色々とありすぎて十九話から三か月以上過ぎましたが、何とかこうして投稿できました!
三か月何をしていたか……後書きの方にしておきましょう。本編が読みたい方がほとんど
でしょうし。
また後述しますが、挿絵はございません。ほんとに申し訳ないです……
はい、長らくお待たせした二十話です。どうぞ!
「…………」
夜に咲夜と話し、レミリアとフランとは別の部屋で寝た翌朝。
窓から差し込む朝日が部屋に反射し、ちょうどいい具合の光量を、
目覚めたあとベッドに横になりながら無意識に感じていた。
はずなのだが――
「あ! やっと起きた!」
「まったく、何回呼んだと思ってるのよ……」
何故か今の拓人の両隣には別の部屋で寝ていたはずの、
それに加えて夜行性のはずの吸血鬼姉妹が、自分を起こしに来ていたのだ。
レミリアはベッドの端に腰掛けており、フランに至っては仰向けに寝ている拓人の、
ちょうど腰の辺りにまたがっている。
朝からこんな姉妹物のエロゲ的展開は男として内心喜ぶべきなのではあろうが、
今の拓人は心を躍らせている状況ではなかった。
「…………おやすみ」
そう、寝ぼけである。
周りの事はどうでもよくなってきて、もう一度現実逃避をするかのように目を閉じる。
「起きて~!」
フランは拓人の二度寝を妨害するように、腰の上でぴょんぴょんはね始める。
そこに『遠慮』の二文字はなく、重力に引かれて落ちてくるフランからの衝撃が、
押しつぶさんとばかりに内蔵にダイレクトに伝わる。
健全な少年が心を躍らせる、などといった要素はほぼ皆無だ。
「ガフッ! ゲフッ! い、痛い痛い、ゴフッ!
お、起きた、起きたから!」
これ以上、腰と内臓への追加ダメージを無くすため、
慌てて両手でフランに起きたことを必死にアピールする。
なんとか通じたようで、腰の上でのジャンピングが止まる。
ほっ、として息を吐くと、急に眠気が襲って来る。
とっさの事で抵抗できず、素直にまぶたが閉じ始め、
「起きてって言ってるでしょ!」
寸前で睡眠行動を拒否された。
フランは両手を腹に当て、着実に押し込んでくる。
その際に、長い爪が腹の肉に食い込み、鮮明な痛みが拓人を襲撃する。
「痛い痛いごめんなさい悪かったから手をどけてくださいこれ以上は無理です死にます
助けてくださいまだ死にたくないですお願いしますその手をどけてください!!!」
高速で謝罪と救済を求めるため涙目になりながら、フランに向かって一気にまくし立てる。
言っている間も両手を使い、なんとかフランの爪を体から離そうとするのだが、
相手は見た目は幼くとも吸血鬼だ。
こちらがいくら力を加えてもびくともしない。
しかし、先ほどの長文の内容が効いたのか、渋々といった様子で爪を引っ込めてくれる。
「もう、また寝ようとするからだよ!」
「ごめんごめん。 悪かったよ」
頭をポリポリと掻きながら、再度の謝罪をする。
少し間を置いて、レミリアから話しかけられる。
「それで、目は覚めたのかしら?」
「えぇ、フランのおかげで覚めました」
拓人が言い終わると同時に、部屋の扉からコンコン、とノック音が聞こえてくる。
「失礼します。 先ほどの叫び声は……一体…………」
そう、入ってきたのは咲夜だった。
少し慌てた様子で入ってきたのだが、こちらを見るなり急に失速し始め、
ついには凍りついてしまう。
咲夜の目線を辿っていくと、フランと拓人が触れている場所。
すなわち――腰である。
レミリアとフランはこのことの意味を全く理解しておらず、
尚且つその場の空気に流されてこちらも気づいていなかったが、
この状態はいわゆる騎乗――と考えたところで思考がフリーズした。
二~三秒ほど固まっていた咲夜だったが、顔を赤くし、
「…………お取り込み中、失礼しました」
という生気が抜けたような声を残し、フラフラと部屋を出て行った。
「待ってください! 誤解、全部誤解なんですよー!」
「何が誤解なの?」
「フランはまだ知らなくてもいいことだよ!
とりあえず、そこをどいてくれ! 頼む!」
できるだけ急いでいることを声に表して頼んだのが功を成したのか、
またもや渋々といった様子でフランは飛んで体から離れる。
その瞬間に体をはね起こし、扉まで駆け寄って勢いよく開く。
左右の長い廊下を見わたすと、左方向に『放心状態』という言葉がぴったりの様子の、
危うい足取りでフラフラと歩いている咲夜の姿が見えた。
「咲夜さん、待ってください! 全部誤解なんですよー!」
咲夜の意識を現実に戻して誤解を解くべく、
完璧で瀟洒でフラフラなメイドに向かって走り出した。
一方その頃、パチュリーの研究室では、
水晶を片手に中を覗き込んでいるパチュリーと小悪魔がいた。
「昨夜の余韻がまだ残ってるのかしら」
「そうですよパチュリー様! なんたって、お嬢様と妹様は初めてですからね!
初恋の人に初めてを奪われて、次の日も熱が残っていてもおかしくありませんよ!」
そう話している二人の視線は、水晶へと注がれている。
水晶を持っているパチュリーの右手の下には、遠くの場所を物に映し出す呪式を組んだ、
緑色の魔法陣が輝きを放っている。
映し出している光景は、拓人がついさっき出て行った部屋を天井から見ている感じだ。
フランが腰の上でぴょんぴょんと跳ねていた事から、
夜に二人が繋がった状態で似たようなことをしたのだろう、と小悪魔は推測した。
ど、どんな激しいことをしたんでしょうか……気になりすぎます!
「今度は声も聞こえるようにしないと……少々不便ね」
あれこれ卑しい事を想像していた小悪魔の意識を、パチュリーの独り言が現実へと引き戻した。
現在展開している『遠方観察魔法』は、便利ではあるのだが、
あくまで文字通りに『遠方を観察する』ことしかできない。
故に、拓人やレミリア達が何をしているかは観察できるが、
どのような内容を話しているのかまではわからないのだ。
「まぁ、いいんじゃないんですか?
こうやって見れるだけでも、私は満足です!」
「そう……なら、いいわ。
朝にもなったし、昨夜の話を聞きに行きましょう」
「はい! どんな話が聞けるのか楽しみです!」
そう言うと、パチュリーは魔法陣に魔力を注ぎ込むのをやめる。
輝いていた魔法陣は徐々に光を失い、完全に消える頃には、
すでに水晶は奥に置いてある本を歪めて映していた。
水晶を丁寧に、机の上に置いてある専用の場所に置き、
パチュリーは着ている服をなびかせながら、研究室の扉まで歩いて外側へ開く。
「行くわよ、こぁ」
「はい!」
拓人がどのような感じで二人の初めてを奪ったのか。
そんな事を考えながらパチュリーの後を追いかけ、拓人の元へと歩き始めた小悪魔だった。
カチャリカチャリ、と金属同士がぶつかり合うような音が部屋に響き渡る。
だが、
「お姉様の美味しそう! 貰うね!」
「こらフラン! 自分のがあるでしょ!?」
「咲夜さ~ん、もうへとへとですよ~……」
「何言ってるのよ。 ただ、皿を何百枚か洗っただけでしょ?」
という、にぎやかな声がその音をかき消していた。
咲夜にダッシュで近づき、頭を下げつつ何とか誤解を解いた拓人は、
紅魔館メンバー全員と朝食を取っている最中だ。
現在は、パチュリーと小悪魔に連れられ、
他の四人とは少し離れた机で食べながら話している。
「昨夜のことなんですけど……どこかで見てましたよね?」
少し威圧するように声を低くしてパチュリーに問いかける。
「えぇ、しっかり魔法で見させてもらったわ」
「……レミリアさんにいろいろ吹き込んだそうですね。
協力するとは言いましたが、一言でも声をかけてくれないと、こちらも対応できませんよ……」
情けない声を上げつつ言い終わると、パチュリーは片手で口を押さえ、
小さく笑いながら返事を返してくる。
「ふふっ、あなたの反応も見てみたかったのよ。 次からは気を付けるわ」
さらっと話を流され、盛大にため息をつく。
咲夜から渡された朝食――原材料がわからない謎の肉をフォークで刺し、
口の中へ放り込んで奥歯で噛み締める。
うまいな……何の肉だろ?
「あ、拓人さん! 聞いてもいいですか?」
謎の肉の正体を予想していたが、小悪魔に話しかけられたので、
体ごと回転して話を聞く姿勢をつくる。
なんだろうな、と思いつつ、カップに注いである紅茶を口に含めながら、
小悪魔が話し始めるのを待つ。
「お嬢様と妹様、どっちが気持ちよかったですか?」
「むぐっ!!??」
小悪魔の予想外の質問に驚き、口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになるが、
根性でギリギリこらえ、無理矢理胃の中へと収める。
「はぁ、はぁ……い、いきなりなんですか!?」
「心配しないでください!
拓人さんが獣のように腰を振ってる間、私たちは見てませんから!」
何か盛大な勘違いをしている小悪魔に、修正の言葉をかける。
「はぁ…………そんなことしてませんよ」
「「…………え?」」
拓人の否定の言葉に、パチュリーと小悪魔が目を点にして唖然とする。
「え……? な、なんですか? というよりどこまで見てたんですか?」
「い、いえ、レミィがあなたを押し倒したところまでなんだけど……
ま、まさか、あなたレミィを抱いてないの!?」
「パチュリーさんまで……抱いてませんよ。
一体お二人はどこまで想像してたんですか……」
もう嫌だ……逃げ出したい……
切実にそう思った拓人だったが、協力すると言ってしまった以上、
逃げ出すわけにもいかない。
はぁ……なんで『協力します』なんて言ったんだろうな、俺……
深く後悔する拓人だったが、疑問に思ったことを素直に質問する。
「気になったんですが、レミリアさんの着ていたあの服。
狙ってたんですか?」
と聞くと、
「あれ? 拓人さんムラムラしなかったんですか?
おかしいですね……私が一生懸命考えたのに……」
小悪魔が、さも当然と言わんばかりの真剣な表情で述べた。
幻想入りして最大級のため息をした後、紅茶を飲もうとカップを手に取ろうと手を伸ばす。
その時、
「フラン、やめなさい!」
レミリアの切羽詰まった様な声が聞こえてきた。
声が聞こえてきた方へ体を百八十度回転させ、フランの姿を探す。
案外近くにいて、両手をこちらに伸ばしており――赤く光っていた。
「っ!?」
息を鋭く飲んで事実を認識するが、体が反応しきれない。
フランはそのまま、両手を閉じた。
直後、バンッ!と窓が割れるほどの音が発生し、拓人の頭にどこからか衝撃が伝わってくる。
弾かれたようにのけぞりながら、拓人は宙を舞う。
頭への衝撃で一瞬意識が途絶えたが、幸いにもすぐに意識を取り戻し、
床へ落ちる瞬間に受身を取って衝撃を床に逃がす。
だが完全には逃せず、その分だけ内臓へと響いてくる。
本来ならばここで吐き気が襲って来るはずなのだが、そのかわりに右目が
異常なまでの激痛に襲われる。
「ぐ……が、あぁっ……!」
痛みにこらえるために両手を右手にあてがう――が、右目はなかった。
そう意識した瞬間、激痛よりも恐怖が沸き上がってくる。
両腕から力が抜け落ち、右目から外れそうになるところでこらえる。
今ここでぐちゃぐちゃになってしまった眼球や大量の血を見てしまえば、
それこそ錯乱状態に陥ってしまい、レミリアたちに迷惑がかかる。
「だ、大丈夫!?」
急いでレミリアが駆け寄ってくるが、その前に右目に肉体修復系の現象を起こして
失われた眼球を再構成する。
十秒ほどすると、脱力感と共に右目の感覚が戻ってくる。
閉じていたまぶたを開け、レミリアの姿を右目で捉える。
視力は全く落ちておらず、前の右目や血は能力の使用にともなってなのか、
完全に跡形もなく消滅していた。
「ねぇ、大丈夫!?」
「な、何とか……」
反射的に霊力の壁を築き、更に昨晩の宴会の前に体の耐久力を底上げしていなければ、
右目のみならず頭の中身が今頃部屋中に撒き散らかっていただろう。
「拓人さぁん……死んだかと思いましたよぉ……」
「よく生きてられたわね……一体どんな手を使ったのよ?」
小悪魔は涙目で、パチュリーは驚愕の表情を浮かべて話しかけてくる。
「説明は後で。 それより……」
話を切り、立ち上がってフランの方を見る。
フランは、近くで話しかけている咲夜と美鈴を気にもとめず、
ただただ自分の両手のひらを凝視していた。
しかし、こちらの目線に気づくと、肩をビクつかせて俯いてしまう。
「妹様? どうかなさいましたか?」
「あ、あわわ、どうしたらいいんですか……?」
フランの傍にいる咲夜と美鈴も困惑している様子だ。
話しかけられてもピクリとも反応しないフランにゆっくりと歩み寄り、
目線が合う位置にまで屈んで話しかける。
「フラン、顔上げて」
「…………なさい……ごめんなさい……!」
小さく謝りながら、フランは涙を落とす。
「ほら、大丈夫だったんだからさ。 顔上げて」
優しく語りかけると、フランは涙で濡れた顔をゆっくりと上げる。
「嫌だよ、こんな能力……傷つけることしかできない、こんな能力なんて……!」
「…………」
フランの言葉に、無言で詰まらざるを得ない。
確かに、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は使いどころがわからず、
どのように考えても戦闘系の能力としか思えない。
何とかしてあげたいとは思うものの、能力自体を変えられるのなら
とっくにレミリア達がやっているだろう。
どうしたものか、と考えていると、ふとあることを思いついた。
それを確信に変えるため、能力を使って綿がギュウギュウ詰めになっている玉を創造し、
傍にあった机の上に置く。
「フラン、さっきと同じようにこれを壊してみて」
「……う、うん」
こちらの意図が掴めずに悩んだようだが、一つ頷いて右手を玉に向ける。
手を開き、恐る恐るといった感じで妖力を手のひらに集め、
玉に狙いを定めて握りこむ。
そして、握りこむ前に拓人は玉の方へ視線を移し、どのように壊れるのかを観察する。
玉は――中心から外側へはじけ飛ぶようにして壊れた。
よし、これなら……!
予測が確信へと変わることに喜びを感じながら、能力で辺りに散らばった綿を消す。
「……いいことを思いついた」
「え? いい、こと?」
「そう、いいこと。 悪いけど、少しだけ時間をくれないか?
理由は今はまだ言えないけど、今日中に教えるからさ」
首をかしげてきたフランにいささか説明不足の台詞を述べると、
少々詰まりながらも頷いてくれる。
「じゃあ、決まりだな。
咲夜さん、霊夢と魔理沙はどこにいますか?」
「別室で寝ています。 案内致しましょうか?」
「すみません。 お願いします」
そして、咲夜以外の全員が状況を飲み込めずに唖然とする中、
霊夢と魔理沙を迎えに部屋を出たのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……くそ、重い……」
現在、拓人は空を飛んでいる。
両手に大きな荷物――酔いつぶれた霊夢と魔理沙を抱え、
必死に博麗神社へ向かっている途中だ。
「まりさぁ……まだ、いけるわよぉ……」
「なぁんだ、とぉ……わたしも、だぜぇ……」
人の苦労も知らず、寝言で会話し始める二人に腹が立ってくるが、
流石に捨てると後が怖いので仕方なく運び続ける。
紅魔館を出てから約二十分。
片腕だけで人を持つのにも限界はあるため、全力で博麗神社へと向かっている。
早く着きたいな、と切実に願いながら飛んでいると、ふとあることに気づいた。
昨日の夜に自分がしたように、この二人も瞬間移動をさせることができるのではないか
ということだ。
試す価値はあると思い、その場で滞空しながら目を閉じて集中する。
思い浮かべる光景は、もちろん居間で二人が寝転がっている姿だ。
寝てる、寝てる、二人は寝てる……
言葉でも強くイメージしながら、それを具現化するために集中する。
しかし二人を同時に瞬間移動させるのは大掛かりだったようで、何秒続けようともできる
気配がしてこないが、このまま持って運ぶのは自分にとっても苦であるため諦めない。
すると音もなく急に周りの空気が変わり、両腕に抱えていたものがなくなる。
「……やっぱ二人同時はきついな……」
二人同時の瞬間移動は、肉体修復系ほどではないもののかなりの霊力を消費するらしく、
少しだけめまいが襲ってくる。
だがそれも一瞬のことで、頭を振って博麗神社へと自分の身一つで飛んでいく。
自分も飛びたいところだったが、これ以上霊力を使うとデメリットの方が大きくなる
気がしたのでやめた。
二人を運んでいる時よりスピードが乗り、十分程度で神社にたどり着いた。
庭に着地して、縁側から家の中を覗いてみる。
そこには予想通り、すうすうと寝息を立てて横になっている二人の姿があった。
二人はもういいな。次は……湖か。
頭の中のスケジュール表を探り、次の目的地『霧の湖』へと向かうことにした。
湖のほとりまでは距離が短く、ゆっくりと飛んでも五分と少しぐらいで着いた。
早速次の作業にかかろうと思ったが、つい十分くらい前までは、
何気に体を鍛えてあった少女二人を両脇に抱えて運んでいたため、疲れが一気に溢れ出てくる。
今立っている場所は柔らかい草がお生い茂り、風は心地よく、
時折鳥の綺麗な鳴き声も聞こえてくる。
自然が『休め』と言っている様な気がしたので、とりあえず横になってみる。
……気持ちいいな……
体からも心からも疲労感が消えていくという、何とも言葉にし難く心地よい体験をしながらも、
拓人は眠気を感じていた。
準備は夜までに済ませれば大丈夫、と頭の中で言い訳じみたことを考え、
まぶたをゆっくりと閉じる。
近づいてくる僅かな冷気を感じながらも、すぐに拓人は眠りについたのだった。
昼寝ならぬ朝寝を敢行していた拓人は、何か違和感を感じて目が覚めた。
まぶたを開けると、少し霧のかかった、しかし美しい青空が見える。
とりあえず体を起こそうと体に力を入れるが、何かに押さえつけられるような感覚がして、
結局首しか曲げられない。
それにしても、何故か狙ったように腹だけが冷たくなっている事に疑問を感じる。
首を曲げ、体の状態を確認すると、
「ぐ~か~……ぐ~か~……」
器用に鼻提灯をふくらませて、仰向けに寝ているチルノの顔が見えた。
冷たくなっていた腹には、チルノの羽がぴったりとくっついている。
どうやら、氷でできているように見えていた羽は、本当に氷でできていたようだ。
これ以上乗せていると腹を下しそうなので、勝手に人の腹の上で寝る、という
遠慮知らずな妖精をどかすべく、両脇に投げ出しているはずの両手を動かす。
だが、動かない。
どこかで覚えのある感覚と共に右の方から見ていくことにした。
結果――右腕にはルーミア、左腕には大妖精がしがみついているのを確認した。
「なんだろう…………このデジャブ感……」
無意識に、心の底からの思いを愚痴る。
しかも、大妖精が顔を赤らめている、という要らない気もするおまけ付きだ。
「あ~、どうなってんだ~……」
昨夜のレミリアやフランといい、今のこの状況といい頭がついていかず、
憂さ晴らしに少しだけ叫んでみた。
すると、声に反応したのか、ルーミアが目を覚ましてしまった。
「……ん~?」
何気なく放ったであろう声は、何かを口にくわえているような声だった。
気になりルーミアの口元を見ようとするが、自分の腕が邪魔でよく見えない。
「なぁルーミア、ちょっとどいてくれるか?」
「ん~」
先ほどと同じような声で返事をしたルーミアは、何故か口を開きながら腕から離れる。
「痛っ!?」
その時、ちょうどルーミアが口を当てていた場所が痛み始めた。
「ルーミア、何したんだ?」
「血、おいしかったのだ~、わはは~」
……人喰い妖怪、か……
普通の人に同じことをやられていたらドン引きものではあるが、
相手が相手なだけに大して驚くことはなかった。
続いて、締めつけから解放された右手で、チルノを体の上からどかすべく肩に触れる。
「うわっ、冷た!?」
さすが氷精、というべきか、体温は恐ろしく低かった。
風呂に入れたら本当に溶けてなくなりそうに思えて心配になってくる。
そんなことを考えながら、チルノを草の上に転がして、
左腕の大妖精の方へ意識を傾ける。
「おーい、大ちゃん、起きてくれー」
体を少し揺すりながら呼びかけると、すぐに目を覚ました。
「……あれ? 私、いったい……」
瞼を開けた大妖精だが、あまりしっかりとしていない言葉が示す通り、
虚ろな目をしており焦点が合っていない。
「おはよう、大ちゃん」
「拓人、さん……?」
優しく呼びかけると段々と焦点が合ってきて、
ほんの二~三秒ほどで完全に起きた目つきに変わる。
それと同時に、しがみついている事を自覚したのか、顔が赤く染まり始める。
「ひゃあ!? 拓人さん!?
す、すみません、私ったらこんな失礼なことを……」
驚きの声を上げている大妖精から離れようとしたが、
左手の中指の先が柔らかい『何か』に触れる。
その感触はそう――昨夜のレミリアやフランの時と同じだった。
「「っ!?」」
大妖精と同時に鋭く息を呑み、拓人は困惑し、大妖精は一切動かなくなってしまう。
お互い固まって数秒が過ぎた頃、急に大妖精は目尻に涙を浮かべ、
「ぐすっ、はしたない女の子で……すみません、ぐすっ……」
しがみついたまま泣き出してしまった。
「うおぉい大ちゃん!?
この状況でこれは逆効果だと思うんだけど!?」
「ごめんなさい……もうお嫁にいけません、ふえぇぇ……」
何とかして大妖精から離れようとするが、しがみついたままなので身動きがとれず、
逆に指が食い込んでしまう。
「ひゃあぁ、拓人さん、い、今は……」
「ち、違うんだ、これは……」
慌てて取り繕うとしてもなかなか言葉が出ず、
口をパクパクとさせながら左腕以外の全身でせわしなくあたふたとしてしまう。
「あー! 大ちゃんのはずかしいところさわってる!」
「んな!?」
急に声がかかったため、驚きながらも首を曲げて声がした方を向くと、
いつの間にか起きていたチルノが横になっている拓人たちの足元に立っていた。
そして、拓人が触れている場所――大妖精の股を指差していた。
「違うんだチルノ! これは事故であって、
決して卑しい事を考えていたわけでは訳じゃないんだ!」
「拓人はへんたいだったんだー!」
「そーなのかー」
「ルーミアまで!? 頼む、話を聞いてくれ!」
まったくもって聞く耳を持たない様子のチルノとルーミア。
このまま誤解されたままでは色々とまずいので、一刻も早く『これは事故だ』
ということを伝えなければならない。
妙な使命感に突き動かされ、とりあえず大妖精のホールドから抜け出すことにした。
対して抵抗しなかったので、触れてはいけない所に細心の注意を払いながらも、
すぐに腕を解くことに成功。
と同時に立ち上がり、顔を見合わせて笑い合っている二人に説得を試みる。
「チルノ、ルーミア、聞いてくれ。 さっきのは事故だったんだ」
「……じ、こ?」
「そうそう。 別に俺や大ちゃんがこういうことをしたかった訳じゃないんだ」
ここで少しだけ間を置き、
「『頭のいい最強な』チルノなら、わかってくれるよな?」
と後押しをしておく。
こうやってチルノの退路を断っておくことで、
無理矢理にでも肯定せざるを得ない状況を作る。
「……あ、あたいはさいきょーであたまもいいからね!
それくらいわかってるもん!」
ふぅ……
内心で安堵のため息をつきながら胸をなで下ろす。
この程度の言いくるめが通用するのは、多分チルノくらいだろう。
とりあえず、説得には成功した。
今回霧の湖に来たのは、あることをチルノたち三人に頼むに来たからだ。
「話は変わるけど、今日ここに来たのは、皆にあることを手伝って欲しいからなんだ」
「あること? 何をするんですか?」
後方から声が聞こえたので振り返ってみると、
いつの間にか立ち上がって元の口調で話している大妖精の姿が見えた。
顔がまだ少し赤かったので、片手で謝りながら話を続ける。
「理由はまだ話せないけど、俺一人じゃできないからさ。
手伝ってくれるか?」
「じゃあじゃあ、なんかつめたいものたべたい!」
チルノが、まるで小学生のように手を挙げながら主張してくる。
「わかったよ。 終わった後でいくらでもあげるから」
「やったー!」
その場でクルクルと回転しながら喜ぶチルノを横目に、
ルーミアと大妖精の確認も取る。
「ルーミアと大ちゃんにも手伝って欲しいけど、大丈夫かな?」
「べつにいいのだー」
「拓人さんがそう言うなら」
二人共、快く頷いてくれた。
「ありがとう。 それじゃ……下準備始めますか!」
……ムカシノシンヤテンションハコワイデスネ。
というわけで二十話でした。昔の私は何を考えていたのやら……まぁ今でも似たようなことを
書いているわけなんですけど。
書き溜めている内の一話目です。あと二話残っているのでペースよく更新できそうです。
……え、これだけ待たせてたった二話だけなんてふざけてる? 申し訳、ございません……
挿絵のことなんですが、滝村氏が部活やらなにやらで忙しく「描いとる場合かァーッ!」って
叫んでたので載せられませんでした。いや、「オンドゥルルラギッタンディスカー!?」と追い打ちをかけては
みたんですけど、忙しいのは私も同様だったわけで強要できませんでした。
落ち着いたらまた挿絵を頼もうかな、と思いつつ終わりにさせていただきます。次回は11日に
投稿予定です。また次回にお会いしましょう!