欠陥チート転生者たちのダンジョン作成記 作:89番目の犬
◆◆◆
時刻は十三時。
愛羅川近くの薄暗い細道で茶髪の男と黒髪の男が興奮気味に話をしていた。
「俺らダンジョン潜るんだよな⁉」
「おお、らしいぜ!俺ダンジョン潜るの初めてなんだ」
「俺も俺も!」
話はどんどんと盛り上がっていき、もしかたしら強力な魔道具が手に入るかもや、自分もB級魔導士くらいの実力を身に着けてしまかもなど内容がどんどんと飛躍していく。
「そんな上手くいくわけねぇだろ」
話が都合の良い妄想と言ってもいい程に飛躍した所で新たな男が二人の前に姿を現し、水を差した。
新たに現れた男は髪を金に染め、右耳に三つのピアスを付けていた。男は欠伸を噛み殺し、羽織っている黒い革ジャンのポケットに両手を突っ込む。
その男の姿を見た瞬間二人は背筋を伸ばし、一斉に頭を下げる。
「「おはようございます!芽吹喰さん‼」」
男は二人の挨拶を横目に歩き出す。
「はぁ、ったく何で俺が雑魚のお守りなんて……」
不機嫌であることを隠そうとする素振りすら見せずに歩くこの男、芽吹喰血汐は
とはいえ、それは英雄視されているわけでは無く、むしろその逆、危険人物の一人として魔導士協会にマークされているのだ。
ではそんな危険人物が何故部下を連れて歩いているのか。
それは魔導士協会を襲撃するため?
一般市民に危害を加えるため?
幸いなことにそのどちらでも無かった。
芽吹喰血汐が部下を連れて向かっている場所、そこはダンジョンだ。
事の始まりは芽吹喰が現在所属している組織、安楽界に匿名の情報提供があったことだった。
内容は想像できると思うが、魔導士協会にマークされていないダンジョンが新たに見つかったというもの。
これに安楽界の上層部は狂喜乱舞し、組織の魔導士育成を計画、その監督役に芽吹喰をつけたのだ。
恐らく芽吹喰が入れば魔導士協会の罠だったとしても無事に逃げおおせることが出来ると考えたのだろう。
芽吹喰自身、自分が強くなるためなら仮に魔導士協会の罠だったとしても食い破る気概でいた。
しかし、今回はあくまでも他の魔導士の安全の保護が目的。
自分の限界に挑戦するどころ、強敵と戦うこと自体出来ないだろう。
何が悲しくてこんな詰まらないことをやらされなければいけないのか。
とはいえ、いくら魔導士界隈で名前の知れた悪党の芽部喰も社会……言葉の頭に裏が付くとは言え社会で生活している以上、守らなければいけない規範と嫌でもやらなければいけない仕事がある。
前を歩く部下、緊張のあまり動きが硬い二人を見た芽吹喰は本当にこいつらの成長に意味があるのかと、ぼんやり思案していた。
◆◆◆
芽部喰が最初にこのダンジョンに入って抱いた印象は何というか今まで潜って来たダンジョンのような未来的な作りをしていないな、というものだった。
いや、未来的どころか自然物なのではないかとすら感じた。
匿名で送られてきた情報は今までの芽部喰の経験から察するに十中八九魔導士協会の差し金だろう。
ならば、今回は芽部喰の命を狙った魔導士協会の作戦と考えて良いのだろうか?
それにしては、少々どころか大分作りが雑だ。
芽部喰は自らの考えに対し酷い違和感を抱く。
奴らの権力を持ってすればもっと実物に寄せることくらい容易な筈だ。
こんな杜撰な作りにする意味がない。
それとも、俺をダンジョン内に誘き出せればそれでいいのか?
それなら、確かに今現在ダンジョンに入っている時点で奴らの掌の上ということだ。
芽部喰がそこまで考えた所でダンジョン内でも最弱を競う魔物ゴブリンと遭遇した。
数は三体、内一体はサブマシンガンを装備していた。
(魔物を操るのも生み出すのも人間には出来ない。やはり、ダンジョン自体は本物か?)
実際には芽部喰が所属しているような裏社会の組織の中には魔物を捕まえて、建物の中に押し込むことで人工的なダンジョンを生み出そうと画策するものもいるのだが……今は関係のない話なので説明は省くとしよう。
芽部喰は取り敢えず、身体強化と加速魔法を使いゴブリンの首をへし折る。
その速度は一秒にも届かず、ゴブリンたちは皆攻撃態勢に移る事すら出来ずに倒された。
芽部喰血汐の強さは緻密な魔力操作により無駄の少ない身体強化と加速魔法、そして不可視甲冑と呼ばれる自らの体から一センチ先に展開される小規模結界だ。
特に不可視甲冑は防御面だけでなく、身体強化を施した人体よりも硬いため、攻撃の際にも活用される非常に優秀な魔法だ。
そしてこれらの能力を踏まえた上での芽吹喰の戦闘評価は魔導士協会で言う所のAランク魔導士に匹敵する。
そんな男からすればゴブリン程度なんてことは無いのだが、ここで芽吹喰はあることを思い出す。
そう、それは…
(そう言えば今日はこいつらの強化が目的だったか…)
つい敵意に反応して自分が前に出てしまったが、今回はあくまでも組織に所属する魔導士に強くなってもらうのが目的だ。
ならば、自分が手を出すのはお門違いかと考え、芽吹喰は部下の男二人に指示を出す。
「おい、お前ら今日はお前らの戦闘訓練のために来てるんだから、お前らが戦えよ」
自分から手を出しておいて何たる言い草と思うが、裏社会は非常に厳しい縦社会だ。
部下二人は元気よく返事をし、芽吹喰の先を行く。
先を行ったはいいが、このダンジョンは驚くほどに敵モンスターの数が少なかった。
ゴブリンが現れた後はミミックと食人植物のみ、しかも食人植物に関しては魔力が多量に込められた果実をつけていたため、倒さない方向になり、果実の回収だけ行った。つまり実質的に戦った相手はミミックだけとなった。
(せめて次の階層にもっとマシなモンスターが要ればな…)
部下に然して興味のない芽吹喰だが、折角自分が監督役に選ばれたのだからせめて多少は結果を出したいところだ。
そう思い、とある部屋に入る。
瞬間、耳を塞ぎたくなるほどの銃声。
芽吹喰は咄嗟に先に入った部下を部屋の外へと投げ飛ばす。
そして部下を襲おうとしていた銃撃を全て芽部喰が引き受ける。
魔法付与を施されたマシンガンによる猛攻。だが、芽部喰の不可視甲冑に傷はない。
そして攻撃を受けきった芽部喰は獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべる。
「良いねぇ!最っ高だよ‼お前」
芽部喰は加速魔法と身体強化を発動し、駆け出す。
目指す先はマシンガンを撃ち込んできた相手、漆黒の鎧に身を包んだ両手マシンガンのモンスターへと
しかし、当然だが簡単に接近を許すモンスターではない。
マシンガンで芽部喰を牽制する。
それに対し、芽部喰はその攻撃を全て最高速を維持したまま避け切って見せた。
「はっ!さっきは雑魚を庇ってたから当たってやったが、そもそもそんなトロイ攻撃普通当たんねぇんだよ!」
因みにこの時、芽部喰の中にあった部下を育てると言った考えは記憶の彼方へと飛んで行っていた。
話を戻そう。
芽部喰は鎧へと接敵し、渾身の拳を叩き込む。
速さと硬さそして筋肉と言う名の質量が乗った芽部喰血汐の拳は強化ガラスを紙のように打ち破る。
しかし、強化ガラスすら打ち破る芽部喰の拳はモンスターの鎧を凹ませることすら出来なかった。
それどころか、モンスターは一歩たりとも動いていない。
更に、モンスターは銃から手を離しており、腕を弓のように引き絞る。
込められた力が如何程のものか…引き絞る動作だけでは分からないが、拳が当たった瞬間不可視甲冑がガキィィンという硬いもの同士が当たったような不快な大音量を鳴らす。
それと同時に芽部喰は部屋の反対側まで吹っ飛ばされていた。
「ははっ、そう来なくっちゃな!」
だが、吹っ飛ばされた芽部喰はそんなことお構いなしに鎧へと走り出す。
鎧もその芽部喰の在り方を気に入ったのか、それとも意味が無いと判断したのか銃を握り直すことはせずに拳を構える。
それからは不良漫画よろしく殴り合いが始まった。
手数で押す芽部喰と一撃の威力に重きを置く鎧。
どちらも相手の攻撃を避けることは叶わずに高い防御力で受け止めている。
しかし、それも最初の頃だけで芽部喰は段々と鎧の攻撃を避けだす。
それもその筈で芽部喰が使っている加速魔法は単純な速度だけでなく動体視力、思考速度などのあらゆる速度を引き上げるものだ。
自分だけに掛けられる時間加速魔法と言っても過言ではない。
むしろ、そんなインチキ魔法を使っていたにも関わらず攻撃を当て続けていた鎧のモンスターが異常だったのだ。
ただ、それもここまで、攻撃を当てられず、尚且つ何故か一歩も動かないモンスターの相手などサンドバックを相手にしているのと何ら変わらない。
「これで終わりにしてやるよっ‼」
芽部喰は加速魔法と身体強化に回している魔力の量を増やす。
ありったけの攻撃、しかも今回は拳じゃなく飛び蹴りだった。
全体重を乗せた渾身の一撃、鎧はそれを
受けきった。
そして、足を掴むと鎧の隙間から炎を吹き出す。
芽部喰は勝負を焦りすぎたのだ。戦いの高揚感からかそれとも別の要因か正常な判断が出来ていなかった。
しかし、芽部喰の不可視甲冑は熱も電気も通さない。
故に芽部喰は思いっきり暴れる。
鎧はそれでも離さない。
芽部喰を焼き殺すくらいの勢いで炎を吹き出す。いや、それどころかこの部屋全体を燃やし尽くす勢いで全身から炎を出していた。
ただ、それも無駄な事。
どれだけ、熱量を上げようが芽部喰の不可視甲冑を破るのは困難を極める。
それこそ太陽を持ってくるくらいの気概が必要だろう。
勿論そんなことは鎧のモンスターには不可能だ。
ただ、それは熱で焼き殺すことが前提の話。
密閉空間でこれだけ勢いよく炎が燃えていれば酸素は燃焼される。
そして、加速魔法が肉体の全ての機能を加速させる以上、呼吸回数も通常の人間よりも当然増える。
そして酸素が脳に行き渡らなくなれば集中力が乱れる。集中力が乱れれば魔力操作も乱れ、結界の強度、身体強化の効果も薄れる。
鎧は芽部喰の首を左手で掴むとそのまま持ち上げ、抱きしめる。
首に回していた手も当然背中に回して。
そして、力を入れていく。
芽部喰の不可視甲冑が破れるまでずっと抱きしめる。
芽部喰は朦朧とする意識の中で何とか抗い続けた。
抗い続けたが、生物である以上限界はある。
魔力操作が乱れに乱れ、不可視甲冑は遂に破られる。
後は想像通り、芽部喰の体は鎧の炎に焼かれ、そして、鎧の両手で引き裂かれた。