本当に愚かで惨めで哀れな女だ。

 しかし。

 ――だからこそ愛おしい。

 

 喫茶店で休んでいると、随分と遠いが、ふと知った気配を感じた。

 これは、面白そうだ。

 

「お、これは……着いて来い、フェイト」

「え? ……うん」

 

 一瞬不思議そうな顔になったが、直ぐに納得したように着いてくる。自分の異能を知っているフェイトは、何となく事情を察したのだろう。

 やがて見えてきたのは、小さめな背丈、小ぶりな胸、茶色いショートカットとたぬきの様な童顔の、女子学生にしか見えない女。

 奴が、一人で歩いている。

 気丈に、意識して凛々しい顔を作りながら、泣きそうになるのを堪えて。

 全身から謎のプレッシャーを発しており、道行く人は皆が避けて通る。まるでフェイトに聞いたモーゼのようだ。

 彼女に後ろから声をかける。

 

「こんにちは、お嬢さん。お一人ですか? ……良ければ少しお茶しませんか?」

 そう声を掛ければ、嬉しいくせにソレを意識して隠して、ちょっと迷惑そうな顔を取り繕い振り向いて。

 ――固まった。

 直に再稼働して、心底忌々しい表情になり、舌打ち一つすると、地獄の鬼も裸足で逃げ出すようなドスの効いた声で一言。

 

「リア充は死ねや」

 

 その言葉には万感の想いが込められていた。

 

 

 立ち話も何だし、丁度良い時間になった事もあって、近場の蟹料理専門店に入る事にした。この女の希望だ。

 個室が空いていたのは都合がいい。

 

「それにしても久しぶりだな、はやて。偶に噂は聞いていたが、元気そうで何よりだ」

「そうやな。シン君も相変わらずえらい優秀みたいで、よう聞くわ。フェイトちゃんとも相変わらず仲良いみたいやね。フェイトちゃんも久しぶりや。2ヶ月ぶりくらいか」

「そうだね。久しぶり、はやて」

 

 嫌味ったらしい口調で言ってくるはやて。

 あれ、自分はこいつに何かしたか?

 

「この間はウチのシグナムがお世話になったようで」

 

 それか。

 

「あー、あれな。憂鬱そうな顔してた上に自分を見た瞬間あからさまに警戒するもんだからなぁ。ちょっと興に乗ってな」

「ホンマ質が悪いわ。あの子あれでも結構気にしぃなんやで。家に帰って慰めるのに苦労したわ」

「でも事実だろ」

「事実だから質が悪いって言ってるんよ」

 

 そう言って疲れたようにため息をつくはやて。

 苦労人気質の女だ。懐に入れた奴は何があっても見捨てられずに、世話を焼かずにはいられない。

 何も捨てられない強欲なのだ、この大嘘付きは。

 今は両手で抱え込める範囲だが、増えていくとどうなるだろうか。

 いや、それを理解しているこの女はそもそも増やさないだろうか。

 興味は尽きない。

 

「ほんまにアンタは苦手や。その見透かしたような目。やめてほしいわ」

「ような、じゃなくて殆ど見透かしてるんだがな」

「あー、レアスキルやったっけ? ……天はなんでこいつにそないなモン与えてしまったんや」

 

 そう言って額を抑えて天を仰ぐはやて。

 

「寧ろ自分の性質との相性も役職との相性も最高だろ」

「だから厄介なんや……えっと、なんて言ったっけ?」

「『六感拡張』な」

 

 六感拡張、つまり視・聴・嗅・味・触の五感と魔導師だけが持つ魔力を感知する第六感。それらが強化できるだけだ。

 応用の幅は広くて便利なのだが。

 表情の動き、些細な仕草、体臭、心音、魔力波の些細な乱れなどから嘘を見抜いたり。

 はやての気配もこれで感知した。

 

「そうや、それな。って、そんなに簡単に教えてええんか?」

「知ってただろ。なら隠す意味も無い」

 

 レアスキル保持者の情報はかなり統制されている。それはレアスキルを保護するためであり、また囲い込んで管理するためでもある。

 だがその情報を自分がどうしようと、自分の勝手だ。

 

「それは、そうやな。でもアンタ確かミッド式やなかった? ……珍しいなぁ」

「あーベルカ式の適性もあるから」

「なるほど、しかしホンマに桁外れな異能やなぁ」

「そうか? ……異能なんて皆そんなもんだろ。少なくとも未来を予知したり、頭の中身を覗いたり、頭の中に知らないはずの魔法の知識があるよりは常識的で健全だと思うがなぁ」

「なんや、アンタ。喧嘩売っとるんか? ……高値で買うで」

「本当に?」

「いや、やっぱ辞めとく。アンタと喧嘩とか危なっかしくてしゃーないわ」

「利口だ。だから俺の前では嘘着いても仮面被っても意味ないぞ。お前の素顔ぐらい分かるからな、小狸ちゃん」

 

 性質としては自分に近しい物があるクセに良識を持っている。いや、持とうとしていて、自分は良識あるいい子ちゃんだと自己暗示している。

 究極的には己と大切な者以外はどうでも良いくせに、そうでない様に振る舞い、本気で思い込んでいる。

 世の為人の為皆の為という良い子のキャラクター。しかしそれは結局の所、打算に塗れたペルソナ。自分に最大限のリターンがある様に計算尽くの振る舞いだ。

 自分と大切なモノが良ければいくら他人を蹴落としても構わない。他人がどうなろうとも知ったこっちゃない。己でそんな自身の性質を理解している癖に、でも自分はそうじゃないと本気で思い混む完璧な自己暗示。そのアンバランスさ。

 ただの自己中心者が開き直っても面白くない。誰にでも分かる程度に隠していてもつらまらない。

 だが人が誰しも持っている自己中心的な感情をここまで隠せるやつは珍しい。

 他人を、そして他の誰よりも己を騙す事に長けた大嘘付き。

 だからこの女は面白い。

 

「うっさいわ、ボケ。おちょくんなや」

「小狸なんて可愛いもんじゃ無いのにな。豆狸か、山姥か、悪狐と言った所か」

「黙っとけや、サトリ妖怪」

「それにしても小狸とは良く言ったもんだ。あえて本性をちょっと晒したか」

「うがあああぁぁっ! ……もうアンタほんと嫌や!」

「ふふっ。図星か」

 

 するとはやては開き直ったような顔になる。

 

「……はぁ。まぁあんたらの前では繕う必要もないから、気は楽っちゃあ楽なんやけどな。でも誰にも言わんといてな。少しでも疑念を持たれるとやり難くなるんや」

「分かったよ。成る程な。その演技力が経歴に傷があるにも関わらずのスピード昇進か」

「そういう事や。少しぐらい性格悪く無いと私みたいんはここまでの昇進なんてできひんよ。人畜無害で健気で優秀な良い子ちゃん、その上美少女や。民衆に目立つように活躍すれば上も私を上げざるを得んやろ」

「美少女ねぇ。くくっ」

「なんや、文句あるんか?」

「いいや、ないない。まぁリリカルマジカル魔法少女を自称しないだけマシか」

「なのはちゃんディスんなや」

「誰もあいつの事とは言ってないがなぁ」

「こいつっ……! ……腹立つわぁ……!」

 

 あー、面白い。

 

「……はぁ。これでまた一つ弱みを握られた訳や。これが裁判での勝訴率100%の秘訣やな」

「弱みとは言っても、最初に会った時から知ってたがな。それに、そんな自分に助けられたのは誰だったか」

「あーはいはい。あの件はどうもありがとうございましたー」

 

 闇の書事件で裁判を担当したのは自分だ。

 クロノにせがまれて会ってみたら面白そうな奴らだったから担当してみた。

 結局は情状酌量の余地有りと、1年の保護観察に勤労奉仕、5年の管理局での労働約束で罰は終えた。

 

「それにしてもどうしてあんな軽罰で済んだんや。今でも不思議やで。ヴォルケンリッターの皆は消滅するまで強制労働でもおかしくなかった」

「あーそれは、お前の処分を盾にシグナムとシャマルに肉体関係を迫ろうとしたアホがいてだな」

「あー……大体分かったからもうええわ」

 

 彼は今頃何をしているだろうか。とりあえず逆恨みされても面倒なので、二度と這い上がれない程度に突き落としておいたが。

 まぁあんなつまらない小悪党はどうでもいい。

 そんな話が一段落したら、一人黙々と自分の分の蟹の殻を剥いていたフェイトも、自分に食べやすくなった蟹を渡して話に加わってきた。

 

「はい、シン。身が取れたよ」

「おー、良くやった、フェイト」

「えへへ。はい、あーん」

「あー」

「ホンマ、相変わらずやなぁ」

 

 遠い目をして呟くはやてにフェイトが話しかける。

 

「そういえば、はやてはこんな所でどうしたの?」

 

 抉りに行くか、フェイト。流石は自分の女、完璧なタイミングだ。

 しかも無意識。素晴らしい。

 

「どうしたのって……見ての通りお買い物や」

「一人で?」

「ぐはっ……」

「?」

「くくくっ」

 

 フェイトは偶に天然で相手を追い詰める。悪意は無いモノだから、相手も怒るに怒れない。ある意味で立派な才能だ。

 自分の事には矢鱈と敏いくせにコレだ。

 何て面白い。

 テーブルに突っ伏しているはやてに声をかけてみる。

 

「家族はどうしたんだよ?」

「……今日はシグナムもシャマルもヴィータもリインも仕事や」

「あれ? ……ザフィーラは? ……あ、そう言えばアルフは元気?」

 

 それを今聞くか。

 自分も聞こうと思った。

 

「……元気なんやないかなぁ! ……きっと今頃家でヨロシクやってるんやないかなぁ!」

 

 やはりフェイトは長い間自分といて、観察し続けているせいか、かなり影響を受けているのだろうか。

 無意識で自分と似た行動を取る事がよくある。

 つまり無意識で天然に人の心を抉りに行く訳だ、誰よりも皆に優しかった、誰よりも自分に優しいフェイトが。

 

「ん? ……ど、どうしたの、はやて?」

「どーもせんよ! ……どーもせんけど、どうにかなってしまいそうやぁ!」

「え? ……え? ……大丈夫、はやて?」

「なんやあの二人と家にいると、凄い申し訳ないような目で見てくるんよ。めっちゃ気ぃ使ってくるんよ……それが居た堪れなくて……」

「くくくっ」

 

 成る程、逃げて来たか。

 

「だが何でここに来たんだ? ……もっと惨めな思いするだけだろ」

「惨めっていうなや! ……ちょっと興味あったから来てしまったんや!」

「それで移動したら負けた気分になるって訳か」

「うぐっ……」

「無駄なプライドだ」

「無駄やない! ……こういう小さな積み重ねが大事なんや!」

 

 あーあ。見苦しい。

 するとフェイトがポン、と両手を合わせて呟いた。

 

「……あぁ、成る程。はやては彼氏が居ないから悔しいんだ」

 

 ぶっちん、と音が聞こえた気がした。

 

「うっさいわぁ!! ……黙っとれやこの精神異常者がぁ!! ……アンタらのせいで私がどれだけ大変な思いしてるか分かってるか!? ……なのはちゃん関係の苦情とか、全部私かヴィータに来るんやで!? ……つまり私に彼氏ができひんのはアンタ等が悪い!! ……どないしてくれんねや!!」

 

 心の底からの叫びだった。

 魂の慟哭だった。

 しかしフェイトには効かない。

 

「え、それとはやてに彼氏ができるかできないかは関係ないよね。責任転嫁もいいところだよ。はやてに彼氏ができないのは、はやてに何か問題があるんじゃないかな」

「う、う、うっさいわぁぁ! ……黙っとれやボケぇぇぇ!」

 

 八神はやては泣いていた。

 心からの涙だった。

 面白い奴だ。

 蟹入りの茶碗蒸しを食べながら暫く待つと、漸くはやては落ち着いてきた。

 未だに涙目だが。

 

「それにしても何ではやてには彼氏ができないんだ?」

「それや! ……私にも訳が分からんのや!」

「うーん、どうしてだろう。はやては可愛いのに」

「そうや! ……こんな美少女放っておいて、世の男は何やっとるんや!!」

「荒れてるなぁ……」

「ザフィーラ達がいるからだろ。それで今日ここに来て、こうなったと。よく見ておけ、フェイト。これが焦り始めた女の図だ」

「うん、分かった」

「黙っとれ!!」

 

 取り敢えず皆で温かいお茶を飲んで一段落。

 

「それで、そういう女は大抵が現実が見えていないと言うが……はやてには男の条件とか有るのか?」

「それは……一応あるにはあるけど……でもそんな大したモンじゃないんや……」

「どんなの?」

「えっと……

 

少なくとも私より年収があって、将来性も欲しいわ。あと私より弱い男の人はNGやね。やっぱり女の子やし、守って貰いたいんや。あと年齢は年上がいいかな。でも離れすぎるのは嫌やから、3歳以内や。頭の悪い人は嫌いやけど、これは話してみんと分からんなぁ。あとは身長が180くらいは欲しいわ。顔は余りこだわらへんけど、目は二重で鼻が高い人が好みや。後は細マッチョな、細マッチョ。ゴリマッチョはザフィーラでお腹いっぱいやからな。それに他の女の人と付き合った事が無い人がいいわ。最初で最後の女になりたいんよ。それに私の仕事が忙しくて余り会えなくても笑って許してくれて、私の休暇の日には一緒にいて欲しいなぁ。それと、無垢な笑顔が素敵で少年みたいに明るくて、でも決める時にはビシッと決める人がええな。そんで優しくて、優柔不断やなくて、私の頼み事を何でも聞いてくれて。それと紳士的で、気も効いてて、一緒にお喋りしてて楽しい人がええかな。あとは……

 

ん?    どうしたん、二人とも。ポカーンとしてもうて。もうちょっとあるで」

 

 愚かな。

 

「何も言うな、フェイト。より一層哀れになるだけだ」

「そうだね。そっとしておこう……」

「どういう意味や!!」

「いや、なんでも無い、なんでもないぞ、はやて」

「そうだね、うん。なにもなかった」

「なんなんや!!    何でこの話すると皆そんな反応になるんや!!」

 

 他でもしてしまったのか。

 取り敢えずはやてを宥め賺しておく。

 

「はぁ、まぁええわ。いつか私にも私だけの白馬の王子様が迎えに来てくれるんや」

「そうだな、きっと来てくれるな」

「うん、来てくれるよ」

「せやろせやろ。きっと素敵な人なんやろうなぁ……」

「そうだな。素敵な人だな」

「きっと素敵な人だね」

 

 鸚鵡返し便利でした。

 




ほのぼの日常回でしたっ!
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