フェイト・テスタロッサは壊れている   作:ごまさん

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なのはは必死に戦う

「たのもー!!」

 

 そんな掛け声と共に執務室に飛び込んで来た女。

 またか。面倒な。

 

「おい、奴隷。摘み出せ」

「はぁ。わかりましたぁ」

 

 グイグイと女の背中を押して行くシャーリー。そんな様子に焦った女が少し声を荒げてきた。

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待つの!    今日こそ私と決闘して貰うよ!」

「嫌だよ、面倒な」

「だ、だめだよ!    シン君は私と決闘するんだよ!!    今度は勝ってフェイトちゃんを解放してもらうんだからぁ!!」

 

 そう言って女、高町なのはは駄々っ子の様に手足をジタバタさせた。

 教導隊なんて入りやがって、無駄に力をつけたせいで、シャーリーが手を拱いている。くそっ、仕事の邪魔だ。

 生憎とフェイトは出払っていていない。というか恐らくその時間を狙われた。本気でどうしてくれようか。

 

「まぁいい、丁度昼飯にしようと思っていた所だ。シャーリー、30分の休憩をくれてやる」

「はい!    ありがとうございます!!」

「ほら、行くぞ」

「ちょっと、何するの!?    離してよ!!    ねぇってば!!」

 

 そう言って自分は何やら喚いているなのはの首根っこを引っ掴み、ズルズル引きずって行く。道中にいた奴らが顔を引き攣らせているが、知ったこっちゃない。

 今日は焼肉にしよう。

 自分は大きな荷物をズルズル引きずったまま、店に入った。

 注文をとって、なのはに向き直る。

 

「それで、何の用だ」

「だから!    今日こそ決闘して貰うよ!!」

「お話はもういいのかよ」

「シン君たちにはお話したって無駄だって分かったから。私も成長してるんだよ。だから力尽くで行かせてもらうよ!」

「いやだよ、お前と決闘とか。自分になにも得が無いだろ」

「……乗ってくれたら、私が密かに集めているフェイトちゃんマル秘アルバムを分けてあげるの」

「お前それ後で盗撮容疑の証拠品として没収な」

「そんな、殺生な!」

 

 こいつ、こんなアホなキャラだっけなー。

 つい遠い目になってしまう。

 

「お前なぁ、今さら決闘してお前が勝った所でフェイトが自分から離れる訳ないだろ」

「そんなの、分からないよ!    シン君の情けない姿を見せれば、愛想つかせるかも知れないし!」

「本当にそう思うか?」

 

 むしろ喜ぶだけだと思うが。

 より沢山世話を焼けるとかで。

 

「……い、いいからやるの!」

 

 ヤケになったように言いやがって。

 そもそも勝率は自分の方が高いが、最近では殆ど五分五分に近い。教導隊で余計な力を付けたらしい。

 勝った事が無いわけじゃないくせに、毎回同じ名目で来る。

 アホか、アホの子なのか?

 

「お前、自分と居る時に幼年退行してないか?」

「ふぇ?     それは私が子供っぽいっていいたいのかな?」

「ああ、ガキその物だ」

 

 こいつは自分の前では昔から何も変わらない。

 そこに居るのは不屈のエースオブエースの威厳なんてこれっぽっちもない、ただの我儘で意地っ張りな子供である。

 

「うー……そんなぁ……子供っぽいかぁ……ねぇ、シン君は子供っぽいの嫌い?」

「ああ?    別にどうでも良い。自分はお前に興味がない」

「そ、そんなぁ……!」

 

 目に見えてしょぼくれるなのは。

 だが知ったこっちゃない。

 すると頼んでいた焼肉やサイドメニューが届く。

 

「なのは、焼いとけ」

「ふん!    自分で焼けばいいの!    私はフェイトちゃんじゃないんだから!」

「そうか、奢ってやろうと思ったが、いらないんだな」

「喜んで焼かせてもらうね!」

 

 ……このアホとも随分と長い付き合いになる。なんとなく初めて会った頃を思いだした。

 

 

「フェイトちゃんを解放するの!」

 

 初めて会ったのは、フェイトが自分の物になった少し後だ。いきなり現れたチビが必死に睨み付けて来たと思ったら、そんな事を言ってくる。

 

「はぁ?    誰だお前」

「私はなのは!    高町なのはだよ!」

「そうか。帰れ」

「嫌なの!    お話し聞いてもらうまで、帰らないんだからぁ!」

「そうか。じゃあな」

「まっ、待ってもらうの!」

 

 立ち去ろうとすると、立ち塞がってくる。

 

「…….なんだよ」

「フェイトちゃんを解放するの!!」

「はぁ……」

 

 面倒だったので強制転移で何処かに飛ばした。

 

 一週間後。

 

「フェイトちゃんを解放するの!!」

「また出た……」

 

 こいつはここの所毎日毎日自分の所に来る。良い加減適当にあしらうのも面倒だ。

 

「おい」

「ふぇ?」

 

 少しお話とやらに乗ってみるか。

 

「お前は何なんだ」

「だから、高町なのはだよ!    フェイトちゃんの友達なの!    それよりもお話を聞いてもらうの!    そしてフェイトちゃんを解放するの!」

「解放?    解放って何だよ」

「フェイトちゃんは貴方と居て変わったの。私たちの方に見向きもしなくなった」

「そうかもな」

「学校に来るのも出席日数ギリギリになって、貴方とばっかり居るの!」

「それがどうした」

「そんなのダメなの!    私はフェイトちゃんの友達だから、友達が間違ってたら道を正すのが友達なの!」

「そうか。だが、何を持って間違いとするんだ?」

「それは……そんなの分からない!    でも、私たちと学校にいる時も、フェイトちゃんは何時も貴方のことしか考えてなくて、私たちを全然見てくれない。そんなのは絶対に間違ってるの!!」

 

 なんだこれ、駄々っ子か?

 我が強いというか、我儘というか。

 一度決めた事は曲げられない、融通の効かないタイプだ。面倒だ。

 

「それはそうだ。あいつは自分の所有物だからな」

「所有物!?    っっ!    フェイトちゃんは物なんかじゃないの!!」

「そんな事はどうでもいい。あいつが自分の所有物である事に変わりはないからな」

 

 するとなのはの目に怒りの炎が宿り、決意の色が灯った。

 あ、やっちまった。これ面倒なやつだ。

 こういう手合いは苦手だ。

 人に悪意などを滅多に持たず、嘘やごまかしをせず、素直に心の赴くままに真っ直ぐに、善意で動いて万事どうにかしてしまう連中。主人公体質とでも呼べばいいのか。ヤケにキラキラした人間。自分との相性が悪すぎる。いくら煽っても、罵っても、瞬間的に激発はしても怨みを長続きさせない。

 こういう連中は地位や金への執着心が低く、自らの保身の意識が弱いので、やりずらいったらない。

 脅しが余り効かないのだ。

 こういった輩は大切な人間を使って脅すのが最も効果的なんだが、この問題でそこまでする必要性を感じない。

 それにこいつは管理外世界の出身だ。管理外世界の人間に手なんて出したら確実に首が飛ぶ、どころか犯罪者にされかねない。

 自分を恨む奴も羨む奴もごまんと居る。そんな連中にこんなつまらない事で隙を与えたくない。

 管理世界に出てきたのはつい最近なので、しがらみも薄い。

 そうなるとハラオウン家か八神家を引き合いに出すしか無いが、どれだけ有効かも分からないし、ハラオウンには提督がいる。あの提督は隙を作らない真面目で実直なタイプだから、裏でコソコソやっている情報も無く、脅しも難しそうだ。隙を無理矢理に作らせて脅すか譲歩を引き出すってのもできなくは無いが、そこまでの労力をかけて、あの提督を敵に回してまで、それをやる価値があるとも思えない。

 八神は自分が裁判を担当した。隙は幾らでもあるが、ここで奴らの判決に揺らぎを出すのは、自分の経歴に傷をつけかねない。しかも今は自分が監察官として、保護観察中なのだ。リンディも名乗りを挙げていたが、敵の多い奴らには自分の方が適任だし、弁護を担当した人間が監察官になるのは一般的だと押し込めた。とにかく奴らに何かあれば、自分の責任にも波及しかねない。

 こいつなら八神を使えば黙らせられるが、どうせ直ぐにリンディ辺りが入れ知恵して、人質の効力が無い事を知る。そうなると今よりも面倒な事になるだろう。

 

「決めたの!    絶対に貴方にはフェイトちゃんを返してもらうから!!」

「それなら自分じゃなくて、フェイトに言ったらどうだ?」

「フェイトちゃんには何度も言ったの。でもまともに話を聞いてくれなかった。だからなのはは、あぷろーち?    を変える事にしたの!    行き詰まったらあぷろーち?    を変えるといいの!    アリサちゃんが教えてくれたんだよ!」

 

 ……そのアリサって奴に会ったら絶対泣かす。余計な入れ知恵しやがって。本気の精神攻撃で絶望すら生ぬるいレイプ目にしてやる。

 

「それで、どうやって自分からフェイトを取り返すんだ?」

「それは、貴方が分かってくれるまで、何度もお話するの!」

 

 なんだ、やっぱりただの子供だな。

 

「そうか。お前の言いたい事は分かったからとっとと帰れ」

「え!?    本当なの!?    絶対だよ!」

 

 何やら言っているなのはを強制転移で送り飛ばした。

 それから暫くして、アースラの艦長リンディ・ハラオウンがやってきた。

 

「ごめんなさいね、なのはさんの事」

 

 申し訳なさそうな表情を作って謝罪してくるリンディ。

 でもこれは作ってるだけで、悪いとはこれっぽっちも思っていないな。自分にその程度の演技が通用すると思っているとは。自分の異能を知っていておかしくない立場だが……ガキだからと舐めているのか?    いや、こいつに限ってそんな筈はない。ならば余程自分に自信があるって事か、もしくは演技をするのが最早癖になっているか。

 

「ああ?    あんたの差し金なのかよ」

「いいえ、違うわ。でも彼女を見出したのは私だから、私がストッパーの役割りをしないといけないのだけれど」

 

 はい、嘘。見出したのは本当だけど、ストッパーなんてやるつもり無し。寧ろ積極的にけしかけていそうだ。

 

「そうだな。何も出来てないな。アースラの艦長は子供一人抑えられない程に無能なのかよ」

 

 少しくらい嫌味でも言いたくもなる。

 

「っ!    でもね、彼女の言い分も間違っていないのよ。フェイトさんは貴方と居る様になってから、有り体にいってしまえば、おかしくなった。だから私としても、なのはさんを応援したい気持ちがあるのよね。ハラオウン家の養子にするって話も断わらちゃったし」

「はぁ?    あぁ、そうか。そうか。アンタ何も分かってないんだな。くくくっ」

 

 するとニコニコ笑いながら、しかし目の奥に鋭い光を宿して睨んできた。

 あーこれは結構イラついてるな。

 まぁ、自分みたいな小僧に馬鹿にされれば当然か。

 こいつプライド高いし。

 

「……それはどういう意味かしら?」

「んー、教えてやってもいいが……」

「えぇ、私としてはフェイトさんが心配だし、是非教えて貰えないかしら?」

「んー、どうしようかなぁ?」

「……借り一つよ」

「……へぇ。自分に借りを作る事の意味、当然分かっているんだよな?」

「……ええ、分かってるわ」

 

 タダで情報を引き出すのは無理と早々に諦めたか。賢明だ。自分に限ってうっかりなんてあり得ない。それをリンディも知っているからだろう。

 ならば時間を無駄にする愚行はしない、といった所だな。自分に気が変わられても困るというのもあるだろうが。

 表情を取り繕っていても、心底悔しそうにしているのが手に取るように分かる。

 わざわざ借りまで作って情報を聞き出したいとは、余程フェイトとなのはを気に掛けているらしい。だがそれも当然か。あんな大魔導師の卵が手付かずでポンと宙ぶらりんになっていることなんて滅多にない。ここで何としてでも手駒として取り込んでおきたいと考えるのは至って自然。

 ただでさえ自分の取り込みに失敗しているリンディだからな。

 実益の面でもプライドの面でも、どうにかして自分からフェイトを取り返したいのだろう。

 それは不可能だが。

 

「……まぁそれでいいだろう。……フェイトは自分といて壊れたんじゃない。壊れたから自分と居るんだ」

「……どういう事かしら?」

「アンタは以前、クロノとフェイトをハラオウンに養子にする事について討論した事があったな。元犯罪者がどうとか、ハラオウンがどうとか、クローンがどうとか」

「……ええ、あったわね。もしかして、貴方がそれを……」

 

 今度は隠しもせず睨んでくるリンディ。

 

「おいおい、話はちゃんと聞いとけよ。壊れたから自分と居るって言ったろ」

「それは、どういう……いえ、まさか……」

 

 顔色が悪くなるリンディ。

 

「アンタの想像した通りだ。自分はフェイトから聞いたんだよ。だからもうアンタには取り返せないし、アンタの手駒にもならないよ。残念だったな」

 

 それを聞いて片手を額に当て、天を仰ぐリンディ。

 

「そう……分かったわ。情報を感謝します」

「ああ。ついでになのはを黙らせといてくれないか」

「ええ、一応言うだけ言っておくわ。でもあの子は我が強いから、期待しないでおいて」

「ああ、よく知ってるよ」

「じゃあその対価というわけじゃないけれど、フェイトさんをもう少しちゃんと学校に行かせてくれないかしら。何をさせてるんだ、って学校側に睨まれてるのよ。今さら辞めさせる訳にもいかないし、貴方もそれは望まないでしょ?」

「まぁ、そうだな。自分から言っておくよ」

 

 5日後。

 

「や、やっと見つけたの!」

「またお前か」

「全然分かってないの!    何も変わってなかったよ!」

「そうか、それは残念だったな」

「本当だよ!    って、それは貴方の事なの!」

「そうだな」

「そうだな、じゃないの!    いい加減フェイトちゃんを解放するのーっ!」

「無理だ。そもそもあいつは壊れている。自分が解放した所で無意味だ」

 

 それを聞いたなのはは、呆然としたと思うと、再び目に怒りの炎を燃やした。

 

「こ、壊れてる?    ……フェイトちゃんは壊れてなんていない!! 何も知らないくせに分かった様な事を言わないで!!」

「いいや、壊れている。何も分かって無いのはお前だ」

「じゃあなにがあったのか教えてよ!    どうしてフェイトちゃんはああなっちゃったの!?」

「それはお前には関係ない」

「ふざけないで!    私はフェイトちゃんの始めての友達なの!」

「そうか、だからどうした?    始めてのの友達なら、何でも知って当然だと?」

「少なくとも友達がおかしくなったら、その原因を知りたいって思うのは普通でしょ!?」

「知らん。自分もフェイトも普通じゃない。お前は知る必要は無い」

「そ、そんなの、わけわかんないよ!    壊れてるとか、普通じゃないとか!    フェイトちゃんになにがあったの!? 何で貴方はフェイトちゃんを壊れてるなんて言うの!?」

「さあな。少なくとも、自分はお前よりフェイトの事を分かっている。それだけだ」

「ふ、巫山戯ないで!    フェイトちゃんと時の庭園でもヴォルケンリッターの皆とも、闇の書の闇とも、一緒に戦ってきたのは私なの!    貴方なんかよりもフェイトちゃんのことはいっぱい知ってるんだから!」

 

 まるで子供の癇癪だ。

 いや、まるでじゃなく、本当に子供だったな。

 しかし理にかなっていない事もない。全く納得出来ない訳ではない。

 でもこいつが知っても仕方が無いだろう。壊れているフェイトはきっと、こいつすらも信じられないから。

 しかし何か焦ってるな……リンディに何か言われたのが響いたか?

 あいつに頼んだのが裏目に出たか……

 それとフェイトを学校にまともに行かせるようになって、フェイトと接する時間が増えた事も原因の一つか。

 はぁ。なんて面倒臭い奴だ……

 

「それで、お前はどうしたら満足なんだよ」

「貴方が何があったのか話してくれればいいの!    それでフェイトちゃんを解放して!」

「はぁ。……もういいよ、お前。お前と話す事はもう無い」

 

 そう言って背を向ける。こいつにはもう、付き合って居られない。同じ問答は繰り返したくない。

 

「ま、まって!」

 

 そう言って服の裾を掴んでくるなのは。

 

「なんだよ、しつこいな。お前と話す事はもう無いと言ったろ」

 

 冷たい目で見下ろしてやる。

 

「っっ!    ……分かったの。一週間後の朝10時に本局のA-14演習場で待ってるから」

「……自分が行くと思うか?」

「来てくれないなら、何がなんでも来てもらうの」

「うわー……」

 

 こういう子供はこうなったら形振りかまわないだろうから、何をしてくるか分からない恐ろしさがある。

 非常に面倒だが、行っておいた方が無難か……

 

 そして一週間後。

 宣言の通りに演習場でバリアジャケットに身を包み、待ち構えていたなのは。

 

「やっと来たの」

「別に遅れてないだろ」

「女の子は待たせるものじゃないんだよ」

「あーはいはい」

 

 どうでもいい。

 

「それで、何の用だよ」

 

 分かり切っているが、一応聞く。

 

「私とお話してほしいの!」

「お前と話す事はもう無いと言ったろ」

「それでも!    話さないと何も分からないから!    私まだ貴方の事はよく知らない。いっつもあしらわれてばかりだから。でも、フェイトちゃんは私の友達で、そんなフェイトちゃんがおかしくなったのは貴方と居る様になってから。貴方が全然話してくれないから。フェイトちゃんも何も言ってくれないから。わたしはそれからしか判断が出来ないの!    だから、貴方にはちゃんと話してほしい。どうしてフェイトちゃんがああなっちゃったのか。貴方が何かしたのか。そうじゃないのか。全部全部話してほしい。それから一緒に考えよう。やっぱりフェイトちゃんがあのままっていうのは、絶対に間違ってると思うから。絶対によくないって思うから。だから、わたしはフェイトちゃんの友達として、貴方と戦わなくちゃいけない!」

「……それで?」

「私が勝ったら何があったのか、全部お話してもらうから。そして、フェイトちゃんを解放してもらうから」

 

 解放。つまりフェイトを棄てる、か。

 

「それを受けて自分に何の得がある」

「……私が負けたら、貴方にはもう付きまとわないし、フェイトちゃんを貴方から解放するのも諦める。また新しく友達になるの」

「……そうか」

 

 この決闘はどうだろうか。

 正直受けるだけの価値は感じられないけれど。

 でも。

 これは直感でしかないけれど。こんな感覚は普通は愚かしいと断じるべきかもしれないけれど。リスクが大きすぎるかもしれないけれど。

 この決闘に勝利したら。

 きっと。

 

 ――――何かが分かる気がする

 

 どっちにしろフェイトを棄てるなら自分も棄てるのだ。

 それは直感的に理解している。

 その答えがまだ見つかってない以上、直感に身を任せてギャンブルに乗ってみるのもアリかもしれない。

 そんな柄にもない事を、思ってしまった。

 きっとこんなギャンブルに挑むとか、やっぱり自分はどうしようもなく壊れている。

 自分は凛々しい顔をするなのはの目を見つめる。

 

「分かった」

「……ほっ。よかった…….」

 

 そう言ってデバイスを構えるなのは。

 

「デイブラ、セットアップ」

《stand by ready……set up》

 

 ……。

 

「アクセルシューター……シュートッ」

 

 まず先制で魔力弾を放ってくるなのは。

 それを魔力感知で全てを感知し、最小限の動きで避ける。誘導弾でも、魔力パスが繋がっているので、どちらの方向に動くのかは何となく分かる。どうしても除けられない球は魔力を込めた杖でいなし、他の球とぶつけて相殺する。術者から離れすぎた球は余り長時間は留められず、自然と消滅する。

 お返しとばかりに多数の誘導性を捨て、速度と威力を底上げしたシュートバレットを多数発射する。

 

「うそっ!?」

《protection》

 

 誘導弾が容易くイナされた事に驚くなのは。

 しかししっかり対応し、バリアを張って耐えた。

 だが。

 突如としてなのはの目の前で輝く閃光。轟く爆音。

 

「えっ!?    きやっ!?」

 

 魔法弾の中に閃光音響弾を混ぜておいた。

 なのはの目が眩んでいる隙にソニックムーブで背後に急接近する。

 ちなみにデバイスには魔法名を言わない様に、黙らせている。

 わざわざ自分の攻撃内容を宣言するアホがいるか。

 即座に魔力で強化したデバイスをブリッツアクションで速度を上げ、なのはの後首を殴りつける。

 

《protection》

 

 デバイスAIの自動生成防御で防がれた。急ごしらえのクセに結構固いな。抜くより避けたほうが早い。

 張られたプロテクションは抜かずに、ショートムーブで側面に回る。また先と同様に殴りつける。

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

 マトモに食らって吹き飛ばされていくなのは。そんな彼女にカートリッジロードした高威力魔法弾を3発飛ばす。

 カートリッジシステムはレバンティンやグラーフアイゼン、試作機であるバルディッシュの実用データも流用し、直ぐに付けさせた。

 

《protection》

 

 またデバイスに防がれた。

 だが、この弾丸はカートリッジまで使っている。即席のプロテクションでは防ぎきれず、一発目でバリアに穴を開け、2、3発目でその穴を通す。

 これで終いか、と思ったが、そうでは無いらしい。上がる土煙の中で何故か立ち上がる気配がある。

 まともに食らえば立てるはずないのだが……

 いや、違う。大量の魔法弾の反応を感知。ぶつけて威力が削がれたか。だがカートリッジまで使った魔力を三発の魔法弾に込めたため威力は此方の方が上だ。相殺には至らなかったぱず。

 なのはが魔法弾の狙いを定める前に即座に追撃を仕掛けるために接近したが、馬鹿げた量の魔法弾が土煙の中から飛び出してきた。

 プロテクションはデバイスに任せてなのはは魔法弾生成にリソースを割いたらしい。

 なんだこの量。土煙で見えないからと、誘導性は捨てて量と速度に重点を置いたか。

 自分の今の技量では、全ては避け着れない。杖に魔力を張って、イナしたが、どうしても除けられない余波を食らってしまった。

 魔力感知の異能で自分に来る魔法弾は全て分かるが、球同士がぶつかって破裂した余波までは計算できなかった。

 

 その後も自分の優勢で進むが、偶に先ほどのように余波でなどを食らってしまう。

 自分はバリアジャケットはボロくなってきているが、ダメージはなのはの方がずっと大きいはず。

 何故まだ立てるんだ?

 戦闘が小康に入る。

 

 ――この決闘を通じて、分かった事がある。

 

「フェイトちゃんを縛るのはもうやめてよ!    ねぇ、わたしとお話しよ?    きっと貴方にも分かって貰えるから!」

 

 ――答えが分かったからにはフェイトは解放できない。

 

「無理だ、お前にはいくら話した所で自分達の気持ちは分からない。絶対にだ」

 

 ――壊れた人間の気持ちは、マトモな人間には分からない。

 

「そんな事はお話してみないと分からないの!    ……ねぇ、お願いだから、わたしにフェイトちゃんを返してよぉ!」

 

 ――どうやら劣勢になって、なのはは焦っているようだ。しかし。

 

「駄目だ。フェイトは自分の物だ。絶対に誰にも渡さない」

 

 ――何故だか知らないが、フェイトをどうしても棄てたくないと思ってしまった。

 

「フェイトちゃんは貴方の物なんかじゃないの!!」

 

 ――なのは、お前には残念だろうが。

 

「いいや、あいつは自分の物だ。自分の所有物だ。自分が棄てるまで、あいつは一生自分の物だ」

 

 ――自分は絶対にフェイトを離さない。

 

「じゃあ棄ててよ!    それで私にちょうだいよ!」

 

 どうやら自分の雰囲気が変わった事に気がついたか、劣勢に追い込まれた焦りからか、戦闘の昂りか。普段のなのはなら言わないような言葉まで出てくる。

 

「なんだ、まるでフェイトがモノみたいな言い分だな」

 

 ついこんな風に揶揄してしまう。

 

「貴方がそれを言うの!?    いいから私のフェイトちゃんを返してぇ!」

 

 ……。

 

「駄目だ。自分はあいつを棄てないと決めた。一生離さないと決めた。だからあいつは一生自分のものだ」

 

 ――悪いな、なのは。フェイトは自分のモノだ。

 

「こぉんのぉぉお!    分からず屋!    もういいの!    力尽くでも奪い取ってやるんだから!!」

 

 何かが吹っ切れたらしい。

 だけど。

 

「やれるものなら、やってみろ!」

 

 ――――この決闘は負けられなくなった。

 

 そこから戦闘は更に激化した。

 フルドライブになって、更に硬くタフになったなのはとの撃ち合い。

 技量は此方が優っているが、どうも決めきれない。

 収束砲撃は使わせない。あんなごんぶとビーム食らったら、一撃でKOだ。

 なのははこれで決める積もりなのか、かなり苛烈な攻撃を仕掛けてくる。異能で先読みしても、偶に余波をもらってしまう。自分もまだまだ技量不足だ。

 こちらの攻撃はバカみたいに硬くなったプロテクションやジャケットに阻まれてしまう。

 後先考えないなのはの攻撃が苛烈すぎて、避けるのが精一杯だ。余り威力を込められないため、なのはの防御を抜ききれない。

 このままでは千日手だ。

 しかしそれで構わない。強者同士の戦いなんて大抵がそんなもんだ。

 つまり、速攻で片がつくか、持久戦でどちらかがへばるか。

 今回は後者だった。それだけ。

 

 

「え……?    あ、あれ?」

 

 そして。ついになのはが上空でフラついた。

 

「この戦い、自分の勝ちだ」

 

 そして、そのまま魔力切れで気絶して墜落してくるなのはを抱き止めた。

 

 

 気を失ったなのはを何時の間にか見に来ていたはやてに預けると、一息。

 不意によく知った気配が近づいて来るのを感じる。

 これは、丁度いい。

 たった今、答えは見つかったのだから。

 正面から抱き付いてきたフェイトの頬に手を添えて、じっと目を見つめる。

 

「フェイト……」

「うん……」

「答えがわかった」

「うん……」

「自分はお前を棄てない」

「うん……」

「お前は一生自分の所有物だ」

「うん……」

「お前に尽くされる事で自分は自分に価値を見出せた」

「うん……」

「だからお前は一生自分に尽くしていろ」

「うん……」

「お前の人生は自分の為にある」

「うん……」

「自分にはお前が必要だ」

 

 するとフェイトが確認するように。

 

「……わたしは、壊れているよ」

「自分もだ」

「……わたしは、人形だよ」

「それでいい」

「……わたしは、偽物で、クローンだよ……」

「お前がいい。他の誰でもない、アリシアでもない、お前じゃないとダメだ」

「……わたしには、価値がないんだよ」

「自分にとって、お前以上に価値がある物はない」

 

 すべて真実。

 なのはと決闘して。なのはの強い思いに触れて。

 触発されるように感じたもの。たった今も膨れていて、溢れそうになる思い。

 フェイトが涙を流している。

 ずいぶんと酷い顔だ。

 

「……わたしにも、君以上に価値があるものはないよ」

 

 それは……よかった。

 

「じゃあお互い様だな。自分はお前に尽くされる事で自分の価値を見出す。お前は自分に所有される事でお前に価値を見出す。これでお互いに自らを棄てられなくなったな」

「もとよりわたしは君の物だ」

「それもそうか。じゃあこれからは素敵な共生の始まりだ」

「うん、一生棄てないでね」

「ああ、一生棄てないと誓うよ」

「ありがとう、嬉しい」

 

 そうか。この思いは。

 

「愛してるよ、フェイト」

「わたしも、愛してるよ、シン」

 

 どうしようもなく壊れている自分だけど。

 お前といる時には、少しはマトモに成れる気がするよ。

 

―――――――

――――

――

 

「シン君、お肉焼けたよ」

 

 回想に浸っていると、肉が焼けていた。

 

「よくやった」

「もぅ、そこはありがとう、って言うところだよ!」

「そうか、ありがとう」

「心がこもってなーい!」

「なんなんだよ……」

 

 そもそもなんで自分はこいつと焼肉なんかしているのか。

 いや、自分が引っ張ってきたのか。

 でもあのまま執務室に居座られたら、マトモに仕事もできない。

 

「なぁ、なのは。昔決闘した時に、自分が勝ったらもう付きまとわないって言わなかったか?」

「ゔっ……」

「それなのに隙あらば決闘決闘って。お前は決闘フェチか何かなのか?」

「だって……シン君と戦うの楽しかったんだもん……」

「お前が自分と決闘できないと教導で暴れるって報告あったぞ。何やってんだよ。自分の所に回されてもウザイから、はやての所に行くように手回しはしたけど」

「あー!    この間はやてちゃんに怒られたの!    苦情が回って来るって!   なんではやてちゃんの所に行くのかって不思議だったけど、シン君のせいだったんだ!」

「いや、そもそもお前が暴れなければいいだろ」

「それは……ついシン君との全力全開の戦いを思い出しちゃって……」

「そのせいで自分に、ぜひ戦ってあげて下さい、なんて頭下げに来る教導隊のやつもいたぞ。さすがに自分に苦情を言いに来るやつはいなかったが」

 

 自分は局内でかなり恐れられている。

 当然だろう。敵に回って何か妙な工作を仕掛けて来たアホは、悉く叩き潰して来たからな。

 

「うぅ……ごめんなさい」

「……まぁいい。明後日の朝8時だ。お前との戦闘は鍛錬になるからな」

 

 これも本当。

 こいつとの決闘程に良い訓練になるモノも少ない。

 フェイトは自分に刃を向けられないからな。

 

「ホントッ!?    ありがとう、シン君!!」

 

 何故こいつは自分といるとこんなにも子供なんだ……

 まぁいい。

 この果てしなく面倒でウザイ女だが。

 

 こんなんでも一応、自称フェイトの『友達』だからな。

 




外道成分が足りない……っ!
これではツンデレみたいじゃないか!
この主人公はツンデレではありません。最後の下りとかも、デレじゃありません。本気で訓練としか思っていません。
一応言い訳させてもらうと、主人公はなのはをかなり気に入っています。だからと言って虐めない理由にはならないんですが。
もうちょっと外道回を書きたいです。
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