東方壊命録   作:鼠返し

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 皆さん、明けましておめでとうございます! 鼠返しです!

 いや~、前回を書き終わった時には投稿するつもりはなかったのですが、
またもや用事がありまして、こうやって投稿した次第です。

 挿絵のことなんですが、滝村氏が、

「カラーでもいいぞ」

 と言ってくれたので、次回に載せようと思っております!

 今回もタイトル詐欺みたいな感じですので、お気を付けて。

 ついでですが、お正月要素なんか一切ありませんので、そちらもお気を付けて。

 それでは、第十八話本編をどうぞ!


第十八話 レミリアの想い

「ふぉ(そ)れ(れ)へ(で)、ふ(フ)ら(ラ)ん(ン)は(は)ふ(ず)っ(っ)ほ(と)ほ(こ)ほ(こ)に(に)ふ(す)ん(ん)へ(で)ふ(る)ほ(の)?」

 

「もうチルノちゃん、食べるか話すかどっちかにしようよ……」

 

 チルノが料理を頬張りながら話すのを、大妖精が律儀に叱りつける。

 

 美鈴と共に拓人から離れ、現在はチルノたちと自己紹介を交わし、

少し自分の事について述べたところだ。

 

 チルノの話し方に、本人と大妖精以外が小さく笑う。

 

「うん、そうだよ……もう、500年近いかな……」

 

「500年!?……それって、すごいの?」

 

 チルノの発言に、その場の全員が苦笑する。

 

 話がいいところで切れたので、勇気を出して質問する。

 

「そ、それより……チルノちゃんの話も……聞きたいな」

 

 何とか出せた質問だが、不安が残る。

 

 今まで話したことがある人物は少なく、今まで地下で暮らしていたため、

うまく話を切り出せたかどうか分からない。

 

 しかし、そんな心配は無用だと言わんばかりに、チルノは両手を頭の後ろに組んで考え始める。

 

「あたい? あたいは……いつうまれたのかわからないし、

 うまれてからずっとてきとうにあそんでる!」

 

「いいなぁ……私も遊んでみたいなぁ……」

 

 独り言のように愚痴ると、隣にいる美鈴から声がかかってくる。

 

「大丈夫ですよ妹様。 今の妹様なら、お嬢様も許してくれますよ」

 

「ほんと?」

 

「私には断言できませんが……多分大丈夫ですよ」

 

 はっきりとしない言い方だったが、なんとなく安心感が湧いてくる。

 

 ほとんど初めて感じたといっていい感情だ。

 

 拓人が、無限に続くとさえ思った地獄を終わらせてくれてから、初めてのことだらけだ。

 

 裏の人格だったとはいえ、本気で戦い、その最中で楽しさを感じ、

負けてからは悔しささえ感じた。

 

 あの時、拓人が人格を消してくれている間、初めて自分の中に潜んでいた『彼女』と会話した。

 

 『彼女』は消える前、こう言い残して消えた。

 

 『もう、私の役目は終わり。 これからは、あなたが頑張る番。

  これから、辛いことや苦しいこともあるだろうけど、あなたならきっと大丈夫……

  ありがとう……頑張ってね、『私』……』

 

 今思うと、これまでの苦痛は全て『彼女』が受け止めてくれていたと思える。

 

 そんな『彼女』は、もういない。

 

 自分が全てを行い、受け入れていかなければいけないことに、最初は不安を覚えたが、

拓人が戦う前や、その最中、終わった後にも言ってくれたのだ。

 

 『俺が一緒にいてやる』と。

 

 いつも、とはいかなかったが、レミリアと話し合った時はいてくれなければ話せなかったし、

今こうしてチルノたちと話すこともできなかっただろう。

 

 あの時だろうか、パチュリーから借りた本に書いてあった『キス』というものをした後。

 

 初めて、『恋』という感情を覚えた。

 

 その感情があるからこそ、当初の不安は消え、前向きに生きていこうと考えている。

 

 しかし、今こうやってチルノたちと話しているだけでも、上手く話せるか不安で仕方がない。

 

 次は何を話せばいいのか、と考えていると、どこからか苦しそうな声が聞こえてきた。

 

『ごばぼっ、ばば、ばぼぼごぼばぼぼぼ!!!』

 

 聞き覚えのある声に自然と体が反応し、聞こえてきた方向へと体が動く。

 

 遠くも近くもないところで、拓人がワインが入っているものを口に入れられ、

必死に逃げようとじたばたしている光景が目に入る。

 

 やがて、ぶんぶんと振り回される両手と両足が力を失っていき、

口から引き抜かれる時にはピクリとも動いていなかった。

 

 あの二人組がさらに新たなワインへと手を伸ばしていると、咲夜が割って入り、

拓人を無理矢理二人から引き離す。

 

 そのまま咲夜は拓人を背負い、廊下へ向かって歩いていく。

 

 後についていきたいと思い足が勝手に前に出るが、すぐにその場にとどまる。

 

 折角拓人がくれた、チルノたちと仲良くするチャンスを無駄にしないためにも、

精一杯の勇気を振り絞って話しかける。

 

「チ、チルノちゃん……」

 

「ん? なに?」

 

「また、一緒にお話したいな……あの、だめ、かな?」

 

 恥ずかしくて途中から俯いてしまったが、最後まで言い切れた。

 

 言い切ってからチルノの返事が返ってくるわずかなはずの時間が、すごく長く感じられる。

 

「なんだそんなこと? もちろん、あたいはいつでもいいよ!」

 

 断られるのでは、という心配は杞憂だったようで、

笑顔を浮かべながらチルノは快く返してくれた。

 

「あ、ありがとう! 楽しみにしてるから!」

 

「わかった! じゃあね~!」

 

 チルノと合わせてルーミアと大妖精も手を振ってくるので、こちらも手を振る。

 

 それから、咲夜が歩いて行った方へと体を向け、走るのがもどかしく空中へ浮かび、

部屋の扉まで飛んでいく。

 

 ほとんど体当たりと言っていい具合に開けて廊下に出て左右を見渡すと、

拓人を背負っている咲夜の姿が見えるので、走って追いかける。

 

 足音に気づいたようで、咲夜がこちらへと振り返る。

 

「どうかしましたか、妹様」

 

「拓人、どうしたの?」

 

「あの貧乏巫女と泥棒魔法使いに無理矢理ワインを飲まされて酔いつぶれたようです。

 しかし、拓人様になんて失礼なことを!……今度会ったらナイフで串刺しに……」 

 

 話している途中から、段々と言葉に殺気が混じり、顔もかなり暗くなり始めた。

 

「咲夜、どうしたの?」

 

「あ、いえいえ、つい本音が出てしまいました……」

 

 小さく咲夜が笑うと、前を向いて歩き始める。

 

 咲夜の横に並んで、何気なく顔を覗いてみると、ほんの少し頬を赤く染めていた。

 

「ねぇ、顔赤いよ?」

 

「だ、大丈夫です、何でもありません……妹様、少し聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「うん、いいよ」

 

 咲夜の質問にそう答えると、深呼吸を一回して話しかけてくる。

 

「……拓人様のこと……好きですか?」

 

 意外な質問が咲夜の口から出てきた。

 

 とっさに意味を理解できなかったが、少し時間を使って理解して返答する。

 

「……うん、好きだよ。 だけど……」

 

 確かに、拓人の事は好きなのだ。

 

 しかし、ただ単に好きだというわけではない。

 

「だけど、なんだろう……お姉様や咲夜とは違った感じがするの。

 考えてると、胸が締め付けられるような……でも、苦しくない、不思議な感じ……」

 

「そう、ですか……」

 

 そういうと、器用に片手と重心操作のみで拓人を背負いながら、ドアノブへと手をかける。

 

 どうやら、いつの間にか部屋についたようだ。

 

 ガチャリ、と軽い音と共に部屋の内側へと扉が開き、中へ咲夜が入っていく。

 

 フランも後に続いて部屋に入る。

 

 そこは、真ん中にとても大きなベッドが一つあるだけで、

他には少し大きめの窓があるくらいの簡素な部屋だ。

 

 ベッドへ咲夜が歩み寄り、器用に片手だけでかけ布団をめくり、拓人を降ろして横にする。

 

「さ、妹様、部屋へ戻りましょう」

 

 いつもなら、咲夜の言うことにしたがって部屋に戻っているところなのだが、

咲夜からあの質問をされた後から、拓人の事ばかりが頭をよぎる。

 

 少し後ろめたい気持ちもあるが、咲夜に嘘をつくことにする。

 

「だ、大丈夫。 自分で戻るから……」

 

「そうですか。 それでは、私は片づけをしていますので、用がありましたらお呼びください」

 

 そう言って咲夜は部屋を去ると、部屋にいるのはいびきもかかずにすやすやと眠る拓人と、

未だ気づかないが心臓が高鳴っているフランだけになる。

 

 先ほど咲夜に嘘をついた理由は、拓人を独り占めするためだ。

 

 ベッドに上がり、布団に潜り込むようにして拓人の隣にぴったりとくっつく。

 

  あったかい……

 

 ついでと、両腕で拓人の左手にも抱き付く。

 

 すると、少し邪魔だったのか、寝返りをうってそっぽを向いてしまう。

 

 寝返るときに離れてしまった両手を、今度は胴へと持っていき、しっかりと組む。

 

 右手が拓人とベッドに挟まれるが、ベッドが柔らかいおかげで痛みはない。

 

 そして、さらに自分の胸を拓人の背中に密着させる。

 

 少し酒臭くはあったが、今のフランは気にも留めなかった。

 

「独り占め、できた……」

 

 無意識に、口から声が漏れる。

 

 そのことに気づかず、さらに口は動く。

 

「今日はずっと、傍にいてもらうんだから……」

 

 両腕に力を込め、拓人の体にさらに強く自分の体を押し付ける。

 

 さすがに本気で抱きしめると死んでしまうので、手加減はしているが。

 

 しばらくの間、拓人の温かみを体感していると、段々と眠くなってきた。

 

 本来、吸血鬼は夜行性の妖怪だ。

 

 昨日は宴会の前まではレミリアと一悶着あったが、昼間はぐっすりと寝ていたのに、

なぜこんな真夜中に眠くなるのか分からなかった。

 

  ……このまま寝ようかな…… 

 

 そう思い、まだ軽く感じている瞼を閉じる。

 

 視界が黒で覆われると、いつの間にか高鳴っていた心臓の鼓動が聞こえてくる。

 

 普通こんな状態で寝れるはずはないのだが、なぜだか段々と眠気は大きくなる一方だ。

 

 そんな不思議な感覚に襲われながらも、フランは心地よい闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、体の感覚が甦ってくる。

 

 重力の掛かり方からして、横になっているようで、体に触れているものは何故か柔らかい。

 

 とりあえず目を開けてみるが、視界に入ってくるものは暗く、肉眼ではあまり確認しづらい。

 

 体を起こそうと思ったのだが、頭が少し痛いことに気づく。

 

 殴られたような痛みではなく、頭の中心から外側へ圧力がかかっているような感じだ。

 

 どうしてこうなったのか、横になったままで思い出していくがあまり鮮明に思い出せず、

霊夢に何かを口に突っ込まれた、というところで記憶が途絶えている。

 

 昨日は宴会ということもあって、先ほどの記憶の断片を頼りに考えると、

今のこの症状は簡単に推測できる。

 

  ……二日酔い、か……

 

 初めて酒を飲んだ時に二日酔いをするとは思っていなかったが故に、軽い後悔の念に駆られる。

 

 今は亡き父からも、

 『初めのうちは酔いやすいし二日酔いもひどいから、あまり一気に飲むなよ。 

  父さんはそれでぶっ倒れて、爺ちゃんと婆ちゃんに怒られたからな』と言われていた。

 

 本当に不可抗力というものは恐ろしい、としみじみと思いつつ、

頭痛に耐えながら体を起こす。

 

 だが、不意に何かに引っ張られるような感じがして、再度体を横にする。

 

 背中側に違和感がしたので、その場で百八十度回転する。

 

「っ!?」

 

 思わず息を飲んでしまった。

 

 なぜなら、目の前にすやすやと、とても気持ちよさそうに寝ているフランの顔があったからだ。

 

 よくよく見てみると、フランの両手はしっかりと拓人の胴体に巻かれていた。

 

  これじゃ起きれねぇよな……

 

 などと呑気なことを考えていると、意外と大きな窓から月明かりが差し込んできた。

 

 これ幸い、と横になっている状態で周りを見渡して状況を確認する。

 

 フランがいることから、ここは紅魔館のどこかの一室。

 

 そして今寝ているのは、外の世界のダブルベッド顔負けの広さのベッドに、フランと二人きり。

 

  ……ん? 二人、きり……?

 

 酔っていて記憶が曖昧なのは理解できる。

 

 だが、問題は『二人きり』というところだ。

 

 どうしてこうなったのか、また、二人きりで何があったのか。

 

  ま、まさか……!?

 

 考えていると、最悪の事態が思い浮かんだ。

 

 急いで上になっている右手を下半身へと持っていき、ズボンを履いているかどうかを確認する。

 

 幸い、というべきかちゃんと履いており、服に乱れた様子はない。

 

 酔った勢いでやってしまった、ということになれば、

レミリアに殺されてしまうということは容易に想像できる。

 

 仮に殺されなかったとしても、小さな村の噂話のような速さで知れ渡ってしまい、

周りから痛い視線を物理的に穴があくほど浴びせられるだろう。

 

 とりあえず最悪の事態の回避には成功した。

 

 次に、この状況をどうにかすることに考えが傾き始める。

 

 この、『フランに抱き付かれ状態』をなんとかしなければ、自分の行動も制限されるばかりか、

いつか誰かが部屋に入ってきて誤解を生むことは確実だ。

 

 そのいつかが分からず怖いので、フランを起こさないように結ばれている手をほどこうと、

一番ほどきやすそうな人差し指に触れる。

 

「だ……めぇ……」

 

 ギクゥ!と実際に音がするほど驚いた。

 

 恐る恐るフランの顔を覗くが、瞼は閉じたままで、規則正しい寝息を立てている。

 

 ほっ、と安堵の溜息をもらす。

 

 再度、細心の注意を払いながらフランの手をほどこうとする。

 

 だが、ここにきて、部屋の扉がわずかな音を立てながら開く。

 

 そして、入ってきたのは、

 

「た、拓人?……は、入るわよ……」

 

 何故かかなり露出度の高い服を着た、恥ずかしそうに胸に手を当てているレミリアだった。

 

 普通なら、レミリアの格好に心拍数を速めているところだが、

今はそれどころではなく、命の危険を感じて心臓が高鳴り始める。

 

  やばいやばいやばい! どうするどうする!?

 

 表情には出さずに、頭の中で絶望的状況を打破する対策を練りながらレミリアに返事を返す。

 

「え、えぇ、どうぞ……」

 

「あ、起きてたのね……寝てるかと思ってたわ」

 

「ついさっきまで寝てましたけどね……それで、何の用ですか?」

 

 それを言うと、レミリアはもじもじとしながらやっと、といった様子で口を開く。

 

「い、いろいろあるけど……話し相手に、なってほしくて……その……」

 

 最後まで言い切らないうちにもじもじとしてしまったが、

拓人は頭の隅でガッツポーズを決めていた。

 

 話をすると言うのならば、この部屋から出て話すと考えた方が自然だ。

 

 それを理由にして部屋を出れば、フランからは離れられてレミリアに殺されることもなく、

誤解が起きる心配をする理由もなくなる。

 

「わかりました。 他の部屋で話しましょう」

 

 そう言って、フランの組まれている手をほどく。

 

 レミリアと話している間何もしていなかったわけではなく、

ばれないように片手で着実にフランの手を解いていたのだ。

 

 我ながら素晴らしい指裁きだ、と心の中で自画自賛しながらも、

実に自然な動きで、フランが見えないように掛け布団で隠しながら上体を起こす。

 

 だがしかし、

 

「だ、大丈夫よ! この部屋で、話したいの……」

 

 自信たっぷりだった急ごしらえな作戦は、この一言で水泡に帰してしまった。

 

 落胆している暇はなく、次なる作戦を考える。

 

  そうだ! 椅子に座って話せれば……!

 

 ベッドには近づけない、そしてレミリアからの要求も呑める、まさに一石二鳥な作戦だ。

 

 さっそく実行に移そうと、そこまで大きくない部屋を見渡すが、

部屋に置いてある家具はこのベッドのみだったので、泣く泣く策は没にする。

 

 続く策を考えるのだが、部屋に何もない以上、頼れるのは己の話術のみ。

 

 しかし、外の世界ではろくに話もしなかった日々が一年近く続き、

ひどい時には丸三ヶ月一言も口から出なかった時があったのだ。

 

 がちがちの表情筋だけで隠せる考えというのも限度があるため、

あまり無茶な話を持ち出すと感づかれる可能性がある。

 

 ましてや相手は夜の帝王とも呼ばれる吸血鬼だ。

 

 生半可な小細工が通用するとは思えないが、この状況を打破しない限り、

拓人の幻想ライフは終わったも同然である。

 

 ここまでを部屋をきょろきょろと見わたす時間を含めて約三秒。

 

 とりあえず思いついた策は、これしかなかった。

 

 すなわち、『フランの存在を隠し通す』ことだ。

 

 できるできない、の問題ではなく、生きるためにはやるしかないのだ。

 

 そんな大げさな言い訳を自分にして腹をくくり、話を進める。

 

「ま、まぁ立ち話もなんですし、座って話しませんか?」

 

 そういってベッドの端に座り、自分の隣を譲る。

 

 掛け布団の不自然な膨らみが分からないように、自分の体を使って隠すことを忘れない。

 

 感づかれなかったようで、一つ頷いて左隣に腰掛ける。

 

「それで、何を話しましょうか」

 

「……いろいろ、あるのだけれど……一つ聞きたいの。

 あの時、『私は……』って言ってたわよね……なんて言おうとしたの?」

 

 一瞬何の事かわからなかったが、魔理沙に邪魔された時の事だとすぐに思い出す。

 

「あの時ですか……私は……『残念ですが、遊びで人を好きになったりしません』」

 

「……え?」

 

 レミリアが小さく驚愕の声を上げるが、構わずに話し続ける。

 

「人を好きになる、というのは、決して軽い気持ちでしてはいけないことだと思っています。

 レミリアさんとは、会ってからまだほんの数日しか経っていません。

 もしかすると、一時の気のゆるみからくる錯覚かもしれないという可能性もあります」

 

「そ、そんなこと……!」

 

 いきなり、レミリアはこちらに身を乗り出し、左手を掴んでくる。

 

 その手は温かく、何故か湿っていた。

 

 なぜだろう、と考えていると、握られている左手に雫が落ちてくる。

 

 いつの間にか俯いていた顔を上げてレミリアの顔を覗くと、泣いていた。

 

「そんなことない! 私だって、遊びで好きになったりしない!

 確かに、最初はあなたなんてただの人間だとしか思ってなかった……だけど、

 あなたは大切なことを教えてくれた。 私も、フランも助けてくれた。

 気づいたの……今まで何百年と生きてきた私の初恋は、あなたなのよ!」

 

 レミリアは大量の涙をベッドに落としながら、胸元へと体を預けてくる。

 

「あなたがいないと……私は……私は……!」

 

「人の話は、最後まで聞いてください」

 

 話の途中だが、何か盛大な勘違いをしているようなので、割り込ませてもらうことにした。

 

 どうやらこちらの服を強く握る代わりに、反論する意思を抑えたようだ。

 

「私も、恋なんてしたことないので大層なことは言えませんが、恋というものの本質は、

 まず初めにお互いの事をよく知り、その上でより深くお互いを求め合うことだと思うんです。

 何かを知るためには時間がいります。 私たちはまだ、時間が足りないんです。

 もっと、お互いの事をよく知ってからでも、遅くはないはずです。

 それまでは、明確な返事は出せませんよ」

 

 そこで言葉を切り、未だ動かないレミリアを抱きしめる。

 

 自分でも驚く行為だったが、何故かしなければならない気がした。

 

「もう少し時間を重ねてから、改めて返事をします。 その時まで、待っててください」

 

「私が、嫌いじゃないの……?」

 

「嫌いだなんて、私は一言も言ってませんよ」

 

 その言葉を境目にして、こちらからすると気まずい沈黙が訪れる。

 

  ……なんか語ってた……めっちゃ恥ずかしい……

 

 偉そうに『恋』について語るなど、穴があったら入って、

入口を永遠に閉ざしてしまいたいほどの行為だ。

 

 とりあえず沈黙を破りたいがために、適当な話を切り出すことにする。

 

「あの、気になったんですが……なぜにそのような服を?」

 

「……あ……え~っと……」

 

 レミリアは少し考えた後、

 

「…………!」

 

 いきなりベッドに押し倒してきた。

 

「レ、レミリアさん……?」

 

 体は密着しており、お互いの顔は目と鼻の先だ。

 

「お願い…………夢、見させて」

 

「ゆ、夢? それって、なんの」

 

 言い切る前に、レミリアは強引に唇を奪ってきた。

 

「っ!?」

 

 唐突の出来事に驚いて反射的に逃げようとするが、レミリアは逃がしてくれない。

 

 時間にすると五秒ほどだったが、拓人には何分もの長い時間に感じられた。

 

 唇を離してからの仕草といい反応といい、流石姉妹というべきか、

フランとほとんど一緒だった。

 

「一体、どうしてこれを知って……?」

 

「……パチェが……してあげたら、喜ぶって言ってたから……」

 

「……もしかして、その服も……?」

 

 簡素な問いに、レミリアは首を縦に振る。

 

  パ、パチュリイイイィィィィィィ!!!???

 

 これで、レミリアがこんな服を着ている理由や、キスというものを知っている理由が分かった。

 

 すべて、パチュリーと小悪魔が仕組んだことなのだ。

 

  は、はめられた……!

 

 そう思いつつも、目に見える範囲で部屋中を見渡すが、どこも観察できるような所はない。

 

 大方、便利な魔法でも使っているのだろう。

 

 脳裏に、パチュリーと小悪魔が盛大ににやにや笑っている姿が思い浮かぶ。

 

 怒りよりまず恥ずかしさがこみあげてくるが、何かが吹っ切れたようで、

逆に冷静になることができた。

 

 もう何も話す気力がなかったので、レミリアが話し始めるのを待つ。

 

 しばらくすると、期待通りにレミリアの口が開く。

 

「ひ、一つ気になったんだけど……なんで、フランの時と話し方が違うの?」

 

「成り行き上、そうなっただけですよ」

 

「…………にも」

 

 声が小さく、聞き取ることができない。

 

「……はい?」

 

「私にも……同じように、話して……」

 

「……いいんですか? 名前も呼び捨てですし、性格も若干変わりますよ?」

 

「いいの! それでも、いいの……」

 

 拓人は、相手との関係によって口調を変えているのだが、変わり方が普通の人より激しい。

 

 一人称が、『私』から『俺』に変わり、名前は呼び捨てになり、

性格も丁寧な時より約二~三倍ほど荒ぶってしまう。

 

 中学一年の頃などは、『猫かぶりの達人』と呼ばれたほどだ。

 

 話がそれたが、レミリアにここまで言われてしまっているので、仕方なく口調を変える。

 

「はぁ……こんな感じだけどいいのか、レミリア?」

 

「ふふっ……なんだか新鮮ね」

 

 やはり、無理矢理変えろと言われて変えると、違和感だらけの感じがしてならない。

 

 レミリアの『新鮮』という微妙な判定にどう返せばいいのか分からないでいると、

更なるお願い事をしてくる。

 

「なんだか疲れたわ……一緒に寝てくれない?」

 

 そういいながらも、レミリアはすでに掛け布団へと手を伸ばしている。

 

  あ、まずい……

 

 と思ったものの、時すでに遅く、次の瞬間には掛け布団はめくられていた。

 

 当然、レミリアの視界に映るのは、気持ちよさそうに寝ているフランの姿である。

 

「フ、フラン!?……拓人?」

 

 驚きの声を上げた次に投げかけられた呼びかけの声は、とてつもなく低かった。

 

「……なんでフランがここにいるの?」

 

「……気が付いたら傍で寝てました」

 

「フランに何かしたの?」

 

「いえ、全く、一切、何もしてません……」

 

 レミリアの質問攻めにあうたびに、視線は鋭く、声も段々と低くなっていく。

 

 だが、すぐにその強烈な威圧感を込めた視線はなくなり、

変わりに何かを見つけたような表情に変わる。

 

『フランだけずるいわ……』

 

「え~っと……何か言いましたか……?」

 

「な、何でもないわ!……とにかく、まず横になって!」

 

 聞こえなかった言葉に対して質問するも軽く流され、

そのままの勢いで言うことに従ってしまう。

 

「こ、こうですか……?」

 

「話し方が戻ってるけど……それでいいわ」

 

 そういうと、レミリアもベッドに横になる。

 

 掛け布団を丁寧にかけ、そして、

 

「ちょ、こ、これは……」

 

 体を少し前のフランを再現するかのように、胴体に腕を回して密着させてきた。

 

「きょ、今日だけ……こうさせて」

 

「わかりました……」

 

「……話し方」

 

「……わかったよ」

 

 もう抵抗する気力さえ失せてしまったので、レミリアの言うことに従う。

 

 こうして見ると、抱きつき方はフランと全く一緒だ。

 

 やはり、何十年何百年と離れていたとしても、

今両隣で寝ている吸血鬼は姉妹なのだということがわかる。

 

  姉妹……妹、か……

 

 昔に殺された妹の姿が脳裏に浮かぶ。

 

 あの時は、自分が無力だったが故に、目の前の大切な存在が消されてしまった。

 

 今は、能力のおかげかもしれないが、大切な何かを守れる程度の力はある、と思っている。

 

 いつの間にか、この幻想郷で出会った人全てが、拓人にとって大切なものになっていた。

 

 自分が生きている限りは、守られることが多いだろうが、

その分だけ守ってあげたいと思っている。

 

 そんなことを考えていると、寝ているフランが左腕を両腕で掴んでくる。

 

 よくよく考えてみると、これは『吸血鬼サンド』状態だ。

 

  明日……大変そうだな…………

 

 そんなことを考えながら、吸血鬼姉妹に挟まれて窮屈な布団の中で一夜を過ごす拓人だった。




 ……いや、反省はしてるんですよ、反省は。

 やってしまった感が半端ない十八話でした。

 友人であり、挿絵を書いていただいている滝村氏曰く、

「このロリコンが!!!」とのことです……

 ……仕方ないんですよ、紅魔郷にはそういうキャラしかいないからでして、
妖々夢まで行けばちゃんとピンクの悪魔とかBB(ピチューンも書きますから(?)!

 まぁ、いろいろありましたが、次回はもっと話を進めていきます。

 滝村氏の挿絵も載せますので、楽しみにしておいてください!

 それでは、皆様よいお年をお過ごし下さい!
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