今回は、九千文字越えと長めになっております。
自分でもびっくりです。
それでは、急展開・誤字脱字・残酷描写に耐えられるという方はどうぞ。
巨大蜘蛛と戦って肋骨を二~三本程折ってしまった拓人は
霊夢の背中に乗せてもらい、博麗神社についた。
「着いたわ。
ここが私の住んでる博麗神社よ」
「へぇ、ここが博麗神社か。
・・・意外ときれいだな」
ちゃんと手入れされている綺麗な庭に、
多少傷が付いているもののちゃんとした賽銭箱。
そして、その奥には神社でよく見かける大きな鈴。
全体的にみて一人でやっていることを見ると綺麗な神社だった。
てっきり霊夢の性格からしてもう少し汚いと思っていた拓人だったが、
思った以上に綺麗で感嘆の声を漏らした。
しかし、意外と言われたことに反応した霊夢が質問してくる。
「意外ってなによ意外って」
「いやぁ、一人で巫女なんかやってるから
もう少し汚いのかなって思ってたんだ」
「あんまり参拝客なんか来ないしね。
暇だから手入れだけはしてるのよ」
どうやら博麗神社はあまり儲かってないという、
拓人のいた所の設定が反映されているようだ。
まぁ、自分のいた所の設定が反映されていた方がこちらとしては行動がとりやすい。
そう考えたところで霊夢が口を開く。
「さ、こんなところに立っててもなにもないわよ。
早く中には入りましょ」
「ああ、わかった。」
そういうと霊夢は神社の方に歩きだす。
それに付いていくため歩き出すのだが、
歩くたびに振動が体に伝わり肺の辺りが痛くなる。
我慢しながら歩くこと十五秒程。
庭の横から回り込むように縁側へと付いた。
すると、縁側から霊夢ははいていた草履を脱ぎ、
すたすたとすぐそこの部屋に入ってしまう。
「何してるのよ。
早く入りなさいよ」
「あ、あぁ。
お、お邪魔します」
縁側から他人の家に入るのは気が引けたが、この際いいや、
と思い拓人も靴を脱ぎ中へ入っていく。
その部屋は居間だった。
部屋の真ん中にはちゃぶ台があり、その奥には台所がある。
イメージとしては、貧しい人の家の内装だった。
……いや、実際そうなのだろうが。
「……ねぇ、今なんか失礼なこと考えたでしょ」
「し、してないしてない。
なんでそう思ったんだ?」
「勘よ」
うわぁ、霊夢の勘鋭いなぁ~。
そんなことを考えていると霊夢が台所に歩いていってしまう。
「まだ晩御飯食べてないでしょ。
私もまだだからついでに作るけどいい?」
「あぁ、頼むよ霊夢」
そう言うと霊夢は台所に引っ込んでしまった。
台所に入った霊夢は焦っていた。
ヤバい、どうしよ。
その場の勢いで晩御飯作るなんて言っちゃった。
私、料理出来ないのに……
そう、霊夢は今まで一人暮らしだったので、
自炊なんてほとんどやったことがなかった。
しかし、拓人に作ると言った手前、何かをつくらなければいけない。
なんとかいい案はないかと考えてみるも霊夢にできるのは
米を炊いたり、簡素な味噌汁を作るぐらいしかできなかった。
……仕方ないけどこれでいいや。
おかずないけど無いよりはましなはず!
拓人には食材がなかったって言っておこう。
炊き置きしておいた白ご飯に速攻で作った味噌汁を、
二人分お盆に乗せて拓人の元へ向かった。
「お待たせ。
食材がなかったからこんなものしかできなかったわ」
「大丈夫だよ。
元々お邪魔させてもらう予定じゃなかったし」
「そう言ってもらえて助かるわ」
でできたものは白米と出来立ての味噌汁だった。
これぐらいなら拓人も自分で作れるが、
久しぶりに他人の料理を食べる事に嬉しさを感じた。
黙々とご飯を食べ続け、二回目のおかわりをすると、
霊夢があることに気づいたようで問いかけてくる。
「ねぇ、あんた。
その手、どうしたの?」
「ん、手のひら? あぁ、これか?
これは地面に擦り付けた跡だな」
「擦り付けた?
なんか付いてたの?」
「あの時、倒れてた蜘蛛がいただろ?
あいつの頭を切ったときに付いた返り血だ」
「へぇ、あの蜘蛛をあんたが……
返り血なんかで普通地面なんかに擦り付ける?」
ここで拓人は少し戸惑う。
会ってすぐの人に自分のトラウマが原因となった、
血液恐怖症のことを話してもよいのかと思ったのだ。
しかし、優しく接してくれる霊夢なら大丈夫だろうと、
打ち明けることを決意する。
「……実は俺、昔のあることがきっかけで血が怖くなって……
あのとき倒れてたのは血を見たからなんだ」
そう言った途端に霊夢の表情が暗くなる。
話すべきじゃなかったか……
そう思ったが、時すでに遅しというもので
今更どうこうできるものではない。
少しの間黙っていたが、どこか罪悪感にとらわれた様な表情をして
霊夢が話しかけてくる。
「その、失礼なことを聞くかもだけど。
『昔のあること』って何があったの?」
ここでもまた、拓人は戸惑う。
自分の昔のことを話せば優しい霊夢は質問した事に後悔し、
また、自分のことを幻滅するだろうと思った。
拓人の過去はそれほどひどいものだった。
さすがに確認なしで話すのはいけないと思ったので
霊夢に問いかける。
「話すのはいいんだが……
これから話すことはかなり衝撃的だ。
それでもいいか?」
問いかけると、少し迷ったような表情を浮かべるが、
すぐさま表情を戻して口を開く。
「えぇ、いいわ」
「ん、わかった」
そう言うと、拓人は話し始める。
「あれは、十四才の頃だったな」
中学三年生で剣道部に所属している拓人は、
学生鞄と竹刀を持って家を出た。
「行ってきます、母さん」
「いってらっしゃい、気を付けてね」
「あぁ、分かってるよ」
そう言うと拓人は学校へ歩き出す。
拓人は現在、父と母、それと妹との四人暮らしをしている。
家族の仲は良好、学校でもうまくいっており、部活も楽しんでいる、
とても満足した学校生活を送っていた。
いつもの様に授業を受け、部活の時間。
「セヤアァァァ!」
バシーン、と心地よい音が道場内に響き渡る。
すると、審判が赤旗をあげ判定を行う。
「赤、面あり一本!
勝者、五十嵐拓人!」
開始線まで戻ってそんきょをし、礼をして試合場を抜ける。
剣道の部活で試合形式で練習していた拓人は
道場の壁にもたれ掛かり、ふぅ、と息を吐くと共に面の防具を脱ぐ。
すると、すたすたとこちらに先ほど試合をした相手が歩いてくる。
「拓人、お前やっぱ強ぇなぁ。
全然一本とれねぇや」
「お前も結構強くなってるよ。
最後らへんとか危なかったし」
「そう謙遜すんなよ。
部員の中じゃあ一番強いじゃんか」
「部員の中だけだろ。
他の学校行ったら俺より強い奴一杯いるよ」
「それでもすげぇよ。
俺たちじゃ全然歯が立たねぇしさ」
拓人は剣道部員の中では一番強く、毎回県大会の上位に入賞し
全国大会にも出場するほどの実力者だった。
そんな中でも、拓人は部員たちの中に溶け込み、
立派に青春を謳歌していた。
そして、今日は大会間近ということもあって、
遅くまで部活をしており、校内放送がかかる。
『完全下校時間十五分前になりました。
全ての部は活動を止めて下校の準備をしてください』
「やべ、もうこんな時間かよ」
「まぁ、大会近いしな。
外も暗いし、気をつけて帰れよ」
「拓人こそ、気をつけて帰れよ!」
道着を急いで脱いで片付け、鞄と竹刀を両手に持ち、
街灯だけでは少し薄暗い道を走って帰る。
途中で誰かあとをついてきているような気がして
立ち止まり、後ろをふりかえる。
しかし、薄暗いせいもあってあまり遠くまでは見えず、
拓人の視界には誰も入っていなかった。
「……気のせいか」
少し気味が悪くなり、先程より速く走り家に帰った。
家に付いたときには息切れがしてヘトヘトだった。
家に帰ってきたとき特有の安心感にほっとしつつ家の中にはいる。
「ただいま、今日は部活が遅くなってさ」
すると、母が台所の方から姿を表す。
「あら、遅かったわ……ッ!
拓人!逃げて!」
「へ、母さんどうした」
の、という一言が言えなかった。
突然、ガツン!という鈍い音がした。
その時拓人が覚えていたことは、
目を限界まで見開いた母の顔と下に流れる見慣れた家の景色だった。
気がつくと拓人は玄関にうつぶせで寝転んでいた。
……あれ、何やってたんだっけ?
しかも頭が痛い……
とりあえず体を起こそうとするができなかった。
そう、拓人は両手両足共に縄でくくられていた。
なぜこうなっているのか訳がわからず
家族を呼ぼうとするのだが、
「んー!? んー!んー!」
口にはスカーフか何かで巻かれており、
言葉が話せなくなっていた。
なんとかそれを顎までずらし、続いて手と足の方へ視線を向ける。
な、なんでこうなってるんだ!?
とりあえず縄ほどかないと。
もがいて縄をとろうとするが、手は後ろで結ばれており、
思うように動かせずほどくことができない。
足ももがいてみるがほどける気配はない。
とりあえず今までのことを思い出してみるが
思い出せるのは目を限界まで見開いた母の顔と
下に流れる見慣れた家の景色しか思い出せない。
直前に、ガツン!と音がしたのはさっき頭が痛かったことから
殴られたのだろうと推測できる。
……でもなんで殴られた?
ふと疑問に思った。
母の顔を思い出す限り、何かあったのだろうかと心配になる。
満足に動かせない体を使い、
床を這いずりながら扉が開いていた居間の方へ進む。
なんとか扉の前までたどり着き、中をのぞきこむ。
すると、拓人の目に入ってきたのは想像を絶するものだった。
なにかに怯え、とても震えているおり、
拓人と同じように手足をくくられている妹。
全身に切り傷があり、壁にもたれ掛かるように倒れこんでいる、
ほぼ瀕死の状態の父。
そして同じように床に倒れこんでいる母と、
その母の上で両手を振り上げては下ろしている見知らぬ男。
その見知らぬ人は手に刃物を持っており、
両手を降り下ろすと同時にその場に飛び散る血。
飛び散った母の血が頬にかかると、
今まで止まっていた頭が急に回転を始める。
なんだ、これ。
なんで父さんが死にそうなんだ。
なんで母さんが殺されてるんだ。
そこまで考えた途端、拓人の口からは声が漏れていた。
「……あ、あ、なんだ、これ。
どうなって、るんだ」
そこまでを口にしたところで男がこちらに向き
その顔をあらわにする。
男の目は異常なまでに瞳孔が開いており、
表情は狂気に歪んでいるように見えた。
すると、自分と同じ人間とは思えないような、
恐怖を沸きあがらせるような不気味な声で話し始める。
「遅かったなぁ、そこの兄ちゃんよぉ。
お前が起きてからにしようと思ってたけどよぉ、
待ちきれねぇから二人も殺しちまったぜ」
は? こいつ、なにいってるんだ?
そんなことを考えていると男が続けざまに口を開く。
「いやぁ、人を殺すってのは最高だぜ。
なんてったって殺されるってわかった時の悲鳴。
くぅ~、たまんねぇぜ」
ここまで言われてようやく拓人は状況を理解した。
つまり、家族は襲われたのだ。
金目当てだとかそんなものではなく、
人の命を奪う、ただそれだけを楽しむために自分の家族を襲ったのだ。
そう理解したん途端、三つの純粋な思いが拓人の頭のなかに駆け巡る。
妹を逃がしたい
父さんを救いたい
母さんを殺した男を殺したい
逃がす 救う 殺す
にがす すくう ころす
ニガスニガススクウスクウコロスコロス
ニガスニガスニガススクウスクウスクウコロスコロスコロスコロス
この男を、『殺す』!!!
性格が穏やかだった拓人がこんなに殺意を覚えたのは初めてだった。
妹に恐怖を覚えさせ、いつもそばにいてくれた母を殺し、
不器用だったが不器用なりにも愛情を注いでくれた父をこんなに痛めつけた。
そんな男に殺意を覚えずにいられるのは、
優しいと近所でも評判だった拓人でも無理だった。
「貴様、殺す!!!
絶対殺す!!! お前は、お前だけは!!!」
「いいねぇ、いいねぇ、その表情!
その表情を俺は見たかったんだ!
ひゃっひゃっひゃっひゃ、おもしれぇ!!!
それで、俺をどうやって殺すんだ、え?」
確かに、拓人は手も足も縛られておりなにもできなかった。
しかし、感情が暴走してじたばたしていた拓人に、
男が玄関に歩き竹刀をもって拓人の目の前に放り投げる。
「お前、見たところ剣道部だろ? その竹刀で俺を止めて見せろよ。
出来るんならな。 ククククク!」
そう言うと拓人に歩みより、手の縄を
父と母を切りつけた刃物で断ち切る。
縄が切られ両手が自由になった拓人は目の前の竹刀をものすごい速さで手に取り、
横から竹刀を打ち込む。
しかし、うつ伏せの状態からでは満足に竹刀がふれず、
男に簡単に避けられてしまう。
今度は手を床について、なんとか立ち上がると男に向かって面を打ち込む。
だが、足が縛られているため踏み込むことができず、
わずかながら届かず空振り、バランスを崩す。
バランスが崩れ重心の位置がずれたところを狙い、
男は足をかける。
その場に派手にこけ、地面に這いつくばる形となった。
そして、男は拓人を踏みつけながら嘲笑う。
「フフフフ、ハハハハハ!!!
なんだ? 俺を殺すとか言っといてこのザマだぜ。
ククククク、笑いが止まらねぇ!
あぁ、そうだ。 お前は最後に殺してやるよ。
ここで這いつくばってじっと見てろ!」
男がそう言うと刃物を逆手に持ち、
拓人の右手のひらに突き立てる。
「ガアアァァァァ!!!」
今までに感じたことのない鋭い痛みが拓人を襲う。
男は立て続けに左手にも同じように刃物を突き刺す。
「ガ、グ、ガアァァ!」
刃物は拓人の手のひらを貫通し、両手とも穴が開いていた。
両手の痛みに耐えていると、男は妹のほうに体を向け、
刃物に付いた血を舌で舐めながら近づいていく。
「やだ、嫌だ……来ないで、来ないでよ……」
妹は縛られた足を懸命に使い、男から離れようとするが
離れられるわけもなく、男は妹の前に見下ろすように立つ。
今さら何をしても無意味だと悟りながらも、
男に向かって叫ぶ。
「やめろぉぉぉ!!!
妹に、妹に手を出すなぁぁぁ!!!」
「いいねいいねぇ、その表情、その声!
演技じゃない本物の悲鳴ってのは最高だねぇ!!!
……じゃあな」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!! 助けて!!!」
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!!
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
「シネェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」
男の刃物が妹の左胸を深く、根本まで突き刺す。
妹は一瞬固まり、そして、前のめりに倒れる。
……俺は、守れなかった。
愛する家族を目の前にして、なにもできずに。
妹一人すらも守れずに。
「……あぁ、あぁ、あぁ、
嘘だ嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!」
拓人の無念の叫びを無視するかのように、男は妹を刺し続ける。
「たのしぃ、楽しいぜ!
人殺すのちょー楽しいぜ!!!」
その時、なにかが拓人のなかで吹っ切れた。
気がつくと足の縄は真ん中に穴が開いている手で引きちぎり、
竹刀をもって猛然と男に切りかかった。
「ウアアァァァァ!」
竹刀は妹を刺し続けている男の頭に吸い込まれるように
真ん中に命中した。
バキィッ!という音と共に竹刀が根本からへし折れる。
使い物にならなくなった竹刀を捨て、
先ほどの攻撃で少しふらついた男の手から刃物を奪い、真正面に向かい立つ。
刃物を奪われた男は目が飛び出るほど見開き、
怒りのためか、わなわなと唇を震わせながら拓人に叫び飛びかかる。
「そいつを返せくそガキがあぁぁぁ!」
男は右手で胸元を掴みにかかる。
拓人は無意識に右手を掴み、背負い投げの体制に入った。
ブンッ!と音がなるほどの速さで懐に入り込み、
男の体を宙に浮かせる。
普通の背負い投げなら背中から落ちるが、
拓人は男を頭から落とす。
落ちた勢いで床がへこみ、男が前に吹っ飛びうつぶせに倒れる。
頭を押さえながらよろよろと立ち上がるが、
拓人が男に近づくには十分な時間はあった。
拓人は男を蹴飛ばし、仰向けに転ばす。
「ヒイィッ!!」
男が短い悲鳴をあげ、座った状態で後退りするが、
壁にぶつかり遠目でも分かるほど全身から冷や汗を流している。
拓人は男の目の前に立ち、刃物を強く握りしめ男を見下ろす。
そこに、つい数時間前まで意気揚々として
友と楽しげに部活に励んでいた拓人はおらず、
殺意に狂った一人の少年が立っていた。
「や、やめろぉ……
殺さないでくれ、頼む、頼むから……」
「……ふざけるな」
今まで出したことが無いような、
とてつもなく低い声が拓人の口から漏れる。
そして、殺人を楽しんでいた男の顔は消え去り、
今は恐怖が顔からにじみ出している。
「やめてくれ、頼む……
死にたくない、死にたくない……」
「ふざけるな」
今の拓人は男が命乞いをすればするほど、
怒りが増してきていた。
……なにが『殺さないでくれ』だ。
なにが『死にたくない』だ。
平気で人を殺していたお前が、俺の家族を勝手に殺したお前が、
俺の幸せを奪ったお前が、今更命乞い?
ふざけるな、ふざけるなふざけるな!!!
拓人はいっそう刃物を握りしめる。
殺す、こいつだけは殺す。
そう思ったのを境に深く腰を落とし、刃物を握った手を大きく後ろに下げる。
「返せ……
俺の家族を、父さんを、母さんを、妹を、
返せ、返せ……!」
「嫌だ、いやだあぁぁ……」
体を前に倒し、全体重の乗った突きを放つ。
殺意のこもった一撃を、どこまでも、どこまでも貫くように。
「返せえええぇぇぇぇぇぇ!!!」
「嫌だああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
グサッ!と言う音と共に、拓人の持っていた刃物が
男の左胸に深く、深く突き刺さる。
「あ、が……」
男は一瞬目を見開き、驚愕の表情を見せると、
抵抗するように挙げていた手が、パタッ、と落ちる。
刃物から手をはずし、拓人は数歩後ろに下がり、息を整える。
「はぁ、はぁ、はぁ……
くそっ! くそっ!
何で、何でこんな目に……!」
自然と、拓人の目からは涙が零れていた。
それは、家族が殺された悲しみと、家族を守れなかった後悔からだった。
「…………たく、と」
「はっ! 父さん!」
蚊の泣くような小さな声を絞り出したのは父だった。
体のいたるところに刺し傷があり、
生きているのが不思議なくらいの重症を負っていた。
「父さん! 待ってて、今救急車呼ぶから!」
拓人にとっては生き残っている父は、幸せの最後の光だった。
何とかして生かせようと急いで救急車を呼ぶために、
電話に向かって走ろうとするが、父に止められる。
「待て、拓人……」
「何でだよ父さん!
このままじゃ死んじゃうだろ!」
「もう、無駄、だよ。
もう、父さんは、生きられない。
ゲホッ!ゲホッ!」
父の口から大量の血が漏れる。
「何でだよ、いやだ、いやだよそんなの……
父さんが死んだら、俺、どうすりゃいいんだよ……」
「拓人、生きろ。
何が、あっても……挫けず、最後まで……諦めるな。
お前だけは、生き、ろ。
それが、父さんの……願い、だ。」
「なんで、なんで……なんでだよ!
約束したじゃないか! 孫の顔見るまで死なないって!
成人して、一緒に酒飲もうって!
約束、したじゃないか!……あの言葉は、嘘だったのかよ!」
「悪かった、な……約束、守れなくて……
しっかり、生きろよ。
父さん、が、死ん、でも……どっかで……ちゃんと見てる。
ごめんな、拓人。
……今まで、あり、がとう。」
父は小刻みに震えていた瞼をそっと閉じた。
「……おい、嘘だろ。
起きろよ、父さん。父さん!」
何度たたいても起きない。
父が死んだことを認めたくなくて、何度も、何度も父の体をたたき呼び掛ける。
しかし、父は起きなかった。
胸に耳を当てても、心臓の鼓動は聞こえなかった。
ガタガタと震える左手を右手で押さえる。
何の気なしに左の手のひらを見ると、大量の血がついていた。
恐る恐る右手も見てみると、同じように赤一色に染まっていた。
部屋を見渡すと、そこにあるのは死体、死体、死体。
そして、部屋を不気味に彩るどす黒い赤。
「……あぁ、あぁ、あああぁぁぁ、
あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そしてそのまま、拓人は意識を失い、暗い闇の中へ落ちていった。
「……そんなことがあったのね。」
「あぁ。 これが、俺の歩んできた道だ。」
ここまで話し終えた拓人はふぅ、と息を吐くと少しうつむく。
その時を思い出してしまい、気分が落ち込んでいた。
「それで、そのあとどうなったの?」
「病院に送られて、捕まって少年院って所に一年ぐらい入れられた。
そのあとは俺の叔父夫婦に引き取られ、最悪の日々を送ったよ」
「最悪の、日々?」
「引き取られてからは、隣近所からは白い目で見られ、
おんなじクラスの奴からは数の暴力をくらってさ。
正直言って、自殺しようとしたことも何回もあった。」
叔父夫婦に引き取られた先では、なぜか拓人のことが知られていた。
叔父夫婦は仲良くしてくれたが、近所の人からはあからさまに避けられ、
一年遅れで入った高校では「人殺し!」と言われ、居場所は家にしかなかった。
「それで、あなた、家はどうしたの?」
「捨てた。 こうして俺がここにいるのは家を捨てたからだ」
「叔父さん達は? 今頃心配してるんじゃないの?」
「……もうこの世にはいない。
俺の両親とほとんど同じように死んだんだ。 十六の時だった」
そう言うと拓人は無意識に顔をうつぶせて、悲しみの表情を浮かべる。
何かを考えている霊夢に気づかずに話しを続ける。
「そのせいで周りの人からは俺といると殺される、って思われてさ、
『悪魔の使い』だ何て呼ばれてた。
周りの人からはあたかもいないように扱われて、
どこにも自分の居場所は無かったんだ。
……父さんの時と違ったのは、俺が誰も殺さなかったことだけだ。
それでも相手を殺しかけたけどな。 血が怖くなったのはそのときだ」
「…………」
「それ以来、血を見るたびに体が震えて、怖くて怖くて仕方がないんだ」
「……そうだったの」
ここまでをい言い終えると、自嘲的な笑いを含んでさらに口を開く。
「ははっ……笑っちゃうよな。
とことん最低な人間だよ俺は。 ただ、感情に任せて相手を殺しただけ。
……どうだ、霊夢。 これが俺と言う人間だ。
幻滅したか?」
ここで幻滅したようだったら拓人は立ち去ろうと思っていた。
自分のせいで周りの人を不幸にしたくなかったからだ。
しかし、霊夢は首を横に振った。
「ううん、全然。
その程度で幻滅するわけないじゃない」
「……え?」
拓人は霊夢の返答に驚いていた。
誰だって、人殺ししているとわかると幻滅ぐらいするのは当然だ。
そう思っていた拓人は霊夢の返答に呆気に取られていた。
「もし、私があなただったら同じようにすると思うわ。
しかも、私は職業柄殺す殺されたって話は慣れてるし」
「……そうか、ありがとう」
すると、霊夢は訝しげに問いかけてくる。
「あら、やけにすんなり信じるのね」
「こんな俺を受け入れてくれた霊夢だからな。
嘘はついてないと思った」
「ふふっ、ありがと」
なんとか気持ちを整理でき、明るさが戻ってきた拓人だったが、
こんなに長く人としゃべったのは久しぶりだったため、拓人は疲れて眠くなってきた。
「ふあ~~~。
久しぶりに話すと疲れたな。 なんか眠くなってきた」
「布団はないから雑魚寝になるけどいい?」
「別に構わないよ」
そう言うと拓人は横になる。
すると、胸の辺りに痛みが走った。
「いててて」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
拓人は仰向けに寝直し、天井を見つめる。
今の世の中ではあまり見ることのない、
少なくとも都会にはない木で出来た天井を見て、
改めて家から出てきたことを自覚する。
これから先、どうしようかな……
そんなことを考えながら拓人はまぶたを閉じていく。
「おやすみ、霊夢」
「おやすみ、拓人」
すると、先程まで嫌な話をしていたのに、すぐに眠ることが出来た。
そして、拓人は深い闇の中へ落ちていった。
暗く、深い、深い闇の中へ。
この話を投稿する前に友人にみせてみましたが、
「もっと、柔らかい話を期待!」
と言われたので次回は柔らかくする予定です。
それでは次回、お楽しみに!