東方壊命録   作:鼠返し

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 どうも、私事に追われてしまい、投稿が遅くなってしまった鼠返しです。

 さて、最初にこれだけは言わせてください。

  七千文字以内に収めると言ったな。 あれは嘘だ。

 え~一万文字ぎりぎりです。 約束破ってすみません!

 今回結構急展開かも……

 大丈夫だという人は本編へどうぞ!


第十一話 決着

 部屋を出た拓人はとりあえず能力でこの館の構造を把握することにした。

 

 その場の勢いで部屋を出たのはいいが、

どこにフランのいる地下室があるのか分からなかったのだ。

 

 目をつぶり、能力の使用に集中する。

 

  ……紅魔館、全体……

 

 すると、一気に紅魔館全体の構造が頭に入ると同時に、激しい頭痛が襲ってくる。

 

「ぐ、ぐあぁ、ああぁ!」

 

 いきなり流れ込んできた大量の情報を脳が処理しきれなかったことによる頭痛である。

 

 痛みに耐えきれず、壁に手をつき座り込む。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 

 幸い数秒で痛みが引き、なんとか立ち上がれるようになる。

 

 ともあれ、これでフランのいる地下室の場所が分かり、

暗く長い廊下を能力で作った懐中電灯を使い歩き始める。

 

 三分ほど歩き続けると、この館に侵入した時に転がり落ちた階段が見えてきた。

 

「……ここか」

 

 周りを懐中電灯で照らしてみると、廊下などは赤一色で埋め尽くされているのに、

階段だけは不自然に石造りだった。

 

 とりあえず部屋までいかないと何も始まらないと考え足を踏み出す。

 

 それと同時に音もなく拓人のすぐ左に咲夜が現れる。

 

「うわ、びっくりした!」

 

「あ、すみません拓人様」

 

 いきなりの出来事にびっくりしたが、咲夜だと分かると拓人は胸をなで下ろした。

 

「どうしたんです?」

 

「あの……これだけは、約束して欲しくて……」

 

 咲夜は右手の小指をたててこちらに向けてくる。

 

「妹様はお強いです……絶対に死なないでください」

 

「……えぇ、約束です。 必ず生きて帰ってきます」

 

 懐中電灯を消してから咲夜の小指に自分の右手の小指を絡ませ、

二度三度と小さく、だがしっかりと上下に振る。

 

 そして、絡ませた指をほどきながら咲夜が口を開く。

 

「……それはそうと、腕は大丈夫なのですか?」

 

「大丈夫ですよ。 まぁ、見ててください」

 

 拓人は左腕の包帯をほどき始める。

 

 十秒ほどでほどき終わった包帯を咲夜に渡すと、目を閉じて集中する。

 

「あの、一体何を……」

 

 今咲夜の目に映っている左腕の怪我は、数時間前に見たものとほぼ同じである。

 

 拓人は、左腕に血を意識しないように視線を集中させて元の腕の形を強く思い浮かべると、

傷口の周りに淡い光が覆い始め、みるみるうちに再生していく。

 

 十秒ほど経つと、怪我の痕跡は跡形もなく消えた拓人の左腕が服と共に完全に再生した。

 

「……とまぁ、こんな感じです。

 つ、疲れる……」

 

「どうしましたか?」

 

「いや、能力を使ったので少し霊力が……」

 

 肉体修復系の能力は結構の量の霊力を消費する。

 

 何時間も寝ていたためか霊力はほとんど回復していたものの、

腕一本分も修復するとなると体から少し力が抜けるように感じるのだ。

 

「それにしてもすごい能力ですね」

 

「えぇ、すごすぎて自分が人間やめたんじゃないかと思うときもあります」

 

「それをいったら私の能力もそうですよ」

 

 二人で静かに笑う。

 

 この時はこんな状況に置かれているにもかかわらず、拓人は少し楽しかった。

 

 笑いが収まると、拓人は話を本題に戻す。

 

「……それでは、そろそろ」

 

「えぇ、どうかお気をつけて」

 

 拓人は咲夜のお辞儀に見送られ、フランがいる地下室へ行くため、

暗く長い階段を降り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランはベッドのそばでうずくまっていた。

 

 拓人という男の執事と遊んだ後、別の人格がフランを支配した。

 

 人格が変わったといっても全部記憶が抜けているわけではない。

 

 おぼろげに記憶しているだけ、言い換えれば夢を見ているかのような感じだ。

 

 拓人の左腕を吹き飛ばしたあと、人格が戻りこうしてうずくまり考え事をしている。

 

 もう誰も殺したくない、だが自分は何もできず自分を止められない、と

矛盾している思いが胸の中を駆け巡る。

 

  拓人は大丈夫なのか。 死んではいないか。

  ……嫌われてはいないか。

 

「…………もういやだよ……お姉様……」

 

 咲夜が持ってきてくれた食事にも手をつけず、ただうずくまっていた。

 

 コツ、コツ、と、部屋の外にある見たことのない階段から足音が聞こえてきた。

 

  ……誰?

 

 咲夜はさっき食事を届けにきたばかり、レミリアはここ最近一回も会っておらず、

パチュリーや美鈴はあまりここにくることがない。

 

  ……誰なんだろ?

 

 そんなことを思っているうちに足音は扉の前にたどり着き、

少しだけ間をおいてから扉が開く。

 

 そして、扉の向こうにいたのはあろうことか、先ほど怪我をさせてしまった拓人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 覚悟を決め、重い扉を開く。

 

 目に入ってきたのは『紅』ではなく『赤』。

 

 それも、血にも似た色だった。

 

 部屋を見渡すと、ベッドのそばでこちらを見ているフランと目が合う。

 

「……なんで、来たの?」

 

「なんて言えばいいんでしょうかね……」

 

「……帰って。 お願い、帰って……」

 

 そういうと、フランは顔を伏せてうずくまってしまう。

 

 拓人はフランの言葉を聞き入れずに歩み寄り、フランの前に立ち口を開く。

 

「今から大事なこと言うから、口調変えてもいいかな?」

 

 フランはうつ伏せたまま何も言わないので、それを肯定と見なし話を進める。

 

「さっき、レミリアに会って話を聞いてきたんだ。

 フランの過去に何があったのか、今フランがどんな状態なのか全部」

 

 フランの体が大きく震えて顔をあげ、まるで怯えているかのような表情を浮かべて

こちらを見てくる。

 

「私が、怖くないの?……」

 

「怖くない、と言えば少し嘘になるかな」

 

「じゃあ、なんでここに来たの?……」

 

「余計なお世話かもしれないけど、フランを助けに来た」

 

「助けるって……どうやって」

 

「もう一人のフランを倒す。 これしか思いつかないよ」

 

 そう口にしたとたん、フランの顔が悲しみによってなのか、くしゃりと歪む。

 

「無理だよ……拓人だって、私に負けたんでしょ」

 

「忘れてたかな?

 確か、勝負はお預けだっていった気がするけどな」

 

「お預けって勝てるの、私に?」

 

「正直言ってかなり難しいよ。 でも、必ず勝ってみせる。

 これ以上フランに悲しい思い、させたくないから」

 

 言い終わると、フランは顔を伏せ黙り込んでしまう。

 

 そんなフランの肩に手を乗せ語りかける。

 

「レミリアだって、フランがこんなのだと悲しむと思うよ」

 

「……嘘」

 

 フランが放った言葉は何故か濡れていた。

 

「え……?」

 

「嘘よ……お姉様が、私なんかに悲しむなんてありえない!

 お姉様は、私を見捨てた! もう私なんか、いらないのよ!」

 

「……フラン、そんなことはない」

 

 今の拓人は、フランにかけれる言葉はこれしかなかった。

 

 その言葉を聞いた途端、フランは涙で濡れた顔をあげてこちらに向き口を開く。

 

「なんで!? なんで拓人にそんなことがわかるの!?

 メイドさんたちも、美鈴も、パチェも、咲夜も……お姉様も!

 誰も、私の傍にはいてくれない! もう皆、私なんていらないのよ!

 私なんて……私なんて、死んでし……」

 

「フラン!」

 

 気が付くと、拓人は叫んでいた。

 

 驚いた様子のフランが口を閉ざしたのを確認すると、

落ち着かせるようにゆっくりと話し始める。

 

「この世に生まれた者には、必ず生まれてきた意味がある。

 誰だってそうだ。 俺やフランもそうだ。

 だから、簡単に死のうなんて考えちゃいけないんだ」

 

「そうだとしても、私に……生まれてきた、意味なんか……」

 

「自分が生まれてきた意味は、自分で見つけるものなんだ。

 たとえ、何十年とかかっても、自分でその答えを見つけるんだ。

 もしフランが自分一人でできないんだったら、俺が傍にいてやる。

 答えを見つけるまで他の誰も傍にいなくても、俺だけはフランの傍にいてやる」

 

「……本当に、できるの?」

 

 声色を変え、フランは問うてくる。

 

 それと同時にフランは立ち上がり、拓人を見向きもせずに距離をとる。

 

「拓人が本当にできるのか、見せて。 お願い……」

 

 最後のほうは、前にフランと遊んだときの最後に聞いたときの声と似ていた。

 

 もう限界が近いのだろう。

 

「……あぁ、わかった。 必ず、証明してみせる」

 

「ありがとう、拓人……」

 

 そう言い残すと、フランは目を閉じる。

 

 数秒ほど目を閉じ、カッ、と目を見開くと、そこにはさっきまでのフランの優しい目はなく、

極限まで瞳孔が細められた狂気の目がそこにはあった。

 

「クククッ、ハハッ、アハハハハハ!

 ……さぁ拓人、始めましょ?」

 

「……あぁ、望むところだ!」

 

 二人が同時に地を蹴り中間地点で一瞬で創造した拓人の霊力の刀と、

フランの長い爪が交錯する。

 

 それを合図に二人の戦闘は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、ただいま戻りました」

 

「…………」

 

 レミリアは拓人が部屋を去ったあと、身動き一つせずにその場に立っていた。

 

 会って間もない男に、本気で心配され、本気で妹や自分の為に怒られた。

 

 そしてなにより、自分の今までの行いを否定され、怒りと同時に悲しみを覚えていたのだ。

 

  『ただ、傍にいてやるだけでいいんだよ』

 

 この言葉がレミリアの頭の中を何度も駆け巡る。

 

  ……傍にいてあげるって……無理よ。

  私は……あの子に何一つ……

 

「何も……できないのに……あの子のために、何も、できないのに……!」

 

 気がつけば、レミリアは泣いていた。

 

 拓人に言われて気付いた。

 

 救うはずの妹を自分が怖がっているのが間違っていると。

 

 たとえ怖くなってしまっても、傍に居てやらなかったのが間違っていると。

 

 涙を何滴も広い部屋の真ん中に落としながら過去を悔やんでいると、

となりから声がかかる。

 

「……お嬢様」

 

「……なによ」

 

「拓人様の言ったことは正しいと思います。

 お嬢様も気づいたのではないでしょうか。

 傍に居てあげることの大切さを」

 

「でも、傍にいたって……何も、できないのよ」

 

「何もできなくていいんです。

 ただ、傍にいるだけ。 これだけでいいんです」

 

「…………」

 

 レミリアには訳がわからなかった。

 

 傍にいるだけで、何になるというのか。

 

 自分の周りに存在する者が一人増えるだけのことに、一体なんの意味があるというのか。

 

 咲夜が言った内容の意味を考えていると、今まで黙っていた巫女が話しかけてくる。

 

「レミリア、あんたまだわからないの?」

 

 ふいに、霊夢から声がかかってきた。

 

「わからないって、なによ」

 

「傍にいることの大切さよ。

 ……あんた、人里の存在くらい知ってるわよね?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

「人里は、周りを山やら竹林やらで囲まれてていつも妖怪に狙われてるの。

 それでも、人間は安心して暮らせる。 なぜだかわかる?」

 

「それは……あなたがいるからじゃないの?」

 

「そうよ。 

 人里の人間は、博麗の巫女という存在が身近にあるから安心して暮らせるの。

 この意味、あんたならわかるわよね?」

 

 レミリアは、ようやく霊夢の話の意図に気づいた。

 

 頼れる存在が近くにいる、これだけで人間が安心して暮らせる。

 

 だがもし、その存在がなかったら、又は頼れる存在が自分の傍にいなかったら。

 

 周りの恐怖に怯えることしかできず、安心して暮らすことなどできない。

 

 それと同じことをフランにもしていたことに気づいた。

 

  ……私は、あの子に、なんてことを……

 

「フラン……フラン……ごめんなさい、ごめんなさい!……」

 

 そして、泣きながらレミリアはその場に座り込む。

 

 咲夜がレミリアの背中をさするが、涙はいっこうに枯れる気配はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、どうしたの!? その程度じゃ物足りないわ!」

 

「ぐっ! まだ、まだだ!」

 

 拓人は今、フランの弾幕に翻弄されつつあった。

 

 舞台はすでに空中へと移っており、フランが拓人の回りを飛びながら

無数の赤い弾を放ってくる。

 

 回りを縦横無尽に駆け巡るフランを目で追いながら、

上下左右の全方位から迫り来る弾幕を回避するのは至難の技であり、

現に右手に作った霊力の刀で自分に当たる弾だけを切り落とすだけで精一杯だ。

 

 そのまま数十秒経ち、なかなか攻撃を当てられずに苛立ったフランがスペル詠唱に入る。

 

「あはっ、面白いわ、そうこなくっちゃ!

 禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

 唱えた瞬間にフランの体が薄くなり、それが四つに分かれる。

 

 そして、分かれたときに生じた弾が飛んでこないタイミングを拓人は計っていた。

 

「こっちもお返しだ!

 弓符『ディフュージョンアロー』!」

 

 霊力の刀を消すと同時に、少し色合いの違う弓が現れるが、

ためらわずに拓人は一気に弦を引く。

 

 肩まで一瞬で引き絞ると、右手に一本の矢が現れ八つに分裂する。

 

 それらをフランの攻撃が始まる前に一気に放つ。

 

 本数が多いためか、速さはあまり出なかったがこのスペルの問題はそこではない。

 

『ディフュージョン』とは『拡散』という意味である。

 

 つい二時間ほど前に咲夜の料理に舌鼓を打ちながらスペルカードとにらめっこして、

どのような効果があるか事前に予想していたのだ。

 

 拓人の予想を裏切らず、八本の矢は一人に二本ずつフランに向かって、

直線ではなく弧を描きながら飛んでいく。

 

 軌道が読みにくかったのか、フランは避けるものの分身の二人に当たり、

赤い光を出しながら消えていった。

 

「すごいわ、でもあと一人いるのよ!」

 

 フランの本体と分身一人がこちらにさきほどと同じ赤い弾を放ってくる。

 

 しかし、分身したせいかはわからないが動きが鈍く、

ばらまき弾ではなく、こちらを狙って撃ってきているので避けるのは容易かった。

 

 即座に弓を刀に持ち替え、目の前で展開される弾幕をかいくぐりながら分身に肉薄する。

 

「セェイ!」

 

 居合い切りの形で最後の分身を屠り、本体のほうにも消えた刀を

もう一度作りながら懐にもぐりこむ。

 

「もういっちょおぉぉ!」

 

 右腕を左肩付近で畳み、完全に間合いに入ったところでボウガンの矢のように突きを放ち、

見事にフランの体を捉える。

 

 もろに攻撃をくらったフランは反動で後方に飛ばされるが、

壁にあたる寸前で体制を立て直す。

 

「すごいっ、強いよ拓人! なんでそんなにあなたは強いの?」

 

「さあね。 答えを知りたかったら、おとなしく降参してくれないかな?」

 

「嫌よ。 だって、こんなに楽しいんだもん!」

 

 そう言い放ち構えるフランを見ると、再度霊力の刀を作る。

 

「もうここから本気でいくよ!

 ……秘弾『そして誰もいなくなるか』」

 

 拓人はフランのスペル詠唱に少し違和感を感じた。

 

  ……目が戻っている!

 

 詠唱の最後のところだけ、何故かフランの目が戻っていたのだ。

 

 しかし、それ以上考える間もなくフランの体は青い弾へと変わり、こちらに迫り来る。

 

 迫り来る間にも、横方向に少し大きめの弾を放ちながら迫ってくる。

 

 何回かこちらを追尾すると、今度は五つの弾が時間差をつけて現れ、

非常に避けづらいタイミングで次々と迫ってくる。

 

 避け続けて三十秒くらいが経つと一斉に弾が消える。

 

 そして、拓人の全方位に赤い弾が現れ挟み込むように迫ってくる。

 

 逃げ道が潰されないうちに弾幕の薄いところから外に出る。

 

 続いて青色の弾が交差しながら、黄色の弾がが弧を描きながら挟み込むように、

緑色の弾は青より変則的に交差しながら迫り、これを繰り返すこと一分半。

 

 ようやくスペルが終わり、フランが姿を現す。

 

「よく躱せたね、すごいすごい!」

 

 元気に言葉を放っているが、今までと比べると少し元気がないように感じた。

 

 もしかすると、あの時に目が戻っていたのと何か関係があるかもしれない。

 

 そう思い、拓人は言葉をかける。

 

「……フラン、正気に戻ってくれ」

 

「え? 私はずっと正気だよ?」

 

「フランは、こんなことをする子じゃない!

 本心じゃあ、こんなことは望んでいない、そうだろ!」

 

「そ、そんなことはないわ。 

 だって、私は楽しんでるのよ!」

 

 フランの言葉が揺らぎ始めた。

 

  あと、もう一押し!……

 

「本当にそうか? 今のフランは、一人が怖いから怯えてるだけだ!

 そうだろ!?」

 

「…………」

 

「思い出せ! 一人が怖いなら、俺がずっと傍にいてやるって言っただろ!

 今まで一人だった分や、それ以上傍にいてやる!」

 

「できるの? 私の今までの悲しみも一緒に背負うことになるのよ」

 

「構わない。 フランを救うためなら、どんな重荷だって一緒に背負ってやる!」

 

「……ふふっ、気に入ったわ拓人。

 やっぱりあなた面白いわ!」

 

 そう言い、フランは右手に持った棒をしっかりと握り、戦う意志を見せる。

 

  くそ! あと少しだったのに……

 

 悔しさに歯噛みしながらどうしようかと考えていると、フランが口を開く。

 

「一緒に背負えるかどうか、試してあげる……

 これが、私の悲しみ、全部よ!」

 

 フランが懐から一枚の紙を取り出し、今までで一番大きな声で叫ぶ。

 

「QED『495年の波紋』!!!」

 

 フランの周りから全方位に青い弾が一定のリズムで放たれる。

 

 放たれた弾は部屋の壁にぶつかると反射し、それぞれ思い思いの方向へと飛んでいく。

 

 そんな中、放たれた内の数発が拓人めがけて飛んでくる。

 

 しかし、拓人は避けようとは思わなかった。

 

  避けるなんて小賢しい真似はしない!

  フランの悲しみを、全部……

 

「断ち切ってやる!

 刀符『スラッシングツーブレード』!!!」

 

 叫ぶと同時に、今までより強い光を放つ刀が二本現れ、拓人の両手に収まる。

 

 剣道では大学生になるまでは二刀流は禁止されている。

 

 だが、拓人は両親を失ったあの日から隠れて練習していたのだ。

 

 剣道を楽しむのではなく、自分を鍛えるために。

 

 これ以上、大切な何かを失わないために。

 

「う、おおおぉぉぉぉぉぉ!」

 

 拓人は真っ直ぐにフランへと突き進む。

 

 行く手を阻む弾は両手の刀で弾きながら、フランとの距離を縮める。

 

「まだ、まだよ!」

 

 フランは部屋中を飛び回りながらさらに弾を放つ。

 

 放たれる弾の数と頻度が多くなり、こちらに向かってくる弾の数も多くなる。

 

 拓人は、ひたすら弾を切り続けた。

 

 切り続ける傍らで、拓人はこのスペルの意味と、

今まで感じていたフランとの不思議な感覚を悟った。

 

  ……無限に広がる、悲しみ……似てるんだ、俺とフランは……

  周りの人がいなくなって、絶望にとらわれていたんだ……

  …………そう、俺と同じように……

 

「ッ! ハアアアァァァァァァ!!!」

 

 さらに刀を振る速度を上げる。

 

 しかし、フランから放たれる弾の数は一向に減らない。

 

  ……こんなんじゃ、フランの悲しみは消せない!

  もっと速く、もっと、もっともっと速く! 

  フランの悲しみごと、切り裂けるまで!

 

「ハアアァァァァ! と、ど……けええぇぇぇぇ!!!」

 

 限界を超え、残像しか見えなくなるまで刀の速度を上げる。

 

 拓人は自分がどのように刀を振っているのか自覚していなかった。

 

 ただひたすらに、フランに届くようにと刀を振り続ける。

 

 弾を消す数と、弾を放つ数の比が変わり、徐々に弾の数が少なくなってくる。

 

 何回目かも分からない斬擊の回数を行い、弾幕の影に隠れていたフランが見えてくる。

 

  あと、少し!……

 

 ひたすらに刀を振るい、確実にフランとの距離を詰め、完全に刀の間合いに入る。

 

「ハアアアァァァァァァ!!!」

 

 両手をクロスさせ、同時に真横になぎ払う。

 

 そして、刀は放たれる弾を切り裂きながらフランの体を捉える。

 

 悲鳴すら上げずに凄まじい勢いで後方の壁に激突し、やがてベッドの上に落ちる。

 

「フ、フラン!」

 

 落ちたフランの元に急いで飛びよる。

 

 かなりの勢いで壁に激突させてしまったため心配したが、

幸い頭を抱えて体を揺すると、フランは閉じていた瞳を開ける。

 

「……あ、拓人?」

 

 そうだとばかりに拓人が頷くと、部屋の様子を見始めた。

 

 そして、決着がついたことを察したのか少し驚いた表情で口を開く。

 

「……勝っちゃったんだね。 絶対に勝てないと思ってたのに……」

 

「言っただろ。 必ず証明してみせるって」

 

「……本当に傍に居てくれるの?」

 

「あぁ、本当だ」

 

「本当に本当?」

 

「本当に本当だ」

 

 こんなやりとりをしていると、フランの顔がくしゃりと歪む。

 

 すると、ベッドに座っていた状態からフランに押し倒される。

 

「フ、フラン?」

 

「寂しかったの……本当に、本当に、寂しかったんだから……」

 

 フランの両目から涙が溢れ出し、何滴も拓人の服に落ちる。

 

「寂しかったんだからぁ……

 あぁ、ああぁぁぁぁ、ああっ、あああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 声を出し、拓人の胸に額を押し当て泣き始めた。

 

 一瞬あっけにとられていたが、拓人はフランの頭を撫でる。

 

「寂しかったよな……辛かったよな……」

 

「ああっ、ああぁぁ、あああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 そして、フランが泣き止むまで拓人はなでている右手を止めることはなかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 何分間も泣き続け、なんとか泣き止んだフランとしばらく横になっていた。

 

 何をするでもなく、ただじっと横になっていた。

 

 しばらくすると、フランが口を開く。

 

「……私ね、昔からこんな歌知ってるの。

 聞いてくれる?」

 

 口に出さずにひとつ頷くと、フランは歌い始めた。

 

 その歌は聞き覚えがあった。

 

 マザー・グースが作ったとされる童謡の一つで、

 アガサ・クリスティンが執筆した世界的に有名なミステリー小説「そして誰もいなくなった」

の題材となり、フランドール・スカーレットのモデルともなった作品だった。

 

 話の流れはこうだ。

 

 年齢も職業もばらばらな十人が「U.N.オーエン」からある島に来るように呼ばれる。

 

 しかし、島に行ってみると呼び出したオーエン氏はおらず、島に十人が取り残され、

その十人が次々と殺害されていく物語を語った作品が「そして誰もいなくなった」である。

 

 作品のモチーフとなった歌は、十人のインディアンが次々といろんなことが起こって、

最終的に誰もいなくなってしまうという歌詞だ。

 

 そして、フランの歌は最後の一人の場面に移る。

 

「一人のインディアンの少女が後に残された。

 彼女が自分の首を吊り、そして誰もいなくなった。

 ……この歌の意味わかる?」

 

 歌の中の「彼」が「彼女」のように変わっていたが、大体の意味は変わっていなかった。

 

「あぁ、わかるよ」

 

「私ね、ずっと思ってたんだ。

 最後の一人って、私みたいだなって……」

 

 途中までの意味はあっているが、最後は違うことに拓人は気付いた。

 

「そして誰もいなくなった」の作中での歌はそうなのだが、

十人のインディアンの歌詞としては少し違うのだ。

 

 フランにこのことを教えてあげたいと拓人は思い口に出す。

 

「……本当の歌詞の通りにしてみなよ」

 

「え?……」

 

「俺が知ってる歌は少し違うんだよ」

 

 なんとか歌詞を思い出し、「彼」を「彼女」に変えて歌い始める。

 

「一人のインディアンの少女はひとりぼっちで暮らしていた。

 彼女が結婚して、そして誰もいなくなった。

 ……最後の一人は結婚したんだよ。

 そう考えたほうが、いいんじゃないかな……」

 

「……じゃあ、私、拓人と結婚する!」

 

「……は?」

 

 いきなりの発言に拓人はびっくりする。

 

「いやいや、結婚!? それは、難しい、かな……」

 

「え……ずっと、傍にいてくれるんじゃなかったの?」

 

 つぶらな瞳をうるうるとさせながら見つめられると断りにくく、

かなり悩んだ末、結局折れてしまった。

 

「……はぁ、わかったよ。

 俺でよかったら、結婚してやるよ」

 

「……嬉しい」

 

 顔を赤くし、満面の笑みを浮かべるフラン。

 

  はぁ、ややこしいことになったなぁ……

 

 そんなことを思っていると、フランからさらに拓人をびっくりさせる発言をする。

 

「け、結婚ぐらいするんだから……キ、キスしても、いいよね?」

 

 拓人はびっくりを通り越して完全にフリーズしてしまった。

 

「ねぇ、いい……でしょ?」

 

 フランの言葉に脳の一部を再起動させ、なんとか話をはぐらかそうとする。

 

「いや、その、だな……まだフランには、早いかも……」

 

 再びフランはつぶらな瞳を涙で濡らし、無言の上目遣いでお願いしてくる。

 

  いやいや、折れちゃだめだ折れちゃだめだ折れちゃ……

 

 しかも極めつけに、フランはもう目を閉じて準備万端である。

 

  ……ここで逃げたら男じゃないのかなぁ……

 

 自分に勝手な言い訳をして覚悟を決め、フランの顎に右手をあてて顔を傾けさせる。

 

「あっ……」

 

 フランが声を漏らすが、拓人は自分の心臓が鼓動する音で聞こえなかった。

 

 そして、だんだんとお互いの唇を近づけそっと合わせる。

 

 数秒ほど続け唇を離すが、フランは物足りないとばかりに少し強引に拓人の唇を奪う。

 

 舌まで入れる、お互いを求め合うかのような濃厚な口づけ。

 

「んっ、はあ、はあっ、んっ……」

 

 さらに舌を奥まで差し込み、お互いの唾液を絡ませる。

 

 こんな状況にも関わらず、フランの味は特に甘く感じた。

 

 そして、続けること三十秒。

 

 お互いの息が切れフランが唇を離すと、拓人とフランの間には

銀色に光る細い糸がかかっていた。

 

 糸が切れるとフランは残念そうな顔をした後、両腕を拓人の体に回す。

 

「……心臓どくどくいってる」

 

「し、仕方ないだろ……こういうこと、馴れてない、からさ」

 

「えへへ~。 拓人、大好き……」

 

 そういうと、体に回した手の力を込めてくる。

 

  まさか、続きまでやるつもりじゃ……

 

 しかし、幸いと言うべきか不幸と言うべきか、フランが続きを口にだすことはなかった。

 

「……なんだか疲れちゃった。 このまま寝てもいい?」

 

「あ、あぁ……」

 

 フランは拓人の胸に顔を埋め、目を閉じる。

 

「ねぇ、頭……撫でて……」

 

 拓人はフランの頭の上に手を置きなで始める。

 

 そして、規則正しい寝息が聞こえるようになるまで、

拓人はフランの頭を撫でるのを止めなかった。




 あ~、フランとやってしまった……

 反省はしています。 後悔はしていませんが。

 さてさて、今回挿絵を私の友人である滝村氏に書いていただきました。

 絵の感想などお聞かせいただければ、滝村氏は文字通り跳んでよろこびます。

 また機会があれば書いてもらおうとおもっています。

 それではこのへんで。 次回、おたのしみに~。
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