欠陥チート転生者たちのダンジョン作成記 作:89番目の犬
真宿に聳え立つ高層ビル群、そのビルの一棟に魔導士協会本部がある。
別名は東京都庁第三庁舎。
西暦2030年に突如として現れたダンジョンという名の災害に対する備え、
現在では魔法技術の極一部ではあるが解析・再現に成功したことで生まれた魔導士のとりまとめ役と元々の役割であった魔法技術の解析と再現を行う二つの側面を持つ組織へと成長した。
そんな一部のエリートしか立ち入ることが出来ないビルへと一人の男が足を運ぶ。彼の名は緋竹正和Bランク魔導士にして数々の魔導士を育てたベテランだ。
正和は迷うそぶりを見せず真っすぐに庁舎の中を歩いていく。そんな彼に一部の職員が声をかけ挨拶を交わす。
この庁舎は決して彼の職場ではない。彼の所属は魔導士協会板波詩支部迷宮対策部現場対応課という部署だ。そんな彼が態々本部に来た理由、それを話すには凡そ一か月前まで話を遡る必要がある、あるのだが、態々回想を入れるのも時間の無駄だ。
ここは端的に答えよう。
彼が呼び出された理由は一つ。突如として板波詩区で観測された複数の魔力反応と洞窟の調査だ。
それならば板波詩支部で調査を行い本部はその調査報告を待てばいいのでは?と考える者もいるだろう。
しかし、ダンジョンとは何時魔物が溢れ出し人間社会に害を及ぼすか分からない常在する災害だ。
常に迅速な対応が求められている。そのため新たなダンジョンが発見された際は本部がダンジョンから最も近い支部に所属している魔導士の中で監督能力の高い者を選び、直接調査部隊を編成することが出来る。
長々と話してしまったが詰まる所、本部が調査を行い危険度及び対策案を講じ、都内にある支部に情報を共有するという仕組みが出来上がっているのだ。
そして、彼は以前にも幾つかのダンジョンの調査を行い正しくダンジョンの危険度と有用性を報告したこと、そして支部内での彼の素行もまた庁舎で信頼を得るのに一役買っていた。
そんな正和は庁舎にある迷宮対策本部現場対応課局長室と書かれた扉をノックする。
「入れ」
扉の向こうから簡潔に言葉を掛けられる。
正和は「失礼します」と一言告げ、扉を開ける。
中には顔に大きな傷のある200cmの巨漢が待っていた。
巨漢は既に全盛期をすぎ、髪には白髪が混じってはいたが、纏う雰囲気は歴戦の兵のものだ。
正和はそんな彼に臆することなく、頬を緩め、ゆっくりと会釈をした。
「お久しぶりですね。鬼丸さん」
「……ふん、少しくらいは飲みにでも誘え。お前の誘いであれば予定くらい開けてやるというのに」
「ははっ、流石に我々魔導士の長の時間を俺みたいな木っ端魔導士が奪う訳には行きませんよ」
「はぁ、お主のそう言う謙虚な所は長所であると同時に短所でもあるぞ?少なくとも迷宮対策本部に置いてお前を木っ端魔導士だと思う奴はおらん」
「ははっ、それは光栄です。」
二人はまるで遠く離れていた旧友と接するかの如く他愛のない話に興じる。
最近は何をしているか、仕事の調子はどうか、休日の過ごし方。
しかし、正和はそれまでの和やかな雰囲気とは違う少しピりついた雰囲気を纏い本題に移る。
「それで、本題なのですが………」
「ああ、板波詩に発生したダンジョンの調査そのメンバーは以下の通りだ。目を通しておけ」
局長は正和に書類を渡す。
その書類を受け取り、正和は一礼すると書類に目を通していく。誰もが優秀な魔導士だ。
中には正和の知っている顔ぶれもいる。
しかし、正和には一つの違和感があった。
「随分とその……若いですね」
「ああ……調査メンバーを集めるに辺り、各支部に声をかけたのだが、流石にベテランを貸し出すのはどの支部も難色を示してな。
何とか借りれたのが将来有望なルーキーたちって訳だ。」
正和は成程と納得をする。正和がもっと若かった頃は人類に余裕がなくどこも協力しなくては生き残れないという共通認識を持っていたものだが、現在は昔よりも技術が発展して、ダンジョンの脅威度も下がった。
自分の身を自分だけで守れるようになったのだ。
態々貴重な戦力を他所に割きたくないか…………正和は魔核のはめ込まれ機械仕掛けとなった己の四肢に視線を向ける。
戦力に余裕が出来た途端にこれだ。
正和はため息を吐き、今の世を憂う。
これで果たして今後不足の事態が起こった時にしっかりと対応が出来るのだろうか?
そんな正和の内心を悟った局長も苦笑を浮かべる。
「まぁ、なんだ、取り敢えず、若造共の面倒を見てやってくれ。」
「分かりました。出来るだけのことをやりましょう」
それからは、調査メンバーとの顔合わせ、訓練を行い徐々に彼らと距離を詰めていく。
元々、直接戦闘よりも教育方面で評価されていた正和はこの短期間で一定の信頼と一定の連携を可能とした。
そんな折、正和は調査メンバーの一人杉波支部から派遣された少女、虹野利己に詰め寄られていた。
勿論恋愛的にではないが。
「正和さんって体内だけでなく四肢にも魔核があるんですよね!やっぱり私達よりも魔力生成能力が高いんですか!」
「お、おい、あんまそういうデリケートな質問するなよ」
少々配慮に欠けるその質問を止めたのは喜多区支部から派遣された少年間野宗助だった。
少年はチラチラと正和の顔を見る。
普段は気さくに話す仲なのだが、流石にこんなデリカシーの無い質問をしては不快に感じ怒るのでは…と気が気でなかった。
しかし、正和は朗らかに笑うと利己の質問に答えていく。
「そうだな。先ず魔核が魔力を生成するのに必要となるものは人の精神力ということは知っていると思うが、これは魔核が宿主の精神力を喰って魔力に変換しているからなんだ。
そして、魔核が成長するうえで必要となるのは宿主の精神力の他にもう一つ倒した魔物の生命力、魔力だ。
この精神力と魔力、これをそうだな………ケーキに例えよう。
精神力がチーズケーキで魔物の魔力がチョコレートケーキ。
これらを五人で分けた場合と一人で食べた場合どっちが多く食べれると思う?」
「それは勿論一人で食べた場合です!」
「そう、つまり、魔核が多ければ魔力の生成量が増えるっていう単純な話じゃないんだ。
…昔はそんなの解明されてなかったし、何よりも体内に魔核を移植する技術が確立してなかったから俺みたいに四肢を切断して魔核を嵌めた義手や義足を付ける人間もいたんだ。」
正和は良い時代になったと小さく零す。豊かになったことで若者は四肢を犠牲にせずとも力を手に入れられるようになった。
少々、緊張が緩み過ぎていると感じることもあるが、この言葉もまた正和にとっては偽らざる本音だった。
その呟きに宗助は息を呑み、利己は目をキラキラと光らせた。
そうして、交流を深めた彼らは一月後遂に調査の為に未確認の洞窟型ダンジョンに足を踏み入れることとなる。
「にしても、まさか愛羅川にダンジョンが出来てるなんて思わなかったですね。しかもあんな堂々と大きな洞穴があったなんて………」
ダンジョン調査の一日前、近くの安アパートを国より貸し与えられた正和たちはそこで明日のダンジョン探索について話し合っていた。
今言葉を発したのは板波詩支部所属の若手エリート市川鳴瀬だ。
いつもお調子者で周りを振り回すのが偶に傷だが、魔導士の基礎となる身体強化魔法とは別に使い手の少ない自己加速魔法への適性を持つ稀有な魔導士であり、将来的には板波詩支部だけでなく、東京都内最速の魔導士になるのではと各方面から期待を掛けられていた。
そんな彼の言葉に正和は一度愛羅川へと視線を向ける。
「確かに……。まぁ、水辺には魔物が潜伏していることも多いからな。国も不用意に水辺に近づかないように注意喚起している。皆その注意喚起を守った結果だろう」
そう、一昔前であればマラソン大会、バーベキュー場、サッカーコート、野球場などで賑わっていた愛羅川だったが、ダンジョンが出現し、魔物が人間社会を脅かすようになってからはその賑わいも鳴りを潜めていた。
「でも、魔物が溢れていないようでそ、その良かったです。」
そう呟いたのは小柄且つ気弱そうな少女。
名前を佐倉坂知由、これでも回復魔法と支援魔法への適性が高く、将来を有望視されているルーキーだ。
そんな彼女の言葉に皆は一様に頷く。
緋竹正和(武器:大剣)
虹野利己(武器:ナイフ)
間野宗助(武器:攻撃杖)
市川鳴瀬(武器:刀)
佐倉坂知由(武器:回復杖)
この五人が今回ダンジョン調査を行うメンバーだ。
◆◆◆
ダンジョン探索について話し合った次の日、正和たちはダンジョン内部へと入っていく。
通常のダンジョンの場合は壁や床にアンノ文字が刻まれていたり、アンノ文明時代の偉人であろう像が建てられていることも多いのだが、この洞窟にはそう言ったものは見受けられなかった。
普通過ぎることが逆に異様に映る。まるでホラー映画を見ている時のようだ。
しかし、普通なのは見た目だけ、中にはしっかりと魔物がいる。
三体のゴブリンだ。ファンタジー世界に登場する定番モンスターのゴブリンは一般の認識と同様に非常に弱い魔物だ。それこそ魔導士であれば身体強化だけで倒せる。
とはいえ、それは魔導士基準の話であり、最弱モンスターの筆頭と
しかも、そのゴブリンは通常のゴブリンと違う点があった。
それは武器だ。
通常のゴブリンが装備している武器は棍棒。仮に強い武器を装備していても精々が魔法を付与された剣や魔法の杖といった所だ。
しかし、目の前にいたゴブリンたちが装備していた武器はそのどれでも無かった。
彼らが持っている武器、その先端を、筒状の鉄をこちらに向ける。
「銃!馬鹿なッ‼」
正和は思わず叫ぶ。
それはゴブリンが強力な武器を持っていたから、ではない。
彼らが銃火器を握っていたからだ。
銃火器、それは魔力を持たない人類の間で発展した武器。魔法技術を発展させたアンノ文明では終ぞ作られることが無かった人を殺すことに特化した純粋な殺傷武器。
その武器を何故持っているのか、少なくともアンノ文明が残した遺産であり、彼らを誇りに思うダンジョンマスター達が使うことは無いと考えられていたものだ。
…それが例え有用であろうとも。
だからこそ、この光景に正和は今までの常識を覆されるような…否、自分たちの知らない何かが動き出しているのではないかという得体の知れない予感を抱いた。
そんな中でもリーダーたるもの迅速かつ適切に動かなければいけない。正和は瞬時にその思考を捨て、防御魔法を展開する。しかし、正和の防御魔法がゴブリンが持つ武器、サブマシンガンの弾丸を防ぐことは無かった。
何故なら、
「バーリア」
それよりも早く虹野が防御魔法を展開したからだ。
彼女はこの中で最も防御魔法に秀でている。それこそ、防御魔法であればベテランの正和すらも上回る実力を有していた。
特に彼女はこの世界で初めての【自動防御】魔法の使い手であり、【軽減結界】と呼ばれる魔法の威力を下げることに特化した防御魔法を生み出した魔導士だ。
それ故に、一瞬戦闘以外に思考を割いてしまった正和よりも早く防御魔法を展開できるのは自明の理だった。
そして、そんな彼女だから気づくことが出来た違和感。
「……どう考えてもサブマシンガンの威力では…無いなぁ。しかも、銃弾にエンチャントが込められてるのかな?【電撃】や【火弾】を受けた時みたいな感覚がするぞぉ?」
この武器が科学技術と魔法技術の両方の技術を組み合わせて作られた武器であるといち早く気づく。
それでも、そんな驚異的な武器であっても彼女の防御魔法を揺るがすことは無い。橙色の半透明な壁は銃弾を一つたりとも通さない。
そして、虹野が防御に徹している間に正和と宗助が攻撃に回る。使う魔法は【放物火弾】、通常の【火弾】とは違い放物線を描き飛んでいく魔法だ。
これにより、遮蔽物がある場所でも敵を狙い撃てるようになる。
二人が放った【放物火弾】は狙い通り、ゴブリンへと飛んでいく。
普通のゴブリンであったのならこれで倒せたことだろう。しかし、彼らはあろうことか【放物火弾】を見切り、当たる前に散開した。
縦横無尽に動き回るゴブリンたち、それを見た利己は全方位に防御魔法を広げ完全に守りの態勢に入る。
相手の弾切れを狙う方向にシフトしたのだ。
魔力と弾数の勝負、決着は呆気なくついた。利己は魔力切れを起こすことなく、それどころか余裕を持って攻撃を受けきり、弾切れになった瞬間に防御魔法を解き、鳴瀬が持っていた高周波ブレードで一刀の下に斬り伏せていった。
ゴブリンとの戦いが終わった後、正和はゴブリンたちが持っていた銃を回収する。
「これは……銃に魔法付与が施されているのか⁉」
「みたいだねぇ。しかも、魔法付与が部品一つ一つに施されてるねぇ。弾性付与、部分硬化、回転、追尾、加速、爆発上昇かな?」
銃を観察していた利己はこの中で最も付与魔法について詳しいであろう知由へ視線を向ける。視線を向けられた知由は一瞬肩を跳ねさせるが、意図が伝わったのか、銃を観察する。
「はい、恐らく。ただ、付与のされ方が銃自体に掛けられているものと、装填されている弾丸に付与されるように掛けられているものに分かれているように見えます。」
「成程ね。よくできている。」
正和は利己の言葉に頷き、銃を回収していく。残念ながら弾倉は今装填されているものだけのようだが、上に報告する義務がある。
自分が一丁持ち歩き、残り二丁をそれぞれ利己と宗助に渡す。二人なら戦闘になっても銃が邪魔になることは無いだろう。
その後正和たちは安全にダンジョンを攻略していく。
食人植物やミミックは持ち前の知識と魔法を活かしやり過ごし、タックルバニーは鳴瀬が臨戦態勢に入る前に一撃で倒した。