今回、やっぱりノリで書いてしまったもので、
今までで一番長いお話になってしまいました。
最近、忙しいと言えば忙しいし、忙しくないと言えば忙しくない、
そんな中途半端な日々を送っています。
どっちかにはっきりしたいです。
そしてキーボードを打ちまくりたいです。
……話がそれましたが、第十六話です。
タイトル詐欺&長文に耐性がある、という方は本編をどうぞ!
博麗神社を飛び立ち、霧の湖を通って紅魔館の門前まで来た拓人達。
ここに着く頃には大分暗くなってきており、
霊夢の言った通りのちょうどいい時間になっていた。
最初は霊夢と魔理沙と拓人の三人しかいなかったのだが、今は違う。
「あわわ……私たち、ついてきてよかったのかな……?」
「なにいってるのよ大ちゃん!
えんかいっていうのは、みんなで楽しむものなんだよ!」
「そーなのかー」
この声の発生源は、拓人たちの後ろで話し合っている、昨日霧の湖で会った三人組である。
どうしてここに三人がいるのか。
それは、こういうことがあったからである。
「待ちなさいよ、拓人!」
半ば置いていくように先に行ってしまったことが気に障ったのか、
少し怒るような強めの口調で呼び止められる。
断る理由もないので、少し飛ぶ速度を落として霊夢たちと合わせると、
あまり時間がかからずに二人に挟まれる形になる。
右に霊夢、左に魔理沙だ。
「もう、置いていかないでよ!」
「ごめんごめん、宴会が楽しみで……」
幻想入りしてからというもの、皆で楽しめることをしたことがない拓人にとって、
宴会は重要なイベントなのだ。
外の世界にいる間、中二の時にあの事件が起こってから『楽しい』
と感じたことはほとんどない。
あるにはあるが、話しても虚しい内容に過ぎない。
「別に宴会は逃げないんだから、焦らなくてもいいでしょ」
無意識に宴会が楽しみな理由について考えていたが、
霊夢の声によって意識が脳内から現実へとシフトチェンジする。
「し、仕方ないだろ。 楽しみなんだからさ」
「まったくもって同感だぜ!」
箒に腰掛けるようにして飛んでいる魔理沙が、親指を立てて話に交じってくる。
「そういえば、具体的に宴会ってなにするんだ?」
「大体が、そうだな……適当に飯食ったり、誰かと話したり……後は酒が定番かな。
俺は飲んだことないし飲めないけどな」
拓人は、酒を飲んだことがない。
法の中に未成年の飲酒を規制しているものがある、という理由もあるが、
ただ単に大人が飲む物だと解釈していたからだ。
まだ両親が生きていた頃などは、
よく二人揃って缶ビールを片手に晩酌していたことを覚えている。
一応、ノンアルコールなら飲んだことがあるが、『アルコール入ってない酒は不味い』
と父は言っており、味もそこまで美味いとは感じなかった。
「おぉ、酒か! 拓人は何で飲まないんだ?
あんなうまい飲み物、一気にのどに流し込めば済む話じゃないか」
「魔理沙、『Don't』じゃなくて『Can't』の方だ」
つい言い返してから気付いたことがある。
昔の癖が出て英語で言い返してしまったが、
この世界に『英語』という概念が存在していない、ということだ。
もし通じることが分かれば、これから先の会話が楽になると思い、
通じることを祈って魔理沙の反応を伺う。
「ん~? ど、どんと? きゃんと?……なんだぜそれ?」
やはり通じなかったようで、首を傾げて聞き返してくる。
その事に残念だと思い肩を落としながら、先ほどの文を言い直す。
「あ~悪い、つい外の世界にいた時の癖が出てさ。
言い直すと、俺は『飲まない』んじゃなくて『飲めない』んだよ」
「どうしてだ?」
「外の世界では、子供は酒を飲んではいけませんよっていう、
ルールみたいなものがあるんだ」
それから、魔理沙と霊夢に『未成年飲酒禁止法』について細かく説明した。
ついでと、酒の主成分から体に及ぼす害についてまで全て話した。
「へぇ~……外の世界って面倒くさいのね」
「確かにな。 でも、こういう決まりがあるからこそ守られる命もあるってことだ」
「酒は自由に飲めないのか。 ここに住んでてよかったぜ」
等々話しているうちに、気が付けば霧の湖の中ごろまでやってきていた。
何気なく辺りを見渡すと、湖が広いのか、はたまた霧が濃いのか、
どこの方向を見ても岸が見えない。
そして、気温がかなり下がってきた。
体を震わせるほどではないものの、鳥肌くらいはたってきている。
「ねぇ、なんか寒くない?」
「どうせチルノが近くにいるんだろ? あいつがいると寒くて仕方ないぜ」
霊夢の問いかけに魔理沙が答えると、霧の奥にうっすらと人影が見えてくる。
左右に三枚ずつの鋭そうな影と、鳥類を思わせる影からして、
どうやらチルノと大妖精が何かしているようだ。
さらに奥にも影が見えるものの、薄すぎて誰なのか判別できない。
大方他の妖精だろう、と考えていると、手前のもあわせて三つの影がこちらに近づいてくる。
「あー! あのときのにんげん!」
最初にチルノの声が聞こえ、続いてそれぞれの影がはっきりと見えてくる。
「お久しぶり……でもないですね。 こんばんは、拓人さん」
「会ったのが昨日だからね。 こんばんは、大ちゃん」
「どこに行くのかー?」
どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきたので、声のする方向を向くと、
ルーミアがぷかぷかと水に浮かぶように飛んでいた。
どうやら、誰かわからなかった影はルーミアだったようだ。
「あぁ、これから紅魔館で宴会開くから、それに行く途中だ」
「えんかい!? あたいもいきたい!」
宴会、と聞いたチルノが目を輝かせてこちらを見てくる。
「駄目だよチルノちゃん、迷惑だよ……」
「え~、なんでよ大ちゃん!」
それから、チルノと大妖精は言い争いを始めるので、こちらはこちらで話を進めることにする。
「どうする? 連れて行っていいと思うか?」
「そうね……拓人がいいなら大丈夫じゃないの?」
「確かに、私も同じだぜ」
質問を投げかけた二人に選択権を渡されたため、顎に手を当ててどうするべきか考え始める。
確かに大妖精の言う通り、レミリアからすると迷惑になるかもしれないが、その他、
特にフランからすればどう思われるのか分からない。
どれだけ頭をひねって予想しようと、興味を示すのか示さないのかすら分からない。
今までフランはずっと一人で生きてきた、いわゆる一年前の拓人とほとんど同じであり、
当然友人などは一人もいないはずである。
そこで拓人は、もしかすると、と考えの方向を少し変える。
チルノはあの大雑把な性格で、深く考えずに大妖精が止めようとしても
フランと話そうとするだろう。
そこで、フランはチルノの事をどう思うだろうか。
少なくとも、悪い印象は持たないはずである。
そのまま二人が仲好くなってしまえば、残りの大妖精とルーミアともすぐに打ち解けるだろう。
自分の周りにいる人には、どんな時でもいつも笑顔を浮かべていてほしい。
その願いは霊夢と魔理沙はもちろんのこと、フランや紅魔館メンバー全員に言えることだ。
自分のような存在にならないためにも、フランに友人の一人や二人は必要だろう。
そこまで約三秒ほどかけて考え、霊夢たちに結果を告げる。
「……まぁ、別に大丈夫だろ。 駄目なら俺が頭下げて頼むし」
「なら決まりだな。 チルノ、ついてきていいってさ」
魔理沙がチルノに話しかけると、体全体で喜びを表しながら口を開く。
「やったぁー! やっぱりだいじょうぶっていったじゃない!」
「でも、迷惑になっちゃうよ……
拓人さん、私達ついていって大丈夫ですか?」
心の底からそう思っている、と思わせるような声で大妖精が問いかけてくる。
「いいよいいよ。 こういうのは、人数が多いほうが楽しいから」
「じゃあきまりね! え~っと、拓人だっけ?
その、えんかいとやらにあんないしなさい!」
「チルノちゃん、言い方が失礼だよ……あと、宴会は場所じゃないよもう……」
大妖精がチルノを叱りながらも、ぺこぺこと腰を折って丁寧すぎる仕草で謝ってくる。
「いいよ大ちゃん、謝らなくても。 それじゃ、行こうかチルノ」
「ルーミアもいってだいじょうぶでしょ?」
「あぁ、もちろん」
一つ頷いて返事をすると、いつの間にか暇そうに周りを見ていたルーミアに呼びかける。
「ルーミア、いくよー!」
「わかったのだー」
ルーミアが返事をすると、こちらにふよふよと近づいてくる。
そろそろ行こうかな、と考えていると霊夢から肩を叩かれるが、何故かその手は震えていた。
「どうした霊夢?」
「チ、チルノのせいで、さ、寒いんだけど……」
先ほどからいろんなことに集中していたせいで気づいていなかったが、
確かに肌寒い気がしていたことを思い出す。
拓人は、外の世界にいるときに公式のキャラ設定などを一度だけ読んだことがある。
その時に『チルノの周りでは気温が下がる』のような記述があったことを思い出す。
これを知っていて、妖精は死なないということを知らないというのは、
全くもって笑い話である、と心の中で自分を戒める。
頭の中で話がそれかかったが、とりあえず能力でこの寒さを消せるかどうか
咲夜と同じように試してみることにする。
宴会中、ずっと寒いままというのは流石に嫌だからだ。
「わかった。 ちょっと待ってくれ」
目を閉じて、能力の使用に集中する。
チルノが冷気を放射しない、といった感じの現象を具現化する。
すると、対象であるチルノが息を荒くしている声が聞こえてくる。
「はぁ、はぁ、あついー、とけるー……」
「チ、チルノちゃん!? 大丈夫!?
拓人さん、チルノちゃんが!」
「ん? チルノがどうした?」
大妖精に言われてチルノの方を見ると、
背中の氷でできた羽が現在進行形で小さくなっているのが分かる。
しかも、どういう原理かは分からないが、体からぽたぽたと雫が垂れている。
直感的にまずい、と思った拓人は、再度能力の使用に集中する。
チルノが暑さで溶けないように、といった具合だ。
数秒ほどすると、チルノから驚きの声が上がる。
「あ、あれ? あつくなくなった……拓人、なにかしたの?」
「わ、悪かったな。 チルノが溶け始めたの、俺の能力のせいなんだ……」
「の、のうりょく?」
「そうそう。 それで、溶け始めたから、もう一回能力使って、
溶けるのを防いだってわけなんだ……ごめんな、チルノ」
そういって、チルノの綺麗な水色の髪を優しく撫でる。
チルノは、顔を赤くしながらも嬉しそうに笑っている。
その様子を見ていたらしい霊夢と魔理沙が、同時に口を開く。
「「変態ね(だな)」」
それを聞いて、チルノの頭から手を放して反論する。
「昨日も言った気がするが、お前らその汚れた考えを捨てろ。
ついでにいうと、これは癖で出たんだ。 俺の意思じゃない」
拓人は、あの時の事件以来友人がいなくなったせいもあり、動物と触れ合うことが多かった。
大体が犬と猫で、いつも頭を撫でることが多く癖になってしまったため、
先ほども無意識にチルノの頭を撫でてしまったのだ。
人間の癖とは、一度ついてしまうと直すのは困難を極めるものだ。
直したくとも直せない、だが、この癖は直そうとは思わない。
ちなみに、先ほど述べた『虚しい内容』というのは、数々の動物とのふれあいである。
そんな拓人の心情を読み取ったのかどうかは知らないが、
霊夢と魔理沙がさらにこちらを畳み掛けてくる。
「だとしたら、やっぱり変態ね」
「だな。 どう転んでも変態は変態だぜ」
「うるさい、お前ら黙ってろ」
無理矢理話を断ち切って、チルノの方へ目を向けると、大妖精とルーミアに何かを話している。
「ねぇねぇ、あたい頭なでられた!」
「いいなぁチルノちゃん……私も拓人さんなら頭撫でてほしいな……」
「チルノ、うれしそうなのだー」
大妖精から何か凄いことが聞こえた気がするが、気のせいだと考えを括って、
話を続けている三人組に話しかける。
「それじゃ、そろそろ行こうか、みんな」
「うん、わかった!」
まだ顔にほんの少し赤みを残したチルノが返事をすると、
またもや後ろの二人から息をぴったり合わせてこちらを罵ってくる。
「「変態がここにいるわ(ぜ)」」
「変態変態って連呼するな!」
霊夢と魔理沙を叱ってから、宴会の開催場である紅魔館へと飛び始めた。
そして時は現在へと戻り、チルノたちを合わせた六人組は、
いつ見ても紅しか見当たらない紅魔館の門前まで来ている。
『六人』組とは言っても、半数は人間ではないのだが。
とりあえず、美鈴にチルノたちを宴会に参加させてもいいかどうか、
と聞こうとしたのだが、どこを見ても美鈴の姿が見えない。
館の中にいるのだろうと思い、両手を口に拡声器のようにあてがって美鈴を呼ぼうとする。
だが、声を出す一歩手前で数メートル先の大きな扉が開く。
出てきたのは、何故かふらふらとしている美鈴だ。
まるで酒に酔ったかのような足取りでこちらに近寄りながら話しかけてくる。
「た、拓人さん……よ、ようこそ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「い、いえいえ……少し、寝不足と言いますか、何と言いますか……」
目の前まで這う這うの体で歩いてきた美鈴の顔をよく見ると、
目の下にはどうやったらそんなに濃く作れるのか、と疑問に思わざるを得ないほど
大きな隈ができていた。
それだけにとどまらず、髪はぼさぼさ、服は皺まみれ、
初対面でここ以外の場所で会っていたらホームレスと見間違うほどの様子だ。
何があったかは敢えて聞かないことにして、さすがに憐れすぎるので、
能力を使って美鈴の眠気、疲労、体力を回復させることにする。
腕を組み、目を閉じて能力の使用に集中する。
最近、能力を使うことが板についてきた気がするが、気にしては負けだ、
と思ったのでスルーしておく。
「あ、あれ? 疲れが……」
「どうです? 楽になりましたか?」
美鈴は何か起こったのかわからない様子で体のあちこちを見ていたが、
こちらの言葉に気づくと、首をかしげてきた。
「あ、あの……拓人さん、何かしました?」
美鈴の言葉で、まだ自分の能力について説明していないことを思い出した。
「あ……すみません、まだ説明してませんでしたね。
私、これでも能力持ってるんですよ」
「え!? 拓人さん、能力持ってるんですか!?」
能力、と聞いた瞬間に何故か目を輝かせ、興味津々と言った様子で詰め寄ってくる。
「め、美鈴さん、近いですよ……」
「あ! す、すみません、私ったら何やってるんだろ……」
幸いすぐに自分のしていたことに気づいたようで、すぐに離れてくれた。
別に迷惑というわけではなく、ただ単に少し驚いたのだ。
しかし、何度も述べているように、拓人は人、特に女性との対話スキルが極端に低く、
こういった少しの事でも緊張してしまう。
相手が咲夜や美鈴みたいな美人ならなおさらだ。
それより、周りにはかなりハイレベルな美人が揃っているのが悪い、
と拓人は勝手に思ったりしたことがある。
拓人は不意の事で少し照れてしまい、美鈴は拓人以上に顔を赤くして、
照れ隠しなのか、頭にかぶっている緑色の帽子を深くかぶりなおす。
しかも、ご丁寧に意図的に顔を見られないようにしている。
この様子をばっちり左右から見ている人物が二人ほどいる。
そして、この二人が人をからかうことが好きなのは、
幻想入りしてからほとんどの時間傍にいるおかげで把握済みである。
そんな二人がこの機会を逃すわけがなく、
「「女たらしね(だぜ)」」
などと不愉快極まりない台詞を、さらに不愉快極まりなく二人同時に言い放ってくる。
「おい、変態の次は女たらしか?
お前らの目には、俺はそんなに汚れた欲望の塊みたいに映るのか?」
「「もちろんよ(だぜ)」」
「ふざけるな! こんなんで変態や女たらしになるなら、
俺のいた世界の男という男は皆そうなるぞ!」
全力で反論すると、霊夢と魔理沙は本気で、意外だと言わんばかりの表情を作る。
「え? 拓人はまだまともなの?」
「……初耳だぜ」
「お前らなぁ、人を舐めるのもいい加減にしろよ!」
そろそろ堪忍袋の緒が切れそうになったころ、美鈴から笑い声が上がる。
「あはははは、なんだか面白いですね」
「こちらとしては少しも面白くありませんけどね……」
そして、拓人は苦笑し、美鈴は小さく笑う。
霊夢と魔理沙も混じって笑っている中、後ろからなにやらひそひそ声が聞こえてくる。
「ねぇねぇ大ちゃん、『おんなたらし』ってなに?」
「……チルノちゃんはまだ知らなくていいことだよ……」
「そーなのかー」
心の中でチルノが変な知識を身に着けるのを防いでくれた大妖精に心の中で深く感謝し、
また霊夢と魔理沙に邪魔されないように話の本題を切り出す。
「それで、どこまでお話ししましたか?」
「えっと、拓人さんはどんな能力を持っていますか、って所ですね」
「あぁ、そうでしたね。
それでは、簡単に説明を……」
もうこれで咲夜、レミリアに続く三回目の説明をする。
いい加減面倒くさくなってきたが、こればかりは自分で説明するほかないので、
考えを表情に出さず、なるべく端折りながら説明する。
「なるほど。 それで疲れとかいろいろなくなったんですね。
お気づかいありがとうございます」
「いえいえ、だいぶお疲れの様子でしたので。 何せ、何でもありな能力ですから。
こんな時じゃないと有効に使えないんですよ」
「「卑怯な能力よね(だぜ)」」
「卑怯言うな。 それと、いちいち声を重ねるな、腹が立ってくる」
霊夢と魔理沙と軽口を叩きあっていると、後ろの霧の湖メンバーから
さまざまな声が聞こえてくる。
「だ、大ちゃん! 拓人ののうりょくがどんなものかわかったのか、
あ、あたいがたしかめてあげるわ!」
「分からないなら初めからそう言えばいいのに……簡単に言うと、
思ったことを本当にする能力だよ」
「わ、わかってるもん! つ、つまり……あたいはさいきょーってことよね!」
「……チ、チルノちゃん、話聞いてた……?」
「きいてないのかー」
おうふ……これが⑨……
拓人は、外の世界でチルノが散々
ちなみに、拓人が⑨という単語を知ったのは、
外の世界で原作プレイに飽きてネットを散策していたときである。
チルノ達の会話は半ば無視し、美鈴に話の本題を告げる。
「あの、それでなんですけど、後ろのチルノ達が宴会に参加したいと言っているのですが、
一緒でも大丈夫ですかね?」
「あ~、それはお嬢様に聞かないとなんとも……
今から聞きに行きますので、少し待ってていただきたああぁぁぁぁ!!??」
美鈴の台詞の最後が盛大に狂ったのは、目の前に咲夜が音もなく現れたからだ。
正直、拓人も心の底からびっくりした。
あまりの一瞬の出来事に反応すらできず、
然るべき反応を見せた美鈴を見習いたいと思ったほどだ。
「さ、咲夜さんですか、びっくりさせないでくださいよ……」
「びっくりするあなたが悪いのよ。 現に拓人様は驚いてないわ」
いや、突然すぎて驚く暇がなかった……
と思ったりするものの、それが拓人の口から出ることはなかった。
「それで、何しに来たんですか?」
「拓人様、お嬢様からそちらの方々の許可は降りております。 ご安心ください」
「ちょ、私は無視ですか!?」
美鈴の問いかけを華麗にスルーして、実に役立つ情報が咲夜の口から出てくる。
「そうですか。 わざわざありがとうございます」
「いえいえ。 これも私の仕事の内ですので」
二人して頭を下げあう。
日本の会社等では当たり前の光景だが、幻想郷では珍しいらしく、
チルノとルーミア以外がこちらに注目しているのが分かった。
「なんかすごいわね……」
「こんなところで頭下げる意味あるのか? 私には分からないぜ」
「これが、日本人の謙遜する美しき心というものだ。
たまにはお前らも見習ってみろ」
これで二人の態度が変わればな、と思いつつ提案をしてみるが、
二人は顔色一つ変えずに口を開く。
「『にほんじん』というのはよくわからないけど、謙遜するなんていやよ。
何で私が相手よりへりくだった言い方とかしないといけないのよ」
「そもそも私の柄じゃないぜ。 面倒くさいし」
この二人の辞書には『謙遜』の二文字はないということが分かり、
予想はしていたものの、少しへこんでしまう。
「……まぁ、そんなことより、こんなところに突っ立ってないで早く入ろう。
咲夜さん、すみませんが案内よろしくお願いします」
「えぇ、分かりました。 それでは、ご案内させていただきます」
「うぅ……私は無視ですか……」
美鈴の泣き出す寸前のような声に皆が苦笑しながらも、
咲夜が歩き始めるので、その場にいる全員が後を追う。
扉をくぐって最初の部屋だが、ここだけでもとりあえず広く、
ここで宴会を開くと言われても不思議ではない程だ。
続いて、まっすぐ歩いて少し大きめの扉をくぐると、長い廊下が目に飛び込んでくる。
うんざりするほど長く、突当りなどはもうかすんで見えない。
「うわぁ……初めて入ったけど、広いねチルノちゃん……」
「ふ、ふん! こ、これぐらい、あたいわかってたもん!」
「うそなのかー」
ルーミアから的確な突っ込みが飛んでくると、チルノは恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。
その光景に微笑を浮かべながらも、長い廊下を歩いていく。
三分の二ほど歩いたところで、咲夜が不意に歩みを止める。
「どうしました?」
「拓人様……どうかお気をつけて」
「は、はい?」
咲夜に問いかけるが、その質問に咲夜が答えることはなかった。
なぜなら、
「拓人~~~!!!」
問いかけた瞬間に、フランがどこからともなく猛スピードで突っ込んできてきたからだ。
残像さえ置き去りにするほどの速さで駆け寄り、
一回瞬きをする間だけでかなりの距離を詰めてきていた。
「うわっ!?」
驚きの声を上げながらも、反射的に霊力の壁を体の前に築く。
そして、築いた瞬間にフランがスポーツカーに負けず劣らずの速さで拓人の体に触れる。
「ふんぬううぅぅぅぅ!!!」
どこかで聞いたような台詞を口にしながらも、フランの突進の威力でどんどん後ろへと、
足元で物凄い音を出しながら後退していく。
あ、あぶねぇ……あと少し遅れてたらまたパチュリー行きだった……
そんなひやひやとしたこちらの考えはお構いなしで、
フランは両腕を体に回して抱き付いてくる。
「拓人、昨日どこにいたのよ!?」
「い、いや~、昨日は霊夢に流されてそのまま神社に帰っちゃってさ……」
あはは、とぼりぼり頭を掻いていると、フランが不満の声をもらす。
「もう! 今日はずっと傍にいたもらうんだから!」
「わかった、わかったよ。
それより、早く部屋まで行こう、な?」
そういって、フランを体から離そうとするが、当の本人は頭を横に振る。
「抱っこして!」
「……はい?」
「抱っこ! いいから、早く抱っこして!」
おいおい、難易度高いぞこれ……
別にフランを持ち上げることが難しいというわけではなく、
心理的ハードルが高いというわけだ。
一番の原因としては、これ以上霊夢と魔理沙から『変態』
だとか『女たらし』と呼ばれたくないからではあるが。
「い、いや~、そうするとフランのお姉さんがなんていうか……」
「いいもん! お姉様に見せつけるんだもん!」
おいおいフランさん、俺を殺す気ですかい……
どうやら、無邪気で愛くるしい笑顔を振りまいている目の前の少女は、
自覚なしに何の変哲もない一人の少年を殺そうとしているようだ。
しかも自覚がないので、霊夢たち同様に怒ることができない。
「は~や~く~!」
……ごめんパチュリー、またお世話になりそうだ……
心の中で先にパチュリーに謝っておき、腹をくくってフランを抱きかかえる。
だが、わがままな少女は少し不機嫌な様子だ。
「どうしたフラン、まだ何かあるのか?」
「お姫様……抱っこ……」
……人生は投げ捨てるもの。 多分そうなんだ……
この数十秒間のやり取りで、命の重みが消えてしまったかのような感覚に襲われ、
半ばやけくそ状態でフランをお姫様抱っこする。
これでやっと腕の中の少女は満足な笑みを浮かべてくれた。
呑気に眺めている暇がないのは残念である。
後退した数十メートルを一歩一歩踏みしめながら歩いていき、
ものの十数秒で待ってくれていた霊夢たちと合流する。
「「……ココニヘンタイガイルワー(ゼー)」」
「おい、棒読みでいっても無駄だ。 寧ろ余計に腹が立つ」
そして、いつものように二人を叱り、咲夜に案内を再開してもらうように頼んだ。
その時に浮かべていた咲夜の苦笑が、拓人の心を抉ったのは言うまでもない。
二~三分ほど歩くと、ようやく目的の部屋にたどり着いたようで、
咲夜が立ち止まり、コンコン、とノックする。
「咲夜です。 拓人様達をお呼びしました」
『入って』
「失礼します」
レミリアの即答の後に、咲夜が一際大きな扉を開ける。
咲夜の後を追って入ると、どうやらこの部屋は、レミリアと初めて話し合った部屋のようだ。
しかし、最初のような暗くて冷たい印象は消え失せ、
代わりに蝋燭が生み出す温かい光が元の印象を塗り替えている。
そのほかにも、物凄く長いテーブルが二×三列ほどあり、
その上には絢爛豪華な料理の数々が並んでいる。
『量より質』ではなく『質も量も』といった感じの料理だ。
そして、そんな広大な部屋の真ん中に、一人立っているレミリアの姿が目に入る。
「ちょっと咲夜、少し遅いんじゃない?」
「申し訳ありません。 道中いろいろありまして」
「まぁいいわ。 さぁ、早く宴会を始……め…………」
レミリアが話す速度を急速に低下させたのは、
もちろんのこと、拓人にお姫様抱っこされているフランを見たからである。
殴られるであろうことは予想済みなので、
道中で体中の至るところへ霊力の壁という壁を作りまくって準備万端である。
おまけに、能力を使って体の耐久力を人間の限界まで引き上げておいた。
だが、過剰なまでの拓人の準備は必要なさそうだった。
なぜなら、以前は明らかに見せていた殺気が、今は一切感じ取れないからだ。
「フ、フラン! そ、そこ、ちょっと私と代わ……じゃなくって!
い、今すぐ拓人からお、降りなさい!」
何故か顔を真っ赤にしながら叫ぶレミリア。
いつぞやのカリスマなどは微塵も感じられない叫びだったが、
妹には効果があったらしく、フランはあからさまに嫌がる表情を作る。
「ねぇお姉様……羨ましいでしょ?」
だがフランは、多分本人は知らないであろう、完璧なドヤ顔を決めて姉へ言い放った。
やめて! 死んじゃう! 死んじゃうからやめてー!
フランの火に油を注ぐ様な発言に対して、内心そう叫ぶがもう手遅れである。
妹からドヤ顔を決められた姉はと言うと、さらに顔を赤くして言い返す。
「う、羨ましいに決ま……じゃない、ぜ、全然、これっぽっちも羨ましくないわよ!
そうよ、決して羨ましいわけじゃ……羨ましい……わけじゃ…………」
文末へと近づくにつれ、段々としゃがみはじめ、遂にはほぼ体育座りの状態になってしまう。
もうこれ以上話を続けられないし、続ける必要性も見つからないので、
フランに話を切り出す。
「……とりあえず、正式に宴会開きたいからさ、少し降りてくれないかな?」
「…………」
できるだけ真剣な表情を作って話しかけたのが幸いしたのか、
不満そうな表情を浮かべながらも、一つ頷いて降りてくれた。
数分間だが続いた腕への負荷がなくなり、急に軽くなったような感覚が腕全体を包み込む。
とりあえず、フランに言ったとおり、宴会の開催、すなわち『乾杯』をすることにする。
その前に、まだ全員そろっていないようなので、確認をする。
「咲夜さん、パチュリーさんとこぁさんは?」
「私達なら、ここにいるわ」
声がした方向を向くと、そこにはいつの間にかパチュリーと小悪魔がいた。
これで全員そろったので、いよいよ乾杯へと移る。
「咲夜さん、全員にお酒を渡してもらえますか?」
「畏まりました」
咲夜が一礼すると、無駄のない動きで全員にグラスを配り、
恐るべき正確さで全員の量をそろえながらワインを注いでいく。
レミリアにグラスを渡すときに、まるで母親のようになだめる咲夜を見て、
チルノとルーミア以外が苦笑したのは、また別のお話である。
ワインか……まぁ、酒飲めないし一緒か。
細かいことは気にしないことにして、一応初めての事だと思うので、全員に軽く説明する。
「え~、これから、宴会の開始の行事をさせていただきます。
まず、皆さんが持っているグラス。
私が『乾杯!』と言ったら皆さんも一緒に言っていただいて、
グラスを高々とワインがこぼれないように突き上げてください。
チルノ、分かったか?」
「あたい、それぐらいわかるもん!」
言葉に揺らぎがないことから、どうやら本当に分かったようだと分かり、ほっとする。
これで、準備万端だ。
「それでは……」
皆がグラスを突き上げる準備をするのを確認して言葉を続ける。
「皆さんとの出会いを祝して……乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
こうして、全員の掛け声と同時に、楽しい楽しい宴会が始まるのだった。
え~、今回いろいろとやってしまいました(本編ではありません)。
本来はチルノ達との合流シーンは短くする予定だったのです。
後半のフランの突進も予定になかった出来事だったのですが、
どうしてか、書かずにはいられなかったのです。
これの関係で、パチュリーと小悪魔の所は超適当になってしまい、
もう少し細かく書いたほうが……と思ったりしています。
いろいろありまして、今回は今までで最多の一万千(11000)文字越えです。
私にとって、上限なんてあってないようなものになってしまいました……
次回で宴会を終わらせる……予定です。
挿絵は……まぁ、次の次になりそうですが、なんとか無理矢理にでも載せたいですね。
長い後書きも最後となりました。
皆さん、今回の拓人君のように、人生を投げ捨てかけたりしないように。
それでは、次回またお会いしましょう!