――時空管理局の現体制に不満を持つ、他次元世界を発祥とする宗教団体、『人間教』を母体としたテロリストグループによる、質量兵器の爆発物を用いた大規模テロ事件の続報です。管理局本局の魔導師の尽力により火災は収まり、犯人も全員拘束されましたが、現在判明している事件による死傷者は47人に上り……
――残念だったな、シン。兄さんと義姉さんの事は自分も悔しい……嘘
――本当、惜しい人を亡くしたわ……嘘
――そういえば君に遺された家や金はどうするんだ? 何なら俺が預かって運用してやろうか……本当
――な、何言ってるのよ兄さん、そういうのはわたしがやるわ……本当
――お前こそ何だ。俺の方がシンも安心だろう……嘘
――シンと仲が良いのは私なんだし。きっとこの子も私が良いと言うわよ……嘘
――ふん、あんな気持ち悪い子ども、引き取れる訳がないだろう……本当
――だからって私も無理よ、兄さんは結婚してるんだから良いでしょ……本当
――おいおい、馬鹿言うな。いくら遺産が付いてくるとは言っても、心を読まれるなど気持ち悪くて仕方がない……本当
――そもそもあの子は何かおかしいのよ。昔から気持ち悪いと思っていたわ。感性が常人と違うのよ。気が狂っているのよね……本当
――ああ。どうにかして遺産だけ吸い出して、管理局にでも売り払うのが良いだろう。あの気持ち悪い異能でも管理局は欲しがるだろうしな……本当
――こいつどうするんだ?
――どうやら欲しがっているお偉いさんは山ほどいるそうだぞ
――それはそうか。こいつがいれば奇襲なども撃てないから護衛にも役に立つしな
――それよりも嘘や感情が読める力が欲しいんだろう
――ああ、こいつ程上の方のパワーゲームで役立つ道具は無いからな
――いいかい、シン君。これから会うおじさんがもし嘘をついていたり、嫌な感じがしたら、私に教えて貰えるかな?
――君は今まで大変な思いをして来たようだ。僕の所に来たからにはもう安心だぞ。道具としてなど決して扱わん……嘘
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――――
――
―
目を覚ました時には大抵の場合では夢の内容など覚えていない。覚えていたとて、しばらくすれば頭の中から薄れて消えて行く。
今ならどんな夢だったのか覚えているが、きっと数分後には忘れてしまう感傷でしかないのだろう。
しかし今さら昔の夢を見るとは。
だからどうと言う訳でもないし、自分にとって辛い思い出という訳でもない。
自分の道具としての有用性は自分が誰よりも熟知しているし、その恩恵にも預かっている。だから自分を道具にしていた者たちに思う所は無いし、当時も連中の手から離れる前の準備段階として、情報を収集し弱みを握る時間として有用だった。
自分の目の前で権力を貪り合う魑魅魍魎が勝手にウィークポイントを曝露し合ってくれるのだから、愚かなものだ。
連中は自分を御し切れる自信があったらしいが、その自信諸共奴らが縋っていた権力を砕いてやった時の爽快感と言ったら無かった。クセになってしまう。
あの有頂天になっていた面が一転、絶望で醜悪に歪む様は絶頂すら覚える。いや例えだけど。
とにかく最高の娯楽だった。
最近では自分に喧嘩を吹っかけて来てくれる愛すべきアホがほとんど居なくなってしまって、かなり退屈だ。
一番最近のは、ミッドチルダでも指折りの美人に成長したフェイトにちょっかいをかけて来ていた奴だったか。
あの色ボケはフェイトのハニートラップにまんまと引っかかってくれた。フェイトの身体を貸す気は無いので肌は見せていないが、そうする迄もなくフェイトが少し色気をチラつかせてやれば、ポロポロと情報を吐いてくれた。
もともと親の権力に物を言わせて手当たり次第に女を脅して手を出したり、麻薬売買などにも裏で関わっていたため、親諸共に通常の犯罪者として取り締まったまでだが。
「ん……」
そんな風につらつら思考を巡らせていると、隣で寝ていた金色がモゾモゾ動く。どうやら起こしたらしい。
「……ん? え? あれ? シン、起きたの? なんで? わ、私、まだ朝ご飯の支度してない……え、どうしよ……シンが起きる時に完成させなきゃいけないのに……」
オロオロと非常に狼狽えているフェイト。
こいつは自分の世話を焼く事で自己を肯定する。逆に言えば、尽くせなければ自己を肯定できない。
今回は大した物ではないし、そもそも起きる時に朝食が完成するようにしろなんて言ったこともないのだが、この手の失敗はフェイトにとってアイデンティティーに関わるのだ。
今日は自分がかなり早起きしただけなので、失敗とすら言えないものだけれど。
自分に尽くせない、自分に必要とされない、フェイトは要らない子、棄てられる、という論理展開らしい。
正直自分がフェイトを棄てるとかあり得ないし、理屈や理性ではそれをフェイトも理解してはいるのだが、感情というのはいかんともし難い。
要するにフェイトは恐くて堪らないのだ。また棄てられるのでは、と想像すると。
恐らくそのトラウマはもう、治らないだろう。
壊れた人間は戻らない。戻ったように見えても、それはそう見えるだけ。ただのハリボテ。砕けた宝石が元には戻らないのと同じだ。
今にも泣きそうなフェイトがオロオロする様は非常に可愛らしい。
もっと眺めていたい。
興に乗った。
少し遊んでみるか。
「シ、シン……ごめんね? すぐに用意するから。だ、だからもうちょっと待ってて。ホントにごめんね」
「ああ。でも自分は腹が減っていたんだが、フェイトが用意できてないとなると……外食でもするか」
「だ、だめだよっ!! シンの朝ご飯はわたしが作るから! なるべく急いで作るから! だ、だからお願い、もうちょっとだけ待ってて、ね?」
「フェイトは腹が減ってる自分に待てと言うのか?」
「そ、それは……で、でもね、朝も外のご飯だと身体によくないんだ。シンの身体はわたしが一番良く知っているから、わたしが作らないと……ね?」
「ああ。だが栄養など一食くらいどうでもいい。自分はもう行くぞ」
そう言ってベットから這い出せば、フェイトが腕を掴んで来た。
「ま、待って、お願いだから。わたしに作らせて……わたしの役割を奪わないで……わたしを、わたし、を、棄てない、でぇ……」
そう言ってポロポロと大粒の涙を零すフェイト。かわいい。
これ以上やると明日からフェイトの起床時間がさらに早まるな。それで無理されて身体を壊されても困る。
それにお楽しみは次にとっておくものだ。今回は十分堪能したし、程々にしておこう。
「くくっ。冗談だ。何時も通りの時間でいいから、朝飯頼んだぞ」
するとしばし涙目でポケッとしたフェイトだが、遊ばれていた事に気付いてか、少し剥れながらも嬉しそうに。
「うん!」
涙を溜めながら嬉しそうにはにかむフェイトはやはり可愛いかった。
今日の昼過ぎにはやてが執務室に訪れるとのこと。なにやら話したい事というか、頼みたい事があるらしい。
面倒な要件だったら摘まみ出してやろう。
しかし自分を苦手としているはやてがわざわざ会いたいとまで言って来た。おそらくは例の件が結構煮詰まってるのだろう。
訪れたはやてを来客用ソファに案内して、シャーリーにコーヒーを用意させる。
フェイトは自分の隣に座らせた。恐らくフェイトに関係があるからだ。
彼女は仕事の話の時は必要ない限り気配を殺して背景になり黙っているけれど。
「それで、何の用だ?」
「いやー、直球やな、シン君。私とシン君の仲なんやから、もうちょっと色々とお話しとかして……」
「そうか。じゃあ彼氏はできたか?」
「さて、早速本題に入らせてもらうんやけど」
素晴らしい手の平返しだ。
ジト目で見ると咳払いしたはやて。
「ん、んんっ、それでな、今の私って自分の部隊を持つ為に東奔西走してるんやけどな」
「知ってる」
「そらそうか。それで、その部隊にぜひ……」
「フェイトならやらないぞ」
「なんでや!!」
目を見開いて叫ぶはやて。
今のは『なんで分かったんや』か、『なんで貸してくれんのや』のどちらなのか。いや、雰囲気からしてどちらもか。
「どうせ部隊の戦力がもっと必要だから、フェイトが欲しい。その上誰か優秀な人材を紹介してくれ、とかいった要件だろう」
「な、なんで分かったんや……」
「お前が部隊員の選定に難航しているという情報が入っていた。面倒な事情のある部隊だから他所の部隊からの引き抜きは難しいだろう」
「アンタの情報網はどうなっとるんよ……」
頭を抱えるはやて。
「本局にも地上にも、情報のルートはいくらでもある。情報なんて自ずと増える」
「へー。そうなんやー」
遠い目をしているはやて。
些細なものだが、己の情報が筒抜けだったのだ。さもありなん。
「因みにお前もその一人だな。借りもある、恩もある、弱みも握られている。良いカモだな」
「くっそ! くっそ! 否定できないのが悔しい!」
ぐぬぬしているはやて。
こんなんでも一応、それなりに使えるコマではある。
実際、ミッド地上部隊の情報源の一つとして情報を送らせる事も多い。見返りで必要なモノをくれてやる事もあるが。
「それで、お前が立てようとしている新部隊……機動六課、だったか」
「そうやね。特定のロストロギア、ていうかアンタなら知ってるやろうから言うけど、用途不明の高エネルギー結晶体レリックを捜索、確保、解析に回すのと、独立性の高い少数精鋭の実験部隊や」
「ふぅん。それだけか?」
「……どういう意味なん」
「例えば、予言の中の古い結晶が……」
「なんでそれを知ってるんや!?」
目を見開いて、驚きから思わず、といった感じに叫んだはやて。煩いなぁ。
「曲がりなりにも自分も上層部の一員だぞ。それ以前に騎士カリムには予言の内容を誰よりも真っ先に教えて貰う『契約』でな」
「……アンタ何したんや」
睨みつけてくるはやて。
心外だ。
「いやいや、それ以前にお前が知ってる情報を自分が知らないと考える方がどうかしてるだろう。階級も役職もずっと上だし」
「……はぁ、まぁそうやね……そう言えばアンタは偉いんやった……」
疲れたようにため息をついているはやて。
この女はどうも抱え込むタイプだ。大事な人間の苦労は背負えるだけ背負ってしまう。苦労人気質も甚だしい。
今ももしカリムに何かしているようなら、無謀にも喧嘩を仕掛けてくるつもりだったのだろう。
それならそれで、返り討ちにするまでだが。
「なんでアンタは前線にも立ってるんや? その気になれば上級管理職にも部隊指揮官にも船の艦長にも、もしかすると提督にもなれるんやろ?」
「確かになれるが、自分は統括執務官の役職があるから。これで今は十分だ。わざわざ部隊運営する位なら、適当な所から人を借りて来れば済むしな。所詮は執務官の仕事なんて、どこまで行っても結局は犯罪者を取り締まることだ。犯罪者を取り締まるなら、現場に出なければならん。組織運営は執務官の仕事ではない。必要な分の業務はこなすし、口も出すが、それだけだ」
統括執務官なんてご大層な役職だが、結局は執務官の任免権を握る一人、というだけだ。執務官は個々の独立性が高いので、執務官を集めて何かをするという事はまず無い。部隊指揮権限などはかなり高い物を持つが、それは階級や資格によるものだ。
よって運営面での業務で自分に回ってくるものは、肩書きの割に多くはない。
「それだけって、普通はそれだけやってたら現場になんて立てないと思うんやけど……アンタは普通じゃないんやったな……」
はやてが呆れたように何か言ってるが気にしない。
「話を戻すが、カリムとのは一応、契約だからな。一方的なものではない。脅している訳では無いな。当然、裏切りなどされれば報復はするだろうが」
「そうなん。それならまぁ、私の出る幕やないね」
「そうだな。下っ端の出る幕ではない」
「……ふぅ。まぁその通りやね……それで、契約ってどんなモノなん?」
一瞬イラッとしたはやてだが、押さえ込んだようだ。
こいつは自分が煽って遊んでいる事を理解しているから、乗ったら負けだと思っているのだろう。
「細々とした事を抜きに簡単に言えば、カリムは自分に誰よりも先に余さず予言を伝え、自分は予言の解読をする。解読というか、照合というか。自分の知識や情報で解読に至って防げた事件も幾つもあるな」
「そうだったんか……私は聞いてなかったんやけど……」
「なんでもかんでも下っ端に言える訳ないだろう。自分は言ってしまっても良かったんだが、カリムの方に何か思う所があったらしい」
自分との繋がりをはやてに漏らして巻き込む事を嫌ったか。
ただでさえ自分は守護騎士に良い顔をされないからな。はやてと自分の繋がりを少しでも減らそうという些細な気配りだろう。
「まぁ、カリムのことやから私の為なんやろうけど……それにしてもさっきから下っ端下っ端って、その下っ端から抜け出そうと必死なんやから黙っといてよ」
「部隊を立てるのは成り上がる為か。上手く行って目立った功績を残せば取り立てられるという算段だな」
それを聞いて少し顔を歪めたはやて。図星を突かれた顔だ。とは言っても少し考えれば分かる程度のものでしかない事も理解しているのだろう。すぐに持ち直す。
「まぁ、有り体に行ってしまえばそうやな。そろそろ今のやり方だと打ち止めでな。ここいらで一発大きくて目立つ功績を残しておきたいんよ」
「だがそんなドーピングやらパワーレベリングみたいなやり方だと、民衆へのアイドル扱いで実権は伴わないだろう」
現状でも本局やミッド地上本部の士官には軽んじられているからな。
「アイドルならアイドルで良いんよ。実権は後からでも手にして行けばいい。取り敢えず私みたいな傷持ちは上がれる時に上がれるだけ上がっとかんと」
なるほど、道理だ。
「道理だな。それにそろそろ手駒でも欲しくなったか。若手ばかり集めるのはそういう事だろう」
それを聞いてはやてはギクッとなる。図星だ。
「な、なんのことや……ってすっとぼけても意味無いんやね。そうやー。言ったとおりやー。そろそろどこに居ても私の言うこと聞いてくれる可愛い子達が欲しかったんよ」
ここで言う手駒とはつまり、どの部隊にいても余程の事で無い限り、己の命令を聞かせられる存在のこと。情報収集にも、スパイにも、いざという時の戦力にも使える。
自分にとっては、フェイトやシャーリーは勿論だが、はやてなどもそれに当たる。
恩義や恐怖など、縛る要素は多数あるが、はやてが行おうとしているのは縁を結び、恩を与えたりしてその縁を強めて行くといった、一般的なものだろう。
「守護騎士がいる分、お前は恵まれているがな。だがその闇の書の主という過去のせいで、常道では難しいのも確かか」
元闇の書の主というのは途轍もないディスアドバンテージだ。いくら刑期が終えたとは言え、それに変わりはない。
人は他人の足を引っ張る生き物だ。はやての様に引っ張りやすい足がぶら下がっていれば、掴まずにはいられない。
「そうなんよ! あいつら十年も前の事を今だにブチブチと……私や家族がどれだけ管理局に貢献してると思ってんねん……」
「くくく。見上げた出世欲だ。だがそれだけでは無いな。家族をもっと完璧に庇護する為か」
それを聞いてはやてはまたしても少し苦い顔になる。
しかしため息を一つつくと、すぐに開き直ったようだ。
「……はぁ。まぁアンタに隠し事は無理か。そういうことや。私自身の出世欲が強い自覚もあるけど、早く中央に発言力を持って守ってやりたいんよ。いつまでもリンディさんやカリムにクロノ君頼りって訳にもいかんからなぁ……」
「確かにそうだ。だがそれにしても闇の書の事でちょっかいを出してくる奴が少ないとは思わないか? あいつらは表の後ろ盾にはなっても、裏側には余り効力が無いぞ」
リンディもクロノもカリムも、良くも悪くも性質が『善』の人間だ。裏から来る搦め手やパワーゲームなどの権謀術数を余り得意とはしていない。そういった類のものに長けた、例えば自分のような連中が本気になれば、幾らでも出し抜ける程度の相手でしかない。つまりあいつらには道を外した謀などを思い付けず、実行も出来ないのだから、それに対処も出来る筈はない。
唯一カリムはそれなりに見所はあるのだが、まだまだ甘いと言わざるを得ない。クロノやリンディは本当の意味で常道で駆け上がった奴らだ。所詮は小手先程度の策謀しか出来ない。事実幼い自分からフェイトを取り返す事すら出来なかったし。まぁそれなりに謀も出来る副官などは持ってはいるのだろうが、それでは不十分だ。
いくら八神家が教会騎士でも、教会のバックアップや庇護をいつでも無条件に十全に受けられるわけでもない。八神家は、教会騎士が管理局にも所属している形のカリムとは違い、管理局員が教会にも所属している、という形であるのだから、所詮は管理局員であり、教会にとっては外様なのだ。
恐らくは無意識でそれを理解しているから、はやては焦っているのだろう。クロノ達の手に負えない陰謀家タイプの奴が妙な手を出して来る前に、と。
まぁ無意識だろうが。
それを今、意識させてやったまでのこと。
「え……? 確かにそうやね。そういった連中もいるけど、大抵が小物や。今までいっぱいいっぱいで、余り気にかける余裕もなかったけど、どうして……って、あ。そうか、そういう事なんか。アンタねぇ、自分で恩を売り込んで来おって……」
頭を痛そうに抱えるはやて。
自分への借りと弱みがまた一つあった事を認識したからだろう。
はやては自分に恩も借りも作りすぎている。弱みも多数握られている。
はやてはその事を改めて認識した訳だ。
絶対服従、とまではいかなくとも、滅多な事で無い限り逆らわない便利な駒。使い所を間違えなければかなり有用だ。
それをキチンと認識しているからこそ、守護騎士は自分を矢鱈と警戒するのだが。
実際に何度も便利に使ってきているしな。
「くくく。恩とは売った相手が認識して居なければ意味が無いんだよ」
要するに自分との縁がある事で、裏に自分が居るかもしれない、とチラついているため、手を出せない連中が多いのだ。
もし自分がはやてと離反したと公言すれば、残された闇の書の関係者などカモでしかない。腐った連中がハエやウジ虫の様に湧いて出て、好きなだけ貪り食い尽くされて終わりだろう。それはクロノ達には対処しきれない。教会の庇護を受けているとは言え、回避する方法などいくらでもある。
実際に自分が裁判を担当した際に、余計な手を出そうとした奴を潰した事も響いているだろう。
それでもちょっかいをかけるような奴は、はやて自身で対処ができる程度の小物くらいだ。
「なんつー理論や……善意の欠片も無い……」
「くくっ。それをはやてが言うか。リターンが無ければ動かない。十分に自己中心的な奴だよ。上手く隠しているがね」
それを聞いてもはやては疲れたような顔をするのみだ。
「……はぁ。アンタに隠し事はできひんって分かってたからええけど。やっぱり私はなのはちゃんみたいには成れへんよ……」
「あいつはあいつで異常だ。幼少期には良い子でいなきゃいけない、とかいう強迫観念に駆られていただろう。普通はそういう奴は自分が自分のままに愛されるという自己肯定が出来ずにパワーゲームに走るものだがな」
「そうなんよなぁ。まぁなのはちゃんの場合は色々と立場とかも特殊やから、仕方ないやろ。パワーゲームでなくて魔法の強大な力に縋っただけや。私みたいに面倒な事情もないから、厄介なのに目を付けられ難いしな」
それもそうだ。
なのはの様に綺麗な経歴で、しかもストライカー級の目立つ魔導師となると、ちょっかいなんてかけても得が少ない。
それに自分との縁も有名だからな。図らずとも後ろ盾になっていた訳だ。
するとはやてが何かを思いついたようにニヤリと笑った。
「なのはちゃんと言えばシン君はちょいちょい会ってるそうやね。随分と仲良さげだったそうやないか」
それを聞いてフェイトの眉がピクリと動いた。
「なんやシン君はなのはちゃんともええ仲みたいやなぁ」
フェイトの眉が更にピクピクっと動く。
これは、面白い。
はやては自分に一泡吹かせたいのかもしれないが、むしろ乗ってやろう。
「ああ、そうだな。ついこの間も会いに来てな。一緒に焼き肉を食ったんだが、あいつも可愛い奴だよ。甲斐甲斐しく焼いてくれたりして」
一瞬呆気に取られたはやてだが、目を見開いているフェイトを見て直ぐに理解したような顔になり、ニヤリと笑うと言葉を続けた。
「へぇ、そうなんや。前々から思ってたけど、ホンマに仲ええんやな。じつはそう言う仲やったり……?」
フェイトが目を見開いたまま自分とはやての顔を勢いよく交互に見ている。
「あぁ、ここだけの話、実は、な。焼き肉の後に会った時もかなり激しくてなぁ。なのはもみっともなく大声上げたりして」
フェイトの顔色が青く染まっていく。
はやては少し顔を赤くしている。
恥ずかしいなら止めれば良いものを。
因みに控えているシャーリーは、またか、みたいな呆れ顔だ。こいつは事情を知ってるからな。
「へぇ……そうなんや。でもそれが始めてってわけや無いんやろ?」
フェイトは顔色をコロコロ変えながら、耳をダンボにしている。
可愛い奴め。
「ああ、そうだな。始めてじゃないぞ。具体的には10年くらい前からちょくちょくと……」
それを聞いた途端にフェイトは今度は顔色を真っ青にした。
かく言うはやても本気で驚いているようだ。
「え!? それホントなん!? っていうか、さっきから流してたけど、フェイトちゃんというものがありながら、浮気か、浮気なんか!? 確かになのはちゃんも可愛いけど、でもここで言うとか、あんまりやろ! 10年前って言ったら私らが出会った時期やし……この女の敵!!」
自分から振っておいて、本気ではやては怒っている。
フェイトなんて泣きそうだ。
「10年前からちょくちょくと、激しい模擬戦をしているな。あいつの体調の事もあるから、あいつが熱くなりすぎないようお互いに本気は出さないがな」
はやてとフェイトの目が点になる。
「え、は、え? 模擬戦、なんか。はぁ。心臓に悪いわ……」
フェイトは本気で安堵したらしい。力が抜けて、ソファからズルズル滑り落ちている。
フェイトで満足できなかったとなると、それも彼女のアイデンティティーに関わる死活問題なのだ。
それ以外の理由で他の女を抱く場合は気にしないのだろうけど。そこら辺の感性が、フェイトはやはり壊れている。
しかしフェイトは模擬戦ということを思い出してか、再び目に怒りの炎を灯す。
こいつは自分に刃を向ける存在を許さない。例えそれが誰で、どんな理由であっても、だ。
だからこそなのははフェイトが居ない時に突貫して来るのだが。
しかしフェイトは後で諌めればいい。今ははやての相手だ。
「そもそもお前が振って来たんだろう。自分で本気にしてどうする」
「いや、せやってこんな返しが来るとは思ってなかったから……シン君の狼狽える姿が見たかったんやけど」
「はやて風情が、100年早い。そんなんだからはやてははやてって呼ばれるんだよ、このはやて」
「はやては罵倒語やありませーん。美少女を表す代名詞でーす」
逆にやり包められて少し剥れているはやてはおざなりな感じだ。
「まぁいい。アホな事をやってないで、話を戻すぞ。レリック事件の捜査だったか」
「そうや。知ってるみたいだから言うけど、予言を阻止する為の部隊でもあるんよ」
「成る程な。本局側も地上とのいざこざがあっても突かれないよう、使い捨ての人員を隊長に据えたか。ギャンブルだな」
「別に本局の思惑とかどうでもええんよ。成功させれば良いだけの話や。ハイリスクハイリターン。でも人生ってそんなもんやろ?」
「素敵な人生観だ。それでお前は何を願う?」
「さっきも言った通り、フェイトちゃんを貸して欲しかったんやけど……」
「だ、そうだが、フェイト」
一応本人にも意思確認してみる。
どうせ意味無いだろうが。
「え、嫌だよ」
「だそうだ」
「フェイトちゃぁん……」
うな垂れているはやて。
「そもそも現状集めている戦力だけでも保有戦力をオーバーするだろう。するとリミッターでもかけるのか? フェイトに力の制限をさせるなんて危険なマネ、自分が認める筈がないだろう」
「シン……」
「そ、そうかい……はぁ。私も素敵な彼氏にこんな事言ってもらいたいわぁ」
頬を染めたフェイトを見て、はやてが遠い目になる。
この手の話題になると、こいつはいつもこうだな。
これだけ飢えてるクセに妥協はできないとか、贅沢な奴だ。
「……だがレリックとそれを追うガジェットやら戦闘機人やらスカリエッティはそろそろ鬱陶しかった所だ。合同捜査という形で捜査協力はしてやろう」
奴は面倒な手駒を多数持っているからな。こちらも動かせる人員は山ほど居るが、通常の武装隊などではAMFと戦闘機人が組み合わさると心許ない。はやての作ろうとしている部隊は丁度いい。最大限に協力してやろう。
「ホンマか!? おおきにな! ありがとう……って今、レリックを追う何ちゃらって言わなかったか?」
「ああ、スカリエッティか。奴がレリックを集めている。こっちは最近確証を得たことだが、予言にある無限の欲望とはこいつだろう。だからレリックを集め、予言の成就を阻止するなら、奴が仮想敵となる」
無限の欲望は管理局の内側から調べ上げて出てきた単語だが、言う必要は無いだろう。
ちなみにミッド地上のトップの中将も十中八九繋がっているっぽいが、この情報は今はくれてやる気はない。あの中将の裏にはヤバめな影も見え隠れするしな。
「ほ、ホンマか!? 何でもう犯人の名前わかってんのや、とか無限の欲望ってなんや、とか言いたいことは色々あるけど、取り敢えずありがとう!」
「どういたしまして。自分は所詮は執務官だから、協力は捜査とスカリエッティや戦闘機人の捕縛になるがな」
「それは当然や。それでええよ。むしろガジェットの対策までされてもうたら、私の見せ場がなくなってしまうからな」
「まぁそういった細かい事は後で詰めればいいか。それと後見もしてやろう。自分が裏に居て、ちょっかいかけられる奴もそうは居まい。大戦力を保有する事への他の部隊からの反発も、これでかなり柔らぐ筈だ」
その分に局内でまことしやかに囁かれている、はやてが自分の手先だという噂がより信憑性を増すのだが、それは現状こいつにとっては利点の方が多い。
はやてもそれ位は理解しているだろう。
「そ、それホンマか!? ホンマにありがたいわ。ありがとう。ありがとう」
「人材は駒として育てようとしていた若手を二人ほど貸してやる。ついでにウチの奴隷も持って行くか?」
しかしそこまで便宜を図ると、いっそ疑わしくなったらしく、ジトっとした目で見てきた。
控えているシャーリーも驚いている。
「シン君……若手の二人はまだしも、シャーリーさんまでか? 何を考えてるんや?」
「別に何も。ただ、なのはが入るなら教導やらもやるだろうから、駒は育てておいてくれ。そろそろマトモな教育を用意しようと考えていたから丁度いいだろう。何れ士官学校に放り込むにしても、今回の経験は糧になる。シャーリーは部隊でのオペレーターの経験を積ませておきたい。それだけだ」
本音である。
チビ二人は潜在能力が高そうなのを偶々見つけたから保護責任者として確保しておいた。主に通常教育ばかりで、魔法技能などの育成はまだ余り進めていない。フェイトに少し魔法を教えさせて、後は教材などで自主練習をさせておいた程度だ。
「ホンマにそれだけか……?」
「ああ。合同捜査と後見までするんだから、成功してくれなければ困る。そもそもお前ら相手に工作など必要無いだろう」
自分の絶対優位なのだから。
するとはやては暫く考えるような姿勢になったが、じきに納得したのだろう。開き直ったように頷いた。
「確かにそうやな。シン君がわざわざ私に不利益を与える意味があらへん。じゃあそれでお願いしようかな」
思考停止とも言うが。
「賢明だ」
だがそれでいい。先も言った通り、自分が今のはやてに危害を加える意味がないのだから。
するとはやてはニヤリと挑戦的に笑った。
「それにしても、ええんか? 私に貸してくれた子達、私に鞍替えするかもしれへんよ」
「そうか。出来る物ならやってくれてもいいぞ」
「ホンマか? その言葉、後悔する事になるかも分からへんよ。ねぇ、シャーリー?」
「え、いや、無いと思います。シンさん達を裏切るとか、恐ろしすぎてとてもとても……」
控えさせていたシャーリーは即答だ。
自分もフェイトも壊れていても、マトモな上司をやってるからな。嫌われたりはしていない。その上に間近で見ている分、シャーリーは自分達の怖さも良く知っている。天然の飴と鞭。鞍替えする理由が無いのだ。
はやてはその言葉に顔を引きつらせている。
「……シン君は人心掌握も得意なんやったっけ……いや、考えてみれば当然か。感情が分かるんやもんね」
「その通り。だから余計な事は考えず、好きなだけ使っとけ」
はやてに貸してやる駒のプロフィールを送る。
「……きっとこの調子だと、この新人の子達も同じような感じなんかな。恐ろしいわぁ……ていうか9歳って……うわぁ、なんやこのプロフィール……二人とも訳ありやん……ホンマに使えるんかな……」
確かに物凄い勢いで訳ありの二人ではある。
「今は使い物にならないが、自分が囲っておく程度の筋はある。なのはに育てさせるんだろう。一年でマトモに使えるようにしておけよ。それがレンタルの条件だ」
「まぁ、他に目ぼしい子も居ないし、分かったわ。これで少しは恩も返せるかな?」
こいつは……
「何をバカなこと言っている。お前が欲しがったから貸してやるだけだ。それを恩返しなどと……」
「ちっ……それもそうやね」
舌打ちしやがって。
分かって言ってたな。
「それじゃ私は新しく決まった人員の事とかで色々せなあかんから、もう行くわ。本格稼働が始まったらでええけど、捜査情報の摺り合わせとかしたいんやけど……」
「ああ、分かった。とりあえずお前の所に送る奴らには自分から伝えておく」
「よろしく頼むわー」
手をひらひらさせながら、八神はやては去って行った。
自分とフェイトが本格的にスカリエッティ対策に乗り出した瞬間である。