最近私事に追われておりまして、更新が遅れてしまいました。
申し訳ございません!
それと、通算UA数が千を超えました。
やっと最初の壁を越えたって感じです。
読んでくれている数少ない読者様、ありがとうございます!
話を戻しまして、今回は意外と重要なポイントでして、
九千五百文字ほど使わせていただきました。
なお、吸血鬼姉妹について独自設定をさせていただきました。
タグも追加しておいたので時間のある方はご確認ください。
残酷な描写も含まれます。
独自設定、残酷な描写に耐えられるという方は、本編へどうぞ!
コツコツと暗く長い廊下を咲夜たちは歩いている。
後ろで拓人が霊夢たちと話している間、咲夜は顔を赤らめながら考えていた。
ひ、一目惚れ、なのかしら……確かに素敵だとは思ったけど……
でも、素敵な女性だって……この気持ち、一体何なの?……
あぁ、考えるだけで胸がドキドキする……
そんなことを考え顔を更に赤く染めていると、後ろから声がかかる。
「あの、どうしたんです?」
歩きながら振り返ると、そこには拓人の顔があった。
お互いの距離はあまり離れておらず、それ故に咲夜はドキッとしてしまう。
「あ、あの、何でしょうか?」
「少し歩くのが速くないですか?」
拓人に言われ咲夜は、自分の足が高速で動き、
小走り並の速度を出していることに気づく。
どうやら、考えごとをしている内にだんだん歩みが速くなってしまったようだ。
歩く速さを落としながら拓人に謝罪する。
「あ……すみません、考えごとをしていたもので」
「いえ、別に大丈夫ですよ」
そういい、拓人は笑顔を浮かべる。
いままで特に意識してなかったが、先ほどのことがあったせいか急に意識し始め、
素敵だな、と思いながら顔を赤らめてしまい、それを隠すように前を向き歩き続ける。
霊夢と魔理沙に愚痴を言われながら三分程歩くと、一際大きな扉の前に着く。
ここから先はこの館の主が待っている。
拓人は大丈夫だとは思ったが、霊夢と魔理沙の方が心配で一応注意をしておく。
「これより先はお嬢様が待っておられます。
くれぐれも粗相のないようにお願いします」
「ええ、わかりました」
「別にいいじゃない。 私あいつに勝ってるのよ」
「それに私の柄でもないしな。
悪いけど粗相のないようにとはいけないと思うぜ」
はぁ……この二人には何を言っても無駄ね。
そう思いながらため息をつき、部屋に入るためコンコンとノックをする。
「咲夜です。 拓人様たちを連れてきました」
『わかったわ。 入って』
「失礼します」
咲夜は大きな扉を片手で開け、すたすたと中に入った。
「失礼します」
咲夜がそう言い部屋の中へ入っていく。
遅れないように後を追って中へ入ると、そこはかなり広い部屋だった。
天井までは十二~三メートルあり、面積はテニスコートを横に二つほど
横に並べたぐらいの広さだ。
そんな部屋の広さに驚きながら咲夜の後を追って部屋の中央まで歩くと、
部屋の奥にかなり大きい椅子とそこに座っている人影が見えてくる。
座っていたのは暗いせいであまり見えなかったが十二歳前後の幼い少女の姿に見えるが、
長い年月をかけて築き上げたカリスマのようなものを拓人は感じた。
霊夢や魔理沙は素知らぬ顔で歩いていたが。
咲夜が前に立ち、その後ろに右から霊夢、拓人、魔理沙の順番で並ぶ。
並んだのを咲夜が確認すると、能力を使ったのか少女の元に一瞬で移動する。
それと同時に月明かりが部屋の奥まで差し込み、彼女の姿がはっきりと見える。
青く短い髪、コウモリに似た羽、さらに口から少し覗いている、
人間と比べると非常に発達した犬歯。
彼女こそ、この館の主にして東方紅魔郷六面ボス、
永遠に紅い幼き月の二つ名を持つレミリア・スカーレットだ。
「一応、そこの男とは初めてだから言っておくわ。
私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ。 よろしく」
「初めまして。
話は聞いていると思いますが、人間の五十嵐拓人です。
こちらこそよろしくお願いします」
「堅苦しい挨拶はそのへんにして、一体話ってなんなのよ」
霊夢がそう言うと、レミリアは肩を落としため息をつく。
「はぁ~……別にあなた達を呼んだわけではないのよ」
「いいじゃない、暇なんだし」
「いいだろ、私たちお前に勝ってるんだからさ」
「二対一は卑怯だと思うのだけれど」
「勝てればいいのよ、勝てれば」
落胆したように再びため息をつくと、レミリアは拓人の方に顔を向ける。
「それで、私があなたを呼んだのは他でもない。
フランのことよ」
「フランのこと……ですか」
「ええそうよ。
ちなみに聞くけど、あなたはフランに会ったそうね」
「ええ、地下の部屋で」
「それで、フランのことはどれくらい知っているのかしら」
「この館の主、レミリア・スカーレットの妹であること。
どれくらいかは知りませんが、ずっとここに住んでいるということ、ぐらいです」
「それは、フラン本人が話したことなのかしら」
「ええ、そうです」
そう言うと、レミリアは感心したように目を少し見開き頬杖をつく。
「へぇ……フランとはどのくらい話したのかしら」
「三十分くらい部屋で一緒に遊んだくらいです」
すると、レミリアは驚いたように目を見開いた。
「遊んだ?」
「ええ、お人形ごっことフランは言ってましたが」
「それで、その怪我はその時のものかしら」
「いえ、三十分くらい遊んだあとに突然訳の分からないことを言い出しはじめまして。
そのあと、フランと戦闘になりこの怪我を」
訳の分からないこと、と聞いた瞬間に、こちらを見る目が鋭くなる。
正直、目に見えない圧力に現在進行形で耐えており、
少しでも気を緩めればその場に卒倒してしまうほどだ。
「訳の分からないこと……具体的には?」
拓人は少し考えてあの時のシーンを思い出し、ゆっくりと話す。
「やめて、嫌だ、殺したくない。
確かこんな感じだったと思います」
「やっぱりね……
話は変わるけれど、私が今回の異変を起こした理由は知ってるかしら」
「いえ、まったく。 それがなにか?」
「巫女、あなた説明しておくって言ったわよね?」
「話す機会を逃しちゃったのよ」
はぁ~、と溜息をついて、渋々といった感じで再度話し始める。
話す機会はいくらでもあったとは思ったが、口には出さない。
「今回私がこの異変を起こしたのはそこの巫女にも言ってある通り、
吸血鬼の弱点である日光を遮って幻想郷を私のものにするために起こしたの」
「ほんっと迷惑だから、これからこんな厄介なこと起こさないでくれる?」
霊夢が威圧するように言うと、レミリアは肩をすくませて答える。
「しないわよ。 今回でもう懲りたわ。
それで、今回の私の目的はそれだけじゃないの」
「じゃあ、なんだっていうのよ?」
「さっき話に出てきたフラン。 あの子を救うためよ」
「フランを……救う?」
何を言っているのかさっぱり分からず拓人は右手を顎に当て考える。
答えが出てこないと悟ったのか、レミリアが話を進める。
「あの子が訳の分からないことを言ってから何かおかしなことはなかった?」
「確かに……まるで別人みたいに……」
「ええ、あの子はいわゆる二重人格者なのよ。
普段はあなたと遊んでた時の人格だけど、なんの兆しもなく人格が変わって、
あなたと戦ってた時の人格になる」
「それで、その二重人格を治そう。 そういうことですか?」
そう問うと、軽く頷いて肯定の意思を示す。
「まあ、そんなところよ。
私たちが何とかしようと試みたけど全部駄目だった。
結論を言うと、あの子を救うには私たちだけでは無理なの」
「一体、どういうことです?」
「あの子と私の過去にもつながることだけど、あの子は他の人を心から恐れてる」
「それは……なぜ?」
一瞬間を置いてレミリアが口を開く。
「殺したくないから」
「…………?」
殺したくないから人を恐れる。
その理屈が拓人には分からず首をかしげる。
「あの子は、普通の子だったのよ。
私と同じように生まれ、私と同じように育てられた。
……だけど、あの日を境にあの子は普通の子として暮らせなくなった」
「あの日……その日になにが?」
「あれは、私がここに来るずっと前の話よ」
少し表情を暗くして、レミリアは淡々と語り始めた。
「わーい、まてー!」
「こっちですよ、妹様」
レミリアは両親と一緒に紅茶を飲みながら、フランとメイドの遊びを見ていた。
現在、レミリアは五歳、フランは生後半年である。
吸血鬼は生まれた直後の成長が人間とは段違いに速く、個人差はあるものの、
フランは半年で人間の七歳児ぐらいまでの知能と容姿を得ている。
レミリアは五歳だが、見た目は十歳ほどで、知能においては人間の大人と遜色ないほどだ。
レミリアはフランが生まれてからというもの、
両親とこうやって紅茶を飲みながらフランの遊びを見るのが好きなのである。
「レミリア、フランと遊んできたらどうだい?」
父親がそう言うが、レミリアは首を横に振る。
「フランと遊ぶと少し疲れるので、遠慮してきおきますわ」
紅茶を一口含みカップを机に置くと今度は母親が口を挟む。
「レミリア、こういう時くらい気楽にいきましょ」
レミリアの家族はかなり有名で地位の高い吸血鬼の家系である。
両親は、一歳ごろから礼儀作法を後の後継であるレミリアに覚えさせたのだが、
こういった時くらいは堅苦しい言い方はなしにしようというのだ。
確かに家族同士で気遣うのは馬鹿馬鹿しいと感じ、レミリアは話し方をくずす。
「わかったわ、お母さん」
母は満足そうに頷いて紅茶を一口飲む。
「しかし、久しぶりだな。
こうして家族みんなが揃うのは」
「ええ、本当に」
父親は仕事で忙しく、こうして家族みんなで集まれる日はそうそうなく、
こうして集まれたのも二ヶ月ぶりなのだ。
「お父さん、今日の仕事は?」
「ああ、こんな日は滅多にないからな。 全部断ってきた」
「え、大丈夫なのあなた?」
「大丈夫さ、明日からの仕事が少し増えるだけだよ」
それを聞き、今日はずっと家族と入れることが分かり、
独り言のようにレミリアは嬉しそうに頷く。
「まてまてー!」
「こっちですよー!」
いつも一緒にいるこのメイドは、フランとの遊びに熱中すると敬語を抜かす癖があったが、
そこを含めてレミリアも両親も好んでいた。
やさしい両親、無邪気な妹、よく尽くしてくれるメイド達。
これらに囲まれ過ごす日々は、レミリアにとって大きな幸せだった。
そう、幸せ『だった』。 今日までは。
何をするでもなく、レミリアはただ、フランとメイドの遊びを見ていた。
追いかけっこをしており、小走りで楽しそうに逃げるメイド、
その後ろには両手を前に突き出し、可愛らしい仕草で追いかけるフラン。
何気なく見ていたが、レミリアはフランの小さな変化に気づいた。
両手を広げメイドに向けている両手が赤く光っているのだ。
逃げているメイドも、フラン本人も気づいていない様子である。
「フラン、その手……」
「どうしたの、レミリア?」
「お母さん、フランの手、光ってない?」
「え?……あら、本当ね」
母が少し驚き、父にそれを伝えようとすると、フランは両手を閉じる。
小さな子供がよくするように手を握ったり開いたりする、ただそれだけのこと。
だが、そのあとに起こったのはとんでもないことだった。
「あなた、フランの手が……」
「あぁ、本当だな。 フラン、その手どうし……」
父がこちらに振り向きフランに声をかけようとしたが、
その直後に何かの破裂音が部屋中に響き渡る。
レミリアの目に入ってきたのは、予想だにしないものだった。
部屋中に舞う血飛沫、粉々になった骨、原型をとどめていない肉塊。
先ほどの破裂音はフランと遊んでいたメイドの頭が『破裂』した音だった。
メイドは首から上がなくなり、床へ音を立てて倒れる。
部屋で掃除をしたり両親についていたメイドもフランの方へ注目し、
何があったのかがわかると悲鳴をあげた。
レミリアと父は固まり、母は唇を震わせてフランを見ていた。
フランは何が起こったのか分からず、転がったメイドの死体を見た後、
自分の握られた拳を開く。
両手は真っ赤に染まっており、開かれた両手から何かがボトッと床に落ちる。
落ちたのは、原型を留めていない人間の目だった。
「え…………あ……わ、わたし……」
フランは、いきなりの出来事に混乱しているのか目を白黒させ両手を見ている。
数秒ほどの沈黙が訪れたが、それを破ったのは母だった。
「フラン! あなた何やったの!」
「ち、ちがっ……わ、わたしじゃ……」
フランは周りを見渡す。
フランが見たのは、メイド達が浮かべる純粋な恐怖。
姉と父が浮かべる困惑と、母の怒り。
いままで一緒だったものが無理やり引き離され一人になったようにフランは感じたのか、
助けを求めるように周りのメイドに手を向ける。
そして、手のひらは先ほどと同じく赤く光っていた。
「フラン、やめなさい!」
レミリアが叫ぶがそれが逆効果となり、フランは体をすくませ手を握り込む。
手を向けていた先にいたメイドの頭がまたはじけ飛び、再度部屋を赤く染める。
耐えきれなくなったメイドが数人気絶し、父と母は恐怖で顔を青くし、
レミリアは未だに困惑していた。
「い、いや……いやーーー!!!」
フランは頭を抱え、泣きながらうずくまる。
状況を判断し損ねていたレミリアがはっ、と息をのみフランの元へ駆け寄り、
うずくまっているフランを強く抱きしめる。
「フラン……フラン……」
今のレミリアにはフランを抱きしめることしか出来なかった。
すると、母が口を開きレミリアに話しかける。
「……レ、レミリア! 危ないわ、戻ってきなさい!」
「危ないってなによお母さん!」
「フランに近寄るな! 早く戻ってこいレミリア!」
「お父さんも何言ってるのよ!
フランは、したくてやったわけじゃないわ!」
両親のフランを拒絶するかのような言葉にレミリアはムキになって言い返す。
フランが自分の意志でこんなことをしているとは思えなかった。
それはフランのおびえているような声が半ば証明していた。
「ちがう、ちがうの……わたし、なにも、なにもやって……」
「ほら、フランもこういってるじゃない……」
「…………」
両親に問いかけるが二人は黙り込み、数秒後に父が口を開く。
「……レミリア。 フランを地下室に入れる」
「ッ!」
レミリアの家の地下は巨大な部屋が一つあるのみで、その部屋の役割は一つしかない。
長い間、地下室は幽閉部屋として使われており、
父の言葉はフランを幽閉するという意味であることはこの場にいる全員が理解できている。
「地下室に入れるって……お父さん、本気で言ってるの?」
「……あぁ、フランを幽閉する」
抱きしめているフランの体がふるえ、レミリアは驚きで目を見開く。
いつも娘たちによくしていた父がこんなにもあっさりと娘を幽閉すると言ったのだ。
「なんで……なんでよお父さん!
フランは、何も悪くないわ!」
「フランの意思じゃないとすればなおさらだ。
何をしたかは分からないが、今後周りの者を殺しまくることにもなる」
「だからって……だからって!」
納得できないレミリアの元へ父が歩み寄る。
「レミリア……つらい気持ちはよくわかる。
だけど、今はこうするしかないんだ」
そういうと、父はレミリアをフランから離す。
そして、フランは父に、レミリアは母に連れられて部屋を出た。
気が付くと、ベッドの上にレミリアは横たわっていた。
母に連れられ、部屋を出た後の記憶があまりなかった。
今までのは……夢?
上体を起こしそんなことを考えていると横から声がかかる。
「お目覚めですか、お嬢様」
声のする方を向くと、見慣れない顔のメイドが立っていた。
いつもはあのメイドが挨拶してくるのに、と思いつつも聞いてみる。
「……やっぱり、夢じゃないのね」
「えぇ、夢では……ありません」
「……そう」
レミリアは暗い表情で俯く。
そのまま何分か過ぎ、飲み物でも頼もうと思っていると、
部屋の扉が開き外から両親が入ってくる。
「……レミリア」
「…………」
父が話しかけてくるが、どう返していいのかわからず、
そのまま部屋に沈黙が訪れる。
数十秒が経ち、やがて母が口を開く。
「ねぇ、レミリア。 この家から……出ましょ」
「……何言ってるのよお母さん」
すると、母はうつむいてしまい話そうとしなくなり、代わりに父が話し始める。
「レミリアが寝てる間、フランに会ってきたんだ。
もう、フランは前のフランじゃ無くなった」
「フランじゃ……なくなった?」
「あぁ。 まるで別人のようだったよ。
それで、重要な話だが……」
父が一呼吸おき、続きを話す。
「中へ入っていったメイドが全員、フランに殺された」
ドクンッとレミリアの心臓がはねる。
……嘘よ。 フランが、殺すなんて……
ありえない、ありえない!
ギュッとベッドのシーツをシワが出来るのを気にせず握りしめる。
「レミリア、もう私たちのフランはもういないの。
私たちと一緒に家を出ましょ」
母の言葉にレミリアは知らず知らずの間に口が開いていた。
「……嫌よ。 私、この家に残るわ」
「レミリア、何を言ってるんだ」
「だって、私の妹なのよ。 ……ほうっておけないわ」
「…………」
両親はしばらく黙っていた。
部屋にいるメイドもレミリアも一切話そうとせずにただ時間だけが過ぎていった。
すると、母が動き、何かの紙を渡してくる。
「……私たちはここにいるわ。 何かあったら来なさい」
「……えぇ、わかったわ」
そして紙一枚だけ残した両親は、家にいたメイドのほとんどを連れて、
家から去っていった。
その日は何もする気が起きず、食事もせずにレミリアは寝た。
そして、翌日。
起きたレミリアは、誰もいない静まり返った廊下を一人で歩き、地下室の前へ立つ。
……きっと戻ってきてくれる。
そんな思いを胸に、大きく重い鉄の扉を開ける。
レミリアにとってこの部屋は話に聞くだけであって、
使うことは一切ないと思っていた部屋だった。
「……フラン」
部屋の奥に一人で寝るには大きすぎるほどのベッドの傍らに座り込んでいるフランに話しかける。
するとこちらを向き、一瞬うれしそうな顔をした後に表情が暗くなり、
こちらを拒絶するかのような視線を向け、うずくまってしまう。
「……フラン」
もう一度話しかけながら、レミリアは歩み寄ってフランの肩に手を置く。
だが、フランはそれを払いのけ顔を伏せてしまう。
「……こないで、お姉様」
「どうして、フラン?」
「……私、私じゃなくなっちゃったの」
「……どういうことなの?」
「メイドさん達が来るたびに、わたしが、わたしじゃない誰かみたいに変わって……
でもわたし、どうしようもできなくて、何人も、何人も殺しちゃった……」
悲痛な声で話すフランをレミリアは掛ける声も見つからず話を聞き続ける。
「もう、わたし、誰も殺したくない……誰も、殺したくないのに……
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……」
「……フラン、あなたが謝ることなんてないのよ」
「でも、耐えられない。
今だって、わたしじゃない誰かがお姉様を殺したがってるの……」
「大丈夫、私が何とかしてみせるから。
何年たっても、必ず」
しかし、その言葉は限りなく嘘に近い。
レミリアはどうすればフランが救えるか全くわからないのだ。
フランの内側に潜むものに対抗できるのはフランしかおらず、
介入する手立てはその場で考えるが、思いつかなかった。
「……お姉様、そろそろ……」
そろそろ別人格に抗う力も限界のようだ。
「……フラン。 ごめんなさい
私が、あなたを救ってみせる。 いつか、必ず」
そういって、レミリアは正面からフランを強く抱きしめる。
少し戸惑ったようだが、フランはレミリアの胸の中で泣き始める。
「ぐすっ、お姉様ぁ……」
「フラン……フラン!……」
いつのまにか、レミリアの頬にも涙が伝っていた。
どのくらいそうしていただろう。
長いといえば長く、短いといえば短い時間だった。
「……そろそろわたし、限界みたい……」
「……わかったわ」
どちらともなく離れると、レミリアは扉の前まで歩き歩みを止め、
フランのほうに向く。
せめて、最後にこれくらいは言っておきたかったのだ。
「……フラン。 頑張ってね」
「……うん!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも浮かべてくれたフランの笑顔は、
レミリアの心に深く残った。
そして、扉を開ける。
必ず、フランを救って見せると決意しながら。
「それから、私は親に頼りたくなくて、
紙を破り捨てて何とかこの幻想郷までやってきた」
「……それは、どのくらい前の話ですか」
「そうね……もう495年前になるかしら」
その言葉に拓人は絶句する。
人間である拓人にとっては長すぎる時間だった。
「そんなに……」
「私は、あの子を救ってやりたかった。
一度、救おうとしてからあの子に挑んだのよ。 本気の殺し合いを。
それで、なんとか別の人格を押さえ込もうとした」
「結果は?」
「私の負けだった。
手足をもがれて殺されそうになって……
救うはずだった私も、あの子が怖くなってしまった」
救うはずだったのに怖くなってしまった。
それも当然だと拓人は思う。
誰だって殺されそうになればその相手を恐れるだろう。
だが、拓人そう思うと同時に確かめておきたかった。
レミリアに本当にフランを救いたいという気持ちがあるのかを。
「フランとは、どのくらいの頻度で会ってますか?」
「……殺されそうになったのが二十年前。
それ以来、一切会ってないわ」
二十年。 一切会っていない。
この言葉に拓人は深く傷ついた。
姉なら、家族なら、救いたいと思うのなら、
何もできなくても傍にいてあげることくらいできたのではないか。
それが、本気で救いたいといえるのだろうかと、そう思ったのだ。
外の世界でたった一人で生きてきた拓人にはフランの気持ちは痛いほど理解できた。
「……あなたは、本当にフランを救いたいと思ってるんですか……」
拓人は自分でも驚くほど低い声でレミリアに問う。
あまりの声の変わりように霊夢も魔理沙も咲夜も驚いていた。
「もちろんよ」
「なら、なんで傍にいてあげないんですか……」
先ほどよりも威圧感をこめて問う。
拓人におされたのか詰まりながらレミリアが返事を返す。
「そ、それは……殺されるかも……って思ったら、
なかなか……会えなくて」
「……ふざけないでください」
「私が……ふざけてる?……」
「ええ、そうです!」
怒りをあらわにしてレミリアに怒鳴りつける。
拓人は今までに感じたことのない怒りを感じていた。
怖いから、そばにいてあげないなんてありえない!
姉なら、家族なら、たとえ何もできなくても、手を差し伸べるべきだろう!
「本当に、フランを救いたいと思っているのなら、
何もできなくても傍にいてあげるべきです!
それを、殺されるからといった理由で手を差し伸べないのは、
フランを見捨てたも同然じゃないですか!」
言われた瞬間にレミリアは唇を強くかむ。
「あなたに……」
そういった瞬間、レミリアはその場から掻き消え座っていた椅子が粉砕される。
気が付けば、拓人の目の前まで接近しており長い爪をのどに押し当てている。
「人間のあなたに、一体何がわかるっていうのよ!」
気が付くと、レミリアの両頬には月明かりに照らされ光る筋があった。
それを拭おうともせず拓人に問い詰める。
「私やあの子が、どれほど苦しんだかあなたにわかるの!?
周りのメイド達には避けられ、親にも捨てられた私達の苦しみが!」
泣きながら問い詰めてくるレミリアに自分の思いをぶつけるため、
敬語抜きでレミリアに語る。
「確かに、人間だから何百年と生きてきた二人の苦しみの大きさはわからない。
だが! 外の世界で経験してきたからこそ辛い気持ちはよくわかる!」
レミリアの、喉に爪を当てているほうの腕を右手で押さえ、
真っ直ぐと涙で濡れた瞳を見ながら語る。
「俺は、外の世界でいろいろ辛い思いをした。
家族が殺されたり、周りから軽蔑されるようなことも何度もあった。
だからわかるんだ! 辛いときこそ、身近な人にいてもらいたい気持ちが!」
「じゃあ、私は、私はどうすればよかったのよ……」
両目から涙を溢れさせながら真剣にこちらを見つめてくる。
「簡単だ。 ただ、傍にいてやるだけでいいんだよ」
「傍に……いてあげる……」
「あぁ、そうだ」
力が入らなくなったレミリアの腕をそっと下ろし、拓人は部屋を出ようとする。
「た、拓人、どこに行くのよ?」
「決まってるじゃないか、霊夢。 フランのところだよ」
「そんな怪我で、大丈夫なのか?」
「なんとかするさ。 それに、今じゃなきゃだめな気がするんだ。
それと、俺一人でやらせてもらいたい」
「そうか……」
霊夢と魔理沙が拓人を止めようとしたが、
こちらの真剣さが伝わったみたいで二人とも拓人を止めようとはしなくなった。
「拓人。 一つだけ言っておくわ」
「どうした?」
「どんなことがあっても、死なないで。 約束よ」
霊夢が右手を拳にして挙げる。
その拳は必ず帰ってこいと言っているようだった。
「あぁ、約束だ」
こちらも右手を握り、霊夢の右手とぶつける。
そして、振り返ることもなく拓人は部屋を出た。
いや~、今回は結構長かったです。
次回はフランとの二回戦です。
こちらはあまり考えていないので少し遅れるかもしれません。
次回は七千文字以内におさめていきます。
それでは次回、また読んでください!